説明

多発性硬化症を処置するためのヒアルロン酸亜鉛錯体を含む医薬組成物

本発明は多発性硬化症を処置するための医薬組成物に関し、この組成物は活性成分としてのヒアルロン酸亜鉛錯体(好ましくは800〜1200kDaの分子量を有するヒアルロン酸亜鉛錯体)と医薬上許容しうるキャリアおよび/または添加剤とからなっている。この医薬組成物の製造方法、並びに多発性硬化症を処置するためのその治療用途も本発明の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は多発性硬化症を処置するための医薬組成物に関し、この組成物は活性成分としてのヒアルロン酸亜鉛錯体と医薬上許容しうるキャリアおよび/または添加剤とからなることを特徴とする。前記医薬組成物の製造方法、並びに多発性硬化症を処置するためのその治療用途も本発明の範囲内である。
【0002】
ヒアルロナン(HA)は、式(I)の反復N−アセチルグルコサミン−グルクロン酸ジサッカライド単位で構築されたグルコサミノグリカン型のホモポリマーである:
【化1】

【0003】
HAにおいて単糖類はβ(1→3)結合であるのに対し、二糖類単位はβ(1→4)結合であって、交互のβ(1→3)およびβ(1→4)結合を有する線状多糖類を形成する。
【0004】
生物におけるHAはカチオン(通常ナトリウム)で形成された塩として生じ、その分子量は10〜20kDa〜数千kDaの範囲とすることができる。HAのグルクロン酸部分におけるカルボキシル基、並びにグルコサミンのN−アセチル基におけるカルボニルおよびアミノ基、更に存在するヒドロキシル基の存在は数個の水素架橋の形成を容易化させる。これら分子内水素結合、並びに生物系に存在するHAと水との間の相互作用を介し形成される水素架橋に基づき、HAは複雑な三次元構造を有する[C.L.ヒュー等、ヨーロピアン・ジャーナル・バイオケミストリー、第203巻、第33−42頁(1992);Q.リュー等、ジャーナル・アメリカン・ケミカル・ソサエティ、第118巻、第12276−12286頁(1996)]。その優れた水結合能力の結果として、比較的薄いHAの水溶液でさえ高い粘度を示す。水溶液において、その流動学的性質は分子の寸法に大きく依存する。たとえば1%水溶液において1000kDa分子寸法のHAは3000mPaの粘度を有するのに対し、4000kDa分子寸法のHAは同じ濃度にて400,000mPaの粘度を有する[H.B.ウイックおよびO.ウイック;ヒアルロナンの流動学、ヒアルロナンおよびその誘導体の化学、生物学および医療用途(T.C.ローレント編)、第25−32頁、ポートランド・プレス、ロンドン(1998)]。従ってHAの2つの最も重要な物理的特徴はその粘度および分子寸法である。
【0005】
細胞外マトリックスの主成分としてHAは人体の全部分に存在する。或る種の器官および組織(結合組織、皮膚、滑液、ガラス体液および血管壁)は増加量にてHAを含有する。HAの生物学的役割はその物理的性質に由来すると長い間考えられていた。たとえば、これはその流動学的性質により関節に対し機械的保護を与えうる。その優秀な水結合能力に基づき、HAはその浸透圧を介しおよび流動耐性を与えることにより、水バランスを調節することができる。更にHAは間質を充填すると共に種々異なる物理的衝撃から細胞を保護するという重要な役割を演ずる。最近の検討が示すところでは、人体に存在するHAと或る種の巨大分子との間の相互作用は数種の生理学的プロセスに結びつく。この種の巨大分子の例はプロテオグリカン(アグリカン、ベルシカン、ブレビカンなど)であって、細胞外マトリックスに位置すると共に細胞間の空間を占めて物質移動を容易化させるという主たる仕事を有する。HAとの相互作用に入る巨大分子は細胞内の膜内外蛋白質(CD44、RHAMM)、並びにシトプラスムに存在するリセプト蛋白質(C1q、P−32,TSG−6など)とすることができる。上記蛋白質を介し、HAは細胞レベルもしくは人体レベルにて生ずる幾つかの調節プロセスに重要な役割を演ずる。
【0006】
HAの分子寸法および水溶液におけるその濃度は、物理的性質の場合と同様に、生物学的作用に対し相当な影響を有する。すなわち分子の寸法に応じ、HAは同じ細胞プロセスに対しプラスもしくはマイナスの作用のいずれかを果たしうる。同様な作用の変化が、溶液のHA濃度を変化させた場合にも見られた。所望の最適作用は明らかに、両パラメータを同時に考慮した際に達成することができる[E.A.バラズス、ヒアルロナンおよびその誘導体の化学、生物学および医療用途(T.C.ローレント編)、第185−204頁、ポートランドプレス、ロンドン(1998)]。
