説明

多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンを含む組成物およびその使用

本発明は、2以上のプロテオロドプシン、2以上のバクテリオロドプシン、または1以上のバクテリオロドプシンおよび1以上のプロテオロドプシンを含む固定化混合物を含む固体物質を提供する。プロテオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンおよびレチナールアナログ含有プロテオロドプシンからなる群から選択される;この全てのものは、オーバーラップしない吸収スペクトルを持つ。バクテリオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択される;この全てのものは、オーバーラップしない吸収スペクトルを有する。また、本発明は、例えば光学データ保存物質および不正防止光学データ担体などの光学情報担体を提供するものであって、これは上記固体物質と、ガラス、紙、金属、織物材およびプラスチック材からなる群から選択される基体とを含んでおり、該固体物質は該基材上に沈着されている光学情報担体である。本発明は、1以上の親水性ポリマーおよび多様な光互変性物質混合物を含む安全インクをさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つ多様な光互変性物質の固定化混合物を有する固体物質に関する。多様な光互変性物質は、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシン、レチナールアナログ含有プロテオロドプシン、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよび/またはレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンである。特に、本発明は、光学データ保存物質、不正防止光学データ担体および安全インクとしての多様な光互変性物質の混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
バクテリオロドプシン(BR)は、Halobacterium salinariumと呼ばれる海洋真正細菌の光合成系において見出されたレチナールタンパク質分子である。BR分子は、一般的に紫膜と呼ばれる2D タンパク質-脂質アレイを形成する細胞膜に位置する。光学データ保存のための光互換性タンパク質様バクテリオロドプシン(BR)の使用は、将来性があると考えられてきた。
【0003】
プロテオロドプシン(PR)は、バクテリオロドプシンと関連性は遠い(22-24% 配列同一性)。プロテオロドプシンは、完全な膜タンパク質である;それらは、非培養性の海洋真正細菌から単離され、光駆動プロトンポンプとして機能する。オール-トランス-レチナール補助因子が光を吸収すると、プロテオロドプシンは光サイクルを多くの中間体を介して通過する。プロテオロドプシン分子が光刺激により励起すると、プロテオロドプシンは、エネルギー安定状態または中間状態、例えば、"M-様状態" もしくは "M-状態"、"K-様状態" もしくは "K-状態"、"N-様状態" もしくは "N-状態" または "O-様状態" もしくは "O-状態"を含む一連の不安定なエネルギー状態を経て進行する。やがて、この複合体は、プロトンの輸送の進行に伴ってさらに安定な基底状態(basal state)に戻る。
【0004】
Beja ら (Science 289:1902-6, 2000) は、海洋性γ−プロテオバクテリアの非培養メンバー (すなわち、"SAR86" グループ) に由来のプロテオロドプシン遺伝子のクローニングを開示している。このプロテオロドプシンは、E.coli で発現され、オール-トランス-レチナールと結合して、活性な光駆動プロトンポンプを形成した。
【0005】
Beja ら (Nature 411:786-9, 2001) が、種々の源からの20以上の変種プロテオロドプシン遺伝子のクローニングを開示している。これらのプロテオロドプシン変異体は、全世界に渡って分布し、様々な波長に光の極大吸収を示す広範囲のプロテオロドプシン変異体ファミリーに属すると思われる。
【0006】
Dioumaev ら(Biochemistry, 42: 6582-6587 (2003))は、閃光光分解および可視範囲における吸収変化の測定に、ポリアクリルアミドゲルに封入したプロテオロドプシン含有膜フラグメントを用いたことを開示した。
【0007】
米国特許第 5,235,076 (Asato)は、アズレン様レチノイド化合物および治療組成物を開示する。該組成物は、皮膚疾患、例えばアクネおよび乾癬を処置する際に有用である。
【0008】
米国特許第 4,896,049 (Ogawa)は、異なる吸収波長を持つ多様なレチナールの合成アナログを開示している。Ogawaらに開示された合成レチナールアナログは、出典明示により本明細書の一部とする。
【0009】
Khodonov ら(SensorsおよびActuators B 38-39:218-221 (1997))は、天然バクテリオロドプシン発色団、オール-トランス-レチナールをそのアナログで置換することによって修飾されたバクテリオロドプシンを説明している。Khodonovらにおいて開示されたレチナールアナログは、出典明示により本明細書の一部とする。
【0010】
Imai ら(PhotochemistryおよびPhotobiology, 70: 111-115 (1999))は、アズレン様レチナールアナログが、赤方偏移した視覚色素アナログを与えることはできないが、ポリエナール 3-メトキシ-3-デヒドロレチナールおよび14F-3-メトキシ-3-デヒドロレチノールの9-cis アイソマーは、663および720 nmでアイオドプシンの色素アナログを提供することを開示している。
【0011】
米国特許第 6,483,735 (Rentzepis)では、プラナーディスクの全容量内で潜在的な複数層各々にまたはランダムにアクセスする容量放射メモリーにおいて、非常に多数のアドレス可能なドメインの各々の同じ物理的容量における情報の複数のバイナリービットを保存するように機能する3または4次元照射メモリーを開示している。同じアドレス可能なドメイン内の複数の情報ビットの貯蔵は、かかる各ドメイン容量内に幾つかの異なる蛍光性化学化合物を共存させることによって為され得る;蛍光性化学化合物は書き換えできない。
【0012】
米国特許第 5,470,690 および 5,346,789 (Lewis)は、データ保存のための光学メモリーについて高pHポリビニルアルコール溶液において、安定で、画像保持性の、Halobacterium Halobium (現在ではHalobacterium salinarumとして知られている)より得られるバクテリオロドプシンを含有する光学変換可能なフィルムを開示している。
【0013】
Gourevich, I. ら (Chemical Materials, Multidye Nanostructured Material for Optical Data Storage and Security Labeling (2004))は、可視および近IR 蛍光染料を用いる3次元光学データ保存および安全標識化のためのポリマーナノ複合材料を開示している。このデータは、蛍光染料の選択的な光漂白により書き込まれ、書き換えできない。
【0014】
光学データ保存は、保存能が非常に高く、データの読み書きも迅速に提供するため、コンピューター産業に大改革をもたらす可能性がある。さらに、光学シグナル処理を用いると、現在のコンピューター技術によって行うことは困難である、パターン認識のための高度な並行処理様式に使用できる。これらの用途を実現するには、光の散乱が少ない有効な光学物質を用いる必要がある。
【0015】
紙幣、小切手、身分証明書などの書類は、それらを複製または偽造することが困難となるような安全対策的特徴を組み込むことが多い。これらのほとんどは、紙を製造する段階で安全対策的特徴類のすかし模様などが導入された特別な紙を用いるか、または複製を困難にするように非常に細い線模様(hairline pattern)を印刷するかのいずれかに基づいている。しかし、このような特徴は絶えず人目にさらされており、精巧な安全対策要件を満たしていない。
【0016】
効率的かつ経済的に製造でき、低いバックグラウンドのノイズ(クロストーク)、大量のデータ保存能、および書き換え能を有する光学情報担体が必要とされている。かかる光学情報担体は、光学データ保存物質または不正防止光学データ担体として効果的である。
【発明の開示】
【0017】
(発明の概要)
本発明は、互いの間で有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つ光互変性物質の固定化混合物を含む固体物質を提供する。光互変性物質は、2以上のプロテオロドプシン、2以上のバクテリオロドプシン、または1以上のバクテリオロドプシンおよび1以上のプロテオロドプシンを含む。プロテオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンおよびレチナールアナログ含有プロテオロドプシンからなる群から選択される。バクテリオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択される。固体物質は、固体形態へと固化する前に該光互変性物質と均質層を形成し得る1以上の親水性ポリマーを含むのが好ましい。
【0018】
本発明は、上記したような固体物質を含む光学情報担体を提供するものであって、ここでデータは多様な波長の化学作用光(書き込み光)によって区別して書き込まれ、および/または光学シグナルは多様な波長の光を読むことによって区別して読まれる。光学シグナルは、各光互変性物質のB-状態分子の減少を測定することによって区別して読まれ得る。一方、光学シグナルは、各光互変性物質によって、M-状態または他の励起状態の吸収極大波長での光吸収を決定することによって読まれ得る。多様な光互変性物質は、非破壊的なデータの書き込みおよび読み取りを提供するものであって、再利用可能な物質である。この光学情報担体は、紙、金属、織物、プラスチック材からなる群から選択される基材をさらに含み、該固体物質は基材上に沈着される。本発明の光学情報担体は、例えば不正防止用光学データ担体または光学データ保存物質である。
【0019】
本発明は、上記したとおりに多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンおよび1以上の親水性ポリマーを含む安全インクをさらに提供するものであって、ここで多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンならびに親水性ポリマーは均質な液体相を形成し、該インクは表面上に適用後に固化されるかまたは乾燥され、こうして該インクが適用された特定の位置に多様な光互変性物質が固定化される。
【0020】
(図面の簡単な説明)
図1は、透明なマトリックス中に固定化したバクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンの混合物の一時的データ保存スペクトルを示す。スペクトルを、記載した順番で記録した。スペクトル1は、混合物を紫色光(400 nm)で照射した後に計測した。スペクトル2は、混合物を緑色光(510 nm)で照射した後に計測した。スペクトル3を、混合物を紫光(400 nm)、続いて赤色光(640 nm)で照射した後に計測した。
【0021】
