説明

多方向スライド型電子部品

【課題】第1,第2のスライド移動体に回転方向の力が加わらず、且つ操作体の回転止めが行える多方向スライド型電子部品を提供すること。
【解決手段】第1の方向Eに移動自在で第2の方向Fに向かう長孔121を有する第1のスライド移動体120と、第2の方向Fに移動自在で第1の方向Eに向かう長孔101を有する第2のスライド移動体100と、第1の方向Eに移動自在で第2の方向Fに向かう長孔83を有する回転止用移動体80と、長孔121,101,83を貫通する操作軸21を有する操作体10とを具備する。円柱状の操作軸21に形成した両平面部23の一部を長孔83の内側辺85に当接する回り止め用係合部25とし、円柱外周の円弧面を長孔101の内側辺103に当接する第2の係合部27とし、両平面部23中に設けた凹部29の底面から突出する小突起を長孔121の内側辺123に当接する第1の係合部31とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作体を平面上の多方向に移動することでその移動位置に応じた電気的出力が得られる多方向スライド型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライド型電子部品の中には、例えば特許文献1に示すように、ツマミ(9)をX−Y平面の各方向(多方向)に移動することで、一対の連結杆(7),(8)をそれぞれX,Y方向にスライド移動させ、これら連結杆(7),(8)にそれぞれ連結している摺動体(5)をスライド移動させ、これによって基板(2)上に形成した回路パターンからの電気的出力を変化させるように構成してなる多方向スライド型電子部品がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭47−16951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の多方向スライド型電子部品においては、両連結杆(7),(8)の内部にそれぞれ長方形状のスリット(7b),(8b)を設け、両スリット(7b),(8b)が十字形に交差している点において正方形の孔(78)を構成し、この孔(78)にツマミ(9)の四角柱形状に形成した部分を嵌合している。これによってツマミ(9)は両スリット(7b),(8b)内を移動できると同時に,ツマミ(9)自体の回転も防止できる。
【0005】
しかしながら上述のように構成すると、ツマミ(9)をX,Y方向に移動する際に同時にツマミ(9)に回転力が印加された場合、その回転力が両連結杆(7),(8)に伝わり、両連結杆(7),(8)を回転方向に少し回転させてしまう恐れがあった。そして両連結杆(7),(8)が少しでも回転方向に回転すると、基板(2)からの電気的出力に変化が生じてしまい、正確な電気的出力が得られないという問題があった。この問題は、多方向スライド型電子部品を小型化すればするほど、連結杆(7),(8)の少しの位置ずれによる電気的出力の変化が相対的に大きな変化になるため大きくなる。
【0006】
上記問題を解決するには、ツマミ(9)を円柱形状に形成して前記両スリット(7b),(8b)が交差する孔(78)に挿入すればよい。このように構成すれば、たとえツマミ(9)が回転しても、その回転力は両連結杆(7),(8)に伝達されない。しかしながらこの場合、ツマミ(9)が回転してしまうので、別途ツマミ(9)の回転止め用の複雑な機構を設けなければならず、多方向スライド型電子部品の小型化が阻害されてしまう。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、第1,第2のスライド移動体に回転方向の力が加わることなく、それらによる正確な電気的出力が得られるとともに、操作体の回転止めを簡単な構成で確実に行うことができて小型化に好適な多方向スライド型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に記載の発明は、第1の方向に移動自在に設置され且つ第1の方向に直交する第2の方向に向かう長孔を有する第1のスライド移動体と、第2の方向に移動自在であって前記第1のスライド移動体に交差するように積層して設置され且つ第1の方向に向かう長孔を有する第2のスライド移動体と、第1の方向に移動自在であって前記第2のスライド移動体に交差するように積層して設置され且つ第2の方向に向かう長孔を有する回転止用移動体と、前記第1のスライド移動体の移動によって変化する電気的出力と、前記