説明

多錘延伸装置の断糸処理装置及び断糸処理方法

【課題】延伸工程中のある錘に断糸が発生しても、断糸した糸条の切断端を捕捉して延伸ローラへの断糸巻付を防止することによって、断糸発生錘から隣接錘へ断糸が波及したり、延伸装置を一旦停止させたりすること無く、断糸処理を延伸工程内で完結実施することができる断糸処理装置及び断糸処理方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性合成繊維からなる複数本の未延伸糸群(Y)を速度差を有する一対の延伸ローラ間で互いに並列させて同時に延伸を行う多錘延伸装置において、延伸処理中に断糸が発生する位置に対して直上流側に位置する延伸ローラ(1)の糸条出口側に、該延伸ローラ(1)に対向かつ近接させて断糸の発生によって生じた糸端を吸引捕捉するためのスリット状の吸引開口(31)を設けたことを特徴とする多錘延伸装置の断糸処理装置と断糸処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、全芳香族ポリアミド等のアラミド繊維などからなる熱可塑性合成繊維の未延伸糸を延伸する延伸装置において発生した断糸を処理するための断糸処理装置と断糸処理方法に関する。特に、複数錘の未延伸糸を延伸ローラ上に同時に並列走行させながら延伸処理を行う際に生じた断糸を処理するために好適に使用できる断糸処理装置と断糸処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融紡糸工程、乾式紡糸工程、湿式紡糸工程あるいは乾湿式紡糸工程において紡糸口金に穿設された多数の紡糸孔群よりポリマーを紡出して未延伸糸を製造することが行われている。更に、複数の紡糸口金群を併設して、複数本の未延伸糸を同時に紡糸することも行われている。このようにして、紡糸工程で得られる未延伸糸は、ポリマー分子がまだ充分に配向していないために、高強力、高タフネスおよび高耐久性などの物性が発現していない。
【0003】
そこで、紡糸後に一旦未延伸糸を巻取った後あるいは一旦巻き取らずに紡糸工程に引き続いてそのまま延伸工程へ供給して、未延伸糸を加熱状態下で延伸してポリマー分子鎖を引き延ばして高配向延伸糸を得ることが行われ、このように未延伸糸を延伸することによって、高強力、高タフネスおよび高耐久性などの物性にすぐれた高品質の高配向延伸糸が製造される。
【0004】
通常、この延伸糸を製造するための延伸工程において、未延伸糸は、速度差を有する一対の加熱ローラ群間で単段階あるいは複数段階に渡って大きな引張張力が付与された状態で数倍から十数倍に引き延ばされ、延伸糸パッケージとして巻取機で巻き取られる。したがって、この延伸工程では、過酷な延伸条件が未延伸糸に負荷されるために、未延伸糸が過酷な条件に耐え切れず断糸しやすい状況が現出されており、このような理由から、延伸工程において断糸がたびたび起こる。
【0005】
また、近年において生産性を向上させる目的から、一本の未延伸糸ではなく、複数本の未延伸糸群を延伸ローラ上へ並列に供給して、これら未延伸糸群を同時に多錘延伸処理して、延伸後の各錘糸条を延伸糸パッケージとして個別に巻き取ることが行われるようになってきた。
【0006】
しかしながら、この多錘延伸処理の場合には、多数の未延伸糸群が同時に延伸ローラ上へ供給される。したがって、供給された未延伸糸群中のある一本の糸条であっても、これが断糸すると、断糸した糸条が延伸ローラに巻き付いて巻太りを起したりして隣接糸条にまで影響を与えて、断糸した糸条に隣接する糸条を次々に断糸させてしまうといった事態を招く。
【0007】
もし、このような事態が生じると、最終的に各錘ごとに巻き取ってできるだけ多数の満巻(完巻)された糸条パッケージ群を得ようとしているのに、不完全巻(小巻)の糸条パッケージしか得られないために、糸条パッケージとしての商品価値が低下する。また、当然のことながら、目的とする数の完巻パッケージを得ることができないために、製造歩留まりも悪くなるという問題が生じる。
【0008】
更には、前述のように延伸ローラへ断糸した糸条が巻き付き、巻付糸条の巻太りが進行すると、巻付糸条を延伸ローラから除去しなければ最早良好な延伸処理を続行できなくなる最悪の事態も生じる。そうすると、延伸装置を運転した状態のままで巻付糸条を取り除く適当な手段があれば良いが、このような適当な手段がない。このため、延伸処理中の全錘糸条をすべて切断してサクションガンなどの糸条吸引具によって吸引した後に、巻付糸条の除去作業の安全を確保するなどの理由から延伸装置を一旦停止させ、停止させた延伸ローラ上から作業者が巻付糸条を除去する作業が必要となる。
