大腸炎を処置するための医薬の製造における抗炎症性化合物を産生するリコンビナント酵母株の使用
本発明は、一般に、抗炎症性化合物、好ましくは酸感受性抗炎症剤、例えばIL 10および/または可溶性TNFレセプターおよび/またはトレフォイル因子を、経口経路を介して腸粘膜に送達するための投与ストラテジーに関する。本発明に従う好ましい特徴は、生存リコンビナント酵母細胞、好ましくはそれぞれのタンパク質を産生するように加工されたSaccharomyces細胞の懸濁液の接種である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、抗炎症性化合物、好ましくは酸感受性抗炎症剤、例えばIL 10および/または可溶性TNFレセプターおよび/またはトレフォイル因子(trefoil factor)を経口経路を介して腸粘膜に送達するための投与ストラテジーに関する。本発明に従う好ましい特徴は、生存リコンビナント酵母細胞、好ましくはそれぞれのタンパク質を産生するように加工されたSaccharomyces細胞の懸濁液の接種である。例として、遠位結腸の慢性炎症がデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与することにより誘発されたマウスを使用した。組織学的評価によりスコア化された処置は、明らかに炎症および疾患症候の後退をもたらした。この知見は、まったく予想外である。何故ならば、腸粘膜と相互作用することができる生存乳酸菌のみがサイトカインを送達しそして大腸炎を治癒させるのに適当であると思われていたからである。
【0002】
哺乳動物における免疫系は、多様で複雑であり、そして自然および適応免疫機構および反応を含む。免疫系は、しばしば体液性免疫応答または細胞性免疫応答のいずれかに関して記載される。体液性免疫は、広くB細胞による抗体産生および作用を指し;細胞性免疫は、T細胞、樹状細胞、好中球、単球およびマクロファージを含む細胞により媒介される。T細胞およびB細胞は、リンパ球の2つのカテゴリーである。
【0003】
それによって免疫系が通常作用しそしてそれ自体を調節する機構の1つはいわゆるサイトカインの産生を含む。サイトカインはいくつかの正および負の免疫応答を媒介することが知られている。サイトカインは、ターゲット細胞上のレセプターに結合することにより通常作用する。サイトカインの活性は、いくつかの方法で、例えば、可溶性レセプター(レセプターの細胞外ドメイン)の投与またはサイトカインアナログもしくは誘導体により妨害されうる。
【0004】
IL−10は、いくつかの作用または効果を媒介することができるサイトカインである。IL−10は、異なるクラスまたはサブセットのTh細胞(Tヘルパー細胞)の免疫応答の制御に関与していることが知られている。
【0005】
炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸管の部分の慢性の非特異的炎症により特徴付けられる胃腸障害の群を指す。潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は、ヒトのIBDの最も顕著な例である。それらは、小児の発育遅延、直腸脱出症、糞便中の血液(例えばメレナおよび/または血便排泄)、衰弱、鉄欠乏症および貧血、例えば鉄欠乏貧血および慢性疾患もしくは慢性炎症の貧血を含む多くの症候および合併症と関連している。IBDの病因は明らかではない。これについては、Wyngaarden and Smith (eds.) Cecil's Textbook of Medicine (W.B. Saunders Co. 1985), Berkow (ed.) The Merck Manual of Diagnosis and Therapy (Merck Sharp & Dohme Research Laboratories, 1982)、およびHarrison's Principles of Internal Medicine, 12th Ed., McGraw-Hill, Inc. (1991)が参照される。
【0006】
IBDの発生率は、地理的位置と共に大きく変動する。ヨーロッパにわたる共同研究は、南部と比較して北の中央部で100000当たりUCは10.4そしてCDは5.6の発生率を示し、UCおよびCDについてそれぞれ40%、80%高い発生率である。UCおよびCDの両方とも長期間の病気であるので、それらは、クオリティーオブライフの真の妨害に該当する。クローン病は、20歳代および50歳代における発生率の著しいピークを示す発症の双峰性年齢分布を有する。より高い発生率およびより重篤な疾患プロファイルは、若い方の年齢におけるピークと関連している。このことはCDを特に痛烈にしている。何故ならば、罹患した青年および若年成人は、特にこの社会的集団と関連した、生活からの高い期待を実質的に奪われるからである。
【0007】
潰瘍性大腸炎は、主として結腸粘膜において発現を有する、慢性の、非特異的な、炎症性のそして潰瘍性の疾患を指す。それは、頻繁に、血性下痢、腹部痙攣、糞便中の血液および粘液、倦怠感、発熱、貧血、食欲不振、体重減少、白血球増加、低アルブミン血症および赤血球沈降速度(ESR)の上昇により特徴付けられる。
【0008】
合併症は、出血、中毒性大腸炎、中毒性巨大結腸、偶発性直腸膣瘻および、大腸癌発達の危険の増加を含み得る。
【0009】
潰瘍性大腸炎は、結腸から離れた合併症、例えば、関節炎、強直性脊椎炎、仙腸骨炎、後部ブドウ膜炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、および上強膜炎とも関連している。
【0010】
処置は、疾患の重篤さおよび期間と共に相当変動する。例えば、脱水および電解質不均衡を防止するための輸液治療は、重篤な発作において頻繁に指示される。更に、特別な食事療法が時々有用である。薬物療法は、種々のコルチコステロイド、スルファサラジンおよびその誘導体のいくつか、ならびにおそらく免疫抑制剤を含む。
【0011】
クローン病は、潰瘍性大腸炎と共通した多くの特徴を共有する。クローン病は、相当散在している潰瘍性大腸炎の病変とは対照的に、隣接した正常な腸から病変が鋭く境界を画される傾向があるという点で区別されうる。更に、クローン病は、回腸(回腸炎)ならびに回腸および結腸(回結腸炎)を主として苦しめる。ある場合には、結腸のみが罹病し(肉芽腫性大腸炎)そしてときには小腸全体が含まれる(空回腸炎)。まれな場合には、胃、十二指腸または食道が含まれる。病変は、臨床的症例のほぼ半分においてサルコイド型類上皮肉芽腫を含む。クローン病の病変は経壁的であり得、深い潰瘍、浮腫および繊維症を含み、これらは閉塞およびフィステル形成ならびに膿瘍形成をもたらしうる。これは、通常はるかに浅い病変を生じる潰瘍性大腸炎と対照をなすが、繊維症、閉塞、フィステル形成および膿瘍の合併症は潰瘍性大腸炎においても時折見られる。
【0012】
処置は、両疾患について類似しておりそしてステロイド、スルファサラジンおよびその誘導体、ならびに免疫抑制性剤、例えばシクロスポリンA、メルカプトプリンおよびアザチオプリンを含む。更に最近開発された処置は、いくらかはまだ臨床試験中であるが、TNF抗体などのTNFブロッキング化合物の全身性投与(注射による)を包含する。
【0013】
IBDは、病因学的処置の不存在の故に公衆衛生における真正の問題を表す。多くの患者が慣用の医学治療、例えば抗炎症性コルチコステロイド処置で首尾よく扱われるが、大部分は疾患の再発活性を有しそして2/3は手術を必要とする。
【0014】
炎症性腸疾患の原因は不明である。CDおよびUCの病原は、おそらく遺伝子的因子と環境的因子(例えば細菌性因子)との間の相互作用を含むが、これまでに明確な病因学的因子は同定されていない。主たる理論は、異常な免疫応答(おそらく腸内菌叢により駆動される)がIBDにおいて起こるというものである。しかしながら、十分に確立されていることは、T細胞が病原において重要な役割を演じるということである。活性化されたT細胞は、抗炎症性サイトカインおよび炎症誘発性サイトカインの両方を産生することができる。この知見を有して、IBDに、合理的な方式で対抗しうる。中和モノクローナル抗体または抗炎症性サイトカインを利用する新規な抗炎症治療は、IBDの原因となる免疫調節異常をモデュレーションする可能性を示す。高度に顕著かつ有効な新たな治療は、上記した抗TNFモノクローナル抗体による全身性処置である。cA2インフリキシマブ抗体の、5〜20mg.kg−1の範囲の単回静脈内用量は、活動性クローン病において高い臨床的改善をもたらした。0.5〜25μg.kg−1の範囲の用量を使用して7日間毎日の処置方式において全身性投与されたリコンビナントIL−10の使用は、クローン病活動性スコアの減少および寛解の増加を示した。いくつかの非常に有望な治療(炎症誘発性サイトカインのからめ込み(tangling)またはT細胞浸潤物の確立)が、実験モデルから現在出現している。しかしながら、すべてのこれらのストラテジーは全身性投与を必要とする。IBDの重篤な合併症は、ひどく衰弱させそして最終的に死に至らせることがありうる。
【0015】
IBDを処置するためのいくつかの方法は、当該技術分野で知られている。Schering Corp.に譲渡されたUS Patent 5,368,854において、哺乳動物の炎症性腸疾患を処置するためにIL−10を使用する方法が開示されている。この方法では、IBD(炎症性腸疾患)を有する哺乳動物にサイトカインが投与される。この参考文献に記載されたIL−10の投与は、非経口(例えば血管内、好ましくは静脈内)である。
【0016】
しかし、IBDに罹患している(ヒト)患者のためのこのような投与経路に欠点がないわけではないことは明らかである。はるかに容易かつ簡便な方法は、IL−10などのサイトカインまたは同様な治療活性を有するサイトカインアンタゴニストを含む医薬の経口投与である。更に重要なことに、治療剤の局所放出は、より高い有効性、およびより少ない、全身性活性に起因する望まれない副作用を可能とする。
【0017】
Cambridge University Technical Services Ltd.に譲渡されたWO 97/14806において、非侵襲性バクテリア、例えば、Lactococcusを使用することにより生物学的に活性なポリペプチドおよび/または抗原を、身体、特に粘膜における該ポリペプチドの鼻腔内投与により送達するための方法が開示されている。WO 00/23471は大腸炎がサイトカイン産生Lactococcus株によりいかに処置されうるかを詳細に教示している。
【0018】
IBDに罹患している患者の回復を達成するために、損傷された細胞および該損傷された細胞を含む器官、例えば結腸を修復することが必要である。いくつかの研究は、抗炎症性化合物産生Lactococcusの治癒効果が、生存乳酸菌と抗炎症性化合物との組み合わせによるものであり、抗炎症性化合物単独によるものではないことを示している。実際、IL 10についてSteidler et al. (2000)およびトレフォイル因子の場合のVandenbroucke et al. (2004)の両方が、IL 10産生Lactococcusが処置前にUV照射により死滅させられている場合には効果が得られなかったが、これらの場合に活性化合物は溶解しているバクテリアにより腸で放出されていたはずであることを明らかに示している。
【0019】
IL−10産生Lactococcus lactisによる大腸炎の処置は、成功であることが証明された。しかしながら、主要な欠点は、Lactococcusの急速に減少する生存率であり、そして腸における乏しい生存であり、これは正確な投薬および処置のタイミングを困難にする。腸におけるタンパク質またはペプチドの送達のための代替として、Blanquet et al. (2004, WO 01/98461)は、リコンビナントSaccharomyces cerevisiaeを使用して、腸においてタンパク質またはペプチドを送達する可能性を記載している。このシステムはある場合には有用であるかもしれないが、この送達の方法は腸粘膜との相互作用が必要である疾患については成功しないかも知れないということが一般に認められている。実際に、著者らは送達を試験するために人工腸システムを使用したので、彼等は、「このシステムは能動および促進輸送などの腸壁の生理学的プロセスをシミュレーションすることはできない」ということを彼ら自身示している。活性分子のバイオアベイラビリティまたは活性に関するデータは入手できない(Blanquet et al. 2004)。特にIL−10の場合に、遺伝子分泌細胞型により産生された局所的サイトカイン微小環境がきわめて重要であることは十分に実証されている(Croxford et al., 2001)。サイトカイン産生細胞の細胞壁組成、細胞サイズおよび細胞が粘膜と相互作用する能力を含むがそれらに限定されないいくつかの因子が、役割を演じ得る。更に、酵母代謝産物、酵母抗原および酵母は過敏性腸症候群の可能なトリガーであるという最近のデータがある(Santelmann and Howard, 2005)。従って、過度の実験なしに乳酸菌で得られた結果を酵母に外挿することはできず、そしてLactococcusの特殊な免疫モデュレーション特性に鑑みて、当業者は、大腸炎の処置のために、IL 10などの抗炎症剤をin situで腸に送達する酵母のポジティブな結果を予想しないであろう。
【0020】
驚くべきことに、IL 10などの抗炎症性化合物を産生するリコンビナント酵母が、IBDまたは粘膜炎などの粘膜炎症の処置のために使用されうるということを本発明者らは見出した。本発明者らの発明は、粘膜炎症を処置するための医薬の調製のために抗炎症性化合物を産生するリコンビナント酵母を使用することである。
【0021】
酵母ホスト株により産生されるべき前記抗炎症性化合物は、当業者に知られている任意の抗炎症性化合物であることができる。あるいは、酵母は、非限定的な例として、不活性な基質を抗炎症性化合物に変換することができるキナーゼ、ホスフォターゼ、プロテアーゼまたはアセチル化酵素などの修飾酵素を産生してもよい。非限定的な例として、前記抗炎症性化合物は、サイトカイン、例えばIL−10、サイトカインアンタゴニスト(例えば、TNFアンタゴニスト、IL−12アンタゴニスト、インターフェロンγアンタゴニスト、またはIL−1アンタゴニスト)、抗炎症性ポリペプチド(例えば、トレフォイル、ABINまたはINCAタンパク質)、またはウイルスにコードされたサイトカインアナログ、例えばEBV BCRF1であることができる。サイトカインアンタゴニストは、当業者に知られておりそして可溶性レセプターおよび抗サイトカイン抗体を含むがそれらに限定されない。好ましくは、抗炎症性化合物はIL−10である。
