多自由度アクチュエータ
【課題】本発明は、小型化が可能であって複数箇所で回転体に接触することによってより大きな駆動力を得ることができる多自由度アクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明の多自由度アクチュエータDaは、並進推力を発生する複数の並進推力素子2と、複数の並進推力素子2に所定の摩擦力で係合する回転体1とを備える。このような構成の多自由度アクチュエータDaは、小型化可能な複数の並進推力素子2を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体1に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。
【解決手段】本発明の多自由度アクチュエータDaは、並進推力を発生する複数の並進推力素子2と、複数の並進推力素子2に所定の摩擦力で係合する回転体1とを備える。このような構成の多自由度アクチュエータDaは、小型化可能な複数の並進推力素子2を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体1に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転軸回りに運動可能な多自由度アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
入力エネルギを物理的な運動に変換するアクチュエータは、運動を行う様々な装置に組み込まれている。例えば、光を取り扱う装置では、アクチュエータは、例えば、撮像光学系のフォーカスレンズの駆動やズームレンズの駆動に用いられ、また例えば、レーザ光を光変調器や光ファイバに入射する場合における光軸の調芯に用いられ、また例えば、監視カメラ等の監視方向の変更等に用いられる。このようなレンズの光軸方向に沿った駆動や光軸の調芯や監視方向の変更等に用いられるアクチュエータは、その用途から複数の方向への運動を発生可能であることが望ましい。このような複数の方向への運動を発生可能なアクチュエータは、例えば、特許文献1ないし特許文献3に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータは、3方向の自由度をもった駆動において、制御性を向上することを目的として3方向の自由度を与えるのに必要なベクトルの成分と、発生させる角速度ベクトルの数を一致させたものである。より具体的には、前記球面超音波モータは、ロータとしての球体と、前記球体の直径上に配置された、ステータとしての3個の超音波モータと、前記3個の超音波モータのそれぞれを、駆動を行うのに適当な圧力で押しつけて保持する保持器とを備えて構成される。前記3個の超音波モータのそれぞれは、表面上に時間と共に位相が進む進行波を励起する円環状である。
【0004】
また特許文献2に開示の圧電モータは、球状の被駆動体にそれぞれ接し互いに離間して設置され、前記被駆動体を駆動させる複数の圧電ユニットと、前記被駆動体を非接触状態で磁気吸引することにより、前記複数の圧電ユニットのそれぞれに予圧力を付与する磁石とを備える。そして、2自由度方向に前記被駆動体を駆動する場合には、前記複数の圧電ユニットは、互いに振動方向が交差する第1および第2の圧電素子と、前記被駆動体と接し、前記第1および第2の圧電素子を連結し、前記第1および第2の圧電素子の合成振動により前記被駆動体を駆動させる駆動部とを備えて構成され、また、3自由度方向に前記被駆動体を駆動する場合には、前記複数の圧電ユニットは、それぞれの中立軸線が交点を有する第1〜第3の圧電素子と、前記被駆動体と接し、前記第1〜第3の圧電素子を連結し、前記第1〜第3の圧電素子の合成振動により前記被駆動体を駆動させる駆動部とを備えて構成される。前記複数の圧電素子は、Z軸を中心として周方向に等配されており、それぞれ、合成振動によって駆動部の接触点に楕円運動や急速変形運動を行わせることで前記被駆動体を駆動するものである。
【0005】
また特許文献3に記載の2自由度球体駆動装置は、ロータとしての球体と、該球体の径より小さい開口を有し球体を収納するハウジングと、該球体の表面に接触するように配設され接触部が該球体の接線方向に運動することにより球体を2次元に駆動する1式の駆動体を備え、一部が前記開口から露出した前記球体を任意の方向に回転させるものである。そして、前記駆動体は、圧電素子を三角トラス状に組み合わせてその頂点部に摩擦盤を有するものであって、該摩擦盤の摩擦面で前記球体に接触して球体を駆動するものである。より具体的には、前記駆動体は、3個の圧電素子の各振動の位相を制御することで、前記摩擦盤に所定の面内で高速楕円運動を行わせることによって生じる前進時と後退時との接触摩擦力の差で、前記球体を駆動するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−18459号公報
【特許文献2】特開2008−245425号公報
【特許文献3】特開平10−6704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータでは、上述したように、ロータとしての球体を駆動する超音波モータは、進行波型の円環状であるため、駆動力を得るためには球体の大きさに対して所定の大きさが必要である。このため、前記特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータは、構造上、その小型化が難しい。
【0008】
また、前記特許文献2に開示の圧電モータでは、上述したように、球状の被駆動体を駆動させる複数の圧電ユニットのそれぞれは、合成振動によって駆動部の接触点に楕円運動や急速変形運動を行わせる複数の圧電素子が必要である。すなわち、1つの圧電ユニットに対し複数の圧電素子が必要である。そして、これら複数の圧電素子は、振動方向が交差するように配置される。このため、圧電ユニットは、所定の大きさが必要となり、そして、複数の圧電素子の配置にも制約があるため、前記特許文献2に開示の圧電モータも、構造上、その小型化が難しい。
【0009】
また、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置では、上述したように、ロータとしての球体を2次元に駆動する1式の駆動体は、3個の圧電素子を三角トラス状に組み合わせてその頂点部に摩擦盤を有し、この摩擦盤に所定の面内で高速楕円運動を行わせることによって生じる前進時と後退時との接触摩擦力の差で、前記球体を駆動するものである。このため、駆動体は、所定の大きさが必要となり、そして、複数の圧電素子の配置にも制約があるため、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置も、構造上、その小型化が難しい。さらに、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置は、駆動体が1点接触の1式(1つ)であるため、大きな駆動力を得ることが難しい。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、小型化が可能であって複数箇所で回転体に接触することによってより大きな駆動力を得ることができる多自由度アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる多自由度アクチュエータは、並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、前記並進推力を発生する複数の並進推力素子と、前記複数の並進推力素子に所定の摩擦力で係合する回転体とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の多自由度アクチュエータは、小型化可能な複数の並進推力素子を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。
【0013】
なお、並進推力とは、所定の一方向のみに押し進める力を言い、前記所定の一方向には、正方向および負方向のうちの少なくとも1つが含まれる。したがって、前記並進推力素子は、正方向のみに並進推力を発生可能な素子であってもよく、負方向のみに並進推力を発生可能な素子であってもよく、あるいは、正負の両方向に並進推力を発生可能な素子であってもよい。
【0014】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数であることを特徴とする。
【0015】
このような構成の多自由度アクチュエータは、並進推力素子の個数がこれらによって直接的に実現される自由度の個数と一致するので、その駆動制御が容易となる。
【0016】
なお、当該複数の並進推力素子によって直接的に実現される自由度とは、複数の並進推力素子のうちの1つによって直接的に実現される自由度および複数の並進推力素子のうちの2つ以上を同時に駆動することによってその合成により直接的に実現される自由度をいい、複数の並進推力素子のうちの2つ以上を時分割で駆動することによって間接的に実現される自由度を除く意味である。
【0017】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数よりも多い個数であることを特徴とする。
【0018】
このような構成の多自由度アクチュエータは、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子を除いてさらに余分に1または複数の並進推力素子を備えることができる。このため、このような構成の多自由度アクチュエータは、この余分な並進推力素子を所定の用途のために用いることができ、機能強化を図ることができる。例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子では直接的に実現し難い自由度を実現するために、この余分な並進推力素子が用いられる。また例えば、駆動力を増強するために、この余分な並進推力素子が用いられる。また例えば、前記回転体における変位の分解能を向上するために、この余分な並進推力素子が用いられる。
【0019】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、前記回転体に対する接触箇所が対称となるように配置されていることを特徴とする。
【0020】
このような構成の多自由度アクチュエータでは、前記回転体が前記複数の並進推力素子によって均等に支持されるので、前記回転体の姿勢を安定的に保持することができ、前記回転体を安定的に駆動制御することができる。
【0021】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
前記回転体の自重を利用することによって前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる場合には、このような付勢部材は、必要ないが使用上の制約や設計上の制約が生じる場合がある。このような構成の多自由度アクチュエータでは、前記付勢部材を備えるので、このような使用上の制約や設計上の制約が低減される。
【0023】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記付勢部材は、磁石であり、前記回転体は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されていることを特徴とする。前記回転体は、その全体が前記磁性体で形成されてよく、また、その表面のみ、あるいは、回転体内の一部分が前記磁性体で形成されてよい。また、この場合において、回転体の回転によって付勢力の偏りを防止して回転体の駆動制御を容易に行う観点から、前記磁性体は、常磁性体であることが好ましい。また、回転体の一部分が磁性体である場合には、その偏りがあってもよいが、前記観点から、その偏りがない方が好ましい。
【0024】
このような構成の多自由度アクチュエータは、付勢部材に磁石を用いるので、小型化が可能となり、また付勢力の生成に外部からエネルギを別途に投入する必要がない。
【0025】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子のうちの少なくとも1つは、前記回転体と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備えることを特徴とする。
【0026】
このような構成の多自由度アクチュエータでは、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材によって前記並進推力が実現される。
【0027】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記運動励起部材は、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状であることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状の運動励起部材を備えた並進推力素子を備えた多自由度アクチュエータが提供される。
【0029】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記回転体は、前記複数の並進推力素子と係合する面が曲面である形状の部材であることを特徴とする。
【0030】
このような構成の多自由度アクチュエータは、前記回転体が常に複数の並進推力素子と曲面で係合するので、滑らかな駆動が実現される。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる多自由度アクチュエータは、小型化が可能であって複数箇所で回転体に接触することによってより大きな駆動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態における多自由度アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子の構成を示す図である。
【図3】実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第1構成を示す図である。
【図4】実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第2構成を示す図である。
【図5】実施形態における多自由度アクチュエータの動作を説明するための図である。
【図6】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第1係合態様を説明するための図である。
【図7】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第2係合態様を説明するための図である。
【図8】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第3係合態様を説明するための図である。
【図9】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第4係合態様を説明するための図である。
【図10】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第5係合態様を説明するための図である。
【図11】実施形態における多自由度アクチュエータの他の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0034】
