説明

多角形旋削インサート

【課題】本発明は、コーナに配置されるノーズ切れ刃とこのノーズ切れ刃に接続する二つの主切れ刃を含む切れ刃を有し、切り屑を案内する第1のフランク面が、二つの主切れ刃の間の二等分線に沿うノーズ切れ刃の後方に配置され、一対の第2のフランク面が主切れ刃の内側に配置されている多角形旋削インサートに関する。
【解決手段】第1のフランク面(21)が、下側境界線(22)によって凸状に湾曲して区画形成され、下側境界線(22)は、ノーズ切れ刃(12)に対向し、二等分線(B)に沿って配置された頂点(AP)を有すると共に、二つの対称的な湾曲線(22a)を含み、湾曲線(22a)は、頂点(AP)から互いに反対側に位置する一対の端点(EP)まで延び、端点(EP)は直線の基準線(RL)に沿って配置され、基準線(RL)は一対の端点(EP)の間の中間点(MP)において直角に二等分線(B)に交差する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準面に対して略平行な上面と、下面と、上面と下面との間の複数の逃げ面とを備えた多角形旋削インサートにして、少なくとも上面に沿って形成されると共に三つの切れ刃部分、すなわち、コーナに配置されたノーズ切れ刃とノーズ切れ刃に接続する二つの主切れ刃とを有する切れ刃を備え、個々の切れ刃部分が切り屑面と逃げ面との間に形成され、更に、個々の切れ刃部分で切削された切り屑を案内するフランク面、すなわち、二つの主切れ刃の間の二等分線に沿ってノーズ切れ刃の後方に配置された第1のフランク面と、主切れ刃の内側に配置された一対の第2のフランク面とを備え、個々のフランク面が下側境界線から上方に向かって傾斜している多角形旋削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
発明を理解しやすくするために、添付の図1〜4が参照される。図1は被削材を通常の方法で加工中の旋削工具を示す。図2〜4は、排出される切り屑を案内する態様の異なる条件を示す。
【0003】
図1では、被削材2を加工している旋削工具1が示されている。工具1は、ホルダ3と旋削インサート4(本発明の)とを備えている。この場合において、被削材2は回転し、工具1が被削材の中心軸Cに平行な長手方向、より詳細には矢印Fの方向に送られる。1回転当たりの長手方向の送りはfで示され、切込みはapで示される。長手方向の送りと旋削インサートの主切れ刃との間の設定角度はκで示される。示された例において、κは95゜になる。更に、旋削インサート4は、菱形の基本形状を有し、80゜の角度を有する二つの鋭角コーナと100゜の角度を有する二つの鈍角コーナとを備える。このようにして、5゜の逃げ角σが旋削インサートと被削材の加工面との間に得られる。
【0004】
図2〜4において、CEはポジの切れ刃幾何学形状を有する切れ刃を示し、切り屑面CSと逃げ面CLSとの間で区画形成されている。面CSとCLSとは鋭角で互いに出会う。したがって、切れ刃のすくい角RAは90゜より小さくなる。例において、約15゜である。支持面としての上面SSは、境界線BLを介して、切り屑面CSへの移行部を形成する底Bに向かって傾斜するすくい面FSに移行する。境界線BLと切れ刃CEの切れ刃稜線との間の長さはLで示される。切れ刃CEにより除去される切り屑は、弧線CHの形態で示される。
【0005】
旋削加工を含む金属の切り屑除去加工においては、切り屑は「湾曲」して生成するというルールがある。すなわち、切り屑が生成すると直ぐに、切り屑は湾曲する。切り屑の形状、特に、切り屑の曲率半径は幾つかのファクタによって決定される。旋削に関してその最も重要なものは、工具の送り、切れ刃のすくい角(rake angle)、切り込みである。切削後の切り屑は、切れ刃の微小部分に対して垂直に動く。もし切れ刃が直線であるならば、切り屑は平坦で断面形状が矩形になるが、切れ刃が全体的又は部分的に湾曲しているならば、切り屑は断面形状が全体的に又は部分的に湾曲する。
【0006】
図2では、切り屑CHがフランク面FSに当たらずにどのようにして形成されるかが示されている。これは、切り屑が案内されずに生成することを意味する。このような切り屑は、しばしば長くカールし、電話コード状に捻れ、とりわけ、被削材の生成面に当たり、工具及び/又は機械に絡まり、時々、周囲に損傷を与える危険がある。図2による例において、支持面SSと切れ刃CEとの間の高低差H1、又は切れ刃CEより長さLだけ離れて切れ刃の上にあるフランクFSの高さは、切り屑がフランク面FSに接触するのにあまりにも小さい。フランク面FSは、所定の曲率半径を有する切り屑が当たるように、切れ刃CEから長い長さ離れて配置されることができる。
【0007】
