大麦シロップ
【課題】粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富む大麦シロップを提供すること。
【解決手段】β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップ。
【解決手段】β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦シロップに関する。
【背景技術】
【0002】
大麦等の穀類を主原料とするシロップ(水飴)は、甘みと旨みのバランスが良い自然食品であり、発酵食品等の加工食品やアルコール飲料等の飲料の原料として利用されている。このようなシロップとしては、例えば、大麦を原料とする、高濃度のアミノ酸を含有する大麦シロップ(特許文献1)等が知られている。
【特許文献1】特開2006−262839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の大麦シロップは、粘度が高いため、加工食品や飲料の原料として利用する際に扱いが困難であった。また、近年、飲食品の機能性成分としてβ−グルカンが注目されているが、従来の大麦シロップは、β−グルカンを十分に含有するものではなかった。
【0004】
そこで、本発明は、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富む大麦シロップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、
α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、
含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップを提供する。ここで、「大麦シロップ」とは、大麦を原料とするシロップを意味する。
【0006】
本発明の大麦シロップは、粘度が十分に低く(1〜20mPa・s)、取扱いが容易である。また、β−グルカンを豊富に(当該シロップ全量に対して0.01mg/mL以上)含有し、更に、各種アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、GABA等)を豊富に含有する。また、例えば酵母で発酵させても、発酵過程(エキスの切れ、浮遊酵母数等)に悪影響を与えることがない。
【0007】
大麦シロップの製造の際には、原料の大麦由来のデンプン等の炭水化物がα−アミラーゼ等の酵素により分解されて低分子糖類になる。この大麦シロップの製造過程で、デンプンや低分子糖類の他にβ−グルカン等の物質が抽出され、これが大麦シロップに含まれる。本発明の大麦シロップを得るのに用いられる製造方法では、分解工程において、温度を50〜70℃とし、かつα−アミラーゼを存在させるので、上記製造方法を用いれば、低い粘度と高いβ−グルカン含有量とがバランスよく実現された大麦シロップを得ることが可能となる。
【0008】
上記製造方法では、得られる大麦シロップの粘度及びβ−グルカン含有量のより適正なバランスを実現するという観点から、分解工程において大麦又はその粉砕物を分解する温度として55〜65℃が好ましい。
【0009】
上記製造方法では、分解工程においてβ−アミラーゼを共存させることが好ましい。β−アミラーゼを共存させることにより、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0010】
また、上記製造方法では、原料の大麦由来のデンプン中のα−1,6−グルコシド結合(枝分かれ部分)を加水分解し、更に効率的に糖を生成させるために、分解工程においてプルラナーゼを共存させることが好ましい。プルラナーゼを共存させることにより、より糖化の進んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0011】
また、上記製造方法では、分解工程においてプロテアーゼを共存させることが好ましい。プロテアーゼを共存させることにより、タンパク質が分解され、アミノ酸をより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0012】
分解工程で用いられるα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。特に、プロテアーゼが共存する場合、当該プロテアーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。このような酵素を用いることにより、β−グルカンをより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0013】
分解工程でβ−アミラーゼを共存させない場合、上記製造方法は、分解工程により得られた分解物にβ−アミラーゼを添加し、分解物を更に分解する追加分解工程を備えることが好ましい。これにより、分解工程において、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0014】
追加分解工程において、β−アミラーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。このような酵素を用いることにより、β−グルカンをより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0015】
上記製造方法により得られる大麦シロップは、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富むことから、幅広い種類の機能性飲食品に好適に用いることができる。なお、「飲食品」としては、例えば、パン、ヨーグルト、チーズ、菓子、スナック類等の固形食材;味醂、酢、味噌、醤油、バター等の調味料;及び清涼飲料水、清酒、ビール、発泡酒、焼酎等の飲料が挙げられる。
【0016】
また、上記製造方法により得られる大麦シロップは、培地、特に発酵培地として用いることができ、例えば、大麦中に含まれる機能性物質を活かした新たな発酵飲食品の製造に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富む大麦シロップ、及びそのような大麦シロップを含有する飲食品及び培地が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本発明の大麦シロップは、α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られるものである。
【0020】
〔大麦シロップの製造方法〕
本発明の大麦シロップを得るのに用いられる製造方法では、まず、水溶媒中、α−アミラーゼの存在下、大麦又はその粉砕物を分解し、糖化液を得る(分解工程)。この分解工程では、原料の大麦中のデンプン等の炭水化物が低分子糖類に分解されるとともに、β−グルカン等の機能性物質が抽出される。
【0021】
大麦としては、二条、六条、裸、皮等、任意の種類の大麦を用いることができる。また、原料となる大麦としては、全粒、精麦粒、糠等、大麦種子に由来する任意の組織又は画分を用いることができる。
【0022】
なお、上記製造方法では大麦を原料としてシロップを製造するが、例えば、小麦、オーツ麦、燕麦、ライ麦、米等の穀類を大麦に代えて、又は大麦と組み合わせて原料として用い、これ以外は上記製造方法と同様にしてシロップを製造することもできる。
【0023】
α−アミラーゼとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば市販されているアミラーゼAD「アマノ」1(天野エンザイム社)、クライスターゼT10S(大和化成社)、クライスターゼYC15S(大和化成社)等を用いることができる。このようなα−アミラーゼの添加量は、α−アミラーゼの活性等に合わせて適宜調整することができ、例えば、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部とすることができる。
【0024】
上記製造方法では、分解工程においてβ−アミラーゼを共存させることが好ましい。β−アミラーゼを共存させることにより、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0025】
分解工程でβ−アミラーゼを共存させない場合、上記製造方法では、分解工程により得られた分解物にβ−アミラーゼを添加し、分解物を更に分解することが好ましい(追加分解工程)。これにより、分解工程において、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0026】
β−アミラーゼとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば市販されている東京化成工業社製のものを用いることができる。β−アミラーゼを添加する場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0027】
また、分解工程及び/又は追加分解工程では、原料の大麦由来のデンプン中のα−1,6−グルコシド結合(枝分かれ部分)を加水分解し、更に効率的に糖を生成させるために、プルラナーゼを共存させることが好ましい。プルラナーゼとしては、従来公知のものを用いることができる。プルラナーゼを共存させる場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0028】
また、分解工程及び/又は追加分解工程では、原料の大麦由来のタンパク質を分解し、アミノ酸を生成させるために、プロテアーゼを共存させることが好ましい。プロテアーゼとしては、従来公知のものを用いることができる。プロテアーゼを共存させる場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。なお、プロテアーゼを共存させることにより生成するアミノ酸としては、例えば、GABA、グルタミン酸等が挙げられる。上記製造方法により得られる大麦シロップは、β−グルカンに加えて、GABA、グルタミン酸等のアミノ酸を多く含んでおり、種々の機能性食品、発酵培地等に好適に用いることができる。
【0029】
α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼとしては、β−グルカナーゼ分解活性を示す成分が混在するものを用いることもできるが、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものを用いることが好ましく、特に、プロテアーゼは、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないことが好ましい。β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないプロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼS「アマノ」3G(天野エンザイム社)、サモアーゼPC10F、プロチンAC10F(大和化成社)、パパイン等が挙げられる。
【0030】
β−アミラーゼ、プルラナーゼ、プロテアーゼ等の酵素を共存させる場合、これらの酵素を加える順序は特に限定されず、α−アミラーゼと同時に加えても、また、α−アミラーゼを加える前又は後に加えてもよい。また、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも2種を混合し、その混合物を加えてもよい。
【0031】