図1は、実施形態における多自由度アクチュエータの構成を示す図である。図1(A)は、上面図であり、図1(B)は、図1(A)に示すAA線における断面図である。なお、図1(A)は、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示され、その輪郭が示されている。図2は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子の構成を示す図である。図2(A)は、側面図であり、図2(B)は、分解斜視である。図3は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第1構成を示す図である。図4は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第2構成を示す図である。
【0035】
多自由度アクチュエータDaは、複数の回転軸の軸回りに回転体1を運動することができる装置であって、例えば、図1ないし図4に示すように、回転体1と、複数の並進推力素子2と、基台3と、ドライバ部4と、制御部5とを備えている。このような多自由度アクチュエータDaの構造的な構成の説明をまず行い、次に、電気的な構成の説明を以下に行う。
【0036】
まず、構造的な構成である回転体1、複数の並進推力素子2および基台3について説明する。この基台3は、回転体1および複数の並進推力素子2を支持する部材であり、例えば、筐体やフレーム等である。複数の並進推力素子2のそれぞれが基台3に固定されることによって、これら回転体1および複数の並進推力素子2は、基台3に支持される。基台3と複数の並進推力素子2のそれぞれとの固定には、例えば、接着剤による接着固定が用いられる。また例えば、前記固定には、ネジ留めやロウ付け等の他の方法が用いられてもよい。また例えば、後述の図2(B)に示す支持部材23と基台3とが一体に形成されることによって基台3に並進推力素子2が固定されてもよい。
【0037】
複数の並進推力素子2は、それぞれ、並進推力を発生する装置である。並進推力とは、上述したように、所定の一方向のみに押し進める力を言い、前記所定の一方向には、正方向および負方向のうちの少なくとも1つが含まれる。複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数である。すなわち、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度と当該複数の並進推力素子2によって実現される自由度とが一致する個数である。本実施形態では、3自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、3個の並進推力素子2−1、2−2、2−3を備えている。これら3個の並進推力素子2−1〜2−3は、回転体1に対する接触箇所P1〜P3が対称となるように配置されている。なお、図1に示し例では、前記接触箇所P1〜P3は、点対称となっており、このことを示すために、図1(A)には、対称中心P0から等距離にある点の集合である円が破線で示されており、前記接触箇所P1〜P3は、点(点接触)であり、この円上に位置している。より具体的には、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されている。
【0038】
なお、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0039】
並進推力素子2は、並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、並進推力を発生する任意の装置を用いることができるが、例えば、本実施形態では、並進推力素子2は、回転体1と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向に往復動を行うことによって前記並進推力を発生するものである。より具体的には、並進推力素子2は、回転体1と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備える駆動装置である。このような駆動装置の一例としてSIDM(Smooth Impact Drive Mechanism、「SIDM」は登録商標)と称される、例えば圧電素子等の電気機械変換素子を用いた駆動装置がある。このSIDMの一例として図2に示す構成の駆動装置がある。
【0040】
この図2に示す構成の並進推力素子2は、電気機械変換素子21と、運動励起部材22と、支持部材23を備える。
【0041】
電気機械変換素子21は、入力の電気エネルギを機械エネルギ、すなわち、機械的な運動に変換する素子であり、例えば、入力の電気エネルギを圧電効果によって機械的な伸縮運動に変換する圧電素子21等である。
【0042】
この電気機械変換素子21としての圧電素子21は、例えば、積層体と、一対の外部電極部とを備えている。前記積層体は、圧電材料から成る薄膜状(層状)の圧電層と導電性を有する薄膜状(層状)の内部電極層とを交互に複数積層して成るものである。前記積層体は、本実施形態では、図2に示すように、四角柱形状となっている。各内部電極層は、その一方端部(一方縁部)が外部に臨むように形成される。より具体的には、各内部電極層のうちの前記導電層を介して互いに対向する一方の第1内部電極層は、その一方端部が前記積層体の所定の側面(例えば左側側面)に臨むように形成されており、その他方の第2内部電極層は、その一方端部が前記積層体の前記所定の側面に対向する側面(上記例では右側側面)に臨むように形成されている。このように各内部電極層は、その一部が互いに対向する一対の外周側面で交互に外部に臨むようにそれぞれ構成されている。圧電材料は、例えば、いわゆるPZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の無機圧電材料である。
【0043】
前記一対の外部電極部は、前記積層体の外周面における所定の面上に形成され、前記電気エネルギを前記積層体に供給するものである。より具体的には、これら一対の外部電極部における一方の第1外部電極部は、前記一方の第1内部電極層と電気的に接続されるように、前記左側側面に積層方向に沿って薄膜状(層状)で形成され、その他方の第2外部電極部は、前記他方の第2内部電極層と電気的に接続されるように、前記右側側面に積層方向に沿って薄膜状(層状)で形成される。このように一対の外部電極は、各内部電極層と順次交互に導通され、前記電気エネルギを前記積層体の各圧電層に供給する。
【0044】
このような構成の電気機械変換素子21の一例としての圧電素子21では、一対の外部電極部に、例えば後述の図3や図4に示す駆動制御部等の外部回路より所定の電圧が印加されることによって、前記積層体の各圧電層へ電気エネルギがそれぞれ給電されると、各圧電層の圧電効果によって、前記積層体は、積層方向に伸び、あるいは、縮む。
【0045】
運動励起部材22は、電気機械変換素子21としての圧電素子21に固定され、この圧電素子21で電気エネルギから変換された機械エネルギが伝達され、この機械エネルギによって回転体1に所定の軸回りの運動を生じさせる部材である。より具体的には、運動励起部材22は、本実施形態では、圧電素子21における前記積層体の積層方向の一方端部に固定された柱状(軸状)の部材である。この固定には、例えば熱硬化性接着剤等の接着剤が用いられる。運動励起部材22の材料は、例えば、金属、セラミック、ガラス、カーボンおよびこれらのうちの少なくとも1つを含む複合材料等の任意の材料を用いることができる。本実施形態では、運動励起部材22は、カーボンファイバコンポジットで形成された。運動励起部材22の長手方向に直交する断面は、例えば、矩形、多角形、楕円および円形等の任意の形状でよく、運動励起部材22は、多角柱体、円柱体および錘体(多角錐体および円錐体)等でよいが、本実施形態では、図2に示すように、運動励起部材22が回転体1と点接触するような、この断面は、面取りされた四角形となっている。なお、運動励起部材22の長手方向の長さは、回転体1の大きさ等によって適宜に決定されるが、回転体1が運動励起部材22の長手方向に移動するものではなく、運動励起部材22が回転体1に点接触すればよいので、短くすることが可能である。
【0046】
支持部材23は、圧電素子21および運動励起部材22を保持することによってこれらを支持する部材である。支持部材23は、図2に示すように、略コ字形状(略C字形状、略U字形状)に形成されている。この略コ字形状における凹部に、圧電素子21と運動励起部材22との接続部分が嵌め込まれることによって、圧電素子21および運動励起部材22は、支持部材23に支持される。より具体的には、圧電素子21と運動励起部材22との接続部分は、周面において、1個の面(周面における上面)を除く3個の面(周面における下面および一対の側面の各面)で支持部材23と接している。この接続部分を嵌め込む際に、熱硬化性の接着剤が、圧電素子21と運動励起部材22との前記接続部分の外周面または支持部材23の前記凹部の内周面に塗布され、加熱工程が実施されることによって、前記接着剤が熱硬化し、この結果、圧電素子21および運動励起部材22は、支持部材23に接着されて固定される。なお、図2に示す例では、圧電素子21と運動励起部材22との前記接続部分で、これらは、支持部材23に接続されて固定されたが、運動励起部材22が支持部材23に接続されて固定されてもよく、また圧電素子21が支持部材23に接続されて固定されてもよい。そして、支持部材23は、前記略コ字形状における凹部に対向する背面で、基台3に固定されている。より具体的には、側面視にて、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、それぞれ、運動励起部材22が基台3に対して所定の角度θ1(基台3の水平面を0度として前記水平面から所定の角度θ1)で傾くように固定され配置される。基台3と並進推力素子2の支持部材23 との前記固定には、例えば、接着剤による接着固定が用いられる。また例えば、前記固定には、ネジ留めやロウ付け等の他の方法が用いられてもよい。なお、上面視では、上述したように、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されている。
【0047】
このように支持部材23がその位置を略保持するので、上述のように圧電素子21の前記積層体が伸縮すると、この伸縮が運動励起部材22に伝わって、運動励起部材22は、この圧電素子21における前記積層体の伸縮動作に連動して往復動することになる。
【0048】
回転体1は、複数の並進推力素子2に所定の摩擦力で係合する部材である。回転体1は、任意の材料によって形成することができるが、耐久性を向上させるために、例えば車のクラッチ機構等に用いられるペーパ摩擦材等の耐摩耗性に優れた材料によって形成されることが好ましい。本実施形態では、回転体1は、後述するように例えば鉄等の磁性体によって形成される。回転体1は、その全体が前記磁性体で形成されてよく、また、その表面のみが前記磁性体で形成されてよい。また、磁力が作用する表面の一部のみが前記磁性体で形成されてよい。また、回転体1内の一部分が前記磁性体で形成されてよい。この場合において、その偏りがあってもよいが、回転体の駆動制御を容易に行う観点から、その偏りがない方が好ましい。
【0049】
回転体1における運動励起部材22と係合する面は、曲面であっても、平面であってもよく、回転体1は、任意形状の立体の部材でよい。したがって、回転体1は、例えば、球体、楕円球体およびその一部が切り取られたこれらの半球体等だけでなく、多面体であってもよい。前記多面体は、例えば14面体や20面体等の面数が多いほど好ましい。そして、より滑らかに回転体1を運動させるために、回転体1は、複数の並進推力素子2と係合する面が曲面である形状の部材であることが好ましい。本実施形態では、図1に示すように、回転体1は、球体または球殻体である。
【0050】
回転体1、並進推力素子2の運動励起部材22および基台3が、重力が作用する方向(重力の作用方向)に向かってこの順で配置されている構成では、並進推力素子2は、回転体1の自重を利用することによって複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させることも可能であるが、この構成では使用上の制約や設計上の制約が生じる。より具体的には、例えば、多自由度アクチュエータDaを傾けた場合に、回転体1が転がり落ちてしまう可能性がある。そのため、多自由度アクチュエータDaは、固定した場所で使用しなければならないため、使用上の制約が生じる。あるいは、そのため、回転体1の転落を防止するために、転落防止部材が別途必要となり、設計上の制約が生じる。このような使用上の制約や設計上の制約を低減するために、本実施形態では、多自由度アクチュエータDaは、複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えて構成されている。このような付勢部材は、例えば、より簡易に構成することができることから、圧縮コイルバネや板バネ等の弾性体が用いられてよい。このような弾性体は、複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形を考えた場合に、該多角形の重心を通る該多角形の法線方向に沿うとともに、当該複数の並進推力素子2へ向かう方向に付勢力を生じさせるように配置される。また例えば、前記付勢部材は、エアを吸引することによってエアによる吸引引力を発生するエアコンプレッサ等が用いられてもよい。このような吸引引力による付勢部材は、エアを吸引することによって、複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形を考えた場合に、該多角形の重心を通る該多角形の法線方向に沿うとともに、当該複数の並進推力素子2へ向かう方向に付勢力を生じさせるように配置される。また例えば、前記付勢部材は、磁力を発生する磁石であってもよい。本実施形態では、前記基台3は、例えば永久磁石等の磁石によって形成されており、回転体1は、この基台3の磁石によって形成される磁場と相互作用を行うために、例えば鉄等の磁性体によって形成されている。この磁石の基台3によって、図1に示すように、回転体1には、その中心点Pcから基台3へ向かう磁力(図1(B)に相対的に太い矢符で示す)が作用し、この磁力が複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形の重心を通ることで、この磁力がこれら複数の並進推力素子2の運動励起部材22に略均等に作用する(図1(B)に相対的に細い矢符で示す)。これによって複数の並進推力素子2の運動励起部材22は、この磁力によって回転体1を安定的に保持することができる。そして、前記付勢力を発生させるために、前記磁力を用いることによって、極めて小さい構造によって複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させることができる。この回転体1の磁性体は、常磁性体であることが好ましい。このように常磁性体で回転体1を形成することによって、回転体1の回転状態にかかわらず基台3の磁石の磁場から同じように相互作用を受けるので、このような構成によれば、回転体1の駆動制御(複数の並進推力素子2の制御)がより容易となる。なお、上述では、基台3を磁石で形成したが、基台3とは別個に永久磁石や電磁石等の磁石が設けられてもよい。
【0051】
次に、電気的な構成であるドライブ部4および制御部5について説明する。これらドライブ部4および制御部5は、複数の並進推力素子2を駆動制御することによって、回転体1の回転方向、回転量(回転変位)および回転速度等を制御する駆動制御部である。このドライブ部4および制御部5を備える駆動制御部には、並進推力素子2の態様に応じて適宜な回路が用いられる。並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、例えば、図3に示すHブリッジ型の駆動制御回路や、図4に示すハーフブリッジ型の駆動制御回路が前記駆動制御部として用いられる。