図3において、示されている旋削インサートは、支持面SSと切れ刃CEとの間の高低差H2(フランク面の高さ)が前の例よりも大きく、フランク面FSは切り屑面CSまで境界部Bの方に向かって急勾配で傾斜している。これは、切り屑CHが、大きな力でフランク面、より詳細にはフランク面のより小さな領域へ潜り込もうとすることを意味する。これは、大量の熱を接触領域に生じさせ、同時に、旋削インサートの切れ味を鈍くする。更に、切り屑の材料が、フランク面FSに溶着することがあり、支持面SSに溶着することもある。所定時間の使用後、フランク面に摩耗による損傷が生じる。従って、図3による実施形態は好ましい切り屑コントロールもたらさない。
【0008】
図4には、好ましい切り屑コントロールの条件が改善された実施形態を示す。この場合において、フランク面の高さ、すなわち、支持面SSと切れ刃CEとの間の高低差H3は、切り屑CHが支持面SSに最も接近する上側領域内でフランク面FSに当たるように設定されている。これにより、熱の発生と溶着とが減少し、旋削インサートの良好な切削特性が維持される。切り屑は適度の力でフランク面FSに当たり、また、切れ刃とフランク面に対して切り屑が当たる接触点との間の長さが図3よりも長くなり、適度な熱の発生をもたらし、熱い切り屑の温度を減少させる時間を有する。支持面と切れ刃との間の高低差が、図4に示すように、適切な方法で選択されるとき、好ましい切り屑コントロールが行われる。
【0009】
上述したポジティブの幾何学形状を有する切れ刃とネガティブ幾何学形状を有する切れ刃との違いは、前者が切り屑と生成面との間で楔作用によって切り屑を持ち上げるのに対して、後者は切り屑を剪断変形させながら切り屑の前面を押すことである。一般に、ポジティブの切れ刃は、ネガティブの切れ刃より切削を容易に行い、曲率半径の大きな切り屑を生成する。
【0010】
(従来技術)
旋削の技術分野において、しばしば、荒旋削加工、中仕上げ旋削加工、精密仕上げ旋削加工のために、、切り込みに関係なく良好な切り屑コントロールを得ながら、一つの同じ旋削インサートを使用することが望まれている。このため、最初に述べた種類の多数の旋削インサートが開発され、すなわち、個々のノーズ切れ刃の後方に配置された第1の切り屑案内フランク面と、ノーズ切れ刃で出会う二つの主切れ刃の内側に配置された二つの第2のフランク面とを有している。このような旋削インサートの例は、特許文献1〜3で開示されている。
【0011】
しかしながら、開発の試みに関わらず、以前の周知の旋削インサートは、種々の作業条件下において良好な切り屑コントロールを保証することに関して、汎用性に劣ったものである。したがって、ある旋削インサートは、切込みが浅く、送りが大きく、薄い切り屑を生ずるときは許容できる結果をもたらすが、切込みや送りが大きくなり、厚い切り屑を生じるときには許容できない結果を生じる。他の旋削インサートは、切込みや送りが大きい荒旋削加工には適するが、仕上げ旋削には適さない。汎用性に関する欠如は、一つの同じ加工中で切込みが変化するとき、特に困らせるものとなる。
【0012】
特許文献1による旋削インサートにおいて、第1のフランク面は、極端に狭く、細長い領域内に含まれ、二つの主切れ刃の間の二等分線に沿って延びている。第1のフランク面が小さいことは、浅い切込みで薄い切り屑が、フランク面に当たることなくフランク面を通過する危険があることを意味する。特許文献2による旋削インサートは、切り屑が確実にあたるように、切り屑のための十分に広い第1のフランク面を含んでいる。更なる改良のため、フランク面は凹形状に形成されている。しかしながら、切込みがノーズ半径より大きくなり、切り屑の幅が増加すると、第1のフランク面の端部の一部が、切り屑に部分的に力を作用して突然に切り屑を変形させようとすることによって切り屑の形成を妨害する。特許文献1による旋削インサートは、ノーズ切れ刃後方の豆状の瘤の使用に基づいており、汎用性のある良好な切り屑コントロールを保証しない。薄く、細い切り屑が、瘤の長さ延長部分において中央の溝で捕捉されるときでさえ、切込みが増加するとすぐに、瘤の高い側面は切り屑の生成を妨害する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許番号第5372463号明細書
【特許文献2】米国特許番号第5743681号明細書
