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多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体およびその製造方法
説明

多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体およびその製造方法

【課題】より安定性が高く、サイズ制御が可能な両親媒性分子集合体を提供する。
【解決手段】多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体は、式(1)で表される構造を有する両親媒性分子を構成単位とし、複数の両親媒性分子が、環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により球状に集合してなる。


[環αは単環式の芳香族分子、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表し。環β1および環β2は、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面が環αの面と交わるように環αに結合。nが1の場合Rは親水性基であり、nが2以上の場合複数のRは親水性基または水素原子であって、少なくとも1つのRは親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性分子の集合体およびその製造方法に関し、特に両親媒性分子の球状の集合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直鎖状の両親媒性分子が水中で集合して形成される両親媒性分子の集合体(以下、適宜「両親媒性分子の集合体」を「両親媒性分子集合体」と称する)、すなわちミセルが知られている(例えば、特許文献1参照)。この両親媒性分子は、直鎖の一端側に疎水性基を有し他端側に親水性基を有する。そのため、水中での疎水性相互作用により、内側が疎水性で外側が親水性である球状の両親媒性分子集合体が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】國枝博信・坂本一民監修「界面活性剤と両親媒性高分子の機能と応用」、シーエムシー出版、2010年7月23日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球状の両親媒性分子集合体であるミセルは、複数の両親媒性分子で囲まれた内部空間に、種々の化合物を内包することができる。そのため、例えば食品や化粧品(水に難容性の化合物の溶解)、洗剤、環境浄化(流出油の回収や土壌の浄化)、工業材料(重合制御、溶剤)、先端医療技術(生体分子の分離・単離・精製、センサー、DDS:Drug Delivery System)等の幅広い分野において貢献し得るものとして期待されている。
【0005】
しかしながら、ミセルは、両親媒性分子の疎水性相互作用によって形成されるため、通常、低濃度では安定に存在できない。例えば、直鎖状の両親媒性分子であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の臨界ミセル濃度は約0.01Mである。したがって、ミセルがより低濃度で安定に存在することができる両親媒性分子の開発が求められていた。
【0006】
また、従来のミセルは、直鎖状分子の集合体であるため、均一な大きさに制御することができない。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を水中で混合した場合、直径5〜20nmの範囲で幅広いサイズのミセルが形成される。また、高分子ミセルの場合は、そのサイズが10〜100nmの範囲である。したがって、従来のミセルでは、そのサイズを数nmレベルで制御することができず、そのため内部空間に内包する化合物の形状やサイズを制御することができなかった。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より安定性が高く、サイズ制御が可能な両親媒性分子集合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体である。当該両親媒性分子の集合体は、一般式(1)で表される構造を有する両親媒性分子を構成単位とし、複数の両親媒性分子が、環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により球状に集合してなることを特徴とする。
【化1】