【0022】
抗炎症性化合物がグリコシル化部位を含む場合には、好ましくは1つ以上のこれらの部位を、グリコシル化を回避または制限するように、好ましくは酵母における過剰グリコシル化を回避または制限するように、突然変異させる。好ましい態様は、非グリコシル化IL−10、好ましくは1つ以上の可能性のあるグリコシル化部位が突然変異されている非グリコシル化IL−10を産生するリコンビナント酵母である。
【0023】
好ましくは、抗炎症性化合物をコードする遺伝子(1つまたは複数)は、プラスミド上に位置した異種遺伝子である。適当なプラスミドは、当業者に知られておりそしてエピソームプラスミド、人工染色体または組み込みプラスミドを含むが、それらに限定されない。
【0024】
リコンビナント酵母は、哺乳動物腸内で生存することができる任意の酵母であることができる。好ましくは、該酵母は、既知のプロバイオティク能力を有し、例えば、ケフィール、コンブチャ(kombucha)または乳製品からなる群より選ばれる酵母株である。なお更に好ましくは、該リコンビナント酵母は、Saccharomyces sp.、Hansenula sp.、Kluyveromyces sp.、Schizzosaccharomyces sp.、Zygosaccharomyces sp.、Pichia sp.、Monascus sp.、Geotrichum sp.およびYarrowia sp.からなる群より選ばれる。なお更に好ましくは該酵母はSaccharomyces cerevisiaeであり、最も好ましくはSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiである。好ましくは、リコンビナント酵母ホスト−ベクター系は、生物学的に封じ込められた系である。生物学的封じ込めは当業者に知られておりそして栄養要求突然変異、好ましくはThyA突然変異などの自殺栄養要求突然変異、またはその同等物の導入により実現されうる。あるいは、生物学的封じ込めは、抗炎症性化合物をコードする遺伝子を有するプラスミドのレベルで実現されうる。これは、非限定的な例として、少数の世代の後に失われる不安定なエピソーム構築物を使用することにより実現されうる。いくつかのレベルの封じ込め、例えば、プラスミド不安定性および栄養要求性を組み合わせて高レベルの封じ込めを確実にすることができる。
【0025】
好ましくは、粘膜炎症はIBDである。炎症性腸疾患、例えば、慢性大腸炎、クローン病または潰瘍性大腸炎は、本発明に従って、適切な投薬量の活性抗炎症性化合物、好ましくはIL−10、更に好ましくは非グリコシル化IL−10により処置されることができ、そして予想外なことに、罹病した結腸の見かけ上正常で健康な状態への回復を与える。
【0026】
あるいは、リコンビナント酵母による抗炎症性化合物、例えばIL−10の投与は、粘膜炎などの他の粘膜炎症を処置するのに使用することができる。IL−10は、単独でまたは少なくとも1つの追加の治療剤と組み合わせて投与することができる。このような作用物質の例は、コルチコステロイド、スルファサラジン、スルファサラジンの誘導体、免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリンおよび他のサイトカインを含む。共投与は、逐次的であるかまたは同時的であることができる。共投与は、一般に、特定された時間間隔の間に、複数の(2つ以上の)治療剤がレシピエント中に存在することを意味する。典型的には、第2の作用物質が第1の作用物質の半減期以内に投与されるならば、この2つの作用物質は共投与されていると考えられる。本明細書に記載する他方の治療剤は、他の化合物、好ましくは相補的作用を有する化合物、例えば非限定的な例としてトレフォイル因子を送達するLactococcusまたは酵母株などの他の微生物送達系であることができる。
【0027】
従って、本明細書に開示された本発明は、リコンビナント酵母によるin situ合成を介したIL−10の局在化送達に関する。その結果として、炎症は、DSSで誘発された慢性大腸炎において少なくとも30%減少し、そしてIL−10−/−129Sv/Evマウスにおける大腸炎の発症を防止する。それ故、この方法は、抗炎症性タンパク質の全身性投与に頼る強力で、十分に確立されそして受け入れられた治療と比較して、同等に効率的である。
【0028】
本明細書で使用される酵母ベクターは、食品、好ましくはプロバイオティク特性を有する食品から、または既知のプロバイオティクスから選択され、そして免疫適格性個体に対して全体的に無害である。特にSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiの場合に、臨床実験が利用可能であり、そして腸における通過時間が研究されている。本明細書において非常に重要であることが示された、正確な投薬量および処置期間中のタイミングは、かくして容易に得ることができる。
【0029】
ベクターの生存率のための重要な要件は、本発明に示されている。これは、IL−10のin situ合成の必要を示す。ベクターは実際に、結腸におけるIL−10のde novo合成を示すことによりこれを達成することができる。酵母は、本発明に従えば、この点でWO 00/23471に記載のLactococcus lactisにまさる明白な利点を有する。何故ならば、それは処置期間中のその生存率をより安らかに保ちそしてそれはLactococcusよりも腸においてより良好に生存しているからである。
【0030】
この方法は、潜在的副作用に関して、全身性送達を通じて望ましい濃度よりもまたは達成可能な濃度さえよりも高い濃度での治療におけるIL−10の持続しかつ局在化した存在についての疑問に答えることができる。
【0031】
定義
本明細書で使用するいくつかの用語を、分かり易くするために以下に説明する。一般に、用語「症候」は、疾患のもしくは患者の状態の任意の主観的証拠を指す。これは、患者により認知される証拠を含む。IBDの症候の例は、下痢、腹痛、熱、メレナ、血便排泄および体重減少を含む。
【0032】
用語「徴候」は、一般に、通常診察する医師により認知される疾患または状態の任意の客観的証拠、あるいは検査室評価または他の試験、例えば超音波検査もしくはX線写真試験で正体を現す特徴を指す。IBDの徴候のいくつかの例は、腹部腫瘤、舌炎、アフタ性潰瘍、肛門裂傷、肛門周囲フィステル、貧血、吸収不良および鉄欠乏症を含む。ときには、徴候と症候は重複する。例えば、患者が血便を訴え(症候)、そして糞便サンプルの検査室試験が血液について陽性となる(徴候)。
【0033】
用語「適切な投薬量」または「有効量」は、自己免疫状態の、または望ましくないもしくは不適切な炎症性応答もしくは免疫応答の症候もしくは徴候を軽減するのに十分な量または投薬量を意味する。特定の患者のための有効量は、処置される状態、患者の全体的健康、投与の方法、経路および用量、および副作用の重篤さなどの因子に依存して変動し得る。
【0034】
「サイトカイン」は、細胞表面レセプターに結合することにより通常局所的に作用しそして特定の遺伝子の発現を活性化する、ある範囲の細胞型により一過性で産生されるポリペプチド因子を意味する。
【0035】
「アンタゴニスト」は、レセプターに結合するがレセプターを活性化しない、従ってアゴニストの作用を競合的に阻害する化合物を意味する。
【0036】
「アゴニスト」は、レセプターに結合しそしてレセプターを活性化する化合物(例えば、ホルモンおよび神経伝達物質のような内在性リガンド、化学的に合成された化合物、アルカロイドのような天然産物)である。
【0037】
「化合物」は、単純または複雑有機および無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、抗体、炭水化物、核酸またはその誘導体を含む任意の生物学的または化学的化合物を意味する。
【0038】
本明細書で使用される用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、相互に交換可能である。「ポリペプチド」は、アミノ酸のポリマーを指しそして分子の特定の長さを意味しない。この用語は、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えばグリコシル化、リン酸化およびアセチル化も含む。
【0039】
実施例
実施例における材料および方法
株および培養培地
Saccharomyces cerevisiae INV Sc1(mating-α、his3Δ1、leu2-3、-112trp1-289およびura3-52)はInvitrogen(商標)から得た。
【0040】
Saccharomyces cerevisiae亜種boulardiiは、市販のプロバイオティク調製物から単離した。
【0041】
最少培地は、0.67%Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids(Difco, Detroit, MI)、2%デキストロース(Merck, Darmastadt, Germany)および0.077%CSM−URA(Bio 101 Systems, Morgan Irvine, CA)からなるSD+CSM−Uであった。
【0042】
YPD培地は、1%酵母エキス、Difco;2%デキストロース、Merck;2%ペプトン、Difcoからなる。
【0043】
リコンビナントDNA技術
DNAのPCR増幅は、VENTポリメラーゼによりそして製造者により推奨された条件を使用して行った。DNA修飾酵素および制限エンドヌクレアーゼを標準条件下で、製造者により推奨されたバッファー中で使用した。一般的な分子クローニング技術ならびにDNAおよびタンパク質の電気泳動を本質的に記載されたとおりに行った(Sambrook et al., 1990)。S. cerevisiaeをエレクトロポレーションによりトランスフォーメーションしそしてトランスフォーマントを指示された適当な選択培地上で選択した。
【0044】
発現プラスミドの構築
プラスミドpPIC92におけるmIL10のサブクローニング
成熟mIL10のDNAコード配列を、プラスミドpT1mIL10(Schotte et al., 2000)からoligo mIL10 S
【表1】
およびoligo mIL10 AS
【表2】
によりPCR増幅した(Vent(登録商標)ポリメラーゼ、NEB, Ipswich, MA)。これにより474bpのDNAフラグメントを得た。このmIL10 PCRフラグメントを、制限酵素NaeI(NEB)で線状化したプラスミドpPIC92上に存在するSaccharomyces cerevisiaeのプレプロα接合因子(ppMF)分泌シグナルの後にインフレームでライゲーションした。得られた構築物をpPIC92mIL10と名づけた(図1)。プラスミドpPIC92は、プラスミドpPIC9K(Invitrogen(商標), Carlsbad, CA)に由来する。Escherichia coli MC1061熱コンピテント細胞を、pPIC92mIL10ライゲーション混合物でトランスフォーメーションした。
【0045】
ppMF−mIL10のプラスミドpYES2へのサブクローニング
pYES2(図2;Invitrogen)は、Saccharomyces cerevisiaeにおけるリコンビナントタンパク質の誘導性発現のためにデザインされた5.9kbのベクターである。このベクターの特徴は、関心のある遺伝子の容易なクローニングおよびウラシル原栄養性によるトランスフォーマントの選択を可能とする(それはURA3マーカーを含有する)。pYES2ベクターは、Saccharomyces cerevisiaeにおけるリコンビナントタンパク質の高レベル発現用にデザインされている。それは、ガラクトース誘導性発現を可能とするGAL1プロモーターを含有する。このベクターは、2μ複製起点を有しそしてエピソームで高コピーに(細胞あたり10〜40コピー)維持される。このベクターは、E.coliにおける容易なクローニングおよび選択を可能とするE.coli pUCオリジンおよびアンピシリン耐性も含有する。
【0046】
ベクターpYES2を、BamHI(NEB)およびXbaI(NEB)の組み合わせ消化により消化した。5780bpのベクターDNAフラグメントを単離した。プラスミドpPIC92mIL10をBamHI(NEB)およびSpeI(NEB)の組み合わせ消化により消化した。751bpのDNAフラグメントを単離した。2つの選択したDNAバンド(5780および751bp)をライゲーションしそしてE.coli MC1061熱コンピテント細胞にトランスフォーメーションした。構築したプラスミドをpYES2−mIL10と名づけた(図3)。
【0047】
プラスミドpYES2T−mIL10の構築
先に構築したプラスミドpYES2−mIL10は、GAL1プロモーターのガラクトースによる誘導時にのみmIL10分泌があるという欠点を有していた。mIL10を分泌するSaccharomyces株のin vivo使用のために、それらがmIL10を構成的に分泌するということは非常に重要である。この目標を達成するために、本発明者らはGAL1プロモーターを構成性の非常に強いトリオースリン酸イソメラーゼ(TPIプロモーター)により置換した。ppMF−mIL10発現カセットを、Saccharomyces cerevisiae高コピー数(2μオリジン)プラスミド上で構成性の強いTPIプロモーターのコントロール下にサブクローニングした。
【0048】
TPI−ppMF’フラグメントを、プラスミドpSCTPIMF3からoligo SpeI−TPI−S(図4のオリゴ番号1;
【表3】
)およびアンチセンスoligo ppMF−middle−AS(図4Aのオリゴ番号2;
【表4】
)によりPCR増幅した。これにより500bpの長さを有するTPI−ppMF’PCRを得た。ppMF−mIL10PCRフラグメントを、先に構築したプラスミドpPIC92mIL10からoligo ppMF−start−S(図4Aのオリゴ番号3;
【表5】
)およびoligo mIL10−EcoRI−middle−AS(図4Aのオリゴ番号4;
【表6】
)により増幅した。得られたPCRフラグメントppMF−mIL10は525bpの長さを有していた。
【0049】
TPI−ppMF’およびppMF−mIL10フラグメントを、2つの先のPCR反応からの外側オリゴ:oligo SpeI−TPI−S(図4Bのオリゴ番号1;
【表7】
)およびoligo mIL10−EcoRI−middle−AS(図4Bのオリゴ番号4;
【表8】