【0009】
この場合、巻取中の糸条群は、前述のように小巻パッケージとなってしまって満巻(完巻)されていない不良パッケージとなるのは言うまでも無い。しかしながら、何よりも、このような断糸処理作業を紡糸工程を延伸工程へ直結させた紡糸直接延伸工程において、紡糸工程で紡出された未延伸糸を延伸工程と直結して直接延伸する場合にはより深刻な問題となる。
【0010】
何故ならば、直接紡糸延伸工程では、延伸工程の中断に伴って紡糸工程をも中断することが生産ロスの関係から許されないからである。すなわち、紡糸工程まで中断してしまうと、延伸工程のみならず紡糸工程の再立ち上げにも多大な時間と煩雑な断糸処理とを要するからである。このため、通常、延伸工程で断糸が生じたとしても、紡糸工程はそのまま続行される。
【0011】
そうすると、延伸工程で生じた断糸処理が終わるまでの間に、紡糸工程において大量に紡出される糸条は屑糸となってしまい、著しい生産ロスを招く。また、この大量に発生した屑糸は焼却処分やリサイクル処分などの後処理に供する必要があり、この面においても生産コスト上の大きな問題を含んでいる。そこで、延伸工程に生じた断糸の処理を迅速かつ生産ロスなく行うことが要求されるのである。
【0012】
しかしながら、延伸工程において生じた断糸を断糸が生じた延伸工程の中で処理するための従来技術は本発明者らに関する限り知られていないのが現状である。例えば、特許文献1(特公昭51−46176号公報)、特許文献2(特開平7−101630号公報)及び特許文献3(特開平8−108975号公報)において、紡糸直接延伸工程あるいは紡糸工程において、延伸工程ではなく紡糸工程において断糸処理をする技術が提案されているに過ぎない。
【0013】
【特許文献1】特公昭51−46176号公報
【特許文献2】特開平7−101630号公報
【特許文献3】特開平8−108975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来技術が有する前記諸問題を解決するためになされたものであって、その目的は、延伸工程中のある錘に断糸が発生しても、断糸した糸条の切断端を捕捉して延伸ローラへの断糸巻付を防止することによって、断糸発生錘から隣接錘へ断糸が波及したり、延伸装置を一旦停止させたりすること無く、断糸処理を延伸工程内で完結実施することができる断糸処理装置及び断糸処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここに、以上に述べた課題を達成するための本発明として、
(1) 熱可塑性合成繊維からなる複数本の未延伸糸群を速度差を有する一対の延伸ローラ間で互いに並列させて同時に延伸を行う多錘延伸装置において、延伸処理中に断糸が発生する位置に対して直上流側に位置する延伸ローラの糸条出口側に、該延伸ローラに対向かつ近接させて断糸の発生によって生じた糸端を吸引捕捉するためのスリット状の吸引開口を設けたことを特徴とする多錘延伸装置の断糸処理装置、
(2) 前記吸引開口が前記延伸ローラに対向して平行に設けられた筒状の中空体からなる吸引ヘッドに設けられたことを特徴とする(1) 記載の多錘延伸装置の断糸処理装置、
(3) (1)又は(2)に記載の断糸処理装置を使用して、延伸工程において生じる断糸処理を行うことを特徴とする多錘延伸装置の断糸処理方法、
(4) 前記延伸工程の前工程として延伸工程と直結された紡糸工程を含むことを(3) に記載の多錘延伸装置の断糸処理方法、
(5) 延伸処理の途中で発生した断糸により生じた糸端を前記吸引ヘッドによって吸引し続け、延伸処理した延伸糸の満巻が完了した段階で、多錘延伸装置へ再糸掛けする(3) 又は(4) に記載の多錘延伸装置の断糸処理方法、そして、
(6) 前記延伸ローラとこれに対向かつ近接する吸引開口との間隙が1〜30mmとした(3)乃至(5)の何れかに記載の多錘延伸装置の断糸処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べた本発明によれば、多錘延伸装置においてある錘に断糸が発生したとしても、吸引開口から空気と共に断糸した糸端を吸引捕捉することができるために、延伸ローラに断糸した糸条が巻き付くことを未然に防止することができる。したがって、従来のように断糸した糸条が延伸ローラに巻付いて巻太りを起し、隣接する錘にも断糸が波及するといった悪影響を防止できるので、断糸した錘の断糸処理のみを実施すればよい。また、延伸ローラに巻付いた糸条を除去するために延伸機を一旦停止させる必要も無い。