説明

多糖類誘導体の製造方法

【課題】より均質な多糖類誘導体を、工業的に有利に製造する方法の提供。
【解決手段】回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置を用いて、塩基性触媒の存在下、多糖類と反応性官能基を有する化合物とを反応させる工程を有する、粉末状多糖類誘導体の製造方法。フッ素樹脂の被覆箇所は、主軸3の全表面、回転翼4の全表面、主軸3の先端に設けられた回転翼に対応する側板6の内表面である。得られる粉末状多糖類誘導体としては、セルロース誘導体、特に、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類の水酸基の一部又は全てに置換基を導入した多糖類誘導体は、様々な化粧料、トイレタリー製品等に用いられる有用な化合物である。このような多糖類誘導体の製造法として、例えば、特許文献1及び2が知られている。
特許文献1には、水酸化アルカリ金属の存在下で、セルロース及びエチレンオキシドを反応させてヒドロキシアルキルセルロース誘導体を製造する方法において、反応器上部にバッフルが設置された、特殊な水平撹拌型反応器を用いる方法が開示されている。
特許文献2には、低結晶性の粉末セルロースを、触媒の存在下でグリシジルトリアルキルアンモニウム塩と反応させる、カチオン化セルロースの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−523198号公報
【特許文献2】特開2009−102587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2等において、セルロース等の多糖類に置換基を導入して多糖類誘導体を製造する際、得られる多糖類誘導体に塊状物が発生したり、得られた多糖類誘導体の品質が反応系内において不均一になる(バラツク)という問題があった。
本発明は、より均質な多糖類誘導体を、工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、反応器の一部をフッ素樹脂で被覆することで上記課題が大幅に改善されることを見出した。
すなわち、本発明は、回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置を用いて、塩基性触媒の存在下、多糖類と反応性官能基を有する化合物とを反応させる工程を有する、粉末状多糖類誘導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、より均質な多糖類誘導体を、工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の粉末状多糖類誘導体の製造方法は、回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置を用いて、塩基性触媒の存在下、多糖類と反応性官能基を有する化合物とを反応させる工程を有する。
ここで、「粉末状」とは、水分含有量が少ない流動性を有する粉末状であることを意味し、具体的には、水分含有量が好ましくは50質量%以下、より好ましくは0.1〜40質量%、更に好ましくは0.5〜30質量%、更により好ましくは1〜20質量%であることを意味する。
【0009】
[機械撹拌式混合装置]
本発明においては、原料多糖類に対してせん断、転動、圧密作用等を効果的に付与するために、機械撹拌式混合装置を用いる。機械撹拌式混合装置とは、固定された容器の中の粉体に撹拌翼の回転、振動を与えて混合を行う装置をいう。
機械撹拌式混合装置は、粉末状の多糖類誘導体を得るに際し、原料多糖類、塩基性触媒、及び反応性官能基を有する化合物を均一に混合できるものが好ましい。また、反応性官能基を有する化合物の反応速度の観点から、密閉性が高く、加圧操作の可能なものが好ましく、脱水操作や気相置換操作の観点から、減圧操作の可能なものが好ましい。
【0010】
機械撹拌式混合装置としては、(i)リボン型混合機、(ii)パドル型混合機、(iii)円錐遊星スクリュー型混合機等が挙げられる。
(i)リボン型混合機とは、固定容器内で、スパイラルを形成したリボン状の撹拌羽根を低速回転させる混合機である。例えば、リボンミキサー(槇野産業株式会社製)、バッチニーダー(佐竹化学機械工業株式会社製)、リボコーン(株式会社大川原製作所製)等が挙げられる。
(ii)パドル型混合機とは、混合槽内部に撹拌軸を有し、この軸に撹拌羽根を取り付けて粉末の混合を行う装置であり、水平軸型の混合機と垂直軸型の混合機とがある。
水平軸型の混合機としては、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)、プロシェアミキサー(大平洋機工株式会社製)、アペックス・グラニュレーター(大平洋機工株式会社製)、スパルタンリューザー(株式会社ダルトン製)、スーパーミキサー(株式会社カワタ製)等が挙げられる。