【特許文献3】米国特許番号第7374372号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の旋削インサートの上述した欠点を取り除き、旋削インサートを改良することを目的とする。したがって、本発明の第1の目的は、浅い切込みでの精密仕上げ旋削だけでなく、切込みが変化して、切込みが大きくなったときも良好な切り屑コントロールを提供できる旋削インサートを提供する。特に、一つの同じ加工中において切り屑の幅が変化するときでさえ、切り屑が案内されることを可能にする。更に、容易で、費用のかからない方法で製造することができ、片面だけでなく両面使用可能な旋削インサートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、少なくとも第1の目的は、凸形に湾曲して形成され、湾曲した下側境界線によって区画形成された第1のフランク面によって達成される。下側境界線は、ノーズ切れ刃に対向し、二等分線に沿って配置された頂点を有し、二つの対称の湾曲線部分を含む。二つの湾曲線部分は、頂点から、二つの端点間の中間点に直角な二等分線に交差する直線基準線に沿って配置された一対の反対側の端点まで延び、中間点と個々の端点との間の距離は中間点と頂点との間の距離よりも長く、中間点を通る任意の垂直断面内の第1のフランク面の傾斜角が、二等分線に沿う断面内の最も大きな値から個々の端点を通る断面内の最も小さな値まで減少する。この第1のフランク面によって、良好な切り屑コントロールは、仕上げ旋削で得られる薄い切り屑だけでなく、切込みが大きなときに得られる幅広の切り屑に関して保証される。従って、第1のフランク面は、幅広で硬い切り屑が生成するときに、切り屑コンとロールを損なったり妨害したりすることなく、細く、曲がった切り屑に関して良好な切り屑コントロールを提供する。
【0016】
本発明の一実施形態において、第1のフランク面の最も大きな傾斜角は、最も小さい角度の少なくとも2倍大きい。実際に、最も大きな傾斜角は、50°を超えない。これは、50°を超えると切り屑とフランク面の接触が過度に強くなるためである。他方、最も小さい角度は5°より小さくない。つまり、最も小さい角度が5°より小さくなると、フランク面の切り屑案内効果が失われるためである。
【0017】
他の実施形態において、旋削インサートが反転可能(両面使用可能)である場合、第1のフランク面は、第2のフランク面が含まれる後方のランドから分離している一つの瘤に形成される。本実施形態の効果は、後方のランドに含まれる平坦な支持面上で金属の溶着を生ずることなく、瘤が加工中に摩耗することである。旋削インサートが交換されるとき、支持面は平坦な状態にあり、旋削インサートの安定した支持が保証される。更に、一つの瘤上の第1のフランク面の形成は、旋削インサートが超硬合金からつくられるとき、旋削インサートのプレス成形を容易にする。
【0018】
第1のフランク面が一つの瘤に形成されるとき、瘤は、長円形で帽子状に、より詳細には、ノーズ切れ刃に対向する第1のフランク面だけでなく、凸形に湾曲した後方側面によって瘤を区画形成することによって形成される。このようにして、瘤は、比較的幅広の切り屑によって生じる摩耗に対して抵抗力を持つ。切り屑は、瘤や、後方のランド上の第2のフランク面によって案内される。
【0019】
反対側の端点の間で、長円形で細長い瘤の長さは、二等分線に沿う延長部よりも少なくとも30%大きいことが好ましい。このようにして、第1のフランク面には、切り屑の流出方向が二等分線から分離するときでさえ、薄く、細い切り屑が当たることを保証する。
【0020】
図面に例示されている別の実施形態において、切り屑面と上面に平行な基準面との間のすくい角は、二等分線に沿う最も大きな値から横断方向の基準線に沿う部分の最も小さい値まで減少する。これに関して、第1のフランク面と周囲の切り屑面との間の鈍角の谷の角度は、二等分線に沿う最も大きな値から横断方向の基準線に沿う部分の最も小さい値まで増加する。より詳細には、第1のフランク面の傾斜角の連続的な減少によって、比例的関係の増加以上に連続的に増加する。このようにして、浅い切込みでの薄く細い切り屑を案内するために旋削インサートの性能が、より深い切込みでの幅広の切り屑を案内する性能と組み合わされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】被削材を加工中の旋削インサートの図である。
【図2】異なる条件で除去される切り屑を案内する一例を示す説明図である。
【図3】異なる条件で除去される切り屑を案内する他の一例を示す説明図である。
【図4】異なる条件で除去される切り屑を案内する他の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の旋削インサートの斜視図である。
【図6】図5による旋削インサートを上からみた平面図である。
【図7】旋削インサートの側面図である。
【図8】旋削インサートのコーナの拡大詳細図である。
【図9】旋削のノーズに含まれる瘤を示す拡大詳細図である。