図2は、透明なマトリックス中に固定化したバクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンの混合物のスペクトルの一時的データ保存スペクトルを示す。スペクトルを、記載のとおりに図1で説明した順番で記録した。スペクトル4は、混合物を緑色光(510 nm)で照射した後に計測した。スペクトル5は、混合物を紫色光(400 nm)で照射した後に計測した。スペクトル6は、混合物を紫色光(400 nm)、続いて赤色光(640 nm)で照射した後に計測した。
【0022】
(本発明の詳細な説明)
定義
本明細書において使用したように、用語"化学作用光"は、光互変性物質において光互換性変化を与えることができる放射エネルギー、特に可視および紫外スペクトル領域における放射エネルギーを示す。
【0023】
本明細書において使用したように、用語"アポプロテイン"は、共役タンパク質のタンパク質の一部を意味する。"プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンアポプロテイン"は、オール−トランス−レチナールまたはレチナールアナログを含まないプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンタンパク質それ自身を意味する。
【0024】
本明細書において使用したように、用語"アズレン様レチノイド化合物"は、修飾されるか、または修飾されていないオール−トランス−レチナールバックボーンに結合したアズレン様基を有する化合物を意味する。
【0025】
本明細書において使用したように、用語"基底状態"または"B-状態"または"B-様状態"は、光励起のないプロテオロドプシン分子またはバクテリオロドプシン分子の光反応サイクルの基底状態を意味する。用語"M-状態" または "M-様状態"とは、基底状態に比して光サイクルの励起されたスペクトル状態を意味する。
【0026】
本明細書において使用したように、"光互換性"は、放射エネルギー(光として)に暴露されると色を変化させる能力を有することを意味する。
【0027】
本明細書に使用したように、用語"レチナールアナログ"は、オール-トランス レチナールを置き換えて、プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンのアポプロテインと結合できる化合物を意味する。
【0028】
本発明は、多様な光互変性物質の固定化混合物を含む固体物質を提供する。ここで、該多様な光互変性物質全ては、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを示す。
【0029】
本発明の固体物質は、固体形態へと固化する前に多様な光互変性物質を有する均質相を形成できる1以上の親水性ポリマーを含む。多様な光互変性物質の混合物を含む固体物質は、光学情報データ担体、例えば光学データ保存物質および不正防止光学データ担体として有用である。有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを有する多様な光互変性物質は、光学データ保存の高い能力を提供し、並行処理を可能にする。固体物質は、光学データを保存する際(書き込み)に有用である。該物質はデータを保持することができ、かかるデータの非破壊的検出(読み取り)を可能とし、データの光学的消去後に再利用できる。
【0030】
ある実施態様において、色が変化した光互変性物質は、本来の色に戻る能力がある。光互変性物質により本来の色に戻ることは、自然にまたは照射エネルギーに再び暴露することによっておこる。
【0031】
本発明の多様な光互変性物質は、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンを包含する;これらの全ては、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを示す。"有意にオーバーラップしない"とは、特定の波長が、1つのプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンの吸収波長での吸収(光学密度)が、同一条件(例えば温度)下で他のプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンの吸収よりも少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10倍高いように選択され得ることを意味する。例えば、選択された波長、例えば600 nmで、光互変性組成物Xが1.0 ODの吸収を示し、光互変性組成物Yが、0.5と等しいかまたは0.5より低い、好ましくは0.33、好ましくは0.2、より好ましくは0.1 ODの吸収を有するなら、そのために光互変性組成物XおよびYの吸収スペクトルは有意にオーバーラップしない。
【0032】
本発明のある実施態様において、多様な光互変性物質は、2以上の(例えば、3、4、5、6、7、8など)プロテオロドプシンを含む。本発明の別の実施態様において、多様な光互変性物質は、2以上 (例えば、3、4、5、6、7、8など) のバクテリオロドプシンを含む。さらに本発明の別の実施態様において、多様な光互変性物質は、1以上のバクテリオロドプシンおよび1以上のプロテオロドプシンを含む。本発明において、プロテオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンおよびレチナールアナログ含有プロテオロドプシンからなる群から選択される。バクテリオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択される。
【0033】
プロテオロドプシン
プロテオロドプシンは、一般的にシリンダー形態のチャンネルを形成する7回の脂質膜-貫通α-ヘリックス構造を有するトランス-膜タンパク質である。正しくフォールドされ、およびオール-トランス-レチナールが与えられた場合、プロテオロドプシンの7つのα-ヘリックスは、オール-トランス-レチナールを取り巻くケージとして配置される。光学情報担体としてプロテオロドプシンを使用する一つの利点は、プロテオロドプシンが、E. coliで機能的に発現され、大量のタンパク質(グラムまたはキログラム)を、経済的かつ効率的に提供し得るという点である。プロテオロドプシン発現細胞は、溶菌され、膜分画を含有する該ペレットが回収される。プロテオロドプシンタンパク質は、さらに界面活性剤による可溶化により膜からさらに抽出され得る。プロテオロドプシンを含有する膜または膜フラグメントのいずれか、または精製プロテオロドプシンタンパク質は、光学情報担体、例えば光学データ保存物質または不正防止データ担体として使用され得る。
【0034】
光学データ保存物質としてプロテオロドプシンを使用する場合、界面活性剤可溶化プロテオロドプシンを固定化して、光散乱を引き起こさないことが望まれる。本発明の一実施態様において、界面活性剤可溶化および膜不含プロテオロドプシンが用いられる。界面活性剤-可溶化プロテオロドプシンは、通常モノマーの形態で使用され、時にはオリゴマー(ダイマー、トリマー、テトラマー、ペンタマーまたはヘキサマー)の形態である。個々のプロテオロドプシンモノマーは、約5 nmのサイズである;このような小さなサイズは、可視範囲において光散乱を引き起こさない。プロテオロドプシンのモノマーまたはオリゴマー安定性は、光を散乱させるμMサイズの粒子を含まない光学データ保存物質の成分として望ましいものとなる。さらに、小さなサイズの個々のプロテオロドプシンモノマーは、光学データ保存物質中で均質なタンパク質分布を獲得することをさらに容易にする。
【0035】
バクテリオロドプシン、プロテオロドプシンタンパク質との違いは、少なくとも1ヶ月室温でまたは4℃で1年の保存状態のそのモノマーまたはオリゴマー状態で安定である。用語「安定」とは、プロテオロドプシンが、そのスペクトル性質を有意に変化させず(極大吸収波長30 nm以下)、光による励起に対して基底状態からM-状態への遷移を包含する光反応サイクルを生みだし得ることを言う。
【0036】
オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシン変異体の基底吸収極大は、一般的に、480 nmから550 nm、しばしば488-526 nmの間にある(Man, et al. Embo J. 22:1725-1731 (2003))。
プロテオロドプシンのM状態の吸収極大は、一般的に350 nm〜450 nm、しばしば約410 nmの間にある。M-状態は、他の同定されるスペクトル状態、K-、N-およびO-様状態とは区別され、これらの全ては吸収スペクトルが基底状態と比較して赤色方向に偏移(例えば>530nm)している。
【0037】
プロテオロドプシンが励起波長の化学作用光(actinic light)に暴露されると、活性化M-状態に励起され、黄色に変化する。その色は、時間とともにまたは該物質を第2の光に暴露することにより自然に基底色に戻る。例えば、プロテオロドプシン含有物質は、黄色光または緑光色によって励起され、赤または紫から黄色へと変化する;この色の変化は、自然に、または該物質を紫または青色光を照射することによって消失する。該励起および消去サイクルは、複数回反復でき、こうしてプロテオロドプシン分子を再使用することができる。
【0038】
本発明に有用なプロテオロドプシンは、あらゆる天然のプロテオロドプシンから誘導され得る。多様な天然のプロテオロドプシンをコードしている天然の核酸配列は、細菌分野の自然界に存在するメンバーから得られた。かかるメンバーは、SAR86 グループなどの海洋細菌を包含する。プロテオロドプシンの天然核酸配列がクローニングされ、プロテオロドプシンの天然形態が発現される。プロテオロドプシンの多くの天然形態が存在する;プロテオロドプシンの多くの天然形態が存在する;海洋細菌から誘導されるものおよび非海洋細菌から得られるものを包含する;この全てのものが本発明に使用され得る。
【0039】
例えば、プロテオロドプシンの天然形態には、Hot75m1、Bac31A8、Bac40E8、Bac41B4、Bac64A5、Hot0m1、Hot75m3、Hot75m4、Hot75m8、MB0m1、MB0m2、MB20m2、MB20m5、MB20m12、MB40m1、MB40m5、MB100m5、MB100m7、MB100m9、MB100m10、PalB1、PalB2、PalB5、PalB7、PalB6、PalB8、PalE1、PalE6、PalE7、MED 26、MED27、MED36、MED101、MED102、MED106、MED25、MED202、MED204 MED208、REDA9、REDB9、REDF9、RED19、RED2、RED23、RED27、RED30、RED4、RED5、REDr6a5a14、REDr6a5a6、REDr7_1_4、REDs3_7、REDr7_1_15、REDs3_15、medA15r8ex6、REDr7_1_16、medA15r11b9、medA15r9b5、medA15r8b3、medA15r11b3、medA15_r8_1、medA17R9_1、medA15r8b9、medA19_R8_16、medA19_R8_19、medA17_R8_6、medA15r9b7、medA15_R8_3、medA15r10b5、medA19_r9_9、medA15_r8ex7、medA19_R8_20、medA15_R8ex9、medA15_r9_3、medA17_r8_15、medA17_r8_11、medA15r8b8、medA15r8ex4、ANT32C12 PR および HOT2C01 PR を包含する(Baja, et al., Nature 411:786-9 (2001); Man, et al., EMBO J., 22:1725-1731 (2003)を参照されたい;およびSabehi, et al., Environ. Microbiol., 5: 842-9 (2003)。上記した様々なプロテオロドプシンのヌクレオチドおよびアミノ酸配列が、寄託番号AF349976-AF350003、AF279106、AY210898-AY210919、AY250714-AY250741、AY372453およびAY372455としてGenbankにて寄託されている。さらに、Venterら(Science 304: 66-74 (2004))は、近年782種のこの新規ロドプシンアナログを報告しており、これらの大部分はサルガッソー海で見出されたプロテオロドプシンである。上記引例に記載されているプロテオロドプシンは本発明に適している。