(分解工程)
上記製造方法の分解工程において、大麦又はその粉砕物を分解する際の温度は50〜70℃である。上記温度が50〜70℃であると、低い粘度と高いβ−グルカン含有量とがバランスよく実現された大麦シロップを得ることが可能となる。得られる大麦シロップの粘度及びβ−グルカン含有量のより適正なバランスを実現するという観点から、上記温度は、より好ましくは55〜65℃である。なお、大麦又はその粉砕物を分解する際の温度は、必要とする粘度、β−グルカン含有量等に応じて、場合により、例えば、50〜55℃又は65〜70℃が好ましい。
【0032】
また、分解工程における反応時間は、α−アミラーゼの活性、反応スケール等に合わせて適宜調整することができ、例えば、30分〜24時間とすることができる。
【0033】
分解工程に供する大麦の濃度は、水に対して、好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは2〜60質量%、更に好ましくは2.5〜40質量%である。
【0034】
分解工程は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、分解工程中、適宜攪拌するのが好ましい。連続式の場合、予め原料大麦及び水を混合し、ポンプで送液しながら所定の温度、滞留時間で加熱することにより、大麦又はその粉砕物を分解して糖化液を得る。
【0035】
(追加分解工程)
追加分解工程において、分解工程により得られた分解物を更に分解する際の温度は、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃である。また、追加分解工程における反応時間は、β−アミラーゼの活性、反応スケール等に合わせて適宜調整することができ、例えば、30分〜24時間とすることができる。
【0036】
追加分解工程は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、追加分解工程中、適宜攪拌するのが好ましい。連続式の場合、分解工程で得られた糖化液をポンプで送液しながら所定の温度、滞留時間で加熱することにより、上記分解物を更に分解する。
【0037】
(分離後工程)
次に、分解工程又は追加分解工程で得られた糖化液から、遠心分離又はフィルタープレスにより不溶部を除去する。そして、残った可溶部をケイソウ土、活性炭等を助剤として濾過し、更に精密濾過を行って精製することにより、目的の大麦シロップが得られる。
【0038】
(前処理工程)
上記製造方法は、分解工程の前に、大麦又はその粉砕物を20〜40℃の温度で前処理する前処理工程を備えていてもよい。
【0039】
前処理工程では、大麦又はその粉砕物を、例えば、20〜40℃の温度の水溶媒中で30分〜24時間反応させる。これにより、大麦中の内生酵素を活性化させ、得られる大麦シロップ中のアミノ酸(GABA、グルタミン酸等)、ペプチド、タンパク質等の含有量を増大させることができる。
【0040】
〔大麦シロップ〕
本発明の大麦シロップは、粘度が十分に低く(1〜20mPa・s)、取扱いが容易である。また、β−グルカンを豊富に(当該シロップ全量に対して0.01mg/mL以上)含有し、更に、各種アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、GABA等)を豊富に含有する。また、例えば酵母で発酵させても、発酵過程(エキスの切れ、浮遊酵母数等)に悪影響を与えることがない。従って、上記大麦シロップは、例えば、発泡性アルコール飲料の原料として好適であり、これを使用すれば、β−グルカン及びアミノ酸を豊富に含有する、機能性の高い発泡性アルコール飲料を容易に得ることが可能となる。なお、大麦シロップに含まれる機能性物質の種類及び含有量は、原料の大麦の種類や、分解工程で用いられる酵素の種類を変えることにより、適宜調整することができる。
【0041】
また、本発明の大麦シロップは、適宜処理して目的の用途に適した状態とすることができる。このような処理としては、例えば、濃縮処理や殺菌・粉末化処理が挙げられる。特に、従来の製造方法により得られる高粘度の大麦シロップの場合、殺菌・粉末化処理は困難である。本発明の大麦シロップでは、殺菌・粉末化処理を容易に行うことができる。
【0042】
本発明の大麦シロップは、例えば、パン、ヨーグルト、チーズ、菓子、スナック類等の固形食材;味醂、酢、味噌、醤油、バター等の調味料;清涼飲料水、清酒、ビール、発泡酒、焼酎等の飲料、等の飲食品に好適に用いることができる。
【0043】
また、本発明の大麦シロップは、培地、特に発酵培地として用いることができ、例えば、大麦中に含まれる機能性物質を活かした新たな発酵飲食品の製造に利用することができる。
【0044】
本発明の大麦シロップにおいて、含有されるβ−グルカンの重量平均分子量Mwは50000〜500000である。β−グルカンの重量平均分子量Mwがそのような範囲にある大麦シロップは、粘度が低く、飲食品に利用するのに特に好適である。飲食品への利用しやすさの点で、β−グルカンの重量平均分子量Mwは、例えば、100000〜300000が好ましく、100000〜200000がより好ましい。
【0045】
また、飲食品への利用しやすさの点で、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの数平均分子量Mnは、例えば、30000〜300000が好ましく、50000〜200000がより好ましく、50000〜150000が更に好ましい。
【0046】
また、飲食品への利用しやすさの点で、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの分子量分布は単分散性を示すことが好ましく、β−グルカンの重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)は、例えば、1〜16が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が更に好ましく、1〜3が更に好ましく、1〜2が更に好ましい。
【0047】
なお、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの分子量(Mw、Mn)は、GPC、浸透圧法等によって測定することができるが、簡便さの点で、例えばGPCを用いるのが好ましい。また、例えばGPCで測定する際は、大麦シロップ中の他の成分の影響を排除するという観点から、プレカラム法又はポストカラム法を併用して、β−グルカンを特異的に誘導体化するのが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔酵素のβ−グルカン分解活性の評価〕
各種酵素(プロテアーゼ)におけるβ−グルカン分解活性の有無を調べるため、β−グルカン標準液と各種酵素とを混合し、50℃で16.5時間反応させた後、β−グルカン濃度を測定した。
【0050】
まず、凍結保存していたFOSS(FOSS Analytical AB,Sweden)のβ−glucan Standard:Calibration Standard(Solution 250mL.300mg/L,β−Glucan Analyzer,Carlsberg System(Contains:Barley β−glucan,Thimerosal))を使用直前に70℃で1時間解凍し、水で150ppmに希釈し、これをβ−グルカン標準液とした。
【0051】
次に、表1に示す評価用サンプルを調製した。表1に示す酵素のうち、No.4〜16及び18の粉末状酵素については、酵素125μgを水1000μLに溶解し、得られた溶液の10μLを水990μLで希釈し、得られた酵素溶液の10μLをβ−グルカン標準液1000μLに添加することにより、評価用サンプルを調製した。
【0052】
表1に示す酵素のうち、No.17の液状酵素については、酵素125μLを水1000μLに溶解し、得られた溶液の10μLを水990μLで希釈し、得られた酵素溶液の10μLをβ−グルカン標準液1000μLに添加することにより、評価用サンプルを調製した。
【0053】
また、表1に示すNo.1〜3のサンプルは対照用のものであり、酵素を添加せず、β−グルカン標準液のみを用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、No.1〜18のサンプルについて所定の処理を行った。No.1及び2のサンプルについては5℃で16.5時間、No.3のサンプルについては50℃で16.5時間、No.4〜18のサンプルについては、酵素溶液を添加した後、50℃で16.5時間保存した。No.2〜18のサンプルについては、100℃で5分間熱処理を行った後、5℃、13200rpmで15分間遠心にかけ、サンプルの上清をβ−グルカン濃度の測定に供した。No.1のサンプルについては、熱処理及び遠心処理のいずれも行うことなくβ−グルカン濃度の測定に供した。
【0056】
上述の処理を行ったNo.1〜18のサンプルについて、0.45μmフィルターで濾過した後に、20℃の測定室で、以下の装置を用いてβ−グルカン濃度を測定した。結果を図1に示す。
・高圧ポンプ2台:
Shodex(昭和電工社)DS−4(水1.0mL/分);
HITACHI L−6000 Pump(反応液2.0mL/分)
・オートサンプラー:
No.1:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデルAS−09;
No.2:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデル33
・蛍光検出器:島津高速液体クロマトグラフ用分光蛍光検出器RF−10AXL(励起波長360nm,蛍光波長420nm)
・カラム恒温槽:Shodex(昭和電工社) OVEN AO−30C
・脱気装置:イーアールシー社 ERC−3215
・データ処理機:システムインスツルメンツ社 Chromatocorder21
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのテフロンチューブを径7cmに丸巻き
・ゲル濾過カラム:Shodex SUGAR BT−603
カラムサイズ:6φ×50mm
カラム末端接続ネジ:オシネジ型,No.10−32UNF
カラム材質:SUS 316
充填剤:ポリヒドロキシメタクリレート
排除限界分子量:1×105(プルラン)
【0057】
図1から、No.4〜9及び16の酵素を用いた場合は、β−グルカンが多く分解されており、これらの酵素はβ−グルカン分解活性を示す成分を含有することが明らかとなった。これに対して、No.10、13、14及び18の酵素を用いた場合は、β−グルカンがほとんど分解されておらず、これらの酵素はβ−グルカン分解活性を示す成分をほとんど含有しないことが明らかとなった。
【0058】
〔大麦粉砕物の調製〕
CDC Fibar(2006年カナダ産)を全粒のままサイクロンミルで粉砕し、大麦シロップの原料とした。なお、この大麦粉砕物50gを、75μmメッシュ、150μmメッシュ、300μmメッシュ、600μmメッシュ、1000μmメッシュ又は2000μmメッシュの篩の上に載せ、5分間篩にかけることにより、大麦粉砕物の粒径測定を行った。結果を図2に示す。また、この大麦粉砕物について、ケルダール法により粗タンパク質を定量したところ、その値は無水換算で18.5%であった。
【0059】
〔酵素の準備〕