【図10】瘤の幾何学的データを示す平面図である。
【図11】瘤に含まれる第1のフランク面と基準面との間の角度αを規定する部分の拡大図である。
【図12】図9のXII−XIIに沿って切断した断面図である。
【図13】図9のXIII −XIII に沿って切断した断面図である。
【図14】図9のXIV−XIVに沿って切断した断面図である。
【図15】図9のXV−XVに沿って切断した断面図である。
【図16】回転する被削材の加工中に旋削インサートを示す斜視図である。
【図17】切込みが小さいときに生成する切り屑を示す拡大詳細図である。
【図18】図17における切り屑流出方向を示す図である。
【図19】図17との比較において、切込みが大きいときに生成する切り屑を示す拡大詳細図である。
【図20】図19における切り屑流出方向を示す図である。
【図21】図17との比較において、切込みが更に大きいときに生成する切り屑を示す拡大詳細図である。
【図22】図20における切り屑流出方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を詳細に説明する前に、当業者は、異なる幅/厚みを有する切り屑が異なる曲げ性を有するという事実に留意されるべきである。従って、薄く細い切り屑は草の弱い葉に例えられ、厚い切り屑は硬い葦に例えられる。草の弱い葉と同様に、厚い切り屑は、それが近傍に位置する急傾斜のフランク面の形態である障害物に当たる場合には、実質的な困難性を無くして曲がり、厚い葦状の切り屑が破断する。これは、高い音を発生したり、大きな切削力を生じたり、工具寿命を短くしたり、高熱を生じて溶着をもたらすことがある。
【0023】
図5〜7において、旋削インサート4は、多角形の基本形状を有し、上面5aと下面5bとを備えている。示される好ましい実施形態において、旋削インサートは、上面と下面とが同一形態であるため、両面使用可能である。このため、以降は上面5aのみが詳細に説明される。
【0024】
上面5aには、複数の、より詳細には四つのランド6が含まれている。個々のランドは平面を含み、その平面は、旋削インサートの上下面をひっくり返すときに、工具ホルダ3(図1参照)のインサート座に当接する支持面として作用する。四つの支持面7は、共通の平面に配置され、上面5a及び下面5bは、支持面の平面によって規定され、互いに対して、また、上面と下面との間で中立面を形成する基準面RP(図7参照)に対して平行である。個々の支持面7は、V字の輪郭形状を有し、無端の境界線8によって区画形成されている。
【0025】
具体例において、旋削インサートは、菱形であり、互いに対を成して向かい会う四つのコーナJ1,J2,J3,J4を含んでいる。旋削インサートのコーナJ1,J2は鋭角であり、コーナJ3,J4は鈍角である。コーナ角は変化し得るが、この場合、鋭角は80°であり、鈍角は100°である。上面5aと下面5bとの間で、外周逃げ面が延びている。外周逃げ面は、複数の面部分、すなわち、四つの平面9を含んでいる。この平面9は、四つの凸形状の面部分10を有する一対のコーナの間を延びている。面部分10は、隣接する平坦な逃げ面9との間の移行部を形成する。図6において、BはコーナJ1,J2,J3,J4との間の仮想二等分線を示す。以前から、旋削インサートの大きさを区別するために使用される内接円はICで示される。実際に、旋削インサートのICの数値は6〜25mmの範囲内である。対向する支持面7の間の距離として規定される旋削インサートの厚みt(図7参照)は、旋削インサートのICの数値の半分より小さい。
【0026】
個々の上面と下面に沿って、符号11で示される四つの切れ刃が形成されており、個々の切れ刃は三つの切れ刃部分、すなわち、ノーズ切れ刃12と、ノーズ切れ刃に接続する二つの主切れ刃13を有している。少なくとも切込みに依存する切り屑の大部分の除去は、個々の切れ刃によって提供され、ノーズ切れ刃12は小さい切込みで作用し、二つの主切れ刃の内の一つが作用して生成された面を仕上げる。旋削インサートが一つの同じ工具ホルダ3(図1参照)で使用されるとき、鋭角コーナJ1,J2の切れ刃のみが利用される。
【0027】
図5〜7において、旋削インサートは中心にある貫通孔14を含み、その幾何学的中心軸はCで示される。二つのコーナJ1,J2は中心軸から等しい距離離れていることは明らかである。また、中心軸Cと二つのコーナJ3,J4との間の半径方向距離は等しく、コーナJ1,J2に対する距離よりも小さい。
【0028】