垂直型の混合機としては、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、ハイスピードミキサー(深江工業株式会社製)、SPG混合機(株式会社ダルトン製)、バーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック製)、ハイフレックスグラル(株式会社アーステクニカ製)、ニュースピードニーダー(岡田精工株式会社製)、アミクソンミキサー(amixson GmbH製)等が挙げられる。
(iii)円錐遊星スクリュー型混合機とは、逆円錐型容器に撹拌羽根として自転公転するスクリューを取り付けた混合機である。例えば、ナウターミキサー(ホソカワミクロン株式会社製)、SVミキサー(株式会社神鋼環境ソリューション製)等が挙げられる。
これらの機械撹拌式混合装置については、例えば、粉体機器・装置ハンドブック(粉体機器・装置ハンドブック編集委員会編、日刊工業新聞社)等に記載されている。
【0011】
これらの中では、せん断力が得られやすく混合効率が良いという点で、(ii)パドル型混合機が好ましく、スケールアップ時のデッドスペースができにくく、撹拌羽根によるせん断力によって発生する摩擦熱が蓄熱しにくいという観点から、パドル型混合機の中でも水平軸型混合機が好ましい。
さらに、混合機の回転翼には、回転翼(主翼)の回転により原料多糖類を跳ね上げるように傾けた跳ね上げ面を設けることが好ましく、回転翼(主翼)の他にチョッパー翼(副翼)を有する混合機がより好ましい。
具体的には、チョッパー翼を有する水平軸型のパドル型混合機であるレーディゲミキサー(株式会社マツボー製;特徴的なスキ状ショベルを用いる混合機、チョッパー翼を設置可能)、プロシェアミキサー(大平洋機工株式会社製;独自形状のショベル翼による浮遊拡散混合と多段式チョッパー翼による高速剪断分散の2つの機能を備えた混合機)が特に好ましい。
【0012】
本発明において好適に用いられる機械攪拌式混合装置の一例を図1により説明する。
図1は、回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置の一実施形態を示す断面模式図である。図1において、1はレーディゲミキサー、プロシェアミキサー等の機械攪拌式混合装置、2は混合装置の本体容器、3は回転翼の主軸、4は回転翼(主翼)、5はチョッパー翼(副翼)、6は本体容器の側板、7は原料投入口、8は排出口であり、M1は回転翼の主軸の駆動モータ、M2はチョッパー翼の駆動モータである。
本体容器2の外周壁にはジャケットが設けられており、循環水(温水又は冷水)を通水して、本体容器2の温度調節ができるように構成されており、W1は循環水入口、W2は循環水出口である。温度調節装置としては、エネルギー費用、伝熱効率、加熱ムラが少ないといった点から、図1に示すジャケットによる加熱又は冷却方式が好ましいが、電熱ヒーターによる加熱方式等を用いることもできる。
【0013】
本発明で用いられる機械攪拌式混合装置においては、回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆されている。図1において、主軸3がフッ素樹脂で被覆されており、その他に、回転翼4の表面もフッ素樹脂で被覆されていることが好ましく、本体容器の側板6の内表面も被覆されていることが更に好ましい。必要に応じて本体容器の胴部の内表面などを含む機械攪拌式混合装置の接粉部の全てが被覆されていてもよい。
このように構成することにより、反応原料(多糖類)及び反応物(多糖類誘導体)は主軸3及び回転翼4には付着せず、本体容器2内の拡散の均質性が大幅に改善される。
【0014】
原料(多糖類、塩基性触媒、及び反応性官能基を有する化合物)は、機械攪拌式混合装置1の本体容器2の上部の原料投入口7より投入されると、回転翼4、及び回転翼4の主軸3と垂直方向の回転軸を有するチョッパー翼5により撹拌混合され、反応が進行する。
回転翼4の周速(翼先端の移動速度=主翼径×円周率×回転数)は特に限定されないが、好ましくは0.1〜20m/s、より好ましくは0.2〜10m/sであり、チョッパー翼6の回転数は、好ましくは1000〜4000RPM、より好ましくは1200〜3600RPM、更に好ましくは1500〜3600RPMである。
回転翼4は反応原料及び反応物を撹拌すると共に、それらを円筒形状の本体容器2の壁方向に拡散する。反応原料及び反応物は、同時に、壁内側に設けられたチョッパー翼5により細かく解され、本体容器2内で均一に分散される。この結果、多糖類と反応性官能基を有する化合物との反応は、均質状態で進行し、均質な多糖類誘導体を、工業的に有利に製造することができる。
【0015】
<フッ素樹脂被覆>
回転翼の軸部に被覆されるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)の他、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化樹脂共重合体が挙げられる。これらの中でも、被覆表面の帯電を防止するために、FEP、PFA等に導電性を持たせたフッ素化樹脂共重合体が好ましい。
