説明

大比重防洪袋

【課題】誰がどのように取り扱っても、数分間で膨張し、特に、防水堤を構築したときに予想される水勢に対抗することができ、洪水対策として有効な大比重防洪袋を提供する。
【解決手段】袋状構造を有する防洪袋本体の内部に、水よりも比重の大きい大比重物質より成る加重体と、高吸水性ポリマーをそれぞれ個別に配置し、上記高吸水性ポリマーの吸水によって防洪袋本体を扁平な直方体形状に膨張せしめる防洪袋について、水溶紙より成り、かつ袋状構造を有する1つの室を備えた水溶紙袋11を具備するとともに、この水溶紙袋に高吸水性ポリマー14を充填し、上記水溶紙袋は防洪袋本体の長手方向に配置して水溶紙袋を構成している袋の上下の面の下面側にて加重体15の使用時における上面に固定した構造として、吸水時に上記水溶紙袋がその上下のほぼ全面にて水に接触可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋状構造を有する防洪袋本体の内部に、水よりも比重の大きい大比重物質より成る加重体と、高吸水性ポリマー(高吸水性樹脂)をそれぞれ個別に配置し、上記高吸水性ポリマーの吸水によって防洪袋本体を扁平な直方体形状に膨張せしめ、特に、洪水に対して高い防護機能を発揮することを特徴とする大比重防洪袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部から加えられる優勢な外力を食い止めるために、従来から様々な構築物が利用されて来た。優勢な外力の内容は様々であるが、特に、洪水を堰き止めるために、従来から用いられて来たものに土嚢がある。しかし、土嚢を作るには土砂が必要であり、利用可能な土砂が近辺に存在しない市街地では、土砂を使用せずに対策を講じることが求められる。これに対して、特開2001−355219号は従来の土嚢に代替可能な機能を有する遮断体として可搬式敷設体と称する袋状資材を開示している。同号のものは、液体吸収性ポリマーを保持したシート材の両面に、炭化物を含有したセルローススポンジから成るシート状物を配置した構成を有しており、液体吸収性ポリマーを保持したシート材の両面がシート状物で覆われているため、液体吸収性ポリマーの全体に液体が行き渡るまでに時間を要し、迅速な作業に適さないことが懸念される。
【0003】
また、実用新案登録第3072865号は、給水の前後を問わず嚢体内の膨潤性材料が嚢体の外部に露出せず、かつ、嚢体内の隅に偏って溜らない水嚢を開示しており、そのため目の細かい織布や不織布で形成した内袋の内部に水溶性材料で形成した袋体を固定し、この袋体の内部に膨潤性材料を収容している。この水嚢の構造では膨潤性材料を充填した数個の袋から成る連結袋が内袋内部に両端部にて固定手段によって固定されており、そのために数個の袋から成る連結袋に給水されるべき水は連結袋の側面から膨潤性材料に浸透することになり、水が膨潤性材料全体に行き渡って、十分な膨潤状態になるまでには、前記の発明と同様に、相当の時間を必要とするものと思われる。
【0004】
土嚢或いは水嚢などと呼ばれるこの種の防護袋を上記のような吸水性ポリマーを用いて構成した場合には、如何に迅速に膨張させ使用可能な状態になるかが、非常に重要な問題になる。災害が目前に迫り、その防護のため一刻を争っているときに遅れをとったのでは何の役にも立たないからである。従って、吸水性ポリマー等を如何に迅速に膨張させることができるかが問題であるが、この問題に対応し得る技術的提案は未だなされていない。なお、この種のものは、水を使用するため、全体の比重が水と変わらないという性質がある。水と同等の比重であるから、優勢な水勢により、浮動し易い状態になってしまい、防水堤としては機能が不足するという致命的な欠陥を持つことになる。よって、吸水性ポリ
マーを使用した水嚢を水防用途に使用するには、適切な重量追加による浮動対策も必要である。
【0005】
なお、高吸水性ポリマー(高吸水性樹脂)の膨張によって膨らんだ防護袋の形態も問題になる。即ち、膨張した防護袋の形態が凸レンズのように中央が膨らみ、周囲に向かって徐々に薄い形態となると、袋の厚さは一様ではなくなるから、このような袋を積み重ねると、厚さの不足する袋の端に隙間ができてしまい、例えば水流を通過させてしまうことになり、そのため端部を重ね合わせなければ役に立たず袋の使用量が増加する。よって、中央が膨らんだ形状の袋を多段に積み上げる場合、作業効率が良くない上、不安定となり易く、防水堤、防護壁として不安が残る。
【0006】
【特許文献1】特開2001−355219号
