説明

多電極プローブ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えばWPW(Wolff-Parkinson-White )症候群、発作性上室性頻脈等の副伝導路性不整脈及び心房粗動,細動および心室頻拍等の異所性刺激による不整脈等の頻脈性不整脈治療等の際に、先立って行われる電気生理学的検査に使用する多電極プローブに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、頻脈性不整脈治療に先立って行われる電気生理学的検査は、1つ或いは2〜10個の電極を先端部周辺に設け、中空のカテーテル内にリード線を伸ばし、測定装置に接続するように構成された心臓カテーテルを複数本使用して行われている。例えば、WPW症候群のような副伝導路性不整脈では、心臓弁輪部に存在する副伝導路位置を特定することが必要となる。左心側の計測は太い冠状静脈洞が僧帽弁輪部を走行しているため、多電極カテーテルを挿入し比較的容易であるが、右心側の三尖弁輪部には右冠状動脈が走行しているため、従来のカテーテルは太く、右冠状動脈の血管内に挿入することが困難であり、心室内より1点ずつ場所を移動しながら計測せざるを得ず、非常に手間のかかる検査となり、1回の検査に数時間を要していた。このような従来の検査方法の問題点すなわち、少ない電極のカテーテルで検査を行うため、副伝導路等の診断部位を見つけるのに時間がかかること、電極数が少ないため広範囲を測定するためには、電極間の距離を長くせざるをえず、副伝導路部位を正確に求めることが困難であったこと、従来のカテーテルで電極の数を増やそうとすると、信号を伝達させるための信号線の数が増加してカテーテルの外径が太くなるため右心側の検査は難しいこと、信号線の先端に電極が取り付けられるような構成であるため、その信号線と電極との接続工程が必要になり、カテーテルの多電極化ができないこと等の課題を解決しようとする手段が特開平6−335460号公報で本願発明者(大内輝彦)らにより提案されている。この従来例は図6で示すようにNi−Ti合金のPTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty) ガイドワイヤをテーパ加工した棒状の芯材11に信号線である細径線12を12条でコイル状に捲回している。この12本の細径線(信号線)12は、図7で示すように芯材を炭素鋼線とし、その表面にインピーダンスを下げるための銅箔層及び金メッキ層13及びポリエステル等の樹脂による絶縁層がクラッド構造で被覆されているので、それぞれ独立した12本の心腔内電位信号伝達線(信号線)として作用する。また芯材11がTi−Ni合金,Cu−Zn合金及びNi−Al合金等の超弾性合金(形状記憶合金)製チューブに細径線(信号線)12を捲回する例も開示されている。そして、芯材11に捲回された状態で12本の細径線(信号線)12の一部分の絶縁被膜をほぼ1周分剥離して、その内側に金メッキ層13を露出させてその導電性の部分を心内電極として使用するか、この剥離部分にリング状の電極を取り付けて、電極面積を広く取るようにしている場合、また、12本の細径線12を芯材11の軸線方向に沿って這わせて、電極を設けたい部分で、その細径線12の絶縁部を剥離し、この剥離された部分を一条巻き付け、その後再び直線上に這わせることにより、ある程度の幅を持って電極を有する多電極プローブが形成される例も開示されている。このようにして、この従来例では、電気生理学的検査用の心臓プローブの外径を大きくすることなく電極の数を増やすことができ、検査時間を短縮でき、また、このような細い径のプローブを用いることにより、従来困難であった右冠状動脈内にプローブを挿入することができ、しかも電極間の距離を短くすることができるため、副伝導路部位の検出精度を高めることができるようにしている。
【0003】ところで、前記従来例では、複数の細径線(信号線)12が芯材11上の長さ方向に沿って接着されることをあげてはいたが、具体的な細径線12間の接着手段は未開示であり、研究課題として残されていた。前述した、この従来例で開示した電極線に対応した本数の細径線12を、各々接着しないフリーな状態で棒状又はチューブ状の芯材11の外周表面にコイル状(螺旋状)に巻き付けた場合(前者は同公報図3に、後者は同公報2頁2欄27〜29行に開示されている)細径線12の個々の巻き緩みやそれに応じた螺旋巻き外径の変動が生じ易く、巻き付け精度の不安定の要因となることが判明した。