フッ素樹脂は、前記のとおり、機械攪拌式混合装置の回転翼の軸部に被覆されており、その他に、回転翼4の表面も被覆されていることが好ましく、本体容器の側板6の内表面も被覆されていることが更に好ましい。必要に応じて本体容器の胴部の内表面などを含む機械攪拌式混合装置の接粉部の全てが被覆されていてもよい。
回転翼の軸部等にフッ素樹脂被覆を施す方法に特に制限はなく、常法により行うことができる。フッ素樹脂被覆に先立って、有機溶剤等で被覆部分を完全に脱脂し、さらにブラスト等により粗面処理をするのが好ましい。
【0016】
[塩基性触媒]
本発明で用いられる塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類が挙げられる。これらの中では、反応促進と取扱い性の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。
これらの塩基性触媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
<多糖類>
本発明において原料として用いられる多糖類に特に制限はない。例えば、セルロース、グアーガム、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルグアーガム、ヒドロキシエチルスターチ、メチルセルロース、メチルグアーガム、メチルスターチ、エチルセルロース、エチルグアーガム、エチルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルグアーガム、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルグアーガム、ヒドロキシエチルメチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルグアーガム、ヒドロキシプロピルメチルスターチ等が挙げられる。これらの中では、セルロースがより好ましい。
【0018】
<多糖類誘導体>
本発明において、原料である「多糖類」には、セルロース等の多糖類に低級アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基等が置換した多糖類誘導体も包含される。多糖類誘導体のメチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等の置換基は、単一の置換基で置換されたものでもよいし、複数の置換基で置換されたものでもよい。
多糖類誘導体としては、例えば、カチオン化セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
多糖類誘導体、例えばカチオン化セルロースは、低結晶性セルロースを、前記の塩基性触媒の存在下で、カチオン化剤と反応させることにより得ることができる。
ここで、低結晶性セルロースとは、下記式(1)で表わされる結晶化指数が、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは10〜0%であるセルロースを意味する。
結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
通常の粉末セルロースは、少量のアモルファス部を有し、それらの結晶化指数は、上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲にあるいわゆる結晶性セルロースである。
低結晶性セルロースの調製方法は特に限定されない。例えば、特開昭62−236801号公報、特開2003−64184号公報、特開2004−331918号公報、特開2010−37526号公報、特開2010−47622号公報等に記載の方法を挙げることができる。これらの中では、容器駆動媒体ミル、又は媒体攪拌式ミル等の媒体式粉砕機を用いた粉砕処理により結晶化指数を低下させることが、操作が簡便であり好ましい。容器駆動式粉砕機としては転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられる。
【0019】
前記の原料多糖類の質量平均分子量は、好ましくは1万〜300万、より好ましくは5万〜200万、更に好ましくは10万〜100万の範囲である。
これら原料多糖類は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
原料多糖類は、水分含有量が少ない粉末状のものが好ましく、原料多糖類の水分量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0020】
[反応性官能基を有する化合物]
反応性官能基を有する化合物としては、特に限定されないが、エポキシ基を有する化合物が好ましく用いられる。
その具体例としては、下記(a)〜(f)の化合物が挙げられる。
(a)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するグリシジルエーテル
(b)炭素数2〜10のエポキシアルカンスルホン酸又はその塩