【0040】
本発明に有用なプロテオロドプシンは、あらゆる非天然のプロテオロドプシン、例えばプロテオロドプシン変異体からも得られ得る。用語"プロテオロドプシン変異体"は、プロテオロドプシンの天然の配列由来の1以上のアミノ酸残基および/またはヌクレオチドを、挿入、削除および/または置換する1以上の突然変異を含むプロテオロドプシンを意味する。例えば、ヌクレオチド配列は、その配列内で同一または機能的に等価なアミノ酸残基をコードする異なるコドンの置換、即ちサイレント変化を生じることによって変更され得る。例えば、配列内のアミノ酸残基は、類似した極性または類似した分類の別のアミノ酸によって置換され得る。非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、グリシンおよびメチオニンを包含する。極性中性アミノ酸は、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンを包含する。陽性電荷の(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジンおよびヒスチジンを包含する。陰性電荷の(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を包含する。
【0041】
本発明に有用なプロテオロドプシン変異体は、例えばBac31A8 H75K、Bac31A8 H75N、Bac31A8 H75Q、Bac31A8 E108Q、Bac31 A8 D97N、Hot75ml H77K、Hot75ml H77N、Hot75ml H77Q、Hot75ml H77E, Hot75ml H77D, Hot75ml H77W, Hot75ml R96A, Hot 75ml E110Q, Hot75ml D99N、Hot75ml R96E、and Hot75ml R96Qのアミノ酸配列を包含する。この中で、Bac31A8 H75K は、天然Bac31A8の75個のアミノ残基が、ヒスチジンからリジンに変異されることを意味する。プロテオロドプシン変異体は、同時継続の米国出願公開番号2005-0095605に開示されている;これは、出典明示により本明細書の一部とする。
【0042】
バクテリオロドプシン
バクテリオロドプシン(BR)は、Halobacterium salinariumと呼ばれる海洋真正細菌の光合成系において見出されたオール-トランス-レチナール含有タンパク質分子である。BRを基にした光学フィルムは、過去20年間の間役立ってきたが、それら自身では、これらのフィルムは、データ保存用途に対して、それらを商業的に実施し得るために要求される特性を持ってはいなかった。BRを基にしたフィルムの持つ問題の一つは、BRが、0.2-1 μmサイズのタンパク質-脂質パッチを形成することである。BRをこのパッチから抽出し、モノマータンパク質を形成させると、不安定となり、数日の間に不活性となる。光学フィルムにおいてこれらのBRパッチを用いる問題は、パッチがフィルムと干渉するために使用される光の波長とおおよそ同一サイズである点であり、これは、読み取り、書き出しサイクルの間に顕著な光散乱を生じ、これによってノイズが増加し、フィルムの性能が低下することである。さらに、BRパッチは、互いに粘着する傾向があり、その結果、フィルム中のBRタンパク質の不均質な分布を生じ、BRを基にした光学フィルムの性能をさらに低下させる。
【0043】
PRと比べてBRの別の問題は、大量で提供するためには高価であることである。BRは、それが完全に機能的であるためには、天然生物H. salinarum において発現されなければならない[Dunn, et al., J Biol Chem, 262: 9246-9254 (1987); Hohenfeld, et al., FEDB lett, 442: 198-202 (1999))]。H. salinarum は、増殖が非常遅く、細胞密度が低く、増殖培地において多量の塩の存在を必要とする。H. salinarumの低生産性、および培養および高塩性増殖培地に耐え得る回収設備を特注するのに高額な費用が必要なため、高いBR産生コストをもたらす。
【0044】
しかしながら、バクテリオロドプシンは、独特な590 nmの吸収極大波長を有し、これは大部分のプロテオロドプシンの吸収極大波長と異なる。このため、多様な光互変性物質の成分として有用である。BR分子は、PR分子を含有する物質で組みあわされる場合に有用である。
【0045】
オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンの基底吸収極大は、いかなる有意な変動もなく、一般的には590 nmである。オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンの全ては、類似した紫色を示す。バクテリオロドプシンのM-状態の吸収極大は、一般的には約410 nmである。
【0046】
バクテリオロドプシンが励起波長光に暴露されると、活性化M-状態に励起され、黄色に変化する。その色は、時間とともに、または該物質を第2の光に暴露することにより、自然に基底色に戻る。例えば、バクテリオドロプシン含有物質は、緑色光によって励起でき、紫から黄色へと変化する; この色変化は、自然に、または該物質を紫または青色光を照射することによって消失する。
【0047】
本発明にとって有用なバクテリオロドプシンは、あらゆる天然バクテリオロドプシン、から得られ得る。本発明にとって有用なバクテリオロドプシンは、あらゆる非天然バクテリオロドプシン、例えばバクテリオロドプシン変異体からも得られ得る。用語"バクテリオロドプシン変異体"は、バクテリオロドプシンの天然のアミノ酸残基および/またはヌクレオチド配列由来の1以上のアミノ酸残基および/またはヌクレオチドを、挿入、削除および/または置換する1以上の突然変異を含むバクテリオロドプシンを意味する。例えば、ヌクレオチド配列は、その配列内で同一または機能的に等価なアミノ酸残基をコードする異なるコドンの置換、即ちサイレント変化を生じることによって変更し得る。例えば、配列内のアミノ酸残基は、類似した極性または類似した分類の別のアミノ酸によって置換され得る。非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、グリシンおよびメチオニンを包含する。極性中性アミノ酸は、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンを包含する。陽性電荷の(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジンおよびヒスチジンを包含する。陰性電荷の(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を包含する。
【0048】
本発明に有用なバクテリオロドプシン変異体は次のものを包含する:BR-D85N および BR-D96N(Hampp, Chem. Rev., 100:1755-1776 (2000))、BR-T90V、BR-D115L、BRV49A (Dioumaev, et al., Biochemistry 41(17):5348-58 (2002))、BR-E194C (Balashov, et al., Biochemistry 36:8671-8676 (1997))、BR-E194QおよびBR-E204Q (Dioumaev, et al., Biochemistry 37:2496-2506 (1998))、BR-R82AおよびBR-D85E (Subramaniam, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87:1013-1017 (1990))、BR-D85A、BR-D85N、BR-D85E、BR-D212N、BR-D212E、BR-R82A、BR-R82Q、BR-D115A、BR-D115N、BR-D115E、BR-D96A、 BR-D96N、BR-D96E (Otto, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:1018-1022 (1990))、BR-E204Q、BR-E204D、BR-L93M、BR-L93T、BR-L93S (Kandori, et al., Biochemistry 36:5134-5141 (1997))、BR-V49A (Brown, et al., Biochemistry 33:12001-12011 (1994))、BR-L93A (Delaney, et al., J. Phys. Chem. B., 101:5619-5621 (1997))、および他の可能なバクテリオロドプシン変異体。この中で、BR-D85Nは、天然バクテリオロドプシンの85位のアミノ酸残基が、アスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)に突然変異されることを意味する。
【0049】
レチナールアナログ
多様なレチナールアナログは、本発明において有用である。一実施態様において、レチナールアナログは、アズレン様レチノイド化合物である。別の実施態様において、レチナールアナログは、オール-トランス-レチナールに構造的に類似している化合物である。プロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびレチナールアナログは、同じプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびオール-トランス-レチナールを含む対応する光互変性物質とは異なるスペクトル特性を有する光互変性物質を形成する。
【0050】
本発明の一実施態様において、プロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびレチナール・アナログは、同じ条件下(例えば温度)で、同じプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびオール-トランス-レチナールを含む対応する光互変性物質の吸収スペクトルとは吸収スペクトルが有意にオーバーラップしない光互変性物質を形成する。本発明の別の実施態様において、プロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびレチナールアナログは、同じ条件下(例えば温度)で、同じプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン・アポプロテインおよびオール-トランス-レチナールを含む光互変性物質と比べて、赤方に遷移した視覚的発色団をもたらす光互変性物質を形成する。スペクトル特性における変化は、光学データ保存の能力を増加させ、並行処理を可能にする光の複数波長の使用を提供する。
【0051】
オール-トランス-レチナールの構造は次の通りである:
【化1】