)によるオーバーレイPCR(overlay PCR)におけるテンプレートとして使用した。組立てたSpeI−TPI−ppMF−mIL10−EcoRI PCRフラグメント(図4B)は、989bpの長さを有しており、これをアガロースゲルで精製しそして制限酵素SpeIおよびEcoRIにより消化した。
【0050】
先に構築したベクターpYES2−mIL10をSpeIおよびEcoRIにより消化した。5466bpのDNAフラグメントを単離しそしてSpeI−TPI−ppMF−mIL10−EcoRI PCRフラグメントとライゲーションした。これにより、pYES2T−mIL10と名づけられたプラスミドを得た(図5)。熱コンピテントMC1061E.coli細胞をpYES2T−mIL10ライゲーション混合物でトランスフォーメーションした。
【0051】
動物
11週齢の雌のBALB/cマウスをCharles River Laboratories(Sulzfeld, Germany)から得た。それらをSPF条件下に収容した。すべてのマウスに、標準実験室食餌を与えそして随意に水道水を与えた。動物の研究は、Ethics Committee of the Department for Molecular Biomedical Research, Ghent Universityにより承認された(File No. 04/02)。
【0052】
DSSによる慢性大腸炎の誘発
約21gの重量のあるマウスに、通常の飲料水による10日の回復期間と交互する、飲料水中の5%(w/v)DSS(40kDa,Applichem, Darmstadt, Germany)の4サイクルの投与により慢性大腸炎を誘発した(Okayasu et al., 1990; Kojouharoff et al., 1997)。処置は、4サイクル目のDSSの21日後に任意に開始した。異なる群を14日間処置した。最後の処置の14日後に、マウスを殺傷しそして分析した。
【0053】
統計的解析
すべてのデータを平均±SEMとして表した。データを、一元配置分散分析(ANOVA)、続いてフィッシャーの最小有意差(LSD)多重比較事後検定により統計的に解析した。
【0054】
Lactococcusコントロール
IL−10を分泌するLactococcusによる処置を、Steidler et al. (2000)により記載のとおりに行った。
【0055】
実施例1:mIL10を分泌するSaccharomyces株の構築
1μgのプラスミドpYES2T−mIL10(Qiagen midi plasmid kit, Hilden, Germanyにより調製された;E.coli株MC1061[pYES2T−mIL10から])を、エレクトロコンピテントSaccharomyces cerevisiae INV Sc1細胞にエレクトロポレーションした。トランスフォーメーションされた酵母細胞をウラシル欠損(選択)最少培地上にプレーティングした。PCRスクリーニングによって、pYES2T−mIL10プラスミドが存在するSaccharomyces cerevisiaeトランスフォーマントを同定した。これを、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]と名づけた。
【0056】
実施例2:Saccharomyces cerevisiaeによるmIL10の分泌
Saccharomyces株Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]およびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]の1つのコロニーをそれぞれ50mlの最少ウラシル欠損培地(SD+CSM−U)中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分間)によりペレット化しそしてYPD培地中で濃縮しないか(2×10E8CFU/ml)または2倍濃縮した。異なる時点(8、12、24および48時間)で、上清サンプルをmIL10定量および特徴付けのために採取した。48時間の成長期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHは7で安定であった。
【0057】
培養上清中に分泌されたマウスIL−10の量を評価するためにサンドイッチELISAをセットアップした。ポリクローナルウサギ抗マウスIL−10(5μg ml-1;Prepro Tech, London, England)を捕獲抗体として使用した。マウスIL−10に対するモノクローナルビオチン結合抗体(Pharmingen, San Diego, USA)を1/1000希釈で適用して捕獲されたIL−10を検出した。ビオチン化複合体を1/1000希釈のセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Pharmingen)と反応させそしてTMB基質(Pharmingen)との反応により可視化した。工程の間に、マイクロタイタープレートを水で2回そして0.05%TritonX-100(Sigma)を含有するPBSで1回洗浄した。非特異的結合を防止するために、プレートを0.1%カゼインを含有するPBS中でインキュベーションした。
【0058】
12時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は0.8±0.0μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は1.6±0.1μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。24時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は2.8±0.2μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は6.0±0.2μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。そして最後に、48時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は5.0±0.3μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は10.2±0.3μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。空のベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]は、いずれの所定の時点でもmIL10の産生を示さなかった(図6)。
【0059】
タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli, 1970)中に溶解した。タンパク質画分をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)(SDS−PAGE)により分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette, 1981)。
【0060】
マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いるイムノブロッティングにより検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。二次抗体は、アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)でありそしてこれを1/1000希釈で使用した。酵素活性をNBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。図7は、24時間の成長の後のウエスタンブロットによるSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1上清におけるmIL10の検出を示す。Saccharomyces細胞を24時間の成長のためにYPD中でそれぞれ1倍または2倍濃縮した。
【0061】
Saccharomycesにより分泌されたリコンビナントIL−10の生物学的活性をMC/9マウスマスト細胞系による増殖アッセイにおいて試験した。IL−10の生物学的力価を、増殖しているマスト細胞による[3H]チミジンの取り込みの刺激から決定した。既知の特異的活性の標準(BioSource International, Camarillo, CA)を、内部コントロールとして使用した。
【0062】
実施例3:非グリコシル化マウスIL10の産生
グリコシル化は分泌されたIL−10の活性に影響し得るので、本発明者らは、非グリコシル化マウスインターロイキン10を分泌するSaccharomyces cerevisiae株を生成しようとした。mIL10は2つの潜在的Saccharomyces cerevisiaeN−グリコシル化部位(N−X−S/Tコンセンサス配列、潜在的グリコシル化部位を太字で示す)を含有する。
【0063】
【表9】
【0064】
部位11−NCT−19は、溶媒に向けて配向されているループ内に位置している。この部位は、IL−10レセプターとの相互作用には関与しないようである。この認識部位は、ヒト(h)IL10においては保存されていない。hIL10では、アミノ酸配列は11−SCT−13である。11−NCT−13部位は、Saccharomyces cerevisiaeのための理想的なグリコシル化部位であると思われる。このグリコシル化部位は、11−NCT−13を、hIL10におけるように11−SCT−13にまたは11−QCT−13(Qは構造的にNに近似したアミノ酸である;突然変異を太字で示す)に突然変異させることによりmIL10から除去しうる。mIL10の両突然変異とも作製した。
【0065】
部位116−NKS−118は、mIL10の安定化および構造のために重要であると思われる。NおよびSは、付近の残基の骨格とのH結合形成に関与している。この部位のアミノ酸配列は、ヒトおよびIL10のすべての他の既知のホモログにおいて厳密に保存されている。プログラムGlyProtは、この部位を潜在的グリコシル化部位として認識しない。hIL10では、この部位は保存されておりそしてグリコシル化されていない(Vieira et al., 1991)。このことは、116−NKS−118部位はマウスIL10においてもグリコシル化されていないことを示唆する。それにもかかわらず、116−NKS−118部位の116−QKS−118への突然変異を、可能性のある効果を試験するために作製した。
【0066】
全部で、4つの異なる突然変異(非グリコシル化)形態のmIL10を分泌する4つの異なるSaccharomyces cerevisiae構築物を作製した。2つの構築物は、第1のグリコシル化部位において突然変異されており、それはそれぞれSおよびQに突然変異されている。更に、本発明者らは第1のグリコシル化部位がそれぞれSおよびQに突然変異されそして第2のグリコシル化部位がQに突然変異されている2つの構築物も作製した。
【0067】
mIL10ng1S突然変異体においては、第1の潜在的グリコシル化部位のみが突然変異されている。11−NCT−13配列は11−SCT−13に突然変異されている。
【0068】
mIL10ng1Q突然変異体においては、第1の潜在的グリコシル化部位のみが突然変異されている。11−NCT−13配列は11−QCT−13に突然変異されている。
【0069】
mIL10ng1S2Q突然変異体においては、第1の(11−NCT−13)および第2の(116−NKS−118)潜在的グリコシル化部位の両方が突然変異されている。第1の潜在的グリコシル化部位11−NCT−13は11−SCT−13に突然変異されている。第2の潜在的グリコシル化部位116−NKS−118は116−QKS−118に突然変異される。
【0070】
mIL10ng1Q2Q突然変異体においては、第1の(11−NCT−13)および第2の(116−QKS−118)潜在的グリコシル化部位が突然変異されている。第1の潜在的グリコシル化部位11−NCT−13は11−QCT−13に突然変異されている。第2の潜在的グリコシル化部位116−NKS−118は116−QKS−118に突然変異されている。mIL10ng1S、mIL10ng1Q mIL10ng1S2QおよびmIL10ng1Q2Q mIL突然変異体をpYES2T−ppMFにサブクローニングして、それぞれプラスミドpYES2T−mIL10ng1S、pYES2Tng1Q、pYES2T−mIL10ng1S2QおよびpYES2T−mIL101Q2Qを生成する。これらのプラスミドを、Saccharomyces cerevisiae株INV S.c.1中に導入した。
【0071】
すべてのトランスフォーマントおよびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]の1つのコロニーをそれぞれ50mlの最少ウラシル欠損培地(SD+CSM−U)中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分)によりペレット化しそしてYPD培地中に再懸濁した。24時間目に、上清サンプルをmIL10定量および特徴付けのために採取した。48時間の成長の期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHはpH7で安定であった。
【0072】
タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli 1970)中に溶解した。タンパク質画分をSDS−PAGEにより分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette 1981)。
【0073】
マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いて検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。二次抗体は、アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)でありそしてこれを1/1000希釈で使用した。酵素活性をNBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。図8は、YPD中で24時間の成長の後のウエスタンブロットによる異なるSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1株の上清におけるmIL10の検出を示す。11−NCT−13Saccharomyces mIL10グリコシル化部位を11−SCT−13に変える(hIL10におけるように)ことにより、本発明者らは、SaccharomycesによるmIL10の過剰グリコシル化を排除することができた。第1の潜在的グリコシル化部位の除去(11−SCT−13)は、mIL10グリコシル化を回避するのに十分であった。第2の116−NKS−118グリコシル化部位の116−QKS−118への除去は利益を与えなかった。動物研究実験では、天然のmIL10形態および第1の潜在的グリコシル化部位を11−SCT−13にヒト化したmIL10ng1Sを使用した。