【特許文献2】実用新案登録第3072865号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、誰が、どのように取り扱っても、数分間で膨張し、特に、防水堤を構築したときに予想される水勢に対抗することができ、洪水対策として有効な大比重防洪袋を提供することである。また、本発明の他の課題は、取り扱いが簡単で、水防用、防護用などとして有効性の高い大比重防洪袋を提供することである。なお、本発明において「防洪」とは、洪水から事物を防ぎ守る趣旨の文言として用いている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本発明は、袋状構造を有する防洪袋本体の内部に、水よりも比重の大きい大比重物質より成る加重体と、高吸水性ポリマーをそれぞれ個別に配置
し、上記高吸水性ポリマーの吸水によって防洪袋本体を扁平な直方体形状に膨張せしめる防洪袋について、水溶紙より成り、かつ袋状構造を有する1つの室を備えた水溶紙袋を具備するとともに、この水溶紙袋に高吸水性ポリマーを充填し、上記水溶紙袋は防洪袋本体の長手方向に配置して水溶紙袋を構成している袋の上下の面の下面側にて加重体の使用時における上面に固定し、吸水時に上記水溶紙袋がその上下のほぼ全面にて水に接触可能に構成するという手段を講じたものである。
【0009】
本発明に係る大比重防洪袋は、袋状構造を有する構成材の内部に配置された高吸水性ポリマーの吸水によって、ゲル(ジェル)状として、高吸水性ポリマー(高吸水性樹脂)を膨張させ、膨張圧力によって一定の扁平な直方体形状の形態を維持するようにしたものである。高吸水性ポリマーは親水性の直鎖状高分子或いは分岐状高分子の架橋体であり、一定量吸水すると膨潤状態のハイドロジェルとなり、圧力をかけても離水し難く、吸水量はポリマー1グラム当たり10グラム以上に及ぶものを称するが、本発明で使用可能なものには吸水量がポリマー1グラム当たり400グラム以上に及ぶものもある。高吸水性ポリマーとしては、でんぷん・ポリアクリル酸グラフト系、架橋ポリアクリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、酢酸ビニル−アクリル酸塩系、ポリアクリル酸ナトリウム(PSA)系のポリマーなどがあり、この内、水に不溶であるが吸水して膨張するものに、例えば架橋ポリアクリル酸塩系の粉末状のものがある。
【0010】
これらの高吸水性ポリマーは、淡水を使用したときに最も良い膨張性能を示す。淡水以外の水、例えば海水も利用可能であるが、海水を使用する場合には、架橋型ポリアクリル酸系金属塩を90パーセント以上の濃度で、より好ましくは92〜94パーセントの濃度で使用することが望ましい。高吸水性ポリマーは、これまでも紙おむつなどの衛生材用途をはじめとして、農業用、園芸用の土壌保水剤、或いは芳香剤などの用途に使用されているが、本発明において使用することができるものもそれらと同様の高吸水性ポリマーで良い。
【0011】
高吸水性ポリマーを防洪袋内に配置するために、本発明では、高吸水性ポリマーを、水溶紙と呼ばれる水溶性樹脂より成る水溶紙袋に充填する。水溶紙袋としては、1つの室を備えた袋状構造を有するものとし、この水溶紙袋の室に高吸水性ポリマーを充填する。即ち本発明における水溶紙袋は全体が単一の室で構成されている一体物であり、これによって、防洪袋本体の内部のスペースにおいて、図3に示す如く、限られた長さLのほぼ全長を高吸水性ポリマーの充填室として利用可能な水溶紙袋を形成することができる。一方、従来の形態では2つの室を分離して加重体の側辺に接続していたので、固定部分から両端までの長さl1、l2だけの袋の使用を余儀なくされ、袋の表面積が小さく高吸水性ポリマーを十分に水に接触させることができない。
【0012】
然るに、本発明の上記構成によれば、1つの室の長さを従来比でそれぞれ約2倍の長さにすることができ、各室の表面積が倍増するので、1つの室に充填されている高吸水性ポリマーの水に接触可能な表面積(以下接水面積という。)も倍増することとなり、初期吸水速度を著しく向上することができる。即ち、1つの室によって高吸水性ポリマーの接水面積の増大を図り、給水効率を向上し、以て迅速な膨張を実現し使用可能な状態にするものである。なお、1つの室構成はそれによって高吸水性ポリマーの量を増すことも可能にするがそれは本来の目的ではなく、飽くまでも高吸水性ポリマーに対する接水面積の増大によって初期吸水速度を向上し、給水効率を高めることが目的である。