説明

大規模罹災対応型衛生システム

【課題】大地震や台風、集中豪雨等の自然災害や各種の人災等によって多くの犠牲者が発生した場合、遺体の収容とその後の身元確認に手間取ると、その間に遺体の腐敗劣化が進行し、遺族等の苦しみが倍増する。また、遺体には各種の感染性病原菌等が付着している可能性が有り、安易な取扱は危険である。
【解決手段】突発的な大規模災害に対して迅速かつ有効に機能する機動性を確保するため、被災地もしくはその近傍へ移動可能な自走式もしくは牽引式台車に、遺体を清浄化するための装置を搭載したシステムを提供する。このシステムの使用により、例え混乱した被災地においても、簡便且つ高効率で多くの遺体の腐敗、劣化が抑止でき、また悪性病原菌の二次感染の危険を回避することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震、台風、竜巻等の自然災害や各種の人災で多くの犠牲者が出た場合に、効果的に遺体を清浄化する衛生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は、地理、地形的な特徴から元々大地震や台風、集中豪雨と言うような自然災害が発生しやすい場所であり、更に最近ではこれらに加えて従来余り馴染みの無かった竜巻までもが頻発する様相を呈してきている。一方、飛行機、列車、船等の大量輸送機関の突発的大事故のような非自然災害に関しても、確率的には常にこれらが発生する可能性が存在する。そして一度これらの災害が生起すると、それに伴って大抵の場合は多数の尊い命が失われるという事態の発生を余儀なくされることになる。この場合、それぞれの遺体の収容とそれに引き続く身元確認には、少なからぬ時間を要してしまうのが現状である。従って、季節によっては、この間に遺体の二次的な劣化が急速に進行してしまい、遺族を初めとする種々の関係者の悲劇が二倍、三倍にも増幅してしまうことにもなり兼ねない。
【0003】
即ち、人間を初めとした大型動物が死亡すると、寒冷地を除いて通常は速やかに死体の腐敗、劣化が進行する。特に所謂五臓六腑と呼ばれる内臓部の腐敗は速く、この部位が腐敗、分解して液状化、膨潤することで腹圧が上昇し、この上昇した圧力が推進力となって腐敗液状物が口、鼻、肛門等の開口部から異臭を放ちながら体外に漏出することになる。
他方、遺体が各種の伝染性の病原菌等を保持していると、遺体の運搬時等に第三者に感染するという危険性が高まる。病原菌は、故人が生前から保有している場合もあるが、災害遭遇時に新たに遺体に付着するケースも当然想定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大規模災害の発生によって相当数の遺体が収容された場合、遺体の腐敗進行とそれに伴う異臭発生、および遺体からの病原性菌等の第三者への感染の危険性増大という大きな問題が発生する。そしてこの問題の根本的解決策は残念ながらこれまでのところ見出されておらず、大災害が発生する度に同様の惨劇を目の当たりにすると言う状態がこれまでのところ継続している。
【0005】
一般に、我が国では人が死亡すると火葬するまでの間の遺体の劣化を抑止するために、通常はドライアイスによる冷却が行われる。しかしながら、ドライアイスは何回も追加的に補充しなければならず非常に手間のかかる作業であり、個人の死というものに対しては兎も角、数多くの死者が一度に発生するような大規模災害時での対応ということではその入手も含めて容易なことではない。一方、このようなドライアイスを使用せずに遺体の腐敗進行を抑制する方法としては特許文献1のエンバーミングという方法が有るが、これは特殊な技術と手間を要するものであり、被災地もしくはその近傍で実施することは難しく、やはり大規模災害時用としては不向きである。
【0006】
ドライアイスを使用しない他の方法としては、特許文献2があげられる。この方法では特殊な技術を要することなく簡単な操作で遺体の殺菌と腐敗抑制とが為されることにおいて非常に優れている。しかしながら1回あたりの処理時間が相当長いという欠点を有し、またこの処置設備を被災地やその近傍で稼働させることは難しく、やはり大規模災害に対しては有効な対策とはなり難い。
【0007】
【特許文献1】特開2000−095601号公報
【特許文献2】特開2006−96737号公報
