説明

多重円板脱水装置

【課題】
多重円板脱水装置に於いて、濾体を構成する円板、スペーサを確実に回転軸に固定し、而も前記濾体を正逆両方向に回転しても弛みの生じない構造を提供する。
【解決手段】
回転可能な回転軸に円板9を、該円板より小径のスペーサを介在させ多重に嵌設して一体に回転される様構成した濾体7を、前記円板の一部が重合する様所要数連設し、被脱水処理物を前記円板の重合部分の隙間から濾過する様にした濾体群4,5を具備する多重円板脱水装置に於いて、前記回転軸に嵌設した前記円板、前記スペーサを軸端部に嵌合したフランジで挾持し、少なくとも一方のフランジは該フランジ、前記軸端部に個別に穿設された固定ピン挿入孔にスプリングピンが挿入されることで固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥、し尿汚泥、その他産廃汚泥等の被脱水処理物に対して濾過処理をして固形分と濾液とを分離する多重円板脱水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、し尿汚泥、その他産廃汚泥等の被脱水処理物に対して濾過処理をして固形分と濾液とを分離する濾過装置の1つに、多重円板脱水装置がある。
【0003】
先ず、多重円板脱水装置について、図2〜図5を参照して概略を説明する。
【0004】
多重円板脱水装置は、主に、多重円板脱水機1及び該多重円板脱水機1に連設された凝集装置2を具備している。
【0005】
前記多重円板脱水機1は、脱水槽3の内部に上部濾体群4と下部濾体群5とがケーキ搬送路6を形成する様に上下に配設されており、該ケーキ搬送路6は下流側に向って断面積が漸次減少し、下流端が前記脱水槽3の壁面に開口して吐出口10を形成すると共に前記上部濾体群4の上流側は前記下部濾体群5に対して短くなっており、前記ケーキ搬送路6の上流端部の上面は開放された形状となっている。
【0006】
前記上部濾体群4、前記下部濾体群5は、それぞれ所要数の濾体7が一部重合する様に連設されて構成されており、該濾体7は前記脱水槽3の両側壁25,26に掛渡って回転可能に設けられ、図示しない駆動装置により前記上部濾体群4、前記下部濾体群5の対峙部がそれぞれ下流側に向って回転する様に駆動されている。
【0007】
前記濾体7は、回転軸8に多数の円板9、スペーサ20が交互に嵌設された構成となっている。前記円板9は金属製であり、前記スペーサ20は合成樹脂の成型品が使用されている。尚、図示では分易く、前記スペーサ20の厚みを前記円板9と比して大きくしているが、実際には該円板9の板厚に対して僅かに大きくなっている。
【0008】
前記回転軸8には一部が面取りされたキー部8aが形成され、前記円板9、前記スペーサ20の前記回転軸8が嵌合する孔は前記キー部8aに対応して、キー部9a、キー部20aが形成され、前記キー部8aと前記キー部9a、前記キー部20aとの係合により、前記回転軸8の回転力が前記円板9、前記スペーサ20に伝達される様になっている。
【0009】
隣接する前記濾体7,7の円板9,9は前記スペーサ20が形成する隙間に周辺部が嵌入して一部が重合する様になっており、隣接する前記濾体7,7の円板9,9と前記スペーサ20,20間に形成される間隙21が液を濾過する目となっている。又、前記濾体7には、前記円板9、前記スペーサ20を軸心方向に貫通する濾液通路11が形成されている。
【0010】
前記スペーサ20の所要枚数毎に、例えば5枚毎のスペーサ20bには、該スペーサ20bの外周部に欠切部22が形成され、該欠切部22によって前記濾液通路11が開放状態となっている。従って、濾過された濾液は、前記欠切部22を通って前記濾液通路11に漏出し、該濾液通路11は漏出した濾液を前記濾体7の軸端に導き、前記脱水槽3の仕切壁27(後述)から排出する様になっている。
【0011】
次に、前記濾体7の端部構造を説明する。図3中、27は仕切壁を示し、前記側壁25と前記仕切壁27間には前記脱水槽3が形成され、前記仕切壁27と前記側壁26間には濾液貯溜側室28が形成される。
【0012】
前記側壁25、前記仕切壁27、前記側壁26間に前記回転軸8が掛渡される。該回転軸8の軸端部32,33(図1参照)は、軸受部34,35を介して回転自在に支持され、該軸受部34は軸受支持プレート36を介して前記側壁25に固定される。前記軸受部35は前記側壁26に固定される。
【0013】