1つの室から成る本発明の水溶紙袋は防洪袋本体の長手方向に配置し、水溶紙袋を構成している袋の上下の面の下面側の一部分又は1箇所にて加重体の使用時における上面に固定する構造として、吸水時に上記水溶紙袋がその上下のほぼ全面にて水に接触可能とする。水溶紙袋を上面側で他のものに固定しない構造は、膨らむ際の水溶紙袋の動きを妨げないという意味で好ましいものである。しかし、防洪袋本体が先に膨らみその後から、或いは同時に水溶紙袋が膨らむ構造を取るときは、防洪袋本体の膨らみによって、或いはそれとともに水溶紙袋が膨らむように水溶紙袋の上面側でも防洪袋本体に固定することができる。なお防洪袋本体には導水孔が開けられるので、ここから入った水によって内部の空気が押し上げられ、先に膨らむ傾向となることは明らかである。
【0013】
水溶紙より成る水溶紙袋は水溶紙の名称で知られる水溶性樹脂を使用して形成した小袋又は小箱型の形態を持つ簡単な容器であり、その中に高吸水性ポリマーを充填する構成を取る。高吸水性ポリマーを充填した、小袋又は小箱のような水溶紙袋は防洪袋本体の長手方向に配置して水溶紙袋を構成している袋の上下の面の下面側にて加重体の使用時における上面に固定する。水溶紙袋は、袋の上下の面の下面側で固定されることによって、固定部以外の部分、つまり水溶紙袋のほぼ全体は固定されず自由に浮き上がるように膨らむことが可能になり、その結果1つの室から成る水溶紙袋は、その上下のほぼ全面にて水に接触可能な状態に置かれることになり、図2に示す如く、吸水と同時に水溶紙袋が膨らむようになる。つまり下面側で固定する構成は、前述した1つの室構成によって接水面積増大の図られている高吸水性ポリマーを、効率よく接水可能な状態にするための手段となる。従って、水溶紙袋が膨らむ上記のメカニズムを助成するか、或いは少なくとも膨張メカニズムの妨げとならない場合には、上記袋の上面側を他のものに固定する構造を取ることができる。
【0014】
高吸水性ポリマーを充填した、小袋又は小箱のような水溶紙袋は防洪袋本体の構成材内における、良好な吸水性を得るために加重体の使用時における上面の位置に、例えば、ホットメルト型接着剤やヒートシール等の接着手段によって固定して所定位置に配置する。水溶紙袋の材料は水溶性樹脂であるため、供給水分によって溶解し高吸水性ポリマーの膨張を妨げないことを特徴とするので、水溶性樹脂よりなる水溶紙袋の分解に必要な性能として、水分供給開始後数十秒以内、より好ましくは数秒〜十数秒で分解することが望まれる。
【0015】
そして、本発明では、水よりも比重の大きい大比重物質を充填した加重体を防洪袋本体の構成材の内部に配置する。この加重体は、本発明に係る防洪袋が、水勢により、浮動し易い状態になってしまうのを防止するものであるから、比重は1よりも大であれば良い。しかし、単に比重が1を越えていれば良いというものではなく、防洪袋というものの性質から、例えば、無害であること、安価であることなどの条件が求められる。用済み後、資源ごみとして回収することができればさらに良い。また、比重の大きい方が、水勢などに対向するために効果的である。しかしながら、水勢等、水との関係を考慮しなくても良い使用形態の下では、膨張後に移動させる可能性や、防洪袋の荷重が構造物に及ぶことによる影響を考慮する必要があるから、重過ぎるよりは軽さの優先する場合もある。従って、本発明の構成の範囲において、重量型ないし軽量型を準備し、状況に応じて使い分けるものとする。
【0016】
このような観点から、本発明のものを水防用或いは防水堤に適用する場合には、構成材の内部に配置された高吸水性ポリマーを膨張させた使用状態において、防洪袋全体の比重が、1.2以上となるように設定することが望ましい。実験により、比重が1.2未満では、水勢に対向する目的を十分に達成することを期待できないと判断されるためである。上限については種々の使用状況が考えられるが、運搬を考慮して概ね2.0を越えない比重とすることが望ましい。
【0017】
そして、大比重物質については、比重が概ね3よりも大であることが望まれる。その最大の理由は、比重が3よりも相当小さい場合には、重りとしての効率が良くないからである。後述するように、防洪袋の膨張後の容積が約20〜25リットル程度のものである場合には、酸化鉄を主体とする比重が約3.3の物質より成るものであることが最も望ましい。これらの条件を実際の防洪袋に当てはめてみると、防洪袋の膨張後の容積を20リットルとした場合、防洪袋1袋の全重量は、比重1.2では24キログラム、比重2.0では40キログラムとなる。
【0018】
