説明

多細胞生物において細胞プロセスを制御する方法

遺伝子改変多細胞生物又はその部分を制御する方法であって、以下の工程:(a)多細胞生物又はその部分を提供し、前記多細胞生物又は前記部分の細胞は異種核酸を含有すること、(b)少なくともいくつかの前記細胞において前記異種核酸からタンパク質の発現を引き起こすことを含み、ここで前記タンパク質は、(i)前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記タンパク質の発現を引き起こすこと、そして随意に、(iii)目的の細胞プロセスを制御することが可能である、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的の細胞プロセスを、多細胞生物、特に植物において制御する方法に関する。さらに、本発明は、遺伝子改変多細胞生物、及び本発明の方法を実施するためのシステムに関する。本発明の方法は、例えば、一過性又は安定に遺伝子改変された多細胞生物においてトランス遺伝子発現の選択的制御を可能にし、それによって多細胞生物においてこれまで機能不能であった目的の生化学プロセス又は生化学的カスケードのスイッチを所定の時期に選択的に入れることを可能にする。
【背景技術】
【0002】
植物において制御可能なトランス遺伝子発現系
植物バイオテクノロジーの主要課題の1つは、トランス遺伝子発現に対して信頼し得る制御を達成することである。トランス遺伝子発現の下流産物が、例えば生物分解性プラスチック(Nawrath、Poirier&Somerville、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.91、12760−12764;John&Keller、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.93、12768−12773;US6103956;US5650555)又はタンパク質毒素(US6140075)のように、成長阻害性又は有毒であるならば、植物における遺伝子発現の厳格な制御は不可欠である。
【0003】
遺伝子発現を多細胞生物において、特に植物において制御するための既存の技術は、通常、組織特異的又は誘導可能なプロモーターに基づいており、そのほとんどすべては、誘導されないときでも、基底の発現活性に悩まされる。即ち、それらは「漏出性」である。組織特異プロモーター(US05955361;WO09828431)は、強力なツールを代表するが、その使用はごく特定の適用領域に制限される。例えば、無菌植物を産生すること(WO9839462)又は目的遺伝子を種子において発現させること(WO00068388;US05608152)のためである。誘導性プロモーターは、その誘導条件に従って2つのカテゴリーへ分けることができる:非生物因子(温度、光、化学物質)により誘導されるものと生物因子、例えば病原体又は害虫の攻撃により誘導され得るものである。第1のカテゴリーの例は、熱誘導(US05187287)と低温誘導(US05847102)プロモーター、銅誘導系(Mettら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.90、4567−4571)、ステロイド誘導系(Aoyama&Chua、1997、Plant J.11、605−612;McNellisら、1998、Plant J.14、247−257;US06063985)、エタノール誘導系(Caddickら、1997、Nature Biotech.16、177−180;WO09321334)、及びテトラサイクリン誘導系(Weinmannら、1994、Plant J.5、559−569)である。植物の化学誘導系の領域における最近の発展の1つは、グルココルチコイドのデキサメタゾンによりスイッチを入れることができて、テトラサイクリンによりスイッチを切ることができるキメラプロモーターである(Bohnerら、1999、Plant J.19、87−95)。化学的に誘導可能な系についての総説は、Zuo&Chua(2000、Current Opin.Biotechnol.11、146−151)を参照のされたい。誘導性プロモーターの他の例は、病態形成関連(PR)遺伝子の植物における発現を制御するプロモーターである。これらのプロモーターは、病原体の攻撃に応答する植物シグナル伝達経路の重要な成分であるサリチル酸や、PR遺伝子発現を始動させることが可能な他の化学化合物(ベンゾ−1,2,3−チアジアゾール又はイソニコチン酸)で植物を処理することによって誘導することができる(US05942662)。
【0004】
ウイルス感染により提供されるウイルスのRNA/RNAポリメラーゼを使用する制御可能なトランス遺伝子発現系の報告がある(例えばUS6093554;US5919705を参照されたい)。これらの系において、組換え植物DNA配列には、ウイルスのRNA/RNAポリメラーゼにより認識されるウイルスゲノム由来のヌクレオチド配列が含まれる。これらの系の有効性は、機能をトランスで提供するウイルスポリメラーゼの能力が低いこと、そしてそれらがRNA増幅以外のプロセスを制御し得ないことのために限定される。
【0005】
別のやり方は、遺伝子改変植物のある生化学プロセスのスイッチをコードする異種核酸を提供する遺伝子改変ウイルスを使用することによって、目的のプロセスをトランスジェニック植物において始動させることである(WO02068664)。
【0006】
上記の系は、トランス遺伝子発現の望ましいパターンを入手する好機としてきわめて興味深いが、それらは、発現パターンに対する厳格な制御を可能にするものではない。なぜなら、誘導剤(銅)やその類似体(ステロイド制御可能系の場合はブラシノステロイド)が残余の発現を引き起こすのに十分なレベルで植物組織に存在し得るからである。さらに、抗生物質やステロイドの化学誘導物質としての使用は、大規模な適用には望ましくなく、経済的に実現不能である。PR遺伝子のプロモーターやウイルスのRNA/RNAポリメラーゼをトランス遺伝子の制御手段として使用する場合は、偶然の病原体感染又はストレスにより発現が引き起こされる場合があるので、トランス遺伝子発現に対する厳格な制御の必要条件も満たされない。組織又は器官特異的プロモーターは、それにより特定の器官又は植物成長段階に発現が拘束されるが、トランス遺伝子のスイッチを自由に入れることができないので、ごく狭い適用領域に制限される。WO02068664に記載されるような組換えウイルスのスイッチはこういった問題に対処するが、ウイルスベクター中の異種核酸が組み換わる場合があるので、厳格な環境安全要件を保証しない。
【0007】
ウイルス遺伝子又はウイルスRNAの変異型の発現によるウイルス耐性植物の設計について記載した、特許出願を含めた豊富な文献がある(例えばUS5792926;US6040496)。そうした植物の使用には、攻撃するウイルスとトランスジェニックウイルスのRNA又はDNAとの間の組換えによって新規ウイルスが生成する可能性のために環境リスクがつきものであることも述べる価値がある(Adair&Kearney、2000、Arch.Virol.145、1867−1883)。
【0008】
遺伝子発現のスイッチとしてのタンパク質−タンパク質相互作用は、既存の制御可能系に優るいくつかの利点により興味深い選択肢となる。タンパク質−タンパク質相互作用に基づく系は、目的の機能が、きわめて特異的なタンパク質−タンパク質又はタンパク質−核酸相互作用の結果であるため、きわめて特異的になり得るが、これは非誘導状態において発現がほとんどゼロレベルであること、目的遺伝子の活性化がそれをコード及び/又は制御する核酸(DNA又はRNA)再配置に依存する場合に非特異的な漏出がないことを特徴とする。これは、低分子に基づいたスイッチのような、本質的にさほど特異的でなく、常にある程度の漏出を示す既存系と対照的である。
【0009】
しかしながら、上記の系はいずれも以下の2つの重大な問題の少なくとも1つに悩まされる:(i)厳格に制御される調節の不足、例えば系の「漏出」;(ii)特に、例えばタンパク質−タンパク質又はタンパク質−核酸相互作用に基づいた厳格に調節されてきわめて特異的な調節系の場合、通常、細胞プロセスの誘導が多細胞生物内の限られた数の細胞に制限されること。通常、調節が厳格であれば、目的の細胞プロセスを誘導するために外部より適用されるシグナルによって影響を受ける可能性がある多細胞生物中の細胞の数はそれだけ小さくなる。この問題の例として、Hooykaasと共同研究者の文献(2000、Science、290、979−982;WO0189283)があり、植物細胞へ抗生物質耐性を付与する目的遺伝子を発現させるための特異的に誘発する方法について記載している。この方法は、外部より送達される酵素、Creリコンビナーゼによって特異的に誘発する。しかしながら、標的細胞のわずかな分画にしかCreリコンビナーゼを送達し得ないので、この外部誘因を適用する効率は低い。結果として、耐性遺伝子を発現する細胞を、抗生物質耐性によって引き起こされるその選択可能な表現型によって組織培養中に検出し得るが、この方法は組織培養に限定され、高等植物のような多細胞生物全体へ適用することができない。
【0010】
故に、本発明の目的は、目的の細胞プロセスを多細胞生物、特に植物において制御する、環境上安全な方法を提供することであり、該細胞プロセスは、前記多細胞生物又はその部分において効率的かつ選択的に活性化することができる。本発明の別の目的は、遺伝子改変した多細胞生物、特に高等植物において産物を産生するための方法を提供することであり、ここで産物の産生は、多細胞生物が所望の段階まで成長した後で選択的にスイッチを入れることができる。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
上記の目的は、遺伝子改変多細胞生物又はその部分を制御する方法によって達成され、この方法は、以下の工程:
(a)多細胞生物又はその部分を提供し、前記多細胞生物又は前記部分の細胞は異種核酸を含有すること、
(b)少なくともいくつかの前記細胞において前記異種核酸からタンパク質の発現を引き起こすこと、
を含み、ここで前記タンパク質は、
(i)前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、
(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記タンパク質の発現を引き起こすこと、そして随意に、
(iii)目的の細胞プロセスを制御すること、
が可能である。
【0012】
本発明はまた、本発明の方法により入手されるか又は入手可能な遺伝子改変多細胞生物又はその部分を提供する。好ましくは、本発明は、前記方法により入手される遺伝子改変多細胞植物又はその部分を提供する。前記方法により入手されるか又は入手可能な植物の好ましい部分は葉と種子である。植物の部分の最も好ましい例は種子である。
【0013】
さらに本発明は、異種核酸をその細胞内に含有する遺伝子改変多細胞生物又はその部分を提供し、前記異種核酸は、
(a)前記異種核酸を含有する細胞において前記異種核酸からタンパク質の発現を引き起こすことが可能であり、
(b)前記タンパク質は、前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ることが可能であり、
(c)前記制御タンパク質は、前記異種核酸を含有する細胞において前記タンパク質の発現を制御することが可能であり、そして
(d)随意に、目的の細胞プロセスを制御する
ように適応される。
【0014】
さらに本発明は、本明細書に定義される遺伝子改変多細胞生物と前記タンパク質の発現を引き起こすためのシグナとを含むタンパク質発現制御システムを提供し、前記多細胞生物と前記シグナルは、前記多細胞生物又はその部分へ前記シグナルを外部より適用することによって前記タンパク質の発現を始動できるように設計される。
【0015】
本発明はまた、上記に定義される多細胞生物へ外部より適用するための組成物を提供し、前記組成物は、本明細書に定義されるポリペプチド又はタンパク質を含有し、前記ポリペプチド又はタンパク質は、上記に定義される遺伝子改変多細胞生物においてタンパク質の発現を引き起こすためのシグナルとなる。
【0016】
さらなる態様は、請求項及び従属請求項に定義する。
本発明は、多細胞生物のいくつかの細胞において前記タンパク質(本明細書においては「制御タンパク質」又は「タンパク質スイッチ」とも呼ぶ)の発現を引き起こす(誘導する)ことによって前記多細胞生物又はその部分を制御することを可能にする。好ましくは、前記多細胞生物又はその部分を制御することには、目的の細胞プロセスを制御することが含まれる。前記制御タンパク質の発現は、好ましくは、外部より適用されるシグナルによって引き起こされる。前記制御タンパク質は、前記制御タンパク質を発現する細胞において目的の前記細胞プロセスを制御することが可能である。さらに、前記制御タンパク質は、前記多細胞生物の他の細胞へ伝播することが可能である。前記多細胞生物の他の細胞では、前記制御タンパク質は、目的の前記細胞プロセスを制御すること、そしてより多くのコピーの前記制御タンパク質の発現を引き起こすことが可能である。このように、前記制御タンパク質は、特に前記外部適用シグナルにより前記制御タンパク質の発現が引き起こされなかった前記多細胞生物の細胞において、それ自身の発現を引き起こすことが可能である。結果として、前記制御タンパク質の発現が前記多細胞生物のいくつかの細胞において誘導されたならば、前記制御タンパク質は、前記外部適用シグナルが到達しなかった前記多細胞生物の他の細胞と他の部分へ前記外部適用シグナルをなだれ式のやり方で運ぶことができる。目的の細胞プロセスを多細胞生物において制御する本発明の前記制御タンパク質の能力により、それは、本明細書において「タンパク質スイッチ」とも呼ばれる。
【0017】
本発明の方法では、目的の細胞プロセスは、遺伝子改変多細胞生物又はその部分において制御される。前記遺伝子改変多細胞生物は、動物でも、真菌でも、植物でもよい。植物が好ましい。動物の中では脊椎動物が好ましく、哺乳動物が最も好ましいが、ヒトは除かれる。植物の中では、高等植物、特に高等の作物が好ましい。本発明による多細胞生物の部分は、ある種の組織又は器官でよい。本発明の方法は、元の生物から分離された組織又は器官を維持する方法(例えば組織培養)が利用可能である限りにおいて、単離された(多細胞生物より分離した)組織又は器官に対して行なうことができる。遺伝子改変多細胞植物の重要な部分は、前記植物の種子である。
【0018】
本発明の可能性を十分活用するには、本発明の方法を多細胞生物全体、特に植物全体へ適用する。多細胞生物全体を取り扱う場合、目的の前記細胞プロセスに対する制御が多細胞生物全体に影響を及ぼす必要はない。むしろ、目的の前記細胞プロセスに対する制御は、前記多細胞生物の部分に限定することができる。しかしながら、前記制御は、前記多細胞生物の実質的な部分に影響を及ぼすことが好ましい。前記細胞プロセスが制御される多細胞生物の部分は、特に、前記制御タンパク質の発現を引き起こす前記外部適用シグナルの種類と特にその適用場所に依存する。一般に、制御は、外部シグナルの適用場所の近傍において最も強く、前記場所からの距離が増すにつれて減少する場合がある。前記制御の減少は、概して不均等であり、外部シグナルを適用した前記多細胞生物の組織の構造に依存する。例えば、植物において目的の細胞プロセスのスイッチを入れることができ(例えば目的遺伝子の発現スイッチを入れることができる)、前記外部シグナルを植物の葉の分画へ適用する場合、典型的には、目的の前記細胞プロセスは、前記葉の分画の内部とその近傍において起こる。目的の前記細胞プロセスは、前記葉の主要部分において起こることが好ましい。目的の前記細胞プロセスは、苗条と他の葉においても起こることがより好ましい。目的の前記細胞プロセスは、前記植物の主要部分において起こることが最も好ましい。目的の前記細胞プロセス(例えば目的遺伝子の発現)の程度は、前記植物の内部で、例えば細胞の種類又は組織の種類で変動する場合がある。明らかに、前記外部シグナルの適用は、通常、多細胞生物の表面の一点に限定されない。前記外部シグナルは、前記多細胞生物のいくつかの部分へ適用されることが好ましい(さらに以下を参照のこと)。