[一般式(1)中、環αは単環式の芳香族分子を表し、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面が環αの面と交わるように環αに結合している。nは1以上の整数であって、nが1の場合Rは親水性基であり、nが2以上の場合複数のRはそれぞれ独立に親水性基または水素原子であって、少なくとも1つのRは親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【0009】
本発明の他の態様は、多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体の製造方法である。当該両親媒性分子の集合体の製造方法は、上記一般式(1)で表される構造を有する両親媒性分子を構成単位とし、複数の両親媒性分子が環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により球状に集合してなる、多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体の製造方法であって、複数の両親媒性分子を親水性溶媒中で混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より安定性が高く、サイズ制御が可能な両親媒性分子集合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係る両親媒性分子集合体の構成単位である両親媒性分子の概念図である。
【図2】両親媒性分子の種々の構造例を示す図である。
【図3】両親媒性分子の合成経路を示す図である。
【図4】図4(A)は、水中および有機溶媒中での両親媒性分子の状態を示す概念図である。図4(B)は、H−NMRスペクトルである。
【図5】図5(A)は、原子間力顕微鏡(AFM)観察で得られた画像である。図5(B)は、図5(A)におけるA−B線およびC−D線に沿った凹凸を示す断面図である。図5(C)は、両親媒性分子集合体の直径と個数との関係を示すグラフである。
【図6】図6(A)は、UV−vis吸収スペクトル測定および発光スペクトル測定のチャートである。図6(B)は、有機溶媒中の両親媒性分子および水中の両親媒性分子集合体の発光色を示す色度図である。
【図7】図7(A)は、両親媒性分子集合体への発光性分子の内包を説明するための模式図である。図7(B)は、UV−vis吸収スペクトル測定のチャートである。図7(C)は、発光スペクトル測定のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る両親媒性分子集合体の構成単位である両親媒性分子の概念図である。本実施の形態に係る両親媒性分子集合体は、一般式(1)で表される構造を有する両親媒性分子1を構成単位とし、複数の両親媒性分子1が球状に集合してなる化合物である。
【0014】
【化2】

[一般式(1)中、環αは単環式の芳香族分子を表し、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面が環αの面と交わるように環αに結合している。nは1以上の整数であって、nが1の場合Rは親水性基であり、nが2以上の場合複数のRはそれぞれ独立に親水性基または水素原子であって、少なくとも1つのRは親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【0015】
両親媒性分子集合体の構成単位である両親媒性分子1は、単環式の芳香族分子(芳香族炭化水素)である環αに2つの多環式の芳香族分子である環β1および環β2が結合した構造を有する。環β1および環β2は、環αに対する立体障害により、それぞれの面が環αの面に対して交わるように配置される。すなわち、環αと環β1および環β2とは、非平面的に配置される。本実施の形態では、環αの面と環β1および環β2の面とがほぼ直交している。また、環β1および環β2は、互いにメタ位の関係となるように環αに結合している。また、環α、環β1および環β2は、それぞれ疎水性である。そのため、図1に示すように両親媒性分子1は、環α、環β1および環β2によって構成される、湾曲型で疎水性の多環芳香族骨格10を有する。なお、一般式(1)では、環β1および環β2の面が環αの面に対して交わっていることを視覚的に理解しやすくするために、環β1および環β2に陰影を付している。
【0016】