防洪袋本体の構成材は、最小限の1層から、最内層、中間層、最外層の3層のものを含む。構成材の一定の扁平な形態を維持する手段として、畳むと1枚のシート状になる袋であって、平坦な表裏2面の間に位置するマチ部のある袋を使用するものとし、このマチ部によって、表裏2面の周囲を囲む十分な厚さの、前後左右の側面を有する扁平な立体を形成することができる。この形態は、使用前には場所をとらず、膨張すると恰も切り餅のように扁平な直方体形状になるものなので、最も理想に近いといえる。マチ部は、防洪袋本体が1枚の構成材だけからなる場合にはその構成材に設けることになるが、複数枚の構成材からなる場合には、例えばクラフト紙のように最も腰の強い構成材など、その中のどれかに設ければ良い。
【0019】
上記防洪袋本体の構成材が内外複数の層を成す構造を取る形態は、強度向上や積み重ね易さなど、様々な方面に好ましい効果をもたらす。その内で、最内層が、樹脂繊維を用いて編織したものから成り、その外部を、耐水性クラフト紙から成る構成材が覆い、さらにその外部を麻袋もしくはそれとほぼ同等の強度と摩擦を有する外装体で覆った構造を有している多層構造体は、水防用としても望ましい例である。防洪袋本体の外表面を外装体でカバーすることにより構造強度を高めることができ、また、編織組織の構造は、防洪袋を積み上げる使用方法において、ずれ止めとなる。また、天然の麻袋のような特性を有していない、合成樹脂袋も使用可能であり、その場合、防洪袋の扁平な表裏の面に樹脂を塗布したり、強度向上効果及び滑り止め効果を与えたりすることにより、編織組織と同様に防滑性が備わるようにする。
【0020】
本発明において、その構成材として複数枚の耐水性クラフト紙を含む層状構造を適用した場合には、平坦な表裏2面に全体的に多数の導水孔を形成するものとする。クラフト紙は紙として強靭かつ柔軟性があり、さらに耐水性を備えることにより、防洪袋としてより好ましいものである。さらに防洪袋本体の構成材に、合成樹脂繊維を用いて編織したシート材を含む場合には、編織組織が、もう一つの吸水効率向上のための手段を構成する。シート材は編織組織を有するので水分が浸入しやすく良好な供給性が保たれ、かつまた、膨張後には、高吸収性ポリマーの漏れ出るのを防ぐことができる。
【0021】
加重体は、上記構成材の長方形の短辺の方向に細長い形態の容器を形成し、その容器に充填する形態とすることが望ましい(図1参照)。このような形態の容器を、袋状構造を有する防洪袋本体の構成材のほぼ中央部に横に配置することにより、構成剤は中央部が荷重で押さえられるため、吸水過程において、防洪袋を桶などに溜めた水中に投入すると、図6Bに示すように浮力で両端が持ち上がり、その結果中央部も膨らんでマチ部が開く状態になり、構成材の内部に空間が形成され、吸水性能を向上させることができる。
【0022】
防洪袋は、吸水により膨張したときには、例えば10〜20センチメートル以上の、十分な厚さを有する恰も切り餅のような形状を有する扁平な直方体となるので、安定良く積み重ねることができ、扁平に形成されていることにより、保管及び運搬の便等の面からも好都合である。なお、複数枚の耐水性クラフト紙を含む構成材に形成する導水孔は、膨張した高吸水性ポリマー内部における圧力の逃げ道となると理解される。
【0023】
防洪袋内に、高吸水性ポリマーを充填した水溶紙袋を配置するために、幾つかの方法を取り得る。最も単純には、水溶紙袋を防洪袋本体の構成材の内、最も内層の編織組織を有するものの内面に直接接着する方法を取ることである。また、水溶紙袋を収める枠体を最内層の構成材の内面に接着するとともに、水溶紙袋を枠体に固定するようにしても良い。その場合、枠体は、高吸水性ポリマーの充填された水溶紙袋が圧迫されないように、周囲に空間の余裕を保持し、供給される水分を空間に呼び込み、水分を高吸水性ポリマーに浸透しやすくする。本発明の場合、構成材の内部に加重体を配置することにより、加重体がその周囲に空間を確保する役割を果たし得るので、枠体を用いて固定する手間を省くことができる。
【0024】
合成繊維製の編織組織を有する織布を使用して、防洪袋の強度を高める補強手段を形成し、その補強手段を使用して、防洪袋の内面を被覆することは望ましい構成である。織布であることは水分を内部へ浸透させるために望まれる構造であり、それと同時に強靭な構造という条件を満たす。補強手段は1層とは限らず、例えば、防洪袋本体が3層構造の場合にはそれらの間に各1層ずつ計2層というように、目的とする強度に応じて適宜設定することができる。
【0025】