【0019】
本発明の方法の工程(a)では、遺伝子改変多細胞生物又はその部分を提供する。前記多細胞生物又は前記部分は、前記制御タンパク質が発現できる異種核酸をその生物の細胞が含有するように遺伝子改変されている。前記異種核酸は、好ましくは、前記制御タンパク質をコードする。あるいは、前記異種核酸は、前記外部シグナル又は前記制御タンパク質により引き起こされる再構成の後で、前記制御タンパク質をコードすることができる。この代替物の例として、異種核酸は、例えば前記外部シグナルのリコンビナーゼ活性により引き起こされる組換えの後で前記制御タンパク質をコードすることができる。
【0020】
工程(a)で提供される前記多細胞生物は、トランスジェニック多細胞生物であることができ、前記生物の細胞のほとんど又はすべてが前記細胞のゲノムに安定に組み込まれた前記異種核酸を含有する。前記異種核酸は、核のゲノムへ、又はミトコンドリアのようなオルガネラ、又は植物の場合はプラスチドのゲノムに安定に組み込むことができる。植物の場合、前記異種核酸のプラスチドゲノムへの組込みは、生物学的安全性に関して有利である。本発明の方法は、好ましくは、トランスジェニック多細胞生物で行う。しかしながら、あるいは、前記生物を一過性に改変してよく、及び/又は前記異種核酸は、前記生物の細胞のある分画に存在するが他の細胞には存在しなくてもよい。一過性に修飾された多細胞生物中の異種核酸は、細胞の前記分画のゲノムに安定に組み込まれても、エピソームとして存在してもよい。前記異種核酸の前記生物の細胞の分画への組込みは、例えば、ウイルスのトランスフェクション又はアグロバクテリウム仲介性の形質転換を使用して前記生物を一過性にトランスフェクトすることによって達成することができる。
【0021】
本発明の工程(b)では、前記制御タンパク質の前記異種核酸からの発現は、前記異種核酸を含有する前記細胞の少なくともいくつかにおいて誘導される。前記発現は、典型的には、前記異種核酸を含有する前記多細胞生物の細胞へ外部シグナルを適用することによって引き起こされる。前記生物がトランスジェニックである場合、前記シグナルは、原理的には、この生物のどの部分にも、又はどの細胞にも適用することができる。前記生物の細胞のある分画だけが前記異種核酸を含有する場合は、前記制御タンパク質(タンパク質スイッチ)の発現を引き起こすための前記異種核酸を含有する1以上の細胞に前記外部シグナルが到達し得るように、前記シグナルを生物へ適用する。そうした外部シグナルの例は、以下の通りである:低分子有機化合物、金属イオン、ポリペプチド、核酸、病原体、ウイルス、細菌、真菌、光、温度変化、又は他の生物若しくは非生物因子。これらの外部シグナルの中では、ポリペプチド、核酸、病原体、ウイルス及び細菌が好ましい。ポリペプチドが最も好ましい。当然ながら、これらシグナルの適用法は、使用するシグナルの種類に応じて調整すべきである。低分子有機化合物、金属イオン、ポリペプチド、核酸、病原体、ウイルス、細菌、及び真菌の場合、前記シグナルは、例えば、個別のシグナルを含有する溶液又は懸濁液を前記生物、特に植物に噴霧することによって適用することができる。さらなる適用法を以下に記載する。一般に、他の多くの方法が当該技術分野で公知である。
【0022】
前記外部シグナルとしてのポリペプチドの好ましい事例では、前記ポリペプチドは、好ましくは、前記ポリペプチドが前記多細胞生物の細胞に入ることを可能にする膜移行配列を含む。前記膜移行配列は、前記ポリペプチドへ共有結合しても、非共有結合してもよい。好ましくは、それは前記ポリペプチドへ共有結合する。前記膜移行配列は、前記生物の細胞の形質膜を通過する能力を前記ポリペプチドへ付与するペプチドであり得る。多くのそのような膜移行配列が当該技術分野で公知である。それらはいくつかの塩基性アミノ酸、特にアルギニンを含むことが多い。膜移行配列のサイズは大きく変動してよいが、それらは、典型的には3〜100アミノ酸、好ましくは5〜60アミノ酸を有することができる。前記ポリペプチドは、例えば大腸菌における標準的なタンパク質発現技術によって産生することができる。前記ポリペプチドの発現後の精製は、行われることが好ましく、特に前記ポリペプチドをコードする核酸を除去する。前記ポリペプチドは、例えば、前記ポリペプチドを含有する液体組成物、好ましくは水溶液を植物に噴霧することによって前記植物へ適用することができる。好ましくは、前記ポリペプチドが植物の細胞へ入ることを促進することを可能にする手段、特に植物の細胞壁及び/又は植物の外層の通過を可能にする手段を講じる。そのような手段の例は、例えば機械的な擦過によって植物表面の部分をわずかに傷つけることである。別の例は、植物細胞壁を弱めるか又はそれに穴をあけるセルロース分解酵素の使用である。
【0023】
本発明の重要な態様では、前記外部シグナルはポリペプチドであり、前記ポリペプチドの適用は、前記ポリペプチドまたは前記ポリペプチドの機能部分をコードする核酸の前記多細胞生物の細胞への導入を伴わない。前記ポリペプチドの機能部分とは、本発明の方法の工程(b)に従って前記制御タンパク質の発現を引き起こすことが可能な部分である。この態様では、多細胞生物には、前記ポリペプチドをコードする遺伝物質が付与されない。最も好ましくは、本発明の方法において、多細胞生物には(A)前記外部シグナルをコードする遺伝物質も(B)目的の前記細胞プロセスに必要な遺伝物質も付与されない。従って、これら2種類の遺伝物質(A)及び(B)は、前記生物によっていずれも遺伝され得ないし、環境に、特に他の生物へ伝播され得ない。この態様では、前記ポリペプチドは、好ましくは、前記生物の細胞へ直接適用される。直接適用とは、前記ポリペプチドを適用するために工程(b)において使用する組成物に前記ポリペプチド又はその機能部分をコードする核酸が含有されないような前記ポリペプチドの適用を意味する。このことは、例えば、前記多細胞生物への微粒子銃によるか又は組成物(例えば溶液、懸濁液又は無細胞組成物)の適用により達成することができ、前記組成物は、前記ポリペプチドを含有するが、前記ポリペプチド又はその機能部分をコードする核酸は含有しない。
【0024】
あるいは、前記ポリペプチドとそれをコードする核酸を含有する組成物を前記多細胞生物へ適用することができるが、前記ポリペプチドをコードする前記核酸が前記生物の細胞に入り得ないことを条件とする。このことは、例えば、宿主細胞へのポリペプチド送達システムを有する病原微生物を使用して達成することができる。前記ポリペプチドは、前記多細胞生物の細胞へ前記ポリペプチドを送達できるように、前記病原微生物の核酸において発現可能にコードされる場合がある。そうした病原微生物の好ましい例は、毒性又は非毒性のアグロバクテリウム属であり、前記ポリペプチドは、Ti−プラスミドのT−DNAにコードされず、好ましくは、前記ポリペプチドは、利用するアグロバクテリウムのTi−プラスミドにコードされない。植物病原微生物のさらなる例は、ボルデテラ属、エルウィニア属、シュードモナス属、ザントモナス属、エルシニア属であり、これらの分泌系を本発明に使用することができる。エルシニアIII型分泌系の使用の例をWO9952563に見出すことができる。しかしながら、上記のような前記ポリペプチドの直接適用が好ましい。
【0025】
前記外部適用シグナルは、前記異種核酸を含有し、且つ前記外部適用シグナルが到達した細胞において前記制御タンパク質の発現(前記制御タンパク質の1次発現)を引き起こす。本発明の前記異種核酸は、前記シグナルが前記制御タンパク質の前記異種核酸からの発現を引き起こすことができるように、遺伝子操作されなければならない。本発明の外部シグナルに応答して制御タンパク質の発現を達成するための数多くの可能性が当該技術分野において公知である。例えば、本明細書の序論に記載のような誘導性プロモーターを使用してよい。前記外部シグナルとしてのポリペプチドの場合、前記ポリペプチドは、前記異種核酸を発現可能にする酵素活性を有する場合がある。そうした酵素活性の例は、部位特異的リコンビナーゼ、フリッパーゼ、リゾルベース、インテグラーゼ、トランスポザーゼ、ポリメラーゼ等の活性である。結合活性を含めたそうした可能性のさらなる詳細を以下に示す。
【0026】
本発明の前記制御タンパク質は、前記多細胞生物又はその部分の、それが1次発現した細胞を出て他の細胞に入ること(前記制御タンパク質の伝播)が可能である。植物の場合、前記の1つの細胞を出て他の細胞に入ることには、好ましくは、前記植物又はその部分における細胞間移行又は浸透移行が含まれる。前記制御タンパク質は、好ましくは、前記の1つの細胞を出て他の細胞に入ることを可能にするタンパク質部分を含有する。前記タンパク質部分は、ウイルス移行タンパク質又はウイルス外被タンパク質のドメインでもよい。さらに、前記タンパク質部分は、植物又は動物の転写因子でも、細胞間移行又は浸透移行の可能な植物又は動物の転写因子のドメインでもよい。さらに、前記タンパク質部分は、植物又は動物のペプチド細胞間メッセンジャーでも、植物又は動物のペプチド細胞間メッセンジャーのドメインでもよい。さらに、前記タンパク質部分は、細胞間移行又は浸透移行を可能にする人工ペプチドでもよい。好ましくは、前記タンパク質部分は、ウイルス移行タンパク質若しくはウイルス外被タンパク質、又はウイルス移行タンパク質若しくは外被タンパク質のドメイン、例えばトバモウイルス移行タンパク質若しくは外被タンパク質であるか、あるいはそれを含む。
【0027】
本発明の制御タンパク質が多細胞生物の他の細胞に入るとき、前記制御タンパク質は、これら細胞において前記制御タンパク質の追加コピーの発現を制御すること、特に誘導することが可能である。このように、本発明の方法は、外部より適用されるシグナルを前記多細胞生物内で増幅して伝達することを可能にする。前記制御タンパク質に対して前記異種核酸からのそれ自身の発現を制御するためになし得る多くの方法がある。前記制御タンパク質は、前記制御タンパク質をコードする前記異種核酸への結合活性を有するセグメントを含む場合がある。前記結合活性は、前記制御タンパク質の発現を始動させることができる。前記セグメントは、前記異種核酸の転写を誘導する転写因子として作用してよい。好ましくは、前記制御タンパク質は、前記制御パタンパク質の発現を始動させることの可能な酵素活性を有するセグメントを有する。そうした活性の例は、部位特異的リコンビナーゼ、フリッパーゼ、リゾルベース、インテグラーゼ、ポリメラーゼ又はトランスポザーゼの活性である。前記酵素活性は、前記異種核酸を修飾して、前記制御タンパク質の発現をもたらすことができる。さらに、前記セグメントは、前記異種核酸のプロモーターに作用するDNA依存性RNAポリメラーゼであってよく、前記プロモーターは、前記多細胞生物のネイティブポリメラーゼによって認識されない。こうしたプロモーター−ポリメラーゼ系の例は、T7プロモーター−T7ポリメラーゼのような、細菌、ウイルス又はバクテリオファージのプロモーター−ポリメラーゼ系である。
【0028】
好ましくは、前記制御タンパク質の発現を引き起こすために使用する前記制御タンパク質の結合活性又は酵素活性は、外部シグナルとして使用する前記ポリペプチドの結合活性又は酵素活性と同じ種類であってよい。より好ましくは、前記ポリペプチドを外部シグナルとして使用する場合は、前記ポリペプチドが前記制御タンパク質の発現を引き起こすために、そして前記制御タンパク質がそれ自身の発現を引き起こすために、同じ種類の酵素活性を使用する。
【0029】
それ自身の発現を制御する能力とは別に、本発明の制御タンパク質は、目的の細胞プロセスを制御する能力を有する。前記制御とは、目的の細胞プロセスを促進することと抑制することを含む場合がある。好ましくは、制御とは、目的の細胞プロセスのスイッチを入れること又は切ることを意味する。最も好ましくは、制御とは、細胞プロセスのスイッチを入れることを意味する。目的の前記細胞プロセスを制御することが可能であるために、前記制御タンパク質(タンパク質スイッチ)は、前記細胞プロセスを制御することが可能なセグメントを有する場合がある。前記セグメントは、目的の前記細胞プロセスに必要な核酸(例えば以下に記載される前記追加の異種核酸)を制御する結合活性又は酵素活性を有する場合がある。本発明の方法において、前記細胞プロセス(iii)の前記制御は、前記制御タンパク質(ii)の発現を引き起こすことに類似して達成することができる。この目的のために、前記制御タンパク質は、前記細胞プロセス(iii)を制御するためのセグメントと前記制御タンパク質(ii)の発現を引き起こすためのセグメントを有する場合があり、前記2つのセグメントの制御機序は、異なっていてよい。好ましくは、この2つの制御機序は、類似しているか又は同一であり、ここで前記制御タンパク質の1つのセグメントは、(iii)及び(ii)を制御するのに十分であり得る。このように、好ましい設計において、本発明の前記制御タンパク質は、(ii)及び(iii)を制御するための少なくとも1つのセグメントと、前記多細胞生物の1つの細胞を出て他の細胞に入る能力を前記制御タンパク質に付与する部分を含有する。
【0030】
目的の前記細胞プロセスは、典型的には、前記細胞プロセスが制御される前記多細胞生物の細胞において追加の異種核酸の存在を必要とする。前記追加の異種核酸は、前記多細胞生物のすべての細胞に存在しても、細胞の分画に存在してもよい。それは、前記生物の細胞の核又はオルガネラのゲノムに安定に組み込むことができる。本発明の前記異種核酸に関して述べたことは、前記追加の異種核酸にも概して適用される。本発明の前記細胞プロセスに関して特別な限定はなく、本発明はきわめて広く適用可能なものである。こうした細胞プロセスの重要な例は、目的のRNA及び/又はポリペプチドの前記追加の異種核酸からの産生、又は前記追加の異種核酸からの若しくは前記追加の異種核酸のRNA発現産物からの発現可能オペロンの形成である。細胞プロセスのきわめて重要な例は、前記追加の異種核酸からの又は前記追加の異種核酸のRNA発現産物からの発現可能アンプリコンの形成である。前記アンプリコンは、それが活性化された又は形成された細胞内で増幅することが可能である。さらに、前記アンプリコンは、本発明の多細胞生物において細胞間移行又は浸透移行が可能であり得る。このように、前記アンプリコンの機能は、前記タンパク質スイッチにより始動されるごく高いレベルまで増幅することができる。前記タンパク質スイッチ及び前記アンプリコンの増幅特性は、相乗的に挙動し得るので、目的のきわめて強力な細胞プロセス(例えば前記アンプリコンからの目的タンパク質のきわめて強力な発現)を可能にする。
【0031】
