説明

多数個取り射出成形におけるキヤビテイ間ばらつき解消方法およびその射出成形型

【目的】 多数個取り射出成形において、キャビティ並びにゲートの修正加工を行わないで、複数のキャビティによってそれぞれ成形される各成形品の良否のばらつき解消する。
【構成】 第1および第3のキャビティ1A、1Cが良品を成形し、第2および第4のキャビティ1B、1Dがいくぶん収縮した不良品を成形した場合、第2および第4のキャビティ1B、1Dの時間−型内圧曲線が適正となるように、射出成形機の充てん圧力を高めに設定する。一方、第1および第3のスライドコア4A、4Bを前進させて、第1および第3のランナ3A、3Cの流路断面積を小さくして、これらの圧力損失の値を増加させる。この流路断面積の小さくする程度は、第1および第3のストッパボルト7A、7Cの突出した長さを調整することにより調節する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数のキャビティを有する多数個取り射出成形型を用いた射出成形方法において、各キャビティ間の成形品の良否のばらつき、すなわち、キャビテイ間ばらつき解消方法およびその実施に使用する多数個取り射出成形型に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の多数個取り射出成形型を製作する際には、射出成形型の一応の完成をみたのち、これを射出成形機に取付け、試打ちを行って成形品を成形し、該成形品の面精度等を検査して不良品を生じたキャビティ並びにゲートの修正加工を繰返し行う、いわゆる、トライアンドエラーによって、良品を成形できる多数個取り射出成形型を完成させるものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の技術では、複数のキャビティによってそれぞれ成形される各成形品の良否のばらつきを解消するためには、数回の前述の如きトライアンドエラーを必要とするため、手数と製作時間がかかる。また、各キャビティにおいて、溶融樹脂の流入状態および加圧状態は、多数個取り射出成形型内の温度分布による影響を受けるため、予め温度分布による影響を予測して修正加工をする必要があるが、この作業は非常に難しいことである。
【0004】本発明は、上記従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであって、キャビティ並びにゲートの修正加工を行わなくても、複数のキャビティによってそれぞれ成形される各成形品の良否のばらつきを解消することができる、多数個取り射出成形におけるキャビティ間ばらつき解消方法およびその射出成形型を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本願の多数個取り射出成形におけるキャビティ間ばらつき解消方法は、複数のキャビティを有する射出成形型を用いた射出成形方法において、各キャビティへそれぞれ連通するランナの中の少くとも一つのランナの流路断面積を変化させることにより、ランナ内の溶融樹脂のキャビテイへの圧力伝達に差を発生させることを特徴とするものである。
【0006】また、上記方法を実施するための射出成形型は、複数のキャビティおよび各キャビティにそれぞれ連通するランナと、各ランナに対してそれぞれ配設された、自由端部がランナ内に進退自在のランナの流路断面積を変化させるためのスライドコアと、前記各スライドコアにそれぞれ連結されたスライドコアを進退させるための駆動手段とを有することを特徴とするものである。
【0007】
【作用】多数個取り射出成形型を製作したのち、射出成形機に取付けて試打ちを行って成形品を射出成形する。成形された成形品の検査として、例えば、面精度の検査を行って所定の面精度に達しない成形品が成形されたとき、すなわち、不良品が成形されたときには、少くとも一つのランナの流路断面積を変化させる。これにより、前記ランナ内の圧力損失の値が変化し、前記ランナ内の溶融樹脂のキャビティへの圧力伝達に差が発生するため、各キャビティへの溶融樹脂の流入状態および加圧状態が変化し、各キャビティ間のばらつきが解消される。
