説明

天井クレーンの撤去方法

【課題】落下工法により撤去される天井クレーンの着地時の振動を低減することにより、周辺設備への悪影響を抑制し且つ部品の飛散を防ぐことが可能な天井クレーンの撤去方法を提供する。
【解決手段】構造物の天井110e近傍に設置されたレール112a上を移動する天井クレーン120を構造物から撤去する天井クレーンの撤去方法であって、構造物の壁面110aのうち、レール112aの延長上にある少なくとも1つの壁面を撤去しまたは開放状態とし、撤去または開放状態とされた壁面に隣接する敷地に砂利を山状に盛ってマウンド130を形成し、レール112aの末端に取り付けられているストッパを取り外し、天井クレーン120をレール112aの末端まで移動し、天井クレーン120をレール112aから脱線させてマウンド130に落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の天井に設置されたレール上を移動する天井クレーンを構造物から撤去する天井クレーンの撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンには様々な種類があり、その1つに天井クレーンがある。天井クレーンは、構造物を構成する複数の壁面のうち、対向する2つの壁面の上方に、すなわち構造物の天井近傍に設置されたレール(走行路)上を移動するクレーンである。かかる天井クレーンは、大型の構造物や高層の構造物を建設する際や、大型装置の点検時に使用される。
【0003】
例えば特許文献1では、大型の構造物である原子力発電所のタービン建屋の主柱や主梁となる鉄骨と屋根を床や壁よりも先行して組み立て、タービン建屋建設の初期段階から天井走行クレーンを走行レールに搭載し稼働させる原子力発電所タービン建屋の建設工法が開示されている。この建設方法によれば、タービン建屋に設置されるタービン等の大型装置の点検時だけでなくタービン建屋の建設時にも天井クレーンを使用することが可能となる。したがって、建設時の大型揚重機の設置が不要となり、またタービン建屋の外壁部を採光性シートやパネル等で覆設すれば天候に左右されずにタービン建屋の機械設備を据付けることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−281268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構造物の建設および大型装置の点検に使用された天井クレーンは、構造物の解体時等、不要になった場合にはかかる構造物から撤去される。このとき、従来の撤去方法では、天井クレーンをガス溶断で切断してブロック単位に分解することにより解体し、地上に設置したクレーンによって揚重および荷卸することにより撤去していた。しかし、この方法であると、ガス溶断等の人力による作業を要するため人工に要する費用が嵩んだり、天井クレーンをブロック単位で荷卸するため作業時間の長時間化ひいては工期の長期化を招いたりしていた。
【0006】
そこで、天井クレーンを、構造物に設けられたレールから脱線させることにより落下させて撤去する方法(以下、落下工法と称する。)が検討されている。これにより、天井クレーンの分解が不要となるため、人工に要する費用を削減することができ、且つ作業時間ひいては工期を大幅に短縮することが可能となる。
【0007】
しかしながら、上記の落下工法では、落下した天井クレーンが地面に着地した際の衝撃により地震に匹敵する振動が生じる(落下衝撃振動)。すると、その振動が撤去現場周辺の設備に伝達し、かかる設備が誤作動により停止してしまうおそれがある。特に発電所のタービン建屋に設置された天井クレーンである場合は、稼働中の発電所が隣接している場合があり、落下衝撃振動により安全装置が作動して緊急停止してしまうおそれがある。また着地時の衝撃により天井クレーンが破損してしまい、その部品が周囲に飛散することも予想される。このため、落下工法では、天井クレーンの着地時の振動の低減が課題となっていた。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、落下工法により撤去される天井クレーンの着地時の振動を低減することにより、周辺設備への悪影響を抑制し且つ部品の飛散を防ぐことが可能な天井クレーンの撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明にかかる天井クレーンの撤去方法の代表的な構成は、構造物の天井近傍に設置されたレール上を移動する天井クレーンを構造物から撤去する天井クレーンの撤去方法であって、構造物の壁面のうち、レールの延長上にある少なくとも1つの壁面を撤去しまたは開放状態とし、撤去または開放状態とされた壁面に隣接する敷地に砂利を山状に盛ってマウンドを形成し、レールの末端に取り付けられているストッパを取り外し、天井クレーンをレールの末端まで移動し、天井クレーンをレールから脱線させてマウンドに落下させることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、落下工法により落下した天井クレーンはマウンドに着地する。このため、マウンドを構成する砂利が緩衝材となり、天井クレーン着地時の衝撃がかかる砂利に吸収され、振動が低減される。したがって、天井クレーン着地時の振動を大幅に低減することができ、誤作動等の周辺設備への悪影響を抑制することが可能となる。また着地時の衝撃が緩和されることにより天井クレーンの破損が防止されるため、部品の周囲への飛散を防ぐことができる。
【0011】
上記の天井クレーンの推定落下地点を境界としてマウンドを構造物側と反構造物側とに区分けしたとき、マウンドでは、反構造物側が構造物側よりも高くなるように段差が形成されるとよい。
【0012】
かかる構成のようにマウンドに段差を設けておくことにより、推定落下地点に落下した天井クレーンが、着地時の反動によって反構造物側に向かって、すなわち撤去現場敷地外に向かって横転しそうになっても、段差に当たって構造物側に押し返される。したがって、着地時の反動による天井クレーンの横転を好適に防ぐことができる。
【0013】
上記のマウンドの構造物側と反構造物側との間には凹部が形成されるとよい。これにより、落下した天井クレーンが、着地時に凹部に嵌まってマウンドに突き刺さった状態となる。このため、着地時の反動による天井クレーンの横転をより確実に防ぐことができる。
【0014】
上記のマウンドは、粒径の異なる砂利からなる2層構造であり、砂利の粒径は、下層よりも上層のほうが細かいとよい。かかる構成によれば、粒径の粗い下層の砂利がマウンドの土台としての機能を、粒径の細かい上層の砂利が天井クレーンを受け止めるクッションとしての機能を果たす。これにより、マウンドの形状を好適に保持しつつ、天井クレーンが着地したときの衝撃を緩和する効果を高めることができる。
【0015】
上記の下層の砂利の粒径は10mm以上20mm以下であり、上層の砂利の粒径は10mm未満であるとよい。上層および下層の砂利の粒径をこの範囲内にすることにより、上述した利点を最も効果的に得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、落下工法により撤去される天井クレーンの着地時の振動を低減することにより、周辺設備への悪影響を抑制し且つ部品の飛散を防ぐことが可能な天井クレーンの撤去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態にかかる天井クレーンの撤去方法が適用される構造物の上面図である。
【図2】図1(b)のA−A断面図である。
【図3】本実施形態にかかる天井クレーンの撤去方法についてのフローチャートである。
【図4】マウンドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかる天井クレーンの撤去方法が適用される構造物の上面図である。図2は、図1(b)のA−A断面図である。なお、理解を容易にするために、図1では天井を不図示とし、図2では構造物の手前側の壁面を不図示としている。
【0020】
図1および図2に示すように、本実施形態にかかる天井クレーンの撤去方法を適用する構造物100は、壁面110a、110b、110cおよび110d、並びに天井110eによって構成される。壁面110a〜110dのうち、対向する2つの壁面110aおよび110cの上方、すなわち天井110eの近傍にはレール112aおよび112cが設けられている。レール112aおよび112cには天井クレーン120が設置されていて、かかる天井クレーン120はレール112aおよび112c上を移動可能である。またレール112aおよび112cの末端には各々ストッパ114aおよび114cが設けられている。これにより、運転時における天井クレーン120のレール112aおよび112cからの脱線が防止される。
【0021】
図3は、本実施形態にかかる天井クレーン120の撤去方法についてのフローチャートである。以下、図1および図2を参照しながら、図3のフローチャートに沿って本実施形態にかかる天井クレーン120の撤去方法について説明する。
【0022】
本実施形態の天井クレーン120の撤去方法では、図3に示すように、まず壁面の撤去を行う(ステップ202)。このとき撤去する壁面は、構造物100の壁面110a〜110dのうち、レール112aおよび112cの延長上にある壁面110bおよび110dの少なくともいずれか一方であり、本実施形態においては壁面110dを撤去する。これにより、構造物100の壁面110d側が開放状態になるため、後述するように天井クレーン120を構造物100外に設けたマウンド130に落下させることができる。
【0023】
なお、上記説明では壁面を撤去することとしたが、必ずしも撤去する必要がない場合もある。すなわち、壁面110bおよび110dが固定の壁ではなく可動式の扉だった場合には、それを開くことにより壁面110b側や壁面110d側を開放状態とすることができる。したがって、このような場合には壁面を撤去する必要はない。
【0024】
ステップ202において壁面110dを撤去したら、次に、マウンド130の形成を行う(ステップ204)。図2に示すマウンド130は、撤去された壁面110dに隣接する敷地に砂利を山状に盛って形成される。
【0025】
図4は、マウンド130の断面図であり、図4(a)は図2に示すマウンド130の拡大断面図であり、図4(b)は他の例のマウンドの断面図である。図4(a)に示すように、本実施形態では、マウンド130は、粒径の異なる砂利からなる2層構造である。
【0026】
詳細には、マウンド130は、敷地(地面)に砂利を山上に盛って形成された下層132と、その上に下層132よりも細かい粒径の砂利を山状に盛って形成された上層134とから構成される。これにより、粒径の粗い砂利からなる下層132がマウンド130の土台としての機能するため、マウンド130の形状を好適に保持することができる。一方、粒径の細かい砂利からなる上層134は落下した天井クレーン120を受け止めるクッションとして機能するため、天井クレーン120の着地時の衝撃を緩和する効果を高めることが可能となる。なお、マウンド130の砂利の粒径は、下層132の砂利が10mm以上20mm以下、上層134の砂利が10mm未満であるとよい。上述した利点を最も効果的に得ることができる。
【0027】
またマウンド130は、これを、天井クレーン120の推定落下地点を境界として構造物側130aと反構造物側130bとに区分けしたとき、反構造物側130bが構造物側130aよりも高くなるように段差が形成されている。かかる構成により、推定落下地点に落下した天井クレーン120が、着地時の反動によって反構造物側130bに向かって横転しそうになっても、段差(マウンド130の反構造物側130b)に当たって構造物側に押し返される。このため、着地時の反動による天井クレーン120の横転を好適に防ぎ、マウンド130外への着地を回避することができる。
【0028】
更に、マウンドの構造物側130aと反構造物側130bとの間には凹部130cが形成されている。これにより、図2に示すように、後述するステップ208において落下させた天井クレーン120が、着地時に凹部130cに嵌まってマウンド130に突き刺さった状態となる。したがって、着地時の反動による天井クレーン120の横転をより確実に防ぐことができる。
【0029】
なお、本実施形態ではマウンド130の構造物側130aと反構造物側130bとの間に凹部130cを設ける形状としたが、これに限定するものではない。図4(b)に示すマウンド136のように、凹部130cを設けずに、構造物側130aと反構造物側130bとに単に段差を形成するだけでも着地時の反動による天井クレーン120の横転を好適に防ぐことができる。ただし、天井クレーン120の横転防止の確実性を高めるためには、本実施形態のマウンド130のように段差に加えて凹部130cを形成することが好ましい。
【0030】
ステップ204においてマウンド130を形成したら、レール112aおよび112cの末端に取り付けられているストッパ114aおよび114cを取り外す(ステップ206)。これにより、天井クレーン120をレール112aおよび112cから脱線させることが可能となる。
【0031】
なお、本実施形態においてはステップ204においてマウンド130を形成した後に、ステップ206においてストッパ114aおよび114cを取り外すという手順としたが、これに限定するものではなく、これらの工程は逆の順番で行われてもよい。
【0032】
ステップ206においてストッパ114aおよび114cを取り外したら、開放状態となった壁面110d側に向かって天井クレーン120を移動させる(ステップ208)。図1(a)に示すように、本実施形態では、壁面110b近傍、換言すれば壁面110dから離れた位置にある天井クレーン120を、壁面110b側からクレーン140のアーム140aで押すことにより撤去された壁面110dの方向に向かって移動させる。これにより、図1(b)に示すように、天井クレーン120がレール112aおよび112cの壁面110d側の末端まで移動する。