前記追加の異種核酸の配列部分は、前記制御タンパク質の作用によって転写プロモーターへ機能可能に連結可能であることができ、例えば、目的の前記タンパク質又はRNAアンプリコンをコードする配列をプロモーターと機能可能に連結することによって、前記追加の異種核酸からの目的のタンパク質の発現又はRNA−ウイルスアンプリコンの転写のスイッチを入れることが可能になる。この態様を実施するいくつかの方法がある。1つの選択肢は、前記追加の異種核酸において、RNAアンプリコン及びプロモーターをコードする配列を、その間の機能可能な連結を妨げる配列ブロックによって分離することである。前記配列ブロックには組換え部位が隣接してよく、そうすると前記組換え部位を認識するリコンビナーゼによって前記ブロックを切断することができる。それによって、RNAアンプリコンをコードする配列の転写に機能可能な連結を確立することができ、発現スイッチを入れることができる。別の選択肢は、転写に必要な配列の部分(例えばプロモーター又はプロモーター部分)を反転配向で組換え部位に隣接して有することである。好適なリコンビナーゼを提供することによって、前記配列部分を正しい配向に反転させ、それによって機能可能な連結を確立することができる。
【0032】
本発明のさらなる態様において、前記異種核酸より発現されるタンパク質と外部適用スイッチとして使用する前記ポリペプチドは、これらが一緒になって存在するときにのみ一緒になって所定の機能を産生し、目的の前記細胞プロセスのスイッチを入れる。前記異種核酸より発現されるタンパク質は、例えば構成的に発現される場合があり、それによって目的のプロセスは、前記ポリペプチドを適用することによってスイッチを入れることができる。あるいは、前記異種核酸より発現されるタンパク質は、調節されるプロモーター(例えば化学的に誘導可能なプロモーター)の制御下にあってよく、これにより目的のプロセスの「二重」制御、即ち、調節されるプロモーターの誘導による制御と前記ポリペプチドの適用による制御を可能にする。好ましくは、前記タンパク質と前記ポリペプチドは、インテイン仲介性トランススプライシング又はインテイン仲介性アフィニティー相互作用によって、一緒になって前記の所定機能(例えば上記に述べたような酵素活性)を産生する。次いで、前記の所定機能は、本発明の細胞プロセスのスイッチを入れることができる。前記の所定機能は、例えば、前記制御タンパク質についての上記の記載に類似した前記追加の異種核酸に作用し得る結合活性又は酵素活性であり得る。この態様の重要な利点は、異種核酸で遺伝子改変される、工程(a)で提供される植物が、本発明の前記細胞プロセスのスイッチを入れるのに必要とされるすべての成分を含有しないことである。従って、前記植物は、目的の機能的な細胞プロセスのための遺伝情報を子孫や他の生物に伝達し得ない。
【0033】
本発明による細胞プロセスは、生物の細胞における多工程生合成経路のような、目的の生化学的カスケード全体を含んでよい。目的の細胞プロセス又は生化学的カスケードは、多細胞生物において、外部適用シグナルへの曝露前は機能可能ではない。本発明の細胞プロセスは、これまで達成不能であった技術精度と環境安全性を伴って、目的の細胞プロセス又は生化学的カスケードに対する制御を提供する。それによって、バイオテクノロジー全般、具体的には植物バイオテクノロジーにおける新規応用が、植物における基本的なトランス遺伝子発現活性に関わる従来技術によっては解決し得ない問題を解決するために、特に、有毒物質や生物分解性ポリマーを産生する場合に利用可能になる。さらに、本発明による正確な制御により、例えば、植物の成長を遅延させる基底の発現活性が植物に負荷されることなく目的の生化学プロセス又はカスケードを実施するのに植物が最も適している所望の段階までトランスジェニック植物を成長させることが可能になる。目的の細胞プロセス又はカスケードを効率的に実施する準備が植物にできたならば、目的のプロセス又はカスケードのスイッチを入れ、高い効率で実施することができる。従って、本発明の方法は、多細胞生物、具体的にはトランスジェニック植物の成長相と産生相を安全に切り離すことを可能にする。さらに、目的の多細胞プロセス又は生化学的カスケードの多成分系を設計することが可能であり、それによって1以上の所望のプロセス又はカスケードのスイッチを選択的に入れることができる。
【0034】
発明の好ましい態様
遺伝子改変多細胞生物又はその部分において目的の細胞プロセスを制御する方法であって、以下の工程:
(a)多細胞生物又はその部分を提供し、前記多細胞生物の細胞は異種核酸を含有すること、
(b)少なくともいくつかの前記細胞において前記異種核酸から制御タンパク質の発現を引き起こすこと、
を含み、ここで前記制御タンパク質は、
(i)前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、
(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記制御タンパク質の発現を引き起こすこと、そして、
(iii)目的の前記細胞プロセスを制御すること、
が可能である、前記方法。
【0035】
遺伝子改変多細胞植物又はその部分において目的の細胞プロセスを制御する方法であって、以下の工程:
(a)多細胞植物を提供し、前記多細胞植物の細胞は異種核酸を含有すること、
(b)少なくともいくつかの前記細胞において前記異種核酸から制御タンパク質の発現を引き起こすこと、
を含み、ここで前記制御タンパク質は、
(i)前記多細胞植物の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、
(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記制御タンパク質の発現を引き起こすこと、そして、
(iii)目的の前記細胞プロセスを制御すること、
が可能である、前記方法。
【0036】
遺伝子改変多細胞植物又はその部分において目的の細胞プロセスを制御する方法であって、以下の工程:
(a)多細胞植物を提供し、前記多細胞植物の細胞は異種核酸を含有すること、
(b)少なくともいくつかの前記細胞において外部適用及び直接適用のポリペプチドによって前記異種核酸から制御タンパク質の発現を引き起こすこと、
を含み、ここで前記制御タンパク質は、
(i)前記多細胞植物の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、
(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記制御タンパク質の発現を引き起こすこと、そして、
(iii)目的の前記細胞プロセスのスイッチを入れること、
が可能である、前記方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明の基礎は、多細胞生物の1つの細胞を出て他の細胞に入ることが可能な制御タンパク質の使用である。前記制御タンパク質は、それ自身の発現を引き起こすことが可能であり、さらにそれは、それ自身の発現とは異なる目的の細胞プロセスを制御することが可能である。本発明による方法の一般原理と概略図をそれぞれ図1及び図2に示す。
【0038】
制御タンパク質の「スイッチ」機能についての選択
本発明の前記制御タンパク質(タンパク質スイッチ)によって、好ましくは不可逆的に始動させることができる目的の細胞プロセスは無数にある。タンパク質スイッチは、例えば、目的のトランス遺伝子の発現を多くの異なるやり方で制御することができ、それによってこれらのやり方は、外部トリガーとして使用される前記ポリペプチドのスイッチング機能にも使用することができる。例えば、それは、DNAの組換え又は転写、RNAのプロセシング又は翻訳、タンパク質の翻訳後修飾等を始動させることができる。さらに、このタンパク質スイッチは、植物細胞への送達時に前記ポリペプチドにより活性化され、その後スイッチとして機能することができる場合がある。明らかに、タンパク質スイッチの選択は、前記多細胞生物において、特に前記植物において制御すべき細胞プロセスの設計/選択に依存する。前記細胞プロセスは、前記制御タンパク質が存在する細胞、又は前記制御タンパク質が侵入する細胞における核酸の再配列又は修飾によって制御され、特にスイッチを入れることができる。そのような場合、タンパク質スイッチは、部位特異的エンドヌクレアーゼ、レプリカーゼ、リコンビナーゼ、メチラーゼ、インテグラーゼ、トランスポザーゼ、ポリメラーゼ等のようなDNA又はRNAの修飾酵素を含む場合がある。
【0039】
本発明による細胞プロセスのための効率的な始動デバイスとして使用することができる、RNA分子に影響を及ぼす数多くの反応がある。これらには、特に、RNA複製、逆転写、編集、サイレンシング、又は翻訳のような反応が含まれる。例えば、部位特異的リコンビナーゼ、インテグラーゼ又はトランスポラーゼが、細胞において、特に植物細胞においてDNA切除、逆位又は挿入により目的のプロセスを始動させることができる方法について詳細に記載する先行技術が豊富にある(Zuo、Moller&Chua、2001、Nat.Biotech.19、157−161;Hoff、Schnorr&Mundy、2001、Plant Mol.Biol.45、41−49;US5225341;WO9911807;WO9925855;US5925808;US6110736;WO0140492;WO0136595)。バクテリオファージ及び酵母由来の部位特異的リコンビナーゼ/インテグラーゼは、in vitro、植物及び動物においてDNAを操作するために広く使用されている。本発明における使用に好ましいリコンビナーゼ組換え部位は、以下の通りである:CreリコンビナーゼLoxP組換え部位、FLPリコンビナーゼFRT組換え部位、RリコンビナーゼRS組換え部位、attP/attB部位を認識するファージC31インテグラーゼ等。トランスポゾンは、植物における遺伝子機能の発見に広く使用されている。本発明における使用に好ましいトランスポゾン系には、Ac/Ds、En/Spm、「マリナー」ファミリーに属するトランスポゾン等が含まれる。
【0040】
異種転写因子とRNAポリメラーゼも本発明によるタンパク質スイッチに使用してよい。例えば、トランス遺伝子を有する植物の細胞へT7プロモーターの制御下にT7ポリメラーゼを送達することによって、そのようなトランス遺伝子の発現を誘導することができる。
【0041】
バクテリオファージプロモーター(例えばT3、T7、SP6、K11)の制御下にある植物トランス遺伝子(例えば本発明の追加の異種核酸)を植物の細胞中へ送達された対応のDNA/RNAポリメラーゼで発現させることは、本発明において考慮されるタンパク質スイッチの開発の別の効率的なアプローチであり得る。別の有用なアプローチは、その活性化に異種又は遺伝子操作された転写因子を必要とする、異種又はキメラ又は他の人工プロモーターの使用であり得る。異種転写因子はまた、目的のトランス遺伝子の発現を前記転写因子が認識可能なプロモーターの制御下に誘導するために使用することができる。そうした転写因子の例には、酵母MT(メタロチオネイン)プロモーター中の特定配列に結合する酵母の金属応答性ACE1転写因子(Mettら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.90、4567−4571)、融合した6−ジンクフィンガータンパク質2C7及び単純ヘルペスウイルスVP16転写因子活性化ドメインを有する転写因子のような、配列特異的DNA結合ドメイン及び活性化ドメインを有する様々なキメラ転写因子(Ordiz、Barbas&Beachy、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99、13290−13295)、全長434レプレッサーとVP16転写アクチベーターのC末端80アミノ酸を有する転写因子(Wildeら、1994、Plant Mol.Biol.24、381−388)、ステロイド誘導系(Aoyama&Chua、1997、Plant J.11、605−612;McNellisら、1998、Plant J.14、247−257;US06063985)又はテトラサイクリン誘導系(Weinmannら、1994、Plant J.5、559−569)に使用する転写因子が含まれる。場合によっては、既存のトランス遺伝子発現誘導系を使用してよい。あるいは、転写因子を活性状態にするのにリガンド活性化誘導物質を必要としないように、異種転写因子を修飾してもよい。キメラ転写因子は、きわめて配列特異的なDNA結合ドメインと高効率的な活性化ドメインを組み合わせることを可能にし、それによりそのような因子の植物細胞への送達後に望まれる最大の効果を可能にするため、本発明における使用に有利であろう。
【0042】
本発明で考慮される別のタンパク質スイッチは、1以上の追加の異種核酸の翻訳後修飾に依存する場合がある。ポリペプチドフォールディング、オリゴマー形成、標的シグナルの除去、プロ酵素から酵素への変換、酵素活性の遮断等のような工程を制御することによって機能し得るようなタンパク質スイッチについて、多くの実施可能性がある。例えば、多細胞生物の細胞への部位特異的プロテアーゼの送達は、遺伝子操作された宿主が特異的にプロ酵素を切断してそれを活性酵素へ変換する場合、標的指向モチーフを切断又は修飾する宿主の能力によって、ある産物が特定の細胞コンパートメントへ標的指向する場合、又は特定の結合配列の除去によって、ある産物が特異的に起動する場合は、目的の細胞プロセスを始動させることができる。翻訳融合タンパク質の切断は、ウイルスの部位特異的プロテアーゼにより認識されるペプチド配列によるか又は触媒ペプチドにより達成することができる(Doljaら、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89、10208−10212;Gopinathら、2000、Virology、267、159−173;US5162601;US5766885;US5491076)。本発明へ適用可能な部位特異的プロテアーゼの他の例は、哺乳動物のエンテロキナーゼ、例えば、配列DDDK−Iを認識し(Kitamotoら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.91、7588−7592)、そしてLys−Ile結合を特異的に切断するヒトエンテロキナーゼ軽鎖;Gly−Glyジペプチドの間でタンパク分解を触媒するが、切断部位の認識には4アミノ酸を必要とするHc−Proのようなウイルスプロテアーゼ(Carrington JC&Herndon KL、1992、Virology、187、308−315);セムリキ森林ウイルスの部位特異的プロテアーゼ(Vasiljevaら、2001、J Biol Chem.276、30786−30793);及び、ポリユビキチンプロセシングに関与するプロテアーゼ、ユビキチン−カルボキシ末端ヒドロラーゼ(Osavaら、2001、Biochem Biophys Res Commun.283、627−633)である。
【0043】
外部適用シグナルの選択
前記制御タンパク質(前記タンパク質スイッチ)の前記多細胞生物の細胞内での発現を引き起こすための外部適用シグナルとして、どの非生物因子も生物因子も使用してよい。前記タンパク質スイッチは、例えば、化学物質、環境変化、病原体攻撃などにより始動される誘導性プロモーターの制御下にあり得る。前記プロモーターは、細胞間輸送と、それが入る細胞において細胞プロセス及び/又は生化学的カスケードのスイッチを入れることが可能である前記タンパク質スイッチの発現を推進して、それにより前記植物又はその部分の影響を受ける細胞において前記プロセス及び/又はカスケードの均等な発現をもたらすことができる。そうした誘導系の例は上記に記載されている。
【0044】
