説明

多面体形状α−アルミナ及びその製造方法

【課題】粒子形状が均整であって8面体以上の球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭く、種々の用途、特に放熱用フィラーや研磨材の用途に好適な多面体形状α-アルミナ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径0.5〜6μm、粒度分布傾き3.0以上、及び結晶学上のD/H比1〜3であって、8面体以上の多面体形状を有する多面体形状α−アルミナである。また、擬ベーマイト及び/又は遷移アルミナにフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物をアルミナ換算基準で0.1〜2.0質量%添加し、充填嵩比重比90%以下及び焼成温度1100℃以上で焼成する多面体形状α−アルミナの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、均整で球状に近い8面体以上の多面体形状を有して粒度分布の狭いα-アルミナ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-アルミナは樹脂に混ぜて放熱用フィラーとして、研磨材として、更にはセラミックフィルター等の焼結材用原料やプラズマ溶射材用原料等の用途に広く用いられており、特に放熱用フィラーや研磨材の用途には、樹脂への充填性や研磨精度の点から、粒子形状が均整であってできるだけ球状に近く、また、粒度分布が可及的に狭い(粒径が均一である)ことが求められている。
【0003】
このようなα-アルミナを製造する方法としては、最も一般的には、原料のボーキサイトから水酸化アルミニウム(ギブサイト)又は遷移アルミナ(χ-アルミナ又はκ-アルミナ)を製造し、次いでこれ等を大気中で焼成してα-アルミナを製造する、いわゆるバイヤー法である。しかしながら、このバイヤー法においては、工業的に安価に得られる水酸化アルミニウム又は遷移アルミナは、通常その粒子が10μmを超える凝集粒子であり、これを焼成して得られるα-アルミナも凝集した粗粒を含むため、用途に応じて解砕して用いられるが、α-アルミナの凝集粒子を解砕して得られたα-アルミナには微粉末が含まれて粒度分布も満足できるものではなく、形状も不定形である。
【0004】
そこで、この問題を解決する方法として、これまでにも幾つかの提案がなされており、例えば、特開昭59-97,528号公報には、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム(ギブサイト)を1200℃以上の温度で焼成する際に、ホウ素及び/又はフッ素を含むアンモニウム化合物を鉱化剤として添加することにより、平均粒子径1〜10μm、結晶学上C軸に垂直な径DとC軸に平行な高さHとの比(D/H比)が1〜2のα-アルミナを製造する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、この方法で得られたα-アルミナは、平均粒子径数十から100μm程度までの凝集体形状の水酸化アルミニウムを原料としてロータリーキルンで焼成しているので、不可避的に粒子形状が不均一になり、粒度分布も広くなり、また、1μm以下のα-アルミナを製造することができないという問題がある。
【0006】
また、特開平3-131,517号公報には、水酸化アルミニウム又は遷移アルミナに融点800℃以下のフッ素系フラックスを鉱化剤として添加し、900〜1100℃の温度で焼成することにより、直径2〜20μm及び厚み0.1〜2μmであって直径対厚みの比が5〜40である六角板状のα-アルミナを製造する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、この方法で得られたα-アルミナは、その粒子形状が全て六角板状であって研磨性や充填性に劣るという問題があり、また、平均粒子径2μm以下の微細なα-アルミナは得られておらず、また、フラックスの使用量も2〜20重量%にも達して製造コストや焼成設備の腐食対策、排ガス処理対策などの点で問題がある。
【0008】
更に、特許第3,744,010号公報には、遷移アルミナ及び/又は熱処理により遷移アルミナとなるアルミナ原料を、フッ素ガス、臭素ガス、ヨウ素ガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲンガスを雰囲気ガスの全体積に対し5〜10体積%以上導入した雰囲気ガス中にて焼成することにより、均質で8面以上の多面体形状を有し、六方最密格子であるα−アルミナの六方格子面に平行な最大粒子径をDとし六方格子面に垂直な粒子径をHとしたときのD/H比が0.5以上5以下である、又は、D/H比が1以上30以下であるα−アルミナ単結晶粒子からなるα−アルミナ粉末の製造方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、この方法においては、雰囲気ガスの全体積に対してハロゲンガスを5〜10体積%以上導入した雰囲気ガス中で焼成する必要があることから、焼成炉には気密性や雰囲気調整のための機構が求められ、特殊な機構を備えた焼成炉が必要であり、また、ガスが到達しない粉体層内では形状や粒径が不均一になるなど、所望のα-アルミナが得られないという問題がある。