第2のスライド移動体の移動によって変化する電気的出力とを取り出す出力取出用基板と、前記第1のスライド移動体に設けた長孔と、前記第2のスライド移動体に設けた長孔と、前記回転止用移動体に設けた長孔とを重ねた部分を貫通する操作軸を有し、第1,第2の方向を含む面方向に移動する操作体と、を具備し、前記操作体の操作軸には、円柱の外周面に互いに平行な平面部を形成し、これら両平面部の一部を前記回転止用移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する回り止め用係合部とし、前記平面部以外の円柱外周の円弧面を前記第2のスライド移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する第2の係合部とし、前記両平面部の一部に凹部を設けてそれら凹部の底面から小突起を突設しこれら小突起を前記第1のスライド移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する第1の係合部としたことを特徴とする多方向スライド型電子部品にある。
【0009】
本願請求項2に記載の発明は、前記第1の係合部の両小突起の先端部は前記両平面部と同一面上又はそれらよりも低い位置に位置していることを特徴とする請求項1に記載の多方向スライド型電子部品にある。
【0010】
本願請求項3に記載の発明は、前記第1の係合部の小突起の外形は、前記操作軸の中心軸を中心とする円弧面であることを特徴とする請求項2に記載の多方向スライド型電子部品にある。
【0011】
本願請求項4に記載の発明は、前記出力取出用基板に対して近い側から、第1のスライド移動体、第2のスライド移動体、回転止用移動体を積層したことを特徴とする請求項3に記載の多方向スライド型電子部品にある。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、第1,第2のスライド移動体に対して操作軸の回転力が印加されることはなく、同時に操作軸は回転止用移動体によってその回転が確実に阻止される。そして回り止め用係合部と第2の係合部と第1の係合部は、何れも操作軸の平面部を設けた部分にまとめて形成されるのでその高さ方向の寸法を短くコンパクトに形成することができる。また本発明によれば、第1の係合部が前記平面部の面の一部に設けた凹部とその凹部内に形成する小突起とによって形成されるので、第1の係合部を設けた部分の強度を、平面部を設けた他の部分の強度とほぼ同等の強い強度に容易に維持することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1の係合部の小突起が平面部の面から突出しないので、操作軸の第1の係合部の部分を通して回転止用移動体の長孔を通過させることができ、これによって多方向スライド型電子部品の組み立てが容易に行える。特に平面部を操作軸の先端(上端)まで形成しておけば、操作軸の先端から回転止用移動体の長孔と第2のスライド移動体の長孔と第1のスライド移動体の長孔を何れも挿入できるので、多方向スライド型電子部品の組み立てが容易になる。また平面部を操作軸の先端まで形成しておけば、この操作軸へ別部品である操作つまみを取り付ける際の両者の嵌合に利用できる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、第1の係合部の小突起の外形を円弧面としたので、たとえ操作体がそのがたつき分だけ少し回転したとしても、第1のスライド移動体の長孔の内側辺と小突起の円弧面とが離れることはなく、両者間にがたつきが生じることはなくなる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、回転止用移動体に阻害されることなく、第1,第2のスライド移動体を出力取出用基板に対向して設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】多方向スライド型電子部品1−1の斜視図である。
【図2】下面側から見た多方向スライド型電子部品1−1の斜視図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】多方向スライド型電子部品1−1の分解斜視図である。
【図6】多方向スライド型電子部品1−1を下側から見た分解斜視図である。
【図7】操作軸21を第1の係合部31の部分で切断した状態での操作体10と第1のスライド移動体120と第2のスライド移動体100とを示す平面図である。