前記シグナルを外部より適用することの好ましい選択は、前記多細胞生物の細胞へのポリペプチドの直接的又は細菌仲介性の送達であり、それによって前記ポリペプチドは、前記制御タンパク質の発現を引き起こすことが可能である。あるいは、前記ポリペプチドは、前記遺伝子改変多細胞生物の前記植物細胞又は細胞群において一過性に発現させてよい。例えば誘導性プロモーターとは異なり、前記タンパク質スイッチはきわめて特異的であり、目的の細胞プロセスの発現を厳密に制御することができる。構築体の設計に依存して、前記ポリペプチドは、植物細胞又は細胞群への送達の後で、前記タンパク質スイッチの発現を始動させることができる。前記ポリペプチドをコードする核酸を植物細胞又は細胞群へ送達することなく前記ポリペプチドを送達する最も好ましくて生物学的に安全なやり方を以下に記載する。
【0045】
前記ポリペプチド又はその断片の多細胞植物の細胞への送達
a)直接送達
前記多細胞植物の細胞への前記ポリペプチドの直接送達には、様々な方法を使用することができる。最も簡単な方法の1つには、植物組織との機械的相互作用を利用する直接送達がある。例えば、ポリペプチドでコートした粒子による微粒子銃は、前記ポリペプチドを植物細胞へ送達することができる。このプロトコールは、植物形質転換プロトコール(US05100792;EP00444882B1;EP00434616B1)におけるDNA送達についての記載に類似してよい。しかしながら、DNAの代わりに、この粒子をコートするのに前記ポリペプチドを使用することができる。前記ポリペプチドの活性を保存するために適度に穏やかな粒子コーティング法を使用する微粒子銃法の記載がある(Sanford、Smith&Russell、1993、Methods in Enzymol.217、483−509)。原理的には、他の植物形質転換法、例えばマイクロインジェクション(WO09209696;WO09400583A1;EP175966B1)又はリポソーム仲介性送達(総説については、Fraley&Papahadiopoulos、1982、Curr.Top Microbiol.Immunol.96、171−191を参照のこと)も使用してよい。
【0046】
b)膜移行アミノ酸配列の使用
目的のポリペプチドは、膜移行配列との共有結合性融合又は非共有結合性相互作用を使用して、前記植物の標的細胞へ外部より適用することができる。天然又は合成の膜移行配列(MTS)の多くの例が当該技術分野で公知である。それらは、ペプチド薬及び治療タンパク質の細胞膜透過性を高めるために、それらとの融合物として広く使用されている。MTSは、単純なアミノ酸反復配列、例えば11個のアルギニン、RRRRRRRRRRRを含有する陽イオン性ペプチドであり得る(Matsushitaら、2001、J.Neurosci.21、6000−6007)。別の陽イオン性MTSは、長さ27アミノ酸のトランスポータン(GWTLNSAGYL LGKINLKALA ALAKKIL)である(Poogaら、1998、FASEB J.12、67−77)。そのようなペプチドが、細胞へ浸透するために、細胞質に面している脂質単層が陰イオン性リン脂質を含有する細胞の形質膜の非対称性を利用することは大いにあり得る(Buckland&Wilton、2000、Biochim.Biophys.Acta/Mol.Cell.Biol.Of Lipids、1483、199−216)。また、ある種のタンパク質は、形質膜を通過する細胞への能動移行を可能にするサブユニットを含有する。こうしたドメインに属するのは、HIV−1 Tat49−57(RKKRRQRRR)の塩基性ドメイン(Wenderら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97、13003−13008)、アンテナペディア43−58(RQIKIWFQNR RMKWKK)(Derossiら、1994、J.Biol.Chem.269、10444−10450)、カポジ線維芽細胞増殖因子のMTS(AAVALLPAVLLALLAP)(Linら、1995、J.Biol.Chem.270、14255−14285);VP22 MTS(Bennet、Dulby&Guy、2002、Nat.Biotechnol.20、20;Laiら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97、11297−302);キイロショウジョウバエの節足らずタンパク質及びエングレイルドタンパク質由来のホメオドメイン(Hanら、2000、Mol Cells 10、728−732)である。これらの正に荷電したMTSはいずれもそれ自身により、そしてGFP(Zhaoら、2001、J.Immunol.Methods、254、137−145;Hanら、2000、Mol Cells、10、728−732)、Creリコンビナーゼ(Peitzら、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、4489−4494)のような他のタンパク質との融合物としてエネルギーに依存しないやり方で細胞内移行を達成可能であることが示された。しかしながら、融合は、タンパク質の細胞への輸送に必ずしも必要とされるわけではない。GFP、b−Gal、又は全長の特異的抗体のような異なる種類のタンパク質との非共有結合性疎水性相互作用によって複合体を形成することができる21残基のペプチド担体、Pep−1(KETWWETWWTEWSQPKKKRKV)が設計された。これらの複合体は、細胞膜を効率的に透過することができる(Morrisら、2001、Nature Biotechnol.19、1173−1176)。MTSの羅列を続けることができるが、一般に、合成又は天然のアルギニンに富んだペプチドはいずれも、本発明を実施するのに役立つことができる(Futakiら、2001、J.Biol.Chem.276、5836−5840)。
【0047】
植物及び動物の細胞膜の間には、その一般構築と物理化学特性に影響を及ぼす本質的な構造上の違いはないので、目的のポリペプチドとMTSの前記融合物は、植物細胞を透過させるためにも効率的に使用することができる。しかしながら、動物細胞とは異なり、植物細胞は、堅い細胞壁を有する(Varner&Linn、1989、Cell、56、231−239;Minorsky、2002、Plant Physiol.128、345−53)。この障害物は、簡単な技術を使用することによって克服することができる。例えば、MTSを有する前記ポリペプチドを含有する(例えば粗製の)タンパク質抽出物を植物アポプラストへ注入することによって、前記ポリペプチドの植物細胞への移行が促進される。細胞壁を克服して植物細胞の細胞膜に達するための別のアプローチは、その多くが市販されている細胞溶解酵素の適用であり得る。前記ポリペプチドを含有する組成物へ加えられたならば、前記酵素は、細胞壁を除去し又は弱化するために役立つが、細胞膜は無傷のまま、前記MTSを含有する前記ポリペプチドによる浸透のために曝露させる。細菌及びカビ由来の前記細胞溶解酵素は、長い間工業規模で市販されており(例えば、トリコデルマ・ハルジアナムの「オノズカ」R−10酵素調製品等)、植物プロトプラストを入手するための植物細胞組織培養において広く使用されている(Sidorov&Gleba、1979、Tsitologia、21、441−446;Gleba&Gleba、1978、Tsitol Genet.12、458−469;Ghoshら、1994、J.Biotechnol.32、1−10;Boyer、Zaccomer&Haenni、1993、J.Gen.Virol.74、1911−1917;Hilbricht、Salamini&Bartels、2002、Plant J.31、293−303)。細胞溶解酵素を使用するアプローチには、本発明の大規模応用の可能性がある。細胞透過性ポリペプチドと細胞溶解酵素の混合物は、遺伝子改変植物に又はその部分に噴霧してよい。セルラーゼは、膜透過性ポリペプチドに対して細胞膜を接近可能にすることができる。細胞への移行と同時に、前記ポリペプチドは、目的の前記細胞プロセスと前記制御タンパク質のその植物内での発現を始動させることができる。
【0048】
c)前記ポリペプチドの病原体仲介性送達
植物病原体の中には、エフェクタータンパク質を植物細胞へ送達する高効率系を有するものがある。多くの植物及び動物の病原微生物は、エフェクタータンパク質を宿主細胞へ送達するのに特化した分泌系を使用する。このような分泌系、例えば、グラム陰性菌のIII型分泌系(Binetら、1997、Gene、192、7−11;Thanassi&Hultgren、2000、Curr.Opin.Cell Biol.12、420−430;Buttner&Bonas、2002、Trends Microbiol.10、186−192;Buttner&Bonas、2003、Curr.Opin.Plant Biol.6、312−319)とプロテオバクテリアのII型分泌系(Sandkwist、2001、Mol.Microbiol.40、271−283)についての文献には多くの記載がある。細菌からのタンパク質分泌の多数の経路は、Thanassi及びHultgren(2000、Curr.Opin.Cell Biol.12、420−430)の総説に記載されている。
【0049】
様々な植物病原菌のIII型分泌系は十分詳しく記載されており、目的の異種タンパク質を植物細胞へ送達するために前記細菌を使用することの可能性を開いた。例えば、Hrp遺伝子クラスター(III型タンパク質分泌)は、エルウィニア・クリサンテミ(chrysanthemi)よりクローニングされ(Hamら、1998、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95、10206−10211);シュードモナス・シリンガエ分泌系は本発明において使用するのに十分に詳しく記載されており(総説はJinら、2003、Microbes Infect.5、301−310を参照のこと);ザントモナス・キャンペストリスの分泌系は詳細に研究されているところである(Maroisら、2002、Mol.Plant Microbe.Interact.15、637−646;Szurekら、2002、Mol.Microbiol.46、13−23)。
【0050】
しかしながら、ポリペプチドを植物細胞へ送達するための候補物としての植物の病原体、特に宿主植物へ実質的な損害を引き起こす植物病原体は、本発明における価値は限定的なものである。好ましい代替物として、宿主植物に対していかなる悪影響も引き起こすことなく目的の異種タンパク質を移入することができるように、植物病原体を遺伝子操作することができる。さらに、目的の異種タンパク質の植物細胞への送達に必要なIII型分泌系の部分を保有するが、宿主植物を損傷する他の部分は保有しないように、非病原性細菌を遺伝子操作することができる。
【0051】
あるグラム陰性菌は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びアグロバクテリウム・リゾゲネスのように、よく研究されており、組換えDNAを植物細胞へ導入するために広く使用されている(Zambryski、1988、Annu Rev Genet.22、1−30;Hiei、Komari&Kubo、1997、Plant Mol.Biol.35、205−18;Newell、2000、Mol.Biotechnol.16、53−65)。それらは、多くの植物種の核へT−DNAを送達することができ、そうした輸送の機序はかなりよく研究されている(Hooykaas&Beijersbergen、1994、Annu.Rev.Phytopathol.32、157;Zupan&Zambryski、1995、Plant Physiol.107、1041−1047;Hansen&Chilton、1996、Proc Natl Acad Sci USA、93、14978−1483)。植物病原体の中で、アグロバクテリウムは本発明に最も適している。Hooykaasグループの文献(2000、Science、290、979−982)は、異種タンパク質としてのCreリコンビナーゼの宿主細胞へのアグロバクテリウム仲介性移入の可能性を証明している。この移入は、アグロバクテリウムと接触する間の植物細胞へのタンパク質移行に関与する毒性タンパク質又はその部分とCreの翻訳融合物を使用することによって達成された。Creリコンビナーゼの送達は、前記リコンビナーゼをコードするDNAの移入と共役していなかったが、遺伝子操作された標的細胞における組換えイベントを始動させるには十分効率的であった。植物細胞への細菌仲介性ポリペプチド送達のプロセスには、前記ポリペプチドの遺伝子を有する遺伝子操作された細菌細胞の利用可能性が必要とされる(WO0189283)。こうしたプロセスは、植物細胞における選択可能な変化を細胞培養において始動させるには十分に効率的であるが、その適用可能性を著しく制限する重大な欠点がある:第1に、前記ポリペプチドのコード配列全体が植物病原菌に存在するため、それはトランス遺伝子分離に対する制御を提供しない。第2に、前記ポリペプチドにより始動される変化が前記ポリペプチドを受容した細胞に限定されるため、植物のような多細胞生物全体での実用化するほどに効率的ではない。
【0052】
タンパク質スイッチ又は前記ポリペプチドをコードするトランス遺伝子の分離に対する制御
上記の理由のために、前記ポリペプチドを前記外部シグナルとして標的植物のそれぞれ若しくはほとんどの細胞へ送達するきわめて効率的な方法又は前記タンパク質スイッチの効率的な伝播のいずれか、あるいは両方のアプローチの組合せが必要とされる。さらに、方法全体を安全にするには、前記タンパク質スイッチをコードする異種核酸に対する厳格な制御が求められる。このことは、前記ポリペプチドの直接適用(例えば前記ポリペプチドを含有する溶液で植物を処理すること)によるか、又は前記ポリペプチドの細菌送達を使用することによって達成することができ、前記ポリペプチドのある部分は細菌により供給され、別の部分は標的植物の細胞にコードされる。
【0053】
上記の課題に対処するために、本明細書では、タンパク質スイッチをコードするトランス遺伝子の分離を制御するための「スプリット遺伝子」アプローチを使用することを提案する。この態様では、例えば、前記外部適用ポリペプチドと前記生物の細胞において産生されるポリペプチドのインテイン仲介性タンパク質トランススプライシング又はアフィニティー相互作用のいずれかによって、活性のあるタンパク質スイッチを組み立てる。これは、植物病原体送達されるタンパク質スイッチ又はポリペプチドでは特に重要な課題である。この場合、タンパク質スイッチは、連続したDNA配列により好ましくはコードされないので、その使用はずっとよく制御される可能性がある。重要にも、この態様には、並外れた生物学的安全性がある。
【0054】