【0052】
オール-トランス レチナール
本発明に有用なレチナールアナログは、式Iのアズレン様レチノイド化合物を包含する:
【化2】

式I
[式中、R'、R''およびR'''は、各々独立して、H、C1-4直鎖アルキル、またはC1-4 分岐鎖アルキルであり、
nは、1〜4の整数であり;
XaおよびX'b は、各々独立してH、C1-4 アルキル、F、ClまたはCF3であり;
Yは、存在しないか、またはYは、パラ−、メタ−またはオルト-フェニルであり;そして Zは、CHOである。]。
【0053】
本発明の一実施態様において、R'、R''およびR'''は、独立してH、メチル、イソプロピルである。好ましくはR'= R'''=メチル、R''=イソプロピルである。
【0054】
本発明の好ましい実施態様において、Yは存在しない。
【0055】
アズレン様レチノイド化合物の製造は、例えば米国特許第 5,235,076 (Asato)に開示されており、これは出典明示により本明細書の一部とする。
【0056】
本発明にとって有用である式Iの具体的な例には、次の化合物が包含される:
【化3】

化合物A
【化4】


化合物B
【化5】


化合物C
【0057】
【化6】

化合物D
【0058】
【化7】

化合物E
【0059】
【化8】

化合物F
【0060】
【化9】

化合物G
【0061】
【化10】

化合物H
【0062】
【化11】

化合物I
【0063】
【化12】

化合物J
【0064】
【化13】

化合物K
【0065】
【化14】

化合物L
【0066】
【化15】

化合物M
【0067】
【化16】

化合物N
【0068】
本発明に有用なレチナールアナログは、オール-トランス-レチナールと構造的に類似している下記の非アズレン様化合物もまた包含する:
【化17】

化合物O (米国特許第 4,896,049 (Ogawa))
【0069】
【化18】

化合物P (米国特許第 4,896,049 (Ogawa))
【0070】
【化19】

化合物Q (米国特許第 4,896,049 (Ogawa))
【0071】
【化20】

化合物R [Khodonov, et al. (Sensors and Actuators B 38-39:218-221 (1997))]
【0072】
【化21】

化合物S [Khodonov, et al. (Sensors and Actuators B 38-39:218-221 (1997))]
【0073】
【化22】


