説明

天体自動追尾装置

【課題】天体の追尾誤差を低減させること。
【解決手段】望遠鏡鏡筒1と、第1軸3及び第2軸4の2軸回りに回転可能に望遠鏡鏡筒を支持する架台と、第1軸回りに望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第1モータ6と、第2軸回りに望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第2モータ10と、第1モータによって発生させられた駆動力を、第1軸に伝達させる第1駆動力伝達機構5と、第2モータによって発生させられた駆動力を、第2軸に伝達させる第2駆動力伝達機構9と、第1モータを制御する第1制御系と、第2モータを制御する第2制御系と、第1軸回転角度信号を検出する第1エンコーダ18と、第2軸回転角度信号を検出する第2エンコーダ15とを有する天体自動追尾装置であって、第1軸回転角度信号及び/又は第2軸回転角度信号に基づいて天体の追尾速度の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天体望遠鏡の視野内で観測対象である天体を追尾する天体自動追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上から恒星等の天体を観察する場合、天体は1日に1回転する。これを天体の日周運動と呼ぶ。これは地球が地軸を中心にして回転していることから起こる。恒星は、日周運動の速度とほぼ同じ一定の速度で動いている。この恒星の移動速度を恒星時速度という。
【0003】
このため、天体望遠鏡を固定した状態で恒星を観察すると、恒星は視野内で所定方向に移動し、そのうちに視野から消えてしまう。そのため恒星を観察等する場合、天体望遠鏡を天体に追尾させる必要がある。
【0004】
天体の追尾を行うための天体望遠鏡架台としては、赤道儀と経緯台との大きく2種類がある。いずれの架台も、第1、第2の2軸回りに回転可能に望遠鏡鏡筒を支持する架台であって、各軸回りに望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第1、第2のモータと、各駆動力伝達機構を介して連結されている。
【0005】
本明細書では、赤道儀式における天体自動追尾装置の従来例について説明する。
【0006】
図1は赤道儀を有する従来の天体自動追尾装置である。まず、望遠鏡鏡筒1、赤道儀2、赤経軸3(極軸とも呼ばれる。)と赤緯軸4と呼ばれる、直交する2つの軸がある。そのうちの赤経軸3(極軸3)の方向を地球の地軸の方向と平行になるように調整して固定した後、赤経軸3(極軸3)を日周運動の方向へ回転させることにより、天体を常に視野の中に入れておくことが出来る。
【0007】
図1に示した天体自動追尾装置の赤経軸3(極軸3)と赤緯軸4は、それぞれ、ウオームギヤ等からなる駆動力伝達機構5、9を介して赤経モータ6と赤緯モータ10と連結している。この各モータを一定の制御下で駆動するための構成として、各モータにドライバ信号を供給するためのモータドライバ7、11、各モータドライバに対して発振パルスを供給するためのパルスジェネレータ8、12、及び各パルスジェネレータに対して制御信号を供給するためのコントローラー13とがある。また、赤経軸3及び赤緯軸4には、各軸回転角度を検出するための赤経軸エンコーダ14と赤緯軸エンコーダ15がそれぞれ設けられており、これによりコントローラー13は、観測対象である天体の赤道座標上の位置を検出することができるようになっている。なお、各エンコーダの分解能として、120秒角程度の分解能を有するものが一般的である。
【0008】
恒星時追尾を行うときは、赤緯モータ10は停止し、赤経モータ6のみが駆動力を生じさせて、赤経軸3を回転させる。赤経軸3の回転速度(角速度)が恒星時速度と正確に一致していれば、天体自動追尾装置は恒星を正確に追尾し、恒星は、視野の中において静止するはずである。ところが、実際には、どうしても追尾には誤差が生じる。このような誤差を追尾誤差と呼ぶ。
【0009】
この追尾誤差の原因として考えられるものは、第一に、赤経軸3(極軸3)のズレ、第二に、後述するピリオディックモーション、第三に、大気差、等がある。これらの原因による追尾誤差を減らすために、従来、次のようなことが行われている。
【0010】
まず、第一の赤経軸3(極軸3)のズレによる追尾誤差については、時間をかけて赤経軸3(極軸3)を地球の地軸に合わせるようにすることなどにより、誤差を減少らしている。
【0011】