【0074】
実施例4:プラスミドで駆動される方法でmIL10ng1Sを分泌する生存S.cerevisiaeによる慢性DSS大腸炎の処置
慢性大腸炎の処置のためのmIL10分泌Saccharomyces cerevisiae株の治療有効性を、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウスモデルにおいて評価した。マウスに、記載されたとおりにDSSにより慢性大腸炎を誘発した(Okayasu et al., 1990; Kohouharoff et al., 1997)。非グリコシル化形態のmIL10を分泌するSaccharomyces cerevisiae INV Sc1トランスフォーマント2×108CFUによる14日間の毎日の処置(n=10;S.c.mIL10ng1S)は、モック(n=10)およびSaccharomyces cerevisiaeベクターコントロール(n=10)処置した群と比較して有意に低い遠位結腸の組織学的スコアをもたらした(図9)。確立された慢性DSS大腸炎に対するS.c.mIL10ng1S処置の有効性は、mIL10を分泌するL.lactis 2×109CFUによる14日間の毎日の処置で観察された有効性に匹敵した(n=10;LL−mIL10;図9)。Saccharomyces cerevisiaeにより分泌された非グリコシル化形態のmIL10(mIL10ng1S)は、治療有効性に関してグリコシル化形態よりも良好な成績であった(図9)。
【0075】
実施例5:遺伝子改変(GM)生物学的封じ込めmIL10ng1S分泌Saccharomyces cerevisiae株の構築
Saccharomyces cerevisiaeによる治療タンパク質の安定な分泌を達成するために、タンパク質発現カセットがゲノムに組み込まれることが重要である。非選択環境下では、Saccharomyces cerevisiaeは、有害性の原因となり必須でない治療遺伝子発現プラスミドを急速に失い、そしてリコンビナント遺伝子のDNAが自然へと広がり、これはきわめて望ましくない。生物学的に封じ込められ、従って環境において生存できないGM Saccharomyces cerevisiae株を作製することも重要である。従って、栄養要求株である不稔(ste)一倍体研究室株(Botstein et al., 1979)を使用した。栄養要求性酵母株は富栄養培地中でのみ生存することができる。最少培地または環境中で、これらの酵母株は、成長停止を経て、その後それらは死滅する。不稔(ste)でもある一倍体栄養要求性酵母株は、治療遺伝子のDNAを他の酵母株に伝達することができない。本発明者らは、一倍体不稔Saccharomyces cerevisiae Meyen ex E.C. Hansen VC5株(MATα, ste)(Mackay et al., 1974a; Mackay et al., 1974b)を使用してmIL10を分泌させた。必須のURA3遺伝子およびプロモーターを、強い構成性のTPIプロモーターにより先行されたmIL10ng1S遺伝子と相同組換えによって交換する(図10)。
【0076】
URA3プロモーターを含む完全オロチジン−5’ホスフェート(OMP)デカルボキシラーゼ(URA3)遺伝子(図11)を、構成性の強いTPIプロモーターおよびそれに続くppMF−mIL10ng1S DNAフラグメントにより置換した。ppMF−mIL10ng1S DNAフラグメントにおいて、第1のグリコシル化部位をヒト化し(これによりSaccharomyces cerevisiaeによる過剰グリコシル化の問題を回避する)、そしてppMF分泌シグナルにインフレームで融合する。
【0077】
PURA3−URA3のPTPI−ppMF−mIL10ng1Sによる置換により、本発明者らは、ura3栄養要求株を作製した。ウラシルの非存在下では、この株は、成長停止を経て、死滅する。Saccharomyces cerevisiaeゲノムは完全に配列決定されておりそして公開されている(Dietrich et al., 1997)。URA3領域のDNA配列に基づいて、それぞれ50ヌクレオチド(nt)のPURA3−URA3の5’および3’フランキング領域をPCR産物の5’および3’末端に付加したPTPI−ppMF−hIL10発現カセットの増幅を可能とする(10B)オリゴを開発した(図10Aにおけるオリゴ1=5’URA3P−TPI−S、
【表10】
およびオリゴ2=mIL10−3’URA3−AS、
【表11】
)。このPCRフラグメントを、LiOAc/PEGでコンピテントにしたSaccharomyces cerevisiae VC5細胞に導入した(Schiestl et al., 1989; Gietz et al., 2001)。PCRフラグメントのPURA3−URA3領域との50ntの相同性領域は、PURA3−URA3フラグメントのPTPI−ppMF−hIL10発現カセットとの相同組換えおよび置換を可能とする。5−フルオロオロト酸(5−FO)を含有する最少培地上に酵母をプレーティングすることにより、PURA3−URA3がPTPI−ppMF−mIL10ng1Sにより置換されている酵母のみが、生き残ることができる(URA3は5−FOを毒性の5−フルオロウラシルに変換する)。コロニーを更にPTPI−ppMF−mIL10ng1Sの存在(オリゴ5〜6およびオリゴ7〜8;図10C)およびPURA3−URA3の非存在(オリゴ3〜4、図10B)に関してPCRスクリーニングにより調べる(オリゴ3=URA3−S、
【表12】
オリゴ4=URA3−AS、
【表13】
オリゴ5=5’URA3 flanking−S、
【表14】
オリゴ6=mIL10AS、
【表15】
オリゴ7=mIL10−S、
【表16】
オリゴ8=3’URA3 flanking−AS、
【表17】
【0078】
ウラシルなしの最少培地における構築したSaccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3− mIL10+株の成長の非存在は、自動化濁度計(Bioscreen)を使用して確認した。成長は富栄養培地中では正常であった。
【0079】
Saccharomyces株Saccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3− mIL10ng1S+およびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3−の1つのコロニーをそれぞれ50mlのYPD中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分間)によりペレット化しそして新たなYPD培地中に再懸濁した。更なる24時間の後に、mIL10の定量および特徴付けのために上清サンプルを採取した。48時間の成長期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHは7で安定であった。タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli, 1970)中に溶解した。タンパク質画分をSDS−PAGEにより分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette,1981)。マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いて検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)を、1/1000希釈で、二次抗体として使用した。酵素活性を、NBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。
【0080】
図12は、Saccharomyces cerevisiae VC5 ura3 ste mIL10ng1Sクローン上清中のmIL10検出を示す。L.lactis MG1363[pT1mIL10]をポジティブコントロールとして使用した。図から、本発明者らは、構築したGM生物学的封じ込めSaccharomyces cerevisiae VC5 ura3 ste mIL10ng1Sクローンは、mIL10を上清中に効果的に分泌しそしてin vivoにおけるIL−10産生およびIBDの処置のために使用することができると結論することができる。
【0081】
【表18】
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】pPIC92MIL10のプラスミドマップ。
【図2】ベクターpYES2のプラスミドマップ。
【図3】pYES2−mIL10のプラスミドマップ。
【図4】オーバーレイPCRによるTPI−ppMF−mIL10フラグメントの構築。番号は使用したプライマーを示す(本文参照)。
【図5】pYES2T−mIL10のプラスミドマップ。
【図6】時間の関数で(0、8、12、24および48時間後)サンドイッチELISAにより決定したSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1[pYES2]およびSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1[pYES2T−mIL10]によるmIL10分泌。
【図7】mIL10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【図8】mIL10および非グリコシル化mIL−10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【図9】遠位結腸の組織学的スコアの統計的評価。すべてのデータを平均±SEMとして表す。データを、一元配置分散分析(ANOVA)、続いてフィッシャーの最小有意差(LSD)多重比較事後検定により統計的に解析した。*は、それぞれ、P<0.035およびP<0.012のモックおよびSaccharomyces cerevisiaeベクターコントロール処置群との比較における統計的有意差を表す。+は、それぞれ、P<0.085およびP<0.152のモックおよびLactococcus lactisベクターコントロール処置群との比較における統計的差を表す。
【図10】Saccharomyces cerevisiae VC5におけるPURA3−URA3のPTPI−ppMF−mIL10ng1Sによる遺伝子置換。番号(1〜8)は使用した異なるプライマーを示す。
【図11】Saccharomyces cerevisiaeの染色体Vの108504〜120299bp領域のゲノム構成(Dietrich et al., 1997);YELO23CおよびYELO20Cは未知の機能を有する遺伝子であり;GEA2はADPリボシル化因子(ARF)のグアニンヌクレオチド交換因子2をコードし;URA3はオロチジン−5’−ホスフェート(OMP)デカルボキシラーゼをコードし;TIM9はポリトピック内膜タンパク質の輸入および挿入を担うミトコンドリア膜間タンパク質をコードする。
【図12】mIL10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、抗炎症性化合物、好ましくは酸感受性抗炎症剤、例えばIL 10および/または可溶性TNFレセプターおよび/またはトレフォイル因子(trefoil factor)を経口経路を介して腸粘膜に送達するための投与ストラテジーに関する。本発明に従う好ましい特徴は、生存リコンビナント酵母細胞、好ましくはそれぞれのタンパク質を産生するように加工されたSaccharomyces細胞の懸濁液の接種である。例として、遠位結腸の慢性炎症がデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与することにより誘発されたマウスを使用した。組織学的評価によりスコア化された処置は、明らかに炎症および疾患症候の後退をもたらした。この知見は、まったく予想外である。何故ならば、腸粘膜と相互作用することができる生存乳酸菌のみがサイトカインを送達しそして大腸炎を治癒させるのに適当であると思われていたからである。
【0002】
哺乳動物における免疫系は、多様で複雑であり、そして自然および適応免疫機構および反応を含む。免疫系は、しばしば体液性免疫応答または細胞性免疫応答のいずれかに関して記載される。体液性免疫は、広くB細胞による抗体産生および作用を指し;細胞性免疫は、T細胞、樹状細胞、好中球、単球およびマクロファージを含む細胞により媒介される。T細胞およびB細胞は、リンパ球の2つのカテゴリーである。
【0003】
それによって免疫系が通常作用しそしてそれ自体を調節する機構の1つはいわゆるサイトカインの産生を含む。サイトカインはいくつかの正および負の免疫応答を媒介することが知られている。サイトカインは、ターゲット細胞上のレセプターに結合することにより通常作用する。サイトカインの活性は、いくつかの方法で、例えば、可溶性レセプター(レセプターの細胞外ドメイン)の投与またはサイトカインアナログもしくは誘導体により妨害されうる。
【0004】
IL−10は、いくつかの作用または効果を媒介することができるサイトカインである。IL−10は、異なるクラスまたはサブセットのTh細胞(Tヘルパー細胞)の免疫応答の制御に関与していることが知られている。
【0005】
炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸管の部分の慢性の非特異的炎症により特徴付けられる胃腸障害の群を指す。潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は、ヒトのIBDの最も顕著な例である。それらは、小児の発育遅延、直腸脱出症、糞便中の血液(例えばメレナおよび/または血便排泄)、衰弱、鉄欠乏症および貧血、例えば鉄欠乏貧血および慢性疾患もしくは慢性炎症の貧血を含む多くの症候および合併症と関連している。IBDの病因は明らかではない。これについては、Wyngaarden and Smith (eds.) Cecil's Textbook of Medicine (W.B. Saunders Co. 1985), Berkow (ed.) The Merck Manual of Diagnosis and Therapy (Merck Sharp & Dohme Research Laboratories, 1982)、およびHarrison's Principles of Internal Medicine, 12th Ed., McGraw-Hill, Inc. (1991)が参照される。
【0006】
IBDの発生率は、地理的位置と共に大きく変動する。ヨーロッパにわたる共同研究は、南部と比較して北の中央部で100000当たりUCは10.4そしてCDは5.6の発生率を示し、UCおよびCDについてそれぞれ40%、80%高い発生率である。UCおよびCDの両方とも長期間の病気であるので、それらは、クオリティーオブライフの真の妨害に該当する。クローン病は、20歳代および50歳代における発生率の著しいピークを示す発症の双峰性年齢分布を有する。より高い発生率およびより重篤な疾患プロファイルは、若い方の年齢におけるピークと関連している。このことはCDを特に痛烈にしている。何故ならば、罹患した青年および若年成人は、特にこの社会的集団と関連した、生活からの高い期待を実質的に奪われるからである。
【0007】
潰瘍性大腸炎は、主として結腸粘膜において発現を有する、慢性の、非特異的な、炎症性のそして潰瘍性の疾患を指す。それは、頻繁に、血性下痢、腹部痙攣、糞便中の血液および粘液、倦怠感、発熱、貧血、食欲不振、体重減少、白血球増加、低アルブミン血症および赤血球沈降速度(ESR)の上昇により特徴付けられる。
【0008】
合併症は、出血、中毒性大腸炎、中毒性巨大結腸、偶発性直腸膣瘻および、大腸癌発達の危険の増加を含み得る。
【0009】
潰瘍性大腸炎は、結腸から離れた合併症、例えば、関節炎、強直性脊椎炎、仙腸骨炎、後部ブドウ膜炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、および上強膜炎とも関連している。
【0010】
処置は、疾患の重篤さおよび期間と共に相当変動する。例えば、脱水および電解質不均衡を防止するための輸液治療は、重篤な発作において頻繁に指示される。更に、特別な食事療法が時々有用である。薬物療法は、種々のコルチコステロイド、スルファサラジンおよびその誘導体のいくつか、ならびにおそらく免疫抑制剤を含む。
【0011】
クローン病は、潰瘍性大腸炎と共通した多くの特徴を共有する。クローン病は、相当散在している潰瘍性大腸炎の病変とは対照的に、隣接した正常な腸から病変が鋭く境界を画される傾向があるという点で区別されうる。更に、クローン病は、回腸(回腸炎)ならびに回腸および結腸(回結腸炎)を主として苦しめる。ある場合には、結腸のみが罹病し(肉芽腫性大腸炎)そしてときには小腸全体が含まれる(空回腸炎)。まれな場合には、胃、十二指腸または食道が含まれる。病変は、臨床的症例のほぼ半分においてサルコイド型類上皮肉芽腫を含む。クローン病の病変は経壁的であり得、深い潰瘍、浮腫および繊維症を含み、これらは閉塞およびフィステル形成ならびに膿瘍形成をもたらしうる。これは、通常はるかに浅い病変を生じる潰瘍性大腸炎と対照をなすが、繊維症、閉塞、フィステル形成および膿瘍の合併症は潰瘍性大腸炎においても時折見られる。
【0012】
処置は、両疾患について類似しておりそしてステロイド、スルファサラジンおよびその誘導体、ならびに免疫抑制性剤、例えばシクロスポリンA、メルカプトプリンおよびアザチオプリンを含む。更に最近開発された処置は、いくらかはまだ臨床試験中であるが、TNF抗体などのTNFブロッキング化合物の全身性投与(注射による)を包含する。
【0013】
IBDは、病因学的処置の不存在の故に公衆衛生における真正の問題を表す。多くの患者が慣用の医学治療、例えば抗炎症性コルチコステロイド処置で首尾よく扱われるが、大部分は疾患の再発活性を有しそして2/3は手術を必要とする。
【0014】
炎症性腸疾患の原因は不明である。CDおよびUCの病原は、おそらく遺伝子的因子と環境的因子(例えば細菌性因子)との間の相互作用を含むが、これまでに明確な病因学的因子は同定されていない。主たる理論は、異常な免疫応答(おそらく腸内菌叢により駆動される)がIBDにおいて起こるというものである。しかしながら、十分に確立されていることは、T細胞が病原において重要な役割を演じるということである。活性化されたT細胞は、抗炎症性サイトカインおよび炎症誘発性サイトカインの両方を産生することができる。この知見を有して、IBDに、合理的な方式で対抗しうる。中和モノクローナル抗体または抗炎症性サイトカインを利用する新規な抗炎症治療は、IBDの原因となる免疫調節異常をモデュレーションする可能性を示す。高度に顕著かつ有効な新たな治療は、上記した抗TNFモノクローナル抗体による全身性処置である。cA2インフリキシマブ抗体の、5〜20mg.kg−1の範囲の単回静脈内用量は、活動性クローン病において高い臨床的改善をもたらした。0.5〜25μg.kg−1の範囲の用量を使用して7日間毎日の処置方式において全身性投与されたリコンビナントIL−10の使用は、クローン病活動性スコアの減少および寛解の増加を示した。いくつかの非常に有望な治療(炎症誘発性サイトカインのからめ込み(tangling)またはT細胞浸潤物の確立)が、実験モデルから現在出現している。しかしながら、すべてのこれらのストラテジーは全身性投与を必要とする。IBDの重篤な合併症は、ひどく衰弱させそして最終的に死に至らせることがありうる。
【0015】
IBDを処置するためのいくつかの方法は、当該技術分野で知られている。Schering Corp.に譲渡されたUS Patent 5,368,854において、哺乳動物の炎症性腸疾患を処置するためにIL−10を使用する方法が開示されている。この方法では、IBD(炎症性腸疾患)を有する哺乳動物にサイトカインが投与される。この参考文献に記載されたIL−10の投与は、非経口(例えば血管内、好ましくは静脈内)である。
【0016】
しかし、IBDに罹患している(ヒト)患者のためのこのような投与経路に欠点がないわけではないことは明らかである。はるかに容易かつ簡便な方法は、IL−10などのサイトカインまたは同様な治療活性を有するサイトカインアンタゴニストを含む医薬の経口投与である。更に重要なことに、治療剤の局所放出は、より高い有効性、およびより少ない、全身性活性に起因する望まれない副作用を可能とする。
【0017】
Cambridge University Technical Services Ltd.に譲渡されたWO 97/14806において、非侵襲性バクテリア、例えば、Lactococcusを使用することにより生物学的に活性なポリペプチドおよび/または抗原を、身体、特に粘膜における該ポリペプチドの鼻腔内投与により送達するための方法が開示されている。WO 00/23471は大腸炎がサイトカイン産生Lactococcus株によりいかに処置されうるかを詳細に教示している。
【0018】
IBDに罹患している患者の回復を達成するために、損傷された細胞および該損傷された細胞を含む器官、例えば結腸を修復することが必要である。いくつかの研究は、抗炎症性化合物産生Lactococcusの治癒効果が、生存乳酸菌と抗炎症性化合物との組み合わせによるものであり、抗炎症性化合物単独によるものではないことを示している。実際、IL 10についてSteidler et al. (2000)およびトレフォイル因子の場合のVandenbroucke et al. (2004)の両方が、IL 10産生Lactococcusが処置前にUV照射により死滅させられている場合には効果が得られなかったが、これらの場合に活性化合物は溶解しているバクテリアにより腸で放出されていたはずであることを明らかに示している。
【0019】
IL−10産生Lactococcus lactisによる大腸炎の処置は、成功であることが証明された。しかしながら、主要な欠点は、Lactococcusの急速に減少する生存率であり、そして腸における乏しい生存であり、これは正確な投薬および処置のタイミングを困難にする。腸におけるタンパク質またはペプチドの送達のための代替として、Blanquet et al. (2004, WO 01/98461)は、リコンビナントSaccharomyces cerevisiaeを使用して、腸においてタンパク質またはペプチドを送達する可能性を記載している。このシステムはある場合には有用であるかもしれないが、この送達の方法は腸粘膜との相互作用が必要である疾患については成功しないかも知れないということが一般に認められている。実際に、著者らは送達を試験するために人工腸システムを使用したので、彼等は、「このシステムは能動および促進輸送などの腸壁の生理学的プロセスをシミュレーションすることはできない」ということを彼ら自身示している。活性分子のバイオアベイラビリティまたは活性に関するデータは入手できない(Blanquet et al. 2004)。特にIL−10の場合に、遺伝子分泌細胞型により産生された局所的サイトカイン微小環境がきわめて重要であることは十分に実証されている(Croxford et al., 2001)。サイトカイン産生細胞の細胞壁組成、細胞サイズおよび細胞が粘膜と相互作用する能力を含むがそれらに限定されないいくつかの因子が、役割を演じ得る。更に、酵母代謝産物、酵母抗原および酵母は過敏性腸症候群の可能なトリガーであるという最近のデータがある(Santelmann and Howard, 2005)。従って、過度の実験なしに乳酸菌で得られた結果を酵母に外挿することはできず、そしてLactococcusの特殊な免疫モデュレーション特性に鑑みて、当業者は、大腸炎の処置のために、IL 10などの抗炎症剤をin situで腸に送達する酵母のポジティブな結果を予想しないであろう。
【0020】
驚くべきことに、IL 10などの抗炎症性化合物を産生するリコンビナント酵母が、IBDまたは粘膜炎などの粘膜炎症の処置のために使用されうるということを本発明者らは見出した。本発明者らの発明は、粘膜炎症を処置するための医薬の調製のために抗炎症性化合物を産生するリコンビナント酵母を使用することである。
【0021】
酵母ホスト株により産生されるべき前記抗炎症性化合物は、当業者に知られている任意の抗炎症性化合物であることができる。あるいは、酵母は、非限定的な例として、不活性な基質を抗炎症性化合物に変換することができるキナーゼ、ホスフォターゼ、プロテアーゼまたはアセチル化酵素などの修飾酵素を産生してもよい。非限定的な例として、前記抗炎症性化合物は、サイトカイン、例えばIL−10、サイトカインアンタゴニスト(例えば、TNFアンタゴニスト、IL−12アンタゴニスト、インターフェロンγアンタゴニスト、またはIL−1アンタゴニスト)、抗炎症性ポリペプチド(例えば、トレフォイル、ABINまたはINCAタンパク質)、またはウイルスにコードされたサイトカインアナログ、例えばEBV BCRF1であることができる。サイトカインアンタゴニストは、当業者に知られておりそして可溶性レセプターおよび抗サイトカイン抗体を含むがそれらに限定されない。好ましくは、抗炎症性化合物はIL−10である。
【0022】
抗炎症性化合物がグリコシル化部位を含む場合には、好ましくは1つ以上のこれらの部位を、グリコシル化を回避または制限するように、好ましくは酵母における過剰グリコシル化を回避または制限するように、突然変異させる。好ましい態様は、非グリコシル化IL−10、好ましくは1つ以上の可能性のあるグリコシル化部位が突然変異されている非グリコシル化IL−10を産生するリコンビナント酵母である。
【0023】
好ましくは、抗炎症性化合物をコードする遺伝子(1つまたは複数)は、プラスミド上に位置した異種遺伝子である。適当なプラスミドは、当業者に知られておりそしてエピソームプラスミド、人工染色体または組み込みプラスミドを含むが、それらに限定されない。
【0024】
リコンビナント酵母は、哺乳動物腸内で生存することができる任意の酵母であることができる。好ましくは、該酵母は、既知のプロバイオティク能力を有し、例えば、ケフィール、コンブチャ(kombucha)または乳製品からなる群より選ばれる酵母株である。なお更に好ましくは、該リコンビナント酵母は、Saccharomyces sp.、Hansenula sp.、Kluyveromyces sp.、Schizzosaccharomyces sp.、Zygosaccharomyces sp.、Pichia sp.、Monascus sp.、Geotrichum sp.およびYarrowia sp.からなる群より選ばれる。なお更に好ましくは該酵母はSaccharomyces cerevisiaeであり、最も好ましくはSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiである。好ましくは、リコンビナント酵母ホスト−ベクター系は、生物学的に封じ込められた系である。生物学的封じ込めは当業者に知られておりそして栄養要求突然変異、好ましくはThyA突然変異などの自殺栄養要求突然変異、またはその同等物の導入により実現されうる。あるいは、生物学的封じ込めは、抗炎症性化合物をコードする遺伝子を有するプラスミドのレベルで実現されうる。これは、非限定的な例として、少数の世代の後に失われる不安定なエピソーム構築物を使用することにより実現されうる。いくつかのレベルの封じ込め、例えば、プラスミド不安定性および栄養要求性を組み合わせて高レベルの封じ込めを確実にすることができる。
【0025】
好ましくは、粘膜炎症はIBDである。炎症性腸疾患、例えば、慢性大腸炎、クローン病または潰瘍性大腸炎は、本発明に従って、適切な投薬量の活性抗炎症性化合物、好ましくはIL−10、更に好ましくは非グリコシル化IL−10により処置されることができ、そして予想外なことに、罹病した結腸の見かけ上正常で健康な状態への回復を与える。
【0026】
あるいは、リコンビナント酵母による抗炎症性化合物、例えばIL−10の投与は、粘膜炎などの他の粘膜炎症を処置するのに使用することができる。IL−10は、単独でまたは少なくとも1つの追加の治療剤と組み合わせて投与することができる。このような作用物質の例は、コルチコステロイド、スルファサラジン、スルファサラジンの誘導体、免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA、メルカプトプリン、アザチオプリンおよび他のサイトカインを含む。共投与は、逐次的であるかまたは同時的であることができる。共投与は、一般に、特定された時間間隔の間に、複数の(2つ以上の)治療剤がレシピエント中に存在することを意味する。典型的には、第2の作用物質が第1の作用物質の半減期以内に投与されるならば、この2つの作用物質は共投与されていると考えられる。本明細書に記載する他方の治療剤は、他の化合物、好ましくは相補的作用を有する化合物、例えば非限定的な例としてトレフォイル因子を送達するLactococcusまたは酵母株などの他の微生物送達系であることができる。