P-ジメチル アミノシンナムアルデヒド(DMCA)
DMCAは、例えばSigma-Aldrich (St. Louis, MO) The Lab Depot, Inc. (Alpharetta, GA)およびthe Science Lab.com (Kingwood, TX)を通してFluka AG (Buchs, Switzerland)から市販購入し得る。
【0074】
レチナール アナログ-含有プロテオロドプシンは、宿主細胞においてアナログの存在下で、プロテオロドプシンを発現することによって上手く調製され得る。例えば、E. coli は、オール-トランス-レチナールを産生しないため、効果的な宿主細胞である。オール−トランス−レチナールの合成経路が遮断された別の宿主細胞は、アナログ含有プロテオロドプシンを調製するために有効な宿主細胞であり得る。アナログが、細胞培養物に添加され、宿主細胞の増殖およびプロテオロドプシン発現中にプロテオロドプシンタンパク質に挿入される。
【0075】
一方で、レチナールアナログ含有バクテリオロドプシンは、その宿主細胞 H. salinarum中でバクテリオロドプシンの発現中にアナログを添加することによっては、上手く調製できない。オール−トランス−レチナールは、H. salinarumによって産生され、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンはバクテリオロドプシンの発現中に形成される。レチナールアナログ含有バクテリオロドプシンを調製するために、オール−トランス−レチナールが、レチナール含有バクテリオロドプシンから除かれ、次いでレチナールアナログが、バクテリオロドプシンアポプロテインに添加され、バクテリオロドプシンとレチナールアナログとの複合体を形成する必要がある。
【0076】
固定化プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンの混合物を含む固体物質
本発明は、1以上のバクテリオロドプシンと1以上のプロテオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質を提供する;好ましくは、バクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンの全ては、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つのが好ましい。本発明は、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つ2以上のプロテオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質もまた提供する。本発明は、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを有する2以上のバクテリオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質をさらに提供する。上記固体物質において、プロテオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンおよびレチナールアナログ含有プロテオロドプシンからなる群から選択され、該バクテリオロドプシンは、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択される。
【0077】
本発明の固体物質は、固体物質が、レチナールアナログ含有プロテオロドプシンが固体中に均等に分布するように、固体形態へと固化する前にレチナールアナログ含有プロテオロドプシンと共に均質相を形成できる1以上の親水性ポリマーを含むのが好ましい。"均質"とは、レチナールアナログ含有プロテオロドプシンと、親水性ポリマーまたはその前駆体が、混合物中で一様な構造または組成物を形成することを意味する。本明細書において使用したように"固定化"とは、プロテオロドプシンが、移動せず、物質中に固定されていることを意味する。プロテオロドプシンと該物質との相互作用は、共有結合していてもしていなくてもよい。例えば、プロテオロドプシン/バクテリオロドプシンは、物質内に物理的に封入され得る。また、プロテオロドプシンは、静電気的帯電、H-結合、疎水性、親水性またはファンデルワールス相互作用によっても該物質に結合できる。固定化によって、プロテオロドプシン/バクテリオドロプシン分子は固定され、光学シグナルがプロテオロドプシン分子の拡散によって失われないように、固体物質内で拡散しないかまたは非常にゆっくりと拡散する。
【0078】
親水性ポリマーは、不透明でない、即ち光学的に透明な固体物質を提供し、それを含有する光互変性物質の光励起を効率的にさせ得る。
【0079】
本発明に適当な親水性ポリマーは、シリカゾルゲル、ゼラチン、ポリアクリルアミド、アラビアゴム、寒天、カラゲナンカルシウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸の他の塩、アルギン、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、特に部分架橋したポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ペクチンおよびそれらの混合物などを包含する。
【0080】
ビニルポリマーおよびその誘導体もまた、本発明において有用である。ポリビニルアルコール(PVA)は、ホモポリマーまたはコポリマーとして定義されるものであり、酢酸ビニルが開始モノマー単位であって、そのほとんどまたは全てのアセテート部分(70-100%)が、後にアルコール分子に加水分解される。本発明に有用な他のビニルポリマーには、ポリ酢酸ビニルおよびポリビニルピロリドンが含まれるが、これらに限定されない。PVA-メタクリル酸メチルコポリマーなどのコポリマーも、本発明に用いることができる。広範囲の分子量や粘性の、ポリ酢酸ビニル前駆体からの加水分解の程度が様々なPVAが、商業的に利用可能である。
【0081】
本発明のために有用な別のポリマーは、ヒドロゲル、例えばカルボポール(Carbopol(登録商標))、酸性カルボキシポリマーを形成するポリマーを包含する;シアナメイ(Cyanamey)-O ポリアクリルアミド、架橋したインデン-無水マレイン酸ポリマー、ポリオックス(Polyox(登録商標))ポリエチレンオキシドポリマー;スターチグラフトコポリマー;例えば、ジエステル架橋ポリグルカンなどの縮合グルコース単位からなるアクア-キープソ(Aqua-Keepso)アクリル酸ポリマー多糖体が包含される。ヒドロゲルを形成する代表的なポリマーは、米国特許第3,865,108; 4,002,173;4,207,893;およびScott、Roff著、オハイオ州、クリーブランドのChemical Rubber Company出版、一般的なポリマーハンドブック(Handbook of Common Polymers)に記載されている。
【0082】
親水性ポリマー中、または親水性ポリマー混合物中に、様々なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンの固定化混合物を含有する固体物質は、最初に親水性ポリマーまたはその前駆体を、水中または緩衝水溶液中で様々なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンと混合し、均質溶液を形成し、次いで該ポリマーを固体化するステップによって調製される。ここで、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子がポリマー中で固定され得る。該ポリマーの固体化は、乾燥、冷却、硬化または重合化によって実施され得る。
【0083】
例えば、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子の固定化混合物を含有するポリビニルアルコール物質は、後記ステップを含む方法によって調製できる;(a)ポリビニルアルコール、水または約pH 3-12を有する緩衝液、および様々なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子を混合し、溶液を形成する;(b)該溶液を固体表面上に広げる;そして(c)該溶液を乾燥させ、固定化されるプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子を含有するポリビニルアルコール物質を形成する。
【0084】
固定化される多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子を含有するポリアクリルアミド物質は、後記ステップを含む方法によって調製され得る;(a)水またはpH 3-12を示す緩衝液中でアクリルアミド、ビスアクリルアミド、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子、および1以上の重合化開始剤を混合すること;および(b)アクリルアミドゲルを重合化すること;これによって、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子が、ポリアクリルアミドゲルマトリックス内に固定化される。一般的に使用される重合化開始剤は、過硫酸塩アンモニウムおよびN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を包含する。あるいは、該方法は、後記ステップを含む;(a)水またはpH 3-12を示す緩衝液中で、アクリルアミド、ビスアクリルアミド、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子、および1以上のUV-活性化フリーラジカル発生剤を混合すること;そして(b) 該混合物をUV光に暴露し、アクリルアミドゲルを重合化する。UV-活性化フリーラジカル生成剤は、リボフラビンおよびTEMED (一緒に用いる)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、およびこれらのSE 96047-3特許に記載されたものを包含する。
【0085】
固定化される多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子を含有するゾル−ゲルは後記のステップを含む方法によって調製され得る:(a) pH 1.5-4を示す酸性溶液をシラン前駆体に添加し、該シラン前駆体を加水分解し、シリケートゾルを形成する;(b) pH 約 5-9で多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンを含有するシリケートゾル水溶液に添加すること;そして(c) (b)をインキュベートしてゲルを形成する;これにより、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子はゾルゲルマトリックス内で固定化される。シラン前駆体は、テトラアルキルオルトシリケート、アルキルトリアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン、アルカリ金属シリケート、ポリオールシリケート、ポリオールシロキサン、ポリ(メチルシリケート)およびアルコール不含ポリ(シリク酸)を包含する。好ましいシラン前駆体は、テトラアルキルオルトシリケートおよびポリ(グリセリル)シリケートを包含する。
【0086】