逃げ面部分9,10を含む外周逃げ面の内側において、符号15で示される外周切り屑面が形成されている。一般的に、切れ刃部分12,13は、一方の切り屑面15と他方の逃げ面部分9,10との間で区画形成されている(切れ刃稜線と補強ベベルはそれらの面の間で移行部を形成する)。個々のランド6は、一対のフランク面16と共に形成され、二つの直線主切れ刃13に略平行になっている。これらのフランク面16は、共通の胸面17に移行する。フランク面16及び胸面17は、いわゆる、半径移行部、すなわち、溝状の底面18(図12参照)を形成する凹形状に湾曲した面を介して、切り屑面15に移行する。フランク面16及び胸面17は、支持面7を区画形成する上側境界線8から下側境界線19まで下方に傾斜する。これらの面は16,17は半径移行部又は溝状底面18に移行する。
【0029】
好ましい実施形態において、ノーズ切れ刃12と後方のランド6との間で、一つの瘤20が形成されている。そして、フランク面21が、ノーズ切れ刃12の方に向かう前方で瘤20に含まれている。異なるフランク面を区別するために、以降は、面21が「第1のフランク面」として示され、フランク面16は「第2のフランク面」として示される。示された例において、瘤20がランド6から分離されるとき、胸面17は「第3のフランク面」を形成する。
【0030】
本発明は、瘤20に含まれる第1のフランク面21の特徴的な形状に基づいている。フランク面21をより詳細に説明するために、図10〜15を参照する。
【0031】
図9及び10に示されるように、瘤20は、下側無端境界線22によって区画形成され、周囲の溝又は半径移行部22に移行し、部分的にノーズ切れ刃12に隣接する切り屑面15によって囲まれている。瘤20は、帽子状であり、第1のフランク面21だけでなくその後面24が凸形状に湾曲した形状である。図10の平面図に示されるように、瘤は長円形状の輪郭を有する(けれども、正確な長円ではない)。より詳細には、長円境界線22は、ノーズ切れ刃の方を向き、二等分線上に配置された頂点APを有する。頂点APから、二つの鏡像対称の湾曲線22aが二つの対向する端点EPまで延びている。これらの端点EPは、直角に二等分線Bに交差する、より詳細には、端点EPの間の中間に配置された点MPで交差する基準線RLに沿って配置されている。言い換えると、細長い瘤及び第1のフランク面21は二等分線Bを横断する。
【0032】
前側の第1のフランク面21のように、瘤の後面24は、二つの湾曲線22bによって区画形成されている。これらは、端点EPから二等分線Bに沿って配置された交点CPの共通の点まで延びる。瘤は、二つの端点EP間の最も長い長さL1と頂点APと交点CPとの間の最も短い長さL2とを有することに留意されるべきである。更に、第1のフランク面21が、後面24を区画形成する湾曲線の距離HA2よりも長い距離HA1(APとMPとの間の距離)を有するということに留意すべきである。これは、瘤の輪郭形状が基準線RLに対して非対称であるが、二等分線Bに対しては対称であること意味し、中点MPから端点EPまでの距離HA3は等しい大きさである。
【0033】
瘤の前側のフランク面21のように、後面21は湾曲形成され、微少の傾斜角が二等分線Bに沿う最も大きな値から基準線RLに沿う最も小さい値まで減少する。
【0034】
瘤の幾何学形状又は帽子形状を明確にするために、図11及び図12〜15を参照する。図11では、凸形状のフランク面21が、どのように境界線22を介して凹形状の半径移行部23に移行するかを示す。線TLに沿って境界線22が配置され、凹形状の面及び凸形状の面に対して共通する接線を形成する。この接線TLは、基準線RPに対して角度αを形成する。図12〜15から明らかであるように、角度αは瘤を通る異なる部分で第1のフランク面21の傾斜を規定する。
【0035】
図9において、瘤20の中点MPに交差する30°の等しいピッチを有する四つの先端部分がある。より詳細には、二等分線Bに沿う第1の領域部分XII−XII、二つの中間領域部分XIII −XIII とXIV−XIVと、基準線RLに沿う第4の領域部分XV−XVを有する。図12〜15の間の比較によって示されるように、第1のフランク面21の傾斜角は、領域部分XII−XIIにおいて最も大きな値α1を有し、領域部分XV−XVにおいて最も小さい値α4に減少する。具体例において、α1は44°であり、α2は41°、α3は31°、α4は17°になる。
【0036】