【0027】
従って、本明細書に開示された本発明は、リコンビナント酵母によるin situ合成を介したIL−10の局在化送達に関する。その結果として、炎症は、DSSで誘発された慢性大腸炎において少なくとも30%減少し、そしてIL−10−/−129Sv/Evマウスにおける大腸炎の発症を防止する。それ故、この方法は、抗炎症性タンパク質の全身性投与に頼る強力で、十分に確立されそして受け入れられた治療と比較して、同等に効率的である。
【0028】
本明細書で使用される酵母ベクターは、食品、好ましくはプロバイオティク特性を有する食品から、または既知のプロバイオティクスから選択され、そして免疫適格性個体に対して全体的に無害である。特にSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiの場合に、臨床実験が利用可能であり、そして腸における通過時間が研究されている。本明細書において非常に重要であることが示された、正確な投薬量および処置期間中のタイミングは、かくして容易に得ることができる。
【0029】
ベクターの生存率のための重要な要件は、本発明に示されている。これは、IL−10のin situ合成の必要を示す。ベクターは実際に、結腸におけるIL−10のde novo合成を示すことによりこれを達成することができる。酵母は、本発明に従えば、この点でWO 00/23471に記載のLactococcus lactisにまさる明白な利点を有する。何故ならば、それは処置期間中のその生存率をより安らかに保ちそしてそれはLactococcusよりも腸においてより良好に生存しているからである。
【0030】
この方法は、潜在的副作用に関して、全身性送達を通じて望ましい濃度よりもまたは達成可能な濃度さえよりも高い濃度での治療におけるIL−10の持続しかつ局在化した存在についての疑問に答えることができる。
【0031】
定義
本明細書で使用するいくつかの用語を、分かり易くするために以下に説明する。一般に、用語「症候」は、疾患のもしくは患者の状態の任意の主観的証拠を指す。これは、患者により認知される証拠を含む。IBDの症候の例は、下痢、腹痛、熱、メレナ、血便排泄および体重減少を含む。
【0032】
用語「徴候」は、一般に、通常診察する医師により認知される疾患または状態の任意の客観的証拠、あるいは検査室評価または他の試験、例えば超音波検査もしくはX線写真試験で正体を現す特徴を指す。IBDの徴候のいくつかの例は、腹部腫瘤、舌炎、アフタ性潰瘍、肛門裂傷、肛門周囲フィステル、貧血、吸収不良および鉄欠乏症を含む。ときには、徴候と症候は重複する。例えば、患者が血便を訴え(症候)、そして糞便サンプルの検査室試験が血液について陽性となる(徴候)。
【0033】
用語「適切な投薬量」または「有効量」は、自己免疫状態の、または望ましくないもしくは不適切な炎症性応答もしくは免疫応答の症候もしくは徴候を軽減するのに十分な量または投薬量を意味する。特定の患者のための有効量は、処置される状態、患者の全体的健康、投与の方法、経路および用量、および副作用の重篤さなどの因子に依存して変動し得る。
【0034】
「サイトカイン」は、細胞表面レセプターに結合することにより通常局所的に作用しそして特定の遺伝子の発現を活性化する、ある範囲の細胞型により一過性で産生されるポリペプチド因子を意味する。
【0035】
「アンタゴニスト」は、レセプターに結合するがレセプターを活性化しない、従ってアゴニストの作用を競合的に阻害する化合物を意味する。
【0036】
「アゴニスト」は、レセプターに結合しそしてレセプターを活性化する化合物(例えば、ホルモンおよび神経伝達物質のような内在性リガンド、化学的に合成された化合物、アルカロイドのような天然産物)である。
【0037】
「化合物」は、単純または複雑有機および無機分子、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、抗体、炭水化物、核酸またはその誘導体を含む任意の生物学的または化学的化合物を意味する。
【0038】
本明細書で使用される用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、相互に交換可能である。「ポリペプチド」は、アミノ酸のポリマーを指しそして分子の特定の長さを意味しない。この用語は、ポリペプチドの翻訳後修飾、例えばグリコシル化、リン酸化およびアセチル化も含む。
【0039】
実施例
実施例における材料および方法
株および培養培地
Saccharomyces cerevisiae INV Sc1(mating-α、his3Δ1、leu2-3、-112trp1-289およびura3-52)はInvitrogen(商標)から得た。
【0040】
Saccharomyces cerevisiae亜種boulardiiは、市販のプロバイオティク調製物から単離した。
【0041】
最少培地は、0.67%Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids(Difco, Detroit, MI)、2%デキストロース(Merck, Darmastadt, Germany)および0.077%CSM−URA(Bio 101 Systems, Morgan Irvine, CA)からなるSD+CSM−Uであった。
【0042】
YPD培地は、1%酵母エキス、Difco;2%デキストロース、Merck;2%ペプトン、Difcoからなる。
【0043】
リコンビナントDNA技術
DNAのPCR増幅は、VENTポリメラーゼによりそして製造者により推奨された条件を使用して行った。DNA修飾酵素および制限エンドヌクレアーゼを標準条件下で、製造者により推奨されたバッファー中で使用した。一般的な分子クローニング技術ならびにDNAおよびタンパク質の電気泳動を本質的に記載されたとおりに行った(Sambrook et al., 1990)。S. cerevisiaeをエレクトロポレーションによりトランスフォーメーションしそしてトランスフォーマントを指示された適当な選択培地上で選択した。
【0044】
発現プラスミドの構築
プラスミドpPIC92におけるmIL10のサブクローニング
成熟mIL10のDNAコード配列を、プラスミドpT1mIL10(Schotte et al., 2000)からoligo mIL10 S
【表1】
およびoligo mIL10 AS
【表2】
によりPCR増幅した(Vent(登録商標)ポリメラーゼ、NEB, Ipswich, MA)。これにより474bpのDNAフラグメントを得た。このmIL10 PCRフラグメントを、制限酵素NaeI(NEB)で線状化したプラスミドpPIC92上に存在するSaccharomyces cerevisiaeのプレプロα接合因子(ppMF)分泌シグナルの後にインフレームでライゲーションした。得られた構築物をpPIC92mIL10と名づけた(図1)。プラスミドpPIC92は、プラスミドpPIC9K(Invitrogen(商標), Carlsbad, CA)に由来する。Escherichia coli MC1061熱コンピテント細胞を、pPIC92mIL10ライゲーション混合物でトランスフォーメーションした。
【0045】
ppMF−mIL10のプラスミドpYES2へのサブクローニング
pYES2(図2;Invitrogen)は、Saccharomyces cerevisiaeにおけるリコンビナントタンパク質の誘導性発現のためにデザインされた5.9kbのベクターである。このベクターの特徴は、関心のある遺伝子の容易なクローニングおよびウラシル原栄養性によるトランスフォーマントの選択を可能とする(それはURA3マーカーを含有する)。pYES2ベクターは、Saccharomyces cerevisiaeにおけるリコンビナントタンパク質の高レベル発現用にデザインされている。それは、ガラクトース誘導性発現を可能とするGAL1プロモーターを含有する。このベクターは、2μ複製起点を有しそしてエピソームで高コピーに(細胞あたり10〜40コピー)維持される。このベクターは、E.coliにおける容易なクローニングおよび選択を可能とするE.coli pUCオリジンおよびアンピシリン耐性も含有する。
【0046】
ベクターpYES2を、BamHI(NEB)およびXbaI(NEB)の組み合わせ消化により消化した。5780bpのベクターDNAフラグメントを単離した。プラスミドpPIC92mIL10をBamHI(NEB)およびSpeI(NEB)の組み合わせ消化により消化した。751bpのDNAフラグメントを単離した。2つの選択したDNAバンド(5780および751bp)をライゲーションしそしてE.coli MC1061熱コンピテント細胞にトランスフォーメーションした。構築したプラスミドをpYES2−mIL10と名づけた(図3)。
【0047】
プラスミドpYES2T−mIL10の構築
先に構築したプラスミドpYES2−mIL10は、GAL1プロモーターのガラクトースによる誘導時にのみmIL10分泌があるという欠点を有していた。mIL10を分泌するSaccharomyces株のin vivo使用のために、それらがmIL10を構成的に分泌するということは非常に重要である。この目標を達成するために、本発明者らはGAL1プロモーターを構成性の非常に強いトリオースリン酸イソメラーゼ(TPIプロモーター)により置換した。ppMF−mIL10発現カセットを、Saccharomyces cerevisiae高コピー数(2μオリジン)プラスミド上で構成性の強いTPIプロモーターのコントロール下にサブクローニングした。
【0048】
TPI−ppMF’フラグメントを、プラスミドpSCTPIMF3からoligo SpeI−TPI−S(図4のオリゴ番号1;
【表3】
)およびアンチセンスoligo ppMF−middle−AS(図4Aのオリゴ番号2;
【表4】
)によりPCR増幅した。これにより500bpの長さを有するTPI−ppMF’PCRを得た。ppMF−mIL10PCRフラグメントを、先に構築したプラスミドpPIC92mIL10からoligo ppMF−start−S(図4Aのオリゴ番号3;
【表5】
)およびoligo mIL10−EcoRI−middle−AS(図4Aのオリゴ番号4;
【表6】
)により増幅した。得られたPCRフラグメントppMF−mIL10は525bpの長さを有していた。
【0049】
TPI−ppMF’およびppMF−mIL10フラグメントを、2つの先のPCR反応からの外側オリゴ:oligo SpeI−TPI−S(図4Bのオリゴ番号1;
【表7】
)およびoligo mIL10−EcoRI−middle−AS(図4Bのオリゴ番号4;
【表8】
)によるオーバーレイPCR(overlay PCR)におけるテンプレートとして使用した。組立てたSpeI−TPI−ppMF−mIL10−EcoRI PCRフラグメント(図4B)は、989bpの長さを有しており、これをアガロースゲルで精製しそして制限酵素SpeIおよびEcoRIにより消化した。
【0050】
先に構築したベクターpYES2−mIL10をSpeIおよびEcoRIにより消化した。5466bpのDNAフラグメントを単離しそしてSpeI−TPI−ppMF−mIL10−EcoRI PCRフラグメントとライゲーションした。これにより、pYES2T−mIL10と名づけられたプラスミドを得た(図5)。熱コンピテントMC1061E.coli細胞をpYES2T−mIL10ライゲーション混合物でトランスフォーメーションした。
【0051】
動物
11週齢の雌のBALB/cマウスをCharles River Laboratories(Sulzfeld, Germany)から得た。それらをSPF条件下に収容した。すべてのマウスに、標準実験室食餌を与えそして随意に水道水を与えた。動物の研究は、Ethics Committee of the Department for Molecular Biomedical Research, Ghent Universityにより承認された(File No. 04/02)。
【0052】
DSSによる慢性大腸炎の誘発
約21gの重量のあるマウスに、通常の飲料水による10日の回復期間と交互する、飲料水中の5%(w/v)DSS(40kDa,Applichem, Darmstadt, Germany)の4サイクルの投与により慢性大腸炎を誘発した(Okayasu et al., 1990; Kojouharoff et al., 1997)。処置は、4サイクル目のDSSの21日後に任意に開始した。異なる群を14日間処置した。最後の処置の14日後に、マウスを殺傷しそして分析した。
【0053】
統計的解析
すべてのデータを平均±SEMとして表した。データを、一元配置分散分析(ANOVA)、続いてフィッシャーの最小有意差(LSD)多重比較事後検定により統計的に解析した。
【0054】
Lactococcusコントロール
IL−10を分泌するLactococcusによる処置を、Steidler et al. (2000)により記載のとおりに行った。
【0055】
実施例1:mIL10を分泌するSaccharomyces株の構築
1μgのプラスミドpYES2T−mIL10(Qiagen midi plasmid kit, Hilden, Germanyにより調製された;E.coli株MC1061[pYES2T−mIL10から])を、エレクトロコンピテントSaccharomyces cerevisiae INV Sc1細胞にエレクトロポレーションした。トランスフォーメーションされた酵母細胞をウラシル欠損(選択)最少培地上にプレーティングした。PCRスクリーニングによって、pYES2T−mIL10プラスミドが存在するSaccharomyces cerevisiaeトランスフォーマントを同定した。これを、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]と名づけた。
【0056】
実施例2:Saccharomyces cerevisiaeによるmIL10の分泌