α−アミラーゼとしてクライスターゼYC15S(商品名、大和化成社)を、プロテアーゼとしてプロテアーゼS「アマノ」G(商品名、天野エンザイム社)を、β−アミラーゼとして東京化成工業社製のβ−アミラーゼを、プルラナーゼとして天野エンザイム社製のプルラナーゼを準備した。以下の実施例1〜11では、各酵素について、当該酵素25mgを水1000μLで溶解して得られる溶液の40μLを用いた。
【0060】
〔実施例1〕
50mLファルコンチューブに水40mLを入れ、水を50℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物1.0gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を50℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで4時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0061】
〔実施例2〕
α−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0062】
〔実施例3〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から60℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0063】
〔実施例4〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から60℃に変更し、かつα−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0064】
〔実施例5〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から70℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0065】
〔実施例6〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から70℃に変更し、かつα−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0066】
〔大麦シロップの評価(1)〕
実施例1〜6で得られた大麦シロップについて、粘度、濾過速度、β−グルカン濃度、SN(Soluble Nitrogen)、アミノ酸濃度及びBrixを測定した。
【0067】
(粘度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップについて、ウベローデ型粘度計を用いて、原液サンプル、又は水で希釈した原液サンプルの、20.00℃における粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
(濾過速度の評価)
実施例1〜6における濾過に要する時間を測定した。濾過時間が15分以内である場合を「A」、15〜30分である場合を「B」、30分を超える場合を「C」として評価した。結果を表2に示す。
【0069】
(β−グルカン濃度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップを、各々、水で7.5倍希釈した後、0.45μmフィルターで濾過し、この濾過物について20℃の測定室でβ−グルカン濃度を測定した。結果を表2に示す。なお、測定の際の装置としては、上述の「酵素のβ−グルカン分解活性の評価」で用いたものと同様のものを用いた。
【0070】
(SNの測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップの濾過液について、ケルダール法でSNを測定した。結果を表2に示す。
【0071】
(Brixの測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップの濾過液について、ATAGOのRX−5000でBrixを測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(アミノ酸濃度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップをUltracel YM−10 Regenerated Cellulose 10,000MWCO(MILLIPORE社)で濾過し、濾過液を水で希釈した後、AccQ・FLUOR REAGENT KIT(Waters社)を用いて、AccQ・Tag法で誘導体化させ、アミノ酸濃度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、表中、「total a.a.」は、タンパク質構成アミノ酸のうち検出不可のトリプトファンを除く全遊離アミノ酸を、「GABA」はγ−アミノ酪酸を、「Glu」はグルタミン酸を示す。また、測定には以下の装置及び条件を用いた。
・装置:2695セパレーションモジュール;カラムヒーター;2475マルチλ蛍光検出器;Empowerパーソナル
・移動相A:166mM 酢酸ナトリウム/5.6mM トリエチルアミン,pH5.7
・移動相B:166mM 酢酸ナトリウム/5.6mM トリエチルアミン,pH6.8
・移動相C:アセトニトリル
・移動相D:水
・カラム:AccQ−Tag Amino Acid Analysis Column(3.9×150mm) + Sentry Nova C18
・カラム温度:39℃
・注入量:39μL
・検出:Ex 250nm/Em 395nm,GAIN10
【0073】
【表2】
【0074】
〔実施例7〕
50mLファルコンチューブに水40mLを入れ、水を60℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物1.0gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を60℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで24時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0075】
〔実施例8〕
α−アミラーゼに加えてβ−アミラーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0076】
〔実施例9〕
α−アミラーゼに加えてプルラナーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0077】
〔実施例10〕
α−アミラーゼに加えて、β−アミラーゼ及びプルラナーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0078】
〔実施例11〕
α−アミラーゼに加えて、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0079】
〔大麦シロップの評価(2)〕
実施例7〜11で得られた大麦シロップについて、β−グルカン濃度、アミノ酸濃度、Brix及び糖濃度を測定した。なお、β−グルカン濃度、アミノ酸濃度及びBrixの測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」の場合と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0080】
(糖濃度の測定)
実施例7〜11で得られた大麦シロップの濾過液を100℃で10分間熱処理した後、アイスバスで急冷した。これを、15000rpm、5℃で15分間遠心にかけ、上清を0.1%安息香酸で希釈し、糖濃度の測定に供した。結果を表3に示す。なお、測定には以下の装置及び条件を用いた。
・装置:DIONEX DX−300
・移動相A:0.1M 水酸化ナトリウム
・移動相B:0.1M 水酸化ナトリウム/1M 酢酸ナトリウム
・カラム:CarboPac PA1
・注入量:15μL
【0081】
【表3】
【0082】
〔実施例12〕
500mLチューブに水400mLを入れ、水を60℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物50gを入れ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ及びプロテアーゼを各々、対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を60℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで24時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0083】
〔比較例1〕
500mLチューブに水400mLを入れ、水を55℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物50gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.05%(w/w)添加し、内温を55℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで1時間振とうした。次いで、1時間かけて90℃に昇温し、更にα−アミラーゼを対大麦0.05%(w/w)添加し、1時間反応させて液化液を得た。その後、得られた液化液を60℃まで冷却し、β−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、60℃で24時間反応させて糖化液を得た。更に、プロテアーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、60℃で24時間反応させた。反応液を濾紙で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0084】
〔大麦シロップの評価(3)〕
実施例12及び比較例1で得られた大麦シロップについて、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で、粘度、β−グルカン濃度、SN及びBrixを測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
〔実施例13〕
(シロップの調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の種子を全粒のままサイクロンミルで粉砕して得た大麦種子粉砕物123gに、α−アミラーゼ(クライスターゼYC15S、大和化成社)140mg、β−アミラーゼ(A0448、東京化成工業社)140mg、プロテアーゼ(サモアーゼPC10F、大和化成社)140mg、プルラナーゼ原液140μL及び水700mLの混合物を添加し、60℃で24時間振とうした。これを5000rpmで30分間遠心分離して、煮沸前シロップ(上清)を得た。煮沸前シロップについて、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0087】
煮沸前シロップにホップ0.5g/250mLを添加し、105℃で90分間煮沸した後、Brixが11.0%になるように加水して、煮沸後シロップを得た。煮沸後シロップについて、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0088】
なお、β−グルカン濃度、窒素量(SN)及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0089】