次に、第二のピリオディックモーションによる追尾誤差を減らすために従来行われていることについて説明する。このピリオディックモーションとは、望遠鏡の視野の中において、星が一定の周期で赤経方向に進んだり遅れたりを繰り返す現象である。この現象が発生する原因として考えられるのは、ウオームギヤの歯面の不均等などである。露出時間を極めて短い時間にすることで、このピリオディックモーションによる追尾誤差を低減させることができるが、天体の観賞用写真や画像撮影のために要求される露出時間は、一般に数分以上が必要とされているため、ピリオディックモーションによる追尾誤差を無視することができない。
【0012】
このようなピリオディックモーションによる追尾誤差を減らす方法として、CCD画像によるオートガイド装置を利用することが知られている。この方法は、副望遠鏡にCCDを設置して目的物の星のズレを検出し、その検出信号に基づいて、駆動回路を制御しようとするものである。すなわち、観測対象となる天体の近傍にある1個または複数個の明るい星が、ガイド星として選定され、天体望遠鏡に入射する光による画像がCCDカメラで撮像される。CCDカメラによる映像において、ガイド星が常に所定の基準位置にあるように本体1が駆動されれば、その結果として、観測対象である天体の追尾がなされることになる。
【0013】
しかしながら、オートガイド装置を有効に機能させるためには、装置の機能を熟知し、CCDカメラの設定や視野内に適当な星を導くことなどの事前準備が必要であった。
【0014】
次に、第三の大気差を原因とする追尾誤差を減らすために従来行われていることについて説明する。地球を取り巻く大気には、光の進路を曲げる屈折の性質があり、天頂以外の星は全て浮き上がって見える。その度合いは、天頂から地平線に近づけば近づくほど大きくなる。そのため、天体の恒星時速度は、天体が地平線に近づくにつれて遅くなっていく。このような現象は、一般に大気差と呼ばれる。
【0015】
このような大気差による追尾誤差は天頂付近以外の天体の観測において生じることから、従来、撮影する天体を天頂付近のものに限定するなどして、その追尾誤差を減少するようにされていた。
【0016】
しかしながら、天頂付近以外の天体を撮影する場合には、大気差による追尾誤差が生じ、その場合、観測者が経験や勘に頼って調整しているに過ぎなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】実開平5−84920号公報
【特許文献2】特開平11−72718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来の天体自動追尾装置は以上のように構成され、かつ設定が行われてきたが、追尾誤差を更に減少させることが求められている。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、追尾誤差を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために成された本発明は、望遠鏡鏡筒と、第1軸及び第2軸の2軸回りに回転可能に前記望遠鏡鏡筒を支持する架台と、前記第1軸回りに前記望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第1モータと、前記第2軸回りに前記望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第2モータと、前記第1モータによって発生させられた駆動力を前記第1軸に伝達させる第1駆動力伝達機構と、前記第2モータによって発生させされた駆動力を前記第2軸に伝達させる第2駆動力伝達機構と、前記第1モータを制御する第1制御系と、前記第2モータを制御する第2制御系と、前記第1軸回転角度信号を検出する第1エンコーダと、前記第2軸回転角度信号を検出する第2エンコーダと、を有する天体自動追尾装置であって、前記第1軸回転角度信号及び/又は前記第2軸回転角度信号に基づいて天体の追尾速度の補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上により、本発明は、追尾誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、赤道儀式における従来の天体自動追尾装置を示した概念図である。
【図2】図2は、実施例1の天体自動追尾装置を示した概念図である。
【図3】図3は、フィードバック制御の一例の概要を示したフロー図である。
【図4】図4は、帰還エンコーダパルスの1周期を計測する方法の説明図である。
【図5】図5は、実施例2の天体自動追尾装置を示した概念図である。