また、環αには、少なくとも1つの親水性基が結合している。この親水性基は、環αに対して、環β1および環β2の偏在領域とは反対側の領域において結合している。すなわち、図1に示すように、親水性基20は、疎水性の多環芳香族骨格10の凸側(外側)の湾曲面に配置されている。なお、図1では、2つの親水性基20が多環芳香族骨格10の湾曲面に結合している。したがって、本実施の形態の両親媒性分子1は、湾曲型で疎水性の多環芳香族骨格10と親水性基20とを有する両親媒性の化合物である。
【0017】
親水性基の数を調節することで、多環芳香族骨格10の湾曲面外側部分の親水性度を調節することができる。また、例えば親水性基が2以上である場合には、2つの親水性基を互いにメタ位の関係となるように環αに結合させてもよい。この場合、環β1および環β2の親水性基に対する立体障害によって、両親媒性分子1は、環β1および環β2の面が環αの面に対して交わる構造をとりやすくなる。
【0018】
環αには、環β1および環β2の偏在領域において両者の間に位置するように、疎水性基が結合していていもよい。すなわち、一般式(1)におけるXが疎水性基であってもよい。疎水性基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基等を含む有機基を挙げることができる。環β1および環β2の間に疎水性基を結合させることで、環β1および環β2の疎水性基に対する立体障害によって、両親媒性分子1は、環β1および環β2の面が環αの面に対して交わる構造をとりやすくなる。
【0019】
上述した両親媒性分子1としては、例えば一般式(2)で表される構造を有する分子が例示される。
【0020】
【化3】

[一般式(2)中、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面がベンゼン環の面と交わるようにベンゼン環に結合している。R〜Rは、それぞれ独立に親水性基または水素原子であり、少なくとも1つが親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【0021】
一般式(2)で表される両親媒性分子1は、上記一般式(1)において、環αがベンゼン環であり、nが3である構造に相当する。環αがベンゼン環であるため、環β1および環β2は、互いに120度の角度で環αに連結している。
【0022】
また、本実施の形態の両親媒性分子1としては、式(3)で表される構造を有する分子が例示される。
【0023】
【化4】

【0024】
式(3)で表される両親媒性分子1は、上記一般式(2)において、環β1および環β2がアントラセン環であり、互いにメタ位の関係にあるRおよびRが親水性基であり、RおよびXが水素原子である構造に相当する。2つのアントラセン環は、それぞれ9位の炭素がベンゼン環と結合している。すなわち、アントラセン環の中央のベンゼン環が環αであるベンゼン環に結合している。これにより、2つのアントラセン環と環αとしてのベンゼン環とは、立体障害により環β1および環β2それぞれの面がベンゼン環の面と直交した構造をとる。親水基は、先端にトリメチルアンモニウムイオンを有するエトキシ基である。2つの親水性基のカウンターイオンとして、2つの硝酸イオン(NO)を有する。なお、カウンターイオンは特にこれに限定されず、従来公知の種々のイオンを用いることができる。
【0025】
図2は、両親媒性分子の種々の構造例を示す図である。両親媒性分子1の多環芳香族骨格10は、湾曲型の構造を有していればよいため、様々な単環式芳香族分子および多環式芳香族分子で構成することができる。例えば、環αとしては、ベンゼン環だけでなく、ベンゼン環以外の単環式芳香族分子、ピリジン、フラン、チオフェン、ピロール等の複素環式芳香族分子等を挙げることができる。また、環β1および環β2としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、トリフェニレン、ピレン、ペンタセン、ペリレン等の多環式芳香族分子を挙げることができる。これらの多環式芳香族分子は、置換基を有していてもよい。また、環αに結合する親水性基および疎水性基としては、ミセルを形成する両親媒性分子の親水性基および疎水性基として従来公知のものを用いることができる。
【0026】
したがって、図2に示すように、本実施の形態に係る両親媒性分子集合体の構成単位としては、例えば式(3)で表される両親媒性分子(A)と、これと親水性基が異なる両親媒性分子(B1)〜(B3)(図2では、親水性基のみを図示している)と、両親媒性分子(A)と主に環αが異なる両親媒性分子(C1)〜(C2)と、両親媒性分子(A)と主に環β1および環β2が置換基を有する点が異なる両親媒性分子(D1)〜(D3)と、両親媒性分子(A)と主に環β1および環β2が異なる両親媒性分子(E1)〜(E11)等が挙げられる。これらの両親媒性分子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、図2中、両親媒性分子(D2)のRは任意の置換基であり、両親媒性分子(E10),(E11)のRはアルキル基等を含む有機基等である。