(シロップの発酵)
上記大麦シロップ(煮沸後シロップ)に下面ビール酵母(S.pastorianus)を添加し、6日間、10〜12℃で発酵させた。発酵条件は下記の通りである。
・エキス濃度:約11%
・大麦シロップの容量:約2.5L
・大麦シロップの溶存酸素濃度:5〜10ppm
・下面ビール酵母投入量:約12g湿酵母菌体
【0090】
発酵工程における大麦シロップ中の残存エキス量及び浮遊酵母数の変化をモニターした。結果を図4及び図5に示す。
【0091】
発酵後の大麦シロップについて、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表7、図6及び図7に示す。なお、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0092】
〔比較例2〕
(麦汁の調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の麦芽をサイクロンミルで粉砕して得た大麦麦芽粉砕物60gに水230mLを添加し、下記温度条件で糖化を行った。
48℃で20分間保持 → 1℃/分で65℃まで昇温
→ 65℃で80分間保持 → 1℃/分で75℃まで昇温
→ 75℃で10分間保持
【0093】
得られた糖化液を総重量400gになるように水でメスアップした後(60g malt/340g 水 = 0.176g malt/1mL 水)、濾過して煮沸前麦汁(濾液)を得た。煮沸前麦汁について、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0094】
煮沸前麦汁にホップ0.5g/250mLを添加し、105℃で90分間煮沸した後、Brixが11.0%になるように加水して、煮沸後麦汁を得た。煮沸後麦汁について、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0095】
なお、β−グルカン濃度、窒素量(SN)及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0096】
(麦汁の発酵)
上記麦汁(煮沸後麦汁)に下面ビール酵母(S.pastorianus)を添加し、6日間、10〜12℃で発酵させた。発酵条件は下記の通りである。
・エキス濃度:約11%
・麦汁の容量:約2.5L
・麦汁の溶存酸素濃度:5〜10ppm
・下面ビール酵母投入量:約12g湿酵母菌体
【0097】
発酵工程における麦汁中の残存エキス量及び浮遊酵母数の変化をモニターした。結果を図4及び図5に示す。
【0098】
発酵後の麦汁について、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表7、表8、図6及び図7に示す。なお、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
表5から明らかなように、β−グルカン濃度は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。また、窒素量は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より多かった。
【0104】
表6及び図3から明らかなように、各種遊離アミノ酸(プロリンを除く。)濃度及び総遊離アミノ酸量は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より高かった。特に、分岐鎖アミノ酸(Val、Leu、Ile)、Ala、Lys、Arg、Glu、Metは、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0105】
図4及び図5から明らかなように、シロップ(実施例13)と麦汁(比較例2)との間で、発酵過程におけるエキスの切れ(エキス量の減少速度)及び浮遊酵母数に大きな差は認められなかった。
【0106】
表7及び図6から明らかなように、発酵後のβ−グルカン濃度は、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0107】
表8及び図7から明らかなように、発酵後の各種遊離アミノ酸(プロリンを除く。)濃度及び総遊離アミノ酸量は、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より高かった。特に、分岐鎖アミノ酸(Val、Leu、Ile)、Ala、Lys、Arg、Glu、Metは、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0108】
以上の実施例及び比較例により、本発明の大麦シロップは、β−グルカン及び各種アミノ酸(特に、Val、Leu、Ile、Ala、Lys、Arg、Glu、Met)を豊富に含有し、また、従来の方法で得られる麦汁と同程度の発酵性を有することが示された。また、本発明の大麦シロップは、例えば、機能性の高い発泡性アルコール飲料の原料として好適であることが示された。
【0109】
〔実施例14〕
(大麦シロップの調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の種子を全粒のままサイクロンミルで粉砕して得た大麦種子粉砕物123gに、α−アミラーゼ(クライスターゼYC15S、大和化成社)140mg、β−アミラーゼ(A0448、東京化成工業社)140mg、プロテアーゼ(サモアーゼPC10F、大和化成社)140mg、プルラナーゼ原液140μL及び水700mLの混合物を添加し、60℃で24時間振とうした。これを5000rpmで30分間遠心分離して、大麦シロップ(上清)を得た。
【0110】
(β−グルカンの分子量分布の測定)
得られた大麦シロップについて、β−グルカンの分子量分布をGPCにより測定した。サンプルとしては下記の2種のサンプル(冷蔵サンプル、冷凍サンプル)を使用し、各々について下記条件でGPC分析を行った(冷凍サンプルの分析は、大麦シロップの冷凍保存性を確認するために行った)。ポンプは2台(ポンプA、B)使用し、ポンプA、Bには、それぞれ溶離液A、Bを流した。
【0111】
・冷蔵サンプル:上述の大麦シロップ(上清)を冷蔵保存し、分析直前に室温下、0.45μmのフィルターで濾過して得たサンプル(濾液)
・冷凍サンプル:上述の大麦シロップ(上清)を−18℃で冷凍保存し、分析直前に室温で解凍後、0.45μmのフィルターで濾過して得たサンプル(濾液)
・オーブン温度:40℃
・カラム:Shodex OHPak SB−806HQ(分子量2000万排除)
+ Shodex OHPak SB−804HQ(分子量100万排除)
+ Shodex OHPak SB−803HQ(分子量10万排除)
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのステンレスチューブ
・溶離液A:超純水
流量:1mL/分
・溶離液B:超純水(RI分析時);カルコフロー溶液(FL分析時)
流量:1mL/分
・HPLC装置:島津製作所 LC−10 Series
システムコントローラー:SCL−10Avp
ポンプ:LC−10ATvp
オーブン:CTO−10ACvp
オートサンプラー:SIL−10ADvp
検出器:RID−10A,RF−10AxL
・解析ソフトウェア:Class−VP,Class−VP用GPC解析ソフトウェア
・検出器:示差屈折率(RI)検出器(温度:40℃);蛍光(FL)検出器(励起波長360nm,蛍光波長420nm)
・注入量:100μL
・分析時間:40分
【0112】
結果を表9及び図8〜11に示す。表9は、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて、β−グルカンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びそれらの比(Mw/Mn)を示す表である。図8及び図9はそれぞれ、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて得られたクロマトグラムである。また、図10及び図11はそれぞれ、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。分子量分布曲線は、プルランスタンダード(Shodex)[分子量(M):5800、12200、23700、48000、100000、186000、380000、853000]の0.2%(w/v)水溶液を標準溶液として作成した較正曲線(図12)を用いて、FL分析の結果から求めた。なお、FL分析の結果は、カルコフローに特異的に反応するβ−グルカンの分子量分布を反映していると考えられる。
【0113】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】各種プロテアーゼとの反応後の、β−グルカン標準液中のβ−グルカン濃度を示すグラフである。
【図2】大麦粉砕物の粒径分布を示すグラフである。
【図3】煮沸前後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の各種アミノ酸濃度を示すグラフである。
【図4】発酵工程における麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の残存エキス量の経時的変化を示すグラフである。
【図5】発酵工程における麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の浮遊酵母数の経時的変化を示すグラフである。
【図6】発酵後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中のβ−グルカン濃度を示すグラフである。
【図7】発酵後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の遊離アミノ酸濃度を示すグラフである。
【図8】大麦シロップの冷蔵サンプルについて得られたクロマトグラムである。
【図9】大麦シロップの冷凍サンプルについて得られたクロマトグラムである。
【図10】大麦シロップの冷蔵サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。
【図11】大麦シロップの冷凍サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。
【図12】実施例14で用いたGPCカラムに関する較正曲線である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦シロップに関する。
【背景技術】
【0002】
大麦等の穀類を主原料とするシロップ(水飴)は、甘みと旨みのバランスが良い自然食品であり、発酵食品等の加工食品やアルコール飲料等の飲料の原料として利用されている。このようなシロップとしては、例えば、大麦を原料とする、高濃度のアミノ酸を含有する大麦シロップ(特許文献1)等が知られている。
【特許文献1】特開2006−262839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の大麦シロップは、粘度が高いため、加工食品や飲料の原料として利用する際に扱いが困難であった。また、近年、飲食品の機能性成分としてβ−グルカンが注目されているが、従来の大麦シロップは、β−グルカンを十分に含有するものではなかった。
【0004】
そこで、本発明は、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富む大麦シロップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、