【図8】操作軸21を第2の係合部27の部分で切断した状態での操作体10と第2のスライド移動体100と回転止用移動体80とを示す平面図である。
【図9】操作軸21を回り止め用係合部25の部分で切断した状態での操作体10と回転止用移動体80とを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る多方向スライド型電子部品1−1の斜視図、図2は下面側から見た多方向スライド型電子部品1−1の斜視図、図3は図1のA−A断面図、図4は図1のB−B断面図、図5は多方向スライド型電子部品1−1の分解斜視図、図6は多方向スライド型電子部品1−1を下側から見た分解斜視図である。これらの図に示すように多方向スライド型電子部品1−1は、第1ケース40の下側に操作体10を設置し、第1ケース40の上側に回転止用移動体80と第2のスライド移動体100と、第1のスライド移動体120と、第2ケース140とを設置して構成されている。なお以下の説明において、「上」とは操作体10から第1,第2のスライド移動体120,110を見る方向をいい、「下」とはその反対方向をいうものとする。また下記する回転止用移動体80と第1のスライド移動体120のスライド移動方向を第1の方向E、第2のスライド移動体100のスライド移動方向を第2の方向Fとする。第1,第2の方向E,Fは直交している。
【0018】
操作体10は合成樹脂の成形体であり、略円板形状の操作体基部11の上面中央から棒状の操作軸21を突出して構成されている。操作体基部11の下面には、円錐形状の凹部13が形成されている。操作軸21は円柱形状の棒状体の外周面にその上下全長にわたって互いに平行な一対の平面部23を形成し、これら両平面部23の内の最も根元側(下側)の一部を下記する回転止用移動体80の長孔83の長手方向に沿う内側辺85に当接する回り止め用係合部25とし、また前記回り止め用係合部25とした部分の両平面部23以外の円柱外周の円弧面の部分を下記する第2のスライド移動体100の長孔101の長手方向に沿う内側辺103に当接する第2の係合部27とし、また前記回り止め用係合部25とした両平面部23の上部に矩形状の浅い凹部29を設けてそれら凹部29の底面中央からそれぞれ小突起を突設しこれら小突起を下記する第1のスライド移動体120の長孔121の長手方向に沿う内側辺123に当接する第1の係合部31としている。第1の係合部31の最も高い先端部の位置は、この実施形態では前記平面部23の面と同一面の位置となっている。平面部23は回り止め用係合部25の部分から操作軸21の先端(上端)まで形成されており、第1の係合部31よりも上の平面部23の部分を操作つまみ取付部33としている。
【0019】
第1ケース40は合成樹脂の成形品であり、略矩形平板状であってその中央に円形の貫通孔からなる操作軸挿通部41を設けている。第1ケース40の上面の操作軸挿通部41の周囲には操作軸挿通部41を囲むように、矩形状に突出するレール部43−1〜4が形成されている。レール部43−1〜4の外側の各角部近傍部分には、小突起状の取付部45が形成されている。第1ケース40の各角部にはこの多方向スライド型電子部品1−1を他の部材に取り付けるための取付孔47が形成されている。第1ケース40の下面の所定位置には3つの位置決め突起49が形成されている。また第1ケース40の対向する一対の外周側面には、2つずつの爪状の係止部51が形成されている。
【0020】
回転止用移動体80は長方形状(帯状)の金属板(例えば鉄板)製であり、その両端辺部分は上向きにL字状に折り曲げられることでその両外側面を摺動部81としている。両摺動部81間の離間距離は、前記第1ケース40の対向するレール部43−1,3の内側壁間の離間距離とほぼ同一である。回転止用移動体80の中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔83が形成されている。長孔83の長手方向に沿う両内側辺85は平行であり、両内側辺85間の幅寸法は前記操作軸21に形成した回り止め用係合部25の幅寸法、即ち両平面部23間の幅寸法とほぼ同一である。
【0021】
