説明

天然ゴムマスターバッチの製造方法

【課題】天然ゴムラテックス中のゴム粒子の粒度及びカーボンブラックスラリー中のカーボンブラックの粒度を調整することで、カーボンブラックの分散性に優れ、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液から天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固・分離する工程を含むマスターバッチの製造方法であって、前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径が10μm以下であり、かつ前記ゴムラテックス中のゴム粒子の90体積%粒径に対する前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径の比率が、0.1〜10であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックとを用いた天然ゴムのウェットマスターバッチの製造方法及びそれを用いたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より分散性や加工性に優れたゴムの製造方法として、特許文献1に示すように、天然ゴムラテックスとカーボンブラック等の充填剤スラリーとを混合し、凝固剤により天然ゴムと充填剤の混合物を凝固させ、得られた凝固物を水から分離する、いわゆるウェットマスターバッチの製造方法が知られている。この方法では、混練ロール等を用いた、いわゆるドライマスターバッチに比べてゴム成分に対するカーボンブラックの分散性及び加工性に優れるという利点を有する。
【特許文献1】特許登録第2633913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、カーボンブラックが分散された天然ゴム等のエラストマーにおいては、カーボンブラックの粒径が小さくなるほど補強効果が増大することが知られている。しかしながら、ウェットマスターバッチを製造する際に、天然ゴムラテックス中のゴム粒子の粒度及びカーボンブラックスラリー中のカーボンブラックの粒度を変化させた場合に、マスターバッチ中のカーボンブラックの分散性にどのように影響を与え、ひいてはそれを用いたゴム組成物の加工性、低発熱性及び耐疲労性等の特性にどのように影響を与えるかは不明である。
【0004】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、天然ゴムラテックス中のゴム粒子の粒度及びカーボンブラックスラリー中のカーボンブラックの粒度を調整することで、カーボンブラックの分散性に優れ、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、天然ゴムラテックス中のゴム粒子の粒度との間で一定の関係を維持しながら、カーボンブラックを水に分散させたスラリー(以下、カーボンブラックスラリーという)中のカーボンブラックの粒度を一定粒度以下にすることで、マスターバッチ中のカーボンブラック粒子の分散性が大幅に向上し、さらに、かかるマスターバッチを用いたゴム組成物は加工性、低発熱性および耐疲労性等の特性が向上することを見いだして本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明にかかる天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液から天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固・分離する工程を含むマスターバッチの製造方法であって、前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径(D90CB)が10μm以下であり、かつ前記ゴムラテックス中のゴム粒子の90体積%粒径(D90NR)に対する前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径の比率(D90CB/D90NR)が0.1〜20であることを特徴とする。
【0007】
上記工程により得られた凝固物(マスターバッチ)は、カーボンブラックの分散性が高く、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性等を向上させることが可能となる。なお、D90CB/D90NRは0.5〜10であることがより好ましい。
【0008】
天然ゴムラテックス中のゴム粒子の粒度とスラリー中のカーボンブラックの粒度を上記範囲に調整するためには、天然ゴムラテックス及び/又はカーボンブラックスラリーに分散処理を施すことが好ましい。これにより、ゴム粒子やカーボンブラック粒子を水相に分散させつつ、粒子を適宜微細化することができる。
【0009】
以上説明したように、本発明により得られた天然ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物は、加工性、耐疲労性及び低発熱性に優れるため、タイヤのドレッドゴム、サイドウォールゴムなどのタイヤ用ゴム組成物を始め、各種ゴム組成物に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックスラリーとを混合し、天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固・分離する工程を含むマスターバッチの製造方法において、スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径を10μm以下で、かつ前記ゴムラテックス中のゴム粒子の90体積%粒径に対する前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径の比率が、0.1〜20になるようにしたため、このマスターバッチを用いたゴム組成物の加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明では、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックスラリーとを混合する前に、天然ゴムラテックスおよびカーボンブラックスラリーについて、必要に応じて分散処理を行う。分散処理は、ハイシア(ローター/ステーター)ミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル等を用いて行うことができる。これらの装置は、回転数を高くしたり、処理時間を長くすることにより粒子を微細化することができる。
【0012】
カーボンブラックスラリーは、カーボンブラックと水とを混合し、上記分散処理装置を使って外観スラリー状にした後、処理を続けることによりカーボンブラックの凝集粒子を微粒化することができる。スラリー中のカーボンブラック濃度としては、1重量%〜20重量%が好ましく、3重量%〜15重量%であることがより好ましい。なお、カーボンブラックとしては、ゴム配合用として知られているSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどを使用することができるがこれに限定されるものではない。また、カーボンブラックスラリーには分散剤(たとえば花王製デモールN等)を添加してもよい。天然ゴムラテックスについては、必要に応じて分散処理を行うことでゴム粒子をより微粒化することができる。
【0013】
カーボンブラックスラリーと、天然ゴムラテックスを適当な撹拌装置によって混合した後、蟻酸などの酸や、硫酸アルミニウム等の金属塩などの凝固剤を用いて天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固・分離する。この場合、攪拌装置として、上記分散処理装置で使用されるハイシア(ローター/ステーター)ミキサーやホモジナイザーなど混合液に強い衝撃を付与し得るものを用いれば、凝固剤を使用せずに混合物を凝固させることができる。なお、このとき凝固剤を併用してもよいのはもちろんである。
【0014】
以上のようにして得られた凝固物は、乾燥処理を行うことにより含有する水分を蒸発させることで最終的に天然ゴムマスターバッチが得られる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明をその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
本実施例においては、天然ゴム(NR)ラテックス及びカーボンブラック(CB)スラリーを種々の条件にて分散処理を施した後、両者を混合して蟻酸により天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固させてマスターバッチを作製した。
【0017】
作製したマスターバッチに所定の他の成分を加えてゴム組成物を調製し、各ゴム組成物について分散性、加工性、耐疲労性及び発熱性の評価試験を行った(実施例1〜6及び比較例1〜7)。以下にその詳細を記す。
【0018】
[天然ゴムマスターバッチの作製]
カーボンブラックスラリーは、カーボンブラックとしてSAF級カーボンブラック(東海カーボン製シースト9(N110))を使用し、これを所定量の水(スラリー中のカーボンブラックの含有率が25重量%になるように計量)に混合し、PRIMIX社製ロボミックス(ハイシアミキサー)によって分散処理を行うことにより調製した。
【0019】
天然ゴムラテックスとしては、レヂテックス社製濃縮ラテックス(ゴム濃度:DRC(Dry Rubber Content)が60%)を使用した。天然ゴムラテックスは、DRCが25%になるように調整し、これを必要に応じて分散処理した。なお、天然ゴムとしては、これに限らずフィールドラテックス等を使用することができる。
【0020】
調製したカーボンブラックスラリー中のカーボンブラック粒子及び天然ゴムラテックス中のゴム粒子について体積平均径(MV)及び90体積%粒径(D90)を測定した。測定には島津製作所製粒度分布計(SALD−2200)を用いた。なお、カーボンブラック粒子の屈折率は、2.00-0.10i、天然ゴム粒子の屈折率は1.60-0.10iとして測定した。
【0021】
分散処理条件を変更することにより、MV及びD90の異なるカーボンブラックスラリー及び天然ゴムラテックスを種々作製し、これらを組み合わせて天然ゴムマスターバッチを作製した。
【0022】
具体的には、天然ゴムラテックス400重量部(うちゴム成分量100重量部)に対してカーボンブラックスラリー1000重量部(うちカーボンブラック量50重量部)を添加し、両者を攪拌機(みずほ工業社製卓上クイックホモミキサー:LR−1)を用いて混合(11300rpm×2min)した。
【0023】
こうして得た混合液を撹拌しながら、凝固剤としてギ酸0.1g(ゴム成分量100重量部に対して0.1重量%)を添加して天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固させた。凝固物を乾燥処理(120℃×120min)することにより天然ゴムマスターバッチを得た。
【0024】
異なる分散処理条件により得られた13種類の天然ゴムマスターバッチを用いて、ゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、天然ゴムマスターバッチ150重量部(うちゴム成分100重量部)に対し、ステアリン酸(日本油脂製)1重量部、老化防止剤(モンサント製6PPD)1重量部、亜鉛華(三井金属製亜鉛華1号)3重量部、ワックス(日本精蝋製)1重量部、硫黄(鶴見化学工業製)2重量部、促進剤(三新化学製CBS)1重量部を配合した。
【0025】
[評価試験]
各ゴム組成物の分散性、加工性、耐疲労性及び発熱性について評価を行った。なお、ゴム組成物の加硫条件は150℃×30minとした。
(1)分散性
ASTM D2663−69(B法)に準拠して測定した。
(2)耐疲労性
JIS K6270に準拠して測定し、後述する表1の比較例1の特性値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐疲労性が良好であることを示す。
(3)発熱性
JIS K6265に準拠して測定し、後述する表1の比較例1の特性値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど発熱温度が低く、低発熱性であることを示す。
(4)加工性
JIS K6300−1に準拠して測定し、後述する表1の比較例1の特性値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
(5)マスターバッチ中のカーボンブラックの分散性(フィリップス法)
上記ASTM D2663−69(B法)によるゴム組成物中のカーボンブラックの分散性とは別に、マスターバッチ中のカーボンブラックの分散性(フィリップス法)について評価を行った。フィリップス法による分散性は、ディスパグレーター(Tech Pro社製)を用いてRCBメソッドのX値からカーボンブラックの分散性を評価した。この値が大きいほど分散性に優れていることを示す。
【0026】
[評価結果]
天然ゴムラテックス及びカーボンブラックスラリーの分散処理条件と、ゴム組成物の特性の測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