【0007】
HAは上記生理学的プロセスにも参加するので治療の幾つかの分野(外傷治癒、慢性炎症の処置、眼科手術)にも使用して成功しうる。
【0008】
HAをヒト治療に適用しうる範囲は、上記範囲を越えて化学的に構造を改変することにより拡大することができる。この点に関し2つの主たる傾向が知られている。その1つによれば、脂肪族化合物(一般にジヒドラジド)を用いてヒドロゲルを形成させることにより、HA分子の2つの離間位置の間で架橋が達成させる。架橋は化学改変されたHAの粘弾性の増加を生ぜしめて、人体にて生ずる劣化作用に対し一層大きい耐性をもたらす。滑液を再取得すべく処置されるリューマチ性関節炎を有する患者につき或いは術後の接合を有する患者につき利点がある。他の重要な戦略においては、吸収し難い或いは作用位置まで特異的に移動し難い薬物はHA(たとえばタキソール、ピロカルピン、インシュリン)に化学結合させる。これらの場合、HAはHAに結合した活性薬物の向上した吸収をもたらすと共に、この物質がそれぞれ標的位置まで特異的に到達支援する。
【0009】
亜鉛およびコバルトで形成されたHAの錯体が欧州特許第413016号明細書(ブルガー等、1989)に記載されており、これら2種のうち亜鉛−HAが外傷処置のための組成物に活性薬物として使用される。活性薬物の更なる検討は、亜鉛の存在に基づき治療用途につき可能性が拡大されうることを示す。何故なら、亜鉛錯体はナトリウム−HA塩と比較して新たな或いは一層傑出した作用を有するからである[J.イレス等、Acta Pharm.Hung、第72巻、第15−24頁(2002)]。特に、この種の作用は亜鉛−HAの酸化防止活性の増大[Gy.T.バローグ等、アーキテク.バイオケミカル.バイオフィジオロジー、第410巻、第76−82頁(2003)];浸襲細胞により増加量にて生成される組織損傷構造(マトリックス・メタロプロテナーゼ、特にMMP−9)に対する阻止作用である一方、ナトリウム−HAは後者の作用を示さない(国際公開第00/53194号パンフレット、イレス等、1999)。亜鉛−HAの胃腸保護作用(消化性潰瘍の処置)が国際公開第98/48815号パンフレットに掲載された国際特許出願に開示されており、亜鉛−HA活性薬物の抗微生物作用が国際公開第98/10773号パンフレットに掲載された国際特許出願に記載されている。
【0010】
多発性硬化症(MS)は中枢神経系の慢性自己免疫病である。この病気は先ず最初に15歳と40歳との間で出現し、婦人における発生の割合は2倍である[デュクエッテ等、カナディアン・ジャーナル・ニューロロジカル・サイエンス、第19巻、第466−71頁(1992)]。この病気の病理学は複雑であり、幾つかの面にて不明瞭である。遺伝的感受性および免疫学的プロセスの障害と言う明瞭な証拠も存在するが、環境因子(たとえば或る種のウィルス感染)の役割は不確定である[スチピンドンク等、ジャーナル・ニューロイミュノロジー、第105巻、第46−57頁(2000)]。病気の臨床形態は大いに変化し、これら場合の殆どは再発性−寛解性型であり、全てが同じである。MS、すなわち感覚器官および運動器官、並びに自律神経系の障害により現れる神経退化症がゆっくり発現して精神および感情能力を阻害し、最終的に重度の不能をもたらす。組織病理学は最初に中枢神経系における炎症の中心を示し、この脱髄鞘および軸索の劣化が生ずる[エウイング等、イミュノロジカル・セル・バイオロジー、第76巻、第47−54頁(1998)]。持続性の臨床徴候は髄鞘の劣化およびオリゴデンドロサイトの劣化により誘発されて複数の神経障害をもたらす[フュー等、ブレイン、第121巻、第103−113頁(1998)]。医薬における現在の知識状態によれば、MSは治癒可能な病気である。日常の慣行において、病気の過程を変化させる非特異的免疫抑制物質(コルチコステロイド、シトスタティック剤)または一層特異的な組成物(β−インタフェロン、グラチラマーアセテート)が使用される。しかしながら、これら医薬の適用性は、効果の低さおよび重度の副作用により制限される。
【0011】