【特許文献1】特開昭59-97,528号公報
【特許文献2】特開平3-131,517号公報
【特許文献3】特許第3,744,010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、気密性や雰囲気調整のための特殊な機構を備えた焼成炉を使用する必要がなく、また、アルミナ原料粉と調整雰囲気ガスとの接触程度の差による粒子形状及び粒度分布の不均一化を生じる虞がなく、これまでこの種のα-アルミナの製造に汎用されてきた定置炉を用いて安価に製造することができ、しかも、粒子形状が均整であって球状に近く、また、粒度分布が可及的に狭いα-アルミナの製造方法について鋭意検討し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、粒子形状が均整であって8面体以上の球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭く、種々の用途、特に放熱用フィラーや研磨材の用途に好適な多面体形状α-アルミナを提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、粒子形状が均整であって8面体以上の球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭い多面体形状のα-アルミナを工業的に安価に製造することができる多面体形状α−アルミナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、レーザー散乱法で測定された平均粒子径が0.5〜6μmであって、レーザー散乱法で測定された粒度分布の傾きが3.0以上であり、SEM写真の画像解析により測定された結晶学上C軸に垂直な径DとC軸に平行な高さHとの比(D/H比)が1〜3の範囲であって、8面体以上の多面体形状を有する多面体形状α−アルミナである。
【0014】
また、本発明は、擬ベーマイト及び/又は遷移アルミナからなるアルミナ原料にフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物をアルミナ換算基準で0.1〜2.0質量%の範囲で添加し、得られた原料混合物を充填嵩比重比90%以下で焼成容器に充填し、焼成温度1100℃以上で焼成することを特徴とする、8面体以上の多面体形状を有して粒度分布の狭い多面体形状α−アルミナの製造方法である。
【0015】
本発明の多面体形状α−アルミナは、レーザー散乱法で測定された平均粒子径が通常0.5μm以上6μm以下、好ましくは0.5μm以上5μm以下であって、レーザー散乱法で測定された粒度分布の傾きが3.0以上(通常は上限が5.0程度)、好ましくは3.5以上であり、また、SEM写真の画像解析により測定された結晶学上C軸に垂直な径DとC軸に平行な高さHとの比(D/H比)が1以上3以下の範囲内、好ましくは1以上2以下又は2以上3以下の狭い範囲内の8面体以上の多面体形状を有するα−アルミナである。このような平均粒子径、粒度分布の傾き及びD/H比を有する本発明の多面体形状α−アルミナは、粒径が揃い、球形に近い形状であるために特に樹脂への充填性に優れており、また、粒径が揃い、球面ではなくて多面体形状であるために特に研磨精度等の研磨性に優れている。
【0016】
そして、本発明の8面体以上の多面体形状を有して粒度分布の狭い多面体形状α−アルミナは、擬ベーマイト及び/又は遷移アルミナからなるアルミナ原料にフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物をアルミナ換算基準で0.1〜2.0質量%の範囲で添加し、得られた原料混合物を充填嵩比重比90%以下で焼成容器に充填し、焼成温度1100℃以上で焼成することにより製造することができる。
【0017】
本発明の製造方法において、使用するアルミナ原料は、擬ベーマイト(Al2O3・H2O)及び/又は遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ又はθ-アルミナ)である必要があり、水酸化アルミニウム(ギブサイト)やχ-アルミナ、α-アルミナ等であっては所望の多面体形状α−アルミナを製造することが難しい。
【0018】
