説明

太陽光発電パネル散水システム

【課題】発電効率を確実に向上させることのできる太陽光発電パネル散水システムを提供する。
【解決手段】受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネル2と、太陽光発電パネル2の上端部に配置され、側面に設けられた複数の散水孔3A〜3Dから太陽光発電パネル2の受光面に散水をする円形パイプ3とを備えた太陽光発電パネル散水システム1であって、複数の散水孔3A〜3Dの向きを太陽光発電パネル2の受光面に対して各々変化させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電パネルに散水することにより太陽光発電パネルを冷却し、発電効率向上を図った太陽光発電パネル散水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電においては、太陽光の受光量が多い程、太陽光発電パネルでの発電量が大きくなるが、真夏等に太陽光が強すぎて太陽光発電パネル自体の温度が大きく上昇すると、図9に示すように、太陽光発電パネルの発電効率が低下してしまうことが知られている。
【0003】
そこで、従来より、太陽光発電パネルに散水することにより太陽光発電パネルを冷却し、太陽光発電パネルの発電効率を向上させた太陽光発電システムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2又は特許文献3参照)。
【0004】
また、太陽光発電パネルに液体を噴霧して太陽光発電パネルを冷却する太陽光発電システムも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
さらに、太陽光発電パネル表面に凹凸溝を形成し、太陽光がパネル表面で屈折して発電素子に垂直に照射されるようにして、発電効率の向上を図った太陽光発電システムも提案されている(例えば、特許文献5又は特許文献6参照)。
【特許文献1】特開平8−195503号公報
【特許文献2】特開2002−88994号公報
【特許文献3】特開2003−56135号公報
【特許文献4】特開2003−199377号公報
【特許文献5】特開2001−7371号公報
【特許文献6】特開2003−188394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術のうち特許文献1〜4では、散水又は液体噴霧で太陽光発電パネルを冷却させるだけであるので、発電効率の向上に限界がある。例えば、1℃冷却させても、発電効率が0.5%改善するにすぎない。
【0007】
また、特許文献5・6では、発電効率を10%位向上させることはできるが、太陽光発電パネルは屋外に設置されるため、凹凸溝に汚れが付着しやすく、凹凸溝が汚れた場合には発電効率が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の課題は、発電効率を確実に向上させることのできる太陽光発電パネル散水システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネルと、前記太陽光発電パネルの受光面に散水することにより、レンズ効果を発現させるための水滴を当該受光面上に形成する散水部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、太陽光発電パネルの受光面上に形成された水滴に太陽光が当たると、太陽光は前記水滴におけるレンズ効果によって太陽光発電素子上に集光され、これにより、発電効率を高めることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネルと、前記太陽光発電パネルの上端部に配置され、側面に設けられた複数の散水孔又はノズルから当該太陽光発電パネルの受光面に散水をする散水部とを備えた太陽光発電パネル散水システムであって、前記複数の散水孔又はノズルの向きを前記太陽光発電パネルの受光面に対して各々変化させたことを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、複数の散水孔又はノズルの向きを太陽光発電パネルの受光面に対して各々変化させたので、太陽光発電パネル上において、散水部に近い位置、散水部から遠い位置、及びそれらの中間位置等に色々な位置に散水され、太陽光発電パネル全体を均一に冷却することができる。特に、太陽光発電パネル上において、散水部から遠い位置に散水された場合は、水が周囲に飛散して水滴となるため、この水滴がレンズ効果を発現し、発電効率を高めることができる。
【0013】
複数の散水孔又はノズルの軸と太陽光発電パネルの受光面との角度は、請求項3のように、5度〜80度の範囲に設定することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発電効率を確実に向上させることが可能な太陽光発電パネル散水システムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明に係る太陽光発電パネル散水システムを示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)の右側側面図である。この太陽光発電パネル散水システム1は、受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネル2と、太陽光発電パネル2の上端部に配置され、側面の複数の散水孔3A〜3Dから太陽光発電パネル2の受光面に散水をする散水部としての円形パイプ3とを備えている。
【0017】