この不安定な現象は、細径線12の本数が多くなるにつれ顕著に表われ、結果として多電極化の実施上、課題として発生した。また、従来例に見られる電極数に対応した本数の細径線12を、各々接着しないフリーな状態にして筒状の芯材11の内側に束状あるいは中空螺旋巻き状に形成する場合(従来例公報第12図に開示されている)、カテーテルの操作中、すなわち、3次元方向への屈曲印加時には、細径線(信号線)12が相互に絡み合う危険性が高く、心腔内電位測定時にクロストークが発生し易いという問題もあった。さらに前記公報図12に示すような中空螺旋状巻き細径線の場合においても、細径線そのもので中空螺旋巻きを行うため、線径は螺旋巻き形状を維持するために汎用品で12電極の場合φ0.15〜0.07mmの太さが必要となり、剛性の確保のため結果的に外径増加となり、前述した本来の課題解決に逆行するという問題があることも判明した。
【0004】さらにまた、前述のクラッド構造の細径線12(信号線)を12本平行に束ねて芯材11に巻き付けるため、端電極と外部電極端子の接続部との対比(定義付け)が視認することが困難であるため誤配線の虞があることや、12本の細径線12を一ユニットとして、このユニットを芯材11上に繰り返し配列した場合、各ユニットの区切りが視認しにくい課題も発生した。
【0005】本発明は、前述の従来技術において新たに発生した前述の諸課題を解決することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の多電極プローブは以下の様な構成を備える。すなわち、絶縁被覆部を設けた信号線を複数並べた帯状平行線を、生体内に挿入する多電極プローブの芯材の表面に密着させた多電極プローブにおいて、前記帯状平行線は、前記信号線が2以上の異なる着色皮膜で被覆され、この着色絶縁被覆層の表面に、前記各信号線間を加熱又は溶剤塗布により接着するための融着層を形成
【0007】また、本発明の前記多電極プローブにおいては、前記着色絶縁被覆と前記融着層と電極形成部とを備えた複数の信号線がコイル状に密接して捲回されるととともに各信号線相互が接着されている
【0008】また、導体を芯材としてその表面に着色絶縁被覆層及び融着層を形成した複数の信号線の帯状平行線の数本を基本色ユニットとし、この基本色ユニットは、前記信号線毎に着色絶縁被覆層が異なる着色にて形成される。また、前記信号線が例えば20極の接着した帯状平行線状の素線からなる場合、前記着色絶縁被覆部を赤,青,緑,黒,橙の5色の基本色ユニットに着色したものを4配列して形成する。
【0009】
【実施例】以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
【0010】図1は、本実施例の棒状の芯材1に帯状かつ平行線状にコイル巻きされる信号線2を示している。この芯材1の径は例えばφ0.32mm、コイル状に捲回された帯状平行線6を構成する信号線2の径はφ0.04mmの細線のものが用いられる。図2は該信号線2の断面図を示しており、その芯材は導体である径φ0.025mm金線3が用いられ、その表面に例えばポリウレタンエナメルなどの着色絶縁被覆層(着色層)4が形成され、この着色層4の表面をアルコール可溶の融着層5が形成されている。このアルコール可溶の融着層5は透明であり着色層4の視認に妨げとならず、しかも溶剤たるアルコール塗布又は加熱により各信号線2間を密に接着することができる。このアルコール可溶融着層5は例えば、6ナイロンと66ナイロンの共重合体又はポリビニールブチラールなどが用いられ、これら融着材をアルコール塗布又は加熱して接着剤の作用をなさしめて各信号線(細径線)2相互を密接に接着するものである。
【0011】図3に示すように、例えば20極の電極を構成する帯状平行線6を構成する信号線2を赤,青,緑,黒,橙の5色の基本色ユニット毎に着色し、これら各着色線の上にアルコール可溶融着層5を形成する。それから、製品1本分の所定長さの帯状平行線6の加工を行う。この帯状平行線6の加工は各色の素線を捲回した各ボビン(図示略)より各色の素線を前記5色の基本色ユニットに4配列した20極の信号線2を集合部(図示略)に集束するとともに融着層5を加熱またはアルコール塗布により溶融して各素線間を接着させる。その後、前記帯状平行線6からなる複数の信号線2の端末の接着部分を切り離す端末処理を行った後、芯材1の表面に帯状平行線6を構成する信号線2をコイル状に捲回する。