図12〜15において、γは、基準面RPに平行で、切れ刃11の切れ刃稜線が配置されている仮想基準面RPOに対する切り屑面15の傾斜を規定するすくい角を示す。切り屑面15と第1のフランク面21との間で、鈍角βが形成されており、この角度は、以下で谷角を表すものとする。傾斜角αが最も大きな角度α1から最も小さな角度α4に減少するという結果として、谷角は二等分線Bに沿う最も小さな角度β1から基準線RLに沿う最も大きな角度β4に増加する。谷角は、すくい角γが切れ刃に沿って一定であるときでさえ増加する。しかしながら、図12〜15に示されるように、すくい角γは、領域部分XII−XIIの最も大きな値から領域部分XV−XVの最も小さい値まで連続的に減少する。例において、γ1は18.2°、γ2は17.7°、γ3は15.3°、γ4は8.5°である。すくい角γがこのように連続的に減少することによって、鈍角である谷角βの増加が強調される。言い換えると、谷角βは、第1のフランク面の傾斜角αの連続する減少によって、比例的関係の増加以上に連続して増加する。したがって、例において、β1は約118°、β2は121°、β3は134°、β4は155°になる。
【0037】
言葉で表現すると、第1のフランク面21は、領域部分XII−XIIにおいて最も大きな急傾斜を有する。すなわち、ノーズ切れ刃12の後方で、第1のフランク面21は、領域部分XV−XVの方に向かって除々に平坦になる。最後に述べた部分において、フランク面21だけでなく切り屑15が最も平坦になり、すなわち、傾斜が小さくなる。角度βによって規定される谷のV字形状は、ノーズ切れ刃12の直ぐ後方で最も深くなり、領域部分XV−XVの方に向かって除々に連続して浅くなる。
【0038】
図12〜15において、帽子状の瘤20は、旋削インサートの切れ刃稜線が位置する平面RPOの下方に配置される。これに関して、図7を参照する。ランド6の支持面7は旋削インサートの切れ刃稜線のやや上に配置されている。これは、支持面7と瘤20の最も高い点との間の高低差は、面RPOに対と瘤の最も高い点との間の高低差より大きい。面RPOの下に瘤の頂点を下げることによって、瘤上での金属の溶着を伴う熱の発生と旋削中における雑音を小さくする。
【0039】
実際に、上述の傾斜角α1〜α4は、所定の範囲内で変化可能である。しかしながら、最も大きな傾斜角α1は、最も小さい傾斜角α4の少なくとも2倍、多くても10倍であるが、最も大きな傾斜角α1は、50°を超えるべきでない。最も小さい傾斜角α4は5°より小さくすべきでない。傾斜角α1は傾斜角α4の5〜8倍であることが好ましい。
【0040】
明細書や従属請求項で使用される「凸形状に湾曲した」という主旨の概念は、主に、第1のフランク面の曲率に関係している。すなわち、その面に沿い、下側の境界線22に平行な仮想的な任意の母線(generatrices)は湾曲している。しかしながら、瘤の頂点の方に向かう下側境界線から描かれた母線は、湾曲しているか、直線であるかのどちらかである。図11で最も良く示されるように、フランク面21は、例示された実施形態において、境界線22からの母線が上方に向かって湾曲することによって、2つの座標軸の方向に湾曲している。本発明の範囲内において、フランク面21は、下側境界線22から上方に描かれた直線の母線を有する円錐状である。最後に述べた場合において、例示されるように、瘤の頂点は円錐台形状のように平面であり、帽子状ではない。
【0041】
第2のフランク面16に沿う部分の谷角(不図示)は、谷角β4(図15参照)とは異なって非常に小さい。従って、例において、フランク面16の傾斜角は、約17゜であり、同じ部分のすくい角は10゜になる。これは、個々の主切れ刃の内側の谷角が153゜になることを意味する(領域部分XV−XVの155゜と比較される)。
【0042】
(発明の作用及び効果)
部分的に斜視図である図16〜22は、旋削加工の三つの異なるケース、すなわち、本発明に旋削インサートによる精密仕上げ旋削加工、中仕上げ旋削加工、荒旋削加工を示す。図16において、被削材2を加工している旋削インサート4が示されている。被削材2は回転方向Rに回転し、旋削インサートが装着された工具(図1参照)は矢印Fの方向で被削材の長手方向に送られる。これによって、円柱形状を有する滑らかな加工面Sを生成しながら、切り屑CHが除去される。
【0043】
図17及び18には、精密仕上げ旋削加工が示されている。切込みapは非常に小さい。旋削インサートのコーナ半径が0.8mmと仮定すると、切込みapも0.8mmになる。すなわち、コーナ半径と切込みが等しい大きさになる。したがって、全ての切り屑除去はコーナによって行われ、主切れ刃は作用しない。精密仕上げ旋削においては、中程度の送りが選択される。これは、生成する切り屑CHが薄く、細いことを意味する。被削材から切り屑を除去すると直ぐに、切り屑は矢印G1(図18参照)の方、すなわち、上述した二等分線Bの方向で真っ直ぐ後方に動く。切り屑は薄く細いため、切り屑は曲がり易くなっている(草の葉のように)。
【0044】