固定化される多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンを含有するゼラチンは、後記ステップを含む方法によって調製され得る:(a) 水または緩衝液中でゼラチンを加熱および溶解し、均質の水性ゼラチン溶液を形成すること;(b)該ゼラチン溶液を約39-45℃に冷却すること;(c)冷却したゼラチン溶液を多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンと混合すること;そして(d)(c)をインキュベートし、ゲルを形成すること;これによって、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンがゼラチンゲルマトリックス内で固定化される。
【0087】
本発明の固体物質は、多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子の固定化混合物を含む。多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子は、固体形態へと固化する前に予め混合される。多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子が分子レベルで混合されるため、それらは同じアドレス可能なドメイン内に位置づけることができる。これは、多様な光互変性物質を製造するための経済的方法を提供し、同じアドレス可能なドメイン内で独立した書き込みおよび読み取りができる。
【0088】
技術用途
本発明のプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、多くの技術用途を持つ。例えば、それらは、光互変性用途、光電気用途および/または光転送用途を有する機器または装置に導入され得る。
【0089】
光互換性用途において、プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、光学データ保存、干渉分光法および/または光通信のため、その光吸収性について使用できる。光互換性用途は、ホログラムフィルムを包含するがこれに限定するものではない。レチナールアナログ含有プロテオロドプシンは、光学データ保存機器、例えば2-D 保存、3-D 保存、ホログラフ保存、連合的保存などに使用できる。レチナールアナログ含有プロテオロドプシンは、光学的二重安定/光交換、光学的フィルター、信号処理、神経ネットワーク、空間光変調器、位相共役、パターン認識、干渉計使用法などの情報処理のための機器に使用できる。
【0090】
光転送用途において、プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、膜を透過する光誘導性のプロトン輸送、例えば光電池装置に使用され得る。1つのこのような光電池装置は、プロテオロドプシンを含む光駆動エネルギー発生体である。これにより、光エネルギーが、化学エネルギーに変換され得る。レチナールアナログ含有プロテオロドプシンは、反応体におけるATP発生のための装置、海水の脱塩および/または太陽光の電気への変換に使用され得る。
【0091】
プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、2D 高調波発生、放射エネルギー検出、バイオセンサー用途などの機器においても使用できる。
【0092】
一実施態様において、本発明は、光学情報担体に適当な物質を提供する。特に該物質は、光学データ保存物質または不正防止光学データ担体に適する。
【0093】
一実施態様において、本発明は、光学的情報の保存および処理に適当な物質を提供する。
【0094】
一実施態様において、本発明は、光学データの保存(書き込み)に使用するための物質を提供するものであって、該物質は、非破壊的に検出する(読み出す)間、データを保持することができ、データを光学的に消去した後も再利用可能な物質を提供する。
一実施態様において、本発明は、模造者が模倣するのを困難にさせる情報担体物質を提供する。
【0095】
一実施態様において、本発明は、光に暴露すると色を変える不正防止インクを提供する。
【0096】
光学情報データ担体
本発明は、効率的かつ経済的に製造することができ、低いバックグラウンド(クロストーク)、大量のデータ保存能力、および書き換え能力を有する光学情報担体を提供する。かかる光学情報担体は、光学データ保存物質または不正防止光学データ担体として効果的である。
【0097】
本発明は、上記したような多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質を含む光学情報データ担体を提供する。ここで多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシンは有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つ。固体物質の厚さは、三次元よりも二次元の長さが大きい薄い保存層から、全次元が同程度の桁の長さである厚い成型対象に至る範囲まで、様々である。
【0098】
本発明は、多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン分子の固定化混合物を有する固体物質、および紙、金属、織物、プラスチック材などの基材を含む光学情報担体を提供するものであって、該固体物質は該基材上に沈着される。例えば、基材はディスク、カードまたは書類である。
【0099】
本発明の光学情報担体は、二次元フィルムと呼ばれ得る薄いフィルムまたは膜の形態であってもよいし、または三次元層またはブロックと言われる厚いフィルムの形態であってもよい。そのように作成された光学情報担体は、異なる波長の光に各々暴露されると、基底状態からM状態へと多様な分子を変換し得る多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン分子の混合物を包含する。
【0100】
pH8から12のようなアルカリ性のpHを持つ光学情報担体は、光誘導性のM 状態の低下を遅らせて、M-状態を安定化させ、室温でも持続性の光学画像をPR含有フィルム上に印刷することが可能となる。pHがアルカリ性であると、M状態の寿命を延ばすことができるので、光学データ保存に効果的である。データ保存のための所望の時間の長さは、用途によって数秒、数分、数時間、数日、数ヶ月から、数年のまで変化させることができる。不正防止用途に対して、M状態の寿命が短い(数秒から数分)のが好ましい。
【0101】
多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子の固定化混合物を含有する固体物質は、光学データ保存物質として使用するために、書類、ディスクおよびカードの表面上に塗布されるか、噴霧される。一実施態様において、固体物質は、容積測定データ保存装置またはホログラフデータ保存装置において使用され得る。容積測定データ保存装置は、3D型のデータ保存装置の一種であり、この装置のデータ記録物質の厚み部分は、貯蔵データを各々含有する多数の仮想平面に分けられる。従って、容積測定データ保存装置は、2D保存装置のスタックに相当し得る。ホログラフデータ保存装置は、別のタイプの3Dデータ保存装置である;データ搭載と参照光ビームに関する3D干渉パターンの記録に該フィルムの厚み部分が使用されている。
【0102】
データは、光互変性分子の混合物を含有する物質の特定領域を、特定波長の化学作用光に短時間暴露することによって、本発明の光学情報担体に光学的に書き込まれる。例えば、化学作用光は、多色性の黄色または緑色光(例えば、450nm カットオンフィルターを通すハロゲンランプからの光)、または単色性の緑色光(例えば、波長532nmの半導体励起固体倍頻度(DPSSFD)緑色レーザー光)である。暴露した領域が黄色になると、その領域における特定の光互変性分子が、対応する波長の光によって励起され、活性化されたM中間体に変換されたことを示す。これが、光互変性物質の混合物を含有する固体物質にデータを書き込む操作にあたる。該物質に書き込まれた光学データを読み出す方法に、該物質の様々な領域の色を(例えば、CCDを用いて)観察する方法がある。
【0103】
光がない場合には、M-状態の分子は、約 1-2 分で徐々に基底色へと戻った。励起状態(黄色)のM-状態の分子を短時間(約1秒以下)、読み取り光に、例えば紫色の光(例えば、456 nmのカットフィルターを用いるハロゲンランプからの光)または青色光(例えば、青色発光ダイオード(LED)からの光)に暴露すると、励起された分子の色は基底色に戻る。これは、フィルムに印刷した光学シグナルが急速に消失することと対応する。これらのサイクルは反復できるので、これにより書き込み、読み取り、消去、そして書き換え可能な光学物質を提供することができる。プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子の使用に関する一つの利点は、該分子が光漂白(シグナルの損失)なしに複数回の読み書きサイクルに耐え得る能力にある。
【0104】
本発明は、上記したような多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンを含む固体物質を含む光学データ保存物質を提供し、そこでデータは多様な波長の化学作用光(書き込み光)によって区別して書き込まれ、そして光学シグナルは多様な波長の読み取り光を区別して読み取られ得る。光学シグナルは、プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシン分子の各々のB-状態分子の減少を測定することによって区別して読まれる。一方、光学シグナルは、該プロテオロドプシンまたは該バクテリオロドプシン分子の各々によるM-状態の吸収極大波長での光の吸光度を測定することによって区別して読まれる。
【0105】
各ドメイン内の複数の情報ビットの各々は、化学作用光の波長を変えることによって誘導されるプロセスにおいて、選択的に書き込まれ得る。各化学作用光は、アドレス可能な同じドメイン内に存在する特定のプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシン分子の吸収極大波長と独自に関連する波長を有する。各化学作用光は特定の波長を有しており、これは一つの特定のプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシン分子のみを優先的に、そのB-状態からM-状態への励起を引き起こすために適当である。従って、特定の吸収極大波長を有する単一のタイプのプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシン分子(1ビット)は、特定波長の化学作用光によって書き込まれる。多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子各々を独立して処理することによって、データは独立して書き込まれ、従って、アドレス可能な同じドメインにおいて複数の光互変性分子が存在するためにデータ保存の能力が増強される。
【0106】
各々アドレス可能なドメイン内の各複数情報ビットもまた、読み取り光(プローブ)の波長の違いによって誘導される過程において選択的に読まれ得る。
【0107】