(c)炭素数3〜10のエポキシ脂肪酸又はその塩
(d)炭素数2〜10のエポキシアルキルアミン又はこれから誘導されるアンモニウム塩(e)炭素数2〜10のエポキシアルキルリン酸エステル又はその塩
(f)炭素数2〜5の酸化アルキレン
これらの中では、(d)炭素数2〜10のエポキシアルキルアミン又はこれから誘導されるアンモニウム塩、又は(f)炭素数2〜5の酸化アルキレンが好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムブロミド、グリシジルトリエチルアンモニウムブロミド等の炭素数1〜3、好ましくはメチル基又はエチル基を有するグリシジルトリアルキルアンモニウム塩、又は酸化エチレン、酸化プロピレンがより好ましい。
前記の塩基性触媒の存在下において、反応性官能基を有する化合物だけではなく、それらの反応性官能基を形成する化合物も好ましく用いられる。該化合物としては、例えば、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0021】
前記の反応性官能基を有する化合物を用いると、下記(A)〜(F)で表される基から選ばれる1種以上の置換基で置換された多糖類誘導体を得ることができる。
(A)炭素数13〜43のアルキル又はアルケニルグリセリルエーテル基
(B)水酸基を有する炭素数2〜10のスルホアルキル基又はその塩
(C)水酸基を有する炭素数3〜10のカルボキシアルキル基又はその塩
(D)水酸基を有する炭素数2〜10のアミノアルキル基又はアンモニウムアルキル基
(E)水酸基を有する炭素数2〜10のリン酸アルキル基又はその塩
(F)水酸基を有する炭素数2〜5のアルキル基(好ましくは、ヒドロキシエチル基、又はヒドロキシプロピル基)
【0022】
[溶媒]
本発明において溶媒を使用する場合、その種類は特に限定されない。例えば、水、非水溶媒(有機溶媒及び無機溶媒)等を用いることができるが、水がより好ましい。
水以外の非水溶媒としては、例えば、イソプロパノールやtert−ブタノール等の2級又は3級の低級アルコール、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のエーテル、ジメチルスルホキシド等の親水性溶媒等が挙げられる。
【0023】
[各成分の使用量等]
<塩基性触媒の使用量等>
本発明における塩基性触媒の使用量は、特に限定されないが、原料多糖類としてセルロースを使用する場合は、セルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜5モル倍が好ましく、0.05〜2.5モル倍がより好ましく、0.2〜2.0モル倍が更に好ましく、0.4〜1.2モル倍がより更に好ましい。
塩基性触媒は、高純度のものをそのまま用いてもよく、水等の溶媒中に溶解した溶液として用いてもよい。また、塩基性触媒の添加方法は、一括添加、分割添加、連続的添加、又はこれらの組合わせで行うことができる。これらの中では、原料多糖類を撹拌しながら、塩基性触媒を分割又は連続的に添加して、塩基性触媒を原料多糖類に対し均一に分散させながら反応させる方法が好ましい。
【0024】
<反応性官能基を有する化合物の使用量>
反応性官能基を有する化合物の使用量は、多糖類への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。反応性官能基を有する化合物は、通常、セルロース分子中のグルコース単位当たり、好ましくは0.0001〜10モル倍、より好ましは0.001〜8モル倍、更に好ましくは0.01〜5モル倍の範囲で使用することができる。
【0025】
<溶媒の使用量>
本発明における溶媒の使用量は、反応により得られる粉末状の多糖類誘導体が、好ましくは25質量%以下、より好ましくは0.1〜22質量%、更に好ましくは0.5〜20質量%、より更に好ましくは1〜15質量%、特に好ましくは1.5〜13質量%になる量で使用される。溶媒の使用量を上記範囲にすることで、多糖類誘導体の生産性の向上のみならず、原料多糖類を粉末状態に維持できるため、効率の良い撹拌が可能となる。また、反応性官能基を有する化合物としてカチオン性基を有する化合物を使用した場合、当該化合物の分解や溶媒との副反応を抑え、効率の良いカチオン化反応を進行させることができる。
原料多糖類に対する溶媒量が、上記範囲を越える場合には、昇温・減圧等、通常の脱水操作を行って、上記範囲に調整することができる。これら脱水操作は、塩基性触媒及び反応性官能基を有する化合物の水溶液の反応装置内への導入が終わった後に行ってもよいが、これらの水溶液の反応装置内への導入と同時に行うこともできる。
【0026】
[多糖類誘導体]
本発明で得られる粉末状多糖類誘導体は、セルロース等の原料多糖類の水酸基(−OH)の水素原子の一部又は全部と反応性官能基を有する化合物とが反応して、該部位が反応性官能基を有する化合物の置換基と置換したものとなる。