その曲げ性により、切り屑は、除去は直ぐに、領域部分XII−XII(図12参照)の深い谷に潜り込み、第1のフランク面21に当たる。これは、薄い切り屑が図4に示される理想的な方法で曲がることを意味する。切り屑が第1のフランク面を押すと、切り屑は曲がり、破断して細かくなる。二等分線を横断する方向で所定長さを有する長円形の瘤によって、切り屑流出方向が二等分線から少し逸れたときでも、切り屑は第1のフランク面21に高い確率で当たる。
【0045】
図19及び20には、中仕上げ旋削加工を行う旋削インサートが示されている。ここで、切込みapは最初のケース(精密仕上げ旋削加工)の切込みよりも大きく、より詳細には、約2倍の1.6mmとなる。中仕上げ旋削加工では、送りもまた増加するのが一般的である。これは、切り屑が、図17で示される切り屑よりも幅広で厚くなることを意味する。同時に、切り屑流出方向G2が変化し、切り屑は湾曲したノーズ切れ刃12だけでなく、これに接続する直線の主切れ刃12の部分によっても除去される。これは、切り屑が瘤20(図15参照)の平面部分と、ランド6の前側の胸面17に当たることを意味する。胸面17の傾斜角(不図示)は、図15の角度α4と実質的に同じ大きさである。図19及び20による中仕上げ旋削においても、切り屑CHはカールし、逃げ面9に当たるように横に案内され、破断して細かくなる。
【0046】
図21及び22には、前述した加工における切込みより大きな切込みで行う荒旋削加工が示されている。例において、切込みapは5mmであると仮定されている。この場合において、切り屑流出方向G3は変化し、ほとんど主切れ刃13に垂直になる。更に、送りも高くなる。これは、切り屑が前の場合よりもより厚く硬くなり、葦の藁のようになることを意味する。このような相対的に硬い切り屑は強い力と高い熱を生じ(図3参照)、フランク面に潜り込まないため、緩やかな傾斜のフランク面に当たる。本発明による旋削インサートは、切り屑CH(図21による)の大部分は、切り屑面の部分が当たる瘤の作用目標領域が平坦形状をしていることにより、瘤20と同時に、ランド6のフランク面16と胸面17とに当たる。
【0047】
上述したことから、旋削インサートは、精密仕上げ旋削加工において薄い切り屑が生じる場合だけでなく、切込みが変わる場合においても、適切な切り屑コントロールを行うことができる。従って、瘤の第1のフランク面は、瘤細く曲がりやすい切り屑に関して効率的に切り屑コントロールを行うことができ、幅広で硬い切り屑が増えるときには瘤が切り屑コントロールを妨げることもない。
【0048】
これに関して、切り屑の幅は必ずしも一定ではないことが指摘されるべきである。従って、被削材の面に凹凸がある場合は、加工中に切り屑の幅が変化する。
【0049】
本発明による瘤及び第1のフランク面は、コーナJ1,J2においてのみ説明されているが、類似の瘤は鈍角コーナJ3,J4に配置することもできる。後方のランド6はV字形状を有しているが、鈍角コーナの瘤はコーナJ1,J2の瘤と同じように作用する。
【0050】
(本発明の実施可能な変更)
本発明は、これまで説明され、図面に示された旋削インサートに制限されるものではない。好ましい実施形態においては、旋削インサートが、両面使用可能で、上面と下面とが同一であるが、上面において一つ以上の切れ刃を有する片面のみ使用可能な旋削インサートを作ることもできる。更に、旋削インサートは、中心孔を有さず、ねじ以外の手段でクランプされるようにしてもよい。更に、第1のフランク面は、後方のランドから分離された一つの瘤に必ずしも形成する必要はない。従って、旋削インサートの主切れ刃に関する二つの第2のフランク面を含むランドを、ノーズの前方方向に狭い幅で延長形成し、第1のフランク面と一緒に形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
5a 上面
5b 下面
6 ランド
9,10 逃げ面
11 切れ刃
12 ノーズ切れ刃
13 主切れ刃
15 切り屑面
16 第2のフランク面
19,22 下側境界線
20 瘤
21 第1のフランク面
24 後方面
AP 頂点
EP 端点
B 二等分線
HA1 距離
J1,J2,J3,J4 コーナ
MP 中間点
RP 基準面
α 傾斜角
β 谷角
γ すくい角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形旋削インサートであって、
基準面(RP)に略平行な上面(5a)と、下面(5b)と、上面(5a)及び下面(5b)との間の複数の逃げ面(9,10)と、を備え、
切れ刃(11)が、少なくとも上面(5a)に沿って形成され、三つの切れ刃部分(13)、すなわち、切り屑面(15)と逃げ面(9,10)との間においてコーナ(J1〜J4)に配置されたノーズ切れ刃(12)及びノーズ切れ刃に接続する二つの主切れ刃(13)を有し、