【図6】図6は、実施例3の天体自動追尾装置を示した概念図である。
【図7】図7は、実施例3の天体自動追尾装置の動作の一例の概要を示すフロー図である。
【図8】図8は、実施例4の天体自動追尾装置を示した概念図である。
【図9】図9は、実施例4におけるフィードバック制御の動作の一例の概要を示したフロー図である。
【図10】図10は、実施例2の天体自動追尾装置を用いて追尾誤差を測定した結果を示したものである。
【図11】図11は、従来の天体自動追尾装置を用いて追尾誤差を測定した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の発明者は、追尾誤差を補正する技術について研究、実験を繰り返した結果、エンコーダから供給されるエンコーダパルスを用いてフィードバック制御を行う技術を発明した。
【0025】
図2は、本発明の実施例1の天体自動追尾装置の概念図である。望遠鏡鏡筒1、駆動力伝達機構5、9、各モータ6、10、モータドライバ7、11、パルスジェネレータ12及び赤緯軸エンコーダ15は従来の天体自動追尾装置(図1)と同じものである。
【0026】
赤経軸エンコーダ18は、赤経軸3に直結している。また、赤経軸エンコーダ18は、従来の赤経軸エンコーダ14と比較して、高い分解能を有する。具体的には、エンコーダの分解能が1秒角以上15秒角以下程度であることが望ましい。その根拠は後述する。
【0027】
この赤経軸エンコーダ18は、エンコーダパルスをコントローラー17とパルスジェネレータ16の両方に供給する。
【0028】
パルスジェネレータ16は、赤経軸エンコーダ18から供給された帰還エンコーダパルスを用いてフィードバック制御を行う。
【0029】
このフィードバック制御の一例について、次に、図3及び図4を用いて説明する。
【0030】
図3は、フィードバック制御の一例におけるパルスジェネレータ16の動作を示すフロー図である。
【0031】
まず、天体の追尾動作が開始すると、直ちに赤経軸エンコーダ18は、パルスジェネレータ16へのエンコーダパルスの供給を開始する。本件明細書において、パルスジェネレータ16に供給されたエンコーダパルスを帰還エンコーダパルスと呼ぶことがある。
【0032】
パルスジェネレータ16は、図示しないクロックパルス発生回路及びクロックパルス数の計測回路を有しており、図4に概念的に示すとおり、パルスジェネレータ16に供給された帰還エンコーダパルスの1周期のクロックパルス数を計測する(S11)。ここでの1周期とは、赤経軸エンコーダ18の分解能の1単位を意味する。
【0033】
次に、パルスジェネレータ16は、計測した帰還エンコーダパルスの1周期のクロックパルス数と、期待されるクロックパルス数との差を計算する(S12)。
【0034】
その後、パルスジェネレータ16は、パルス数に差がある場合に、補正した発振パルスをモータドライバ7に供給する(S13)。なお、パルス数の差が所定値以上の場合に、補正した発振パルスを供給する構成にしてもよい。
【0035】
その後、パルスジェネレータ16は、天体の追尾が行われている間、このフィードバック制御(S11〜S13)を繰り返す。
【0036】
そして、天体の追尾が終了すると、パルスジェネレータ16はフィードバック制御を終了する。
【0037】
以上のような、フィードバック制御を行うことにより、追尾誤差を低減させることができる。
【0038】
次に、赤経軸エンコーダの分解能を1秒角以上15秒角以内とすることが望ましい根拠について説明する。
【0039】
天体の追尾誤差の許容範囲は、撮影レンズの焦点距離等によって異なるが、一般的に、目標とする追尾誤差の大きさが約±1秒角以内であれば殆どの撮影条件下において許容範囲にあるとされている。そのため、追尾誤差の大きさが約±1秒角以内の天体自動追尾装置を提供することが望ましい。
【0040】
そこで、追尾誤差の大きさを約±1秒角とすることができるエンコーダの分解能について、研究を重ねた結果、本発明の発明者は、少なくとも1秒間に1回程度の頻度でフィードバック制御を行う必要があることを発見した。したがって、赤経軸エンコーダの分解能が約15秒角以内とすることが望ましい。
【0041】
他方、本発明の発明者は、1秒間に約15回よりも多くフィードバック制御を繰り返しても、追尾誤差の低減効果を大幅に増加させる期待することはできず、むしろ、エンコーダやCPU等のコストを増加させるだけであること発見した。そのため、赤経軸エンコーダの分解能を約1秒角以上とすることが望ましい。
【0042】
以上より、赤経軸エンコーダの分解能を約1秒角以上15秒角以内とすることが望ましい。