Saccharomyces株Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]およびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]の1つのコロニーをそれぞれ50mlの最少ウラシル欠損培地(SD+CSM−U)中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分間)によりペレット化しそしてYPD培地中で濃縮しないか(2×10E8CFU/ml)または2倍濃縮した。異なる時点(8、12、24および48時間)で、上清サンプルをmIL10定量および特徴付けのために採取した。48時間の成長期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHは7で安定であった。
【0057】
培養上清中に分泌されたマウスIL−10の量を評価するためにサンドイッチELISAをセットアップした。ポリクローナルウサギ抗マウスIL−10(5μg ml-1;Prepro Tech, London, England)を捕獲抗体として使用した。マウスIL−10に対するモノクローナルビオチン結合抗体(Pharmingen, San Diego, USA)を1/1000希釈で適用して捕獲されたIL−10を検出した。ビオチン化複合体を1/1000希釈のセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Pharmingen)と反応させそしてTMB基質(Pharmingen)との反応により可視化した。工程の間に、マイクロタイタープレートを水で2回そして0.05%TritonX-100(Sigma)を含有するPBSで1回洗浄した。非特異的結合を防止するために、プレートを0.1%カゼインを含有するPBS中でインキュベーションした。
【0058】
12時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は0.8±0.0μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は1.6±0.1μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。24時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は2.8±0.2μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は6.0±0.2μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。そして最後に、48時間の成長の後に、Saccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2T−mIL10]株は、細胞を1倍濃縮した場合は5.0±0.3μg/mlのmIL10を分泌しそして細胞を2倍濃縮した場合は10.2±0.3μg/mlのmIL10を分泌した(図6)。空のベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]は、いずれの所定の時点でもmIL10の産生を示さなかった(図6)。
【0059】
タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli, 1970)中に溶解した。タンパク質画分をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)(SDS−PAGE)により分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette, 1981)。
【0060】
マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いるイムノブロッティングにより検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。二次抗体は、アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)でありそしてこれを1/1000希釈で使用した。酵素活性をNBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。図7は、24時間の成長の後のウエスタンブロットによるSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1上清におけるmIL10の検出を示す。Saccharomyces細胞を24時間の成長のためにYPD中でそれぞれ1倍または2倍濃縮した。
【0061】
Saccharomycesにより分泌されたリコンビナントIL−10の生物学的活性をMC/9マウスマスト細胞系による増殖アッセイにおいて試験した。IL−10の生物学的力価を、増殖しているマスト細胞による[3H]チミジンの取り込みの刺激から決定した。既知の特異的活性の標準(BioSource International, Camarillo, CA)を、内部コントロールとして使用した。
【0062】
実施例3:非グリコシル化マウスIL10の産生
グリコシル化は分泌されたIL−10の活性に影響し得るので、本発明者らは、非グリコシル化マウスインターロイキン10を分泌するSaccharomyces cerevisiae株を生成しようとした。mIL10は2つの潜在的Saccharomyces cerevisiaeN−グリコシル化部位(N−X−S/Tコンセンサス配列、潜在的グリコシル化部位を太字で示す)を含有する。
【0063】
【表9】
【0064】
部位11−NCT−19は、溶媒に向けて配向されているループ内に位置している。この部位は、IL−10レセプターとの相互作用には関与しないようである。この認識部位は、ヒト(h)IL10においては保存されていない。hIL10では、アミノ酸配列は11−SCT−13である。11−NCT−13部位は、Saccharomyces cerevisiaeのための理想的なグリコシル化部位であると思われる。このグリコシル化部位は、11−NCT−13を、hIL10におけるように11−SCT−13にまたは11−QCT−13(Qは構造的にNに近似したアミノ酸である;突然変異を太字で示す)に突然変異させることによりmIL10から除去しうる。mIL10の両突然変異とも作製した。
【0065】
部位116−NKS−118は、mIL10の安定化および構造のために重要であると思われる。NおよびSは、付近の残基の骨格とのH結合形成に関与している。この部位のアミノ酸配列は、ヒトおよびIL10のすべての他の既知のホモログにおいて厳密に保存されている。プログラムGlyProtは、この部位を潜在的グリコシル化部位として認識しない。hIL10では、この部位は保存されておりそしてグリコシル化されていない(Vieira et al., 1991)。このことは、116−NKS−118部位はマウスIL10においてもグリコシル化されていないことを示唆する。それにもかかわらず、116−NKS−118部位の116−QKS−118への突然変異を、可能性のある効果を試験するために作製した。
【0066】
全部で、4つの異なる突然変異(非グリコシル化)形態のmIL10を分泌する4つの異なるSaccharomyces cerevisiae構築物を作製した。2つの構築物は、第1のグリコシル化部位において突然変異されており、それはそれぞれSおよびQに突然変異されている。更に、本発明者らは第1のグリコシル化部位がそれぞれSおよびQに突然変異されそして第2のグリコシル化部位がQに突然変異されている2つの構築物も作製した。
【0067】
mIL10ng1S突然変異体においては、第1の潜在的グリコシル化部位のみが突然変異されている。11−NCT−13配列は11−SCT−13に突然変異されている。
【0068】
mIL10ng1Q突然変異体においては、第1の潜在的グリコシル化部位のみが突然変異されている。11−NCT−13配列は11−QCT−13に突然変異されている。
【0069】
mIL10ng1S2Q突然変異体においては、第1の(11−NCT−13)および第2の(116−NKS−118)潜在的グリコシル化部位の両方が突然変異されている。第1の潜在的グリコシル化部位11−NCT−13は11−SCT−13に突然変異されている。第2の潜在的グリコシル化部位116−NKS−118は116−QKS−118に突然変異される。
【0070】
mIL10ng1Q2Q突然変異体においては、第1の(11−NCT−13)および第2の(116−QKS−118)潜在的グリコシル化部位が突然変異されている。第1の潜在的グリコシル化部位11−NCT−13は11−QCT−13に突然変異されている。第2の潜在的グリコシル化部位116−NKS−118は116−QKS−118に突然変異されている。mIL10ng1S、mIL10ng1Q mIL10ng1S2QおよびmIL10ng1Q2Q mIL突然変異体をpYES2T−ppMFにサブクローニングして、それぞれプラスミドpYES2T−mIL10ng1S、pYES2Tng1Q、pYES2T−mIL10ng1S2QおよびpYES2T−mIL101Q2Qを生成する。これらのプラスミドを、Saccharomyces cerevisiae株INV S.c.1中に導入した。
【0071】
すべてのトランスフォーマントおよびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae INV Sc1[pYES2]の1つのコロニーをそれぞれ50mlの最少ウラシル欠損培地(SD+CSM−U)中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分)によりペレット化しそしてYPD培地中に再懸濁した。24時間目に、上清サンプルをmIL10定量および特徴付けのために採取した。48時間の成長の期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHはpH7で安定であった。
【0072】
タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli 1970)中に溶解した。タンパク質画分をSDS−PAGEにより分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette 1981)。
【0073】
マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いて検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。二次抗体は、アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)でありそしてこれを1/1000希釈で使用した。酵素活性をNBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。図8は、YPD中で24時間の成長の後のウエスタンブロットによる異なるSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1株の上清におけるmIL10の検出を示す。11−NCT−13Saccharomyces mIL10グリコシル化部位を11−SCT−13に変える(hIL10におけるように)ことにより、本発明者らは、SaccharomycesによるmIL10の過剰グリコシル化を排除することができた。第1の潜在的グリコシル化部位の除去(11−SCT−13)は、mIL10グリコシル化を回避するのに十分であった。第2の116−NKS−118グリコシル化部位の116−QKS−118への除去は利益を与えなかった。動物研究実験では、天然のmIL10形態および第1の潜在的グリコシル化部位を11−SCT−13にヒト化したmIL10ng1Sを使用した。
【0074】
実施例4:プラスミドで駆動される方法でmIL10ng1Sを分泌する生存S.cerevisiaeによる慢性DSS大腸炎の処置
慢性大腸炎の処置のためのmIL10分泌Saccharomyces cerevisiae株の治療有効性を、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発マウスモデルにおいて評価した。マウスに、記載されたとおりにDSSにより慢性大腸炎を誘発した(Okayasu et al., 1990; Kohouharoff et al., 1997)。非グリコシル化形態のmIL10を分泌するSaccharomyces cerevisiae INV Sc1トランスフォーマント2×108CFUによる14日間の毎日の処置(n=10;S.c.mIL10ng1S)は、モック(n=10)およびSaccharomyces cerevisiaeベクターコントロール(n=10)処置した群と比較して有意に低い遠位結腸の組織学的スコアをもたらした(図9)。確立された慢性DSS大腸炎に対するS.c.mIL10ng1S処置の有効性は、mIL10を分泌するL.lactis 2×109CFUによる14日間の毎日の処置で観察された有効性に匹敵した(n=10;LL−mIL10;図9)。Saccharomyces cerevisiaeにより分泌された非グリコシル化形態のmIL10(mIL10ng1S)は、治療有効性に関してグリコシル化形態よりも良好な成績であった(図9)。
【0075】
実施例5:遺伝子改変(GM)生物学的封じ込めmIL10ng1S分泌Saccharomyces cerevisiae株の構築
Saccharomyces cerevisiaeによる治療タンパク質の安定な分泌を達成するために、タンパク質発現カセットがゲノムに組み込まれることが重要である。非選択環境下では、Saccharomyces cerevisiaeは、有害性の原因となり必須でない治療遺伝子発現プラスミドを急速に失い、そしてリコンビナント遺伝子のDNAが自然へと広がり、これはきわめて望ましくない。生物学的に封じ込められ、従って環境において生存できないGM Saccharomyces cerevisiae株を作製することも重要である。従って、栄養要求株である不稔(ste)一倍体研究室株(Botstein et al., 1979)を使用した。栄養要求性酵母株は富栄養培地中でのみ生存することができる。最少培地または環境中で、これらの酵母株は、成長停止を経て、その後それらは死滅する。不稔(ste)でもある一倍体栄養要求性酵母株は、治療遺伝子のDNAを他の酵母株に伝達することができない。本発明者らは、一倍体不稔Saccharomyces cerevisiae Meyen ex E.C. Hansen VC5株(MATα, ste)(Mackay et al., 1974a; Mackay et al., 1974b)を使用してmIL10を分泌させた。必須のURA3遺伝子およびプロモーターを、強い構成性のTPIプロモーターにより先行されたmIL10ng1S遺伝子と相同組換えによって交換する(図10)。