現在まで11種の薬剤が市販されており、これらは病気の過程を改変しうると共に臨床試験が24種の組成物で行われている。2種の最も進歩した組成物、すなわちコパクソン(コポリマー−1またはグラチラマーアセテート)およびレビフもしくはアボネックス(インタフェロンβ−1a)、並びにインタフェロンβ−1bは病気の1つの形態(いわゆる良性もしくは再発性−感受性型)にのみ有益であり、病気の更なる形態は一次的および二次的進行型、並びに悪性MSであり[オッテン等、多発性硬化症に対する薬剤処置の比較、オッタワ:カナディアン・コーディネイティング・オフィス・フォア・ヘルス・テクノロジー・アセスメント(1998);パーキン等、ヘルス・テクノロジカル・アセスメント、第2(4)巻(1998)]、これらは約20〜30%だけ再発の頻度を減少させうる[カーン等、CNSドラッグス、第16(8)巻、第563−578頁(2002)]。更に組成物の両者は幾つかの望ましくない副作用を有する。インタフェロンβ−1を含有する組成物の場合、インフルエンザ様徴候、皮膚反応および腹部疼痛(皮下投与の結果として)が生じ更に血液ピクチャーの障害、肝臓酵素のレベル増大、並びに個人的障害も生じうる[エバー等、ランセット、第352巻、第1498−1504頁(1998);ヤコブス等、多発性硬化症、第1巻、第118−135頁(1995)]。コポリマー−1の場合、最大の特徴的副作用はここでも皮膚反応および局部疼痛(皮下投与の結果として)が生じ、顔面の赤化、胸部における圧力、心悸亢進および呼吸過多も生じうる[ジョンソン等、ニューロロジー、第45巻、第1268−1276頁(1995);ボルンスタイン等、N.Engl.J.Med、第317巻、第408−414頁(1987)]。これら薬剤は多かれ少なかれCNSにて生ずる炎症(病気の一次形態)を減少させるが、これらは病気の進行に影響しない[クレッグ、ヘルス・テクノロジカル・アセスメント、第4(9)巻(2000)]。
【0012】
多発性硬化症の臨床検査の目的で用いうる唯一の充分かつ広範に使用されるモデルは実験的自己免疫エンセファロミエリチス(EAE)[モクハタリアン等、ネイチャー、第309巻、第356−358頁(1984);ライネ等、ラボラトリー・インベスティゲーション、第31巻、第369−380頁(1974)]。すなわちCD4T−リンパ球により伝達される中枢神経系の炎症病である。このモデルの臨床の複雑性は検査した病気と比較して中庸であるが、その使用はMSを目的とした研究にて不可避である。コポリマー−1(コパキソン)およびインタフェロンβ−1の臨床試験は既にヒト治療につき承認され、更に新規な薬剤の臨床試験が開発下にこのモデルを用いて行われた[ポポビック等、アニュアル・ニョーロロジー、第51巻、第215−223頁(2001);ステンスラウス等、ニューロサイエンス・レタース、第333巻、第167−170頁(2002)]。数種のEAEモデルのうち、脱腎(すなわちMSの特徴)を試験すると共に免疫学的プロセスを検討する両者につき最も適すると証明されたのは慢性の再発性−寛解性型(CR EAE)である。病気の臨床過程と同様に、CR EAEはMSに特に匹敵する[ウエケルレ等、アニュアル・ニューロロジー、第36巻、第47−50頁(1994)]。この理由で、本発明の実験にてミエリン・オリゴデンドロサイト・グリコプロテイン(MOG)により誘発されるCR EAEがマウスで検討された[アモール等、ジャーナル・イミュノロジー、第153巻、第4349−4356頁(1994)]。1960年代の中頃、ヒアルロン酸ナトリウム塩の作用がローマ人の研究者によりEAEモデルにつき検討された。彼らは、筋肉内投与されたNa−HA塩が阻害性でなく、或る場合にはウサギにてEAEの発生を増長することを突き止めた[スザボ等、(1966)、Patol.Fiziol.Eksp.Ter.、第10(5)巻、第41−44頁;モスコルシー等、(1965)、Stud.Cercet.Neurol、第10(5)巻、第493−497頁)]。いずれも筋肉内もしくは経口投与された種々異なる亜鉛塩で行ったEAEモデルにて検査の成功を示さなかった[シファー等、(1996)、J.Trace.Elem.Exp.Med.、第9(1)巻、第1−9頁;ペンコワおよびヒダルゴ(2000)、グリア、第32(3)巻、第247−263頁]。
【0013】