補強手段は、クラフト紙の表面にラミネートされたものと、クラフト紙とは独立したチューブ状のものとを含む。補強手段は、防洪袋本体の表面にラミネートされ一体化しているものと、耐水性クラフト紙から独立した別体のものとの、異なる2形態を取り得るという趣旨である。防洪袋本体の表面にラミネートされ一体化しているものは製袋時に筒型構造となるのでチューブ状である必要はないが、独立した別体のものはチューブ状構造でなければならないのである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上記のように構成されかつ作用するものであるから、誰が取り扱っても数分間で膨張し、かつ、洪水に対抗するため、防水堤を構築したときに予想される水勢に対しても有効な大比重防洪袋を提供することができる。また、本発明によれば、取り扱いが簡単で、水防用、防護用などとして有効性の高い大比重防洪袋を提供することができる。特に高吸水性ポリマーを水溶紙袋の1つの室に充填し、かつ、水溶紙袋の下面側にて水溶紙袋を加重体の使用時における上面に固定したので、高吸水性ポリマーへの水分の供給が非常に迅速かつ平均的に行なわれ、防水堤を構築したときに、予想される水勢に素早く対抗し得るものであるから、安定した防洪性能を得ることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、防洪袋は膨張するとほぼ直方体形の扁平な形態を維持するので、防洪袋同士の表裏両面を押し付けて積み重ねると、端部側面同士も密着し、隙間を生じることのない防水堤を構築でき、水防用として有効性の大変高いものである。また、土嚢や水嚢は重量物である必要性があるから、運搬の労力にかかる負担が大きいという常識があり、これに対して本発明のものは現場或いはその近くにて使用の直前に膨張させるため、常識に反して、運搬の労力がかからないか或いは著しく軽減されるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明に係る大比重防洪袋10の1例を示すものであり、高吸水性ポリマーは粉末状の形態として水溶紙袋11に充填されている。粉末状高吸水性ポリマーを使用時まで水溶紙から成る小袋という形態の中に保持しておくために水溶紙袋11を使用し、水分が供給されると吸水して溶解し、高吸水性ポリマーの膨張が進行するように袋入りのものとして作られているものである。
【0028】
水溶紙袋11は水溶紙を素材として、袋状構造を有する1つの室から成る単一の室構成を有しており、図示の水溶紙袋11は、図3に示す如く限られた全長Lにほぼ等しい長さがあり、かつ、防護袋本体の長手方向に配置するように細長い長方形の袋状構造に設定したものである。従って、水溶紙袋11の1つの室は、従来の形態の袋の固定部分から両端までの長さl1、l2に対しては約2倍の長さを持ち、接水面積がほぼ倍増する。なお、内部に充填される高吸水性ポリマーの量は従来とほぼ同量とする。
【0029】
水溶紙袋11に充填された高吸水性ポリマーは、例えば92パーセント濃度の架橋ポリアクリル酸塩を含む粉末状のものから成り、水溶紙に水分が供給され溶解すると、速かに膨張する性状を有している。また、高吸水性ポリマー14は複数個の水溶紙袋11に適量が充填されており、水溶紙袋11は、防洪袋本体の最も内層の構成材12の内部に配置された加重体15の使用時における上面に水溶紙袋の下面側の固定部13にて、ホットメルト型接着剤を用いた接着を固定手段として固定されている。図4に示すように固定部13は、防洪袋本体の長手方向に細長い水溶紙袋11のほぼ中央部において、加重体15の上面に設定されているが、高吸水性ポリマー14は水溶紙袋11の内部にて端から端まで、加重体15を超えて自由に移動し得る状態にある。
【0030】
このように水溶紙袋11は加重体15の長手方向とは直交する方向、かつ、防洪袋本体の長手方向と平行な方向に配置されており、水溶紙袋11は当該固定部13以外では他部材に固定せず、吸水時に上記1つの室11はその上下のほぼ全面にて水に接触可能に構成されている。このような配置構成の下では、図4に示したように、水溶紙袋11と加重体15の周囲には隙間gが形成されるので水分の浸透性も良好である。
【0031】
例示された大比重防洪袋10は、膨張後の容積が約20〜25リットルのものであり、この場合、本発明に係る防洪袋10が、水勢により、浮動し易い状態になってしまうのを防止する加重体15として、比重が1よりも大であるところの、粉末状の酸化鉄粉16を樹脂製袋状の容器(非水溶性)に充填したものである。この酸化鉄粉の比重は、約3.3であり、防洪袋全体の重量は約26〜32.5キログラムとなり、水勢などに対向するために効果的であるという条件を満たす。さらに、鉄製品の生産過程において産出されたものを使用しているので、安価であること、無害であること、用済み後には資源ごみとして回収することができるという条件を満たし、本発明の用途に好適なものである。