【0027】
ここで、環β1および環β2は、好ましくは発光性を有する。先に例示した多環式芳香族分子は発光性基であるため、これらを環β1および環β2として用いれば、環β1および環β2に発光性を持たせることができる。このように、両親媒性分子1自体に発光性を持たせることで、両親媒性分子1で囲まれた内部空間に発光性分子を内包させることなく、両親媒性分子集合体を発光させることができる。これにより、両親媒性分子集合体を、各種分析におけるマーカーとして利用することができ、また新たな発光性材料(発光性塗料、発光性センサー等)の開発も可能となる。また、両親媒性分子集合体は、発光性を有する環β1および環β2の分子間相互作用により、環β1および環β2の発光色とは異なる色で発光することができる。すなわち、両親媒性分子集合体には、環β1および環β2とは発光波長帯が異なる発光性を持たせることができる。
【0028】
アントラセン環は、発光性分子として広く利用されているため、環β1および環β2の好適な例として挙げることができる。アントラセン環を用いた場合、通常アントラセン環(アントラセンあるいはアントラセン誘導体)は青色に発光するが、両親媒性分子集合体は青白色に発光する。なお、アントラセン環を他の多環式芳香族分子に置き換えることで、サイズや発光性のことなる両親媒性分子集合体を自在に調整することができる。
【0029】
複数の両親媒性分子1を水等の親水性溶媒中に投入すると、疎水性相互作用により、各両親媒性分子1の湾曲型で疎水性の多環芳香族骨格10が内側を向き、親水性基20が外側を向いて集合する。そして、環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用(π−スタッキング相互作用)により、複数の両親媒性分子1が集合体を形成する。具体的には、各両親媒性分子1の環β1および環β2と、隣接する他の両親媒性分子1の環β1または環β2とがスタッキング構造をとることによって、各両親媒性分子1が互いに近接する。上述のように、環β1および環β2は、互いにメタ位の関係にあるため、多環芳香族骨格10を内側に向けて集合した複数の両親媒性分子1は、球状に集合する。その結果、複数の両親媒性分子1からなる球状の両親媒性分子集合体が形成される。すなわち、両親媒性分子集合体は、親水性溶媒中でRが親水性溶媒側を向いたミセル状構造体である。
【0030】
両親媒性分子集合体は、複数の両親媒性分子1で囲まれた内部空間を有する。すなわち、両親媒性分子集合体は、カプセル状の集合体である。具体的には、各両親媒性分子1の多環芳香族骨格10によって内部空間が形成されている。この内部空間には、種々のゲスト分子を内包させることができる。本実施の形態の両親媒性分子集合体は、環β1および環β2が疎水性相互作用およびπ−π相互作用によって集合して内部空間を形成しているため、従来のミセルに比べて内部空間のサイズをより均一にすることができるとともに、より安定にカプセル構造を維持することができる。両親媒性分子集合体は、親水性溶媒中でミセルとして存在するが、乾燥させて親水性溶媒を除去しても、そのカプセル構造を維持することができる。
【0031】
また、発光性を有する両親媒性分子集合体に発光性分子を内包させることで、両親媒性分子集合体と発光性分子との相互作用により両親媒性分子集合体および発光性分子の本来の発光色とは異なる色で両親媒性分子集合体を発光させることができる。また、内部空間に内包させる発光性分子は、吸収波長のピークが、環β1および環β2の吸収波長のピークおよび発光波長のピークと異なり、かつ両親媒性分子集合体の発光波長帯の一部と一致するものであってもよい。この場合、環β1および環β2の吸収波長の光照射によって、発光性分子を効率的に発光させることができる。これにより、内包する発光性分子の吸収波長帯の光を照射することが制限される条件下でも、発光性分子を発光させることができるため、両親媒性分子集合体の利用性をより高めることができる。
【0032】
<両親媒性分子集合体の製造方法>