【0076】
URA3プロモーターを含む完全オロチジン−5’ホスフェート(OMP)デカルボキシラーゼ(URA3)遺伝子(図11)を、構成性の強いTPIプロモーターおよびそれに続くppMF−mIL10ng1S DNAフラグメントにより置換した。ppMF−mIL10ng1S DNAフラグメントにおいて、第1のグリコシル化部位をヒト化し(これによりSaccharomyces cerevisiaeによる過剰グリコシル化の問題を回避する)、そしてppMF分泌シグナルにインフレームで融合する。
【0077】
PURA3−URA3のPTPI−ppMF−mIL10ng1Sによる置換により、本発明者らは、ura3栄養要求株を作製した。ウラシルの非存在下では、この株は、成長停止を経て、死滅する。Saccharomyces cerevisiaeゲノムは完全に配列決定されておりそして公開されている(Dietrich et al., 1997)。URA3領域のDNA配列に基づいて、それぞれ50ヌクレオチド(nt)のPURA3−URA3の5’および3’フランキング領域をPCR産物の5’および3’末端に付加したPTPI−ppMF−hIL10発現カセットの増幅を可能とする(10B)オリゴを開発した(図10Aにおけるオリゴ1=5’URA3P−TPI−S、
【表10】
およびオリゴ2=mIL10−3’URA3−AS、
【表11】
)。このPCRフラグメントを、LiOAc/PEGでコンピテントにしたSaccharomyces cerevisiae VC5細胞に導入した(Schiestl et al., 1989; Gietz et al., 2001)。PCRフラグメントのPURA3−URA3領域との50ntの相同性領域は、PURA3−URA3フラグメントのPTPI−ppMF−hIL10発現カセットとの相同組換えおよび置換を可能とする。5−フルオロオロト酸(5−FO)を含有する最少培地上に酵母をプレーティングすることにより、PURA3−URA3がPTPI−ppMF−mIL10ng1Sにより置換されている酵母のみが、生き残ることができる(URA3は5−FOを毒性の5−フルオロウラシルに変換する)。コロニーを更にPTPI−ppMF−mIL10ng1Sの存在(オリゴ5〜6およびオリゴ7〜8;図10C)およびPURA3−URA3の非存在(オリゴ3〜4、図10B)に関してPCRスクリーニングにより調べる(オリゴ3=URA3−S、
【表12】
オリゴ4=URA3−AS、
【表13】
オリゴ5=5’URA3 flanking−S、
【表14】
オリゴ6=mIL10AS、
【表15】
オリゴ7=mIL10−S、
【表16】
オリゴ8=3’URA3 flanking−AS、
【表17】
【0078】
ウラシルなしの最少培地における構築したSaccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3− mIL10+株の成長の非存在は、自動化濁度計(Bioscreen)を使用して確認した。成長は富栄養培地中では正常であった。
【0079】
Saccharomyces株Saccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3− mIL10ng1S+およびベクターコントロールSaccharomyces cerevisiae VC5 ste ura3−の1つのコロニーをそれぞれ50mlのYPD中に接種した。30℃で24時間の好気性成長の後に、細胞を遠心(2500tmpで5分間)によりペレット化しそして新たなYPD培地中に再懸濁した。更なる24時間の後に、mIL10の定量および特徴付けのために上清サンプルを採取した。48時間の成長期間中、Saccharomyces cerevisiae上清のpHは7で安定であった。タンパク質をTCA沈殿により培養上清から抽出し、次いでLaemmliサンプルバッファー(Laemmli, 1970)中に溶解した。タンパク質画分をSDS−PAGEにより分離しそしてニトロセルロース膜上にエレクトロブロッティングした(Burnette,1981)。マウスインターロイキン10を、1/1000希釈の一次抗体としてのポリクローナルウサギ抗マウスIL−10を用いて検出した(Prepro Tech, London, U.K.)。アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgG(H+L)(SBA, Birmingham, USA)を、1/1000希釈で、二次抗体として使用した。酵素活性を、NBT/BCIP基質(Boehringer Mannheim, GmbH, Germany)により可視化した。
【0080】
図12は、Saccharomyces cerevisiae VC5 ura3 ste mIL10ng1Sクローン上清中のmIL10検出を示す。L.lactis MG1363[pT1mIL10]をポジティブコントロールとして使用した。図から、本発明者らは、構築したGM生物学的封じ込めSaccharomyces cerevisiae VC5 ura3 ste mIL10ng1Sクローンは、mIL10を上清中に効果的に分泌しそしてin vivoにおけるIL−10産生およびIBDの処置のために使用することができると結論することができる。
【0081】
【表18】
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】pPIC92MIL10のプラスミドマップ。
【図2】ベクターpYES2のプラスミドマップ。
【図3】pYES2−mIL10のプラスミドマップ。
【図4】オーバーレイPCRによるTPI−ppMF−mIL10フラグメントの構築。番号は使用したプライマーを示す(本文参照)。
【図5】pYES2T−mIL10のプラスミドマップ。
【図6】時間の関数で(0、8、12、24および48時間後)サンドイッチELISAにより決定したSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1[pYES2]およびSaccharomyces cerevisiae INV S.c.1[pYES2T−mIL10]によるmIL10分泌。
【図7】mIL10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【図8】mIL10および非グリコシル化mIL−10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【図9】遠位結腸の組織学的スコアの統計的評価。すべてのデータを平均±SEMとして表す。データを、一元配置分散分析(ANOVA)、続いてフィッシャーの最小有意差(LSD)多重比較事後検定により統計的に解析した。*は、それぞれ、P<0.035およびP<0.012のモックおよびSaccharomyces cerevisiaeベクターコントロール処置群との比較における統計的有意差を表す。+は、それぞれ、P<0.085およびP<0.152のモックおよびLactococcus lactisベクターコントロール処置群との比較における統計的差を表す。
【図10】Saccharomyces cerevisiae VC5におけるPURA3−URA3のPTPI−ppMF−mIL10ng1Sによる遺伝子置換。番号(1〜8)は使用した異なるプライマーを示す。
【図11】Saccharomyces cerevisiaeの染色体Vの108504〜120299bp領域のゲノム構成(Dietrich et al., 1997);YELO23CおよびYELO20Cは未知の機能を有する遺伝子であり;GEA2はADPリボシル化因子(ARF)のグアニンヌクレオチド交換因子2をコードし;URA3はオロチジン−5’−ホスフェート(OMP)デカルボキシラーゼをコードし;TIM9はポリトピック内膜タンパク質の輸入および挿入を担うミトコンドリア膜間タンパク質をコードする。
【図12】mIL10のウエスタンブロット検出。シグナルはYPDにおける24時間の成長の後の0.5ml培養上清中に存在するタンパク質の量に対応する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜炎症を処置するための医薬の調製のためのリコンビナント抗炎症性化合物産生酵母株および/またはサイトカインアンタゴニスト産生酵母株の使用。
【請求項2】
前記粘膜炎症が炎症性腸疾患である、請求項1に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項3】
抗炎症性化合物またはサイトカインアンタゴニストが、IL−10、トレフォイル因子、例えばTFF1、TFF2またはTFF3、TNFアンタゴニスト、例えば可溶性TNFレセプター、INCA、ABIN、IL−12アンタゴニスト、インターフェロンγアンタゴニスト、IL−1アンタゴニストおよびウイルスにコードされたサイトカインアナログ、例えばEBV BCRF1からなる群より選ばれる、請求項1または2に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項4】
前記抗炎症性化合物またはサイトカインアンタゴニストが、グリコシル化を回避または制限するように突然変異されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項5】
前記抗炎症性化合物が、非グリコシル化IL−10である、請求項4に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項6】
酵母株が、Saccharomyces sp.、Hansenula sp.、Kluyveromyces sp.、Schizzosaccharomyces sp.、Zygosaccharomyces sp.、Pichia sp.、Monascus sp.、Geotrichum sp.およびYarrowia sp.からなる群より選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項7】
Saccharomyces sp.がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項6に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項8】
リコンビナント酵母株がSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiである、請求項7に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項9】
炎症性腸疾患が、慢性大腸炎、クローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項1】
粘膜炎症を処置するための医薬の調製のためのリコンビナント抗炎症性化合物産生酵母株および/またはサイトカインアンタゴニスト産生酵母株の使用。
【請求項2】
前記粘膜炎症が炎症性腸疾患である、請求項1に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項3】
抗炎症性化合物またはサイトカインアンタゴニストが、IL−10、トレフォイル因子、例えばTFF1、TFF2またはTFF3、TNFアンタゴニスト、例えば可溶性TNFレセプター、INCA、ABIN、IL−12アンタゴニスト、インターフェロンγアンタゴニスト、IL−1アンタゴニストおよびウイルスにコードされたサイトカインアナログ、例えばEBV BCRF1からなる群より選ばれる、請求項1または2に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項4】
前記抗炎症性化合物またはサイトカインアンタゴニストが、グリコシル化を回避または制限するように突然変異されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項5】
前記抗炎症性化合物が、非グリコシル化IL−10である、請求項4に記載のリコンビナント酵母の使用。
【請求項6】
酵母株が、Saccharomyces sp.、Hansenula sp.、Kluyveromyces sp.、Schizzosaccharomyces sp.、Zygosaccharomyces sp.、Pichia sp.、Monascus sp.、Geotrichum sp.およびYarrowia sp.からなる群より選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項7】
Saccharomyces sp.がSaccharomyces cerevisiaeである、請求項6に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項8】
リコンビナント酵母株がSaccharomyces cerevisiae亜種boulardiiである、請求項7に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【請求項9】
炎症性腸疾患が、慢性大腸炎、クローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリコンビナント酵母株の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【公表番号】特表2009−510154(P2009−510154A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533990(P2008−533990)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066950
【国際公開番号】WO2007/039586
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066950
【国際公開番号】WO2007/039586
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】
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