得られる粉末状多糖類誘導体の水分含有量は、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは4〜40質量%、更に好ましくは7〜35質量%である。
多糖類誘導体の具体例としては、カチオン化セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく挙げられる。
【0027】
(カチオン化セルロース)
カチオン化セルロースは、低結晶性の粉末セルロースを、前記の塩基性触媒の存在下で、前記のグリシジルトリアルキルアンモニウム塩と反応させることにより得ることができる。
カチオン化剤は、セルロースの流動性を保持して粉末状態で反応させる観点から、必要に応じて反応時又は反応前に脱水して、反応系内のセルロースに対する水分含有量を調整することが好ましい。
グリシジルトリアルキルアンモニウム塩の使用量としては、好ましくはセルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜3モル倍であり、カチオン化セルロースとしての性能や反応後の脱水効率の観点から、0.05〜2モル倍となるのがより好ましい。
カチオン化の触媒としては、前記の塩基性触媒等を用いることができる。触媒の使用量は、特に制限はないが、セルロース分子中のグルコース単位あたり、通常0.01〜5モル倍、好ましくは0.05〜2.5モル倍、より好ましくは0.2〜2.0モル倍、更に好ましくは0.4〜1.2モル倍に相当する量である。
カチオン化の反応温度は、好ましくは0〜150℃、より好ましくは10〜100℃、更に好ましくは20〜80℃である。反応は常圧下又は加圧下で行うことができる。また、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0028】
(カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース)
一つの実施形態においてカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースは、粉末状態を保ちながら、カチオン化セルロースを酸化プロピレンと反応させてヒドロキシプロピル化することにより得ることができる。酸化プロピレンの使用量は、セルロース分子中のグルコース単位当たり0.01〜3モル倍が好ましく、0.1〜2モル倍がより好ましい。
ヒドロキシプロピル化の触媒としては、前記の塩基性触媒等を用いることができる。触媒の使用量は、特に制限はないが、セルロース分子中のグルコース単位あたり、通常0.01〜5モル倍、好ましくは0.05〜2.5モル倍、より好ましくは0.2〜2.0モル倍、更に好ましくは0.4〜1.2モル倍に相当する量である。
ヒドロキシプロピル化の反応温度は、酸化プロピレン同士が重合するのを避け、かつ急激な反応を抑制する観点から、好ましくは0〜150℃、より好ましくは10〜100℃、更に好ましくは20〜80℃である。反応は常圧下又は加圧下で行うことができる。
また、反応中のセルロース鎖の解裂による分子量の低下を避ける観点から、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造におけるカチオン化、ヒドロキシプロピル化の反応の順序は、原料多糖類のヒドロキシプロピル化を行った後にカチオン化を行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0029】
上記の方法により得られるカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースは、その分子中に存在するカチオン化エチレンオキシ基の、アンヒドログルコース単位あたりの平均モル数が好ましくは0.01〜2.5、より好ましくは0.01〜2.0、更に好ましくは0.02〜1.5である。
また、その分子中に存在するプロピレンオキシ基の、アンヒドログルコース単位あたりの平均モル数は、好ましくは0〜2.8、より好ましくは0.1〜2.6、更に好ましくは0.5〜2.5である。
また、アンヒドログルコースの平均重合度は、好ましくは50〜5000、より好ましくは100〜2000、更に好ましくは150〜1500である。
【0030】
一つの実施形態において、粉末状の多糖類誘導体は、予め乾式粉砕機で粉砕処理して、結晶化指数を低下させた原料多糖類を調製しておき、その原料多糖類と反応性官能基を有する化合物とを、塩基性触媒の存在下で反応させることにより得ることができる。
また、乾式粉砕機を用いる際に、得られる粉末状の多糖類誘導体の凝集を避ける観点から、ポリプロピレングリコール等の粉砕助剤を用いることもできる。
乾式粉砕機としては、媒体式の容器駆動式粉砕機が好ましく、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等がより好ましく、振動ボールミル、振動ロッドミル等の振動ミルが更に好ましい。
【0031】
振動ミルに充填する媒体の材質に特に制限はなく、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、炭化珪素、チッ化珪素等が挙げられる。媒体の形状としては、ロッド、ボール、チューブ等が挙げられるが、ロッドがより好ましい。