【0043】
なお、本発明におけるフィードバック制御は、目標値と帰還エンコーダパルスの測定値を利用して赤経軸の角速度を補正するものであれば、上記の例に限定されない。目標値としては、期待されるクロックパルス数の他に、期待される角速度、期待される時間等を用いることが考えられる。
【0044】
目標値と帰還エンコーダパルスの測定値を比較する他の方法の一例としては、複数(所定数)の帰還エンコーダパルスの平均値と目標値とを比較するようにしてもよい。例えば、パルスジェネレータ16は、100周期分のエンコーダパルスの合計クロックパルス数を揮発性メモリに一時的に記憶させる。そして、100周期分のエンコーダパルスの合計クロックパルス数を100で割った値と、期待されるクロックパルス数との差を計算する。若しくは、100周期分のエンコーダパルスの合計クロックパルス数と、期待されるクロックパルス数の100倍との差を計算する。パルスジェネレータ16は、このような計算を1周期毎に行う。これにより、エンコーダの分解能を平均化することができる。
【0045】
なお、この場合においては、天体の追尾が開始した直後に直ちにフィードバック制御を開始させるのではなく、所定時間だけフィードバック制御の開始を遅らせてもよい。例えば、100周期分のエンコーダパルスの平均値を用いる場合には、パルスジェネレータ16が100周期分のエンコーダパルスの合計クロックパルス数を揮発性メモリ等に一時的に記憶させるまでの時間は、フィードバック制御の開始時期を遅らせてもよい。
【0046】
また、所定タイミング(例えば、天体の追尾の開始時点やフィードバック制御の開始時点)からの帰還エンコーダパルスの累積パルスの平均値を算出し、その平均値と目標値を比較してもよい。これにより、エンコーダの分解能を平均化することができる。
【0047】
さらに、両者を組み合わせてもよい。すなわち、複数(所定数)の帰還エンコーダパルスの平均値と、所定タイミングからの累積パルスの平均値の両方を用いて平均値を算出する。そして両者の平均値を用いて算出した平均値と測定値とを比較してもよい。これによりエンコーダの分解能をさらに平均化することができる。
【0048】
また、目標値と測定値の差が所定値以上となった場合に、アラーム処置を行うようにしてもよい。又は、アラーム処置を行う代わりに(若しくは、それと一緒に)、差が所定値以上となったときの時刻や天体の赤道座標情報等を記憶させる記憶部を設けてもよい。
【0049】
また、実施例1の天体自動追尾装置に、従来のオートガイド装置を組み合わせて、フィードバック制御とオードガイドとを切り替えられるようにしてもよい。
【実施例2】
【0050】
次に実施例2について説明する。実施例2は、震動キャンセルを行う発明である。図5は、本発明の実施例2の天体自動追尾装置の概念図である。望遠鏡鏡筒1、赤道儀2、駆動力伝達機構5、9、各モータ6、10、モータドライバ7、11、パルスジェネレータ12、16、各エンコーダ15、18及びコントローラー17は、実施例1と同じ構成である。
【0051】
本発明の発明者は、研究と実験を繰り返した結果、エンコーダの分解能がある程度高くなると、モータの震動等の影響によって、エンコーダパルスが増減を繰り返すという挙動を示すことを発見した。この震動の影響によりパルスジェネレータ16が帰還エンコーダパルスのクロック数を正確に計測することができなくなることがある。
【0052】
そこで、実施例2においては、赤経軸エンコーダ18とパルスジェネレータ16との間に震動キャンセル回路を設けて、モータの震動等により生じるエンコーダパルスの増減をキャンセルして、本来のエンコーダパルスのみをパルスジェネレータ16に与える構成とした。この震動キャンセル回路の追従周波数は、約1MHz以上であることが望ましい。
【0053】
これにより、モータの震動等の影響により、エンコーダパルスに増減が生じる場合であっても、その影響を低減して、追尾精度を上げることができる。
【0054】
なお、震動キャンセル回路をパルスジェネレータ16の内部に設けてもよい。または、震動キャンセル回路を設けずに、パルスジェネレータ16のクロック数の計測回路(図示せず)の追従周波数を約1MHz以上としてもよい。
【0055】
なお、実施例2においても、実施例1で述べた変形例を用いることができる。
【実施例3】
【0056】
次に実施例3について説明する。実施例3は、観測対象である天体の赤道座標上の位置情報に基づいて、天体の追尾速度を変化させる発明である。
【0057】
