説明

大根おろし加工品

【課題】保存中に発生するたくあん臭を抑制することのできる大根おろし加工品を提供する。
【解決手段】精製水8kgをビーズミルに連結したミキシングタンクに仕込み、原料卵殻2kgを投入して、湿式ビーズミルの循環運転を行うことにより、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を調製する。該微粉砕化卵殻を大根おろしに対して0.01〜5%含有させることにより、たくあん臭が感じられることなく、風味の良い大根おろし加工品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中に発生するたくあん臭が抑えられた大根おろし加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
大根おろしは、秋刀魚の塩焼き等の各種食材との組み合わせで独特の旨みを出し、日本食にはなくてはならない食材となっている。特に冷凍または冷蔵された大根おろしは、レストランなどで提供され、或いはコンビニエンスストア等で販売される弁当に使用される業務用商材として利用することができるため、その需要が拡大してきている。
【0003】
しかしながら大根おろしは、経時的にたくあん臭が発生し、風味を損なう場合があった。たとえば、特許文献1は、新鮮な状態で保持できる大根おろし加工方法について開示しているが、この方法ではたくあん臭の発生を効果的に抑制することはできない。
【特許文献1】特開平5−184322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、保存中に発生するたくあん臭を抑制することのできる大根おろし加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る大根おろし加工品は、
大根おろしと、
平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻と、
を含有する。
【0006】
上記大根おろし加工品において、前記微粉砕化卵殻の含有量は、0.01〜5%であることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存中に発生するたくあん臭が抑制された大根おろし加工品を得ることができる。これにより、卵殻の有効利用ならびに大根おろし加工品の需要の拡大が期待される。
【0008】
以下、本発明の一実施形態に係る大根おろし加工品について説明する。なお、本実施形態において、「%」は「質量%」を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.大根おろし加工品
本実施の形態に係る大根おろし加工品は、大根おろしと、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻とを含有する。以下、本実施の形態に係る大根おろし加工品の構成要素について説明する。
【0010】
1.1.大根おろし
本実施の形態に係る大根おろし加工品に用いられる大根おろしとしては、大根をすりおろしたものであればよく、大根の種類やすりおろし装置等は、特に限定されない。大根としては、たとえば青首大根、白首大根、聖護院大根、桜島大根を用いることができる。すりおろし装置としては、たとえばすりおろし機、フードカッター、回転おろし刃、チョッパー、コロイド・ミルを用いることができる。
【0011】
1.2.微粉砕化卵殻
本発明における「微粉砕化卵殻」の「卵殻」とは、鳥類の卵の殻、特に鶏卵の殻をいう。卵殻はその主成分が炭酸カルシウムであり、2%程度のタンパク質を含む。
【0012】
本実施の形態に係る大根おろし加工品に用いられる卵殻(「微粉砕化卵殻」ともいう。)は、原料卵殻そのものあるいは原料卵殻を粗く粉砕した卵殻粉末を、微粉砕化したものである。
【0013】
微粉砕化卵殻の平均粒径は、1μm以下であり、好ましくは0.01μm〜0.6μmである。微粉砕化卵殻の平均粒径が1μm以下であることにより、微粉砕化卵殻に含まれるタンパク質等の成分が露出して、効率よく機能することができる。微粉砕化卵殻に含まれる炭酸カルシウムとタンパク質が、たくあん臭の抑制に大きく寄与するものと考えられる。特に、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.6μm以下であることにより、さらに効果を高めることができる。また、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.01μm未満であると、凝集しやすく、分散性に劣るため、大根おろしの全体に分散させることが困難となる場合がある。
【0014】
微粉砕化卵殻は、例えば、振動ミル、ボールミル、シェイカーやハンマーミル、ターボミル、ファインミル、ジェットミル、バンタムミル、グラインダーミル、カッターミル、ビーズミルなどの粉砕機を使用する機械的粉砕により得ることができ、これらの粉砕機を単独もしくは2つ以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
平均粒径が1μm以下であり、かつ、粒度分布が狭い微粉砕化卵殻を得ることができる点で、微粉砕化卵殻は特に、ビーズミルによる湿式粉砕にて粉砕されたものであることが好ましい。ビーズミルとしては、例えば、スターミルLMZ(アシザワ・ファインテック株式会社製)、OBミル(ターボ工業株式会社製)、スーパーアペックスミル(寿工業株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
ビーズミルを使用して卵殻を平均粒径1μm以下(好ましくは0.01μm〜0.6μm)に湿式粉砕することにより、クリーム状の微粉砕化卵殻含有スラリーが得られる。上記スラリーをそのまま大根おろしに添加することができる。