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、大規模災害時の遺体の迅速な清浄化方法について種々検討を行い、本発明を完成させた。即ちその要旨は、自走式もしくは牽引式台車上に洗浄処理、殺菌処理、防腐処理あるいは包蔵処理のための装置の単一もしくは複数種類を遺体の清浄化手段として搭載したことを特徴とする大規模罹災対応型衛生システムであり、好ましくは殺菌処理がオゾンおよび/あるいは紫外線照射であり、防腐処理が赤外線よりも波長の長い電磁波照射であることである。また、本発明のより好ましい形態は、自走式もしくは牽引式台車が複数で構成され、そしてこのとき1台の台車で複数種類の処理を行うことを回避することである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震、台風、竜巻等の自然災害や各種の人災で多くの人命が失われた場合に、遅滞なく遺体を清浄化できるようになるため、遺族を初めとした当事者の苦しみを緩和することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、突発的、偶発的に生起する大規模災害に対して機動的な対応を図るために、基本的に移動式システムとする。移動の方法は自走式が好ましいが、牽引式であっても何ら問題はない。また、走行はタイヤ方式が一般的であるがキャタピラー方式も勿論採用可能である。
【0011】
本システムでは、移動式の台車上に遺体を清浄化する手段を搭載する。手段の具体例としては洗浄処理、殺菌処理、防腐処理あるいは包蔵処理があげられる。ここで、洗浄処理とは、被災によって例えば泥まみれになった遺体を清浄化することであり、水洗、溶媒洗浄、あるいは圧縮空気吹きつけ等が例示出来る。
【0012】
殺菌処理とは、遺体に付着あるいは保持された各種の感染性悪性ウィルス、細菌類を滅菌あるいは減菌するための処置であり、オゾンあるいは紫外線を単独もしくは併用して遺体に照射することは、これの好適例である。その他、例えばエタノールと水との混合液を遺体に噴霧することも有効な処置の一つである。
【0013】
本発明における防腐処理とは、遺体の腐敗進行を抑止するための処置であり、赤外線よりも波長の長い電磁波照射が好適例である。電磁波は、波長の短い順に一般にγ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、高周波に分類される。そして、本発明ではこの中のマイクロ波ないしは高周波を利用する。これらは、γ線やX線と異なり取扱に殆ど危険が伴わず基本的に安全で有り、そして物体を効率的に加熱できるという特徴を有している。即ち、例えば家庭用の電子レンジの加熱源として使用されているマイクロ波は、水のように分子内に電荷の偏りが有る物質等を選択的に直接加熱する特徴を有す。従って遺体にこのような電磁波を照射すると、水分の少ない皮膚表面部を通り抜けそして水分の多い内臓部を効率的に昇温することが可能である。このとき、内臓部が45℃前後にまで昇温すれば、この部位の腐乱を促進する酵素あるいは微生物的作用が失活し、その結果遺体の劣化進行をほぼ抑止することが可能となる。
【0014】
本発明における遺体の清浄化手段としての包蔵処理とは、樹脂、ゴム製等の袋やバッグ、または金属、木あるいは樹脂製等の容器、コンテナー等に遺体を格納することを指す。この場合、遺体の身元確認を円滑に実施出来るよう、その構造を考慮することは好ましい。
本発明では、移動式台車に、これまで説明してきた処理装置を1種類もしくは複数種類搭載する。搭載の仕方は特に限定はされないが、殺菌と防腐は遺体清浄化の重要な要素であり、この両処理が搭載されることは望ましい。
【0015】
一方、本発明において台車の数を増やすことは、処理スピードの増大を図ることが出来るので非常に好ましい。この場合、1台の台車には単一種類の処理装置を搭載することとし、複数種類の搭載を回避すれば、その効果を最大限にまで引き上げることも可能である。以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明システムの具体例である。台車(11)に、殺菌処理装置(A)と防腐処理装置(C)が搭載されている。本例では、遺体は先ずAに搬入される。すると、装置内の紫外線ランプが照射され、また同時にオゾンガスが流通する。紫外線ランプとオゾンガスは共に大きな殺菌効果を有するので、遺体に棲息もしくは付着した病原性のウィルスや細菌は速やかに死滅する。従ってここでの処理は短時間で十分であり概ね5分以内である。また紫外線ランプの照射には電源が必要であるが、電気は携帯式の発電機で供給出来るので社会的インフラが破壊された被災地においても何ら支障なく使用可能である。同様にオゾンに関しても、これは空気を原料として容易に製造されるので、これも被災地での使用に問題はない。
Aでの殺菌処理が終了した遺体は、次いでCの防腐処理装置に移動、搬入される。ここには周波数13.56MHzの高周波加熱装置が設置されており、遺体の腹部を中心に高周波が照射される。遺体外表面が過熱状態とならないよう配慮しつつ、内臓部が50℃程度に昇温するまで加熱を継続する。通常の所要加熱時間は30分程度である。この加熱処理によって、内臓の腐乱を促進する酵素や細菌の機能を失活させることが出来るので、内臓部を起点とした遺体の腐敗進行を抑止することが可能である。なお、高周波加熱装置も電気で稼働するので、被災地での使用に支障は無い。
【0017】