図6は、実施例3の天体自動追尾装置の概念図である。望遠鏡鏡筒1、赤道儀2、駆動力伝達機構5、9、各モータ6、10、各モータドライバ7、11及び各エンコーダ14、15は従来の天体自動追尾装置(図1)と同じものである。
【0058】
この天体自動追尾装置の動作について図7を用いて説明する。図7は、本実施例における天体自動追尾装置の大気差補正の動作の一例を説明するためのフロー図である。
【0059】
まず、天体の追尾が開始されると、コントローラー22は、赤経軸エンコーダ14及び赤緯軸エンコーダ15から供給された各エンコーダパルスに基づいて、観測対象である天体の赤道座標を算出する(S31)。
【0060】
次に、コントローラー22は、パルスジェネレータ20、21に、観測対象である天体の赤道座標情報を供給する(S32)。
【0061】
赤道座標情報を取得したパルスジェネレータ20、21は、当該情報に基づき、天体の追尾速度を算出する(S33)。具体的には、パルスジェネレータ20は、観測対象である天体の赤道座標、観測地の経度緯度及び観測時刻に基づいて、観測対象である天体の地平座標を算出し、当該地平座標の大気差を考慮した赤経軸3の回転角速度を算出する。同様にして、パルスジェネレータ21は、観測対象である天体の地平座標を算出し、当該地平座標の大気差を考慮した赤緯軸4の回転角速度を算出する。その計算方法はいかなる方法でも良い。例えば、所定の計算式を用いても良いし、または所定のテーブル等を用いてもよい。
【0062】
次に、各パルスジェネレータ20、21は、算出した追尾速度に基づいて、補正した発振パルスを各モータドライバ7、11に供給する。これにより、赤経軸3及び赤緯軸4の回転角速度が補正される(S34)。
【0063】
その後、天体の追尾が行われている間、天体自動追尾装置は、この大気差補正(S31〜S34)を繰り返す。
【0064】
なお、大気差を考慮した追尾速度を算出する頻度は、約10秒間に1回以上、約1秒間に1回以下とすることが望ましい。星の位置は大気差が変わるという観点では数秒間ではほとんど変化がないためである。
【0065】
また、図7では、説明の便宜上、追尾速度の算出(S33)を行ったうえで、制御信号の供給(S34)を行う例を挙げて説明を行ったが、実際の処理としては追尾速度の算出(S32)を行わずに、供給された赤道座標情報(S32)に基づいて所定の計算を行い直ちに補正した発振パルスの供給(S34)を行ってもよい。この場合においても、大気差補正を考慮した発振パルスの補正を行う頻度は、約10秒間に1回以上、約1秒間に1回以下とすることが望ましい。
【0066】
このようにして実施例3の天体自動追尾装置は、大気差による追尾誤差を低減することができる。
【実施例4】
【0067】
次に、実施例4について説明する。実施例4は、フィードバック制御において、大気差を考慮した目標値を用いる発明である。
【0068】
図8は、実施例4の天体自動追尾装置の概念図である。望遠鏡鏡筒1、赤道儀2、駆動力伝達機構5、9、各モータ6、10、各モータドライバ7、11、パルスジェネレータ12及び赤緯軸エンコーダ15は従来の天体自動追尾装置(図1)と同じものである。
【0069】
赤経軸エンコーダ18は、実施例1、2と同様に、従来よりも高い分解能を有する。具体的には、エンコーダの分解能が約1秒角以上15秒角以下であることが望ましい。
【0070】
図9は、実施例4におけるパルスジェネレータ23のフィードバック制御の動作の一例を示すフロー図である。
【0071】
まず、天体の追尾動作が開始すると、直ちに赤経軸エンコーダ18は、パルスジェネレータ23へのエンコーダパルスの供給を開始する。
【0072】
パルスジェネレータ23は、図示しないクロックパルス発生回路及びクロックパルス数の計測回路を有しており、図4に概念的に示すとおり、パルスジェネレータ23に供給された帰還エンコーダパルスの1周期のクロックパルス数を計測する(S41)。
【0073】
次に、パルスジェネレータ23は、コントローラー24から赤道座標情報が供給されたか否かを判断する(S42)。
【0074】
S42において、赤道座標情報の供給がないと判断した場合には、S41で計測した帰還エンコーダパルスの1周期のクロックパルス数と、期待されるクロックパルス数との差を計算する(S44)。その後、パルスジェネレータ23は、パルス数に差がある場合に、補正した発振パルスをモータドライバ7に供給する(S45)。
【0075】