その活性の回復を伴うタンパク質のインテイン仲介性トランススプライシングは、先行技術に知られていて、多くの公表文献で詳しく記載されている。タンパク質のアフィニティー相互作用及び/又はトランス−スプライシングは、工学処理されたインテインを使用することによって達成することができる。インテインは、タンパク質前駆体の内部にインフレームで埋め込まれてタンパク質成熟化プロセスの間に切除されるタンパク質配列として最初同定された(Perlerら、1994、Nucleic Acids Res.22、1125−1127;Perler,F.B.1998、Cell、92、1−4)。インテインと2つの隣接アミノ酸には、自己スプライシング反応を実施するのに必要なすべての情報と触媒基が内在する。タンパク質スプライシングの化学的な機序は、Perler とその共同研究者(1997、Curr.Opin.Chem.Biol.1、292−299)とShao&Kent(1997、Chem.Biol.4、187−194)により詳しく記載されている。インテインは、通常、N及びC末端のスプライシング領域と中央ホーミングエンドヌクレアーゼ領域又は小リンカー領域からなる。これまでに100以上のインテインが知られていて、真核生物、アルケバクテリア及びユウバクテリアが含まれる様々な生物の核及びオルガネラのゲノムの間に分布している(http://www.neb.com/neb/inteins.html)。インテインはトランススプライシングが可能であることが示された。中央ホーミングエンドヌクレアーゼ領域の除去は、インテインの自己スプライシングに影響を及ぼさない。このことは、インテインのN末端及びC末端断片が別々の断片として同時発現されて、エクステイン(インテインの助けにより一緒に連結されるタンパク質断片)へ融合するときに、トランススプライシングをin vivoで実効することができる、トランススプライシング系の設計を可能にした(Shingledeckerら、1998、Gene、207、187−195)。また、結核菌RecAインテインのN及びC末端断片でも、タンパク質のトランススプライシングがin vitroで起こり得ることが証明された(Millsら、1998、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95、3543−3548)。この現象は、シネコシスティス種の菌株、PCC6803のDnaEタンパク質でも同定された(Wuら、1998、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95、9226−9231)。反対のDNA鎖上で700Kb対より多く離れて位置する2つの異なる遺伝子がこのタンパク質をコードする。また、これら遺伝子によりコードされる2つのインテイン配列が、大腸菌細胞において試験するときに、分離したミニインテインを再構成して、タンパク質のトランススプライシング活性に仲介することができることも示された。同じ起源(シネコシスティス種の菌株、PCC6803)のインテインを使用して、大腸菌において、2つの非連結断片より機能性の除草剤耐性アセト乳酸シンターゼII(Sunら、2001、Appl.Environ.Microbiol.67、1025−29)と5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸シンターゼ(EPSPS)(Chenら、2001、Gene、263、39−48)が産生された。
【0055】
タンパク質部分のトランススプライシングは、元のタンパク質機能を回復させるために必ずしも必要とされない。多くの場合、タンパク質機能を回復させるには、ペプチド結合形成を伴わないタンパク質部分間のアフィニティー相互作用で十分である。このアプローチは、2以上の機能性ドメインを有するタンパク質で最も成功している(インテイン仲介性トランススプライシングの場合のように)。このような場合、ドメインは、コード配列を2つの転写ベクター間に分離することによって互いから別々にして、タンパク質仲介性アフィニティー相互作用を介して一緒にすることができる。タンパク質ドメインは、相互作用するインテイン部分を使用する必要性のないままに相互作用することができる。タンパク分解感受性リンカー領域により連結された2つの構造ドメインからなるIS10トランスポザーゼの活性を再構成した例がある(Kwon、Chalmers&Kleckner、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92、8234−8238)。ドメインのそれぞれは、別々ではトランスポザーゼ機能をもたらすことができない。しかしながら、一緒に加えられるとき、それらは、リンカー領域により連結されていなくても、転置をもたらすことができる。単離断片からのペプチド結合形成を伴わない機能性タンパク質の再構成の他の多くの例がある。機能性インスリン受容体結合部位の効率的な組立てが非機能性断片の単純な混合によって達成された(Kristensenら、2002、J.Biol.Chem.277、18340−18345)。2つの不活性ペプチド断片の単純な混合による活性タンパク質の再構成が、ロイシンデヒドロゲナーゼ(Oikawaら、2001、Biochem.Biophys.Res.Commun.280、1177−1182)、Ca2+結合タンパク質、カルビンディンD28k(Berggardら、2000、Protein Sci.9、2094−2108;Berggardら、2001、Biochemistry、40、1257−1264)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)発育レギュレーター、COP1(Staceyら、2000、Plant Physiol.124、979−990)、ドーパミンD受容体(Scarselliら、2000、Eur.J.Pharmacol.397、291−296)、ミクロプラスミノーゲン(De Los Santos、Wang&Reich、1997、Ciba Found.Symp.212、76−83)、及び他の多くのものについて示された。ロイシンジッパードメインは、目的のタンパク質へ融合したならばすぐにタンパク質のヘテロ二量体を形成することで特に興味深い(Riecker&Hu、2000、Methods Enzymol.328、282−296;Liuら、2001、Curr.Protein Pept.Sci.2、107−121)。興味深い例は、タンパク質−タンパク質相互作用を低分子で制御することである。例えば、Creリコンビナーゼは、2つの不活性断片に分離したときに、2つの不活性断片の間のヘテロ二量体化による活性補完を始動させる低分子ラパマイシンの存在下にそのリコンビナーゼ活性の100%を回復することができた(Jullienら、2003、Nucleic Acids Res. 31、e131)。ラパマイシンとその無毒の相同体は、条件タンパク質スプライシングにおいても使用することができて、そこではそれらがトランススプライシング反応を引き起こす(Mootzら、2003、J.Am.Chem.Soc.125、10561−10569)。ラパマイシンやラパマイシン類似体のような低分子の助けによりタンパク質−タンパク質相互作用を調節することに類似したアプローチが、例えば、Amaraら、1997、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94、10618−10623;Pollockら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97、13221−13226;Pollockら、2002、Nat.Biotechnol.20、729−733により記載されている。デキサメタゾン及びメトトレキセートのような他の多くの化学2量体化剤(chemical dimerizers)を不活性タンパク質断片より活性ホモ又はヘテロ2量体を組み立てるのに使用することができる(総説については、Pollock&Clackson、2002、Curr.Opin.Biotechnol.13、459−467を参照のこと)。
【0056】
アフィニティー相互作用は、天然に存在する相互作用するタンパク質ドメインを使用することによるか、又はツーハイブリッド(Fields&Son、1989、Nature、340、245−246;Chienら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88、9578−9582;「酵母プロトコールハンドブック」クローンテク・ラボラトリーズ社、2000)又はファージディスプレイの助けでそうしたドメインを同定することによって、効率的に工学処理することができる。例えば、ファージディスプレイは、目的のタンパク質断片に対して高いアフィニティーがある5〜12マーのオリゴペプチドを選択するために使用することができる。いくつかのこうした系が現在市販されている。ファージディスプレイは、短い可変の5〜12マーオリゴペプチドをバクテリオファージの外被タンパク質へ挿入する選択技術である。この可変オリゴペプチドをコードする配列がバクテリオファージの外被タンパク質の対応遺伝子に含まれる。通常、7マーのファージディスプレイライブラリーは、7マーアミノ酸の様々な組合せを可変オリゴペプチドに担う少なくとも10の独立したクローンを有する。ファージディスプレイは、バクテリオファージと目的のタンパク質の間のアフィニティー複合体を創出するために使用されていて、「パンニング法」と呼ばれるin vitro選択法によって所与の標的タンパク質へのペプチドリガンドを迅速に同定することを可能にする(Parmley、Smith、1988、Gene 73、305−318;Corteseら、1995、Curr.Opin.Biotechnol.6、73−80)。パンニング法の後で創出されるファージ−タンパク質複合体は解離させることができて、標的タンパク質へのアフィニティーがあるファージを増幅することができる。通常、高いアフィニティーのあるバクテリオファージを得るには、3回のパンニングサイクルを必要とする。3ラウンドの後で、ゲノムDNA中の可変領域を配列決定することによって個々のクローンを特性決定することができる。前記の系は、短い相互作用オリゴペプチドを同定して、タンパク質断片を一緒にするためのアフィニティータグとしてそれらを使用するために効率的に採用することができる。
【0057】
別のアプローチには、ロイシンリッチリピート(Kobe&Deisenhofer、1994、Trends Biochem Sci.19、415−421;Kobe&Kajava、2001、Curr.Opin.Struct.Biol.11、725−732)、ジンクフィンガー(Grossley、Merika&Orkin、1995、Mol.Cell.Biol.15、2448−2456)、アンキリンリピート(Thompson、Brown&McKnight、1991、Science、253、762−768)、クロモドメイン(Paro&Hogness、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88、263−267;Singhら、1991、Nucleic Acids Res.19、789−793)やタンパク質−タンパク質相互作用に関与する他の多くのものといった、天然に存在する相互作用ドメインの使用が含まれる。しかしながら、タンパク質−タンパク質相互作用に関与する可能性については、起動融合物(motive fusions)を含有する工学処理タンパク質断片だけでなく、内因性タンパク質も考慮に入れてよい。
【0058】
目的の細胞プロセスを始動させるためにタンパク質スイッチを植物宿主内に伝播させること
本明細書において、外部適用シグナルにより、特に前記ポリペプチドにより到達され得る植物の細胞の数が少ないという束縛を克服するためのアプローチを提供する:前記シグナルは、細胞間移行又は浸透移行の可能な細胞内タンパク質スイッチ分子の形成をもたらすことができる。さらに、前記シグナルは、目的遺伝子又はその部分を発現して、前記植物における細胞間移行又は浸透移行が可能であるウイルスベースのベクター(アンプリコン)の形成をもたらす場合がある。これらのアプローチでは、ウイルスベクター又はタンパク質スイッチ分子の片方又はその両方の移動により、前記植物の重要部分と遺伝子改変植物全体にさえ及ぶ細胞プロセス及び/又は生化学的カスケードの伝播をもたらすことができる。
【0059】
実施例1において、外部より送達されるリコンビナーゼは、ウイルス移行タンパク質(MP)とのその融合による細胞間移行とそれが到達する細胞においてそれ自身の発現をスイッチオンすることの可能な細胞内リコンビナーゼの発現を始動させる(図3を参照のこと)。このリコンビナーゼは、それが到達する細胞における目的遺伝子(GUS遺伝子)の発現を始動させることも可能である。
【0060】
実施例2において、タンパク質スイッチは、ウイルスベクターの前駆体ベクターをウイルスベクターへ変換するためのリコンビナーゼを含有する。このウイルスベクターは、増幅、細胞間移行及び浸透移行が可能である。pICHGFPinv(図4−A)のloxP部位でのインテグラーゼ仲介性の組換えは、前記部位が隣接するDNA断片の逆位と、目的遺伝子(GFP)の増幅及び発現の可能なウイルスベクターの形成をもたらす(図4−B)。このことは、ベクター増幅と全体輸送に必要なウイルス成分(3’NTR−3’非翻訳領域;CP−外被タンパク質)を、アクチン2プロモーターのような、問題の多細胞生物において活性なプロモーターに対してセンス配向に配置することの結果として達成される。従って、他のウイルスベクター成分(RdRp及びCP)と一緒にそれがcDNAを形成し、そこでのアクチン2プロモーター推進の転写によって、増幅、細胞間移行及び浸透移行の可能なRNAウイルスベクターが形成される。随意に、前記ベクターは、CP(外被タンパク質)遺伝子を除去することによってさらに修飾してよい。CP遺伝子を欠くそうしたベクターは、依然として細胞間移行が可能であろう。非ウイルス遺伝子の植物における発現のための植物ウイルスをベースとする発現系の構築は、いくつかの論文(Dawsonら、1989、Virology、172、285−293;Brissonら、1986、Methods in Enzymology、118、659;MacFarlane&Popovich、2000、Virology、267、29−35;Gopinathら、2000、Virology、267、159−173;Voinnetら、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96、14147−14152)と総説(Porta&Lomonossoff、1996、Mol.Biotechnol.5、209−221;Yusibovら、1999、Curr.Top.Microbiol.Immunol.240、81−94)に記載されていて、当業者は容易に実施することができる。ウイルスベクターベースの発現系は、植物の核トランス遺伝子に比較して、有意により高い収率のトランス遺伝子産物を提供する。例えば、トランス遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルは、ウイルスベクターより発現されるとき、植物の細胞タンパク質含量全体の5〜10%に達する場合がある(Kumagaiら、2000、Gene、245、169−174;Shivprasadら、1999、Virology、255、312−323)。RNAウイルスは、DNAウイルスに比べてより高い発現レベルを提供するので、最も適している。トランスジェニック材料の植物における全体発現に適したウイルスベクターについて記載するいくつかの公開特許がある(US5316931;US5589367;US5866785)。一般に、これらのベクターは、ウイルスタンパク質との翻訳融合物として(US5491076;US5977438)、追加のサブゲノムプロモーターより(US5466788;US5670353;US5866785)、又は独立したタンパク質翻訳のためにIRES(内部リボソームエントリー部位)要素を使用するポリシストロニックなウイルスRNAより(ドイツ特許出願DE10049587)外来遺伝子を発現することができる。