α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、
含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップを提供する。ここで、「大麦シロップ」とは、大麦を原料とするシロップを意味する。
【0006】
本発明の大麦シロップは、粘度が十分に低く(1〜20mPa・s)、取扱いが容易である。また、β−グルカンを豊富に(当該シロップ全量に対して0.01mg/mL以上)含有し、更に、各種アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、GABA等)を豊富に含有する。また、例えば酵母で発酵させても、発酵過程(エキスの切れ、浮遊酵母数等)に悪影響を与えることがない。
【0007】
大麦シロップの製造の際には、原料の大麦由来のデンプン等の炭水化物がα−アミラーゼ等の酵素により分解されて低分子糖類になる。この大麦シロップの製造過程で、デンプンや低分子糖類の他にβ−グルカン等の物質が抽出され、これが大麦シロップに含まれる。本発明の大麦シロップを得るのに用いられる製造方法では、分解工程において、温度を50〜70℃とし、かつα−アミラーゼを存在させるので、上記製造方法を用いれば、低い粘度と高いβ−グルカン含有量とがバランスよく実現された大麦シロップを得ることが可能となる。
【0008】
上記製造方法では、得られる大麦シロップの粘度及びβ−グルカン含有量のより適正なバランスを実現するという観点から、分解工程において大麦又はその粉砕物を分解する温度として55〜65℃が好ましい。
【0009】
上記製造方法では、分解工程においてβ−アミラーゼを共存させることが好ましい。β−アミラーゼを共存させることにより、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0010】
また、上記製造方法では、原料の大麦由来のデンプン中のα−1,6−グルコシド結合(枝分かれ部分)を加水分解し、更に効率的に糖を生成させるために、分解工程においてプルラナーゼを共存させることが好ましい。プルラナーゼを共存させることにより、より糖化の進んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0011】
また、上記製造方法では、分解工程においてプロテアーゼを共存させることが好ましい。プロテアーゼを共存させることにより、タンパク質が分解され、アミノ酸をより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0012】
分解工程で用いられるα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。特に、プロテアーゼが共存する場合、当該プロテアーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。このような酵素を用いることにより、β−グルカンをより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0013】
分解工程でβ−アミラーゼを共存させない場合、上記製造方法は、分解工程により得られた分解物にβ−アミラーゼを添加し、分解物を更に分解する追加分解工程を備えることが好ましい。これにより、分解工程において、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0014】
追加分解工程において、β−アミラーゼとしては、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものが好ましい。このような酵素を用いることにより、β−グルカンをより多く含んだ大麦シロップを得ることが可能となる。
【0015】
上記製造方法により得られる大麦シロップは、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富むことから、幅広い種類の機能性飲食品に好適に用いることができる。なお、「飲食品」としては、例えば、パン、ヨーグルト、チーズ、菓子、スナック類等の固形食材;味醂、酢、味噌、醤油、バター等の調味料;及び清涼飲料水、清酒、ビール、発泡酒、焼酎等の飲料が挙げられる。
【0016】
また、上記製造方法により得られる大麦シロップは、培地、特に発酵培地として用いることができ、例えば、大麦中に含まれる機能性物質を活かした新たな発酵飲食品の製造に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粘度が十分に低く、かつβ−グルカンに富む大麦シロップ、及びそのような大麦シロップを含有する飲食品及び培地が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本発明の大麦シロップは、α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られるものである。
【0020】
〔大麦シロップの製造方法〕
本発明の大麦シロップを得るのに用いられる製造方法では、まず、水溶媒中、α−アミラーゼの存在下、大麦又はその粉砕物を分解し、糖化液を得る(分解工程)。この分解工程では、原料の大麦中のデンプン等の炭水化物が低分子糖類に分解されるとともに、β−グルカン等の機能性物質が抽出される。
【0021】
大麦としては、二条、六条、裸、皮等、任意の種類の大麦を用いることができる。また、原料となる大麦としては、全粒、精麦粒、糠等、大麦種子に由来する任意の組織又は画分を用いることができる。
【0022】
なお、上記製造方法では大麦を原料としてシロップを製造するが、例えば、小麦、オーツ麦、燕麦、ライ麦、米等の穀類を大麦に代えて、又は大麦と組み合わせて原料として用い、これ以外は上記製造方法と同様にしてシロップを製造することもできる。
【0023】
α−アミラーゼとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば市販されているアミラーゼAD「アマノ」1(天野エンザイム社)、クライスターゼT10S(大和化成社)、クライスターゼYC15S(大和化成社)等を用いることができる。このようなα−アミラーゼの添加量は、α−アミラーゼの活性等に合わせて適宜調整することができ、例えば、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部とすることができる。
【0024】
上記製造方法では、分解工程においてβ−アミラーゼを共存させることが好ましい。β−アミラーゼを共存させることにより、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0025】
分解工程でβ−アミラーゼを共存させない場合、上記製造方法では、分解工程により得られた分解物にβ−アミラーゼを添加し、分解物を更に分解することが好ましい(追加分解工程)。これにより、分解工程において、原料の大麦中に含まれるβ−アミラーゼが熱により失活したとしても、β−アミラーゼ活性を補うことができ、より効率的に糖を生成させることが可能となる。
【0026】
β−アミラーゼとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば市販されている東京化成工業社製のものを用いることができる。β−アミラーゼを添加する場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0027】
また、分解工程及び/又は追加分解工程では、原料の大麦由来のデンプン中のα−1,6−グルコシド結合(枝分かれ部分)を加水分解し、更に効率的に糖を生成させるために、プルラナーゼを共存させることが好ましい。プルラナーゼとしては、従来公知のものを用いることができる。プルラナーゼを共存させる場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0028】
また、分解工程及び/又は追加分解工程では、原料の大麦由来のタンパク質を分解し、アミノ酸を生成させるために、プロテアーゼを共存させることが好ましい。プロテアーゼとしては、従来公知のものを用いることができる。プロテアーゼを共存させる場合、その添加量は、大麦又はその粉砕物の合計100質量部に対して0.01〜1質量部であることが好ましい。なお、プロテアーゼを共存させることにより生成するアミノ酸としては、例えば、GABA、グルタミン酸等が挙げられる。上記製造方法により得られる大麦シロップは、β−グルカンに加えて、GABA、グルタミン酸等のアミノ酸を多く含んでおり、種々の機能性食品、発酵培地等に好適に用いることができる。
【0029】
α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼとしては、β−グルカナーゼ分解活性を示す成分が混在するものを用いることもできるが、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないものを用いることが好ましく、特に、プロテアーゼは、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないことが好ましい。β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しないプロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼS「アマノ」3G(天野エンザイム社)、サモアーゼPC10F、プロチンAC10F(大和化成社)、パパイン等が挙げられる。
【0030】
β−アミラーゼ、プルラナーゼ、プロテアーゼ等の酵素を共存させる場合、これらの酵素を加える順序は特に限定されず、α−アミラーゼと同時に加えても、また、α−アミラーゼを加える前又は後に加えてもよい。また、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも2種を混合し、その混合物を加えてもよい。
【0031】
(分解工程)
上記製造方法の分解工程において、大麦又はその粉砕物を分解する際の温度は50〜70℃である。上記温度が50〜70℃であると、低い粘度と高いβ−グルカン含有量とがバランスよく実現された大麦シロップを得ることが可能となる。得られる大麦シロップの粘度及びβ−グルカン含有量のより適正なバランスを実現するという観点から、上記温度は、より好ましくは55〜65℃である。なお、大麦又はその粉砕物を分解する際の温度は、必要とする粘度、β−グルカン含有量等に応じて、場合により、例えば、50〜55℃又は65〜70℃が好ましい。
【0032】
また、分解工程における反応時間は、α−アミラーゼの活性、反応スケール等に合わせて適宜調整することができ、例えば、30分〜24時間とすることができる。
【0033】
分解工程に供する大麦の濃度は、水に対して、好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは2〜60質量%、更に好ましくは2.5〜40質量%である。
【0034】
分解工程は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、分解工程中、適宜攪拌するのが好ましい。連続式の場合、予め原料大麦及び水を混合し、ポンプで送液しながら所定の温度、滞留時間で加熱することにより、大麦又はその粉砕物を分解して糖化液を得る。
【0035】
(追加分解工程)
追加分解工程において、分解工程により得られた分解物を更に分解する際の温度は、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃である。また、追加分解工程における反応時間は、β−アミラーゼの活性、反応スケール等に合わせて適宜調整することができ、例えば、30分〜24時間とすることができる。
【0036】
追加分解工程は、バッチ式でも連続式でもよい。バッチ式の場合、追加分解工程中、適宜攪拌するのが好ましい。連続式の場合、分解工程で得られた糖化液をポンプで送液しながら所定の温度、滞留時間で加熱することにより、上記分解物を更に分解する。
【0037】
(分離後工程)
次に、分解工程又は追加分解工程で得られた糖化液から、遠心分離又はフィルタープレスにより不溶部を除去する。そして、残った可溶部をケイソウ土、活性炭等を助剤として濾過し、更に精密濾過を行って精製することにより、目的の大麦シロップが得られる。
【0038】
(前処理工程)
上記製造方法は、分解工程の前に、大麦又はその粉砕物を20〜40℃の温度で前処理する前処理工程を備えていてもよい。
【0039】
前処理工程では、大麦又はその粉砕物を、例えば、20〜40℃の温度の水溶媒中で30分〜24時間反応させる。これにより、大麦中の内生酵素を活性化させ、得られる大麦シロップ中のアミノ酸(GABA、グルタミン酸等)、ペプチド、タンパク質等の含有量を増大させることができる。
【0040】
〔大麦シロップ〕
本発明の大麦シロップは、粘度が十分に低く(1〜20mPa・s)、取扱いが容易である。また、β−グルカンを豊富に(当該シロップ全量に対して0.01mg/mL以上)含有し、更に、各種アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、リジン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、GABA等)を豊富に含有する。また、例えば酵母で発酵させても、発酵過程(エキスの切れ、浮遊酵母数等)に悪影響を与えることがない。従って、上記大麦シロップは、例えば、発泡性アルコール飲料の原料として好適であり、これを使用すれば、β−グルカン及びアミノ酸を豊富に含有する、機能性の高い発泡性アルコール飲料を容易に得ることが可能となる。なお、大麦シロップに含まれる機能性物質の種類及び含有量は、原料の大麦の種類や、分解工程で用いられる酵素の種類を変えることにより、適宜調整することができる。
【0041】
また、本発明の大麦シロップは、適宜処理して目的の用途に適した状態とすることができる。このような処理としては、例えば、濃縮処理や殺菌・粉末化処理が挙げられる。特に、従来の製造方法により得られる高粘度の大麦シロップの場合、殺菌・粉末化処理は困難である。本発明の大麦シロップでは、殺菌・粉末化処理を容易に行うことができる。
【0042】
本発明の大麦シロップは、例えば、パン、ヨーグルト、チーズ、菓子、スナック類等の固形食材;味醂、酢、味噌、醤油、バター等の調味料;清涼飲料水、清酒、ビール、発泡酒、焼酎等の飲料、等の飲食品に好適に用いることができる。
【0043】
また、本発明の大麦シロップは、培地、特に発酵培地として用いることができ、例えば、大麦中に含まれる機能性物質を活かした新たな発酵飲食品の製造に利用することができる。
【0044】
本発明の大麦シロップにおいて、含有されるβ−グルカンの重量平均分子量Mwは50000〜500000である。β−グルカンの重量平均分子量Mwがそのような範囲にある大麦シロップは、粘度が低く、飲食品に利用するのに特に好適である。飲食品への利用しやすさの点で、β−グルカンの重量平均分子量Mwは、例えば、100000〜300000が好ましく、100000〜200000がより好ましい。
【0045】
また、飲食品への利用しやすさの点で、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの数平均分子量Mnは、例えば、30000〜300000が好ましく、50000〜200000がより好ましく、50000〜150000が更に好ましい。
【0046】
また、飲食品への利用しやすさの点で、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの分子量分布は単分散性を示すことが好ましく、β−グルカンの重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)は、例えば、1〜16が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が更に好ましく、1〜3が更に好ましく、1〜2が更に好ましい。
【0047】
なお、本発明の大麦シロップに含有されるβ−グルカンの分子量(Mw、Mn)は、GPC、浸透圧法等によって測定することができるが、簡便さの点で、例えばGPCを用いるのが好ましい。また、例えばGPCで測定する際は、大麦シロップ中の他の成分の影響を排除するという観点から、プレカラム法又はポストカラム法を併用して、β−グルカンを特異的に誘導体化するのが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔酵素のβ−グルカン分解活性の評価〕
各種酵素(プロテアーゼ)におけるβ−グルカン分解活性の有無を調べるため、β−グルカン標準液と各種酵素とを混合し、50℃で16.5時間反応させた後、β−グルカン濃度を測定した。
【0050】
まず、凍結保存していたFOSS(FOSS Analytical AB,Sweden)のβ−glucan Standard:Calibration Standard(Solution 250mL.300mg/L,β−Glucan Analyzer,Carlsberg System(Contains:Barley β−glucan,Thimerosal))を使用直前に70℃で1時間解凍し、水で150ppmに希釈し、これをβ−グルカン標準液とした。
【0051】
次に、表1に示す評価用サンプルを調製した。表1に示す酵素のうち、No.4〜16及び18の粉末状酵素については、酵素125μgを水1000μLに溶解し、得られた溶液の10μLを水990μLで希釈し、得られた酵素溶液の10μLをβ−グルカン標準液1000μLに添加することにより、評価用サンプルを調製した。
【0052】
表1に示す酵素のうち、No.17の液状酵素については、酵素125μLを水1000μLに溶解し、得られた溶液の10μLを水990μLで希釈し、得られた酵素溶液の10μLをβ−グルカン標準液1000μLに添加することにより、評価用サンプルを調製した。
【0053】
また、表1に示すNo.1〜3のサンプルは対照用のものであり、酵素を添加せず、β−グルカン標準液のみを用いた。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、No.1〜18のサンプルについて所定の処理を行った。No.1及び2のサンプルについては5℃で16.5時間、No.3のサンプルについては50℃で16.5時間、No.4〜18のサンプルについては、酵素溶液を添加した後、50℃で16.5時間保存した。No.2〜18のサンプルについては、100℃で5分間熱処理を行った後、5℃、13200rpmで15分間遠心にかけ、サンプルの上清をβ−グルカン濃度の測定に供した。No.1のサンプルについては、熱処理及び遠心処理のいずれも行うことなくβ−グルカン濃度の測定に供した。
【0056】
上述の処理を行ったNo.1〜18のサンプルについて、0.45μmフィルターで濾過した後に、20℃の測定室で、以下の装置を用いてβ−グルカン濃度を測定した。結果を図1に示す。
・高圧ポンプ2台:
Shodex(昭和電工社)DS−4(水1.0mL/分);
HITACHI L−6000 Pump(反応液2.0mL/分)
・オートサンプラー:
No.1:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデルAS−09;
No.2:システムインスツルメンツ社 オートサンプラ モデル33
・蛍光検出器:島津高速液体クロマトグラフ用分光蛍光検出器RF−10AXL(励起波長360nm,蛍光波長420nm)
・カラム恒温槽:Shodex(昭和電工社) OVEN AO−30C
・脱気装置:イーアールシー社 ERC−3215
・データ処理機:システムインスツルメンツ社 Chromatocorder21
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのテフロンチューブを径7cmに丸巻き
・ゲル濾過カラム:Shodex SUGAR BT−603
カラムサイズ:6φ×50mm
カラム末端接続ネジ:オシネジ型,No.10−32UNF
カラム材質:SUS 316
充填剤:ポリヒドロキシメタクリレート
排除限界分子量:1×105(プルラン)
【0057】
図1から、No.4〜9及び16の酵素を用いた場合は、β−グルカンが多く分解されており、これらの酵素はβ−グルカン分解活性を示す成分を含有することが明らかとなった。これに対して、No.10、13、14及び18の酵素を用いた場合は、β−グルカンがほとんど分解されておらず、これらの酵素はβ−グルカン分解活性を示す成分をほとんど含有しないことが明らかとなった。
【0058】
〔大麦粉砕物の調製〕
CDC Fibar(2006年カナダ産)を全粒のままサイクロンミルで粉砕し、大麦シロップの原料とした。なお、この大麦粉砕物50gを、75μmメッシュ、150μmメッシュ、300μmメッシュ、600μmメッシュ、1000μmメッシュ又は2000μmメッシュの篩の上に載せ、5分間篩にかけることにより、大麦粉砕物の粒径測定を行った。結果を図2に示す。また、この大麦粉砕物について、ケルダール法により粗タンパク質を定量したところ、その値は無水換算で18.5%であった。
【0059】
〔酵素の準備〕
α−アミラーゼとしてクライスターゼYC15S(商品名、大和化成社)を、プロテアーゼとしてプロテアーゼS「アマノ」G(商品名、天野エンザイム社)を、β−アミラーゼとして東京化成工業社製のβ−アミラーゼを、プルラナーゼとして天野エンザイム社製のプルラナーゼを準備した。以下の実施例1〜11では、各酵素について、当該酵素25mgを水1000μLで溶解して得られる溶液の40μLを用いた。
【0060】
〔実施例1〕
50mLファルコンチューブに水40mLを入れ、水を50℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物1.0gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を50℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで4時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0061】
〔実施例2〕
α−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0062】
〔実施例3〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から60℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0063】
〔実施例4〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から60℃に変更し、かつα−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0064】
〔実施例5〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から70℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0065】
〔実施例6〕
インキュベーション温度及びエアーインキュベーターの内温を50℃から70℃に変更し、かつα−アミラーゼに加えてプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして大麦シロップを得た。
【0066】
〔大麦シロップの評価(1)〕
実施例1〜6で得られた大麦シロップについて、粘度、濾過速度、β−グルカン濃度、SN(Soluble Nitrogen)、アミノ酸濃度及びBrixを測定した。
【0067】
(粘度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップについて、ウベローデ型粘度計を用いて、原液サンプル、又は水で希釈した原液サンプルの、20.00℃における粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0068】
(濾過速度の評価)
実施例1〜6における濾過に要する時間を測定した。濾過時間が15分以内である場合を「A」、15〜30分である場合を「B」、30分を超える場合を「C」として評価した。結果を表2に示す。
【0069】
(β−グルカン濃度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップを、各々、水で7.5倍希釈した後、0.45μmフィルターで濾過し、この濾過物について20℃の測定室でβ−グルカン濃度を測定した。結果を表2に示す。なお、測定の際の装置としては、上述の「酵素のβ−グルカン分解活性の評価」で用いたものと同様のものを用いた。
【0070】
(SNの測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップの濾過液について、ケルダール法でSNを測定した。結果を表2に示す。
【0071】
(Brixの測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップの濾過液について、ATAGOのRX−5000でBrixを測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(アミノ酸濃度の測定)
実施例1〜6で得られた大麦シロップをUltracel YM−10 Regenerated Cellulose 10,000MWCO(MILLIPORE社)で濾過し、濾過液を水で希釈した後、AccQ・FLUOR REAGENT KIT(Waters社)を用いて、AccQ・Tag法で誘導体化させ、アミノ酸濃度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、表中、「total a.a.」は、タンパク質構成アミノ酸のうち検出不可のトリプトファンを除く全遊離アミノ酸を、「GABA」はγ−アミノ酪酸を、「Glu」はグルタミン酸を示す。また、測定には以下の装置及び条件を用いた。
・装置:2695セパレーションモジュール;カラムヒーター;2475マルチλ蛍光検出器;Empowerパーソナル
・移動相A:166mM 酢酸ナトリウム/5.6mM トリエチルアミン,pH5.7
・移動相B:166mM 酢酸ナトリウム/5.6mM トリエチルアミン,pH6.8
・移動相C:アセトニトリル
・移動相D:水
・カラム:AccQ−Tag Amino Acid Analysis Column(3.9×150mm) + Sentry Nova C18
・カラム温度:39℃
・注入量:39μL
・検出:Ex 250nm/Em 395nm,GAIN10
【0073】
【表2】
【0074】
〔実施例7〕
50mLファルコンチューブに水40mLを入れ、水を60℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物1.0gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を60℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで24時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0075】
〔実施例8〕
α−アミラーゼに加えてβ−アミラーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0076】
〔実施例9〕
α−アミラーゼに加えてプルラナーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0077】
〔実施例10〕
α−アミラーゼに加えて、β−アミラーゼ及びプルラナーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0078】
〔実施例11〕
α−アミラーゼに加えて、β−アミラーゼ、プルラナーゼ及びプロテアーゼを更に添加したこと以外は、実施例7と同様にして大麦シロップを得た。
【0079】
〔大麦シロップの評価(2)〕
実施例7〜11で得られた大麦シロップについて、β−グルカン濃度、アミノ酸濃度、Brix及び糖濃度を測定した。なお、β−グルカン濃度、アミノ酸濃度及びBrixの測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」の場合と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0080】
(糖濃度の測定)
実施例7〜11で得られた大麦シロップの濾過液を100℃で10分間熱処理した後、アイスバスで急冷した。これを、15000rpm、5℃で15分間遠心にかけ、上清を0.1%安息香酸で希釈し、糖濃度の測定に供した。結果を表3に示す。なお、測定には以下の装置及び条件を用いた。
・装置:DIONEX DX−300
・移動相A:0.1M 水酸化ナトリウム
・移動相B:0.1M 水酸化ナトリウム/1M 酢酸ナトリウム
・カラム:CarboPac PA1
・注入量:15μL
【0081】
【表3】
【0082】
〔実施例12〕
500mLチューブに水400mLを入れ、水を60℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物50gを入れ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ及びプロテアーゼを各々、対大麦0.1%(w/w)添加し、内温を60℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで24時間振とう分解した(分解工程)。その後、アイスバスで急冷し、800rpmで15分間遠心にかけ、上清を濾紙(ADVANTEC社)で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0083】
〔比較例1〕
500mLチューブに水400mLを入れ、水を55℃でインキュベート(予熱)した。これに上記大麦粉砕物50gを入れ、α−アミラーゼを対大麦0.05%(w/w)添加し、内温を55℃に保ったエアーインキュベーター内シェーカーで1時間振とうした。次いで、1時間かけて90℃に昇温し、更にα−アミラーゼを対大麦0.05%(w/w)添加し、1時間反応させて液化液を得た。その後、得られた液化液を60℃まで冷却し、β−アミラーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、60℃で24時間反応させて糖化液を得た。更に、プロテアーゼを対大麦0.1%(w/w)添加し、60℃で24時間反応させた。反応液を濾紙で濾過することにより、大麦シロップを得た。
【0084】
〔大麦シロップの評価(3)〕
実施例12及び比較例1で得られた大麦シロップについて、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で、粘度、β−グルカン濃度、SN及びBrixを測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
〔実施例13〕
(シロップの調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の種子を全粒のままサイクロンミルで粉砕して得た大麦種子粉砕物123gに、α−アミラーゼ(クライスターゼYC15S、大和化成社)140mg、β−アミラーゼ(A0448、東京化成工業社)140mg、プロテアーゼ(サモアーゼPC10F、大和化成社)140mg、プルラナーゼ原液140μL及び水700mLの混合物を添加し、60℃で24時間振とうした。これを5000rpmで30分間遠心分離して、煮沸前シロップ(上清)を得た。煮沸前シロップについて、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0087】
煮沸前シロップにホップ0.5g/250mLを添加し、105℃で90分間煮沸した後、Brixが11.0%になるように加水して、煮沸後シロップを得た。煮沸後シロップについて、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0088】
なお、β−グルカン濃度、窒素量(SN)及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0089】
(シロップの発酵)
上記大麦シロップ(煮沸後シロップ)に下面ビール酵母(S.pastorianus)を添加し、6日間、10〜12℃で発酵させた。発酵条件は下記の通りである。
・エキス濃度:約11%
・大麦シロップの容量:約2.5L
・大麦シロップの溶存酸素濃度:5〜10ppm
・下面ビール酵母投入量:約12g湿酵母菌体
【0090】
発酵工程における大麦シロップ中の残存エキス量及び浮遊酵母数の変化をモニターした。結果を図4及び図5に示す。
【0091】
発酵後の大麦シロップについて、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表7、図6及び図7に示す。なお、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0092】
〔比較例2〕
(麦汁の調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の麦芽をサイクロンミルで粉砕して得た大麦麦芽粉砕物60gに水230mLを添加し、下記温度条件で糖化を行った。
48℃で20分間保持 → 1℃/分で65℃まで昇温
→ 65℃で80分間保持 → 1℃/分で75℃まで昇温
→ 75℃で10分間保持
【0093】
得られた糖化液を総重量400gになるように水でメスアップした後(60g malt/340g 水 = 0.176g malt/1mL 水)、濾過して煮沸前麦汁(濾液)を得た。煮沸前麦汁について、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0094】
煮沸前麦汁にホップ0.5g/250mLを添加し、105℃で90分間煮沸した後、Brixが11.0%になるように加水して、煮沸後麦汁を得た。煮沸後麦汁について、β−グルカン濃度、窒素量及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表5、表6及び図3に示す。
【0095】
なお、β−グルカン濃度、窒素量(SN)及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0096】
(麦汁の発酵)
上記麦汁(煮沸後麦汁)に下面ビール酵母(S.pastorianus)を添加し、6日間、10〜12℃で発酵させた。発酵条件は下記の通りである。
・エキス濃度:約11%
・麦汁の容量:約2.5L
・麦汁の溶存酸素濃度:5〜10ppm
・下面ビール酵母投入量:約12g湿酵母菌体
【0097】
発酵工程における麦汁中の残存エキス量及び浮遊酵母数の変化をモニターした。結果を図4及び図5に示す。
【0098】
発酵後の麦汁について、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度を測定した。結果を表7、表8、図6及び図7に示す。なお、β−グルカン濃度及び遊離アミノ酸濃度の測定は、上述の「大麦シロップの評価(1)」と同様の方法で行った。
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
表5から明らかなように、β−グルカン濃度は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。また、窒素量は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より多かった。
【0104】
表6及び図3から明らかなように、各種遊離アミノ酸(プロリンを除く。)濃度及び総遊離アミノ酸量は、煮沸前後いずれにおいても、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より高かった。特に、分岐鎖アミノ酸(Val、Leu、Ile)、Ala、Lys、Arg、Glu、Metは、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0105】
図4及び図5から明らかなように、シロップ(実施例13)と麦汁(比較例2)との間で、発酵過程におけるエキスの切れ(エキス量の減少速度)及び浮遊酵母数に大きな差は認められなかった。
【0106】
表7及び図6から明らかなように、発酵後のβ−グルカン濃度は、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0107】
表8及び図7から明らかなように、発酵後の各種遊離アミノ酸(プロリンを除く。)濃度及び総遊離アミノ酸量は、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より高かった。特に、分岐鎖アミノ酸(Val、Leu、Ile)、Ala、Lys、Arg、Glu、Metは、シロップ(実施例13)の方が麦汁(比較例2)より顕著に高かった。
【0108】
以上の実施例及び比較例により、本発明の大麦シロップは、β−グルカン及び各種アミノ酸(特に、Val、Leu、Ile、Ala、Lys、Arg、Glu、Met)を豊富に含有し、また、従来の方法で得られる麦汁と同程度の発酵性を有することが示された。また、本発明の大麦シロップは、例えば、機能性の高い発泡性アルコール飲料の原料として好適であることが示された。
【0109】
〔実施例14〕
(大麦シロップの調製)
大麦(2006年北海道産りょうふう)の種子を全粒のままサイクロンミルで粉砕して得た大麦種子粉砕物123gに、α−アミラーゼ(クライスターゼYC15S、大和化成社)140mg、β−アミラーゼ(A0448、東京化成工業社)140mg、プロテアーゼ(サモアーゼPC10F、大和化成社)140mg、プルラナーゼ原液140μL及び水700mLの混合物を添加し、60℃で24時間振とうした。これを5000rpmで30分間遠心分離して、大麦シロップ(上清)を得た。
【0110】
(β−グルカンの分子量分布の測定)
得られた大麦シロップについて、β−グルカンの分子量分布をGPCにより測定した。サンプルとしては下記の2種のサンプル(冷蔵サンプル、冷凍サンプル)を使用し、各々について下記条件でGPC分析を行った(冷凍サンプルの分析は、大麦シロップの冷凍保存性を確認するために行った)。ポンプは2台(ポンプA、B)使用し、ポンプA、Bには、それぞれ溶離液A、Bを流した。
【0111】
・冷蔵サンプル:上述の大麦シロップ(上清)を冷蔵保存し、分析直前に室温下、0.45μmのフィルターで濾過して得たサンプル(濾液)
・冷凍サンプル:上述の大麦シロップ(上清)を−18℃で冷凍保存し、分析直前に室温で解凍後、0.45μmのフィルターで濾過して得たサンプル(濾液)
・オーブン温度:40℃
・カラム:Shodex OHPak SB−806HQ(分子量2000万排除)
+ Shodex OHPak SB−804HQ(分子量100万排除)
+ Shodex OHPak SB−803HQ(分子量10万排除)
・ミキシングコイル:内径0.5mm,空寸体積0.5mLのステンレスチューブ
・溶離液A:超純水
流量:1mL/分
・溶離液B:超純水(RI分析時);カルコフロー溶液(FL分析時)
流量:1mL/分
・HPLC装置:島津製作所 LC−10 Series
システムコントローラー:SCL−10Avp
ポンプ:LC−10ATvp
オーブン:CTO−10ACvp
オートサンプラー:SIL−10ADvp
検出器:RID−10A,RF−10AxL
・解析ソフトウェア:Class−VP,Class−VP用GPC解析ソフトウェア
・検出器:示差屈折率(RI)検出器(温度:40℃);蛍光(FL)検出器(励起波長360nm,蛍光波長420nm)
・注入量:100μL
・分析時間:40分
【0112】
結果を表9及び図8〜11に示す。表9は、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて、β−グルカンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びそれらの比(Mw/Mn)を示す表である。図8及び図9はそれぞれ、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて得られたクロマトグラムである。また、図10及び図11はそれぞれ、大麦シロップの冷蔵サンプル及び冷凍サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。分子量分布曲線は、プルランスタンダード(Shodex)[分子量(M):5800、12200、23700、48000、100000、186000、380000、853000]の0.2%(w/v)水溶液を標準溶液として作成した較正曲線(図12)を用いて、FL分析の結果から求めた。なお、FL分析の結果は、カルコフローに特異的に反応するβ−グルカンの分子量分布を反映していると考えられる。
【0113】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】各種プロテアーゼとの反応後の、β−グルカン標準液中のβ−グルカン濃度を示すグラフである。
【図2】大麦粉砕物の粒径分布を示すグラフである。
【図3】煮沸前後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の各種アミノ酸濃度を示すグラフである。
【図4】発酵工程における麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の残存エキス量の経時的変化を示すグラフである。
【図5】発酵工程における麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の浮遊酵母数の経時的変化を示すグラフである。
【図6】発酵後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中のβ−グルカン濃度を示すグラフである。
【図7】発酵後の麦汁(比較例2)及びシロップ(実施例13)中の遊離アミノ酸濃度を示すグラフである。
【図8】大麦シロップの冷蔵サンプルについて得られたクロマトグラムである。
【図9】大麦シロップの冷凍サンプルについて得られたクロマトグラムである。
【図10】大麦シロップの冷蔵サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。
【図11】大麦シロップの冷凍サンプルについて得られたβ−グルカンの分子量分布曲線である。
【図12】実施例14で用いたGPCカラムに関する較正曲線である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、
α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、
含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップ。
【請求項2】
前記分解工程において大麦又はその粉砕物を分解する温度が55〜65℃である、請求項1に記載の大麦シロップ。
【請求項3】
前記分解工程においてβ−アミラーゼを共存させる、請求項1又は2に記載の大麦シロップ。
【請求項4】
前記分解工程においてプルラナーゼを共存させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の大麦シロップ。
【請求項5】
前記分解工程においてプロテアーゼを共存させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の大麦シロップ。
【請求項6】
前記プロテアーゼが、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しない、請求項5に記載の大麦シロップ。
【請求項1】
β−グルカンを0.01mg/mL以上含有する大麦シロップであって、
α−アミラーゼ存在下、大麦又はその粉砕物を50〜70℃で分解する分解工程を備える製造方法によって得られ、
含有されるβ−グルカンの重量平均分子量が50000〜500000である大麦シロップ。
【請求項2】
前記分解工程において大麦又はその粉砕物を分解する温度が55〜65℃である、請求項1に記載の大麦シロップ。
【請求項3】
前記分解工程においてβ−アミラーゼを共存させる、請求項1又は2に記載の大麦シロップ。
【請求項4】
前記分解工程においてプルラナーゼを共存させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の大麦シロップ。
【請求項5】
前記分解工程においてプロテアーゼを共存させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の大麦シロップ。
【請求項6】
前記プロテアーゼが、β−グルカン分解活性を示す成分を全く又はほとんど含有しない、請求項5に記載の大麦シロップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−51286(P2010−51286A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222288(P2008−222288)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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