光互変性分子の混合物を利用する一つの利点は、同じ物理学的空間内で複数ビットを保存する能力にある(即ち、高密度)。特定空間内にビットの数を増加させる能力は、4進、8進または16進データ保存を可能にする。例えば、分子は、1または0によって示されるBまたはM 状態いずれかで存在し得る。これはバイナリーデータ保存スケールである。各分子に対して、2ビットのデータが保存される。同一のアドレス可能な空間を占有する記録モードの数は2nとして表現され、ここでnは、個々に書き込みまたは読み出され得る光互変性分子の数である。例えば、同一のアドレス可能な空間内に2つの異なる読み取り波長または書き込み波長を有する分子を加えることができれば、4進(22)保存が可能となる。同一のアドレス可能な空間において3つの異なる読み取り波長または書き込み波長を有する分子を加える能力により、8進(23)保存が可能となる。
【0108】
本発明の一実施態様において、光学データ保存物質は、各独自の波長の化学作用光または読み取り光を持つ複数の読み取りステーションの下で迅速に通過する。本発明の別の実施態様において、光学データ保存物質は、複数波長の化学作用光または読み取り光によって同時に、書き込まれるかまたは読み出され、各波長は独特のプロテオロドプシン/バクテリオロドプシン分子に対応する。
【0109】
例えばフィルムなどの物質上に形成された画像は、あらゆる種類の情報を表すことが可能であり、その情報はフィルム内の光互変性物質内の個々のデータポイントとして形成され得る。光互変性混合物中の個々の分子の数が多ければ多い程、光学密度(O.D.)が高くなり、その中に保存される画像のシグナルも多くなる。
【0110】
本発明は、上記したように、1以上の光源と光学データ情報担体とを含む光学データ保存装置を提供する。一実施態様において、1以上の光源は、独立した異なる波長の化学作用書き込み光を放射し、多様な光互変性物質を基底状態からM-状態へと変換する。別の実施態様において、1以上の光源は、異なる波長の読み取り光を放射し、多様な光互変性物質をM-状態から基底状態へと変換する。
【0111】
本発明は、上記した多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質を含む不正防止データ担体をさらに提供するものであって、ここで該多様なプロテオロドプシン/バクテリオロドプシンは、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを持つ。固定化プロテオロドプシンを含有する物質は、金属、ガラス、紙、織物材、プラスチック材の表面、鉱表面または不正防止データ担体として使用するための無機化合物表面上に、塗布され、噴霧され、固体化され、印刷され、沈着されるかまたは乾燥され得る。固定化プロテオロドプシン/バクテリオロドプシン分子を含有する物質は、モールド成型され、3次元の不正防止データ担体を形成できる。
【0112】
例えば、固体物質は、例えば紙幣、書類、IDカード、パスポート、運転免許書、キーカード、小切手、証券、ステッカー、箔、容器、梱包用製品などの製品上に沈着させ、その製品の信頼性を保証する。プロテオロドプシン/バクテリオロドプシンが励起波長の光に暴露されると、活性化M-状態に励起されて、黄色に変化する。該色は、時間と共に、または該物質を第二の光に暴露することによって、自然にその基底色へ戻る。例えば、プロテオロドプシン分子は、黄色光または緑光色によって励起され、赤または紫から黄色へと変化する;この色の変化は、自然に、または該物質を紫または青色光を照射することによって消失される。このプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンの色の変化は、基底状態とM-状態との間で可逆的であり、これにより偽造に対する防護を提供する。物質の特性に目に見える変化を起こさずに、書き込み、読み取り、消去のサイクルを複数回繰り返すことができる。色素または有機染料を基にした従来のインクでは、この色変化を模倣することはできない。このような色の変化の特徴により、プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン含有物質を、偽造者が模倣することを困難にする。多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子の混合物を使用することによって、複数の基底色は、安全インクまたは書類中の同じアドレス可能なメイン内に提供でき、これにより偽造することをより困難にする。この多様な色調のプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシン分子は、それらが異なる極大吸収波長を有する限り、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシン、レチナールアナログ含有プロテオロドプシン、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシン、およびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンのあらゆる組合せであり得る。
【0113】
安全インク
本発明は、液体形態にある上記した多様なプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンおよび1以上の親水性ポリマーの混合物を含む安全インクをさらに提供する;該ポリマーおよびプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、均質相を形成する。安全インクは、それを表面上に適用した後に、固体化または乾燥される;そしてプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンは、安全対策を提供するためにインキを塗布した局在領域に固定化される。安全インクは、一般的に水性であり、空気中で乾燥されるかまたは固化されて、フィルムを形成する。インクの乾燥または固体化は、溶媒の減少、重合化または硬化によって起こる。
【0114】
安全インクは、水溶液においてプロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンの混合物を1以上の親水性ポリマーと混合し、均質溶液を形成させて調製される。所望により、例えば結合剤、UV吸収剤または染料などの助剤を安全インクに包含させる。結合剤は、インクを適用した表面上への、光互変性物質の結合または接着を増強する。本発明に有用な結合剤には、アラビアゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、およびポリエチレングリコールが挙げられる。UV吸収剤は、UV損傷から光互変性物質を保護し、安全インクのUV-耐性を増加させる。UV吸収剤には、ベンゾフェノン、ヒドロキシナフトキノン、フェニルベンゾオキサゾール、ケイ皮酸エステル、スルホンアミドおよびアミノ安息香酸エステルなどが挙げられる。染料はインクの視覚的外観を修飾する。安全インクに包含し得る他の添加剤には、蛍光増白剤、乾燥剤、皮張り防止剤、チクソ性プロモーター、ワックス、可塑剤、界面活性剤、消泡剤および殺生物剤が挙げられる。親水性ポリマーは、プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンの混合物が均一に分散し、均質溶液を形成できるあらゆる水相溶性ポリマーであり得る。プロテオロドプシンおよび/またはバクテリオロドプシンおよびポリマーを含有する溶液は、空気中で迅速に(1分間以内)乾燥して、効率的に光を吸収して、光互変性物質の基底状態を励起させ得るフィルムを形成するものが、好ましい。本発明の一実施態様において、親水性ポリマーは、アラビアガム、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコールまたはポリビニルピロリドンである。
本発明の一実施態様において、安全インクは、紙、箔、金属表面またはプラスチックの上に印刷され得る。
【0115】
本発明の別の実施態様において、安全インクは、書類へのスクリーン印刷またはインクジェット印刷により適用できる。普通の周囲条件および通常の室内照明では、安全インクで印刷した範囲には、光互変性物質の混合物内の分子の基底状態によって、例えば紫または赤色が現れる。しかしながら、光の強度を増すことにより、黄色(M-状態)への急速な色の変化を導くであろう。それ故に、安全インクを用いて印刷した書類をデジタルスキャンまたは写真複写により作成した不正な複写物を、正規の書類と見分けることは容易である。色素や有機染料を基にした従来のインクは、この色の変化を模倣することはできない。この色変化の特徴により、偽造者が光互変性物質を模倣することを困難とする。
【0116】
下記実施例は、本発明をさらに説明するものである。以下の実施例は、単に本発明の説明を意図するもので、本発明を制限するものではないと解釈されたい。
【実施例1】
【0117】
実施例1.一時的データ保存
Halobacterium salinarum変異体D96N (Zeisel and Hampp, J. Phys. Chem., 1992. 96:7788-7792)由来の精製されたバクテリオロドプシン(BR)(0.89 mg)を、超音波を用いて水中(110 μl)に溶解させた。これに、20 % ポリエチレンイミン(89 μl)を、ボルテックスで混合しながら滴加し、透明な紫色の液体を得た。精製したプロテオロドプシン変異体、Bac31A8/E108Q (米国特許公開番号2005-0095605)の8 mg/ml溶液(110 μl)、20% ポリエチレンイミン(89 μl)を、ボルテックスで混合しながら滴加し、透明な赤色の溶液を得た。これらの2つの紫色と赤色溶液を、BR/PR PEI 混合物として一緒に混合した。BR/PR 混合物の固定化ゲルを、BR/PR PEI 混合物(400 μl)、水(246 μl)および2.5% 高分子量ポリ酢酸ビニル溶液(20 μl)と混合することによって調製した。この混合物を、約50℃に昇温させ、精製したアガーの2 % 溶液(94 μl)を55℃で混合した。該溶液を、ボルテックスで混合し、1.0 mlのプラスチックキュベットへピペットにより移した。該溶液を室温まで冷却した。
【0118】
400 nm、510 nm、および640 nmで各々の最高強度を有する3つの小型キーチェインLED光を、状態を切り替えるために用いた。PR/BR ゲルを含有するキュベットを、分光高度計内に置き、数秒間、設定したLED 光(400 nm、510 nm、または400 nm 〜640 nmまで)により照射した。定したLED 光を、全体に約 2 秒間キュベットを照射するように置き、次いで取り出した。次いで、スペクトルを、暗室でHP 8452 Diode Array 分光高度計で記録した(図1および2)。
【0119】
BR および PR を含有する混合物を紫色光(400nm)で照射した後基底(B)状態でBRおよびPRの両方は、570 nm と520 nmで各々吸収する。図1および2におけるスペクトル1と5を参照されたい。
【0120】
赤色光(640nm)は、B 状態からM 状態へと励起することができるが、B 状態からPRを励起する効果はない。BRおよびPRを含有する混合物を紫色光(400 nm)の後に赤色光(640 nm)で照射した後、BRは、B 状態に続いてM 状態へと光反応サイクルが起こり、PRは、B 状態へと光反応サイクルが起こり、B 状態で保持された。図1および2におけるスペクトル3 および 6を参照されたい。
【0121】
BR および PR を含有する混合物を緑色光(510 nm)で照射した後、両方のBR および PR は、M 状態へと励起された。図1および2におけるスペクトル2および4を参照されたい。
【0122】
これらのスペクトルを評価するための簡単なモデルは、410 nm/560 nmでの吸収比率である(表1)。
【0123】
表1
【表1】