【0032】
加重体15は細長い形態の袋状の容器に充填されており、その長手方向を、防洪袋本体の構成材12の長方形の短辺の方向(幅方向)に合致させている。即ち、上記形態を有する容器入りの加重体15は、構成材12の中央部に横に配置し、その内面の上面にのみ、固定部13にて接着等の手段により固着している。固着位置は、構成材12をほぼ2分するようにその中央部が良い。
【0033】
例示した大比重防洪袋10は、防洪袋本体の構成材が内外複数の層を成す構造を取り、その最も内層の構成材12は、樹脂繊維を用いて編織した構造を有している(図1、図4及び図5)。例示した樹脂繊維を用いて編織したものつまり樹脂シートは、ポリエチレン繊維を用いたポリエチレンクロス(PEC)より成り、透水性を発揮するとともに、吸水しゲル(ジェル)状となった膨張状態の架橋ポリアクリル酸塩より成る高吸水性ポリマーが漏れ出るのを防止する。図1の例において、構成材12は、内外複数の層を成す構成材の内で、最も内層に図示しているが、この構成材12のみでも、本発明に係る大比重防洪袋10を構成し得るものである。
【0034】
例示された大比重防洪袋10の構成材は、以下さらに説明するように、内外複数の層を成す構成材17、25から成る。上記の通り、その内の最も内層12が樹脂繊維を用いて編織したものから成り、その外部を耐水性クラフト紙から成る構成材17が覆い、さらに、その最も外部を麻袋もしくはそれとほぼ同等の強度と摩擦を有する外装体よりなる最外層の構成材25で覆った構造を有している。ここにおいて、中間層の構成材17の袋構造が、折り畳み構造のマチ部22を有しており、最内層の構成材12と最外層の構成材25は、マチ部22に対応した厚みを形成できる寸法のゆとりを有しているので、膨張によって、防洪袋本体を扁平な直方体形状とする。
【0035】
内外複数の層を成す構造において、中間層の構成材17は耐水性クラフト紙から成る、所要量の高吸水性ポリマーに相応したサイズを有しており、例示の場合、層状構造を有する20キログラム用のものである。また、例示した耐水性クラフト紙製の中間層の構成材17は、ポリエチレン繊維より成る織布18を表面(内面)にラミネートした補強手段を有している(図5参照)。上記の織布18が例えば熱溶着によってラミネートされているところの、耐水性クラフト紙の中間層の構成材17を使用し、製筒、製袋工程を経て形成されているものである。織布18の材質はポリエチレンに限らず、ポリプロピレンその他のものも使用することができるが、透水性を確保するとともに、袋全体の強度を増すために編織構造を有することは必要である。また、編織構造であれば、積み重ねた大比重防洪袋を固定するために、杭を打ち込んで穴を開けても、穴が塞がれる傾向になるので好都合でもある。
【0036】
もう一つの補強手段は、中間層の構成材17とは独立した、編織チューブ19である(図5参照)。この編織チューブ19は、耐水性クラフト紙袋の最内層に配置されており、従って、前述した最内層の構成材12を構成しているところのものも補強機能を有するものに当る。編織チューブ19は筒状構造(チューブ状構造)を有し、筒状構造両端の開口は、製袋工程において封止帯21により閉じられる。なお小袋状の水溶紙袋11は、大比重防洪袋10を封止帯21によって閉じる前に、最内層の構成材12に固着される。編織チューブ19の繊維素材も、前記の織布18と同様にポリエチレンクロス(PEC)を始めとしてポリプロピレンその他のものを使用することができるが、例示の場合、織布18をフィルムに近い薄さの平面的形態として中間層構成材17への一体性を高めているのに対して、編織チューブ19の繊維素材はより厚く形成されている。
【0037】
上記の構成を有する中間層構成材17のほぼ全体に、高吸水性ポリマーに水分を供給するための導水孔20を多数形成する。導水孔20は、最内層構成材12に固定された水溶紙袋配置部の水溶紙袋11に対して、ほぼ全方向から速かに水分を供給することができるように平坦な表裏両面の全体にほぼ均等な分布で形成されている。しかし、マチ部側には導水孔20を設けても良いが、封止帯21に近い両端部には、導水孔20を開けない無孔部23を設定している。無孔部23は導水孔20を枠状に取り囲むように設けられ、導水孔20とともに高吸水性ポリマー内部における圧力の逃げ場を表裏両面に向けるか或いは限定するという機能を果たす。