第一のアプローチ、ウイルス構造タンパク質と組換えタンパク質の翻訳融合(Hamamotoら、1993、BioTechnology、11、930−932;Gopinathら、2000、Virology、267、159−173;JP6169789;US5977438)は、組換えタンパク質産物の有意な収率を与える。しかしながら、この組換えタンパク質をウイルスのタンパク質より容易に分離することができないので、このアプローチの有用性は限定される。このアプローチの代替物は、ウイルスの部位特異的プロテアーゼにより認識されるペプチド配列を介するか又は触媒ペプチドを介した翻訳融合物を利用する(Doljaら、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89、10208−10212;Gopinathら、2000、Virology、267、159−273;US5162601;US5766885;US5491076)。異種サブゲノムプロモーターに構築するウイルスベクターを利用する発現法は、今日最も高いレベルのタンパク質産生を提供する(US5316931)。ウイルスベクターと他の多くのものの最も重大な欠点は、増幅すべきDNAのサイズに関してその能力が限定されることである。通常、安定した構築体は、1kb以下のインサートを収容する。植物の機能性ゲノミクスのある領域では、G.della−Cioppaら、(WO993651)が内因性遺伝子を沈静化する目的で植物cDNAライブラリーを発現させるためのTMBベースのウイルスベクターの使用について記載したように、このことがさほど重大な限定にならない場合もある。ヘルパーウイルスを利用する2成分増幅系は、やや優れた能力を提供するかもしれない(US5889191)。植物ゲノムへ安定に組み込まれる発現カセットに基づいた他の系は、ウイルスベクターベースのアンプリコンの発現を推進する強い35Sプロモーターを含有する。これらの系は、通常、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を受ける(Angell&Baulcombe、1997、EMBO J.16、3675−3684)。PTGSサプレッサーの使用は、こうしたサイレンシングを克服するために必要である(WO0138512)。そのような系の助けにより目的のタンパク質の大量産生を達成するには、沈静化アンプリコンを担う植物とPTGSサプレッサー(Malloryら、2002、Nature Biotechnol.20、622−625)の供給源を担う植物の間で交配を実施することが必要となる。明らかに、こうした系には融通性がなく、トランス遺伝子発現に対する厳格な制御もないので、植物の生長及び発育を妨害しないタンパク質の産生に制限される。
【0061】
我々のアプローチは、上記のウイルスベクター系の限界、特に、発現すべき遺伝子のサイズについてのその限定された能力と発現を制御することにおける融通性の不足を克服することを可能にする。我々の発明において、ウイルスベクター前駆体(又はプロベクター)は、好ましくは、トランスジェニック植物の各細胞に存在する。大きな遺伝子(1Kbを超える)の発現の場合、タンパク質スイッチの移動は、ウイルスベクターの移動より好ましい。ウイルスベクターは、細胞において効率的に増幅することができて、ウイルスベクターのインサートのサイズは、主として細胞間移行及び浸透移行の能力に影響を及ぼす。故に、ウイルスベクターを活性化することの可能な可動性タンパク質スイッチを宿主植物の多くの細胞又は細胞全部にさえ提供することにより、上記の問題が解決されるだろう。さらに、そうしたウイルスベクターの増幅を宿主植物のすべてではなくともほとんどの細胞において開始させることができる効率的なスイッチング機能のある系を提供するために、細胞間移行/浸透移行の可能なタンパク質スイッチを本発明において使用する。
【0062】
この目的のために、タンパク質スイッチは、前記タンパク質に細胞間移行及び/又は浸透移行を可能にするタンパク質部分を含有する場合がある。細胞間輸送の可能なそのようなタンパク質部分の例が先行技術に知られている。植物の転写因子、防御関連タンパク質、及びウイルスタンパク質が原形質連絡を通して通行し得るという証拠がある(総説については、Jackson&Hake、1997、Curr.Opin.Genet.Dev.7、495−500;Ding,B.1998、Plant Mol.Biol.38、279−310;Jorgensen RA.2000、Sci STKE、58、PE2;Golz&Hudson、2002、Plant Cell、14、S277−S288を参照のこと)。GFPとキュウリモザイクウイルスの3a移行タンパク質の融合物が原形質連絡を介して近隣の細胞へ転出し得ることが示された(Itayaら、2002、Plant Cell、14、2071−2083)。そうした融合はまた、トランスジェニック根茎から非トランスジェニック接ぎ穂への篩部を介した移動を示した。タバコモザイクウイルス(TMV)の移行タンパク質、P30は、原形質連絡を介して細胞間を通行し、原形質連絡のサイズに影響を及ぼすことによって、こうした移動に特定されていない他の多くの大きな高分子の移動を促進する(Citovskyら、1999、Phil.Trans.R Soc.London B Biol Sci.354、637−643;Ding、Itaya&Woo、1999、Int Rev.Cytol.190、251−316)。このP30:GFPの融合は、生理学的条件に依存しない細胞間移行を示したが、非標的指向GFPの原形質連絡による伝播は、植物細胞の生理学的状態に概ね依存する(Crawford&Zambryski、2001、Plant Physiol.125、1802−1812)。転写因子、knotted1とGFPの融合も、細胞間輸送の能力を示した。このGFP:KN1融合タンパク質は、タバコ植物の葉の内部組織から表皮へ、表皮細胞間の、そして茎頂分裂組織への移動を明示した(Kimら、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99、4103−4108)。原形質連絡は、こうした転送において重要な役割を果たし、その生理学上の段階及び構造はこうした転送の効率性に重要である。例えば、単純な原形質連絡は、タンパク質の非特異的な転送を生育中のタバコ葉においては可能にするが、分岐した葉はそれを可能にしない(Oparkaら、1999、Cell、98、5−8)。タンパク質が含まれる高分子の転送を可能にすることは、原形質連絡の正常な機能であるらしく、これを植物ウイルスはその細胞間伝播のために利用した(Fujiwaraら、1993、Plant Cell、5、1783−1794)。一般に、原形質連絡と篩部が情報高分子(タンパク質と核酸)の輸送及び送達において重要な役割を担うことは明らかである(Ruiz−Medranoら、2001、Curr.Opin.Plant Biol.4、202−209)。Cucurbita maxima及びRicinum communis由来の篩部樹液タンパク質には、原形質連絡を介した細胞間輸送の能力がある(Balachandranら、1997、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94、14150−14155)。また、輸送機能を有するウイルス起源のポリペプチドと前記タンパク質を融合することによって、目的のタンパク質の哺乳動物細胞における細胞間輸送を主に治療目的のために工学処理することについての豊富なデータもある(US6358739;US6184038;US6316252)。例えば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)のビリオンタンパク質、VP22は、別のタンパク質へ融合するときでも、細胞間輸送の顕著な特性を明示する。前記ビリオンタンパク質は、p53タンパク質全体(Phelanら、1998、Nat.Biotechnol.16、440−443;Zendelら、2002、Cancer Gene Ther.9、489−496)、グルココルチコイド受容体(Sodenら、2002、J.Endocrinol.172、615−625)との融合物として治療目的に使用される。別のHSVタンパク質、US11にも細胞間輸送活性がある。このことは、前記タンパク質をグリーン蛍光タンパク質(GFP)へ融合することによって証明された(Koshizukaら、2001、Biochem.Biophys.Res.Commun.288、597−602)。細胞不死化活性を有するポリペプチドの細胞間送達のために、VP22タンパク質と並んでヒト免疫不全ウイルス(HIV)のTATタンパク質が使用された(US6358739)。
【0063】
図5は、本発明のタンパク質スイッチが細胞間移行を達成することの可能性を概略図で示す。外部適用シグナル(例、前記ポリペプチド)と細胞内で合成されるタンパク質スイッチは、同じであるか又は異なるタンパク質セグメントの移行シグナル又は輸送シグナルへの融合物となり得る。我々の実施例(図4)では、同じタンパク質セグメント、例えばリコンビナーゼを細胞膜透過性のために膜転座シグナル(MTS)と融合して外部シグナルとして役立てるか、又はタンパク質部分(TP)と融合して細胞間転送をもたらす。小さなタンパク質(GFPやより小さいもののような)では、単純伝播による高効率的な細胞間移行が可能であり得るので、TPへの融合が必要でない場合があることはきわめてあり得る。しかしながら、より大きなタンパク質スイッチでは、TP又はその活性断片との融合が有利である。細胞間転送に関与するすべてのタンパク質の中で、ウイルスタンパク質が最もよく研究されていることは明らかである。それらは、タンパク質スイッチに含むべき最も好ましい候補物である。図5に示すように、外部より送達されるポリペプチド(MTS:リコンビナーゼ)は、同じ酵素活性を有するタンパク質スイッチ(リコンビナーゼ:TP)をコードするトランス遺伝子の発現を始動させることができるが、それは1つの細胞を出て他の細胞に入ること(細胞間転送)が可能である。転送が可能な前記タンパク質スイッチは、影響を受けるすべての細胞においてタンパク質スイッチ発現を始動させ、これは連鎖反応となる。前記タンパク質スイッチがその細胞において利用可能になることは、DNA再配列による目的遺伝子(GOI)の細胞における発現を始動させて、ウイルスベクターをベースとするアンプリコン形成を引き起こすための前提条件である。こうしたアンプリコンより発現される目的遺伝子のサイズは、この系においてはアンプリコンの安定性及び細胞間移行が必要でないので、効率的なGOI発現の限定因子にならない:ウイルスのプロベクターが各植物細胞に存在し得て、タンパク質スイッチの伝播によりこれらの細胞のそれぞれにおいて目的遺伝子の発現を始動させることができるからである。しかしながら、好ましくは、アンプリコンの伝播が効率的なGOI発現に貢献する。
【0064】
本発明の実施例3において、我々は、タンパク質スイッチの機能のために選択するタンパク質のサイズの課題に対処するアプローチを記載する。例えば、ほとんど2kbのcDNAによりコードされるインテグラーゼphiC31は、細胞間移行の原因となるタンパク質への融合後の効率的な細胞間転送にとっては大きすぎるかもしれない。こうした場合、我々は、分離タンパク質アプローチを使用し、ここでは細胞内タンパク質スイッチの一部だけに細胞間転送が可能であり、他の部分は真核細胞によるいかなる制約もなしに発現される(図6)。この特定の実施例では、インテイン仲介性のタンパク質トランススプライシングにより機能性タンパク質スイッチを組み立てる。しかしながら、分離したタンパク質部分間の単純なアフィニティー相互作用でもその機能性を回復させることができる。
【0065】
本明細書において考慮されるタンパク質スイッチ系の最終目的は、目的の細胞プロセス又は目的の生化学反応のカスケードを植物産生系において機能制御することである。生化学的カスケードとは、目的とする特定の産物、効果、又は形質を最終的に生じる、宿主産生系における一連の生化学反応である。
【0066】
本発明における使用に好ましい植物にはあらゆる植物種が含まれ、農業経済及び園芸上重要な種が好ましい。本発明における使用の一般的な収穫植物には、アルファルファ、大麦、マメ、アブラナ、カウピー、ワタ、トウモロコシ、クローバー、ハス、ヒラマメ、ルビナス、キビ、エンバク、エンドウ、ラッカセイ、コメ、ライ麦、スイートクローバー、ヒマワリ、スイートピー、大豆、サトウモロコシ、ライコムギ、クズイモ、ハッショウマメ、ソラマメ、小麦、フジ、及びナッツ植物が含まれる。本発明を実施するのに好ましい植物種には、イネ科、キク科、ナス科及びバラ科の代表種が含まれる。ナス科が好ましい。
【0067】
さらに、本発明における使用に好ましい種は、上記に特定されるものに加えて、以下の属:シロイヌナズチ、コヌカグサ、ネギ、キンギョソウ、オランダミツバ、ラッカセイ、クサスギカズラ、オオカミナスビ、カラスムギ、ホウライチク、アブラナ、スズメノチャヒキ、ルリマガリバナ、ツバキ、アサ、トウガラシ、ヒヨコマメ、アカザ、キクニガナ、ミカン、コーヒーノキ、ジュズダマ、キュウリ、カボチャ、ギョウギシバ、カモガヤ、チョウセンアサガオ、ニンジン、ジギタリス、ヤマノイモ、アブラヤシ、オヒシバ、ウシノケグサ、イチゴ、フクロソウ、ダイズ、ヒマワリ、キスゲ、パラゴムノキ、オオムギ、ヒヨス、サツマイモ、アキノノゲン、ヒラマメ、ユリ、アマ、ドクムギ、ミヤコグサ、トマト、ハナハッカ、リンゴ、マンゴー、イモノキ、ウマゴヤシ、アフリカウンラン、タバコ、イガマメ、イネ、キビ、テンジクアオイ、チカラシバ、ツクバネアサガオ、エンドウ、インゲン、アワガエリ、イチゴツナキ、サクラ、キンポウゲ、ダイコン、スグリ、トウゴマ、キイチゴ、サトウキビ、サルメンバナ、ライムギ、セネシオ、エノコログサ、シロガラシ、ナス、モロコシ、イヌシバ、カカオ、シャジクソウ、レイリョウコウ、コムギ、ソラマメ、ササゲ、ブドウ、トウモロコシと、Olyreae科、Pharoideae科からの植物とその他の多くの種である。
【0068】
本発明の範囲内では、食物又は飼料連鎖に含まれない植物種が医薬品及び工業用タンパク質の生産に特に好ましい。その中で、十分に開発された発現ベクター(特に、ウイルスベクター)系で形質転換して培養することが容易な種として、タバコ属の種が最も好ましい。
【0069】
本発明の範囲内で使用することができる非植物起源の好ましい多細胞系は、哺乳動物起源の細胞培養物、昆虫細胞培養物、非ヒトのトランスジェニック生物であろう。