他方、S42において、赤道座標情報の供給があると判断した場合には、パルスジェネレータ23は、当該赤道座標情報に基づき、期待されるクロックパルス数を算出する(S43)。その後、パルスジェネレータ23は、S41で計測した帰還エンコーダパルスの1周期のクロックパルス数と、S44で算出した期待されるクロックパルス数との差を計算する(S44)。そして、パルスジェネレータ23は、パルス数に差がある場合に、補正した発振パルスをモータドライバ7に供給する(S45)。
【0076】
パルスジェネレータ23は、天体の追尾が行われている間、この動作(S41〜S45)を繰り返す。
【0077】
これにより、追尾誤差を更に低減することができる。
【0078】
なお、実施例4におけるフィードバック制御は、大気差を考慮した目標値と帰還エンコーダパルスの測定値を利用して赤経軸の角速度を補正するものであれば、上記の例に限定されない。
【0079】
例えば、赤道座標情報の供給の有無を判断し、大気差を考慮した目標値を算出するタイミングは、帰還エンコーダパルス数を計測する前後のいずれでもよい。
【0080】
また、赤道座標情報の供給の有無を判断するステップを省略してもよい。例えば、パルスジェネレータ23は、目標値を記憶するメモリを有し、コントローラー24から赤道座標情報が供給されるたびに、当該メモリに記憶させている目標値を更新する。そして、パルスジェネレータ23は、メモリに記憶されている目標値と帰還エンコーダパルスの測定値を利用して赤経軸の角速度を補正する。
【0081】
また、大気差を考慮した目標値を算出する頻度は、フィードバック制御を行う頻度より多くても、少なくても、同じでも良い。
【0082】
なお、実施例4に記載した発明に、実施例2において述べた震動キャンセルの構成を適用してもよい。
【0083】
また、実施例4に記載した発明に、実施例3において述べた大気差補正の構成を適用してもよい。この場合、コントローラー24及びパルスジェネレータ23は、それぞれ実施例3(図6参照)におけるコントローラー22及びパルスジェネレータ20の動作も行う。また、パルスジェネレータ12の代わりに、実施例3(図6参照)のパルスジェネレータ21が用いられる。
【0084】
なお、実施例4においては、実施例1から3において述べた変形例を用いることができることは言うまでもない。
【0085】
最後に、実施例2の天体自動追尾装置を用いて行った追尾誤差の測定結果について説明する。
【0086】
図10は、実施例2の天体自動追尾装置(赤経軸エンコーダの分解能は7.5秒角)を用いて、追尾誤差の測定を行ったときの測定結果である。縦軸は、追尾誤差の大きさを示し、横軸は追尾時間(測定時間)を示している。追尾誤差の測定には、ドイツ、ハイデンハイン社ROD800という製品を使用した。その結果、約30分間の測定において、追尾誤差を約±1秒角以内に抑えることができた。なお、同製品による測定は、現実の天体の観測を行いながら測定をするものではない。そのため、ここでは大気差による追尾誤差の測定は行われていない。
【0087】
他方、図11は、従来の天体自動追尾装置(赤経軸エンコーダの分解能は7.5秒角)を用いて、追尾誤差の測定を行ったときの測定結果である。縦軸は、追尾誤差の大きさを示し、横軸は追尾時間(測定時間)を示している。ここでも、測定には、ドイツ、ハイデンハイン社ROD800という製品を使用した。
【0088】
この測定の結果、約30分間の測定において、追尾誤差が約±4秒角となった。
【0089】
以上のとおり、本発明を用いることにより、追尾誤差を低減できることが実験によっても明らかになった。
【0090】
本発明は以上のごとく構成されるが、その要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は経緯台を有する天体自動追尾装置にも適用することができる。この場合にフィードバック制御を行うときには、水平軸と高度軸の各エンコーダの帰還エンコーダパルスを用いて、水平軸と高度軸の角速度を補正する必要がある。
【符号の説明】
【0091】
1 望遠鏡鏡筒
2 赤道儀
3 赤経軸(極軸)
4 赤緯軸
5 駆動力伝達機構
6 赤経モータ
7 モータドライバ
8 パルスジェネレータ
9 駆動力伝達機構
10 赤緯モータ
11 モータドライバ
12 パルスジェネレータ
13 コントローラー
14 赤経軸エンコーダ
15 赤緯軸エンコーダ
16 パルスジェネレータ
17 コントローラー
18 赤経軸エンコーダ
19 震動キャンセル回路
20 パルスジェネレータ
21 パルスジェネレータ
22 コントローラー
23 パルスジェネレータ
24 コントローラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
望遠鏡鏡筒と、
第1軸及び第2軸の2軸回りに回転可能に前記望遠鏡鏡筒を支持する架台と、