また、他の製作工程の実施例として図4で示すように前記帯状平行線6を構成する信号線2を5色で4配列して20本電極の信号線2,2…群を作る際、予め多電極プローブ1本分の長さに該当する部分において、後の電極形成部7に該当する箇所の素線はその電極形成に必要な長さだけ接着せずに素線のままの状態、つまり平行線ではない状態で加工した後、図5で示すように帯状平行線6を多電極プローブ1本分の長さ毎に定尺切断すなわち、20本の段差切断し、芯材1上に帯状平行線6を螺旋(コイル状)巻きする。この螺旋(コイル状)巻き工程及び装置は、特開平6−335460号公報の図6に示すような捲回装置で巻き付けられる。すなわち、図示を省略して説明すれば、棒状の芯材1の両端を、芯材1の軸方向に回転可能なチャックにより固定し、信号線2を、例えば20本平行に束ねた帯状平行線6にして、巻線ガイドを通して巻き始めチャックに固定する。この巻き始めチャックは、芯材1を固定するためのチャックに固定されており、芯材1の回転に合わせて回転するものである。巻線ガイドは、ガイド送り(螺子棒)の回転により芯材1の軸線方向に軸送りされ、この状態で螺旋状電極を含む信号線2を芯材1に巻き付けるためには、芯材1を回転させ、芯材1に対する信号線2の巻き付け位置の移動に同期してガイド送りを回転させて巻線ガイドを移動する。この巻線ガイドの移動量は芯材1の直径と信号線2の幅とにより設定される。こうして芯材1に信号線2が巻き付けられた状態でこれら20本の信号線2の一部分の着色絶縁被覆層4及び融着層5をほぼ一周分剥離して、その内側の芯材である導体の金線3を露出させ、その部分を心内電極として使用する。また、この剥離部分に別体の円筒状の電極を取り付けて、電極面積を広く取ることもできる。
【0012】このように本実施例では、請求項1に対応して、絶縁被覆部たる着色絶縁被覆層4を設けた信号線2を複数並べた帯状平行線6を、生体内に挿入する多電極プローブの芯材1の表面に密着させた多電極プローブにおいて、帯状平行線6は、信号線2が2以上の異なる着色皮膜で被覆され、この着色絶縁被覆層4の表面に、各信号線2間を加熱又は溶剤塗布により接着するための融着層5を形成したものであり、また、請求項2に対応して、着色絶縁被覆層4と融着層5と電極形成部7とを備えた複数の信号線2がコイル状に密接して捲回されるととともに各信号線2相互が接着されているものであり、また、請求項3に対応して、導体を芯材としてその表面に着色絶縁被覆層4及び融着層5を形成した複数の信号線2の帯状平行線6の数本を基本色ユニットとし、この基本色ユニットは、信号線2毎に着色絶縁被覆層4が異なる着色にて形成されるものである。
【0013】上述したように、本実施例によれば、複数の信号線2は、各信号線毎に5色の内のいずれかの着色層4により被覆されているので、信号線2の先端電極の色配列が外部出力電極の色配列と順序が入れかわったりした場合は途中で誤配線たとえば配線が入れ替わっていることなどが直ちに発見でき、誤配線の防止を図ることができる。また、信号線2を帯状平行線状において、個々に着色加工を施した複数本(前記実施例では5本)の素線を基本色(前記実施例の5色)ユニットとし、該ユニットを繰り返し配列することにより、基本色の整数倍の多本数素線から成る帯状平行線6を有する多電極プローブを得ることができる。
【0014】また、複数本の素線(信号線)を各々接着した帯状平行線6を、棒状体又は筒状体の芯材1外周表面に密着させながら螺旋状(コイル状)に巻き付けることにより、芯材1の三次元方向の多方向曲げに対しても従来はバラバラになりがちであった素線も帯状平行線6の信号線2を有する多電極プローブは芯材1と一体となって変形するので、曲げに対する柔軟性を損なわない。さらに、この実施例では接着された複数の信号線2を帯状平行線6として芯材1に密着させながらコイル(螺旋)巻きすることにより、螺旋巻き後の任意断面における外径は、完全密着の場合、芯材1の径に帯状平行線6の素線2の径の2倍値を加えた径となるから、多電極プローブの細径化及び低肉厚化を図ることができる。また、この帯状平行線6(信号線)は、各々の素線が接着されて形成されているため、素線単体に比べて屈曲、引張等の変形応力に対して強く、且つ芯材1に密着させながらコイル(螺旋)巻きした場合の個々の素線2の巻き緩みやそれに応じた螺旋巻き外径の変動を防止することができる。また、素線数が多くても一ユニットの平行線として取り扱うことができるので、製造工程上のハンドリング性に優れる。また、帯状平行線6の加工工程において、長尺(多電極プローブ1本分の長さ×N倍)の帯状平行線6を連続的に加工し、その後、多電極プローブ1本分の所定長さの切断しろを基準に切断することにより、大量かつ安価に帯状平行線6(信号線)を得ることができる。