図2は円形パイプ3を示しており、(a)はその正面図、(b)は散水孔3A〜3Dの位置を概略的に示した図である。また、図3は図2(b)の拡大図である。円形パイプ3には、図2及び図3に示すように、その側面に複数の散水孔3A〜3Dが形成されている。
【0018】
散水孔3A〜3Dのうち、散水孔3Aは基準となる方向(ここでは水平方向)に向けて開口している。散水孔3Bは散水孔3Aよりも上方に形成され、散水孔3A,3B間の角度は10度に設定されている。また、散水孔3Cは散水孔3Bよりも上方に形成され、散水孔3B,3C間の角度も10度に設定されている。さらに、散水孔3Dは散水孔3Cよりも上方に形成され、散水孔3C,3D間の角度も10度に設定されている。
【0019】
円形パイプ3の側面には、上記のような散水孔3A〜3Dを一組とすれば、この一組の散水孔3A〜3Dが円形パイプ3の軸方向に沿って複数組形成されている。そして、本実施例では、図1において、散水孔3Aの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が5度に、散水孔3Bの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が15度に、散水孔3Cの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が25度に、散水孔3Dの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が35度にそれぞれなるよう円形パイプ3が配設されている。
【0020】
次に、本実施例の作用について説明する。
【0021】
例えば、図示していないポンプによって円形パイプ3内に送水すると、円形パイプ3側面の複数の散水孔3A〜3Dから、太陽光発電パネル2上に散水される。このとき、散水孔3Aはその散水角度が5度と比較的小さいため、散水孔3Aからの散水は円形パイプ3に近い位置に落下し、また、散水孔3Dは散水角度が35度と比較的大きいため、散水孔3Dからの散水は円形パイプ3から遠い位置に落下する。さらに、散水孔3B,3Cは散水角度がそれぞれ15度と25度で中間的であるから、散水孔3B,3Cからの散水は中間位置に落下する。これにより、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却でき、発電効率を向上させることが可能となる。なお、発電効率とは、太陽光発電パネル2を1℃冷却したときの発電量向上率をいい、単位は[%/℃]である。
【0022】
また、太陽光発電パネル2上において、円形パイプ3から遠い位置に落下した場合、水が周囲に飛散して水滴となるため、この水滴に太陽光が当たると、太陽光は水滴で屈折し、いわゆるレンズ効果によって太陽光は太陽光発電パネル2上に集光され、かつ太陽光発電パネル2の発電素子にほぼ垂直に照射されるようになって、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却できる場合と相俟って、発電効率をより一層向上させることができる。
【0023】
図4は、本実施例の変形例である。この変形例では、図1の場合に比べて、散水孔3A〜3Dをより上方に向けて円形パイプ3が配設されている。つまり、この変形例では、散水孔3Aの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が50度に、散水孔3Bの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が60度に、散水孔3Cの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が70度に、散水孔3Dの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が80度にそれぞれなるように円形パイプ3が配設されている。
【0024】
この変形例によれば、図4に示すように、散水孔3Dはその散水角度が80度と大きいため、散水孔3Dからの散水は高く上がって円形パイプ3に近い位置に落下し、また、散水孔3Aは散水角度が50度と80度に比べれば小さいため、散水孔3Aからの散水はあまり高く上がることなく円形パイプ3から遠い位置に落下する。さらに、散水孔3B,3Cは散水角度がそれぞれ60度と70度で中間的であるから、散水孔3B,3Cからの散水は中間位置に落下する。これにより、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却でき、発電効率を向上させることが可能となる。
【0025】
また、この変形例では、太陽光発電パネル2上において、円形パイプ3から遠い位置に落下した場合だけでなく、近くに落下した場合も、さらには中間位置に落下した場合も、散水された水は周囲に飛散して水滴となる。そして、この水滴に太陽光が当たると、いわゆるレンズ効果によって太陽光は太陽光発電パネル2上に集光され、かつ太陽光発電パネル2の発電素子に垂直に照射されるようになる。これによって、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却できる場合という上記効果に加えて、発電効率を相乗的に向上させることができる。
【実施例2】
【0026】
図5及び図6は実施例2を示している。本実施例では、図5に示すように、円形パイプ3の側面に散水孔3E〜3Hが円形パイプ3の軸方向に沿った水平な直線上に多数形成されている。散水孔3E〜3Hのうち、散水孔3Eは、図6(a)に示すように、その中心軸が基準となる方向(ここでは水平方向)に向けて、散水孔3Fは、同図(b)に示すように、その中心軸が水平方向より10度上方に向けて、散水孔3Gは、同図(c)に示すように、その中心軸が水平方向より20度上方に向けて、散水孔3Hは、同図(d)に示すように、その中心軸が水平方向より30度上方に向けてそれぞれ形成されている。