前記第1軸回りに前記望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第1モータと、
前記第2軸回りに前記望遠鏡鏡筒を回転させる駆動力を発生させる第2モータと、
前記第1モータによって発生させられた駆動力を前記第1軸に伝達させる第1駆動力伝達機構と、
前記第2モータによって発生させされた駆動力を前記第2軸に伝達させる第2駆動力伝達機構と、
前記第1モータを制御する第1制御系と、
前記第2モータを制御する第2制御系と、
前記第1軸回転角度信号を検出する第1エンコーダと、
前記第2軸回転角度信号を検出する第2エンコーダと、を有する天体自動追尾装置であって、
前記第1軸回転角度信号及び/又は前記第2軸回転角度信号に基づいて天体の追尾速度の補正を行うことを特徴とする天体自動追尾装置。
【請求項2】
前記第1制御系は前記第1軸回転角度信号に基づいて前記第1軸回りの前記望遠鏡鏡筒の角速度を補正するフィードバック制御を行い、及び/又は、前記第2制御系は、前記第2軸回転各信号に基づいて前記第2軸回りの前記望遠鏡鏡筒の角速度を補正するフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の天体自動追尾装置。
【請求項3】
前記第1制御系及び前記第2制御系は、前記第1軸回転角度信号及び前記第2軸角信号に基づいて、第1軸及び第2軸の2軸回りの前記望遠鏡鏡筒の角速度の大気差補正制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の天体自動追尾装置。
【請求項4】
赤経軸及び赤緯軸の2軸回りに回転可能な赤道儀に支持された天体望遠鏡の天体自動追尾装置であって、
前記赤経軸回転角度を検出する赤経軸エンコーダから供給される帰還エンコーダパルスに基づいてフィードバック制御を行うことを特徴とする天体自動追尾装置。
【請求項5】
前記赤経軸回転をさせる駆動力を発生させる赤経モータと、
前記赤経モータにドライバ信号を供給するドライバと、
前記ドライバに発振パルスを供給するパルスジェネレータと、を有し、
前記パルスジェネレータは、前記赤経軸エンコーダから供給された帰還エンコーダパルスの測定値と目標値との差に基づいて、前記フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の天体自動追尾装置。
【請求項6】
前記パルスジェネレータは、前記赤経軸エンコーダから供給された複数の帰還エンコーダパルスの平均値に基づいて、前記フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の天体自動追尾装置。
【請求項7】
天体の追尾運動を開始した後、所定時間が経過したときに前記フィードバック制御が開始されることを特徴とする請求項6に記載の天体自動追尾装置。
【請求項8】
前記帰還エンコーダパルスの測定値と目標値との差が所定値以上となった場合に、アラーム措置を行うことを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載の天体自動追尾装置。
【請求項9】
前記帰還エンコーダパルスの測定値と目標値との差が所定値以上となった場合に、そのときの時刻及び/又は天体の赤道座標を記憶させるメモリを有することを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載の天体自動追尾装置。
【請求項10】
前記赤経軸エンコーダの分解能が、約1秒角以上5秒角以内であることを特徴とする請求項4から9のいずれかに記載の天体自動追尾装置。
【請求項11】
振動キャンセル機能を有する請求項4から10のいずれかに記載の天体自動追尾装置。
【請求項12】
前記赤経軸回転角度を検出する赤経軸エンコーダから供給されるエンコーダパルス及び前記赤緯軸回転角度を検出する赤緯軸エンコーダから供給されるエンコーダパルスに基づいて、大気差補正することを特徴とする請求項4から11のいずれかに記載の天体自動追尾装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−237910(P2012−237910A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107742(P2011−107742)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(510021018)株式会社あおき (2)
【Fターム(参考)】