また、このアルミナ原料については、好ましくはBET比表面積が50m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上であるのがよく、また、好ましくはレーザー散乱法で測定された平均粒子径が予め40μm以下、より好ましくは30μm以下の範囲に調整されているのがよい。アルミナ原料について、そのBET比表面積が50m2/gより低くなったり、あるいは、平均粒子径が40μmを超えると、得られるα−アルミナの粒子形状が不均整になる虞が生じる。また、アルミナ原料のBET比表面積や平均粒子径については、その値が大きくなると生成するα-アルミナの粒径が大きくなる傾向がある。更に、アルミナ原料の粒度分布が広くなると生成するα-アルミナの粒度分布も広くなる傾向があるので、このアルミナ原料の粒度分布については、好ましくはその傾きが1.5以上、好ましくは2.0以上とするのがよい。
【0019】
本発明の製造方法においては、アルミナ原料の焼成時にこのアルミナ原料中にフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物からなる鉱化剤をアルミナ換算基準で0.1質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.3質量%以上1.5質量%以下の範囲で添加する必要がある。この鉱化剤添加量が0.1質量%より少ないと所望の多面体形状のα−アルミナが得られず、反対に、2.0質量%より多くしても添加効果が頭打ちになるほか、製造コストが増加し、また、設備への悪影響等も生じてマイナス要因が大きくなる。
【0020】
また、本発明の製造方法において、アルミナ原料に鉱化剤を添加して得られた原料混合物を焼成容器に充填して焼成する際には、重装嵩比重(JIS H1902-1977)に対する充填嵩比重(焼成容器に充填される際の嵩密度)の百分率割合で表される充填嵩比重比が90%以下、好ましくは85%以下の範囲となるように充填することが必要であり〔下限値は粉体の物性により通常は64%程度までの値になるが、隙間(粒子間の空間)が多い軽装嵩比重の状態で焼成容器に充填されること〕、この充填嵩比重比が90%を超えると一部に粒子異常成長が発生し易くなり、粒子形状が不均整になり易い。
【0021】
更に、本発明の製造方法において、焼成炉としては、通常この種のα-アルミナの製造において一般的に用いられるトンネルキルン、シャトルキルン、ローラーハースキルン等の焼成炉を用いることができ、焼成時に鉱化剤が効果的にその作用を発揮するように、好ましくは密閉型焼成容器を用いて焼成できる定置炉であるのがよい。
【0022】
更にまた、本発明の製造方法において、焼成容器内に充填した原料混合物の焼成条件については、その焼成温度が通常1100℃以上、好ましくは1150℃以上1300℃以下であり、また、焼成時の焼成温度での保持時間が通常1時間以上、好ましくは3時間以上10時間以下である。特に、焼成温度については、1100℃より低いと所望の多面体形状のα-アルミナが得られないという問題が生じ、反対に、1300℃より高いとD/H比が3.0を超える板状傾向が強くなることと、粒子成長が頭打ちになり、製造コストが増加する等のマイナス要因が大きくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の多面体形状α-アルミナは、その粒子形状が均整であって8面体以上の球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭く、種々の用途、特に放熱用フィラーや研磨材の用途に好適に用いることができる。
【0024】
また、本発明の多面体形状α-アルミナの製造方法によれば、このように粒子形状が均整であって球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭く、種々の用途、特に放熱用フィラーや研磨材の用途に好適な多面体形状α-アルミナを、工業的に安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0026】
実施例1〜7及び比較例1〜11
[アルミナ原料及び鉱化剤]
アルミナ原料及び鉱化剤として、下記の表1に示すものを用いた。
【0027】
【表1】

【0028】
ジェットミル(日本ニューマチック社製型式100SP)を用いてアルミナ原料を粉砕し、表2に示す平均粒子径及びBET比表面積を有するアルミナ原料とし、このアルミナ原料に表2に示す割合で鉱化剤を添加し、よく混合して原料混合物を調製し、得られた原料混合物を焼成炉(シリコニット高熱工業社製電気炉、型式ECH-5070S)のムライト質焼成容器(300mm×300mm×10mm)に表2に示す充填嵩比重比で充填し、表2に示す焼成条件で焼成し、次いで放冷後に振動ボールミル(中央化工機社製、型式MB-6)を用いて解砕し、表2に示す性状〔粒子形状(D/H比)、平均粒子径及び粒度分布の傾き〕を有する焼成アルミナ(α-アルミナ)を製造した。
【0029】