【0038】
さらに、大比重防洪袋10には、例えば麻袋を最外層の構成材25として組み合わせている。最外層の構成材25は防洪袋全体をすっぽりとカバーし得るだけの大きさ及び形状を有しており、端部を除いて2方ないし3方を閉じた袋構造を有するもので、残る端部開口26から、最内層構成材12と中間層構成材17までの大比重防洪袋10を内部に収める。最外層の構成材25は、強度向上手段及び滑り止め手段を目的とするもので、他に発泡性樹脂を防洪袋の平面部の要所に塗布するか、或いは防洪袋にゴムバンドを掛けるとかいう方法を取ることも可能である。最外層の構成材25として麻袋を使用する場合には、最内層構成材12と中間層構成材17までの大比重防洪袋10を内部に収めた後、端部開口26を糸や紐、針金或いはステープル等、適宜の手段によって完全に閉じて置くことが望ましい。
【0039】
次に、このように構成された本発明の大比重防洪袋10の使用方法と効果等について説明する。まず、本発明の大比重防洪袋10を、加重体15を固着した側が下になり、水溶紙袋11を固定した側が上になるようにして水を張ったタンクに浸漬する(図6A)。大比重防洪袋10は中央部下部において加重体15により押さえ付けられているので、浮力により両端部が持ち上がり、それに伴って中央部も膨らませられることによりマチ部22が開き、防洪袋10の内部に空間が形成される(図6B)。そのため防洪袋内の空間に水が浸入し易くなり、その結果、水溶紙袋11は下面側の固定部13を除いて、固定されていない1つの室の上面側が浮力を受けて浮き上がり(図6B)、図2に符号11′を付けて示したように、室の上下両面全面にて水に触れる状態になる。かくして、内部に充填されている高吸水性ポリマー14は倍増している接水面積にて水と接触し得ることとなり、初期吸水速度を著しく向上することができる。従って、1つの室によって高吸水性ポリマー14の接水面積の増大と、給水効率の向上が達成され、迅速かつ十分に水が行き渡り、膨張作用が非常に速やかに進捗して、大比重防洪袋10が形成される(図6C)。
【0040】
このようにして、高吸水性ポリマー14に水分を供給することで、約5分で膨張を完了し、高さ約十数センチメートル、全重量約26〜27キログラムの防洪袋10を得た。なお、以下に本発明と従来例(図3に示したl1、l2の長さを有するもの)の吸水効果を比較して示す。
本発明
吸水性 例1 例2 例3 平均
経過時間(3分) 16.3kg 16.1kg 16.5kg 16.3kg
〃 (5分) 19.7kg 19.8kg 19.5kg 19.7kg
従来例
吸水性 例1 例2 例3 平均
経過時間(3分) 12.7kg 12.5kg 12.9kg 12.7kg
〃 (5分) 17.9kg 17.7kg 18.1kg 17.9kg
【0041】
上記実験結果は、20キログラムを目標として何分間の吸水で大比重防洪袋10が何キログラムになったかを計測して得た数値であり、初期吸水速度を示す3分経過時の給水量は平均値で本発明の16.3kgに対して従来例の12.7kgであるから約28%の向上となることが分かる。防災対策において第1に求められるものは初期吸水速度であり、初期吸水速度が速いほど迅速な対応が可能になるが、本発明によればこの要求に十分応えられることが理解される。なお、上記の例のものは最も膨張すると約二十数キログラムになるが、20キログラムを目標として吸水させるのは、防水堤などとして設置後の降水等を吸水する余裕として残しておくためであり、水防用途に望ましい使用法である。
【0042】
図7に、最内層構成材12と中間層構成材17から成る膨張した本発明の大比重防洪袋10の外観を、また図8には図2の大比重防洪袋10を最外層の構成材25でカバーした大比重防洪袋10の外観を示している。膨張した本発明の防洪袋10は、恰も切り餅のように扁平な直方体形状であるが分厚い直方体を形成しており、端部側面同士を押し付けると、ほぼ密着する。図9は膨張させた本発明の大比重防洪袋10を上下に3段積み重ねて構築した、防水堤の一部分を示している。この防水堤に、1メートルの距離からタンクに溜めた凡そ300リットルを放水し、水流に対する抗堪性と、湛水性を実験したが、防水堤はびくともせず、また、水も漏れにくく、所期の目的を達成できるものと判断された。図10は、基盤Bの上に縦横向きを変えて大比重防洪袋10を積み重ねた例をしめすものであり、不整地に整然と大比重防洪袋10を積み重ねて防水堤を構築する場合に適している。