ロッドとは棒状の媒体であり、ロッドの断面が四角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等のものを用いることができる。ロッドの外径は、好ましくは0.5〜200mm、より好ましくは1〜100mm、更に好ましくは2〜50mmであり、特に好ましくは3〜35mmである。ロッドの長さは、粉砕機の容器の長さよりも短いものであれば特に限定されない。
媒体がボールの場合、ボールの外径は、効率性の観点から、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmであり、更に好ましくは1〜20mmであり、特に好ましくは1〜10mmである。
ボール又はロッドの充填率は、媒体式粉砕機の機種により異なるが、粉砕効率等の観点から、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。ここで充填率とは、媒体式粉砕機の撹拌部の容積に対する媒体の見かけの体積をいう。
振動ミルの市販品としては、中央化工機株式会社製の振動ミル、ユーラステクノ株式会社製のバイブロミル、株式会社吉田製作所製の小型振動ロッドミル、ドイツのフリッチュ社製の振動カップミル、日陶科学株式会社製の小型振動ミル等が挙げられる。
粉砕処理条件は、粉砕機の種類や、粉砕機に充填する媒体の種類、大きさ及び充填率等により適宜調整しうる。粉砕処理時間は、通常0.01〜20hr、好ましくは0.05〜10hr、より好ましくは0.1〜5hrであり、粉砕処理温度は、反応速度、原料多糖類の安定性等の観点から、通常0〜100℃、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。
【実施例】
【0032】
実施例及び比較例で用いた多糖類誘導体の水分含有量、及びプロピレンオキシ基の付加量の算出は、下記の方法で行った。
(1)多糖類誘導体の水分含有量の測定
水分含量は、赤外線水分計(株式会社島津製作所製、「MOC−120H」)を使用し、試料皿に試料5gを載せ、設定温度100℃にて、自動停止モード(30秒間の水分変化量が0.1%以下になったら測定終了)の条件下で求めた水分蒸発量から算出した。
(2)プロピレンオキシ基の付加モル数の算出
まず、カチオン化セルロースを85重量%IPA水溶液(10倍以上)に分散して、酢酸を加え中和後ろ過を行い、85重量%IPA水溶液での洗浄を2回以上行った。60℃で一晩減圧乾燥を行い、精製カチオン化セルロースを得た。得られたカチオン化セルロースの全塩素価(TCl%)を求め、下記式よりカチオン基の付加モル数(MSN+)を算出した。
MSN+=(162×TCl%)/(35.45×100−151.63×TCl%)
次に、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを透析膜(分画分子量1000)により精製後、水溶液を凍結乾燥して精製カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。日本薬局方記載のヒドロキシプロピルセルロースの分析法により求められるヒドロキシプロポキシ基濃度%に、市販ヒドロキシプロピルセルロースであるLODICEL LDC−H(MSpo=0.25、信越化学工業株式会社製)、KLUCEL JF PHAM(MSpo=4.0、ハーキュレス社製)を基準に補正をかけたものをHPとして求め、下式からプロピレンオキシ基の付加モル数(MSpo)を算出した。
MSpo=HP×(162+151.6×MSN+)/(75.09−58×HP)
【0033】
製造例1(カチオン化セルロースの製造)
振動ミル(中央化工機株式会社製、FV20)中に直径30mm、長さ590mmのSUS304円柱状ロッド114本を入れ、多糖類誘導体原料として、一辺1〜5mmにカットしたパルプチップ(Tembec社製、BioflocHV+、水分含有量:7質量%)を2098gと、反応性官能基を有する化合物(カチオン化剤)としてグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(阪本薬品工業株式会社製、含水量20質量%、純度90%以上)1170g(セルロース分子中のグルコース単位当り0.52モル倍)、水11gを仕込み、10℃の冷媒でジャケットを冷却しながら12分間の粉砕処理を行った。さらに塩基性触媒として水酸化ナトリウム284g(セルロース分子中のグルコース単位当り0.6モル倍)を仕込み20分間粉砕処理を行った。その後、粉砕助剤としてポリプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)を192g仕込み、100分間粉砕処理を行い、カチオン化セルロースを得た。
【0034】
実施例1