アルミナ原料及び焼成アルミナの平均粒子径はレーザー散乱法粒度測定器(日機装社製Microtrac 9320HRA(×100))を用いて測定し、また、アルミナ原料のBET比表面積は比表面積自動測定装置(Micromeritics社製Flowsorb II 2300)を用いて測定し、アルミナ原料の充填嵩比重比は式(充填嵩比重/重装嵩比重)×100(%)の値として算出し、焼成アルミナの粒子形状(D/H比)は走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製型式S-4700)で撮影したSEM写真より選出した20個の粒子の画像解析で求め、また、焼成アルミナの粒度分布の傾きはレーザー散乱法粒度測定器(日機装社製Microtrac 9320HRA(×100))を用いて測定した累積カーブが84%となる点の粒径(d84%)と同16%となる点の粒径(d16%)とから下記式で求められる粒度分布の傾き(n)を求めた。
n=log[log(100/16)/log(100/84)]/log(d84%/d16%)
【0030】
結果を表2に示す。なお、粒度分布の傾き(n)は、傾き(n)の値が大きいほど粒度分布が狭くて均一であることを示す。
また、実施例3、5及び7及び比較例1、3、9及び11で得られた焼成アルミナ(α-アルミナ)について撮影されたSEM写真をそれぞれ図1〜7に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2及び図1〜7に示す結果から明らかなように、本発明の実施例に係るα-アルミナは、そのいずれも粒子形状がD/H比2〜3又はD/H比1〜2と均整であって8面体以上の球状に近く、0.5〜5μmの範囲内の平均粒子径を有してその粒度分布が粒度分布の傾き3.0以上と狭く、全体に均一でよく整っていることがわかる。これに対して、比較例1〜6のα-アルミナには、粒子の成長不良や一部に粒子の異常成長が認められるほか、比較例7〜11のα-アルミナには、粒子形状(D/H比)が3を超えたり、不均一である場合があるほか、粒度分布の傾きについても3.0を下回るものが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の多面体形状α-アルミナは、その粒子形状が均整であって8面体以上の球状に近く、所定の平均粒子径を有してその粒度分布が狭く、種々の用途、特に放熱用フィラーや研磨材の用途に好適に用いることができ、工業的に極めて有用なものである。また、本発明の多面体形状α-アルミナの製造方法は、このような多面体形状α-アルミナを工業的に安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施例3に係る多面体形状α-アルミナのSEM写真である。
【図2】図2は、本発明の実施例5に係る多面体形状α-アルミナのSEM写真である。
【図3】図3は、本発明の実施例7に係る多面体形状α-アルミナのSEM写真である。
【0035】
【図4】図4は、比較例1に係るα-アルミナのSEM写真である。
【図5】図5は、比較例3に係るα-アルミナのSEM写真である。
【図6】図6は、比較例9に係るα-アルミナのSEM写真である。
【図7】図7は、比較例11に係るα-アルミナのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー散乱法で測定された平均粒子径が0.5〜6μmであって、レーザー散乱法で測定された粒度分布の傾きが3.0以上であり、SEM写真の画像解析により測定された結晶学上C軸に垂直な径DとC軸に平行な高さHとの比(D/H比)が1〜3の範囲であって、8面体以上の多面体形状を有することを特徴とする多面体形状α−アルミナ。
【請求項2】
平均粒子径が0.5〜5μmである請求項1に記載の多面体形状α−アルミナ。
【請求項3】
擬ベーマイト及び/又は遷移アルミナからなるアルミナ原料にフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物をアルミナ換算基準で0.1〜2.0質量%の範囲で添加し、得られた原料混合物を充填嵩比重比90%以下で焼成容器に充填し、焼成温度1100℃以上で焼成することを特徴とする、8面体以上の多面体形状を有して粒度分布の狭い多面体形状α−アルミナの製造方法。
【請求項4】
アルミナ原料は、BET比表面積が50m2/g以上である請求項3に記載の多面体形状α−アルミナの製造方法。
【請求項5】
アルミナ原料は、レーザー散乱法で測定された平均粒子径が予め40μm以下に調整されている請求項3に記載の多面体形状α−アルミナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127257(P2008−127257A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315847(P2006−315847)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】