まず、両親媒性分子集合体の構成単位である両親媒性分子1は、例えば以下の工程により製造することができる。図3は、両親媒性分子の合成経路を示す図である。なお、図3では、上記式(3)で表される両親媒性分子の合成経路を例示している。図3に示すように、両親媒性分子1は、例えば1,3−ジメトキシベンゼンを出発原料として、反応(I)〜(VI)の6段階の反応で収率よく大量に合成することができる。なお、各反応での生成物の単離収率は生成物の右下に記載されており、全て60%以上の単離収率であった。この合成経路では、反応(I)〜反応(II)で、環αに相当するベンゼン環に環β1および環β2に相当するアントラセン環が導入される。そして、反応(III)〜反応(VI)でベンゼン環に親水性基が導入されて、両親媒性分子1が形成される。
【0033】
得られた複数の両親媒性分子1を水等の親水性溶媒中で混合すると、環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用によって各両親媒性分子1が球状に集合してミセル状構造体を形成する。これにより、内部空間を有する両親媒性分子集合体が形成される。必要に応じて、両親媒性分子1と溶媒の混合液を加熱してもよい。
【0034】
また、内部空間に疎水性のゲスト分子を内包させる場合には、内包すべき分子を親水性溶媒に添加し、加熱する。ゲスト分子は疎水性であるため、両親媒性分子集合体の疎水性部分、すなわち内部空間に進入していく。両親媒性分子集合体は、両親媒性分子1の疎水性相互作用、分子間力、環β1および環β2の疎水性相互作用、π−π相互作用等によって、両親媒性分子1同士の相対位置が変位しながら両親媒性分子1の集合状態を維持している。そのため、ゲスト分子は、隣接する両親媒性分子1の隙間から内部空間に進入することができる。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る両親媒性分子集合体は、湾曲型で疎水性の多環芳香族骨格10と、その側面に結合した親水性基20とを有する両親媒性分子1が球状に集合した構造を有する。球体を構成する多環芳香族骨格10は、単環および多環で構成されているため、従来の直鎖状分子の集合体に比べて強固な両親媒性分子集合体を形成することができる。また、多環の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により両親媒性分子1が集合している(集合状態を維持している)ため、従来のミセルに比べて安定性の高い両親媒性分子集合体を形成することができる。これにより、臨界ミセル濃度を低減することができる。また、80℃程度の高温や、酸性あるいは塩基性の条件下でも構造を維持することができるため、より幅広い環境下での使用が可能となる。
【0036】
また、互いにメタ位の関係となるように配置した2つの多環式芳香族分子の相互作用等により両親媒性分子集合体を形成しているため、両親媒性分子集合体を均一な大きさに制御することができ、ひいては内部空間を均一な大きさとすることができる。また、環β1および環β2を発光性を有する多環とすることで、自らが発光可能な新規な両親媒性分子集合体を提供することができる。また、両親媒性分子集合体は、環β1および環β2の発光色と異なる色で発光することができる。
【0037】
例えば、環β1および環β2にアントラセン環を用いた場合、臨界ミセル濃度を従来のミセルの10分の1程度まで低減することができる。また、両親媒性分子集合体の直径は約2〜3nmであり、内部空間の直径は約1nmである。したがって、本実施の形態の両親媒性分子集合体は、従来のミセルの直径(例えば5〜20nm)に比べてより小さく、加えてより均一な大きさである。そのため、より選択性が必要とされる環境浄化や重合制御、オリゴペプチドやDNAを含む生体分子の分離・単離・精製において好適に採用することができる。また、アントラセンあるいはアントラセン誘導体は通常青色に発光するが、両親媒性分子集合体は青白色に発光する。
【0038】
また、両親媒性分子集合体は、水等の親水性溶媒中で起こる疎水性相互作用および/またはπ−π相互作用を駆動力とした両親媒性分子の自己集合によって形成される。したがって、親水性溶媒に両親媒性分子1を混合するだけで、両親媒性分子集合体を形成することができる。そのため、様々な発光性材料の開発につながる可能性を有する。また、本実施の形態の両親媒性分子集合体は、従来のミセルに比べて安定性、サイズ、発光性の点で優れているため、食品や化粧品、洗剤、環境浄化、工業材料、先端医療技術等の幅広い分野において、より好適に採用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
上述した方法により上記式(3)で表される両親媒性分子1を合成した。そして、得られた両親媒性分子1で形成された両親媒性分子集合体の形状、発光特性等について分析を実施した。
【0041】
(両親媒性分子集合体の形成)