【0017】
また、上記スラリーを乾燥させて得られた微粉砕化卵殻を使用してもよい。乾燥方法としては特に限定されるものではなく、噴霧乾燥や凍結乾燥など、一般的に行われる方法で実施することができる。また、デキストリン等の賦形剤や、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を、上記スラリーに適宜添加してから乾燥を行ってもよい。
【0018】
微粉砕化卵殻の粒度分布は、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であることが好ましく、効果により優れている点で、さらに、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であることがより好ましい。
【0019】
また、微粉砕化卵殻の粒度の分布状態を示す変動係数は0.1〜0.8であるのが好ましく、0.1〜0.7であるのがより好ましい。微粉砕化卵殻の変動係数が0.1〜0.8であることにより、凝集を抑制することができる。
【0020】
微粉砕化卵殻の含有量は、大根おろし加工品に対して0.01%〜5%であることが好ましく、0.05%〜3%であることがより好ましい。上記範囲より少ない含有量とすると、十分な効果が得られず、上記範囲より多い含有量とすると、微粉砕化卵殻の臭い等が大根おろしの風味に影響を及ぼす場合があるからである。
【0021】
1.3.大根おろし加工品の製造方法
本実施の形態に係る大根おろし加工品は、たとえば以下の製造方法により得られる。
【0022】
まず、上述した大根おろしおよび微粉砕化卵殻を混ぜ合わせる。ここで微粉砕化卵殻を大根おろしに均一に配合するために、大根おろしを撹拌しながら微粉砕化卵殻を添加することが好ましい。
【0023】
次に、微粉砕化卵殻を混ぜ合わせた大根おろしを包装容器に充填する。包装容器の種類は、特に限定されないが、たとえば合成樹脂製シートからなる袋であることができる。その後、包装容器を密封する。
【0024】
次に、必要に応じて殺菌処理を施しても良い。殺菌処理は、加熱により行うことができ、具体的には、60℃〜100℃、好ましくは65℃〜90℃の温度で、15分〜120分、好ましくは30分〜90分の間、加熱処理するとよい。
【0025】
次に、包装容器に充填された大根おろしを冷凍または冷蔵する。冷凍は、包装容器に充填された大根おろしを、凍結点以下の温度で凍結させて行われる。凍結点以下の温度としては、好ましくは−18℃以下、より好ましくは−25℃以下であることができる。なお冷凍は、急速凍結により行うことができる。
【0026】
冷蔵は、包装容器に充填された大根おろしを、凍結点より高い温度に設定された冷蔵庫を用いて行うことができる。凍結点より高い温度としては、たとえば−2.5℃〜10℃であることが好ましい。
【0027】
2.実施例
次に、本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
2.1.微粉砕化卵殻の調製
本実施例においては、以下の条件にて所定の平均粒径および粒度分布を有するように微粉砕された微粉砕化卵殻を調製した。より具体的には、精製水に卵殻(以下、微粉砕化卵殻と区別するために、「原料卵殻」と表記する。)を分散させた原料卵殻分散液(スラリー)について、以下の条件で湿式ビーズミルを使用して、原料卵殻を湿式粉砕した。
【0029】
2.1.1.原料
(1)原料卵殻(平均粒径:11.0μm((株)全農・キユーピー・エツグステーシヨン製))
(2)精製水
【0030】
2.1.2.粉砕(湿式粉砕)条件
湿式ビーズミル:スターミルLMZ2(アシザワ・ファインテック(株)製)
ビーズ:ジルコニア製,Φ0.3mm
ビーズ充填率:85%(粉砕室容量に対し);空間率49%
ローター周速:12m/s
【0031】
2.1.3.微粉砕化卵殻の調製方法
精製水8kgをビーズミルに連結したミキシングタンクに仕込み、原料卵殻2kgを投入して、湿式ビーズミルの循環運転(ミルで粉砕されたスラリーをタンクにリターン)を行うことにより、微粉砕化卵殻含有スラリーを調製した。
【0032】
湿式ビーズミルによる粉砕処理を所定時間(5,15,60分)行うことにより、粒径の異なる微粉砕化卵殻含有スラリー(微粉砕化卵殻1〜3)を得た。
【0033】
2.1.4.平均粒径および粒度分布測定
試料(微粉砕化卵殻含有スラリー)0.3gを精製水10gに分散させて1分間超音波を照射した後、粒径分析計に供した。分散剤を添加する際は超音波照射前に2滴滴下した。
【0034】
また、原料卵殻の粒度分布を測定する場合、まず、原料卵殻0.1gを精製水10gに分散させ、この分散液4gを精製水20gに分散させた後、超音波を照射して供試検体とした。
【0035】
粒度分布測定は、装置内蔵の超音波照射機(3分間、40W)を使用して行った。なお、平均粒径はメジアン径とした。粒度分布測定における測定装置および測定条件は以下の通りである。
粒度分布計:マイクロトラックMT3300EXII(日機装(株));レーザ回折式
屈折率:1.68(重炭酸カルシウムの文献値);水(分散媒)1.33
分散剤:アロンA−6330(ポリカルボン酸系重合体、東亜合成(株)製)
【0036】
微粉砕化卵殻1〜3の平均粒径はそれぞれ、0.12μm(粒径の実測範囲:0.03〜0.58μm)、0.59μm(粒径の実測範囲:0.19〜7.78μm)、0.94μm(粒径の実測範囲:0.45〜7.78μm)であり、これらの変動係数(CV)はそれぞれ0.70、0.67、0.57であった。
【0037】
また、これら微粉砕化卵殻の粒度分布はいずれも、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であった。なかでも、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.12μmである微粉砕化卵殻の粒度分布は、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であった。