個々の切れ刃部分に関する切り屑案内面、すなわち、第1のフランク面(21)が、二つの主切れ刃(13)の間の二等分線(B)に沿ってノーズ切れ刃(12)の後方に配置され、
一対の第2のフランク面(16)が個々の主切れ刃(13)の内側に配置され、
個々のフランク面(16,21)が下側境界線(19,22)から上方に向かって傾斜している多角形旋削インサートにおいて、
第1のフランク面(21)が、凸状に湾曲して形成されると共に湾曲した下側境界線(22)によって区画形成され、
下側境界線(22)は、ノーズ切れ刃(12)に対向し、二等分線(B)に沿って配置された頂点(AP)を有すると共に、二つの対称的な湾曲線(22a)を含み、
湾曲線(22a)は、頂点(AP)から互いに反対側に位置する一対の端点(EP)まで延び、端点(EP)は直線の基準線(RL)に沿って配置され、基準線(RL)は一対の端点(EP)の間の中間点(MP)において直角に二等分線(B)に交差し、
中間点(MP)と個々の端点(EP)との間の距離(HA3)が、中間点(MP)と頂点(AP)との間の距離(HA1)より大きく、
中間点(MP)を通る任意の垂直断面において、第1のフランク面(21)の傾斜角(α)が、二等分線(B)に沿う部分領域(XII−XII)内の最も大きい値から個々の端点(EP)を通る部分領域(XV−XV)内の最も小さい値まで減少する、
ことを特徴とする旋削インサート。
【請求項2】
第1のフランク面(21)の最も大きい傾斜角(α1)が、最も小さい傾斜角(α4)の少なくとも2倍であることを特徴とする請求項1に記載の旋削インサート。
【請求項3】
第1のフランク面(21)の最も大きい傾斜角(α1)が、大きくても50゜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の旋削インサート。
【請求項4】
第1のフランク面の最も小さい傾斜角(α4)が、少なくとも5゜であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の旋削インサート。
【請求項5】
第1のフランク面(21)は、基準面(RP)に平行な平面及び基準面に垂直な平面において、凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の旋削インサート。
【請求項6】
第1のすくい面(21)が一つの瘤(20)を含み、この瘤が二つの第2のすくい面(16)を含むランド(6)から分離していることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の旋削インサート。
【請求項7】
瘤(20)が、ノーズ切れ刃(12)に対向する第1のすくい面(21)及びこの第1のすくい面のように凸状に湾曲した後面(24)によって、長円形で帽子状に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の旋削インサート。
【請求項8】
一対の端点(EP)の間の瘤(20)の長さ(L1)が、二等分線(B)に沿う瘤(20)の長さ(L2)よりも少なくとも30%長いことを特徴とする請求項7に記載の旋削インサート。
【請求項9】
切り屑面(15)と上面に平行である基準面(RP)との間のすくい角(γ)が、二等分線(B)に沿う断面内の最も大きい値(γ1)から横断方向の基準線(RL)に沿う断面内の最も小さい値(γ4)まで連続的に減少し、
第1のフランク面(21)と周囲の切り屑面(15)との間の谷角(β)が、二等分線(B)に沿う断面内の最も小さい値(β1)から横断方向の基準線(RL)に沿う断面内の最も大きい値(β4)まで増加する、より詳細には、第1のフランク面(21)の傾斜角(α)の連続的な減少によって、比例的関係の増加以上に連続的に増加することを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の旋削インサート。
【請求項10】
瘤(20)は、旋削インサートの切れ刃稜線が配置される仮想平面(RPO)内に配置されていることを特徴とする請求項6〜9の何れか一項に記載の旋削インサート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−67004(P2013−67004A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−209803(P2012−209803)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【出願人】(507226695)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (34)
【Fターム(参考)】