【0043】
このように本発明の大比重防洪袋10は、水防用途に十分耐えることができることが証明された。特に、この防洪袋10は、扁平かつ分厚い直方体を形成しているため、施工時に取り扱いやすく、構築された防水堤は、臨時構築物として堅固であり、外力に対しても非常に安定したものである。しかも防洪袋10は、充填した高吸水性ポリマーが膨張した状態において、ほぼ6ヶ月の間所期の性能を維持することを確認しているので、その間に復旧工事を行なうことが十分に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る大比重防洪袋は、特に、都市防災における市街地の洪水対策や、地下鉄その他の地下設備に水が浸入するのを防止する手段などとして、広範に利用することができる。また、河川の氾濫に対処して洪水から家屋や集落を防護する防水堤として使用することができる。特に、土砂の手に入りにくい都市においても、水さえ入手可能であればこれを膨張させ、水嚢として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る大比重防洪袋の1例の一部を破断して示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る大比重防洪袋の内部に配置した水溶紙袋とその膨張過程における作用を示す斜視図である。
【図3】図2のものの平面図である。
【図4】図1の要部拡大断面図である。
【図5】非膨張状態の大比重防洪袋の部分拡大断面図である。
【図6】膨張状態の説明図でA、Bは本発明の大比重防洪袋における吸水、膨張過程を示す説明図、Cは膨張したものの側面図である。
【図7】本発明の大比重防洪袋の膨張したものを示す斜視図である。
【図8】図7のものをさらに外装体で覆ったものの斜視図である。
【図9】積み重ね状態の例1を示す説明図である。
【図10】同じく例2を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10 本発明に係る大比重防洪袋
11 水溶紙袋
12 最内層の構成材
14 高吸水性ポリマー(高吸水性樹脂)
15 加重体
16 酸化鉄粉
17 中間層の構成材
18 織布
19 編織チューブ
20 導水孔
21 封止帯
22 マチ部
23、24 無孔部
25 最外層の構成材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状構造を有する防洪袋本体の内部に、水よりも比重の大きい大比重物質より成る加重体と、高吸水性ポリマーをそれぞれ個別に配置し、上記高吸水性ポリマーの吸水によって防洪袋本体を扁平な直方体形状に膨張せしめる防洪袋であって、
水溶紙より成り、かつ袋状構造を有する1つの室を備えた水溶紙袋を具備するとともに、この水溶紙袋に高吸水性ポリマーを充填し、上記水溶紙袋は防洪袋本体の長手方向に配置して水溶紙袋を構成している袋の上下の面の下面側にて加重体の使用時における上面に固定し、吸水時に上記水溶紙袋がその上下のほぼ全面にて水に接触可能に構成されたことを特徴とする大比重防洪袋。
【請求項2】
構成材の内部に配置された高吸水性ポリマーを膨張させた使用状態において、全体の比重が、1.2以上2.0以下となるように設定された請求項1記載の大比重防洪袋。
【請求項3】
構成材は、一定の扁平な形態を維持する手段として、畳むと1枚のシート状になる袋であって、平坦な表裏2面の間に位置するマチ部を有しており、このマチ部によって、表裏2面の周囲を囲む十分な厚さの、前後左右の側面を有する扁平な立体を形成する請求項1記載の大比重防洪袋。
【請求項4】
構成材は、内外複数の層を成す構成材から成り、その内の最も内層が、樹脂繊維を用いて編織したものから成り、その外部を、耐水性クラフト紙から成る構成材が覆い、さらにその外部を麻袋もしくはそれとほぼ同等の強度と摩擦を有する外装体で覆った構造を有している請求項1記載の大比重防洪袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−248704(P2010−248704A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96414(P2009−96414)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(305028017)株式会社 東日本 (1)
【Fターム(参考)】