両親媒性分子1の有機溶媒中および水中での動態を確認すべく、有機溶媒中あるいは水中で両親媒性分子1を混合したものについて、H−NMR解析を実施した。H−NMR解析は、400MHz、室温(r.t)で実施した。
【0042】
図4(A)は、水(親水性溶媒)中および有機溶媒(疎水性溶媒)中での両親媒性分子の状態を示す概念図である。図4(B)は、H−NMRスペクトルである。図4(A)の(i)は両親媒性分子1を示し、(ii)は重水素含有のアセトニトリル(CDCN)中での両親媒性分子1の状態を示し、(iii)は重水(DO)中での両親媒性分子1の状態を示している。また、図4(B)の(i)はアセトニトリル(CDCN)に2.0mMの両親媒性分子1を混合した場合の両親媒性分子1についてのH−NMRスペクトルであり、(ii)は重水(DO)中に0.25mMの両親媒性分子1を混合した場合の両親媒性分子1についてのH−NMRスペクトルであり、(iii)は重水(DO)中に2.0mMの両親媒性分子1を混合した場合の両親媒性分子1についてのH−NMRスペクトルである。また、図4(B)において符号a〜jで示すピークは、図4(A)の(i)に示す構造式中で符号a〜jで示す水素原子に対応している。
【0043】
図4(B)の(i)と(ii)および(iii)とを比較すると、a位置〜g位置にある水素原子に対応するピークが高磁場側にシフトしている。これらの水素原子は、両親媒性分子1の疎水性部分に含まれる水素原子である。一方、h位置〜j位置にある水素原子に対応するピークはほとんど変化がない。これらの水素原子は、両親媒性分子1の親水性部分に含まれる水素である。このことから、有機溶媒であるアセトニトリル中では、図4(A)の(ii)に示すように複数の両親媒性分子1が集合せずランダムに存在するが、水中では、図4(A)の(iii)に示すように集合して球状の両親媒性分子集合体1を形成することが示された。
【0044】
また、図4(B)の(ii)と(iii)を比較すると、両親媒性分子1がより高濃度(2.0mM)の場合にa位置〜g位置にある水素原子に対応するピークがより高磁場側にシフトしている。このことから、両親媒性分子1が低濃度(0.25mM)でも両親媒性分子集合体が形成されるが、濃度を高めることで両親媒性分子1がより安定な球状構造をとることが示された。両親媒性分子1の臨界ミセル濃度は、約0.001Mであった。
【0045】
(両親媒性分子集合体の構造解析)
水に両親媒性分子1を混合した混合液を平滑な基板上に塗布し、乾燥させた。そして、サンプル基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、画像解析を実施した。図5(A)は、原子間力顕微鏡(AFM)観察で得られた画像である。図5(B)は、図5(A)におけるA−B線およびC−D線に沿った凹凸を示す断面図である。図5(C)は、両親媒性分子集合体の直径と計測された個数(counts)との関係を示すグラフである。
【0046】
図5(A)に示すように、基板上には、多数の両親媒性分子集合体が形成されていた。画像中の真円に近い形状は、単独の両親媒性分子集合体であり、形状が不規則で比較的寸法の大きい形状は、乾燥時に複数の両親媒性分子集合体が会合して形成された両親媒性分子集合体の集合塊である。図5(B)に示すように、基板表面に形成された両親媒性分子集合体の高さを測定した結果、単独の両親媒性分子集合体a1〜a4については高さが2nm近傍(1.96〜2.13nm)であった。この高さは、両親媒性分子集合体の直径に相当する。また、図5(C)に示すように、高さ(直径)が2nm近傍の両親媒性分子集合体が多数計測され、その平均値davは、1.96nmであった。したがって、両親媒性分子1によって均一な大きさの両親媒性分子集合体を形成できることが示された。
【0047】
(両親媒性分子集合体の発光特性)
有機溶媒中あるいは水中に両親媒性分子1を混合した混合液について、紫外・可視分光法によるUV−vis吸収スペクトル測定、および発光スペクトル測定を実施した。図6(A)は、UV−vis吸収スペクトル測定および発光スペクトル測定のチャートである。図6(B)は、有機溶媒中の両親媒性分子および水中の両親媒性分子集合体の発光色を示す色度図である。図6(A)において、実線UV1は、水と両親媒性分子1の混合液のUV−vis吸収スペクトルであり、破線UV2は、有機溶媒としてのメタノールと両親媒性分子1の混合液のUV−vis吸収スペクトルである。また、実線E1は、水と両親媒性1の混合液の発光スペクトルであり、破線E2は、メタノールと両親媒性分子1の混合液の発光スペクトルである。発光スペクトル測定は、アントラセン環の吸収波長に含まれる370nmの光を照射して実施した。