【0027】
そして、本実施例では、図5において、散水孔3Eの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が5度に、散水孔3Fの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が15度に、散水孔3Gの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が25度に、散水孔3Hの中心軸と太陽光発電パネル2の受光面との角度(散水角度)が35度にそれぞれなるよう円形パイプ3が配設されている。
【0028】
次に、本実施例の作用について説明する。
【0029】
散水孔3Eはその散水角度が5度と比較的小さいため、散水孔3Eからの散水は円形パイプ3に近い位置に落下し、また、散水孔3Hは散水角度が35度と比較的大きいため、散水孔3Hからの散水は円形パイプ3から遠い位置に落下する。さらに、散水孔3F,3Gは散水角度がそれぞれ15度と25度で中間的であるから、散水孔3F,3Gからの散水は中間位置に落下する。これにより、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却でき、発電効率を向上させることが可能となる。
【0030】
また、太陽光発電パネル2上において、円形パイプ3から遠い位置に落下した場合、水が周囲に飛散して水滴となるため、この水滴に太陽光が当たると、いわゆるレンズ効果によって太陽光は太陽光発電パネル2上に集光され、かつ太陽光発電パネル2の発電素子に垂直に照射されるようになる。これにより、太陽光発電パネル2全体を均一に冷却できる場合と相俟って、発電効率をより一層向上させることができる。
【0031】
次に、図1に示した太陽光発電パネル散水システム1を用いて、発電量及び発電効率についての実験を行った。そのときの実験条件は、外径13mmの塩化ビニール管に直径0.5mmの散水孔3A〜3Dを形成し、散水角度は散水孔3Aが5度、散水孔3Bが15度、散水孔3Cが25度、散水孔3Dが35度に設定するととも、散水量を1リットル/min・mで、1.5散水−7S止水の間欠散水とした。また、太陽光発電パネル2の傾斜角度を10度に設定した。
【0032】
図7はその実験結果であり、発電量の変化を朝方から夕方まで時系列的に示したものである。なお、図中、実線は散水を行った場合であり、破線は散水を行わなかった場合(非散水)である。
【0033】
図8は、発電効率の変化を朝方から夕方まで時系列的に示したものである。図中、朝方に発電効率が高いのは、太陽高度が低いため、よりレンズ効果が強く現れた結果であると推測できる。
【0034】
なお、上記実施例1及び実施例2では、円形パイプ3の側面に散水孔を形成した例を示したが、散水孔の代わりに、ノズルを設けてもよい。また、散水部としては、円形パイプに限らず角形パイプであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1による太陽光発電パネル散水システムを示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)の右側側面図である。
【図2】円形パイプを示しており、(a)はその正面図、(b)は散水孔の位置を概略的に示した図である。
【図3】図2(b)の拡大図である。
【図4】実施例1の変形例であり、(a)はその斜視図、(b)は(a)の右側側面図である。
【図5】実施例2による太陽光発電パネル散水システムの斜視図である。
【図6】(a)は散水孔の角度が0度の場合を示す図、(b)は散水孔の角度が10度の場合を示す図、(c)は散水孔の角度が20度の場合を示す図、(d)は散水孔の角度が30度の場合を示す図である。
【図7】発電量の変化を時系列的に示した図である。
【図8】発電効率の変化を時系列的に示した図である。
【図9】発電効率と日射強度との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0036】
1 太陽光発電パネル散水システム
2 太陽光発電パネル
3 円形パイプ(散水部)
3A〜3H 散水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネルと、前記太陽光発電パネルの受光面に散水することにより、レンズ効果を発現させるための水滴を当該受光面上に形成する散水部とを備えたことを特徴とする太陽光発電パネル散水システム。
【請求項2】
受光面が傾斜して設置された太陽光発電パネルと、前記太陽光発電パネルの上端部に配置され、側面に設けられた複数の散水孔又はノズルから当該太陽光発電パネルの受光面に散水をする散水部とを備えた太陽光発電パネル散水システムであって、
前記複数の散水孔又はノズルの向きを前記太陽光発電パネルの受光面に対して各々変化させたことを特徴とする太陽光発電パネル散水システム。
【請求項3】
前記複数の散水孔又はノズルの軸と前記太陽光発電パネルの受光面との角度を5〜80度の範囲に設定したことを特徴とする請求項2に記載の太陽光発電パネル散水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−118046(P2008−118046A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301924(P2006−301924)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】