【0052】
この図3に示すHブリッジ型の駆動制御回路は、ドライバ部4aと、制御部5aとを備える。ドライバ部4aは、並進推力素子2に所定の駆動電圧を印加することで並進推力素子2に電力供給を行う回路であり、例えば、図3に示すように、4個のスイッチング素子としてのトランジスタQ11、Q12、Q13、Q14を備えて構成される。互いに直列に接続されたトランジスタQ11およびトランジスタQ12は、電源+Vと接地との間に接続され、この直列接続のトランジスタQ11およびトランジスタQ12に並列に、互いに直列に接続されたトランジスタQ13およびトランジスタQ14が接続され、トランジスタQ11とトランジスタQ13との接続点およびトランジスタQ13とトランジスタQ14との接続点の間に、並進推力素子2の圧電素子21が接続される。制御部5aは、所望の回転方向、回転量および回転速度で回転体1を駆動するべく、複数の並進推力素子2のそれぞれを制御するために、トランジスタQ11〜Q14のオンオフを制御する制御信号S11〜S14を出力する回路である。これらトランジスタQ11〜Q14をオンオフするための制御信号S11〜S14は、制御部5aからこれらトランジスタQ11〜Q14の各制御端子のそれぞれに供給される。
【0053】
また、図4に示すハーフブリッジ型の駆動制御回路は、ドライバ部4bと、制御部5bとを備える。ドライバ部4bは、並進推力素子2に所定の駆動電圧を印加することで並進推力素子2に電力供給を行う回路であり、例えば、図4に示すように、2個のスイッチング素子としてのトランジスタQ21、Q22を備えて構成される。互いに直列に接続されたトランジスタQ21およびトランジスタQ22は、電源+Vと接地との間に接続され、この直列接続のトランジスタQ21およびトランジスタQ22の接続点と接地との間に、並進推力素子2の圧電素子21が接続される。制御部5bは、所望の回転方向、回転量および回転速度で回転体1を駆動するべく、複数の並進推力素子2のそれぞれを制御するために、トランジスタQ21、Q22のオンオフを制御する制御信号S21、S22を出力する回路である。これらトランジスタQ21、Q22をオンオフするための制御信号S21、S22は、制御部5bからこれらトランジスタQ21、Q22の各制御端子のそれぞれに供給される。
【0054】
次に、このような構成の多自由度アクチュエータDaの動作について説明する。図5は、実施形態における多自由度アクチュエータの動作を説明するための図である。図5(A)は、各並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれによって直接的に実現される自由度の並進ベクトルを説明するための図であり、図5(B)は、並進ベクトルによって球体の回転体1に作用する回転ベクトルを説明するための図である。
【0055】
多自由度アクチュエータDaの回転体1を所定の軸回りに回転運動させるべく、多自由度アクチュエータDaにおける1または複数の並進推力素子2が駆動され、並進推力が生じる。この生じた並進推力によって並進推力素子2に所定の摩擦力で係合している回転体1が所定の軸の軸回りに回転運動する。
【0056】
この並進推力は、並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、次にように動作することによって生じる。
【0057】
例えば、図3に示すドライバ部4aおよび制御部5aを備えるHブリッジ型の駆動制御回路では、Hブリッジの対角位置に設けられるトランジスタQ11、Q4およびトランジスタQ12、Q13は、それぞれ、各制御信号S11〜S14によって同相で駆動されるとともに、トランジスタQ11、Q14とトランジスタQ12、Q13とは、相互に逆相で駆動される。これによって、並進推力素子2の圧電素子21には、矩形波の駆動信号が印加される。そして、前記駆動信号のデューティを0.7程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=7:3)とすることによって、並進推力素子2では、この駆動信号によって圧電素子21が非対称な伸縮振動を行い、この非対称な伸縮運動によって、運動励起部材22は、所定の一方向における往路と復路とで速度差のある非対称な往復動を行い、これによって運動励起部材22には一方向における例えば正方向のみに押し進める推力が生じる。すなわち、正方向には、ゆっくり伸張するとともに、負方向には、急速に収縮する。つまり、負方向の収縮速度は、正方向の伸張速度より大きい。一方、前記駆動信号のデューティを0.3程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=3:7)とすることによって、並進推力素子2では、圧電素子21が前記非対称な伸縮運動とは逆の非対称な伸縮振動を行い、この逆の非対称な伸縮運動によって、運動励起部材22は、前記一方向における往路と復路とで逆の速度差のある非対称な往復動を行い、これによって運動励起部材22には前記一方向における負方向のみに押し進める推力が生じる。すなわち、負方向には、ゆっくり伸張するとともに、正方向には、急速に収縮する。つまり、正方向の収縮速度は、負方向の伸張速度より大きい。
【0058】
例えば、図4に示すドライバ部4bおよび制御部5bを備えるハーフブリッジ型の駆動制御回路では、これらトランジスタQ21およびトランジスタQ22は、それぞれ、各制御信号S21、S22によって相互に逆相で駆動される。これによって、並進推力素子2の圧電素子21には、上述と同様に、矩形波の駆動信号が印加され、そのデューティを上述のように調整することによって、並進推力素子2の運動励起部材22には一方向のみに押し進める推力が生じる。
【0059】
このようにHブリッジ型の駆動制御回路またはハーフブリッジ型の駆動制御回路によって、運動励起部材22は、その速度変化がいわゆる鋸歯状となる運動を行い、運動励起部材22には一方向のみに押し進める推力が生じる。この運動励起部材22に生じる一方向のみに押し進める推力を並進ベクトルとして示した図が図5(A)である。
【0060】
図5(A)に示すように、図1に示す構造の多自由度アクチュエータDaでは、まず、並進推力素子2−1が動作する場合には、この並進推力素子2−1によって並進推力素子2−1における圧電素子21−1から運動励起部材22−1へ向かう方向の並進ベクトルV1が生じる。これによって並進推力素子2−1の運動励起部材22−1に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV1と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。図5(A)に示すように、並進推力素子2−1における運動励起部材22−1から圧電素子21−1へ向かう方向にX軸を設定し、このX軸に直交するようにY軸を設定し、これらX軸およびY軸に直交するようにZ軸を設定したXYZ座標系を設け、X軸の正方向を0度として反時計回りを正方向とした場合に、前記並進ベクトルV1は、−60度方向となり、前記回転軸は、+30度方向となる。
【0061】
また、並進推力素子2−2が動作する場合には、この並進推力素子2−2によって並進推力素子2−2における圧電素子21−2から運動励起部材22−2へ向かう方向の並進ベクトルV2が生じる。これによって並進推力素子2−2の運動励起部材22−2に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV2と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。前記XYZ座標系では、前記並進ベクトルV2は、0度方向となり、前記回転軸は、+90度方向となる。
【0062】
また、並進推力素子2−3が動作する場合には、この並進推力素子2−3によって並進推力素子2−3における圧電素子21−3から運動励起部材22−3へ向かう方向の並進ベクトルV3が生じる。これによって並進推力素子2−3の運動励起部材22−3に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV3と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。前記XYZ座標系では、前記並進ベクトルV3は、+60度方向となり、前記回転軸は、−30度方向となる。
【0063】
そして、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3のうちの複数が同時に動作する場合には、これら動作している複数の並進推力素子2によって生じる複数の並進ベクトルVの合成ベクトルが回転体1に作用し、回転体1は、この合成ベクトルに直交する軸の軸回りに回転運動を行う。例えば、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3全てを同時に、並進推力素子2−2および並進推力素子2−3を同位相で並進推力素子2−1を逆位相で動作させた場合には、図5(B)に示すように、並進推力素子2−2における運動励起部材22−2から圧電素子21−2へ向かう方向(X軸方向)の合成ベクトルVが生じる。そして、この合成ベクトルVによって、回転体1は、前記合成ベクトルVと直交する軸(Y軸)の軸回りに回転運動を行う。すなわち、この場合における回転ベクトルは、Y軸方向となる。
【0064】
なお、回転体1を所望の回転軸の軸回りに回転運動させる場合に、この回転運動に寄与しない並進推力素子2は、停止状態としてもよいが、回転体1に対しスリップ状態とすることが好ましい。例えば、並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、前記駆動信号のデューティを0.5程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=5:5)とすることによって、並進推力素子2は、回転体1に対しスリップ状態となる。これによって並進推力素子2は、回転体1に対し、静止摩擦力ではなく動摩擦力で係合するため、回転体1は、スムーズに回転運動することができる。
【0065】
このように動作することによって、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、複数の回転軸の軸回りに回転体1を運動することができる。そして、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、小型化可能な複数の並進推力素子2を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、例えば、数百ナノメータ以下の高分解能の駆動が可能であり、精密な位置制御が可能である。
【0066】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2は、これらによって直接的に実現される自由度の個数と当該多自由度アクチュエータDaの回転体1の自由度の個数が一致するため、その駆動制御が容易となる。
【0067】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2は、回転体1に対する前記接触箇所P(P1〜P3)が点対称となるように配置されている。このため、回転体1がこれら複数の並進推力素子2によって均等に支持されるので、回転体1の姿勢を安定的に保持することができ、回転体1を安定的に駆動制御することができる。また、このように対称配置されると、駆動制御も容易となる。
【0068】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2と回転体1とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えている。このため、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、使用上の制約や設計上の制約が低減される。そして、本実施形態では、前記付勢部材は、磁石であり、回転体1は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されている。このため、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、小型化が可能となり、また付勢力の生成に外部からエネルギを別途に投入する必要がない。
【0069】
なお、上述の実施形態では、3自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、3個の並進推力素子2−1、2−2、2−3を備えているが、2自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、2個の並進推力素子2−1、2−2を備えてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態では、付勢部材は、1つの部材で構成されたが、複数の部材で構成されてもよい。例えば、付勢部材として、複数の磁石が用いられたり、磁石と弾性体とが用いられてもよい。
【0071】
また、上述の実施形態では、側面視にて、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、それぞれ、運動励起部材22が基台3に対して所定の角度θ1で傾くように固定され配置され、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されているが、複数の並進推力素子2は、所望の複数の自由度を実現することができるという前提の下に、回転体1に様々な態様で所定の摩擦力で係合することができる。以下、並進推力素子と回転体との係合態様について説明する。
【0072】
図6は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第1係合態様を説明するための図である。図7は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第2係合態様を説明するための図である。図8は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第3係合態様を説明するための図である。図6(A)は、図1(B)と同一の図であり、また、これら図6ないし図8は、図1(B)と同様に、図1(A)に示すAA線における断面図である。図9は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第4係合態様を説明するための図である。図10は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第5係合態様を説明するための図である。図9および図10は、図1(A)と同様に、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示されている。
【0073】
まず、第1係合態様では、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し任意の角度θ(ただしθは0度を含む)で固定されて配置されてよい。例えば、図6(A)および図1(B)に示す多自由度アクチュエータDaのように、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し角度θ1で傾くように固定されて配置されてよく、また例えば図6(B)に示す多自由度アクチュエータDbのように、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し前記角度θ1より大きな角度θ2で傾くように固定されて配置されてよい。もちろん、図示しないが、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し前記角度θ1より小さな角度θ3で傾くように固定されて配置されてよい。