表1よりカーボンブラックスラリー中のカーボンブラックのD90CB>10μmでは凝集塊(アグロメレート)がまだかなり残存し、物性の大きな改良効果は見られない。
【0028】
一方、D90CB<10μmで、かつD90CB/D90NRが0.1〜20の場合(実施例1〜実施例6)では物性(分散性、加工性、耐疲労性及び発熱性)が大きく向上している。これは、凝集塊(アグロメレート)が減少するとともに、天然ゴム粒子と、カーボンブラック粒子とが粒子の大きさが比較的近い範囲にあるため、相互作用により均一に混ざりやすくなっているためと考えられる(実施例1〜6の分散性の評価結果参照)。
【0029】
なお、D90CB<10μmであっても、D90CB/D90NRが20を超えている場合は、物性の大きな改善効果が認められない(比較例3)。また、D90CB/D90NRを0.1未満にすることは技術的に困難であり、生産性と得られるゴム組成物の物性とを総合的に考慮すれば、D90CB/D90NRは0.5〜10とするのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液から天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固・分離する工程を含むマスターバッチの製造方法であって、前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径が10μm以下であり、かつ前記ゴムラテックス中のゴム粒子の90体積%粒径に対する前記スラリー中のカーボンブラックの90体積%粒径の比率が、0.1〜20であることを特徴とする天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記天然ゴムラテックス及び/又は前記スラリーが分散処理を施したものである請求項1記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造された天然ゴムマスターバッチ。
【請求項4】
請求項3記載の天然ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物。

【公開番号】特開2010−150485(P2010−150485A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333142(P2008−333142)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】