説明

太単繊維繊度のセルロースアセテート繊維、その製造方法及びそれを用いた織編物

【課題】ドライ感、ハリ・コシ感が付与されたセルロースアセテート繊維を提供する。
【解決手段】平均単繊維繊度が13dtex以上、20dtex以下で、引掛伸度が7%以上の要件を満たす単繊維繊度のセルロースアセテート繊維及び当該繊維を紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量を23質量%未満として乾式紡糸法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太い単繊維繊度糸から構成されたセルロースアセテート繊維に関し、更に詳しくは、特に衣料用として有用な特性を有する太い単繊維繊度糸から構成されるセルロースアセテート繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテート繊維は主原料が天然パルプであり、半合成繊維といわれ天然繊維の特徴を併せ持つ特徴的な繊維である。即ち、セルロースアセテート繊維は優雅な光沢、深みのある色調、発色性、ドライ感、更には適度な吸湿性等の衣料用繊維として数多くの優れた特性を有することから、他の合成繊維とは異なった高級衣料用素材として位置付けられてきた。
【0003】
しかしながら、近年のファッショントレンドや消費者ニーズは極めて多様化、高級化しており、消費者の要望に沿った繊維素材を市場に提供するためには、単に原材料であるポリマーの基質に由来する繊維の特性に頼るだけではなく、風合いの改良及び改質や特殊機能の付加などが必要となる。
【0004】
この風合い改良の一つの大きな方向性としてより強いドライ感、ハリ・コシ感の付与が要望されてきている。セルロースアセテート繊維はそのポリマー基質や独特の繊維断面形態等により、一般的にハリ・コシ感、及びドライ感の強い繊維とされているが、更なるドライ感、ハリ・コシ感の付与のために、これまで繊維の断面形状や側面形態を変化させること等が試みられてきている。本出願人は、先に意図的に中空部を形成させ、嵩高・軽量感が付与されたセルロースアセテート繊維素材を提供した(特許文献1参照)。
【0005】
また、ハリ・コシ感、及びドライ感を高めるその他の手段として単繊維繊度を太くすることが挙げられるが、この場合、乾式紡糸方法のメカニズム上、十分な乾燥が困難となり、局所的に中空部が発生しやすく、これによる特異な風合いが認められたり、あるいはまたスキン層の構造が不均一となって局所的に弱強度な部分が発生する問題があり、これまでは単繊維繊度が12dtex程度までしか安定的に製造されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−220027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、単繊維繊度を太くすることによる極めて強いドライ感、ハリ・コシ感が付与されたセルロースアセテート繊維を提供すること、及び単繊維繊度が12dtex以上のセルロースアセテート繊維を工業的に安定して紡糸できる製造方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意研究を進めた結果、乾式紡糸工程において、紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量を23質量%未満とすることによって、所期の特性を有する新規な太い単繊維繊度のセルロースアセテート繊維を得ることに成功した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の要旨は、下記の(A)、(B)の要件を満たすセルロースアセテート繊維を提供するものである。
(A)平均単繊維繊度が13dtex以上、20dtex以下
(B)引掛伸度が7%以上
また、第二の要旨は、セルロースアセテート繊維を乾式紡糸する製造方法において、紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量を23質量%未満とする上記セルロースアセテート繊維の製造方法を提供するものである。
さらに、第三の要旨は、上記セルロースアセテート繊維を用いた織編物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、セルロースアセテート繊維が有するドライ感、ハリ・コシ感がより強調され、且つ、テキスタイル等の後加工に充分耐えうる物性を確保した太い単繊維繊度のセルロースアセテート繊維が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
本発明のセルロースアセテート繊維は平均単繊維繊度が13dtex以上、20dtex以下、引掛伸度が7%以上であるという特性を有する。
この平均単繊維繊度が13dtex未満であると、ドライ感、ハリ・コシ感などの特性がおちるという問題があり、他方、20dtexを超えると、製造時に溶剤の乾燥が困難になる為に弱糸が発生し易いという問題があり好ましくない。より好ましくは、ドライ感、ハリ・コシ感の発現と製造上の安定性のバランスの観点から15dtex〜18dtexの範囲である。
【0012】
また、引掛伸度については、7%以上が好ましく、更に、引掛伸度が9%以上であると、加工範囲が広がり、加工速度が向上することから好ましい。他方、引掛伸度が7%未満であると、他の繊維素材との混繊加工や仮撚り加工、あるいはテキスタイル化加工の際に糸切れの原因となったり、加工ができても毛羽等が発生するなど衣料用テキスタイルとして適さないものとなる。
【0013】
次に本発明の太い単繊維繊度の糸から構成されるセルロースアセテート繊維の製造方法を説明する。
本発明のセルロースアセテート繊維を乾式紡糸法によって製造する際には、紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量を23質量%未満とすることが必要である。
一般にセルロースアセテート繊維の乾式紡糸は、アセテートフレークを揮発性溶剤に溶解させて紡糸原液を調製し、これを小孔径の紡糸口金から加熱空気中に吐出して、溶剤を蒸発させ、糸条を形成するものである。
【0014】
溶剤の蒸発によりまずは繊維表面にスキン層が形成され、繊維内部の溶剤はスキン層を通過しながら揮発することで乾燥が進行するが、単繊維繊度が大きくなるほど比表面積は小さくなり、繊維内部の溶剤が揮発しにくくなる傾向にある。
従って、特許文献1に示されるような繊維内部に溶剤を多く含む状況となり、内部の溶剤がスキン層を通過せずにスキン層に亀裂を生じて中空形状にて乾燥することとなる。
【0015】
この時、中空を形成することなく、十分な乾燥が達成されずにボビンに巻き取られてしまった場合、スキン層の溶剤が作用し、後加工に耐えられない弱強度部が発生する原因となる。この原因を解消するため種々検討の結果、紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量(以下、RSTと略記する。)が23質量%未満であれば、こうした問題が発生しないことが判明した。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
なお、RST、および引掛伸度、乾伸度、乾強度等の繊維の特性評価は以下の方法によって行った。
【0017】
1)RSTの測定
RSTは、紡糸直後の8〜10g程度の糸条をサンプリングし定量分析により以下に示す計算式にて算出する。
RST(%)=(W0 −W1 )/W1×100
(式中のW0 は糸条の重量(g)、W1は糸条の絶乾重量(g)である。)
【0018】
2)引掛伸度
引掛伸度は、図1に示した同じ長さの2本の糸をループ状に掛け合わせて、引っ張った時の切断時の伸長率であり、下記式にて算出する。
引掛伸度(%)=ΔL/L×100
(式中のLは元の糸長(cm)、ΔLは伸びた長さ(cm)である。)
【0019】
3)乾伸度、乾強度
乾伸度及び乾強度は、上記引掛伸度と同様1本の糸を引っ張った時の切断時の破断伸長率、破断強度を測定したものでそれぞれ下記式にて算出する。
乾伸度(%)=ΔL/L×100
乾強度(cN/dtex)=破断強力/正量繊度
【0020】
4)弱糸の有無
弱糸の有無は、評価n数60での乾伸度および乾強度の測定結果から評価した。
5)中空糸の有無
中空糸の有無は、繊維断面を光学顕微鏡で観測して評価した。
【0021】
6)筒編加工性
筒編加工性は、筒編み機で筒編みを50cm行った時の加工性について評価したもので、問題なく加工できるものを○、途中で穴が開いたり、加工が出来ないものを×で示した。
【0022】
7)テキスタイルの表面状態
テキスタイルの表面状態については筒編機の加工性評価で得られたテキスタイルを目視にて判定し、表面に毛羽があるものは×、ないものは○で示した。また、筒編みが出来なかったものは(−)で示した。
【0023】
8)風合い
風合いはドライ感、ハリ・コシ感の強弱を、得られたセルロースアセテート繊維の筒編物を手触りで評価し、強、弱にて判定した。また、筒編みが出来なかったものは(−)で示した。
尚、いずれの実施例及び比較例においても、紡糸原液は平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノール(=91/9)の混合溶剤に溶解し、固形分濃度を22.0質量%に調整して作製された紡糸原液を使用している。
【0024】
[実施例1]
セルロースアセテートフレークを揮発性溶剤に溶解させて紡糸原液を調製し、孔型が○型の紡糸口金を用いて、RST20.7%、捲取速度(Vf)300m/min、ドラフト率(Vf/Vj)=0.6にて乾式紡糸法により、66dtex、4フィラメントのセルローストリアセテート繊維を得た。その特性は、表1に示すとおり、引掛伸度は11%以上であり、良好な筒編み加工性を有しており、且つ、出来上がりの編物の表面は毛羽等のない良好なものが得られた。また、得られた編物の風合は極めて強いドライ感、ハリ・コシ感を有していた。
【0025】
[実施例2、比較例1〜4]
実施例1と同様なセルロースフレークの紡糸原液にて、表1のように捲取速度、ドラフト率、品種を種々変更して乾式紡糸を行い得られたアセテート繊維の評価結果を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】引掛伸度の測定方法の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)の要件を満たす太単繊維繊度のセルロースアセテート繊維。
(A)平均単繊維繊度が13dtex以上、20dtex以下
(B)引掛伸度が7%以上
【請求項2】
セルロースアセテート繊維の乾式紡糸による製造方法において、紡糸引き取り時の繊維内含有溶剤の含有量を23質量%未満とする請求項1記載のセルロースアセテート繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のセルロースアセテート繊維を用いた織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209466(P2009−209466A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52157(P2008−52157)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】