我々の発明を使用して発現及び単離することができる、目的遺伝子、その断片(機能性又は非機能性)、及びその人工誘導体には、限定されないが、デンプン修飾酵素(デンプンシンターゼ、デンプンリン酸化酵素、脱分枝酵素、デンプン分枝酵素、デンプン分枝酵素II、顆粒結合性デンプンシンターゼ)、スクロースリン酸シンターゼ、スクロースホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ポリフルクタンスクラーゼ、ADPグルコースピロホスホリラーゼ、シクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ、フルクトシルトランスフェラーゼ、グリコーゲンシンターゼ、ペクチンエステラーゼ、アプロチニン、アビジン、細菌レバンスクラーゼ、大腸菌glgAタンパク質、MAPK4及び相同分子種、窒素同化/代謝酵素、グルタミンシンターゼ、植物オスモチン、2Sアルブミン、タウマチン、部位特異的リコンビナーゼ/インテグラーゼ(FLP、Cre、Rリコンビナーゼ、Int、SSVIインテグラーゼR、インテグラーゼphiC31、又はこれらの活性断片若しくは変異体)、イソペンテニルトランスフェラーゼ、Sca M5(大豆カルモジュリン)、鞘翅類型の毒素又は殺虫活性断片、ユビキチン共役酵素(E2)融合タンパク質、脂質、アミノ酸、糖、核酸及び多糖を代謝する酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、プロテアーゼの不活性プロ酵素型、植物タンパク質毒素、繊維産生植物において繊維を改変させる形質、バチルス・スリンギエンシス由来の鞘翅類活性毒素(Bt2毒素、殺虫性結晶タンパク質(ICP)、CryIC毒素、デルタエンドトキシン、ポリオペプチド毒素、プロトキシン等)、昆虫特異的毒素AaIT、セルロース分解酵素、Acidothermus celluloticus由来E1セルラーゼ、リグニン修飾酵素、シンナモイルアルコールデヒドロゲナーゼ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ、サイトキニン代謝経路の酵素、HMG−CoAレダクターゼ、タウマチン、大腸菌の無機ピロホスファターゼ、種子の貯蔵タンパク質、エルウィニア・ヘルビコーラ リコペンシンターゼ、ACCオキシダーゼ、pTOMコードタンパク質、フィターゼ、ケトヒドロラーゼ、アセトアセチルCoAレダクターゼ、PHB(ポリヒドロキシ酪酸)シンターゼ、アシルキャリヤータンパク質、ナピン、EA9、非高等植物フィトエンシンターゼ、pTOM5コードタンパク質、ETR(エチレン受容体)、プラスチドのピルビン酸リン酸ジキナーゼ、線虫誘導性膜貫通孔タンパク質、植物細胞の光合成又はプラスチド機能を高める形質、スチルベンシンターゼ、フェノールを水酸化することが可能な酵素、カテコールジオキシゲナーゼ、カテコール2,3−ジオキシゲナーゼ、クロロムコン酸(chloromuconate)シクロイソメラーゼ、アントラニル酸シンターゼ、Brassica AGL15タンパク質、フルクトース1,6−ビスホスファターゼ(FBPアーゼ)、AMV RNA3、PVYレプリカーゼ、PLRVレプリカーゼ、ポリウイルス外被タンパク質、CMV外被タンパク質、TMV外被タンパク質、ルテオウイルスレプリカーゼ、MDMVメッセンジャーRNA、突然変異体ジェミニウイルスレプリカーゼ、Umbellularia californica C12:0選好性アシル−ACPチオエステラーゼ、植物C10又はC12:0選好性アシル−ACPチオエステラーゼ、C14:0選好性アシル−ACPチオエステラーゼ(luxD)、植物シンターゼA因子、植物シンターゼB因子、D6−デサチュラーゼ、植物細胞における脂肪酸のペルオキシゾームb−酸化に酵素活性を有するタンパク質、アシル−CoAオキシダーゼ、3−ケトアシル−CoAチオラーゼ、リパーゼ、トウモロコシアセチル−CoA−カルボキシラーゼ、5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸シンターゼ(EPSP)、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(BAR、PAT)、CP4タンパク質、ACCデアミナーゼ、翻訳後切断部位を有するタンパク質、スルホンアミド耐性を与えるDPHS酵素、細菌ニトリラーゼ、2,4−Dモノオキシゲナーゼ、アセト酢酸シンターゼ又はアセトヒドロキシ酸シンターゼ(ALS、AHAS)、ポリガラクツロナーゼ、Taqポリメラーゼ、細菌ニトリラーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、メチラーゼ、DNA及びRNAリガーゼ、DNA及びRNAポリメラーゼ、逆転写酵素、ヌクレアーゼ(DNアーゼ及びRNアーゼ)、ホスファターゼ、トランスフェラーゼ等が含まれる細菌又はファージの他の多くの酵素が含まれる。
【0070】
本発明はまた、工業用酵素(セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、フィターゼ、等)や繊維タンパク質(コラーゲン、クモ絹糸タンパク質、等)が含まれる、市販の貴重で医薬品として重要なタンパク質の分子農業(farming)及び精製の目的にも使用してよい。本発明に記載のアプローチを使用して、どのヒト又は動物の健常タンパク質も発現及び精製することができる。こうした目的タンパク質の例には、特に、免疫応答タンパク質(モノクローナル抗体、単鎖抗体、T細胞受容体、等)、病原微生物より派生するものが含まれる抗原、コロニー刺激因子、リラキシン、ソマトトロピン(HGH)及びプロインスリンが含まれるポリペプチドホルモン、サイトカインとその受容体、インターフェロン、増殖因子と凝固因子、酵素活性のあるリソソーム酵素、線維溶解ポリペプチド、血液凝固因子、トリプシノーゲン、a1−アンチトリプシン(AAT)、ヒト血清アルブミン、グルコセレブロシダーゼ、ネイティブコレラB毒素、並びに上記タンパク質の融合物、突然変異体型、及び合成誘導体といった、機能保存タンパク質が含まれる。
【0071】
本発明と組み合わせることができるさらなる態様及び実施例は、DE10254167及びDE10254166に見出すことができる。
【実施例1】
【0072】
植物ゲノムへ安定に組み込まれたGus試験構築体を使用する、タンパク質スイッチの増幅及び移動の検出
構築体のpICHrecomb(図3)は、TMV移行タンパク質(MP)へ融合したcreリコンビナーゼとこれに続く転写ターミネーターを含有する。この融合タンパク質は、プロモーターの制御下にないので発現され得ず、2つのloxP部位の間に反対の配向で位置する。このカセット(Lox部位間のリコンビナーゼMP融合物−ターミネーター)をシロイヌナズナアクチン2プロモーターの下流にアンチセンス配向で挿入する。Creリコンビナーゼ(本発明の前記ポリペプチドとして外部より提供される)の作用によるリコンビナーゼカセットのフリッピング(flipping)により、リコンビナーゼMP遺伝子はアクチン2プロモーターの制御下に置かれ、その発現が生じる。
【0073】
PICHtestGUSは、creリコンビナーゼの発現を検出するように設計された試験構築体である。それは、バイナリーベクター上に、35Sプロモーターと、それに続くLoxP部位、GFP ORF、Nosターミネーター、直接配向の第二のLoxP部位、Gus ORF及びOcsターミネーターを含有する。Gus遺伝子は、プロモーターへ直に融合してはいないので、そのものとして発現されない。creリコンビナーゼの発現は、GFP及びNosターミネーターの切除をもたらし、Gus遺伝子を35Sプロモーターの制御下に置く。
【0074】
pICHtestGus又はpICHrecombのT−DNAを含有するトランスジェニックタバコ・ベンサミアナ植物を、Horschら(1985、Science、227、129−131)に記載のように、葉ディスクのアグロバクテリウム仲介性形質転換により入手した。どちらかの構築体で形質転換したアグロバクテリウム菌株GV3101とともに、30分間葉ディスクをインキュベートした。選択剤のない培地(MS培地 0.1mg/l NAA,1mg/l BAP)で3日間のインキュベーションの後で、100mg/Lのカナマイシンを補充した同じMS培地で、形質転換体の選択を実施した。アグロバクテリウムの増殖を抑えるために、この培地には300mg/Lのカルベニシリンと300mg/Lのセフォタキシムも補充した。同じ濃度の選択剤を補充した、ホルモンのない選択MS培地で再生体をインキュベートして、根付けを誘導した。分離するT2集団におけるトランス遺伝子の存在をPCR解析により確かめた。両方の構築体(pICHtestGus及びpICHrecomb)を含有する植物を個別の形質転換体のハイブリダイゼーションにより入手した。両方の構築体を含有する植物の同定は、PCRを使用して実施した。
【0075】
両方の構築体を含有するタバコ・ベンサミアナ植物より切除した葉に構築体pICH3981(creはシロイヌナズナアクチン2プロモーターの制御下にある)を射撃した。対照として、構築体pICHtestGusのT−DNAだけを含有するタバコ・ベンサミアナ植物もpICH3981で射撃した。射撃された葉を、湿った濾紙片入りのペトリ皿に保存して、この葉を数日間生かした。5日後、この葉をX−gluc溶液で染色した。構築体pICHtestGusのT−DNAを含有する形質転換体の射撃された葉だけが多くの個別染色された細胞を明示したが、これは射撃によりcreを受けた細胞より期待されることである。対照的に、構築体pICHtestGus及びpICHrecombの両方のT−DNAを含有する形質転換体の射撃された葉は、青く染色した細胞の多くのパッチを明示して、リコンビナーゼMP遺伝子融合物の活性化が近隣細胞への移動をもたらし、そこではそれがそれ自身の発現を活性化するだけでなく、試験構築体を組み換えることもできることを示した。
【実施例2】
【0076】
細胞間転送が可能な部位特異的DNAリコンビナーゼを含有するタンパク質スイッチの、植物ゲノムへ安定に組み込まれたプロベクター部分よりアンプリコンを組み立てるための使用:GFP発現
標準の分子生物学技術(Maniatisら、1982「分子クローニング:実験マニュアル」コールドスプリングハーバー研究所、ニューヨーク)を使用して、2つのプロベクター部分とともにT−DNAを担うバイナリーベクターのpICHFPinv(図4)を作製した。プロベクター要素とその構築及び機能の基本原理についての説明は、特許出願WO02/88369(PCT/EP02/03476)とDE10121283に記載されている。このベクターは、形質転換マーカー(NPTII遺伝子)とTMVの5’端(RNA依存性RNAポリメラーゼ[RdRp]、移行タンパク質[MP]が含まれ、サブゲノムプロモーターが続く)を含有し、これにはシロイヌナズナアクチン2プロモーター(Anら、1996、Plant J.10、107−121)が先行する。このベクターはまた、目的遺伝子(GFP)を含有するプロベクターの3’端、ウイルス外被タンパク質(CP、浸透移行をもたらす)、ウイルスベクターの3’−非翻訳領域(3’NTR)及び転写ターミネーターを含有する。3’プロベクター部分には反対の配向でLoxP部位が隣接し、5’プロベクターに対して反対の配向でベクター上に位置する。故に、この構築体は、このままではTMVベクター増幅をもたらすことができない。creリコンビナーゼの適用は、3’プロベクター部分のフリッピングと機能性ベクターの形成をもたらす(図4B,図5)。GFPを発現するTMVベースのRNAアンプリコンは、細胞間移行及び浸透移行が可能である。N.ベンサミアナ植物におけるGFP発現は、UVランプを使用することによるか又はLEICA立体蛍光顕微鏡システム(450〜490nmで励起、500〜550nmで発光)下に植物組織を観察することによって視覚的に容易に検出することができる。我々の実験において使用するsGFPは、青色及びUV光によって励起することができる(sGFPは、合成GFPを表す)。
【0077】
pICHGFPinvのT−DNAを含有するトランスジェニックタバコ・ベンサミアナ植物は、上記のように、葉ディスクのアグロバクテリウム仲介性形質転換によって入手した。
【0078】
細胞間移行の可能なタンパク質スイッチを使用する他の例を図7に示す。植物の核染色体へ安定に組み込まれた異種DNAからの細胞間移行の可能なCreリコンビナーゼのスイッチングのために構築体のpICH11992(図7)及びpICH11877を設計する。このcreリコンビナーゼ遺伝子は、creタンパク質のN末端をコードする構築体の部分のフリッピング時に活性化される。このアプローチは、外部より送達されるcreリコンビナーゼによる機能性リコンビナーゼ合成のプロセスを始動させることを可能にする。pICH12131(図7B)のT−DNAを担うタバコ・ベンサミアナ植物と交配した、pICH11877又はpICH11992のT−DNAのあるトランスジェニック植物の子孫は、外部より適用されるcreリコンビナーゼを用いた活性化のときにGUS遺伝子を発現することができる。
【0079】
前記ポリペプチドのアグロ浸透法(agro-infiltration)による送達
トランスジェニックタバコ植物のアグロ浸透法は、Yangら、2000、Plant Journal、22(6)、543−551に記載の改良プロトコールに従って実施した。外部適用タンパク質スイッチを提供するための個々の構築体で形質転換したアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌株GV3101を、リファンピシン 50mg/lとカルベニシリン 50mg/lを補充したLB培地において増殖させた。一晩培養物(5ml)のアグロバクテリウム細胞を遠心分離(10分、4500g)により採取し、10mM MgSOを補充した10mM MES(pH5.5)緩衝液に再懸濁した。この細菌懸濁液を0.8の最終OD600へ調整した。いくつかの構築体の送達の場合は、異なる構築体を担うアグロバクテリウムのクローンを浸透の前に混合した。
【0080】
依然としてインタクトな植物へ付いているほぼ完全に広がった葉に対してアグロ浸透法を実施した。細菌懸濁液を5mlシリンジで浸透させた。各スポット(典型的には3〜4cmの浸透面積)へ100μlの細菌懸濁液を浸透させることによって、葉脈により分離した8〜16のスポットを1枚のタバコ葉に配置することができた。浸透の後、22℃で1日16時間の照明の温室条件下で植物をさらに生育させた。
【0081】
creリコンビナーゼをコードするT−DNA領域のあるバイナリーベクターを担うアグロバクテリウムでの浸透から7日後、トランスジェニックタバコ植物(pICHGFPinv、タバコ)の浸透された葉は、インタクト植物へのUV光下で観察され得る強いGFP発現の生育部分を示した。同じアグロバクテリウムで浸透させた非形質転換タバコ植物の葉にはGFP発現が見えなかった。
【実施例3】
【0082】
分離タンパク質スイッチの使用
サイズがより小さい可動性スイッチタンパク質を作製するために、我々は、シアノバクテリア(シネコシスティス種)PCC6803 DnaE遺伝子インテインを使用して、ファージのインテグラーゼphiC31(Thomason、Calendar&Ow、2001、Mol.Genet.Genomics、265、1031−1038)を分離した。インテグラーゼをN及びC末端の断片(pICHRecA及びpICHRecN)へ分離して、C末端断片をMP遺伝子へ融合した(図6)。pICHrecC中のインテグラーゼ断片には組換え部位のAttP及びAttBが隣接し、これはプロモーターの制御下にないので不活性である。AttB及びAttP部位間の組換えは、インテグラーゼ断片の組換え及びフリッピングをもたらし、35Sプロモーターの制御下にそれを置く。pICHRecN中のインテグラーゼのN断片は、植物において構成的に発現されるが、機能性インテグラーゼが形成されるのは、pICHrecC T−DNAの組換え、C末端インテグラーゼ断片の発現、そしてインテイン仲介性のインテグラーゼ組立ての後だけである。このプロセスを開始させるために、インテグラーゼを外因的に供給してよい。
【0083】
インテグラーゼの発現及び移動をアッセイするために、試験構築体、pICHtestGus2を作製した。この構築体は、LoxP部位が組換え部位のAttB及びAttPで置き換わったこと以外は、構築体pICHtestGusに類似している。
【0084】