【0074】
なお、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向は、図6(A)に示すように、径方向に沿って外側から中心点Pc’へ向かう方向であってよく、また、図6(B)に示すように、径方向に沿って中心点Pc’から外側へ向かう方向であってよい。ここで、前記圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向とは、圧電素子21および運動励起部材22を基台3へ投影した場合における前記圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向であり、前記径方向とは、球体の回転体1を基台3へ投影した場合に形成される回転体1の投影円(回転体1の外周輪郭によって形成される円)の径方向であり、そして、前記中心点Pc’とは、この円の中心点(回転体1の中心点Pcを基台3へ投影した場合に形成される中心点Pcの投影点)である。以下の説明も同様である。
【0075】
また、第2係合態様では、複数の並進推力素子2のそれぞれは、各運動励起部材22が基台3に対し互いに異なる角度θで傾くように固定されて配置されてよい。例えば、図7(A)に示す多自由度アクチュエータDcのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度θ42で傾くように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の1つの並進推力素子2−3は、その運動励起部材22−3が基台3に対し角度θ43で傾くように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の並進推力素子2−1は、図示されていないが、その運動励起部材22−1が基台3に対し角度θ41で傾くように固定されて配置される。図7(A)に示す例では、前記角度θ43は、前記角度θ42と異なる角度であって、この例では、前記角度θ42より大きな角度である。そして、この第2係合態様において、図7(B)に示す多自由度アクチュエータDdのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度0度で固定されて配置されてよい。また、図示しないが、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度90度で固定されて配置されてよい。
【0076】
もちろん、複数の並進推力素子2のそれぞれは、図6(A)および図6(B)に示すように、各運動励起部材22が基台3に対し互いに同一の角度θで傾くように固定されて配置されてもよい。
【0077】
また、第3係合態様では、複数の並進推力素子2のぞれぞれは、回転体1の任意の箇所で回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。例えば、図8に示す多自由度アクチュエータDeのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度0度で固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の1つの並進推力素子2−1は、その運動励起部材22−3が基台3に対し角度90度で傾くように、かつ、前記並進推力素子2−2の回転体1との接触点P2と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−1の回転体1との接触点P1と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度90度となるように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の並進推力素子2−3は、前記並進推力素子2−1の回転体1との接触点P1と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−3の回転体1との接触点P3と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度90度となるように、かつ、前記並進推力素子2−2の回転体1との接触点P2と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−3の回転体1との接触点P3と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度45度となるように、固定されて配置される。
【0078】
また、第4係合態様では、複数の並進推力素子2のそれぞれは、任意の向きで回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。すなわち、複数の並進推力素子2のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向(並進ベクトルの方向)が任意の方向で回転体1と接触するように固定されて配置されてよく、また、複数の並進推力素子2のそれぞれは、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向(並進ベクトルの向き)が任意の方向で回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。
【0079】
例えば、図9(A)に示す多自由度アクチュエータDfのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うとともに約120度の略等間隔で配置されているが、3個の並進推力素子2−1〜2−3のうちの2個の並進推力素子2−1、2−3は、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が外側から中心へ向かう向きである一方、残余の1個の並進推力素子2−2は、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が中心点Pc’から外側へ向かう向きである。このように複数の並進推力素子2のそれぞれは、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が互いに異なる向きであってよい。
【0080】
また例えば、図9(B)に示す多自由度アクチュエータDgのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿っているが、不等間隔(互いに異なる間隔)で配置されてよい。並進推力素子2−1と並進推力素子2−2とは、角度135度の間隔で配置され、並進推力素子2−2と並進推力素子2−3とは、角度90度の間隔で配置され、並進推力素子2−3と並進推力素子2−1とは、角度135度の間隔で配置されている。
【0081】
また例えば、図9(C)に示す多自由度アクチュエータDhのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿っている必要は必ずしも無く、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が時計回りの方向で配置されている。
【0082】
また例えば、図9(D)に示す多自由度アクチュエータDiのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うものと回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うものとを混合して配置されてよい。2個の並進推力素子2−1、2−3のそれぞれは、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が時計回りの方向で配置され、並進推力素子2−2は、運動励起部材22の長手方向が径方向に沿って配置されている。
【0083】
また、第5係合態様では、複数の並進推力素子2は、前記複数の並進推力素子2のうちの1または複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができない自由度を実現するために、残余の並進推力素子2が配置されてもよい。例えば、図10に示す多自由度アクチュエータDjでは、3個の並進推力素子2−1〜2−3における回転体1との接触点P1〜P3を通る円の中心点と回転体1の中心点Pcとを通る線分を回転軸とする自由度は、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3によって直接的に実現することができない。そこで、この自由度を直接的に実現するために、4個目の並進推力素子2−4がその運動励起部材22−4の長手方向を、この回転軸上の点を中心点とする円の接線方向に沿わせて配置される。
【0084】
なお、複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができない自由度は、当該自由度の変位を前記複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができる自由度の成分に分割することができれば、これら分割した自由度の成分の変位を前記複数の並進推力素子2によって時分割で順次に生じさせることによって、複数の並進推力素子2によって間接的に実現することができる。
【0085】
そして、これら第1ないし第5係合態様は、そのうちの複数(少なくとも2つ)を適宜に組み合わせることもできる。
【0086】
このように複数の並進推力素子2は、回転体1に対し所定の摩擦力で係合するように配置されれば、任意の態様で配置可能である。このため、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDが最も小型となるように、配置することができる。あるいは、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDの所望の自由度を実現するために、最も簡易な駆動制御となるように、配置することもできる。あるいは、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDの所望の自由度のうちの最も使用頻度の高い自由度を1個の並進推力素子2で直接的に実現することができるように、前記最も使用頻度の高い自由度に合わせて配置することもできる。
【0087】
また、上述の実施形態では、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータD(Da〜Dj)の自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数であるが、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDの自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数よりも多い個数であってもよい。すなわち、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度と当該複数の並進推力素子2によって実現される自由度とが一致する個数よりも多い個数である。このような構成の多自由度アクチュエータDは、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2を除いてさらに余分に1または複数の並進推力素子2を備えることができる。このため、このような構成の多自由度アクチュエータDは、この余分な並進推力素子2を所定の用途のために用いることができ、機能強化を図ることができる。例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2では実現し難い自由度を実現するために、この余分な並進推力素子2が用いられる。また例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2によって多自由度アクチュエータDの自由度を直接的に実現することができるが、これら複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2では出力トルクが不足するために補強する場合やこれら複数の自由度のうちの使用頻度の高い自由度に余力を与えるために補強する場合等の駆動力を増強するために、この余分な並進推力素子2が用いられる。また例えば、回転体1における変位の分解能を向上するために、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2によって実現される推力方向と逆方向に推力を生じるように、この余分な並進推力素子2が用いられる。
【0088】
図11は、実施形態における多自由度アクチュエータの他の構成を説明するための図である。図11(A)は、第1の他の構成を示し、図11(B)は、第2の他の構成を示す。図11は、図1(A)と同様に、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示されている。
【0089】
例えば、図11(A)に示す多自由度アクチュエータDkのように、上面視では、4個の並進推力素子2−1〜2−4のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うとともに約90度の略等間隔で配置されている。このように構成することによって1個の自由度を2個の並進推力素子2によって実現するので、当該自由度の駆動力が増強される。
【0090】
また例えば、図11(B)に示す多自由度アクチュエータDlのように、上面視では、4個の並進推力素子2−1〜2−4のそれぞれは、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が反時計回りの方向で配置されている。そして、これら4個の並進推力素子2−1〜2−4は、略等間隔で配置されている。このように構成することによって1個の自由度を4個の並進推力素子2によって実現するので、当該自由度の駆動力が増強される。
【0091】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0092】
D、Da〜Dl 多自由度アクチュエータ
1 回転体
2 並進推力素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転軸回りに運動可能な多自由度アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
入力エネルギを物理的な運動に変換するアクチュエータは、運動を行う様々な装置に組み込まれている。例えば、光を取り扱う装置では、アクチュエータは、例えば、撮像光学系のフォーカスレンズの駆動やズームレンズの駆動に用いられ、また例えば、レーザ光を光変調器や光ファイバに入射する場合における光軸の調芯に用いられ、また例えば、監視カメラ等の監視方向の変更等に用いられる。このようなレンズの光軸方向に沿った駆動や光軸の調芯や監視方向の変更等に用いられるアクチュエータは、その用途から複数の方向への運動を発生可能であることが望ましい。このような複数の方向への運動を発生可能なアクチュエータは、例えば、特許文献1ないし特許文献3に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータは、3方向の自由度をもった駆動において、制御性を向上することを目的として3方向の自由度を与えるのに必要なベクトルの成分と、発生させる角速度ベクトルの数を一致させたものである。より具体的には、前記球面超音波モータは、ロータとしての球体と、前記球体の直径上に配置された、ステータとしての3個の超音波モータと、前記3個の超音波モータのそれぞれを、駆動を行うのに適当な圧力で押しつけて保持する保持器とを備えて構成される。前記3個の超音波モータのそれぞれは、表面上に時間と共に位相が進む進行波を励起する円環状である。