【0048】
図6(A)に示すように、有機溶媒と水とでUV−vis吸収スペクトルに変化はないが、発光スペクトルに大きな変化が見られた。具体的には、UV−vis吸収スペクトルは、有機溶媒、水ともにアントラセンのπ−π*遷移に由来する吸収帯が観察された。一方、発光スペクトルについては、有機溶媒では400nm近傍に発光のピークが位置し、比較的シャープな発光帯が観察された。この発光帯は、アントラセンの発光波長とほぼ一致する。これに対し、水では500nm近傍にピークが位置し、400nmから650nmにかけて顕著にブロードニングした発光帯が観察された。また、図6(B)に示すように、有機溶媒(MeOH)での発光色は青色であり、xy色度図上の座標は(0.16,0.037)であった。これに対し、水(HO)での発光色は青白色(ほぼ白色)であり、xy色度図上の座標は(0.27,0.34)であった。これらのことから、有機溶媒中では互いに集合せずに存在する両親媒性分子1のアントラセン環が青色に発光し、水中では両親媒性分子1が集合した両親媒性分子集合体が青白色に発光することが示された。
【0049】
(発光性分子内包時の両親媒性分子集合体の発光特性)
図7(A)は、両親媒性分子集合体への発光性分子の内包を説明するための模式図である。図7(B)は、UV−vis吸収スペクトル測定のチャートである。図7(C)は、発光スペクトル測定のチャートである。図7(B)の(a)は、450nmから650nm近傍の領域の拡大図である。図7(B)および図7(C)において、破線1は、発光性分子を内包しない両親媒性分子集合体のスペクトルであり、太実線1Nは、ナイルレッドを内包する両親媒性分子集合体のスペクトルであり、細実線1Dは、DCM色素を内包する両親媒性分子集合体のスペクトルである。発光スペクトル測定は、水中(HO)、室温(r.t.)で、アントラセン環の吸収波長に含まれる390nmの光を照射して実施した。なお、390nmの光は、ナイルレッドおよびDCM色素の吸収波長のピークから外れる光である。
【0050】
図7(A)に示すように、両親媒性分子1と発光性分子Gとを水中で混合し、発光性分子Gを内包した両親媒性分子集合体1を形成した。発光性分子Gとしては、DCM色素およびナイルレッド(Nile Red)を用いた。そして、発光性分子Gを内包しない両親媒性分子集合体1、ナイルレッドを内包させた両親媒性分子集合体1NおよびDCM色素を内包させた両親媒性分子集合体1Dについて、紫外・可視分光法によるUV−vis吸収スペクトル測定、および発光スペクトル測定を実施した。
【0051】
図7(B)に示すように、UV−vis吸収スペクトルについては、400nm以上の領域で両親媒性分子集合体1、両親媒性分子集合体1Nおよび両親媒性分子集合体1Dに若干の違いが見られた。また、図7(C)に示すように、発光スペクトルについては、両親媒性分子集合体1Nおよび両親媒性分子集合体1は500nm近傍のほぼ同じ位置にピークを有するが、両親媒性分子集合体1Nの方が両親媒性分子集合体1よりもピークが小さく、一方で650nm近傍のスペクトル強度が大きくなった。両親媒性分子集合体1Dではその傾向が顕著に見られ、650nm近傍に大きなピークが得られた。これは、内包された発光性分子Gが、両親媒性分子集合体1の発光波長を吸収することで発光したことを示している。したがって、発光性分子Gの吸収波長のピークと異なる光を照射した場合であっても、内包した発光性分子Gを発光させられることが確認された。また、両親媒性分子集合体と発光性分子の相互作用により、それぞれの本来の発光色とは異なる色で発光させられることが示された。
【0052】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0053】
1 両親媒性分子、 10 多環芳香族骨格、 20 親水性基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構造を有する両親媒性分子を構成単位とし、
複数の前記両親媒性分子が、環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により球状に集合してなることを特徴とする多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体。
【化1】