【0008】上記の作業を全成形品が所定の面精度となるまで、すなわち、良品となるまで繰返し行うことにより、全キャビテイから良品を成形することができるようになる。
【0009】
【実施例】先ず、本発明の実施に使用する多数個取りの射出成形型の一実施例について説明する。
【0010】図1は、一方の型の分割面の正面図、図2は、図1のA−A' 線に沿った部分断面図である。一方の型1には4個のキャビテイ1A〜1Dが形成されており、各キャビティ1A〜1Dにはそれぞれのゲート2A〜2Dを介して各ランナ3A〜3Dが連通されている。各ランナ3A〜3Dの途中には、それぞれ流路方向に対して垂直方向(図示矢印方向および反矢印方向)へスライドする各スライドコア4A〜4Dが配設されている。これら各キャビティ1A〜1D、各ランナ3A〜3Dおよび各スライドコア4A〜4Dは同一の構成であるので、以下、第1のスライドコア4Aを例に挙げて詳細に説明する。
【0011】第1のスライドコア4Aは、第1のランナ3Aの図示側面に対し垂直方向に形成された第1の案内溝に案内され矢印方向および反矢印方向に摺動可能に構成されている。第1のスライドコア4Aの一端側は一方の型1の側面から突出しており、その端面には第1のストッパボルト11Aが螺合された第1のストッパプレート7Aが一体的に設けられ、第1のストッパープレート7Aと一方の型の側面間には第1のばね8Aが介在されている。これにより、第1のスライドコア4Aは矢印方向に常時付勢されている。第1のストッパプレート7Aの反スライドコア側には、図示しないステー等を介して一方の型に固設された第1の流体圧シリンダ6Aの第1のロッド10Aの自由端が連結されており、第1の導管9Aより液体または気体等の加圧流体を供給すると、前記第1のばね8Aの弾発力に抗して第1のピストン5Aおよび第1のロッド6Aを介して第1のスライドコア4Aが反矢印方向に移動する。これにより、第1のスライドコア4Aの先端部が第1のランナ3A内に前進し、第1のランナ3Aの流路断面積が小さくなり、また、第1の導管9Aより加圧流体の供給を止めると、第1のばね8Aの弾発力により第1のストッパプレート7Aおよび第1のスライドコア4Aは矢印方向へ移動して第1のランナ3A内から後退し、第1のスライドコア4Aの自由端面が第1のランナ3Aの側面と同一面となる位置で停止するよう構成されている。
【0012】さらに、上述した第1のスライドコア4Aの自由端部が第1のランナ3A内への前進する距離は、第1のストッパボルト5Aを回転させてその先端の突出長さを変化させることにより、任意に変更することができ、また、一度適正な突出長さにセットしておくことにより、実際の成形時にいちいち再調整する必要がなくなる。そして場合によっては、射出成形に際し、射出開始時からタイマにより計時し、所定のタイミングで流体圧シリンダを動作させることもできる。
【0013】本実施例において、スライドコアを進退させるための駆動手段として流体圧シリンダおよびピストンを示したが、これに限らず、電動ボールねじ機構等他の公知の手段を用いてもよい。
【0014】次に本発明の多数個取り射出成形におけるキャビティ間ばらつき解消方法の一実施例について説明する。
【0015】多数個取り射出成形型を製作し、図示しない射出成形機の型締装置に取り付ける。型締めを行ったのち、溶融樹脂を型内へ射出して試打ちを行う。成形された各成形品について、例えば、成形品の面精度を検査し、所定の面精度に達しない不良品を成形したキャビティと所定の面精度に達した良品を成形したキャビティの溶融樹脂の流入状態および加圧状態の調整を、各キャビティへそれぞれ連通する各ランナの中の少くとも一つのランナの流路断面積を変化させることにより、ランナ内の溶融樹脂のキャビティへの圧力伝達に差を発生させて行う。
【0016】射出成形において、射出成形サイクル中の良品を成形する型内圧の状態は図3に示すものが良いとされている。本実施例においても、各キャビティ内の型内圧を図3に示す時間−型内圧曲線となるようにするものである。