前記円板9、前記スペーサ20により構成される前記濾体7の両端部にはフランジ29,30が設けられている。該フランジ29,30は、前記円板9、前記スペーサ20を挾持すると共に前記円板9、又は前記スペーサ20の補強として機能している。
【0014】
前記フランジ29は、前記回転軸8の部材より切削加工により形成することができるが、製作コストを下げる為に、前記フランジ29と前記回転軸8は、それぞれ個別の部品として組付けている。
【0015】
前記フランジ29は前記回転軸8に螺合され、締付け後接着材等により回止めされている。前記フランジ30と前記回転軸8との間にキー(図示せず)が設けられて回止めされ、更に前記回転軸8にナット37が締込まれることで、軸心方向に固定されている。
【0016】
前記濾体7の両端の前記円板9と前記スペーサ20と前記側壁25、前記仕切壁27との間に間隙が生じない様にする為、前記側壁25、前記仕切壁27には前記フランジ29,30用の逃げ孔が形成されている。
【0017】
尚、前記フランジ30には前記スペーサ20bと同様、前記濾液通路11の一部を形成する欠切部31が形成されている。又、前記回転軸8の軸端部32にはギア38が嵌着され、該ギア38を介して図示しない駆動装置からの回転力が伝達される様になっている。
【0018】
前記凝集装置2は凝集槽12を有し、該凝集槽12は凝集原液供給口13によって前記脱水槽3に連設されている。前記凝集槽12には原液供給ライン14及び凝集液供給ライン15が接続され、前記凝集槽12には前記原液供給ライン14から原液供給ポンプ16により原液が供給され、又前記凝集液供給ライン15からは凝集液供給ポンプ17により凝集液が供給される様になっている。
【0019】
前記凝集槽12には攪拌機18が設けられ、該攪拌機18により原液と凝集液が攪拌されることで、原液中の固形分の凝集が促進される。
【0020】
前記原液供給ライン14から原液、前記凝集液供給ライン15から凝集液を供給することで、凝集原液19が前記凝集原液供給口13からオーバフローして前記脱水槽3に供給される。前記凝集原液19の供給量は、前記ケーキ搬送路6の上流端部開放部に自由液面23を形成する様に調整される。
【0021】
前記ケーキ搬送路6に供給された前記凝集原液19は、前記ケーキ搬送路6の上流部では重力による濾過により、濾液が分離され、分離された濾液の大部分は前記円板9,9間の目より落下し、残りの一部は前記濾液通路11に漏出し、該濾液通路11を通って前記脱水槽3から前記濾液貯溜側室28に排出される。
【0022】
又、分離された凝集フロックは、前記下部濾体群5上に着床し、前記上部濾体群4、前記下部濾体群5の回転によって下流側に搬送される。又、凝集フロックは、搬送過程で上下の前記上部濾体群4、前記下部濾体群5により圧搾され、濾液が分離されてケーキとなる。即ち、前記ケーキ搬送路6の上流部は重力脱水部、下流部は圧搾脱水部が形成される。
【0023】
圧搾によって、分離した濾液の大半は前記円板9,9間の目を通って落下し、前記下部濾体群5の下方に落下し、残部は前記濾液通路11に漏出し、該濾液通路11を通って前記脱水槽3の前記仕切壁27側に於いて、フランジ30の欠切部31から前記濾液貯溜側室28に排出される。
【0024】
又、脱水されたケーキは、前記上部濾体群4、前記下部濾体群5の搬送作用により前記吐出口10より吐出される。
【0025】
上記した様に、前記円板9、前記スペーサ20は前記回転軸8に挿入されているだけであるので、前記フランジ29及び前記フランジ30、前記ナット37によって軸方向に挾持され、前記フランジ29、前記フランジ30は前記回転軸8と一体に回転する。
【0026】
又、前記フランジ29と前記側壁25の逃げ孔との間、前記フランジ30と前記仕切壁27の逃げ孔との間には、回転に必要とされる間隙が形成されるが、この間隙には原液中の固形分が浸入し、凝固する可能性がある。固形分が凝固すると、前記フランジ29、前記フランジ30が回転する際に、前記側壁25、前記仕切壁27から大きな回転摩擦力を受ける。
【0027】
前記フランジ30はキー(図示せず)により回止めされているので、前記仕切壁27から大きな回転摩擦力を受けても、前記回転軸8に対して回転することはないが、前記フランジ29は螺子の締付け力による固定であるので、締付け力以上の回転摩擦力を受けると、前記フランジ29が弛み、前記回転軸8に対して回転してしまう。尚、ネジ部に接着剤を塗布した場合も、接着力以上の回転摩擦力を受けることで前記フランジ29が回転してしまう。又、該フランジ29は螺子作用で軸心方向にも変位するので、前記円板9、前記スペーサ20が外れてしまうことも考えられる。