第2のスライド移動体100は合成樹脂の成形品であり、略長方形状の板状に成形されており、その中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔101が形成されている。長孔101の長手方向に沿う両内側辺103は平行であり、両内側辺103間の幅寸法は前記操作軸21に形成した第2の係合部27の幅寸法、即ち操作軸21の円弧面の直径寸法とほぼ同一である。第2のスライド移動体100の下面の前記長孔101の両端外側位置には、下方向に向かって突出する突出部105が設けられている。両突出部105は第2のスライド移動体100の長手方向に直交する方向(第2の方向F)に向かって延びており、両突出部105の対向する内側壁間の離間距離は、前記第1ケース40のレール部41−2,4の外側側壁間の離間距離とほぼ同一に形成されている。第2のスライド移動体100の上面の一端近傍には、弾性金属板製の摺動子110が取り付けられている。摺動子110は基部111から2本のアーム状の冊子部113を突出し、これら冊子部113を略180°折り返して構成されている。
【0022】
第1のスライド移動体120は合成樹脂の成形品であり、略長方形状の板状に成形されており、その中央にはその長手方向に向かう略長方形状の長孔121が形成されている。長孔121の長手方向に沿う両内側辺123は平行であり、両内側辺123間の幅寸法は前記操作軸21に形成した第1の係合部31間の幅寸法、即ち両平面部23間の幅寸法とほぼ同一である。第1のスライド移動体120の下面の前記長孔101の両端外側位置には、下方向に向かって突出する突出部125が設けられている。両突出部125は第1のスライド移動体120の長手方向に直交する方向(第1の方向E)に向かって延びており、両突出部125の対向する内側壁間の離間距離は、前記第1ケース40のレール部41−1,3の外側側壁間の離間距離とほぼ同一に形成されている。第1のスライド移動体120の上面の一端近傍には、弾性金属板製の摺動子130が取り付けられている。摺動子130は基部131から2本のアーム状の冊子部133を突出し、これら冊子部133を略180°折り返して構成されている。
【0023】
第2ケース140は合成樹脂の成形品であり、その下面に出力取出用基板160を取り付けている。第2ケース140は略矩形平板状であってその中央に円形の貫通孔からなる操作軸挿通部141を設けている。第2ケース140の各角部には前記第1ケース40の各取付部45に挿入される貫通孔からなる被取付部143が形成されている。出力取出用基板160はいわゆるフレキシブル回路基板であり、可撓性を有する合成樹脂フイルムの下面の2つの外周辺近傍部分に一対ずつ2組の摺接パターン161を形成し、またその外周から引出部163を引き出して構成されている。各組の摺接パターン161は一対の抵抗体パターンと導電体パターンとによって構成されている。出力取出用基板160の中央にも前記操作軸挿通部141とほぼ同じ大きさの円形の貫通孔からなる操作軸挿通部165が形成されている。この出力取出用基板160はその下面が第2ケース140の下面に露出するようにインサート成形によって一体化されている。
【0024】
多方向スライド型電子部品1−1を組み立てるには、まず第1ケース40の下面側に操作体10を配置し、その際操作体10の操作軸21を第1ケース40の操作軸挿通部41に挿入する。そして図3,図4に点線で示すように、操作体10の下面の凹部29内に円錐コイルバネからなる復帰バネ180の上部を収納した状態で、第1ケース40の下面側に押え板170を取り付ける。このとき押え板170の中央に設けた凹部171内に前記復帰バネ180の下端部を収納・設置する。押え板170の第1ケース40への取り付けには、第1ケース40に設けた前記係止部51を利用するが、その説明は省略する。
【0025】
次に第1ケース40上に回転止用移動体80と第2のスライド移動体100と第1のスライド移動体120とをこの順番で載置する。その際、回転止用移動体80と第1のスライド移動体120は同一方向を向け、第2のスライド移動体100はこれらに直交する方向を向け、それらの長孔83,101,121が重なっている部分に操作体10の操作軸21を挿入する。このとき回転止用移動体80の両内側辺85は操作軸21の回り止め用係合部25とした両平面部23に当接(または接近)し、第2のスライド移動体100の両内側辺103は操作軸21の第2の係合部27とした両円弧面に当接(または接近)し、第1のスライド移動体120の両内側辺123は操作軸21の第1の係合部31の先端部に当接(または接近)する。そして回転止用移動体80の両摺動部81を第1ケース40の対向するレール部43−1,43−3の内側壁内に挿入・係合し、第2のスライド移動体100の両突出部105を第1ケース40の対向するレール部43−2,43−4の外側側壁側に挿入・係合し、第1のスライド移動体120の両突出部125を第1ケース40の対向するレール部43−1,43−3の外側側壁側に挿入・係合する。これによって回転止用移動体80と第1のスライド移動体120はレール部43−1,43−3に沿って第1の方向Eに向かってスライド移動するとともに、第2のスライド移動体100はレール部43−2,43−4に沿って第2の方向Fに向かってスライド移動するように構成される。