【0015】尚、本発明の実施例は上述したものに限定されるものでなく、たとえば、電極数に対応した本数の着色層を形成した素線を、各々融着層を融解して接着して筒状の芯材の内側に束状あるいは中空螺旋き状に通す構造の多電極プローブにも適用されるのは当然である。
【0016】
【発明の効果】本発明は、帯状平行線からなる複数の信号線には各素線毎に着色絶縁被覆層が被覆されているので、先端電極と外部出力端子の色配列を検査して誤配線の防止を図れると共に、融着層により各素線が接着されるので屈曲、引張等の変形応力に対して強く、断線、個々の素線の巻き緩み及びそれらに基く外径の変動などを防止できる。更に各々の信号線を接着することにより、線間容量のバラツキが少なくなり、心腔内電位測定時の検出精度を高めることができ、且つ信号線相互の絡み合いを防止することにより、クロストークを低減することができる。
【0017】また、本発明は、帯状平行線からなる複数の信号線を各々接着して形成し、棒状体又は筒状体の芯材外周表面に密着させながら螺旋状(コイル状)に巻き付ける多電極プローブであるから、芯材の三次元方向の多方向曲げに対しても曲げによる柔軟性を損わず、コイル巻き後の任意断面における外径は、完全密着の場合、芯材径に平行線の素線径の2倍値を加えた径となり、多電極プローブの細径化及び低肉厚化の要請に応えられ、右冠状動脈の血管内に挿入が可能となる。
【0018】さらに、本発明は、帯状平行線からなる複数の信号線の個々に異色の着色加工を施した数本の素線を基本色ユニットとし、該ユニットを繰り返し複数配列することにより、基本色の整数倍の多数本素線の帯状平行線からなる信号線を有する多電極プローブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の信号線(細径線)を芯材にコイル状に巻き付けて、電極(露出した金線)を形成した状態を示す正面図である。
【図2】本実施例の信号線の断面図である。
【図3】本実施例の20極の帯状平行線からなる1ユニット信号線群を示す斜視図である。
【図4】本実施例の多電極プローブ1本分の長さのN倍長の帯状平行線の連続加工状態を示す斜視図である。
【図5】図4の定尺切断後を示す斜視図である。
【図6】従来例の細径線(信号線)を芯材にコイル状に巻き付けて、電極を形成した状態を示す斜視図である。
【図7】従来例の細径線(信号線)の構造を示す一部切欠斜断面図である。
【符号の説明】
1 多電極プローブの芯材
2 信号線(細径線)
3 細径線の金線(露出される電極)
4 着色絶縁被覆層(着色層)
5 融着層
6 帯状平行線
7 電極形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 絶縁被覆部を設けた信号線を複数並べた帯状平行線を、生体内に挿入する多電極プローブの芯材の表面に密着させた多電極プローブにおいて、前記帯状平行線は、前記信号線が2以上の異なる着色皮膜で被覆され、この着色絶縁被覆層の表面に、前記各信号線間を加熱又は溶剤塗布により接着するための融着層を形成したことを特徴とする多電極プローブ。
【請求項2】 前記着色絶縁被覆と前記融着層と電極形成部とを備えた複数の信号線がコイル状に密接して捲回されるととともに各信号線相互が接着されていることを特徴とする請求項1記載の多電極プローブ。
【請求項3】 体を芯材としてその表面に着色絶縁被覆層及び融着層を形成した複数の信号線の帯状平行線の数本を基本色ユニットとし、この基本色ユニットは、前記信号線毎に着色絶縁被覆異なる着色にて形成されることを特徴とする請求項1記載の多電極プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3472996号(P3472996)
【登録日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【発行日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−74114
【出願日】平成7年3月30日(1995.3.30)
【公開番号】特開平8−266495
【公開日】平成8年10月15日(1996.10.15)
【審査請求日】平成14年3月11日(2002.3.11)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【参考文献】
【文献】特開 平6−335460(JP,A)
【文献】特表 平10−510731(JP,A)