図2は、本発明の別の具体例である。ここでは殺菌処理装置(A)と洗浄処理装置(B)を搭載したものと、防腐処理装置(C)と包蔵処理装置(D)を搭載した合計2台の台車が用意されている。台車(21)において、図1の場合と同様に遺体は先ずAで殺菌処理される。殺菌後の遺体は、次いでBの洗浄処理装置に移送される。ここには圧縮空気が用意されており、遺体に付着した埃、ゴミ、汚泥等が除去される。ここで使用する圧空は、コンプレッサーを稼働するための電源さえ確保されていれば、空気を原料として容易に製造出来るので、被災地での使用には好適である。なお、AとBの操作の順番を入れ替えることは可能であり、状況に応じて適宜選択すれば良い。
台車(21)での処理が終了した遺体は、次いで台車(22)に移送される。ここにおいて、遺体は先ず図1と同様の高周波照射処理が施される。その後、遺体はDの包蔵処理装置に移送される。ここで遺体は熱可塑性樹脂の袋に搬入され、袋内の空気を吸引、減容した後に袋の開口部を加熱、密閉する。この包蔵処理により、遺体からの異臭拡散が回避出来るので、身元確認等の作業が円滑化する。なおこの包蔵処理装置についても、遺体を収容する袋を予め容易さえしておけば、被災地での稼働に対して問題は生じない。
【0018】
図3は、本発明システムの更に別の具体例である。ここでは合計7台の台車が準備される。そしてこの内の1台の台車(31)には、図1と同様の殺菌処理装置(A)が2セット搭載される。一方、残りの6台の台車には、図1と同様の防腐処理装置(C)を各々2セットずつ計12セット搭載する。
この方式では、先ず2体の遺体が台車31の2セットのA装置に搬送され、そして5分間の殺菌処理が実施される。この殺菌処理が終了すると、2体の遺体は台車32の2セットのC装置に各々移送され、そして30分間の防腐処理が行われる。一方、31の台車には次の2体の遺体が搬送され、そして5分間殺菌処理が施される。殺菌終了後の遺体は33の台車に移送され、ここで30分間の防腐処理が行われる。一方、31の台車には・・・、という形で6回繰り返すと、台車32〜37に搭載している防腐処理装置(C)の全てに遺体が搬入されている状況(定常状態)が出現する。この定常状態に達すると、その後は5分毎に2体の遺体が新たにA処理装置に搬入され、そして逆にC処理が完了した2体の遺体が何れかの台車から搬出されるということになる。この場合、5分間で2体の遺体を清浄化できるので、1体当たりの所要時間は2.5分ということになる。
一方、図1のように1台の台車にAとCの処理装置を混載した台車を7台用意した場合には、7体の遺体を先ずA装置で5分間そして次にB装置で30分間、合計35分間で7体の遺体を清浄化することになるので、この場合の1体当たりの所要時間は5分である。従って、複数の台車を使用した遺体の高速処理の場合には、1台の台車には単一種類の処理装置を搭載する方が、より効率的であることが分かる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明システムの具体例を示す概念図である。
【図2】本発明システムの別の具体例を示す概念図である。
【図3】本発明システムのさらに別の具体例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0020】
11,21,22,31,32,33,34,35,36,37: 自走式台車
A: 殺菌処理装置
B: 洗浄処理装置
C: 防腐処理装置
D: 包蔵処理装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走式もしくは牽引式台車上に遺体を清浄化する手段を搭載したことを特徴とする大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項2】
遺体を清浄化する手段が、洗浄処理、殺菌処理、防腐処理、あるいは包蔵処理の中の1種類以上の処理よりなることを特徴とする請求項1記載の大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項3】
遺体を清浄化する手段が、殺菌処理および防腐処理よりなることを特徴とする請求項1記載の大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項4】
殺菌処理がオゾンおよび/あるいは紫外線照射であることを特徴とする請求項2ないし3記載の大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項5】
防腐処理が赤外線よりも波長の長い電磁波照射であることを特徴とする請求項2〜4記載の大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項6】
自走式もしくは牽引式台車が複数で構成されることを特徴とする請求項1〜5記載の大規模罹災対応型衛生システム。
【請求項7】
1台の台車には単一種類の処理装置を搭載することを特徴とする請求項6記載の大規模罹災対応型衛生システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate