説明

大豆煮汁成分の有効活用方法

【課題】現在廃棄されている大豆煮汁から有効成分を分離回収し、食品への添加材料等として活用することで、食品リサイクルと同時に環境負荷の軽減を図る。
【解決手段】大豆煮汁成分を含有する液体に対し酸処理を施して、大豆タンパク質由来のアミノ酸や大豆ペプチドを生成する。ここでいう「大豆煮汁成分を含有する液体」とは、現在では廃棄処分されている大豆煮汁の原液,大豆煮汁の濃縮液,該濃縮液の希釈液,又は大豆煮汁の固化物の水溶液である。酸処理工程では、大豆煮汁成分を含有する液体に塩酸溶液を添加し、80℃〜90℃で加熱して大豆タンパク質を酸分解する。このような方法により大豆タンパク質をアミノ酸等に転換することで、大豆煮汁の食品素材としての付加価値を向上させることができる。また、大豆煮汁を食品原料として利用することにより、排水処理施設への負荷率の低減と、企業の排水処理コストの低減を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味噌をはじめとする大豆加工食品の製造段階で多量に発生する大豆煮汁を有効活用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[第1の背景]
味噌をはじめとする大豆加工食品の製造現場では、大豆を煮熟する工程で多量の煮汁が発生する。多量の有機物を含む大豆煮汁は工場排水として扱われ、従来は河川等に放流することによって処理されてきた。一方現在では、海・河川・池の水質汚濁を防止する観点から大豆煮汁の河川等への放流は厳しく規制されており、大豆煮汁を活性汚泥法等によって処理した上で廃棄する必要が生じている。
【0003】
しかしながら、食品原料として大豆を扱う醸造業者や食品加工業者にとって、排水処理すべき大豆煮汁の量は極めて膨大であり、そのために大豆煮汁を処理するための設備投資に過大な経済的負担を強いられている。しかも、大豆煮汁のCOD値は30000ppmを超えるため、排水処理施設への負荷率は極めて高い(負荷率約70%)。よって、極めて高負荷運転となる大豆煮汁処理の管理には、過大な労力が必要とされる。
【0004】
さらに、近年の厳しい環境基準の導入に伴い、年々増加する排水処理コストにより中小零細企業が多数を占める大豆を原料とする食品製造企業においては、経済的負担の増加を強いられることになる。
【0005】
[第2の背景]
近年の健康志向の向上を背景に、大豆に由来する成分が着目されており、更年期障害の改善,コレステロールや血圧の低下作用,乳がん・骨粗しょう症の予防,ダイエット効果等の様々な機能や効果が多数報告されている。中でも、基礎代謝量の増加作用が確認されている大豆ペプチド(大豆タンパク質とアミノ酸の中間物質)は、近年特に注目を集めている。大豆から抽出,精製された大豆ペプチドやアミノ酸等の成分は、健康補助食品や機能性食品、或いは飲食品への添加材料として広く活用されている。
【0006】
一方、上述した大豆煮汁中には大豆タンパク質が溶出することが知られており、かかるタンパク質からは大豆ペプチドやアミノ酸等の高機能成分を生成することが理論的には可能である。したがって、大豆煮汁を廃棄物としてではなく、有益な食品原料として利用すれば、食品リサイクルと同時に環境負荷の軽減を図ることが可能なはずである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上述した大豆煮汁の廃水処理に係る問題点と、大豆煮汁中に移行する有用成分に注目し、本発明の目的は、現在廃棄されている大豆煮汁から有効成分を分離回収し、食品への添加材料として活用することで、食品リサイクルと同時に環境負荷の軽減を図ることにある。
また、本発明の他の目的は、大豆煮汁の原液等に対して酸処理を施し、大豆タンパク質を、機能性に優れた大豆ペプチドやアミノ酸に転換することで、大豆煮汁の食品素材としての付加価値を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、大豆煮汁成分を含有する液体に対し酸処理を施して、大豆タンパク質由来のアミノ酸,ペプチド又はこれらの混合物を生成することによって達成される。
ここでいう「大豆煮汁成分を含有する液体」とは、大豆煮汁の原液,大豆煮汁の濃縮液,前記濃縮液の希釈液,又は大豆煮汁の乾燥固化物の水溶液である。
【0009】
酸処理工程においては、大豆煮汁成分を含有する液体に酸性分解剤を添加し、加熱条件下において大豆タンパク質の酸分解反応を進ませる。その際、加熱温度は80℃以上であることが好ましい。酸分解処理を終えたら、分解液に中和剤を添加し、次いで該液体を蒸発装置に投入して減容化する。なお、蒸発装置が耐酸性を有していて、且つ、作業上の安全性に特に問題がなければ、酸性分解液のまま減容化処理を行い、次いで中和処理を行うようにしてもよい。
蒸発装置としては、攪拌型薄膜蒸発装置(株式会社櫻製作所製 ハイエバオレータ(登録商標))を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本願発明者の実験によれば、大豆煮汁原液中のタンパク質を酸で加水分解したところ、人体に有効なアミノ酸に転換できることが確認された。このような結果から、大豆タンパク質の酸分解の結果として、アミノ酸は勿論のこと大豆ペプチドも生成されるものと推測される。
すなわち、本発明の方法によれば、従来廃棄処理されてきた大豆煮汁から、人体に有効なアミノ酸や大豆ペプチドを生成することができるので、大豆煮汁の食品素材としての付加価値を向上させることできる。
特に、実験において、酵素処理の場合と比較して顕著な低分子可傾向が認められたことから、本発明は、アミノ酸を主に含有する製剤等を生成するのに適しているといえる。
【0011】
また、現在廃棄されている大豆煮汁から有効成分(大豆ペプチド・アミノ酸)を分離回収し、食品への添加材料として活用することで、食品リサイクルと同時に環境負荷の軽減を図ることができる。
【0012】
また、廃棄物として扱われてきた大豆煮汁を食品原料として有効活用することにより、排水処理施設への負荷率を低減させることができ、ひいては企業の排水処理コストを低減させることが可能になる。
【0013】
なお、大豆煮汁の発生から酸処理を行うまでにある程度期間を要する場合もある。そのような場合には、酸処理に先立って大豆煮汁を濃縮させておけば、大豆煮汁の水分活性が低下し、貯蔵安定性を改善することが可能になる。また、大豆煮汁を濃縮,乾燥させた場合には、常温での移送、保管が可能となり、その結果成分の抽出、精製が効率的に実施できる。加えて、大豆煮汁の減容化が達成できれば、酸処理やアミノ酸等の抽出処理を専門業者に委託する場合の輸送コストを低減させることができる。特に、可動式攪拌翼を有する攪拌型薄膜蒸発器等(例えば、株式会社櫻製作所製 ハイエバオレータ(登録商標))を用いることにより、大豆煮汁の原液をワンパスの作業により効率的に濃縮・乾燥させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[第1実施形態]
大豆を原料とする食品の製造現場では、大豆を煮熟する工程で多量の煮汁が発生する。この大豆煮汁に溶出した有用成分を有効に活用すべく、本発明では、発生した大豆煮汁の原液に対して酸処理を施すことにより大豆タンパク質を加水分解し、アミノ酸,ペプチド又はこれらの混合物(以下「アミノ酸等」と略称する。)を生成する。
【0015】
酸処理(酸による大豆タンパク質の加水分解)を行う場合には、大豆煮汁の原液に対し、酸分解のための酸性分解剤を加える。分解剤の種類は特に限定されないが、例えば、市販の塩酸を希釈した塩酸溶液等を用いることができる。ここで、大豆煮汁に酸処理を施すにあたっては耐酸性の容器を用いる必要があり、例えばグラスライニング製の容器を用いることが好ましい。
【0016】
なお、出願人の実験によれば、大豆煮汁の原液に塩酸溶液を加えても、常温では酸分解が全く進まないことが確認された。また、加熱した場合でも、80℃未満の温度では分解反応が鈍く、良好な分解率が得られなかった。そこで、使用機材の耐熱性等を考慮し、後述する実施例では80℃〜90℃の加熱条件で酸分解を行った。その結果、酸分解によって大豆タンパク質がアミノ酸に転換される傾向があることが確認された。なお、使用機材の耐熱性や作業者の安全性に特に問題がなければ、90℃を超える温度で加熱してもよい。
【0017】
大豆タンパク質の酸分解反応が終了しアミノ酸等の混合物が得られたら、酸分解液を冷却し、所定量の中和剤を加えてpH調整を行う。酸分解液を中和するための中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウムを用いることができる。中和点は、pH4.7〜5.6程度の微酸性が適当である。
なお、中和反応の過程で生成された塩分については、必要であれば、公知の手段によって脱塩処理してもよい。
【0018】
中和反応が終了したら、分解液をそのまま食品,医薬,化粧品等の原料として用いてもよく、或いは、中和した分解液から所定のアミノ酸やペプチドを精製・分取してもよい。その具体的手段としては、電気泳動、濃縮、抽出、結晶化、乾燥化等の公知の手段を適宜に選択することができる。
【0019】
分解液を濃縮または乾燥化する場合には、後述する蒸発装置(図1〜図3に示す攪拌型薄膜蒸発装置)を用いることが好ましい。なお、作業の安全性等を確保する観点から、蒸発装置に投入する前に中和処理を行うことが好ましい。ただし、蒸発装置が耐酸性を有しており、かつ安全性に特に問題がなければ、酸性の分解液のまま蒸発装置に投入し、濃縮・乾燥化処理の後に中和処理を行うようにしてもよい。
分解液の濃縮・乾燥化の手順(デキストリンの添加等を含む)は、後述する大豆煮汁の濃縮・固化の手順と同様であるので、その説明は省略する。
【0020】
そして、酸分解液から分離・精製することによって得られたアミノ酸等の結晶は、たとえば健康補助食品や機能性食品用の食品組成物として有効に利用することが可能である。
アミノ酸等を分離した後の煮汁(分解液)については、廃水処理施設等で所定の処理を施した上で放流する。
【0021】
なお、上述した実施形態では酸処理の出発原料として大豆煮汁を用いる場合を例に挙げて説明したが、酸処理に先立って予め大豆煮汁からタンパク質を分離し、該タンパク質に対して直接に酸処理を施すようにしてもよい。この場合、大豆煮汁から大豆タンパク質を分離する方法は特に限定されないが、その具体例としては、たとえば周知の等電点沈殿法,活性炭法,エタノール沈殿法,膜分離法等が挙げられる。
【0022】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
味噌をはじめとする大豆加工食品の製造現場では、大豆を煮熟する工程で多量の煮汁が発生する。この大豆煮汁中の成分を精製するにあたっては、精製効率や品質の安定性を考慮すると、専門業者へ委託する方が好ましい場合もある。
しかしながら、委託を行うためには大豆煮汁の移送が必要となることから、大豆煮汁中の水分を除去することで大幅な減容化を図り、移送コストや移送効率を改善する必要がある。また、大豆煮汁がタンパク質を多量に含み変敗しやすいことを考えると、アミノ酸等の精製を行うまでの間の貯蔵安定性を改善するためにも、水分活性を低下させる必要がある。
【0023】
そこで、本発明の第2実施形態では、現場で発生した多量の大豆煮汁の原液を濃縮乾燥させて、大豆煮汁成分を含有する固化物を生成する。これにより、大豆煮汁中の水分が除去されて大幅な減容化が達成され、その結果、移送コストや移送効率を改善できる。
【0024】
濃縮乾燥工程を経て得られた固化物(大豆煮汁の乾燥物)は、アミノ酸等の精製を行うまでの間貯蔵され、必要な時に水を加えて当該固化物の水溶液を用意する。その際、必要であれば、当該水溶液が所定固形分濃度・所定pH値になるように調整してもよい(例えば大豆煮汁原液と同程度になるように調整する)。そして、用意した固化物水溶液に対し、上記第1実施形態と同様の酸処理を施すことにより、大豆タンパク質をアミノ酸等に転換する。
【0025】
以下、大豆煮汁の固化物(大豆煮汁成分を含有する固化物)の製造方法の一例について説明する。
【0026】
大豆煮汁の固化物を製造するにあたっては、味噌の製造現場等で産出された大豆煮汁を所定の容器に貯留しておき、次いで、この大豆煮汁中に含まれる固形分(タンパク質等の成分から成る固形分)の割合を測定する。
【0027】
固形分の割合を測定するにあたっては、たとえば、均質状態の大豆煮汁の全体から一定量だけ別容器に移して、この一定量の煮汁に対して通風乾燥(温度:70〜80℃程度)を施し、乾燥後に残った固形分の重量を測定する。すると、乾燥前の一定量の大豆煮汁に含まれる固形分量が分かるので、結果として、大豆煮汁全体に含まれる固形分の割合を求めることができる。
なお、事前に固形分割合が判明している場合や、固形分割合を推測できる場合には、上述した固形分割合の測定手順は省略してもよい。
【0028】
次に、貯留しておいた大豆煮汁の原液に対し、賦形剤としてデキストリンを添加する。その際、大豆煮汁に含まれる固形分の重量に対して50〜100%の割合で、好ましくは100%(すなわち固形分と同量)の割合で、大豆煮汁中にデキストリンを添加し、混合攪拌する。なお、添加するデキストリンが粉体状であるため、大豆煮汁の温度によっては、デキストリンの添加混合時にダマ(デキストリンから成る塊状の溶け残り)を形成してしまう場合がある。そこで、このようなダマの形成を抑制するため、予め大豆煮汁の温度を60〜80℃程度に調整しておくことが好ましい。
【0029】
続いて、デキストリンが添加された大豆煮汁を蒸発装置に投入して乾燥固化させる。蒸発装置内では、大豆煮汁中の水分が蒸発するとともに、添加されたデキストリンが固化の核として作用する。
【0030】
次に、上述した大豆煮汁の固化工程で利用する蒸発装置について説明する。
固化物の製造工程で利用可能な蒸発装置の種類は特に限定されず、公知の種々の蒸発装置を用いることが可能である。ただし、利用可能な好ましい蒸発装置の一つとしては、たとえば特開平4−4001号公報に開示された攪拌型薄膜蒸発装置(商品名「ハイエバオレータ」/商標登録第3068162号)が挙げられる。
【0031】
以下、図1乃至図3に基づいて、攪拌型薄膜蒸発装置の構成について詳細に説明する。 図1は、本発明で用いる攪拌型薄膜蒸発装置を示す側面図であり、一部を断面で示している。
図2は、図1に示す攪拌型薄膜蒸発装置の横断面図である。
図3は、図1に示す攪拌型薄膜蒸発装置の一部を拡大して示す側面図である。
【0032】
図1〜図3において、符号1は縦型タイプの攪拌型薄膜蒸発装置を示している。この攪拌型薄膜蒸発装置1において、円筒状のシリンダ(加熱管)3は外側に上下2段のジャケット2,2を有しており、該シリンダ3の上下は、軸受5,メカニカルシール6によって軸支されている。稼動させる際には、シリンダ3内は真空引きされて所定の真空度に設定されるようになっている。
【0033】
モータ7は所定のベルトプーリ機構を介して回転軸8を回転させるようになっており、該回転軸8には、シリンダ3に同軸的な駆動シャフト9が一体的に設けられている。この駆動シャフト9には、長手方向所定ピッチで、複数のブラケット10,10…が固設されており、該ブラケット10,10…は、周方向に90゜間隔で配置されている(図2参照)。ブラケット10,10のそれぞれには、ピン31により周方向にスイング自在に軸支されたベース32が取り付けられており、該ベース32によってブレード11が把持されている(図2,3参照)。
【0034】
シリンダ3の上部には供給口12が設けられており、該供給口12を介して上述した大豆煮汁13が供給されるようになっている。また、ジャケット2,2のそれぞれの上部には、供給口14が設けられており、該供給口14を介して所定温度のスチーム(蒸気)15が供給されるようになっている。また、ジャケット2,2のそれぞれの下部には、排出口16が設けられており、該排出口16を介してスチーム15が排出されるようになっている。さらに、シリンダ3の下部には排出口17が設けられており、該排出口17から固化物(大豆煮汁がシリンダ3の内壁を伝って落下する過程で乾燥固化した固化物)が排出されるようになっている。
【0035】
なお、駆動シャフト9の供給口12に対向する部分には、ディスク状の分散板20が一体的に設けられている。また、その上部の回転軸8には、フィン21,21…が放射状に所定数設けられて排出口22に臨まされている。
【0036】
上述した構成を有する攪拌型薄膜蒸発装置1において、モータ7を回転させると、回転軸8が軸受5、メカニカルシール6に軸支された状態で、所定速度で回転し始める。そして、回転軸8の回転に伴って、駆動シャフト9も一体的に回転する。この時、駆動シャフト9に設けられた各ブレード11は、駆動シャフト9の回転に伴って生じる遠心力によって、ブラケット10のピン31に枢支された状態でシリンダ3の内面に対し所定間隙を介して旋回する。
【0037】
そして、供給口12により大豆煮汁13を供給すると、該煮汁13はリング状の分散板20の遠心力により、シリンダ3の内壁面上で薄膜状に均一分散するとともに、自重によってシリンダ3の内壁面を伝って流過していく。さらに、複数のブレード11のそれぞれの旋回作用によって混合攪拌されて、シリンダ3の内面に薄膜状に展延され、さらに、ジャケット2内を流過する所定温度のスチーム15によって熱交換されて加熱される。
【0038】
真空引きされたシリンダ3内における混合攪拌と加熱作用により、大豆煮汁の揮発性成分(水分)は蒸発し、排出口22から排出蒸気として排出逸散し、又は、真空装置で吸出される。その結果、シリンダ3の内面を流過する大豆煮汁は、その過程で蒸発作用・混合攪拌作用を受けて濃縮されるとともに、デキストリンの固化作用によって最終的に固化する。生成された大豆煮汁由来の固化物は、排出口17から排出される。
【0039】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
前述した第2実施形態では、蒸発装置を用いて大豆煮汁を完全に乾燥固化させる場合について説明したが、第3実施形態では、大豆煮汁を完全に固化させずに「濃縮液」を生成する。この場合には、必ずしもデキストリンを添加する必要はなく、大豆煮汁を原液のまま蒸発装置に投入すれば足りる。また、大豆煮汁は濃縮に伴い粘性を増すことから、濃縮液を生成する場合にも蒸発装置として図示する攪拌型薄膜蒸発装置を用いることが好ましい。
【0040】
なお、濃縮液を生成する場合には、得られる濃縮液の固形分が50%以上になるように、蒸発装置等の諸条件を設定する。これにより、単に減容化できるだけでなく、得られる濃縮液が腐敗し難くなり冷凍保存の必要性が低下する。
【0041】
得られた濃縮液は、必要であれば専門の業者へ移送され、アミノ酸等の精製を行うまでの間貯蔵される。そして、適当な時に、第1実施形態と同様の酸処理を濃縮液に対して施し、アミノ酸等を生成する。酸処理を行う際には、反応容器内の濃縮液を攪拌しながら分解反応を進ませるようにしてもよい。
【0042】
なお、処理すべき濃縮液の性状等によっては、酸処理に先立って、濃縮液を水で希釈して所定固形分濃度・所定pH値になるように調整してもよい(例えば大豆煮汁原液と同程度になるように調整する)。
【0043】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0044】
大豆煮汁に含まれているタンパク質を80〜90℃で酸分解し、その分解率を検討した。
【0045】
[試薬]
18% HCl : Conc. HCl を2倍希釈する。
18% NaOH: 180g NaOHを1000 ml の蒸留水で溶解する。(中和剤)
【0046】
[操作]
大豆煮汁原液(pH 5.6、18L、10缶)を25L 用テンタルに採取する。そこに塩酸(18%)を加え、pHを1〜1.1に調整する。反応はIHヒータで加熱することにより80〜90℃で行った。操作は2連で5回繰り返して行った。
【0047】
[タンパク質分解率の分析]
タンパク質分解率は、全窒素に対するアミノ態窒素(ホルモール窒素)の比率で計算した。
【0048】
a.全窒素
全窒素は、ケルダール法で測定した。つまり、大豆煮汁酸分解物(中和したもの)の適量(Sg)をケルダール分解フラスコに精密に量り、分解促進剤5gを加え、次いで濃硫酸15mlを加え、穏やかに振り混ぜた後、弱火で加熱する。分解が始まると液は黒化し泡立つ。黒色粘ちょう液になったら加熱を強める。反応が進むと亜硫酸ガスと炭酸ガスを発生しながら液は徐々に黒褐色から褐色になり、最後に青色ないし青緑色で透明な液になる。更に1〜2時間強熱を続けて分解を完了させた。
冷却後、分解液に脱イオン水約120mlを加え、沸騰石数個を加えてから、静かに30%水酸化ナトリウム70mlを加えて、蒸留装置に連結させる。蒸留液の留出口に4%ホウ酸溶液40mlを入れた三角フラスコを留出口がホウ酸溶液の液面より下にあるように装着した後、加熱蒸留し、液量が120mlになったら留出口を液面から離し、更に150mlまで蒸留した。
蒸留液に混合指示薬を数滴加え、0.05 mol/l 硫酸標準液で滴定する。青色、青緑色を経て汚無色から桃色になったところを終点とする(V1ml)。別に空試験として試料の代わりにショ糖を試料と同量採取し、前記同様に操作して分解、蒸留、次いで滴定した(V2ml)。
窒素(gN/100ml) =( 0.0014 x (V1 - V2) x f / S) x 100
f : 0.05 mol/l硫酸標準液のファクター
【0049】
b.アミノ態窒素
アミノ態窒素(ホルモール窒素)は、醤油分析法によって定量した。つまり、試料25mlをホールピペットではかりとり、100mlビーカーに入れる。これをpHメーターによりN/10水酸化ナトリウム溶液を加えてpH 8.5に調整する。これにpH 8.5に調整したホルムアルデヒド液20mlをメスシリンダーで計り加える。直ちにpHは酸性を示すので、改めてN/10水酸化ナトリウム溶液を滴加してpH 8.5まで中和滴定した(t ml)。
ホルモール態窒素(gN/100ml) = t x 0.0014 x F x 100/ 25
F : N/10 水酸化ナトリウム溶液のファクター (No.1〜4:0.999)
【0050】
[塩分の分析]
塩分はMohr法で分析した。つまり、試料10mlをホールピペットで50mlメスフラスコにはかりとり、水を加えて定容する。これより1mlをホールピペットでとり、50ml の磁性蒸発皿に入れ、これに2%クロム酸カリウム溶液1mlを加えてガラス棒でかき混ぜながらN/50硝酸銀溶液で、終点の微橙色を呈するまで滴定する。
塩分=58.44 x (1/50) x (1/100) x F x (滴定値ml)x(希釈倍率)x (100/(サンプル採取量))
N/50 AgNO3の力価(Factor)= 5 x [(N/10 NaCl のFactor)/(滴定値ml)]
(N/10 NaCl 1 ml + クロム酸カリウム1 mlをN/50 AgNO3で滴定)
(No.1〜3:0.991, No.4:1.001)
【0051】
[中和反応]
塩酸分解反応が終了した後冷却し、18%苛性ソーダを用いてpH 5.6まで中和した。
【0052】
結果
[加熱操作]
図4にIHヒーターで加熱した場合の反応液の加熱時間と反応液温度の関係を示す。
反応液は約2時間の加熱で80℃に達し、その後2時間加熱反応をおこなった。
【0053】
[色の変化]
室温および50℃での反応においては、反応液の色は黄色を示したが、80℃付近から黄色から褐色に変化した。これは、原液中のタンパク質の酸分解によりアミノ酸が生成し、これが原液中の糖類とメイラード反応によって結合して生成したメラノイジンに起因すると考えられた。
【0054】
[pHの調整]
原液の初発pHは5.6であり、これに18%HClを700ml添加してpHを1.0に調整し、加熱を開始した。加熱終了後、室温まで放冷し、18% NaOHを900ml添加することにより酸を中和し、pHを5.6に調整した。
【0055】
[塩分濃度]
中和処理した酸分解液の塩分濃度は、1.41〜1.55 g/100mlであった(表1)。
【0056】
【表1】

【0057】
[タンパク質分解率]
中和処理した酸分解物のタンパク質分解率は0.27〜0.29であった(表2)。
なお、本実施例では加熱による分解操作を行ったため、蒸発により試料の容量が変化し、正確なタンパク質残量が測定できないため、試料中の全窒素の中で、アミノ態窒素の比率で分解率を算出した。そのため、ペプチドの含有量は含まれていないため、見かけ上、低い分解率となった。
【0058】
【表2】

【実施例2】
【0059】
大豆煮汁及びその酵素分解物を比較対象とし、大豆煮汁の酸分解物に対して、タンパク質の低分子化についての評価を行った。
【0060】
[試料]
下記1)〜3)の各試料を高純水で0.2mg/mlに調整し、試料とした。
1)大豆煮汁の酸分解液の乾燥物(本発明の実施例)
大豆煮汁(固形分4.1%)に18%塩酸を加え、pH1〜1.1に調製し、
80℃で塩酸分解反応を約2時間行った後に冷却し、
18%苛性ソーダを用いてpH5.6まで中和したものにデキストリン8%を加え乾燥した。
2)大豆煮汁の酵素処理液の乾燥物(比較例1)
大豆煮汁(固形分3.9%)に酵素剤(プロテアーゼM「アマノ」G)を0.2%添加し、
60℃で約1時間の酵素反応を行い加水分解した後、
デキストリン3%を加え、乾燥した。
3)大豆煮汁原液の乾燥物(比較例2)
大豆煮汁(固形分4.35%)にデキストリン2%を加え乾燥した。
【0061】
[全窒素の測定]
上記の各試料について、ケルダール法に基づき全窒素の測定を行なった。
測定の結果、大豆煮汁原液には全窒素が0.55%、酵素処理乾燥物には0.48%、酸分解物には0.35%含まれている事がわかった。
デキストリン含量が多くなるに従って固形分が少なくなるため、タンパク含量も減り、窒素量も減少していくだろうという予測をしたが、予測通りの値が得られた。
以後の実験において3種の試料の全窒素量が均一になるよう調節することが可能となった。
【0062】
[ペプチドマッピング]
試料濃度を統一し、大豆煮汁、酵素分解物および酸分解物に対して、タンパク質の低分子化について評価を行った。
【0063】
a.試料
上記全窒素の測定結果を基に、1)酸分解乾燥物、2)酵素処理乾燥物、および3)大豆煮汁原液乾燥物、計3種の窒素濃度が全て1.0%になるよう以下のとおりに試料調製した。
1)酸分解乾燥物(実施例) ・・・ 5.7mg/ml
2)酵素処理乾燥物(比較例1) ・・・ 4.2mg/ml
3)大豆煮汁原液乾燥物(比較例2)・・・ 3.6mg/ml
【0064】
b.逆相クロマトグラフィー分析条件
表3に示した分析条件で
HPLC(CCPM、UV-8010、CO-8010、MX-8010:Tosoh製、DG-1210:Uniflows製)を用いて逆相クロマトグラフィーを行った。
【0065】
【表3】

【0066】