四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)でコーティングしたプロシェアミキサー(大平洋機工株式会社製、WB-75、図1参照)を準備した。PFAのコーティング箇所は、図1における主軸3の全表面、回転翼4の全表面、主軸3の先端に設けられた回転翼に対応する側板6の内表面であり(主軸3と回転翼4の繋ぎの部分にはPFAコーティングはなし)、コーティングの厚さは200ミクロンであった。
このプロシェアミキサーに16700gのカチオン化セルロースを仕込み、本体容器2内を窒素置換後、回転翼(主翼)4の回転数48RPM(周速1m/s)、チョッパー翼(副翼)5の回転数1800RPMの条件下で撹拌しながら、プロピレンオキシド(関東化学株式会社製、鹿特級)4600g(セルロース分子中のグルコース単位当り1.5モル倍)を仕込み、内圧が約0.15MPaGとなるようジャケットに温水を流して加熱し、温度制御(内温:50℃)、圧力制御を行った。約7時間後、内圧が降下したのを確認し、ジャケットに冷却水を流して内温を30℃に下げ、さらに本体容器2内を窒素置換して残存プロピレンオキシドを除去し、粉末状カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース(水分含有量:9質量%)を得た。
主軸3の先端に設けられた回転翼に対応する側板6を開け、本体容器2内の粉末状部分と、主軸3に付着した付着部分からサンプルを採取し、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースのプロピレンオキシ基導入量を算出した。その結果、粉末状部分のプロピレンオキシ基導入量は、グルコース単位当たり1.3モルであり、付着部分のプロピレンオキシ基の付加量は1.5モルであり、均質性は十分であった。結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
実施例1において、PFAコーティングをしていないプロシェアミキサー(主軸3、回転翼4、側板6の材質:SUS304)を用いて、プロピレンオキシドを5800g(セルロース分子中のグルコース単位当り1.9モル倍)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、プロピレンオキシド付加を行った。
得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの粉末状部分のプロピレンオキシ基導入量はグルコース単位当たり1.5モルであり、主軸3に付着した付着部分のプロピレンオキシ基の付加量は2.3モルであり、バラツキが大きかった。
【0036】
【表1】

【符号の説明】
【0037】
1:機械攪拌式混合装置
2:本体容器
3:回転翼の主軸(表面をフッ素樹脂被覆)
4:回転翼(主翼)
5:チョッパー翼(副翼)
6:本体容器の側板
7:原料投入口
8:排出口
M1:回転翼の主軸の駆動モータ
M2:チョッパー翼の駆動モータ
W1:循環水入口
W2:循環水出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼の軸部がフッ素樹脂で被覆された機械攪拌式混合装置を用いて、塩基性触媒の存在下、多糖類と反応性官能基を有する化合物とを反応させる工程を有する、粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項2】
粉末状多糖類誘導体の水分含有量が3〜50質量%である、請求項1に記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項3】
反応性官能基を有する化合物がエポキシ基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項4】
粉末状多糖類誘導体がセルロース誘導体である、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項5】
粉末状多糖類誘導体がカチオン化セルロースである、請求項1〜4のいずれかに記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項6】
粉末状多糖類誘導体がヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1〜5のいずれかに記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。
【請求項7】
粉末状多糖類誘導体がカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1〜6のいずれかに記載の粉末状多糖類誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224826(P2012−224826A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96453(P2011−96453)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】