国際公開第97/11710号パンフレットに掲載された国際特許出願には、免疫学的プロセスに対する影響に関する試験が開示されている。これら試験はNa−ヒアルロン酸塩、ヒアルロン酸および種々異なる分子量を有するその結合体を用いる。特にマウスT−細胞の増殖、並びにグラフト対ホスト反応における阻止作用も検証され、ここでマウスの他の種類のドナーから採取された心筋組織のグラフトが使用された。多発性硬化症におけるそれぞれヒアルロン酸およびヒアルロン酸ナトリウムの可能な用途が明細書に挙げられているが、この仮説を支持する実験的証左は存在しない。更に本発明者等は、ヒアルロン酸とナトリウム塩(ヒアルロン酸ナトリウム)との間で形成された結合体を試験して上記記載をチェックしたが、この出願の表4に示されるようにMSにつき特異的であるEAEモデルに対する影響は何ら示されなかった。
【0014】
一方では従来技術の薬剤が有害な副作用を有すると共にNa−HA塩が無効果であることを考慮し、他方ではZn−HA錯体が種々異なる治療分野にて有望な結果を与えることを考慮して、本発明の目的は特に匹敵しうるEAE動物モデルを用い、MSにつきZn−HA錯体を試験することであった。
【0015】
驚くことに、Na−HAおよびZn2+の両者は単独では無効果であったが、異なる分子量を有するZn−HAの種々の投与はモデル動物で誘発されるEAEを阻止したことを突き止めた。最適条件におけるこの作用は顕著であった。
【0016】
従って本発明は多発性硬化症を処置するための医薬組成物に関し、この組成物はヒアルロン酸亜鉛錯体、好ましくは800〜1200kDaの分子量を有するヒアルロン酸亜鉛錯体を活性成分として含むと共に、医薬上許容しうるキャリアおよび/または添加剤を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の他の課題は、ヒアルロン酸亜鉛錯体活性薬物を医薬に常用されるキャリアおよび/または添加剤と一緒に含有する混合物を形成させて組成物を得ることからなる医薬組成物の製造方法である。前記医薬組成物は好ましくは溶液、好適には注射もしくは還流のための溶液である。
【0018】
本発明の更なる課題は、多発性硬化症を処置する医薬品の製造のためのヒアルロン酸亜鉛錯体の使用である。
【0019】
本発明の更に他の課題は多発性硬化症の処置方法であり、ここでヒアルロン酸亜鉛錯体またはこれを含有する組成物の治療上有効量がこの種の処置を必要とする患者に投与される。前記処置は、たとえば800〜1200kDaの分子量を有するヒアルロン酸亜鉛錯体を用いて静脈内投与を介し行うことができる。
【0020】
本発明の実験において、種々異なる投与量における種々異なる分子量を有するZn−HA錯体はEAEモデルに投与されるサブカテイン(s.c.)であり、動物をEAEが誘発された5日〜22日間後に阻止作用につき試験した。すなわち4種の異なる平均分子量(10、50、200および800〜1200kDa)のZn−HA錯体(後者は、ここではHMWと称する)を3種の異なる投与量(1、10および50mg/kg)で試験して、どの分子量およびどの投与量のZn−HAが選択種類のEAEモデルにて最適作用を示すかを決定した。その結果を下表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
阻止の程度および平均からの偏差の両者を考慮して、10mg/kg投与量におけるHMW Zn−HA錯体が最も効果的であった(41.3±7.1%阻止)。
【0023】
次いで、臨床的徴候の出現時点に関するHMW Zn−HA(生理食塩水の200μlにおける10mg/kg、皮下)の可能な作用を検討した。
【0024】
2種類の処置を用いてマウスの群(n=6〜10マウス/1群)につき試験を行った:(i)予防、ここでは投与をMOGの接種の5〜22日間後に或いはその9−10〜28日間後に(表2および3には#印で標識)投与を行い;更に(ii)治療処置、ここではZn−HAの投与をEAEが誘発された13〜28日間後に行った(表2および3には*印で標識)。
【0025】
効果を確認するため、9回の独立した試験を表2および3に示した結果と共に行った。マウスには10mg/kgのHMW Zn−HAをs.c.にて毎日投与し、その臨床データをそれぞれEAEが誘発された10〜28日後および5〜22日後に得た。これらの結果を平均1日臨界データから計算して、平均合計臨床データ(ASC)を得た。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
表2および3は、10mg/kg s.c.投与量におけるHMW Zn−HAの投与により誘発EAEの重度の臨床徴候における顕著な阻止が達成され(41.3±7.1%阻止および12.1ASC値がp<0.004にてマン−ホイットニーUテストにより得られた)、更に臨床徴候の発生率も22%だけ減少した(錯体につき68.6%および対照につき88%、t試験によるp<0.012にて)。他方、処置のタイミング(予防であるか或いは治療であるか)は、EAEにつき行われたZn−HAの作用にて顕著な変化を生じなかった。
【0029】
前記諸実験にて、本発明者等はHMW Zn−HAとは異なり10mg/kgのHMW Zn−HA(すなわち0.8mg/kgのZn2+)に相当する量にてZn2+を含有する塩化亜鉛がEAEモデルにつき顕著な効果を示さなかったことを突き止めた。更に本出願の導入部分にも記載したように、Na−HAも示さなかった(その結果については下表4参照)。
【0030】
【表4】

【0031】
本発明によるZn−HA錯体活性薬物を含有する医薬組成物は通常の慣用ルートにて(たとえば経口的、非経口的、経口粘膜を介し、舌下、鼻粘膜を介し、肛門経由、経皮、静脈内(還流)または筋肉内)で投与することができる。経口投与の目的の医薬組成物は液体または固体、たとえばシロップ、懸濁液、乳液、錠剤、カプセルおよびロゼンジの形態とすることができる。たとえば懸濁液もしくは溶剤のような液体組成物は、適する液体キャリア中に(たとえば水性溶剤(たとえば水、エタノールもしくはグリセリン)中に或いは非水性溶剤(たとえばポリエチレングリコールもしくはオイルまたはその混液)中にZn−HA錯体活性成分を含有する。この組成物は更に懸濁剤、保存料、香料もしくは着色料をも含有することができる。医薬組成物を錠剤の形態で作成する場合、固体組成物の作成につき便利に使用される適するキャリヤを使用することができる。この種のキャリアの例はステアリン酸マグネシウム、澱粉、乳糖、蔗糖、セルロースなどである。
【0032】
カプセル形態の固体組成物はそれ自体公知の方法で作成することができる。たとえば、活性成分を公知のキャリアと一緒に含有するピルを硬質ゼラチンカプセルに充填することができ、或いは活性薬物と医薬品に便利に使用される任意のキャリア(たとえばアラビヤゴム、セルロース、シリケートもしくはオイル)との分散物もしくは懸濁物を軟質ゼラチンにカプセル化することができる。
【0033】
典型的な非経口組成物は、Zn−HA錯体と非経口用途につき許容しうる無菌の水性キャリアもしくはオイル(たとえばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、アラキ油(ピーナッツ油)およびごま油)とを含有する溶液もしくは懸濁液である。他の方式によれば、得られる溶液を凍結させると共に使用直前に適する溶剤に再溶解させる。
【0034】
鼻粘膜を介し投与するための組成物はエアロゾル、ドロップ、ゲルもしくはダストを与えるべく、それ自体公知の方法で処方される。エアロゾル組成物は活性成分を医薬上許容しうる水性もしくは非水性溶剤に活性成分を溶解型または微分散型にて含有し、次いでこれを無菌条件下で容器に充填する。前記容器はノズルを装着したカセットもしくは容器とすることができ、単一量もしくは複数量を含有することができる。口腔粘膜を介し投与するための或いは舌下吸収させるための組成物は錠剤、ピルもしくはパスチル型とすることができる。これら組成物は活性成分をたとえば砂糖、アラビヤゴム、トラガカントガム、ゼラチン、グリセリンなどのようなキャリアと一緒に含有する。
【0035】
肛門用途のための組成物は座薬の形態でそれ自体公知の方法にて作成され、これは活性成分の他にキャリア(一般にココア脂)をも含有する。塗布用途の組成物はたとえば軟膏、ゲルおよびプラスタである。
【0036】
検査の目的で、Zn−HA活性薬物を生理食塩水に溶解させると共に0.1〜5mg/mlの濃度範囲にて使用した。
【0037】
更に、緩衝液により生理学上許容しうる数値に維持されたpHにて生理学上許容しうる濃度でZn−HA活性成分を含有する水溶液を使用することができる。生理学上許容しうると共に活性成分が適正に可溶性である他の非水性溶剤も使用することができる。この種の溶剤の例はエタノール、プロピレングリコール、動物および植物油など、並びにその水性混液である。この種の溶液はZn−HAを0.01〜100重量%の濃度範囲にて含有することができる。
【0038】
活性成分の能力に対し直接的影響を持たない添加剤も用いることができる。この種の添加剤の例は緩衝溶液、保存料および吸収を支援する添加剤である。水溶性保存量の例は重亜硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ベンズアルコニウム、クロルブタノール、チメロサール、メチルパラデン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコールなどである。水溶液におけるこの種の添加剤の濃度は0.001〜5重量%とすることができる。水溶性緩衝剤の例は炭酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどである。水溶液におけるこれら添加剤の最大濃度は、活性成分の濃度と比較して5重量%とすることができる。
【0039】
実施例1
表1〜4に要約した検討において、EAEモデルとして使用した各マウスには200μl s.c.の注射をそれぞれ接種し、注射液は活性成分もしくはキャリア(0.9%塩化ナトリウム水溶液)を含有した。mg/kg(体重)にて投与する投与量を得るため、種々異なる濃度の上記溶液を次のように作成した:
1mg/kg投与量につき:
1000mlの溶液当たり0.1gの活性成分(Zn−HA錯体、Na−HAもしくはZn−Cl)を含有する溶液組成物を作成した;たとえば
0.1gのZn−HA錯体、および
1000mlまでの蒸留水における0.9%の塩化ナトリウム溶液。
10mg/kg投与量につき:
1000mlの溶液当たり1.0gの活性成分(Zn−HA錯体、Na−HAもしくはZn−Cl)を含有する溶液組成物;たとえば
1.0gのZn−HA錯体、および
1000mlまでの蒸留水における0.9%の塩化ナトリウム溶液。
50mg/kg投与量につき:
1000mlの溶液当たり5.0gの活性成分(Zn−HA錯体、Na−HAもしくはZn−Cl)を含有する溶液組成物;たとえば
5.0gのZn−HA錯体、および
1000mlまでの蒸留水における0.9%の塩化ナトリウム溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸亜鉛錯体を単独でまたは医薬上許容しうるキャリアおよび/または添加剤と一緒に含むことを特徴とする多発性硬化症の処置のための医薬組成物。
【請求項2】
ヒアルロン酸亜鉛錯体が800〜1200kDaの分子量を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
溶液の形態である請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
好ましくは皮下、筋肉内もしくは静脈内投与のための注射液の形態である請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ヒアルロン酸亜鉛錯体活性薬物を医薬に常用されるキャリアおよび/または添加剤と一緒に含有する混合物を形成させて組成物を得ることを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項6】
作成される医薬組成物が溶液である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
作成される医薬組成物が注射液もしくは還流液である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ヒアルロン酸亜鉛錯体またはこれを医薬上許容しうるキャリアおよび/または添加剤と一緒に含有する医薬組成物の多発性硬化症を処置するための使用。

【公表番号】特表2007−512311(P2007−512311A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540634(P2006−540634)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際出願番号】PCT/HU2004/000107
【国際公開番号】WO2005/049047
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(591180314)リヒター ゲデオン ベジェセティ ジャール アール.テー. (33)
【Fターム(参考)】