[評価]
HPLCによるペプチドマッピングの結果をそれぞれ図5〜図7に示した。
酵素処理乾燥物(図6)と大豆煮汁原液乾燥物(図7)を比較すると、大豆煮汁原液の分析結果に現れた3つの大きいピークのうち2つのピーク面積が酵素処理を行うことによって小さくなっていることを認めた。また、前半部分において複数のピークが出現し、新たにペプチド成分が生成されたと推測されることを認めた。これらの結果から、大豆煮汁を酵素処理することによって、含有するタンパク質が低分子化することが推察される。
一方、大豆煮汁の酸分解乾燥物(図5)では、大豆煮汁乾燥物(図7)に比べてピーク数は減少しており、また酵素処理乾燥物(図6)と比較しても低分子化傾向が認めれ、ペプチドのアミノ酸化が進んでいると考えられた。
以上の結果より、大豆煮汁の酸分解の場合は、酵素処理の場合に比べて低分子化の傾向(アミノ酸化傾向)が強いことが認められ、よって、本発明はアミノ酸をより多く含有する製剤等を生成するのに適しているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明で用いる攪拌型薄膜蒸発装置を示す側面図であり、一部を断面で示している。
【図2】図1に示す攪拌型薄膜蒸発装置の横断面図である。
【図3】図1に示す攪拌型薄膜蒸発装置の一部を拡大して示す側面図である。
【図4】加熱時間と反応液温度の関係を示すグラフである。
【図5】酸分解乾燥物(実施例)についてのペプチドマッピングの結果を示すHPLCチャートである。
【図6】酵素処理乾燥物(比較例1)についてのペプチドマッピングの結果を示すHPLCチャートである。
【図7】大豆煮汁原液乾燥物(比較例2)についてのペプチドマッピングの結果を示すHPLCチャートである。
【符号の説明】
【0068】
1 攪拌型薄膜蒸発装置
2 ジャケット
3 シリンダ(加熱管)
5 軸受
6 メカニカルシール
7 モータ
8 回転軸
9 駆動シャフト
10 ブラケット
11 ブレード
12 供給口
13 大豆煮汁
14 供給口
15 スチーム
16 排出口
17 排出口
20 分散板
21 フィン
22 排出口
31 ピン
32 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆煮汁成分を含有する液体に対し酸処理を施して、大豆タンパク質由来のアミノ酸,ペプチド又はこれらの混合物を生成することを特徴とする大豆煮汁成分の有効活用方法。
【請求項2】
前記酸処理工程において、大豆煮汁成分を含有する液体に酸性分解剤を添加し、加熱条件下において大豆タンパク質の酸分解反応を進ませることを特徴とする請求項1記載の大豆煮汁成分の有効活用方法。
【請求項3】
前記加熱条件が80℃以上であることを特徴とする請求項2記載の大豆煮汁成分の有効活用方法。
【請求項4】
前記酸性分解剤によって分解された前記液体を蒸発装置に投入して減容化し、
前記減容化工程の前後のいずれかで前記液体に対し中和剤を添加してpH調整を行うようにすることを特徴とする請求項2記載の大豆煮汁成分の有効活用方法。
【請求項5】
大豆煮汁成分を含有する前記液体が、大豆煮汁の原液,大豆煮汁の濃縮液,前記濃縮液の希釈液,又は大豆煮汁の固化物の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の大豆煮汁成分の有効活用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−173089(P2008−173089A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11806(P2007−11806)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(506009693)株式会社イヅツみそ (5)