【0004】
また特許文献2に開示の圧電モータは、球状の被駆動体にそれぞれ接し互いに離間して設置され、前記被駆動体を駆動させる複数の圧電ユニットと、前記被駆動体を非接触状態で磁気吸引することにより、前記複数の圧電ユニットのそれぞれに予圧力を付与する磁石とを備える。そして、2自由度方向に前記被駆動体を駆動する場合には、前記複数の圧電ユニットは、互いに振動方向が交差する第1および第2の圧電素子と、前記被駆動体と接し、前記第1および第2の圧電素子を連結し、前記第1および第2の圧電素子の合成振動により前記被駆動体を駆動させる駆動部とを備えて構成され、また、3自由度方向に前記被駆動体を駆動する場合には、前記複数の圧電ユニットは、それぞれの中立軸線が交点を有する第1〜第3の圧電素子と、前記被駆動体と接し、前記第1〜第3の圧電素子を連結し、前記第1〜第3の圧電素子の合成振動により前記被駆動体を駆動させる駆動部とを備えて構成される。前記複数の圧電素子は、Z軸を中心として周方向に等配されており、それぞれ、合成振動によって駆動部の接触点に楕円運動や急速変形運動を行わせることで前記被駆動体を駆動するものである。
【0005】
また特許文献3に記載の2自由度球体駆動装置は、ロータとしての球体と、該球体の径より小さい開口を有し球体を収納するハウジングと、該球体の表面に接触するように配設され接触部が該球体の接線方向に運動することにより球体を2次元に駆動する1式の駆動体を備え、一部が前記開口から露出した前記球体を任意の方向に回転させるものである。そして、前記駆動体は、圧電素子を三角トラス状に組み合わせてその頂点部に摩擦盤を有するものであって、該摩擦盤の摩擦面で前記球体に接触して球体を駆動するものである。より具体的には、前記駆動体は、3個の圧電素子の各振動の位相を制御することで、前記摩擦盤に所定の面内で高速楕円運動を行わせることによって生じる前進時と後退時との接触摩擦力の差で、前記球体を駆動するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−18459号公報
【特許文献2】特開2008−245425号公報
【特許文献3】特開平10−6704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータでは、上述したように、ロータとしての球体を駆動する超音波モータは、進行波型の円環状であるため、駆動力を得るためには球体の大きさに対して所定の大きさが必要である。このため、前記特許文献1に開示の作業領域の広い球面超音波モータは、構造上、その小型化が難しい。
【0008】
また、前記特許文献2に開示の圧電モータでは、上述したように、球状の被駆動体を駆動させる複数の圧電ユニットのそれぞれは、合成振動によって駆動部の接触点に楕円運動や急速変形運動を行わせる複数の圧電素子が必要である。すなわち、1つの圧電ユニットに対し複数の圧電素子が必要である。そして、これら複数の圧電素子は、振動方向が交差するように配置される。このため、圧電ユニットは、所定の大きさが必要となり、そして、複数の圧電素子の配置にも制約があるため、前記特許文献2に開示の圧電モータも、構造上、その小型化が難しい。
【0009】
また、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置では、上述したように、ロータとしての球体を2次元に駆動する1式の駆動体は、3個の圧電素子を三角トラス状に組み合わせてその頂点部に摩擦盤を有し、この摩擦盤に所定の面内で高速楕円運動を行わせることによって生じる前進時と後退時との接触摩擦力の差で、前記球体を駆動するものである。このため、駆動体は、所定の大きさが必要となり、そして、複数の圧電素子の配置にも制約があるため、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置も、構造上、その小型化が難しい。さらに、前記特許文献3に開示の2自由度球体駆動装置は、駆動体が1点接触の1式(1つ)であるため、大きな駆動力を得ることが難しい。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、小型化が可能であって複数箇所で回転体に接触することによってより大きな駆動力を得ることができる多自由度アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる多自由度アクチュエータは、並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、前記並進推力を発生する複数の並進推力素子と、前記複数の並進推力素子に所定の摩擦力で係合する回転体とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の多自由度アクチュエータは、小型化可能な複数の並進推力素子を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。
【0013】
なお、並進推力とは、所定の一方向のみに押し進める力を言い、前記所定の一方向には、正方向および負方向のうちの少なくとも1つが含まれる。したがって、前記並進推力素子は、正方向のみに並進推力を発生可能な素子であってもよく、負方向のみに並進推力を発生可能な素子であってもよく、あるいは、正負の両方向に並進推力を発生可能な素子であってもよい。
【0014】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数であることを特徴とする。
【0015】
このような構成の多自由度アクチュエータは、並進推力素子の個数がこれらによって直接的に実現される自由度の個数と一致するので、その駆動制御が容易となる。
【0016】
なお、当該複数の並進推力素子によって直接的に実現される自由度とは、複数の並進推力素子のうちの1つによって直接的に実現される自由度および複数の並進推力素子のうちの2つ以上を同時に駆動することによってその合成により直接的に実現される自由度をいい、複数の並進推力素子のうちの2つ以上を時分割で駆動することによって間接的に実現される自由度を除く意味である。
【0017】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数よりも多い個数であることを特徴とする。
【0018】
このような構成の多自由度アクチュエータは、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子を除いてさらに余分に1または複数の並進推力素子を備えることができる。このため、このような構成の多自由度アクチュエータは、この余分な並進推力素子を所定の用途のために用いることができ、機能強化を図ることができる。例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子では直接的に実現し難い自由度を実現するために、この余分な並進推力素子が用いられる。また例えば、駆動力を増強するために、この余分な並進推力素子が用いられる。また例えば、前記回転体における変位の分解能を向上するために、この余分な並進推力素子が用いられる。
【0019】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子は、前記回転体に対する接触箇所が対称となるように配置されていることを特徴とする。
【0020】
このような構成の多自由度アクチュエータでは、前記回転体が前記複数の並進推力素子によって均等に支持されるので、前記回転体の姿勢を安定的に保持することができ、前記回転体を安定的に駆動制御することができる。
【0021】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
前記回転体の自重を利用することによって前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる場合には、このような付勢部材は、必要ないが使用上の制約や設計上の制約が生じる場合がある。このような構成の多自由度アクチュエータでは、前記付勢部材を備えるので、このような使用上の制約や設計上の制約が低減される。
【0023】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記付勢部材は、磁石であり、前記回転体は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されていることを特徴とする。前記回転体は、その全体が前記磁性体で形成されてよく、また、その表面のみ、あるいは、回転体内の一部分が前記磁性体で形成されてよい。また、この場合において、回転体の回転によって付勢力の偏りを防止して回転体の駆動制御を容易に行う観点から、前記磁性体は、常磁性体であることが好ましい。また、回転体の一部分が磁性体である場合には、その偏りがあってもよいが、前記観点から、その偏りがない方が好ましい。
【0024】
このような構成の多自由度アクチュエータは、付勢部材に磁石を用いるので、小型化が可能となり、また付勢力の生成に外部からエネルギを別途に投入する必要がない。
【0025】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記複数の並進推力素子のうちの少なくとも1つは、前記回転体と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備えることを特徴とする。
【0026】
このような構成の多自由度アクチュエータでは、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材によって前記並進推力が実現される。
【0027】
また、他の一態様では、上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記運動励起部材は、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状であることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状の運動励起部材を備えた並進推力素子を備えた多自由度アクチュエータが提供される。
【0029】
また、他の一態様では、これら上述の多自由度アクチュエータにおいて、前記回転体は、前記複数の並進推力素子と係合する面が曲面である形状の部材であることを特徴とする。
【0030】
このような構成の多自由度アクチュエータは、前記回転体が常に複数の並進推力素子と曲面で係合するので、滑らかな駆動が実現される。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかる多自由度アクチュエータは、小型化が可能であって複数箇所で回転体に接触することによってより大きな駆動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態における多自由度アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子の構成を示す図である。
【図3】実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第1構成を示す図である。
【図4】実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第2構成を示す図である。
【図5】実施形態における多自由度アクチュエータの動作を説明するための図である。
【図6】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第1係合態様を説明するための図である。
【図7】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第2係合態様を説明するための図である。
【図8】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第3係合態様を説明するための図である。
【図9】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第4係合態様を説明するための図である。
【図10】実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第5係合態様を説明するための図である。
【図11】実施形態における多自由度アクチュエータの他の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0034】
図1は、実施形態における多自由度アクチュエータの構成を示す図である。図1(A)は、上面図であり、図1(B)は、図1(A)に示すAA線における断面図である。なお、図1(A)は、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示され、その輪郭が示されている。図2は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子の構成を示す図である。図2(A)は、側面図であり、図2(B)は、分解斜視である。図3は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第1構成を示す図である。図4は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける駆動制御部の第2構成を示す図である。
【0035】
多自由度アクチュエータDaは、複数の回転軸の軸回りに回転体1を運動することができる装置であって、例えば、図1ないし図4に示すように、回転体1と、複数の並進推力素子2と、基台3と、ドライバ部4と、制御部5とを備えている。このような多自由度アクチュエータDaの構造的な構成の説明をまず行い、次に、電気的な構成の説明を以下に行う。
【0036】
まず、構造的な構成である回転体1、複数の並進推力素子2および基台3について説明する。この基台3は、回転体1および複数の並進推力素子2を支持する部材であり、例えば、筐体やフレーム等である。複数の並進推力素子2のそれぞれが基台3に固定されることによって、これら回転体1および複数の並進推力素子2は、基台3に支持される。基台3と複数の並進推力素子2のそれぞれとの固定には、例えば、接着剤による接着固定が用いられる。また例えば、前記固定には、ネジ留めやロウ付け等の他の方法が用いられてもよい。また例えば、後述の図2(B)に示す支持部材23と基台3とが一体に形成されることによって基台3に並進推力素子2が固定されてもよい。
【0037】
複数の並進推力素子2は、それぞれ、並進推力を発生する装置である。並進推力とは、上述したように、所定の一方向のみに押し進める力を言い、前記所定の一方向には、正方向および負方向のうちの少なくとも1つが含まれる。複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数である。すなわち、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度と当該複数の並進推力素子2によって実現される自由度とが一致する個数である。本実施形態では、3自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、3個の並進推力素子2−1、2−2、2−3を備えている。これら3個の並進推力素子2−1〜2−3は、回転体1に対する接触箇所P1〜P3が対称となるように配置されている。なお、図1に示し例では、前記接触箇所P1〜P3は、点対称となっており、このことを示すために、図1(A)には、対称中心P0から等距離にある点の集合である円が破線で示されており、前記接触箇所P1〜P3は、点(点接触)であり、この円上に位置している。より具体的には、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されている。