【0026】
次に第1のスライド移動体120等を収納した第1ケース40の上に、第2ケース140を被せ、第1ケース40の各取付部45を第2ケース140の各被取付部143に挿入し、各取付部45の先端を熱かしめする。このとき操作軸21は操作軸挿通部141,165を通して第1ケース140の上方に突出する。これによって多方向スライド型電子部品1−1が完成する。なお上記組立手順はその一例であり、他の各種異なる組立手順を用いて組み立てても良いことはいうまでもない。
【0027】
図7は操作軸21を第1の係合部31の部分で切断した状態での操作体10と第1のスライド移動体120と第2のスライド移動体100とを示す平面図(なお回転止用移動体80は第1のスライド移動体120に隠れて見えない)、図8は操作軸21を第2の係合部27の部分で切断した状態での操作体10と第2のスライド移動体100と回転止用移動体80とを示す平面図、図9は操作軸21を回り止め用係合部25の部分で切断した状態での操作体10と回転止用移動体80とを示す平面図である。
【0028】
以上説明したように、多方向スライド型電子部品1−1は、第1の方向Eに移動自在に設置され且つ第1の方向Eに直交する第2の方向Fに向かう長孔121を有する第1のスライド移動体120と、第2の方向Fに移動自在であって第1のスライド移動体120に交差するように積層して設置され且つ第1の方向Eに向かう長孔101を有する第2のスライド移動体100と、第1の方向Eに移動自在であって第2のスライド移動体100に交差するように積層して設置され且つ第2の方向Fに向かう長孔83を有する回転止用移動体80と、第1のスライド移動体120の移動によって変化する電気的出力と、第2のスライド移動体100の移動によって変化する電気的出力とを取り出す出力取出用基板160と、第1のスライド移動体120に設けた長孔121と、第2のスライド移動体100に設けた長孔101と、回転止用移動体80に設けた長孔83とを重ねた部分を貫通する操作軸21を有し、第1,第2の方向E,Fを含む面方向に移動する操作体10と、を具備し、操作軸21には、円柱の外周面に互いに平行な平面部23を形成し、これら両平面部23の一部を回転止用移動体80の長孔83の長手方向に沿う内側辺85に当接する回り止め用係合部25とし、平面部23以外の円柱外周の円弧面を第2のスライド移動体100の長孔101の長手方向に沿う内側辺103に当接する第2の係合部27とし、両平面部23の一部に凹部29を設けてそれら凹部29の底面から小突起を突設しこれら小突起を第1のスライド移動体120の長孔121の長手方向に沿う内側辺123に当接する第1の係合部31として構成されている。
【0029】
上記構成の多方向スライド型電子部品1−1において、中立位置の操作軸21を第1の方向Eにスライド移動すると、図3,図7〜図9において、操作軸21は、その回り止め用係合部25と第1の係合部31が、それぞれ回転止用移動体80の内側辺85と第1のスライド移動体120の内側辺123とを同時に押圧し、これらを第1の方向Eにスライド移動する。これによって第1のスライド移動体120に取り付けている摺動子130が出力取出用基板160の一方の組の摺接パターン161上を摺動し、その電気的出力が変化する。なお操作軸21が第1の方向Eに移動する際、操作軸21は第2のスライド移動体100の長孔101内をその長手方向に向かって移動するので、第2のスライド移動体100は移動しない。
【0030】
一方中立位置の操作軸21を第2の方向Fにスライド移動すると、図4,図7〜図9において、操作軸21は、その第2の係合部27が、第2のスライド移動体100の内側辺103を押圧し、第2のスライド移動体100を第2の方向Fにスライド移動する。これによって第2のスライド移動体100に取り付けている摺動子110が出力取出用基板160の他方の組の摺接パターン161上を摺動し、その電気的出力が変化する。なお操作軸21が第2の方向Fに移動する際、操作軸21は回転止用移動体80の長孔83と第1のスライド移動体120の長孔121内をその長手方向に向かって移動するので、回転止用移動体80と第1のスライド移動体120は移動しない。