このため、作業員は、従来のような煩雑な断糸処理作業から開放されると共に、屑糸発生量の大幅な減少が可能となって生産ロスを低減でき、生産歩留まりを大幅に向上させることができると言う顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明が対象とする断糸処理は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、全芳香族ポリアミド等のアラミド繊維などからなる熱可塑性合成繊維を並行して多錘で延伸処理する際に生じる断糸処理に関するものである。このような延伸工程において生じる断糸現象について、本発明者らは、先ず延伸中の状況を高速ビデオカメラによって動画像として連続撮影した。そして、撮影した動画像を再生して解析することによって、断糸が生じたときに生じる挙動を解析した。すると、本発明者らは、断糸が生じると、以下に述べるような現象が生じることを知見して、この知見を基に本発明を着想したものである。
【0018】
以下、これに関して図1及び図2を参照しながら説明する。
図1は、延伸工程において、2錘以上の多錘の糸条群Y(図示は4錘の糸条群の場合である)が延伸ローラ1上を並行して矢印で示した方向へ同時走行している実施形態例を模式的に示した説明図である。また、この図1の実施形態例は、既に延伸を終えて延伸ローラ1から出てきた多錘の糸条群Yを延伸処理する場合を例示したものである。なお、参照符号2はガイドローラを示している。
【0019】
次に、図2は、本発明者らが行った動画像解析によって解明した断糸挙動を説明するための図であって、ある錘に断糸が生じた時の走行糸条Yの経時的な一連の挙動を示した模式側面図である。なお、この図2において、図示した実線は断糸することなく正常な走行状態の糸条Y1、図示した一点鎖線は断糸直後の糸条Y2、そして、図示した二点鎖線は延伸ローラ1に巻き付こうとする状態の糸条Y3をそれぞれ示している。
【0020】
以下、図2の模式説明図に基づいて、いわゆる“ローラ巻付断糸”の発生機構について、本発明者らの考えを説明する。
図2に模式的に示したように、断糸が発生する前の糸条Y1は、延伸処理中に延伸ローラ1とガイドローラ2とがそれぞれ矢印方向へ駆動される駆動力によって延伸ローラ1とガイドローラ2間において引張り張力が付与されている。したがって、正常走行状態の糸条Y1は、延伸ローラ1からガイドローラ2へと真直ぐに走行している。
【0021】
このように正常に走行する糸条Y1に対して、延伸ローラ1の下流側で断糸が発生すると、断糸した糸条Y2は、図示したように糸条Y1に作用していた張力から開放されて瞬間的に浮き上がるような挙動を示す。しかも、このとき断糸によって形成された一方の糸端は、開放された張力の影響を受けて延伸ローラ1に引っ張られて延伸ローラ1側へスプリングバックするようにして引き寄せられ、他方の糸端はガイドローラ2側へ引っ張られる。
【0022】
このようにして、延伸ローラ1側へ引き寄せられた糸条Y3は、次に、延伸ローラ1と接触する。そうすると、延伸ローラ1に接触した糸条Y3は図示した矢印方向に回転する延伸ローラ1に巻き込まれて延伸ローラ1に巻き付き、いわゆる“ローラ巻付断糸”となるものと推定される。
【0023】
このようにして、断糸時における走行糸条Yの挙動を解析した結果、本発明者らは、延伸ローラ1側へ引き寄せられた糸条Y3の糸端を糸条吸引手段によって捕捉すれば、延伸ローラ1への断糸巻付を防止することができることを着想して、本発明を完成するに至ったのである。以下、このようにして本発明者らが完成した発明について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図3は、図1に示した多錘糸条の延伸工程に、糸条吸引手段を設けた実施形態例を模式的に示した側面図であり、図4は糸条吸引手段の一実施形態を例示した斜視図である。この図3及び図4において、符号3は糸条吸引手段を示し、この糸条吸引手段3は、スリット状の吸引開口31が設けられた吸引ヘッド32を有している。このとき、前記スリット状の吸引開口31は、図示したように前記延伸ローラ1と対向する位置に延伸ローラ1と平行となるように設けられている。
【0025】
なお、前記吸引ヘッド32には、排気配管33が接続されており、この排気配管33を介して吸引ヘッド32から内部空気を排気することによって、スリット状の吸引開口31から外部空気が吸引できるようにされている。このとき、前記排気配管33は、剛直な金属材料で構成されていてもよいが、金属線材などで強化された樹脂ホースあるいは蛇腹ホースのような可撓性を有する配管であってもよい。
【0026】