【0038】
なお、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0039】
並進推力素子2は、並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、並進推力を発生する任意の装置を用いることができるが、例えば、本実施形態では、並進推力素子2は、回転体1と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向に往復動を行うことによって前記並進推力を発生するものである。より具体的には、並進推力素子2は、回転体1と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備える駆動装置である。このような駆動装置の一例としてSIDM(Smooth Impact Drive Mechanism、「SIDM」は登録商標)と称される、例えば圧電素子等の電気機械変換素子を用いた駆動装置がある。このSIDMの一例として図2に示す構成の駆動装置がある。
【0040】
この図2に示す構成の並進推力素子2は、電気機械変換素子21と、運動励起部材22と、支持部材23を備える。
【0041】
電気機械変換素子21は、入力の電気エネルギを機械エネルギ、すなわち、機械的な運動に変換する素子であり、例えば、入力の電気エネルギを圧電効果によって機械的な伸縮運動に変換する圧電素子21等である。
【0042】
この電気機械変換素子21としての圧電素子21は、例えば、積層体と、一対の外部電極部とを備えている。前記積層体は、圧電材料から成る薄膜状(層状)の圧電層と導電性を有する薄膜状(層状)の内部電極層とを交互に複数積層して成るものである。前記積層体は、本実施形態では、図2に示すように、四角柱形状となっている。各内部電極層は、その一方端部(一方縁部)が外部に臨むように形成される。より具体的には、各内部電極層のうちの前記導電層を介して互いに対向する一方の第1内部電極層は、その一方端部が前記積層体の所定の側面(例えば左側側面)に臨むように形成されており、その他方の第2内部電極層は、その一方端部が前記積層体の前記所定の側面に対向する側面(上記例では右側側面)に臨むように形成されている。このように各内部電極層は、その一部が互いに対向する一対の外周側面で交互に外部に臨むようにそれぞれ構成されている。圧電材料は、例えば、いわゆるPZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の無機圧電材料である。
【0043】
前記一対の外部電極部は、前記積層体の外周面における所定の面上に形成され、前記電気エネルギを前記積層体に供給するものである。より具体的には、これら一対の外部電極部における一方の第1外部電極部は、前記一方の第1内部電極層と電気的に接続されるように、前記左側側面に積層方向に沿って薄膜状(層状)で形成され、その他方の第2外部電極部は、前記他方の第2内部電極層と電気的に接続されるように、前記右側側面に積層方向に沿って薄膜状(層状)で形成される。このように一対の外部電極は、各内部電極層と順次交互に導通され、前記電気エネルギを前記積層体の各圧電層に供給する。
【0044】
このような構成の電気機械変換素子21の一例としての圧電素子21では、一対の外部電極部に、例えば後述の図3や図4に示す駆動制御部等の外部回路より所定の電圧が印加されることによって、前記積層体の各圧電層へ電気エネルギがそれぞれ給電されると、各圧電層の圧電効果によって、前記積層体は、積層方向に伸び、あるいは、縮む。
【0045】
運動励起部材22は、電気機械変換素子21としての圧電素子21に固定され、この圧電素子21で電気エネルギから変換された機械エネルギが伝達され、この機械エネルギによって回転体1に所定の軸回りの運動を生じさせる部材である。より具体的には、運動励起部材22は、本実施形態では、圧電素子21における前記積層体の積層方向の一方端部に固定された柱状(軸状)の部材である。この固定には、例えば熱硬化性接着剤等の接着剤が用いられる。運動励起部材22の材料は、例えば、金属、セラミック、ガラス、カーボンおよびこれらのうちの少なくとも1つを含む複合材料等の任意の材料を用いることができる。本実施形態では、運動励起部材22は、カーボンファイバコンポジットで形成された。運動励起部材22の長手方向に直交する断面は、例えば、矩形、多角形、楕円および円形等の任意の形状でよく、運動励起部材22は、多角柱体、円柱体および錘体(多角錐体および円錐体)等でよいが、本実施形態では、図2に示すように、運動励起部材22が回転体1と点接触するような、この断面は、面取りされた四角形となっている。なお、運動励起部材22の長手方向の長さは、回転体1の大きさ等によって適宜に決定されるが、回転体1が運動励起部材22の長手方向に移動するものではなく、運動励起部材22が回転体1に点接触すればよいので、短くすることが可能である。
【0046】
支持部材23は、圧電素子21および運動励起部材22を保持することによってこれらを支持する部材である。支持部材23は、図2に示すように、略コ字形状(略C字形状、略U字形状)に形成されている。この略コ字形状における凹部に、圧電素子21と運動励起部材22との接続部分が嵌め込まれることによって、圧電素子21および運動励起部材22は、支持部材23に支持される。より具体的には、圧電素子21と運動励起部材22との接続部分は、周面において、1個の面(周面における上面)を除く3個の面(周面における下面および一対の側面の各面)で支持部材23と接している。この接続部分を嵌め込む際に、熱硬化性の接着剤が、圧電素子21と運動励起部材22との前記接続部分の外周面または支持部材23の前記凹部の内周面に塗布され、加熱工程が実施されることによって、前記接着剤が熱硬化し、この結果、圧電素子21および運動励起部材22は、支持部材23に接着されて固定される。なお、図2に示す例では、圧電素子21と運動励起部材22との前記接続部分で、これらは、支持部材23に接続されて固定されたが、運動励起部材22が支持部材23に接続されて固定されてもよく、また圧電素子21が支持部材23に接続されて固定されてもよい。そして、支持部材23は、前記略コ字形状における凹部に対向する背面で、基台3に固定されている。より具体的には、側面視にて、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、それぞれ、運動励起部材22が基台3に対して所定の角度θ1(基台3の水平面を0度として前記水平面から所定の角度θ1)で傾くように固定され配置される。基台3と並進推力素子2の支持部材23 との前記固定には、例えば、接着剤による接着固定が用いられる。また例えば、前記固定には、ネジ留めやロウ付け等の他の方法が用いられてもよい。なお、上面視では、上述したように、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されている。
【0047】
このように支持部材23がその位置を略保持するので、上述のように圧電素子21の前記積層体が伸縮すると、この伸縮が運動励起部材22に伝わって、運動励起部材22は、この圧電素子21における前記積層体の伸縮動作に連動して往復動することになる。
【0048】
回転体1は、複数の並進推力素子2に所定の摩擦力で係合する部材である。回転体1は、任意の材料によって形成することができるが、耐久性を向上させるために、例えば車のクラッチ機構等に用いられるペーパ摩擦材等の耐摩耗性に優れた材料によって形成されることが好ましい。本実施形態では、回転体1は、後述するように例えば鉄等の磁性体によって形成される。回転体1は、その全体が前記磁性体で形成されてよく、また、その表面のみが前記磁性体で形成されてよい。また、磁力が作用する表面の一部のみが前記磁性体で形成されてよい。また、回転体1内の一部分が前記磁性体で形成されてよい。この場合において、その偏りがあってもよいが、回転体の駆動制御を容易に行う観点から、その偏りがない方が好ましい。
【0049】
回転体1における運動励起部材22と係合する面は、曲面であっても、平面であってもよく、回転体1は、任意形状の立体の部材でよい。したがって、回転体1は、例えば、球体、楕円球体およびその一部が切り取られたこれらの半球体等だけでなく、多面体であってもよい。前記多面体は、例えば14面体や20面体等の面数が多いほど好ましい。そして、より滑らかに回転体1を運動させるために、回転体1は、複数の並進推力素子2と係合する面が曲面である形状の部材であることが好ましい。本実施形態では、図1に示すように、回転体1は、球体または球殻体である。
【0050】
回転体1、並進推力素子2の運動励起部材22および基台3が、重力が作用する方向(重力の作用方向)に向かってこの順で配置されている構成では、並進推力素子2は、回転体1の自重を利用することによって複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させることも可能であるが、この構成では使用上の制約や設計上の制約が生じる。より具体的には、例えば、多自由度アクチュエータDaを傾けた場合に、回転体1が転がり落ちてしまう可能性がある。そのため、多自由度アクチュエータDaは、固定した場所で使用しなければならないため、使用上の制約が生じる。あるいは、そのため、回転体1の転落を防止するために、転落防止部材が別途必要となり、設計上の制約が生じる。このような使用上の制約や設計上の制約を低減するために、本実施形態では、多自由度アクチュエータDaは、複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えて構成されている。このような付勢部材は、例えば、より簡易に構成することができることから、圧縮コイルバネや板バネ等の弾性体が用いられてよい。このような弾性体は、複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形を考えた場合に、該多角形の重心を通る該多角形の法線方向に沿うとともに、当該複数の並進推力素子2へ向かう方向に付勢力を生じさせるように配置される。また例えば、前記付勢部材は、エアを吸引することによってエアによる吸引引力を発生するエアコンプレッサ等が用いられてもよい。このような吸引引力による付勢部材は、エアを吸引することによって、複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形を考えた場合に、該多角形の重心を通る該多角形の法線方向に沿うとともに、当該複数の並進推力素子2へ向かう方向に付勢力を生じさせるように配置される。また例えば、前記付勢部材は、磁力を発生する磁石であってもよい。本実施形態では、前記基台3は、例えば永久磁石等の磁石によって形成されており、回転体1は、この基台3の磁石によって形成される磁場と相互作用を行うために、例えば鉄等の磁性体によって形成されている。この磁石の基台3によって、図1に示すように、回転体1には、その中心点Pcから基台3へ向かう磁力(図1(B)に相対的に太い矢符で示す)が作用し、この磁力が複数の並進推力素子2の運動励起部材22と回転体1とが互いに接触する前記接触点P(P1〜P3)を頂点する多角形の重心を通ることで、この磁力がこれら複数の並進推力素子2の運動励起部材22に略均等に作用する(図1(B)に相対的に細い矢符で示す)。これによって複数の並進推力素子2の運動励起部材22は、この磁力によって回転体1を安定的に保持することができる。そして、前記付勢力を発生させるために、前記磁力を用いることによって、極めて小さい構造によって複数の並進推力素子2と回転体1とを前記所定の摩擦力で係合させることができる。この回転体1の磁性体は、常磁性体であることが好ましい。このように常磁性体で回転体1を形成することによって、回転体1の回転状態にかかわらず基台3の磁石の磁場から同じように相互作用を受けるので、このような構成によれば、回転体1の駆動制御(複数の並進推力素子2の制御)がより容易となる。なお、上述では、基台3を磁石で形成したが、基台3とは別個に永久磁石や電磁石等の磁石が設けられてもよい。
【0051】
次に、電気的な構成であるドライブ部4および制御部5について説明する。これらドライブ部4および制御部5は、複数の並進推力素子2を駆動制御することによって、回転体1の回転方向、回転量(回転変位)および回転速度等を制御する駆動制御部である。このドライブ部4および制御部5を備える駆動制御部には、並進推力素子2の態様に応じて適宜な回路が用いられる。並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、例えば、図3に示すHブリッジ型の駆動制御回路や、図4に示すハーフブリッジ型の駆動制御回路が前記駆動制御部として用いられる。
【0052】
この図3に示すHブリッジ型の駆動制御回路は、ドライバ部4aと、制御部5aとを備える。ドライバ部4aは、並進推力素子2に所定の駆動電圧を印加することで並進推力素子2に電力供給を行う回路であり、例えば、図3に示すように、4個のスイッチング素子としてのトランジスタQ11、Q12、Q13、Q14を備えて構成される。互いに直列に接続されたトランジスタQ11およびトランジスタQ12は、電源+Vと接地との間に接続され、この直列接続のトランジスタQ11およびトランジスタQ12に並列に、互いに直列に接続されたトランジスタQ13およびトランジスタQ14が接続され、トランジスタQ11とトランジスタQ13との接続点およびトランジスタQ13とトランジスタQ14との接続点の間に、並進推力素子2の圧電素子21が接続される。制御部5aは、所望の回転方向、回転量および回転速度で回転体1を駆動するべく、複数の並進推力素子2のそれぞれを制御するために、トランジスタQ11〜Q14のオンオフを制御する制御信号S11〜S14を出力する回路である。これらトランジスタQ11〜Q14をオンオフするための制御信号S11〜S14は、制御部5aからこれらトランジスタQ11〜Q14の各制御端子のそれぞれに供給される。
【0053】
また、図4に示すハーフブリッジ型の駆動制御回路は、ドライバ部4bと、制御部5bとを備える。ドライバ部4bは、並進推力素子2に所定の駆動電圧を印加することで並進推力素子2に電力供給を行う回路であり、例えば、図4に示すように、2個のスイッチング素子としてのトランジスタQ21、Q22を備えて構成される。互いに直列に接続されたトランジスタQ21およびトランジスタQ22は、電源+Vと接地との間に接続され、この直列接続のトランジスタQ21およびトランジスタQ22の接続点と接地との間に、並進推力素子2の圧電素子21が接続される。制御部5bは、所望の回転方向、回転量および回転速度で回転体1を駆動するべく、複数の並進推力素子2のそれぞれを制御するために、トランジスタQ21、Q22のオンオフを制御する制御信号S21、S22を出力する回路である。これらトランジスタQ21、Q22をオンオフするための制御信号S21、S22は、制御部5bからこれらトランジスタQ21、Q22の各制御端子のそれぞれに供給される。
【0054】
次に、このような構成の多自由度アクチュエータDaの動作について説明する。図5は、実施形態における多自由度アクチュエータの動作を説明するための図である。図5(A)は、各並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれによって直接的に実現される自由度の並進ベクトルを説明するための図であり、図5(B)は、並進ベクトルによって球体の回転体1に作用する回転ベクトルを説明するための図である。
【0055】
多自由度アクチュエータDaの回転体1を所定の軸回りに回転運動させるべく、多自由度アクチュエータDaにおける1または複数の並進推力素子2が駆動され、並進推力が生じる。この生じた並進推力によって並進推力素子2に所定の摩擦力で係合している回転体1が所定の軸の軸回りに回転運動する。
【0056】
この並進推力は、並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、次にように動作することによって生じる。
【0057】
例えば、図3に示すドライバ部4aおよび制御部5aを備えるHブリッジ型の駆動制御回路では、Hブリッジの対角位置に設けられるトランジスタQ11、Q4およびトランジスタQ12、Q13は、それぞれ、各制御信号S11〜S14によって同相で駆動されるとともに、トランジスタQ11、Q14とトランジスタQ12、Q13とは、相互に逆相で駆動される。これによって、並進推力素子2の圧電素子21には、矩形波の駆動信号が印加される。そして、前記駆動信号のデューティを0.7程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=7:3)とすることによって、並進推力素子2では、この駆動信号によって圧電素子21が非対称な伸縮振動を行い、この非対称な伸縮運動によって、運動励起部材22は、所定の一方向における往路と復路とで速度差のある非対称な往復動を行い、これによって運動励起部材22には一方向における例えば正方向のみに押し進める推力が生じる。すなわち、正方向には、ゆっくり伸張するとともに、負方向には、急速に収縮する。つまり、負方向の収縮速度は、正方向の伸張速度より大きい。一方、前記駆動信号のデューティを0.3程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=3:7)とすることによって、並進推力素子2では、圧電素子21が前記非対称な伸縮運動とは逆の非対称な伸縮振動を行い、この逆の非対称な伸縮運動によって、運動励起部材22は、前記一方向における往路と復路とで逆の速度差のある非対称な往復動を行い、これによって運動励起部材22には前記一方向における負方向のみに押し進める推力が生じる。すなわち、負方向には、ゆっくり伸張するとともに、正方向には、急速に収縮する。つまり、正方向の収縮速度は、負方向の伸張速度より大きい。
【0058】
例えば、図4に示すドライバ部4bおよび制御部5bを備えるハーフブリッジ型の駆動制御回路では、これらトランジスタQ21およびトランジスタQ22は、それぞれ、各制御信号S21、S22によって相互に逆相で駆動される。これによって、並進推力素子2の圧電素子21には、上述と同様に、矩形波の駆動信号が印加され、そのデューティを上述のように調整することによって、並進推力素子2の運動励起部材22には一方向のみに押し進める推力が生じる。
【0059】
このようにHブリッジ型の駆動制御回路またはハーフブリッジ型の駆動制御回路によって、運動励起部材22は、その速度変化がいわゆる鋸歯状となる運動を行い、運動励起部材22には一方向のみに押し進める推力が生じる。この運動励起部材22に生じる一方向のみに押し進める推力を並進ベクトルとして示した図が図5(A)である。
【0060】
図5(A)に示すように、図1に示す構造の多自由度アクチュエータDaでは、まず、並進推力素子2−1が動作する場合には、この並進推力素子2−1によって並進推力素子2−1における圧電素子21−1から運動励起部材22−1へ向かう方向の並進ベクトルV1が生じる。これによって並進推力素子2−1の運動励起部材22−1に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV1と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。図5(A)に示すように、並進推力素子2−1における運動励起部材22−1から圧電素子21−1へ向かう方向にX軸を設定し、このX軸に直交するようにY軸を設定し、これらX軸およびY軸に直交するようにZ軸を設定したXYZ座標系を設け、X軸の正方向を0度として反時計回りを正方向とした場合に、前記並進ベクトルV1は、−60度方向となり、前記回転軸は、+30度方向となる。
【0061】
また、並進推力素子2−2が動作する場合には、この並進推力素子2−2によって並進推力素子2−2における圧電素子21−2から運動励起部材22−2へ向かう方向の並進ベクトルV2が生じる。これによって並進推力素子2−2の運動励起部材22−2に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV2と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。前記XYZ座標系では、前記並進ベクトルV2は、0度方向となり、前記回転軸は、+90度方向となる。
【0062】
また、並進推力素子2−3が動作する場合には、この並進推力素子2−3によって並進推力素子2−3における圧電素子21−3から運動励起部材22−3へ向かう方向の並進ベクトルV3が生じる。これによって並進推力素子2−3の運動励起部材22−3に所定の摩擦力で係合している回転体1は、前記並進ベクトルV3と直交する軸の軸回りに回転運動を行う。前記XYZ座標系では、前記並進ベクトルV3は、+60度方向となり、前記回転軸は、−30度方向となる。
【0063】
そして、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3のうちの複数が同時に動作する場合には、これら動作している複数の並進推力素子2によって生じる複数の並進ベクトルVの合成ベクトルが回転体1に作用し、回転体1は、この合成ベクトルに直交する軸の軸回りに回転運動を行う。例えば、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3全てを同時に、並進推力素子2−2および並進推力素子2−3を同位相で並進推力素子2−1を逆位相で動作させた場合には、図5(B)に示すように、並進推力素子2−2における運動励起部材22−2から圧電素子21−2へ向かう方向(X軸方向)の合成ベクトルVが生じる。そして、この合成ベクトルVによって、回転体1は、前記合成ベクトルVと直交する軸(Y軸)の軸回りに回転運動を行う。すなわち、この場合における回転ベクトルは、Y軸方向となる。
【0064】
なお、回転体1を所望の回転軸の軸回りに回転運動させる場合に、この回転運動に寄与しない並進推力素子2は、停止状態としてもよいが、回転体1に対しスリップ状態とすることが好ましい。例えば、並進推力素子2が図2に示すSIDMの駆動装置である場合には、前記駆動信号のデューティを0.5程度([ハイレベルの時間]:[ローレベルの時間]=5:5)とすることによって、並進推力素子2は、回転体1に対しスリップ状態となる。これによって並進推力素子2は、回転体1に対し、静止摩擦力ではなく動摩擦力で係合するため、回転体1は、スムーズに回転運動することができる。
【0065】
このように動作することによって、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、複数の回転軸の軸回りに回転体1を運動することができる。そして、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、小型化可能な複数の並進推力素子2を用いるので、小型化が可能となり、また、複数箇所で回転体に接触するから、より大きな駆動力を得ることができる。また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、例えば、数百ナノメータ以下の高分解能の駆動が可能であり、精密な位置制御が可能である。
【0066】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2は、これらによって直接的に実現される自由度の個数と当該多自由度アクチュエータDaの回転体1の自由度の個数が一致するため、その駆動制御が容易となる。
【0067】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2は、回転体1に対する前記接触箇所P(P1〜P3)が点対称となるように配置されている。このため、回転体1がこれら複数の並進推力素子2によって均等に支持されるので、回転体1の姿勢を安定的に保持することができ、回転体1を安定的に駆動制御することができる。また、このように対称配置されると、駆動制御も容易となる。
【0068】
また、本実施形態における多自由度アクチュエータDaでは、複数の並進推力素子2と回転体1とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えている。このため、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、使用上の制約や設計上の制約が低減される。そして、本実施形態では、前記付勢部材は、磁石であり、回転体1は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されている。このため、本実施形態における多自由度アクチュエータDaは、小型化が可能となり、また付勢力の生成に外部からエネルギを別途に投入する必要がない。
【0069】
なお、上述の実施形態では、3自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、3個の並進推力素子2−1、2−2、2−3を備えているが、2自由度を実現するために、複数の並進推力素子2は、2個の並進推力素子2−1、2−2を備えてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態では、付勢部材は、1つの部材で構成されたが、複数の部材で構成されてもよい。例えば、付勢部材として、複数の磁石が用いられたり、磁石と弾性体とが用いられてもよい。
【0071】
また、上述の実施形態では、側面視にて、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、それぞれ、運動励起部材22が基台3に対して所定の角度θ1で傾くように固定され配置され、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3は、約120度の略等間隔で配置されているが、複数の並進推力素子2は、所望の複数の自由度を実現することができるという前提の下に、回転体1に様々な態様で所定の摩擦力で係合することができる。以下、並進推力素子と回転体との係合態様について説明する。
【0072】
図6は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第1係合態様を説明するための図である。図7は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第2係合態様を説明するための図である。図8は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第3係合態様を説明するための図である。図6(A)は、図1(B)と同一の図であり、また、これら図6ないし図8は、図1(B)と同様に、図1(A)に示すAA線における断面図である。図9は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第4係合態様を説明するための図である。図10は、実施形態の多自由度アクチュエータにおける並進推力素子と回転体との第5係合態様を説明するための図である。図9および図10は、図1(A)と同様に、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示されている。
【0073】
まず、第1係合態様では、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し任意の角度θ(ただしθは0度を含む)で固定されて配置されてよい。例えば、図6(A)および図1(B)に示す多自由度アクチュエータDaのように、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し角度θ1で傾くように固定されて配置されてよく、また例えば図6(B)に示す多自由度アクチュエータDbのように、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し前記角度θ1より大きな角度θ2で傾くように固定されて配置されてよい。もちろん、図示しないが、並進推力素子2は、その運動励起部材22が基台3に対し前記角度θ1より小さな角度θ3で傾くように固定されて配置されてよい。
【0074】
なお、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向は、図6(A)に示すように、径方向に沿って外側から中心点Pc’へ向かう方向であってよく、また、図6(B)に示すように、径方向に沿って中心点Pc’から外側へ向かう方向であってよい。ここで、前記圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向とは、圧電素子21および運動励起部材22を基台3へ投影した場合における前記圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向であり、前記径方向とは、球体の回転体1を基台3へ投影した場合に形成される回転体1の投影円(回転体1の外周輪郭によって形成される円)の径方向であり、そして、前記中心点Pc’とは、この円の中心点(回転体1の中心点Pcを基台3へ投影した場合に形成される中心点Pcの投影点)である。以下の説明も同様である。
【0075】
また、第2係合態様では、複数の並進推力素子2のそれぞれは、各運動励起部材22が基台3に対し互いに異なる角度θで傾くように固定されて配置されてよい。例えば、図7(A)に示す多自由度アクチュエータDcのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度θ42で傾くように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の1つの並進推力素子2−3は、その運動励起部材22−3が基台3に対し角度θ43で傾くように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の並進推力素子2−1は、図示されていないが、その運動励起部材22−1が基台3に対し角度θ41で傾くように固定されて配置される。図7(A)に示す例では、前記角度θ43は、前記角度θ42と異なる角度であって、この例では、前記角度θ42より大きな角度である。そして、この第2係合態様において、図7(B)に示す多自由度アクチュエータDdのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度0度で固定されて配置されてよい。また、図示しないが、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度90度で固定されて配置されてよい。
【0076】
もちろん、複数の並進推力素子2のそれぞれは、図6(A)および図6(B)に示すように、各運動励起部材22が基台3に対し互いに同一の角度θで傾くように固定されて配置されてもよい。
【0077】
また、第3係合態様では、複数の並進推力素子2のぞれぞれは、回転体1の任意の箇所で回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。例えば、図8に示す多自由度アクチュエータDeのように、3個の並進推力素子2のうちの1つの並進推力素子2−2は、その運動励起部材22−2が基台3に対し角度0度で固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の1つの並進推力素子2−1は、その運動励起部材22−3が基台3に対し角度90度で傾くように、かつ、前記並進推力素子2−2の回転体1との接触点P2と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−1の回転体1との接触点P1と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度90度となるように固定されて配置され、前記3個の並進推力素子2のうちの残余の並進推力素子2−3は、前記並進推力素子2−1の回転体1との接触点P1と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−3の回転体1との接触点P3と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度90度となるように、かつ、前記並進推力素子2−2の回転体1との接触点P2と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分と、該前記並進推力素子2−3の回転体1との接触点P3と回転体の中心点Pcとを結ぶ線分とのなす角が角度45度となるように、固定されて配置される。
【0078】
また、第4係合態様では、複数の並進推力素子2のそれぞれは、任意の向きで回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。すなわち、複数の並進推力素子2のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向(並進ベクトルの方向)が任意の方向で回転体1と接触するように固定されて配置されてよく、また、複数の並進推力素子2のそれぞれは、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向(並進ベクトルの向き)が任意の方向で回転体1と接触するように固定されて配置されてよい。
【0079】
例えば、図9(A)に示す多自由度アクチュエータDfのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うとともに約120度の略等間隔で配置されているが、3個の並進推力素子2−1〜2−3のうちの2個の並進推力素子2−1、2−3は、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が外側から中心へ向かう向きである一方、残余の1個の並進推力素子2−2は、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が中心点Pc’から外側へ向かう向きである。このように複数の並進推力素子2のそれぞれは、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が互いに異なる向きであってよい。
【0080】
また例えば、図9(B)に示す多自由度アクチュエータDgのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿っているが、不等間隔(互いに異なる間隔)で配置されてよい。並進推力素子2−1と並進推力素子2−2とは、角度135度の間隔で配置され、並進推力素子2−2と並進推力素子2−3とは、角度90度の間隔で配置され、並進推力素子2−3と並進推力素子2−1とは、角度135度の間隔で配置されている。
【0081】
また例えば、図9(C)に示す多自由度アクチュエータDhのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿っている必要は必ずしも無く、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が時計回りの方向で配置されている。
【0082】
また例えば、図9(D)に示す多自由度アクチュエータDiのように、上面視では、3個の並進推力素子2−1〜2−3のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うものと回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うものとを混合して配置されてよい。2個の並進推力素子2−1、2−3のそれぞれは、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が時計回りの方向で配置され、並進推力素子2−2は、運動励起部材22の長手方向が径方向に沿って配置されている。
【0083】
また、第5係合態様では、複数の並進推力素子2は、前記複数の並進推力素子2のうちの1または複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができない自由度を実現するために、残余の並進推力素子2が配置されてもよい。例えば、図10に示す多自由度アクチュエータDjでは、3個の並進推力素子2−1〜2−3における回転体1との接触点P1〜P3を通る円の中心点と回転体1の中心点Pcとを通る線分を回転軸とする自由度は、これら3個の並進推力素子2−1〜2−3によって直接的に実現することができない。そこで、この自由度を直接的に実現するために、4個目の並進推力素子2−4がその運動励起部材22−4の長手方向を、この回転軸上の点を中心点とする円の接線方向に沿わせて配置される。
【0084】
なお、複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができない自由度は、当該自由度の変位を前記複数の並進推力素子2によって直接的に実現することができる自由度の成分に分割することができれば、これら分割した自由度の成分の変位を前記複数の並進推力素子2によって時分割で順次に生じさせることによって、複数の並進推力素子2によって間接的に実現することができる。
【0085】
そして、これら第1ないし第5係合態様は、そのうちの複数(少なくとも2つ)を適宜に組み合わせることもできる。
【0086】
このように複数の並進推力素子2は、回転体1に対し所定の摩擦力で係合するように配置されれば、任意の態様で配置可能である。このため、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDが最も小型となるように、配置することができる。あるいは、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDの所望の自由度を実現するために、最も簡易な駆動制御となるように、配置することもできる。あるいは、複数の並進推力素子2は、多自由度アクチュエータDの所望の自由度のうちの最も使用頻度の高い自由度を1個の並進推力素子2で直接的に実現することができるように、前記最も使用頻度の高い自由度に合わせて配置することもできる。
【0087】
また、上述の実施形態では、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータD(Da〜Dj)の自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数であるが、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDの自由度を当該複数の並進推力素子2によって直接的に実現する個数よりも多い個数であってもよい。すなわち、複数の並進推力素子2は、当該多自由度アクチュエータDaの自由度と当該複数の並進推力素子2によって実現される自由度とが一致する個数よりも多い個数である。このような構成の多自由度アクチュエータDは、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2を除いてさらに余分に1または複数の並進推力素子2を備えることができる。このため、このような構成の多自由度アクチュエータDは、この余分な並進推力素子2を所定の用途のために用いることができ、機能強化を図ることができる。例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2では実現し難い自由度を実現するために、この余分な並進推力素子2が用いられる。また例えば、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2によって多自由度アクチュエータDの自由度を直接的に実現することができるが、これら複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2では出力トルクが不足するために補強する場合やこれら複数の自由度のうちの使用頻度の高い自由度に余力を与えるために補強する場合等の駆動力を増強するために、この余分な並進推力素子2が用いられる。また例えば、回転体1における変位の分解能を向上するために、複数の自由度の実現を担う複数の並進推力素子2によって実現される推力方向と逆方向に推力を生じるように、この余分な並進推力素子2が用いられる。
【0088】
図11は、実施形態における多自由度アクチュエータの他の構成を説明するための図である。図11(A)は、第1の他の構成を示し、図11(B)は、第2の他の構成を示す。図11は、図1(A)と同様に、回転体1と複数の並進推力素子2との係合状態を示すために、回転体1は、透過状態で示されている。
【0089】
例えば、図11(A)に示す多自由度アクチュエータDkのように、上面視では、4個の並進推力素子2−1〜2−4のそれぞれは、各運動励起部材22の長手方向が径方向に沿うとともに約90度の略等間隔で配置されている。このように構成することによって1個の自由度を2個の並進推力素子2によって実現するので、当該自由度の駆動力が増強される。
【0090】
また例えば、図11(B)に示す多自由度アクチュエータDlのように、上面視では、4個の並進推力素子2−1〜2−4のそれぞれは、回転体1の中心点Pcを通る線分上の点を中心点とした所定の半径の円の接線方向に沿うとともに、圧電素子21から運動励起部材22へ向かう方向が反時計回りの方向で配置されている。そして、これら4個の並進推力素子2−1〜2−4は、略等間隔で配置されている。このように構成することによって1個の自由度を4個の並進推力素子2によって実現するので、当該自由度の駆動力が増強される。
【0091】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0092】
D、Da〜Dl 多自由度アクチュエータ
1 回転体
2 並進推力素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、前記並進推力を発生する複数の並進推力素子と、
前記複数の並進推力素子に所定の摩擦力で係合する回転体とを備えること
を特徴とする多自由度アクチュエータ。
【請求項2】
前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数であること
を特徴とする請求項1に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項3】
前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数よりも多い個数であること
を特徴とする請求項1に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項4】
前記複数の並進推力素子は、前記回転体に対する接触箇所が対称となるように配置されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項5】
前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項6】
前記付勢部材は、磁石であり、
前記回転体は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されていること
を特徴とする請求項5に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項7】
前記複数の並進推力素子のうちの少なくとも1つは、前記回転体と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項8】
前記運動励起部材は、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状であること
を特徴とする請求項7に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項9】
前記回転体は、前記複数の並進推力素子と係合する面が曲面である形状の部材であること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項1】
並進推力の方向と前記並進推力を受けて発生する駆動ベクトルの方向とが互いに一致するように、前記並進推力を発生する複数の並進推力素子と、
前記複数の並進推力素子に所定の摩擦力で係合する回転体とを備えること
を特徴とする多自由度アクチュエータ。
【請求項2】
前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数であること
を特徴とする請求項1に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項3】
前記複数の並進推力素子は、当該多自由度アクチュエータの自由度を当該複数の並進推力素子によって直接的に実現する個数よりも多い個数であること
を特徴とする請求項1に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項4】
前記複数の並進推力素子は、前記回転体に対する接触箇所が対称となるように配置されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項5】
前記複数の並進推力素子と前記回転体とを所定の摩擦力で係合させる付勢力を生成する付勢部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項6】
前記付勢部材は、磁石であり、
前記回転体は、前記磁石によって生成される磁力と作用する磁性体で形成されていること
を特徴とする請求項5に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項7】
前記複数の並進推力素子のうちの少なくとも1つは、前記回転体と所定の摩擦力で係合するとともに、所定の一方向における往路と復路とで非対称な往復動を行う運動励起部材を備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項8】
前記運動励起部材は、円柱体、多角柱体および錘体のうちのいずれかの形状であること
を特徴とする請求項7に記載の多自由度アクチュエータ。
【請求項9】
前記回転体は、前記複数の並進推力素子と係合する面が曲面である形状の部材であること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の多自由度アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−186931(P2012−186931A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48651(P2011−48651)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】
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