【0031】
また操作軸21を第1,第2の方向E,Fに同時に移動すれば、それぞれの方向E,Fへの移動距離に応じて回転止用移動体80と第2のスライド移動体100と第1のスライド移動体120とが移動し、それぞれの組の摺接パターン161から移動に応じた電気的出力が得られることは言うまでもない。また操作軸21の駆動をやめれば、前記復帰バネ180の弾発力によって、操作体10は元の中立位置に戻る。
【0032】
一方操作軸21に回転方向の力が加わった場合は、図9に示すように、回転止用移動体80の長孔83の両内側辺85に操作軸21の回り止め用係合部25が係合することで、操作軸21の回転は阻止される。またたとえこのとき僅かに操作軸21が回転したとしても、図7に示すように第1のスライド移動体120の長孔121に対して操作軸21の第1の係合部31はその円弧面が当接しているので操作軸21の回転力は第1のスライド移動体120には伝達されない。同様に図8に示すように第2のスライド移動体100の長孔101に対して操作軸21の第2の係合部27はその円弧面が当接しているので操作軸21の回転力は第2のスライド移動体100にも伝達されない。従って、第1,第2のスライド移動体120,100に対して操作軸21の回転力は印加されず、これらが回転することによって生じる電気的出力の変動を確実に防止でき、常に正確な電気的出力が得られる。
【0033】
特にこの多方向スライド型電子部品1−1においては、図5に示すように、回り止め用係合部25と第2の係合部27と第1の係合部31は、何れも操作軸21の平面部23を設けた部分の一部分にまとめて形成できるのでその高さ方向の寸法を短くコンパクトに形成することができる。
【0034】
さらにこの多方向スライド型電子部品1−1によれば、第1の係合部31が平面部23の面の一部に設けた凹部29内に小突起を設けることによって形成されるので、第1の係合部31を設けた部分の強度を、平面部23を設けた他の部分の強度とほぼ同等の強い強度に容易に維持することができる。つまり、単に第1の係合部31をその円弧面のままの円柱形状(円柱形状の直径寸法はこの部分に回転止用移動体80の長孔83を通すため、対向する平面部23間の幅寸法と同一以下の寸法とすることが好ましい)に形成するとその外形が細くなってしまい、強度が弱くなってしまう。これに対して本発明に係る第1の係合部31は上述のようにその強度を、回り止め用係合部25等の他の部分の強度とほぼ同等の強い強度に容易に維持できる。
【0035】
またこの多方向スライド型電子部品1−1によれば、第1の係合部31である小突起が平面部23の面から突出しないので、第1の係合部31の部分を通して回転止用移動体80の長孔83を通過させることができ、多方向スライド型電子部品1−1の組み立てが容易に行える。
【0036】
特にこの多方向スライド型電子部品1−1のように、平面部23を操作軸21の先端まで形成しておけば、操作軸21の先端から回転止用移動体80の長孔83と第2のスライド移動体100の長孔101と第1のスライド移動体120の長孔121を何れも挿入できるので、多方向スライド型電子部品1−1の組み立てが容易になる。また平面部23を操作軸21の先端まで形成して操作つまみ取付部33を形成しておけば、この操作軸21へ別部品である操作つまみ(図示せず)を取り付ける際の両者の嵌合に利用できる。なお操作軸21の第1の係合部31の上部の部分(即ち操作つまみ取付部33の部分)の平面部23の面は、第1の係合部31の最も高い先端部よりも低くしてもよい。この場合は操作つまみ取付部33の部分の平面部23の両平面間の厚みが、回り止め用係合部25の部分の平面部23の両平面間の厚みよりも薄くなる。またこの多方向スライド型電子部品1−1のように、操作軸21自体を利用して回り止め用係合部25と第2の係合部27と第1の係合部31を形成すれば、別途これらを形成するための部分を設ける必要がないので、多方向スライド型電子部品1−1の薄型化等に好適である。
【0037】
またこの多方向スライド型電子部品1−1によれば、第1の係合部31である小突起の外形を円弧面としたので、たとえ操作体10がそのがたつき分だけ少し回転したとしても、第1のスライド移動体120の長孔121の内側辺123と第1の係合部31の円弧面とが離れることはなく、両者間にがたつきが生じることはない。
【0038】