また、前記吸引ヘッド32は、筒状の中空体とすることが好ましく、このような筒状の中空体としては、例えば、中空円柱、中空三角柱、中空四角柱、中空五角柱などを挙げることができる。更に、この吸引ヘッド32は、固定設置するのではなく、延伸中の走行糸条群Yに悪影響を及ぼさない位置(例えば上方位置)へ移動自在としておくことが好ましい。何故ならば、断糸した錘の糸条を最下流側に設けられた巻取機(図示せず)へ再糸掛けするに当って、移動式の糸条吸引具(例えば、携帯式サクションガン)へ糸移しする際に、その作業性を向上させるために、一旦延伸ローラ1の近傍から糸移し作業が容易となる位置へ吸引ヘッド32を移動することが好ましいからである。
【0027】
このとき、前記吸引開口31は、前述のように延伸ローラ1の長さ方向に沿って直線スリット状に設けられているが、その長さ(L)は、延伸ローラ1上を並列に走行する多錘糸条Yの走行域をカバーできるように全錘糸条の走行幅よりも長くなるようにされている。何故ならば、このようにすることによって、図2に示したように、断糸した糸条Y3の糸端が延伸ローラ1の近傍に引き寄せられた際に、引き寄せられた糸端は、吸引開口31の何れかの箇所に必ず接近することになるからである。そうすると、吸引開口31に接近した糸端は、吸引空気と共に良好に吸引開口31から吸引ヘッド32内に吸引捕捉することができる。
【0028】
なお、吸引開口31のスリット状に形成された「開口幅」を大きくすると断糸によって生じた糸端を良好に吸引捕捉可能となるため好ましい。しかしながら、余りに大きな開口幅にすると、良好に糸端を吸引補足するために必要となる「吸引開口31から取り込む空気の風速及び風量」を維持するために、吸引ヘッド32内の空気を排気するための排風機(ブロワー)や真空発生装置などの排風能力を大きくしなければならず、必要以上に高性能な排風手段が要求されるため、好ましくない。したがって、吸引開口31の「開口幅」は、0.5〜10mmとするのがこのましい。
【0029】
次に、延伸ローラ1と吸引開口31との間に形成する間隙(d)は、ローラ巻付が発生しないように糸端を良好に捕捉できる距離であれば、特に制限することは無いが、通常、1〜30mmとすることが好ましい。何故ならば、糸条走行速度、糸条張力、糸条を構成するフィラメント数や単繊維繊度などの条件にもよるが、この間隙(d)が、30mmより長すぎると、本発明者らの実験によれば良好に糸端を捕捉できないことが分かったからである。なお、1mm未満と短すぎると、延伸ローラ1と吸引ヘッド32とが接触する危険性が高くなり好ましくない。
【0030】
また、本発明において、延伸ローラ1上を走行する糸条の速度は100〜2000m/分とすることが好ましい。何故ならば、この範囲よりも高速で走行する糸条に対して断糸が発生しても、その糸端を素早く捕捉することが困難となるからである。また、糸条の走行速度が100m/分未満と余りにも遅い場合には、単位時間当たりの生産ロスがより少なくなるため、本発明の効果が減少する。
【0031】
以上に述べたように、本発明においては、図2において示した糸条Y3が示す挙動を利用して、延伸ローラ1の糸条出側の近傍に前記スリット状吸引開口31を設けた吸引ヘッド32を設置する。そして、このような装置構成を採用することによって、延伸ローラ1に巻き付こうとする断糸した糸条Y3の糸端を良好に捕捉することができる。そして、捕捉した糸条Y3を吸引し続け、断糸錘以外の全ての錘で満巻の延伸糸パッケージが巻き取られるまでこの状態のままで待機させる。
【0032】
そして、満巻となった延伸糸パッケージを巻上げた後に、新たな空ボビンに巻取るために満巻ボビンから空ボビンに巻取を切り替える際に、待機させておいた断糸錘を延伸装置に再糸掛けして、巻き取るようにする。つまり、吸引中の走行糸を移動式の糸条吸引具(例えば、携帯式サクションガンなど)へ受け渡した後に延伸装置を停止することなく、断糸した該当錘のみを最下流に設けられた巻取機まで再糸掛けすることができる。
そうすると、この時から巻き始められる全錘の延伸糸群は、全て同じ条件で巻取が開始される。しかも、紡糸直接延伸工程のように延伸工程に紡糸工程が直結されていても、延伸工程における断糸の発生を紡糸工程にまで遡及して処理する必要がなくなる。
【0033】