【0028】
尚、前記フランジ29の螺子を、回転摩擦力が作用した場合、より締込まれる方向とすることも考えられるが、前記濾体7は目詰りした場合、或は清掃の時には、該濾体7を逆回転させることもあり、螺子を左螺子、右螺子のどちらにしても前記フランジ29が同様に弛み、回転するという問題は避けられなかった。
【0029】
【特許文献1】特開2005−7327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は斯かる実情に鑑み、濾体を構成する円板、スペーサを確実に回転軸に固定し、而も前記濾体を正逆両方向に回転しても弛みの生じない構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、回転可能な回転軸に円板を、該円板より小径のスペーサを介在させ多重に嵌設して一体に回転される様構成した濾体を、前記円板の一部が重合する様所要数連設し、被脱水処理物を前記円板の重合部分の隙間から濾過する様にした濾体群を具備する多重円板脱水装置に於いて、前記回転軸に嵌設した前記円板、前記スペーサを軸端部に嵌合したフランジで挾持し、少なくとも一方のフランジは該フランジ、前記軸端部に個別に穿設された固定ピン挿入孔にスプリングピンが挿入されることで固定される多重円板脱水装置に係るものである。
【0032】
又本発明は、前記フランジを前記軸端部に固定する前記スプリングピンは複数であり、該スプリングピンはそれぞれ個別に異なる方向から挿入される多重円板脱水装置に係るものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、回転可能な回転軸に円板を、該円板より小径のスペーサを介在させ多重に嵌設して一体に回転される様構成した濾体を、前記円板の一部が重合する様所要数連設し、被脱水処理物を前記円板の重合部分の隙間から濾過する様にした濾体群を具備する多重円板脱水装置に於いて、前記回転軸に嵌設した前記円板、前記スペーサを軸端部に嵌合したフランジで挾持し、少なくとも一方のフランジは該フランジ、前記軸端部に個別に穿設された固定ピン挿入孔にスプリングピンが挿入されることで固定されるので、前記濾体を正逆回転させた場合も、前記フランジの固定が弛み前記回転軸に対して回転することがなくなり、前記フランジ、前記軸端部に個別に穿設された前記固定ピン挿入孔の加工誤差は前記スプリングピンの変形で吸収され、該スプリングピンの挿入作業性はよい。
【0034】
又本発明によれば、前記フランジを前記軸端部に固定する前記スプリングピンは複数であり、該スプリングピンはそれぞれ個別に異なる方向から挿入されるので、前記フランジを前記軸端部間で伝達される必要な回転力が得られ、又前記スプリングピンは個別に変形し、誤差を吸収するので、該スプリングピンの挿入作業性がよいという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0036】
図1は多重円板脱水装置の濾体7を示し(図3参照)、又該濾体7の中央部分を省略して示している。
【0037】
尚、以下に説明する実施の形態に於いて、多重円板脱水装置の基本的な構造については、図2〜図3で示したと同様であるので説明を省略する。又、図1中、図3、図5で示したものと同等のものには同符号を付してある。
【0038】
回転軸8には円板9とスペーサ20が交互に嵌設してあり、前記円板9と前記スペーサ20の所要数対で濾過板ユニット(図1中、2点鎖線で示す)41を構成し、該濾過板ユニット41が所要数、前記回転軸8に設けられている。
【0039】
前記濾過板ユニット41は、フランジ29、フランジ30によって挾持される構造となっている。
【0040】
前記回転軸8の一方の軸端部32には、予め固定ピン挿入孔43が直径方向に前加工により貫通されており、又前記フランジ29にも予め固定ピン挿入孔44が直径方向に前加工により貫通されている。
【0041】
前記フランジ29を前記軸端部32に挿入嵌合し、前記固定ピン挿入孔43と前記固定ピン挿入孔44とを位置合せし、該固定ピン挿入孔44の一端からスプリングピン45を前記固定ピン挿入孔44と前記固定ピン挿入孔43に挿入する。更に、前記固定ピン挿入孔44の他端からもう1つのスプリングピン45を前記固定ピン挿入孔44と前記固定ピン挿入孔43に挿入する。
【0042】