またこの多方向スライド型電子部品1−1によれば、出力取出用基板160に対して近い側から、第1のスライド移動体120、第2のスライド移動体100、回転止用移動体80を積層したので、回転止用移動体80に阻害されることなく、第1,第2のスライド移動体120,100を出力取出用基板160に対向して設置することができる。
【0039】
またこの多方向スライド型電子部品1−1によれば、出力取出用基板160をその摺接パターン161が下向きになるように設置したので、電気的機能部である摺接パターン161上にゴミなどが付着することがなく、常に正確な電気的出力が得られる。
【0040】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態では、出力取出用基板160に対して近い側から、第1のスライド移動体120、第2のスライド移動体100、回転止用移動体80を積層したが、場合によっては第1のスライド移動体120と第2のスライド移動体100の間に回転止用移動体80を設置しても良い。
【0041】
また上記実施形態では、操作軸21の回り止め用係合部25とした部分の両平面部23以外の円柱外周の円弧面の部分を第2の係合部27としたが、操作軸21の第1の係合部31とした部分の両平面部23(実際には両凹部29)以外の円柱外周の円弧面の部分を第2の係合部27としてもよい。
【0042】
また上記実施形態では、復帰バネ180の弾発力によって操作体10を元の中立位置に戻すように構成したが、操作体10を中立位置に自動復帰させる自動復帰機構としては他の各種自動復帰機構を用いても良い。また場合によっては自動復帰機構は設けなくても良い。
【符号の説明】
【0043】
1−1 多方向スライド型電子部品
10 操作体
21 操作軸
23 平面部
25 回り止め用係合部
27 第2の係合部
29 凹部
31 第1の係合部
40 第1ケース
80 回転止用移動体
83 長孔
85 内側辺
100 第2のスライド移動体
101 長孔
103 内側辺
120 第1のスライド移動体
121 長孔
123 内側辺
140 第2ケース
160 出力取出用基板
E 第1の方向
F 第2の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に移動自在に設置され且つ第1の方向に直交する第2の方向に向かう長孔を有する第1のスライド移動体と、
第2の方向に移動自在であって前記第1のスライド移動体に交差するように積層して設置され且つ第1の方向に向かう長孔を有する第2のスライド移動体と、
第1の方向に移動自在であって前記第2のスライド移動体に交差するように積層して設置され且つ第2の方向に向かう長孔を有する回転止用移動体と、
前記第1のスライド移動体の移動によって変化する電気的出力と、前記第2のスライド移動体の移動によって変化する電気的出力とを取り出す出力取出用基板と、
前記第1のスライド移動体に設けた長孔と、前記第2のスライド移動体に設けた長孔と、前記回転止用移動体に設けた長孔とを重ねた部分を貫通する操作軸を有し、第1,第2の方向を含む面方向に移動する操作体と、を具備し、
前記操作体の操作軸には、円柱の外周面に互いに平行な平面部を形成し、これら両平面部の一部を前記回転止用移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する回り止め用係合部とし、前記平面部以外の円柱外周の円弧面を前記第2のスライド移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する第2の係合部とし、前記両平面部の一部に凹部を設けてそれら凹部の底面から小突起を突設しこれら小突起を前記第1のスライド移動体の長孔の長手方向に沿う内側辺に当接する第1の係合部としたことを特徴とする多方向スライド型電子部品。
【請求項2】
前記第1の係合部の両小突起の先端部は前記両平面部と同一面上又はそれらよりも低い位置に位置していることを特徴とする請求項1に記載の多方向スライド型電子部品。
【請求項3】
前記第1の係合部の小突起の外形は、前記操作軸の中心軸を中心とする円弧面であることを特徴とする請求項2に記載の多方向スライド型電子部品。
【請求項4】
前記出力取出用基板に対して近い側から、第1のスライド移動体、第2のスライド移動体、回転止用移動体を積層したことを特徴とする請求項3に記載の多方向スライド型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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