3つの構築体、pICHtestGus2、pICHRecC及びpICHrecNをすべてアグロバクテリウム細菌GV3101において形質転換して、タバコ・ベンサミアナ形質転換に使用した。実施例1の記載に類似したアッセイにおいて、3つの構築体すべてで形質転換するか、又は試験構築体単独で形質転換した植物の切除したタバコ・ベンサミアナの葉にpICP1010(インテグラーゼがシロイヌナズナアクチン2プロモーターの制御下にある)を射撃した。X−gluc溶液での染色後、3つの構築体すべてを含有する形質転換体の葉にはGus染色細胞のパッチを観察することができたが、試験構築体単独の形質転換体の葉には、個別のGus染色細胞しか検出し得なかった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、本発明による方法の概略図である。
【図2】図2は、細胞間輸送と他の細胞においてそれ自身の発現を引き起こすことが可能であるタンパク質スイッチを介して目的の細胞プロセスを制御する機序の概略図である。PSはタンパク質スイッチを表し、TPは細胞間輸送の可能な輸送タンパク質を表し、PS:TPはPS−TP融合タンパク質を表し、hNAは追加の異種核酸を表す。
【0086】
(A)は、PS:TPをコードする異種核酸と追加の異種核酸hNAを図示する。外部シグナルを適用していないので、タンパク質スイッチは発現してない。
(B)タンパク質スイッチPS:TPの発現を引き起こす外部シグナルを適用している。このタンパク質スイッチは、それが発現する細胞においてhNAに作用することによって細胞プロセスを制御することができる。さらに、このタンパク質スイッチは、前記外部シグナルにより始動された細胞を出て、他の細胞に入ることができる。他の細胞において、タンパク質スイッチは、それ自身の発現を誘導し、hNAに作用することによって細胞プロセスを制御することもできる。
【0087】
(C)は、2つのタンパク質スイッチ:PS1及びPS2をコードする異種核酸を図示する。外部適用シグナルによりPS1の発現が引き起こされ、PS1:TPをもたらす。上記のように、PS1:TPは、他の細胞へ伝播してPS2の発現を活性化することができる。次いで、PS2は、細胞内に一過性に存在しているか又は核若しくはオルガネラのゲノムに安定に組み込まれる場合があるhNAに作用することによって細胞プロセスを制御することができる。そのような目的のために、PS2は、適正な標的指向シグナル/輸送ペプチドと融合して、葉緑体のようなオルガネラに局在するhNAへ到達することができる。
【図3】図3は、部位特異的組換えイベントの結果として目的遺伝子(GUS)の発現を始動させるために設計した構築体pICHtestGus及びpICHrecombの概略図である。前記組換えイベントは、外部適用リコンビナーゼによって、及び細胞間移行可能な細胞内リコンビナーゼによって引き起こすことができる。
【図4】図4は、(A)において、非機能性TMVベースのプロベクターを含有する構築体pICHGFPinvを図示し、(B)において、インテグラーゼ仲介性の組換えより生じる前記構築体の機能性誘導体を図示する。下部の矢印は、(B)に示す構築体より形成され得る配向を含めた、RNAとサブゲノム(sg)RNAを示す。sgpは、サブゲノムプロモーターを表す。
【図5】図5は、外部シグナル(MTS:リコンビナーゼ)としての細胞透過性ポリペプチドが標的細胞内で組換えイベントを始動させて、細胞間輸送可能なタンパク質スイッチ(リコンビナーゼ:TP)の合成をもたらす、実験スキームを図示する。細胞内タンパク質スイッチは、組換えイベントをさらに始動させて、植物ウイルスベースのプロベクターの再配列をもたらし、目的遺伝子(GOI)の発現を生ずる。MTS:膜移行配列;TP:細胞間輸送可能なタンパク質;SM:選択可能マーカー;RS:部位特異的DNAリコンビナーゼ/インテグラーゼにより認識される組換え部位;ter1及びter2:転写終結領域;PROM:植物において活性なプロモーター;RdRp:ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ;MP:移行タンパク質;3’NTR:植物RNAウイルスの3’非翻訳領域。矢印は、コード配列及び調節配列の配向を示す。
【図6】図6は、細胞間移行の可能なタンパク質スイッチ断片の使用に関する実験スキームを図示する。MTS:膜移行シグナルペプチド(MTS)に融合したリコンビナーゼ(外部適用リコンビナーゼ)スイッチ;RecN:翻訳融合物としてインテイン断片(intN)が続く、リコンビナーゼのN末端;intC:intN断片と相互作用することが可能で、移行タンパク質へ融合したリコンビナーゼのC末端(RecC:MP)が続く、インテイン断片。
【図7A】図7Aは、構築体pICH11992、pICH11877、及びpICH12131を概略的に図示する。p35S:CaMV 35Sプロモーター;Tnos:ノパリンシンターゼの転写終結シグナル;Pnos:ノパリンシンターゼ遺伝子の転写プロモーター;Tocs:オクトピンシンターゼの転写終結シグナル;MP:タバコモザイクウイルス(TMV)の移行タンパク質;cre−5’:creリコンビナーゼのコード配列の5’部分;cre−3’:creリコンビナーゼのコード配列の3’部分。
【図7B】図7Bは、構築体pICH11992、pICH11877、及びpICH12131を概略的に図示する。p35S:CaMV 35Sプロモーター;Tnos:ノパリンシンターゼの転写終結シグナル;Pnos:ノパリンシンターゼ遺伝子の転写プロモーター;Tocs:オクトピンシンターゼの転写終結シグナル;MP:タバコモザイクウイルス(TMV)の移行タンパク質;cre−5’:creリコンビナーゼのコード配列の5’部分;cre−3’:creリコンビナーゼのコード配列の3’部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変多細胞生物又はその部分を制御する方法であって、以下の工程:
(a)多細胞生物又はその部分を提供し、前記多細胞生物又は前記部分の細胞は異種核酸を含有すること、
(b)少なくともいくつかの前記細胞において前記異種核酸からタンパク質の発現を引き起こすこと
を含み、ここで前記タンパク質は、
(i)前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ること、
(ii)前記異種核酸を含有する細胞において前記タンパク質の発現を引き起こすこと、そして随意に、
(iii)目的の細胞プロセスを制御すること、
が可能である、前記方法。
【請求項2】
前記多細胞生物又はその部分の細胞が前記タンパク質により制御される追加の異種核酸を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質が前記追加の異種核酸からRNA及び/又はポリペプチドの産生を引き起こす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、前記追加の異種核酸から又は前記追加の異種核酸のRNA発現産物から発現可能オペロンの形成を引き起こす、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質が、前記追加の異種核酸から又は前記追加の異種核酸のRNA発現産物から発現可能アンプリコンの形成を引き起こす、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質が:
(a)前記タンパク質の前記発現を引き起こすことが可能なセグメント、及び/又は
(b)前記細胞プロセスを制御することが可能なセグメント、
を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記セグメントの1つがDNA又はRNAの修飾活性を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記セグメントが部位特異的リコンビナーゼ、フリッパーゼ、リゾルベース、インテグラーゼ、トランスポザーゼより選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)において前記タンパク質の発現を引き起こすことが外部シグナルを適用することを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記外部シグナルが以下の群:低分子有機化合物、金属イオン、ポリペプチド、タンパク質、核酸、病原体、ウイルス、細菌、真菌、光、温度変化より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)において適用する前記外部シグナルが、前記ポリペプチドが前記多細胞生物又はその部分の細胞内へ入ることを可能にする膜移行配列を含むポリペプチドである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリペプチドの適用が、前記ポリペプチド又は前記ポリペプチドの部分をコードする核酸の細胞内への導入を伴わない、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記シグナルが、ポリペプチドの宿主細胞への送達システムを有する病原微生物により適用されるポリペプチドである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項14】
前記病原微生物が毒性又は非毒性アグロバクテリウム属である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記病原微生物が植物病原性であり、III型分泌系が付与された毒性又は非毒性細菌である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記植物病原微生物が以下の属:ボルデテラ属、エルウィニア属、シュードモナス属、ザントモナス属、エルシニア属より選択される毒性又は非毒性細菌である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1つの細胞を出て他の細胞に入ることが、前記多細胞生物又はその部分における細胞間移行又は浸透移行を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質が、1つの細胞を出て他の細胞に入ることを可能にするタンパク質部分を含有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質部分がウイルス移行タンパク質又はウイルス外被タンパク質のドメインである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質部分が、細胞間移行又は浸透移行の可能な植物又は動物の転写因子のドメインである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質部分が植物又は動物のペプチド細胞間メッセンジャーのドメインである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質部分が、細胞間移行又は浸透移行を可能にする人工ペプチドである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
工程(a)において提供する前記多細胞生物又はその部分が、細胞の核及び/又はプラスチドゲノムに安定に組み込まれた前記異種核酸を含有するトランスジェニック多細胞生物である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)において提供する前記多細胞生物又はその部分の細胞を前記異種核酸で一過性に形質転換する、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記追加の異種核酸を前記多細胞生物又はその部分のゲノムに安定に組み込む、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記多細胞生物が高等植物である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
異種核酸をその細胞内に含有する遺伝子改変多細胞生物又はその部分であって、前記異種核酸を、
(a)前記異種核酸を含有する細胞において前記異種核酸からのタンパク質の発現を引き起こすことが可能であり、
(b)前記タンパク質は、前記多細胞生物又はその部分の1つの細胞を出て他の細胞に入ることが可能であり、
(c)前記タンパク質は、前記異種核酸を含有する細胞において前記タンパク質の発現を制御することが可能であり、そして
(d)随意に、目的の細胞プロセスを制御する
ように適応させる、前記遺伝子改変多細胞生物又はその部分。
【請求項28】
前記多細胞生物が植物である、請求項27に記載の遺伝子改変多細胞生物又はその部分。
【請求項29】
請求項2〜26のいずれか1項においてさらに定義される、遺伝子改変生物又はその部分。
【請求項30】
タンパク質発現制御システムであって、請求項27〜29のいずれか1項に定義される遺伝子改変多細胞生物と前記タンパク質の発現を引き起こすための請求項9〜14に記載のシグナルとを含み、前記多細胞生物又はその部分へ前記シグナルを外部より適用することによって前記タンパク質の発現を開始させることができるように前記多細胞生物と前記シグナルを設計する、前記システム。
【請求項31】
請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法により入手されるか又は入手可能な、安定的又は一過性に遺伝子改変された多細胞生物又はその部分。
【請求項32】
請求項27〜29のいずれか1項に記載の多細胞生物への外部より適用するための組成物であって、請求項10〜14のいずれか1項に定義されるポリペプチド又はタンパク質を含有し、前記ポリペプチド又はタンパク質は、請求項27〜29のいずれか1項に記載の遺伝子改変多細胞生物においてタンパク質の発現を引き起こすためのシグナルとなる、前記組成物。
【請求項33】
アグロバクテリウム属の細胞を含み、前記アグロバクテリウム属は、請求項27〜29のいずれか1項に記載の遺伝子改変多細胞生物においてタンパク質の発現を引き起こすためのシグナルとして請求項32に記載のポリペプチド又はタンパク質を含有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
III型のタンパク質分泌系が付与された細菌細胞を含み、前記細胞は前記ポリペプチド又はタンパク質を含有する、請求項32又は33に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate


【公表番号】特表2006−506083(P2006−506083A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552677(P2004−552677)
【出願日】平成15年11月20日(2003.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013021
【国際公開番号】WO2004/046361
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(503128043)アイコン ジェネティクス アクチェンゲゼルシャフト (6)
【出願人】(501446789)アイコン・ジェネティクス,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】