該固定ピン挿入孔43と前記固定ピン挿入孔44とは、加工誤差により完全に芯が合致することは難しいが、挿入するピンが前記スプリングピン45であるので、加工誤差による前記固定ピン挿入孔43と前記固定ピン挿入孔44の位置ずれ、芯ずれは前記スプリングピン45の変形により吸収される。更に、2本のスプリングピン45により、2方向から個別に挿入するので、一方のスプリングピン45の変形が他方のスプリングピン45の変形に影響しないので、該スプリングピン45により吸収できる前記固定ピン挿入孔43と前記固定ピン挿入孔44の位置ずれ、芯ずれは大きなものとなる。
【0043】
前記回転軸8の他方の軸端部33は、前記フランジ30が嵌合されると共にキー(図示せず)によって回止めされ、ナット37が前記軸端部33に螺着される。更に、前記ナット37は押し螺子42によって回止めされる。
【0044】
前記スプリングピン45は前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44をそれぞれ貫通させ、同一軸心上で相対向する2方向から挿入する様にしたが、前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44を直交する2方向から穿設し、前記スプリングピン45を直交する2方向から挿入する様にしてもよい。又、前記スプリングピン45の数は、前記フランジ29に作用する回転摩擦力の大きさによって決定すればよく、例えば3本のスプリングピン45が必要であれば、前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44を120°ピッチで3方向から穿設すればよい。
【0045】
上記した様に、前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44は予め穿設しておけばよく、前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44の加工誤差は前記スプリングピン45の変形で吸収されるので、前記フランジ29の組立て作業性はよい。
【0046】
而して、該フランジ29に正逆両方向の回転摩擦力が作用しても、該フランジ29の固定が弛み、側壁25と共回りすることがなくなる。
【0047】
尚、前記フランジ30を前記回転軸8に固定する場合にも、前記固定ピン挿入孔43、前記固定ピン挿入孔44を穿設し、前記スプリングピン45を挿入する様にしてもよい。前記フランジ30に実施した場合、前記ナット37が省略でき、部品点数が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部正面図である。
【図2】本発明が実施される多重円板脱水装置の概略斜視図である。
【図3】該多重円板脱水装置に於ける濾体の平面図である。
【図4】図3のA−A矢視図である。
【図5】濾体の軸端部の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 多重円板脱水機
7 濾体
8 回転軸
9 円板
20 スペーサ
25 側壁
26 側壁
27 仕切壁
29 フランジ
30 フランジ
32 軸端部
33 軸端部
43 固定ピン挿入孔
44 固定ピン挿入孔
45 スプリングピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な回転軸に円板を、該円板より小径のスペーサを介在させ多重に嵌設して一体に回転される様構成した濾体を、前記円板の一部が重合する様所要数連設し、被脱水処理物を前記円板の重合部分の隙間から濾過する様にした濾体群を具備する多重円板脱水装置に於いて、前記回転軸に嵌設した前記円板、前記スペーサを軸端部に嵌合したフランジで挾持し、少なくとも一方のフランジは該フランジ、前記軸端部に個別に穿設された固定ピン挿入孔にスプリングピンが挿入されることで固定されることを特徴とする多重円板脱水装置。
【請求項2】
前記フランジを前記軸端部に固定する前記スプリングピンは複数であり、該スプリングピンはそれぞれ個別に異なる方向から挿入される請求項1の多重円板脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−12442(P2008−12442A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186599(P2006−186599)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】