【0124】
A410/A560 比率は、表2に記載した"デジタル状態値"と考えられる。
表2
【表2】

【0125】
この実験データは、BR およびPRを含有する混合物が、光を用いて異なるデジタル状態を一時的にコード化する能力を有することを示す。
【0126】
BRが混合物中で最も大きな成分(1-3 μ)であるので、適切な光学装置を用いて達成され得るデータ密度の解像は、BR フィルムに関するものを下回らないと考えられる。PRは、単量体(約 4-5 nm)であり、そのためPRは、最小のアドレス可能なサイズまで、有意な解像に影響すると考えられない。
【0127】
本発明が現在好ましい実施態様に対する参照を用いて記載されてきたが、様々な修飾が、本発明の範囲からは逸脱しない範囲で為し得ると理解されるべきでる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、透明なマトリックス中に固定化されたバクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンの混合物の一時的データ保存スペクトルを示す。
【図2】図2は、透明なマトリックス中に固定化されたバクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンの混合物のスペクトルの一時的データ保存を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のバクテリオロドプシンおよび1以上のプロテオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質。
【請求項2】
プロテオロドプシンがオール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンであって、バクテリオロドプシンがオール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンである、請求項1に記載の固体物質。
【請求項3】
全てのバクテリオロドプシンおよびプロテオロドプシンが、有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを有する、請求項1に記載の固体物質。
【請求項4】
2以上のプロテオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質であって、プロテオロドプシンの全てが有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを有する固体物質。
【請求項5】
プロテオロドプシンがオール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシンまたはレチナールアナログ含有プロテオロドプシンである、請求項1または4に記載の固体物質。
【請求項6】
オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシンおよびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択される2以上のバクテリオロドプシンの固定化混合物を含む固体物質であって、このバクテリオロドプシンの全てが有意にオーバーラップしない吸収スペクトルを有する固体物質。
【請求項7】
固体物質が、固体形態へと固化する前にプロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンと均質相を形成できる1以上の親水性ポリマーを含む、請求項1、4または6に記載の固体物質。
【請求項8】
親水性ポリマーが、シリカゾルゲル、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、アガロース、アガー、メチルセルロース、ポリ酢酸ビニルおよびポリビニルピロリドン、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項7に記載の固体物質。
【請求項9】
データが異なる波長の化学作用光によって区別して書き込まれ、そして光学シグナルが異なる波長の読み取り光によって区別して読み出される、請求項1、4、または6に記載の固体物質を含む光学情報担体。
【請求項10】
光学シグナルが、各プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンのB-状態の分子の減少を測定することによって、区別して読まれる、請求項9に記載の光学情報担体。
【請求項11】
光学シグナルが、各プロテオロドプシンまたはバクリオロドプシンのM-状態吸収極大波長での光の吸収を決定することによって区別して読まれる、請求項9に記載の光学情報担体。
【請求項12】
ガラス、紙、金属、織物材、プラスチック材およびその組合せ物からなる群から選択される基材をさらに含み、固体物質が該基材上に沈着されている、請求項9に記載の光学情報担体。
【請求項13】
光学情報担体が、不正防止光学データ担体または光学データ保存物質である、請求項9に記載の光学情報担体。
【請求項14】
光学情報担体が、データの非破壊的な書き込みおよび読み取りを提供し、再利用可能である、請求項9に記載の光学情報担体。
【請求項15】
1以上の光源および請求項9記載の光学データ情報担体を含む光学データ保存装置であって、該1以上の光源が、異なる波長の化学作用性の書き込み光を独立して放射し、該プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンを基底状態からM-状態へと変換する光学データ保存装置。
【請求項16】
1以上の光源が、異なる波長の読み取り光を放射し、プロテオロドプシンまたはバクテリオロドプシンをM-状態から基底状態へと変換する、請求項15に記載の光学データ保存装置。
【請求項17】
光互変性物質および1以上の親水性ポリマーを含む安全インクであって、該光互変性物質および該親水性ポリマーは均質液体相を形成し、該インクは表面上に適用後に固化されるかまたは乾燥され、こうして該光互変性物質はインクが適用される特定の位置に固定化される、ここで該光互変性物質は、オール-トランス-レチナール含有プロテオロドプシン、レチナールアナログ含有プロテオロドプシン、オール-トランス-レチナール含有バクテリオロドプシン、およびレチナールアナログ含有バクテリオロドプシンからなる群から選択され、前記プロテオロドプシンおよびバクテリオロドプシンの全てが異なる吸収スペクトルを有する、安全インク。
【請求項18】
親水性ポリマーが、アラビアガム、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコールまたはポリビニルピロリドンである、請求項17に記載の安全インク。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−505193(P2008−505193A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527805(P2007−527805)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/020899
【国際公開番号】WO2005/123110
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(595163630)ジェネンコア・インターナショナル,インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】GENENCOR INTERNATIONAL, INC.
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】