[一般式(1)中、環αは単環式の芳香族分子を表し、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面が環αの面と交わるように環αに結合している。nは1以上の整数であって、nが1の場合Rは親水性基であり、nが2以上の場合複数のRはそれぞれ独立に親水性基または水素原子であって、少なくとも1つのRは親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【請求項2】
前記環β1および前記環β2は、発光性を有する請求項1に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項3】
複数の前記芳香族分子で囲まれた内部空間を有する請求項1または2に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項4】
前記環β1および前記環β2は、発光性を有し、
両親媒性分子の集合体は、前記環β1および前記環β2とは発光波長帯が異なる発光性を有し、
前記内部空間に内包され、吸収波長のピークが、前記環β1および前記環β2の吸収波長のピークおよび発光波長のピークと異なり、かつ両親媒性分子の集合体の発光波長帯の一部と一致する発光性分子をさらに備え、
前記環β1および前記環β2の吸収波長の光が照射されたときに前記発光性分子が発光する請求項3に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項5】
親水性溶媒中でRが親水性溶媒側を向いたミセル状構造体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項6】
前記両親媒性分子は、一般式(2)で表される構造を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の両親媒性分子の集合体。
【化2】

[一般式(2)中、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面がベンゼン環の面と交わるようにベンゼン環に結合している。R〜Rは、それぞれ独立に親水性基または水素原子であり、少なくとも1つが親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【請求項7】
前記環β1および前記環β2は、アントラセン環である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項8】
前記アントラセン環の9位の炭素が環αと結合している請求項7に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項9】
青白色に発光する請求項7または8に記載の両親媒性分子の集合体。
【請求項10】
一般式(1)で表される構造を有する両親媒性分子を構成単位とし、複数の前記両親媒性分子が環β1および環β2の疎水性相互作用およびπ−π相互作用により球状に集合してなる、多環芳香族骨格を有する両親媒性分子の集合体の製造方法であって、
複数の前記両親媒性分子を親水性溶媒中で混合することを特徴とする両親媒性分子の集合体の製造方法。
【化3】

[一般式(1)中、環αは単環式の芳香族分子を表し、環β1および環β2は多環式の芳香族分子を表す。環β1および環β2は、同一でも異なってもよく、互いにメタ位の関係となり、かつそれぞれの面が環αの面と交わるように環αに結合している。nは1以上の整数であって、nが1の場合Rは親水性基であり、nが2以上の場合複数のRはそれぞれ独立に親水性基または水素原子であって、少なくとも1つのRは親水性基である。Xは疎水性基または水素原子である。]
【請求項11】
複数の前記両親媒性分子で形成される内部空間に内包すべき分子を前記親水性溶媒に添加し、加熱して、前記分子を内包した前記両親媒性分子の集合体を形成することを含む請求項10に記載の両親媒性分子の集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60408(P2013−60408A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201691(P2011−201691)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人有機合成化学協会,社団法人日本化学会(共催者)、第46回有機反応若手の会講演要旨集(刊行物)、平成23年7月7日(発行日) 社団法人日本化学会,ホスト−ゲスト・超分子化学研究会(主催者)、第5回バイオ関連化学シンポジウム講演要旨集(刊行物)、平成23年9月12日(発行日)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】