【0033】
そして、図1(b)の状態から、天井クレーン120を壁面110d側に向かって更に押すことにより、天井クレーン120がレール112aおよび112cから脱線する。すると、図2に一点鎖線で示す天井クレーン120aのようにマウンド130に向かって落下し、天井クレーン120bのようにマウンド130に着地する。これにより、マウンドを構成する砂利が緩衝材となり、天井クレーン着地時の衝撃が吸収される。
【0034】
上記説明したように、本実施形態にかかる天井クレーンの撤去方法によれば、天井クレーン120の着地時の衝撃が緩和されるため、着地時の振動を大幅に低減することができる。したがって、かかる振動に起因する周辺設備の誤作動等の悪影響を抑制することが可能となる。また着地時の衝撃が緩和されることにより天井クレーン120の破損を防ぐことができ、部品の周囲への飛散を好適に防止することが可能となる。
【0035】
上述した効果を具体的なデータを用いて説明すると、本実施形態の天井クレーンの撤去方法を適用することによる天井クレーン着地時の振動は、マウンドを形成しない場合のシミュレーション解析では50gal程度と推測された。これに対し、マウンドを形成して実施した際の測定値は1.5galであり、顕著に振動を抑制可能であった。
【0036】
なお、上述した実施形態においては、クレーン140で押すことにより天井クレーン120を移動させていたが、天井クレーン120を反対側からクレーン140で引っ張ることにより移動させる構成としてもよい。またクレーン140は天井クレーン120を移動させる手段の一例であり、これに限定するものではなく、他の種類の重機や牽引機など、他の手段を用いて天井クレーンを移動させてもよい。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、構造物の天井に設置されたレール上を移動する天井クレーンを構造物から撤去する天井クレーンの撤去方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
100…構造物、110a…壁面、110b…壁面、110c…壁面、110d…壁面、110e…天井、112a…レール、112c…レール、114a…ストッパ、114c…ストッパ、120…天井クレーン、120a…天井クレーン、120b…天井クレーン、130…マウンド、130a…構造物側、130b…反構造物側、130c…凹部、132…下層、134…上層、136…マウンド、140…クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の天井近傍に設置されたレール上を移動する天井クレーンを該構造物から撤去する天井クレーンの撤去方法であって、
前記構造物の壁面のうち、前記レールの延長上にある少なくとも1つの壁面を撤去しまたは開放状態とし、
前記撤去または開放状態とされた壁面に隣接する敷地に砂利を山状に盛ってマウンドを形成し、
前記レールの末端に取り付けられているストッパを取り外し、
前記天井クレーンを前記レールの末端まで移動し、該天井クレーンを該レールから脱線させて前記マウンドに落下させることを特徴とする天井クレーンの撤去方法。
【請求項2】
前記天井クレーンの推定落下地点を境界として前記マウンドを構造物側と反構造物側とに区分けしたとき、該マウンドでは、反構造物側が構造物側よりも高くなるように段差が形成されることを特徴とする請求項1に記載の天井クレーンの撤去方法。
【請求項3】
前記マウンドの構造物側と反構造物側との間には凹部が形成されることを特徴とする請求項2に記載の天井クレーンの撤去方法。
【請求項4】
前記マウンドは、粒径の異なる砂利からなる2層構造であり、
前記砂利の粒径は、下層よりも上層のほうが細かいことを特徴とする請求項1に記載の天井クレーンの撤去方法。
【請求項5】
前記下層の砂利の粒径は10mm以上20mm以下であり、前記上層の砂利の粒径は10mm未満であることを特徴とする請求項4に記載の天井クレーンの撤去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77555(P2012−77555A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225462(P2010−225462)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】