【0017】ここで、図1および図2に示した多数個取り射出成形型を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0018】第1のキャビティ1Aおよび第3のキャビティ1Cが良品を成形し、第2のキャビティ1Bおよび第4のキャビティ1Dがいくぶん収縮した不良品を成形したとする。この場合、第2のキャビティ1Bおよび第4のキャビティ1Dの流入状態および加圧状態、すなわち、時間−型内圧曲線が適正となるように射出成形機の充てん圧力を高めに設定する。しかし、このように充てん圧力を高めに設定すると、良品を成形した第1のキャビティ1Aおよび第3のキャビティ1Cが過充てん状態となって不良品を成形してしまうおそれがある。そこで、第1の導管9Aおよび第3の導管9Cからの加圧流体を供給して、第1のスライドコア4Aおよび第3のスライドコア4Cを前進させて、第1のランナ3Aおよび第3のランナ3Cの流路断面積を小さくする。これにより、第1および第3のランナ3A、3C内のそれぞれの溶融樹脂の圧力損失の値が増加する。この流路断面積の小さくする程度は、第1および第3のストッパボルト7A、7Cの突出し長さを調整することにより調節する。上述の作業をすべて良品が成形されるまで繰返すことにより、各ランナ3A〜3Dの流路断面積を変化させて、ランナ内の溶融樹脂のキャビティへの圧力伝達に差を発生させて、キャビティ間のばらつきを解消する。
【0019】また、上述した例とは逆に第1および第3のキャビティ1A、1Cが過充てんにより不良品を成形し、第2および第4のキャビティ1B、1Dが良品を成形した場合には、射出成形機の充てん圧力は変化させず、第1および第3のスライドコア4A、4Cを前進させて第1および第3のランナの流路断面積を小さくすればよいことはいうまでもない。
【0020】
【発明の効果】請求項1記載の発明は、多数個取り射出成形型の各ランナの中の少くとも一つのランナの流路断面積を変化させることにより前記ランナ内の溶融樹脂の圧力損失の値を変化させて、各キャビティ間の型内圧をそれぞれ良品の成形できる型内圧となるようにバランスさせるだけでよいので、従来例の如く、完成後の射出成形型のキャビティ並びにランナの形状を変更したり修正したりする機械加工の必要がなく、型製作時間が短縮される。
【0021】請求項2記載の発明は、上記効果に加え、各ランナの流路断面積の変化を無段階に行うことができると共に、射出サイクル中において、タイミングを合わせて各ランナ毎に流路断面積を変化させることができるのできめ細かなキャビティ間ばらつきの解消が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に使用する多数個取り射出成形型の一方の型の模式正面図である。
【図2】図1のA−A' 線に沿う部分断面図である。
【図3】射出サイクル中における時間−型内圧曲線を示す説明図である。
【符号の説明】
1 一方の型
1A,1B,1C,1D キャビティ
2A,2B,2C,2D ゲート
3A,3B,3C,3D ランナ
4A,4B,4C,4D スライドコア
5A,5B,5C,5D ピストン
6A,6B,6C,6D 液体圧シリンダ
7A,7B,7C,7D ストッパプレート
8A,8B,8C,8D ばね
9A,9B,9C,9D 導管
10A,10B,10C,10D ロッド
11A,11B,11C,11D ストッパボルト
12 他方の型

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のキャビティを有する多数個取り射出成形型を用いた射出成形方法において、各キャビティへそれぞれ連通するランナの中の少くとも一つのランナの流路断面積を変化させることにより、ランナ内の溶融樹脂のキャビティへの圧力伝達に差を発生させることを特徴とする多数個取り射出成形におけるキャビティ間ばらつき解消方法。
【請求項2】 複数のキャビティおよび各キャビティにそれぞれ連通する複数のランナと、各ランナに対してそれぞれ配設された、自由端部がランナ内に進退自在のランナの流路断面積を変化させるためのスライドコアと、前記各スライドコアにそれぞれ連結された、スライドコアを進退させるための駆動手段とからなることを特徴とする多数個取り射出成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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