以上に説明したように、本発明においては、延伸工程で断糸が発生しても、断糸処理を延伸工程内で処理できることは勿論のこと、延伸処理を中断することなく続行できる。その上、本発明では、断糸した錘のみの延伸工程内での断糸処理を行うだけで、断糸処理を完結させることができる。このため、従来のように、断糸が発生すると、延伸ローラに断糸巻付が発生するため、延伸処理を中断して延伸装置を停止させ、あるいは、極端な場合には紡糸機も停止させ、延伸ローラに巻付いた糸条を除去するという全錘を対象とした断糸処理をする必要がなくなる。したがって、小巻の延伸糸パッケージの発生量と屑糸の発生量が共に極めて少なくなって生産ロスが大きく減少する。更には、断糸処理に要する作業員の負担や処理時間も大幅に軽減される。
【0034】
なお、本発明に係る糸条吸引手段3の一つの実施形態例として、前記排気配管33に引き続いて、図3及び図4では図示を省略したが、更に、屑糸回収箱、屑糸−空気分離手段及び排気手段が少なくともこの順で設けるような構成を採用できる。この場合、排風機(ブロワー)や真空吸引装置などからなる排気手段(図示せず)から必要な程度に気密に保たれた系内の空気を排気すれば、最終的に排気配管33を介して吸引ヘッド32に設けられた吸引開口31から系外の空気を捕捉すべき糸端を伴いながら吸引することができる。
【0035】
なお、本発明で用いる糸条吸引手段3の他の実施形態例として、排風機(ブロワー)や真空吸引装置などからなる排気手段を用いずに、エジェクターなどを使用することができる。この場合、糸条吸引手段3を構成する吸引ヘッド32に近い箇所の排気配管33に高速気流を糸条の吸引方向へ噴出するためのノズルを設けて、このノズルから高速気流を噴出させる。そして、噴き出させた気流に随伴させて吸引ヘッド32内の空気を吸引排気し、これと共に吸引開口31から空気を吸引するような装置構成とすることもできる。
【0036】
また、屑糸回収箱と排気手段との間に設ける屑糸−空気分離手段としては、一般的に掃除機などに使用されるエアフィルターを好適に用いることができるが、本発明においては、更に圧力損失が小さい、メッシュの細かい金網などを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】2錘以上の多錘の糸条群が延伸ローラ1上を並行して同時走行している様子の模式説明図である。
【図2】本発明者らが行った動画像解析によって解明した断糸挙動を説明するための説明図である。
【図3】図1に示した多錘糸条の延伸工程に、糸条吸引手段を設けた実施形態例を模式的に示した側面図である。
【図4】本発明に係る条吸引手段の一実施形態を例示した斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 : 延伸ローラ
2 : ガイドローラ
3 : 糸条吸引手段
31: スリット状吸引開口
32: 吸引ヘッド
33: 排気配管
d : 間隙長
L : スリット状吸引開口の長さ
Y : 走行糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成繊維からなる複数本の未延伸糸群を速度差を有する一対の延伸ローラ間で互いに並列させて同時に延伸を行う多錘延伸装置において、延伸処理中に断糸が発生する位置に対して直上流側に位置する延伸ローラの糸条出口側に、該延伸ローラに対向かつ近接させて断糸の発生によって生じた糸端を吸引捕捉するためのスリット状の吸引開口を設けたことを特徴とする多錘延伸装置の断糸処理装置。
【請求項2】
前記吸引開口が前記延伸ローラに対向して平行に設けられた筒状の中空体からなる吸引ヘッドに設けられたことを特徴とする請求項1記載の多錘延伸装置の断糸処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の断糸処理装置を使用して、延伸工程において生じる断糸処理を行うことを特徴とする多錘延伸装置の断糸処理方法。
【請求項4】
前記延伸工程の前工程として延伸工程と直結された紡糸工程を含むことを請求項3に記載の多錘延伸装置の断糸処理方法。
【請求項5】
延伸処理の途中で発生した断糸により生じた糸端を前記吸引ヘッドによって吸引し続け、延伸処理した延伸糸の満巻が完了した段階で、多錘延伸装置へ再糸掛けする請求項3又は請求項4に記載の多錘延伸装置の断糸処理方法。
【請求項6】
前記延伸ローラとこれに対向かつ近接する吸引開口との間隙が1〜30mmとした請求項3乃至請求項5の何れかに記載の多錘延伸装置の断糸処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−138321(P2007−138321A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331345(P2005−331345)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】