【0038】
以下、平均粒径が0.12μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻1とし、平均粒径が0.59μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻2とし、平均粒径が0.94μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻3として、実験を行った。
【0039】
2.2.大根おろし加工品の製造
2.2.1.実施例1〜3
以下の工程により、実施例1〜3に係る大根おろし加工品を製造した。
【0040】
生の青首大根150kgを洗浄し、葉部と先端部を切断、皮剥き後、適当な大きさにカットし、ドラム型すりおろし機にてすりおろし、100kgの大根おろしを得た。得られた大根おろしを攪拌させながら微粉砕化卵殻を配合し、均一となるよう混合後、ナイロン/ポリエチレン製の袋に1kgずつ充填し、−25℃の冷凍庫にて凍結させた。
【0041】
実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻の種類は、表1に示すとおりである。
【0042】
2.2.2.比較例1〜3
実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻にかえて、比較例1では、原料卵殻(平均粒径:11.0μm((株)全農・キユーピー・エツグステーシヨン製))を用い、比較例2では、炭酸カルシウム(平均粒径:13.4μm(関東化学(株)製、特級))を用いて、実施例1〜3と同様に大根おろし加工品を製した。
【0043】
また、比較例3では、実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻を含有させないで、それ以外は実施例1〜3と同様に大根おろし加工品を製した。
【0044】
2.3.試験例1
実施例1〜3および比較例1〜3に係る大根おろし加工品の風味の違いについて評価した。具体的には、得られた大根おろし加工品を−20℃の冷凍庫で30日間保管した後に冷凍庫から取り出し、流水中で10分間解凍した後に皿に出して、大根おろしの風味について以下の4段階で評価した。
<評価>
◎:たくあん臭が感じられることなく、風味の大変良いものであった。
○:たくあん臭がほとんど感じられることなく、風味の良いものであった。
△:たくあん臭がやや感じられ、風味のやや悪いものであった。
×:たくあん臭が感じられ、風味の悪いものであった。
【0045】
試験例1の評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1によれば、大根おろし加工品が平均粒径が1μm以下の微粉砕化卵殻を含有することによって、たくあん臭のほとんど感じられない大根おろし加工品を得ることができることが確認された。特に、平均粒径が0.6μm以下の微粉砕化卵殻を用いることによって、たくあん臭が感じられず、風味の大変良い大根おろし加工品を得ることができることが確認された。
【0048】
2.4.試験例2
試験例2では、表2に示すように、微粉砕化卵殻1の含有量の異なる実施例1,4〜9および比較例3に係る大根おろし加工品の風味について上記4段階で評価した。
【0049】
具体的には、実施例1における微粉砕化卵殻1の含有量0.5%にかえて、実施例4〜9では、微粉砕化卵殻1の含有量をそれぞれ5%、3%、1%、0.1%、0.05%、0.01%とした。
【0050】
【表2】

【0051】
表2によれば、微粉砕化卵殻の含有量を大根おろし加工品に対して0.01%以上5%以下とすることによって、たくあん臭のほとんど感じられない大根おろし加工品を得ることができることが確認された。特に、微粉砕化卵殻の含有量を大根おろし加工品に対して0.05%以上とすることによって、たくあん臭が感じられず、風味の大変良い大根おろし加工品を得ることができることが確認された。
【0052】
ただし、実施例4に係る大根おろし加工品については、たくあん臭については感じられなかったが、卵殻特有の臭いがやや感じられた。
【0053】
2.5.実施例10
以下の工程により、実施例10に係る大根おろし加工品を製造した。
【0054】
生の青首大根150kgを洗浄し、葉部と先端部を切断、皮剥き後、適当な大きさにカットし、ドラム型すりおろし機にてすりおろし、100kgの大根おろしを得た。得られた大根おろしを攪拌させながら微粉砕化卵殻を配合し、均一となるよう混合後、ナイロン/ポリエチレン製の袋に1kgずつ充填した後、70℃で45分間殺菌処理し、5℃の水中で冷却した後、10℃の冷蔵庫で冷蔵した。
【0055】
得られた大根おろし加工品を10℃で5日間保管した後に皿に出し、大根おろしの風味について評価したところ、たくあん臭が感じられることなく、風味の大変良いものであった。
【0056】
3.作用効果
本実施の形態に係る大根おろし加工品は、大根おろしと、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻とを含有する。これにより、保存中に発生するたくあん臭が抑制された大根おろし加工品を得ることができ、風味が良好になるため、需要の拡大を図ることができる。また、卵殻の有効利用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大根おろしと、
平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻と、
を含有する、大根おろし加工品。
【請求項2】
前記微粉砕化卵殻の含有量は、0.01〜5%である、請求項1に記載の大根おろし加工品。