説明

太陽光発電装置およびその製造方法

【課題】光電変換層としてカーボンナノチューブを使用しても光電流値を高めて変換効率を向上させることができる、太陽光発電装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスなどからなる基板部材12aとこの基板部材12a上に形成されたPtなどからなる電極膜12bとから構成された電極基板12と、ガラスなどからなる透明基板部材14aとこの基板部材14a上に形成されたITOなどからなる透明電極膜14bとから構成された電極基板14との間に、単層カーボンナノチューブ薄膜18とこの単層カーボンナノチューブ薄膜18より厚い単層カーボンナノチューブ膜20とから構成された光電変換層16が挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置およびその製造方法に関し、特に、カーボンナノチューブを用いた有機薄膜太陽電池などの太陽光発電装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光発電装置の一つとして有機薄膜太陽電池が知られている。この有機薄膜太陽電池は、有機化合物の薄膜を用いて発電する太陽電池であり、その原理はpn接合型のシリコン太陽電池と基本的に同じであるが、大きな設備を必要とせずに容易に且つ安価に製造可能であり、軽量で柔軟性があり、大面積化が可能であるため、シリコン太陽電池に代わる太陽電池として期待されている。
【0003】
このような有機薄膜太陽電池として、異なる種類の金属からなる電極間にp型有機半導体薄膜を挟んだショットキー接合型の有機薄膜太陽電池、少なくとも一方が透明電極からなる一対の電極間に有機高分子または有機低分子からなるp型有機半導体薄膜と有機低分子からなるn型有機半導体薄膜とを重ねて挟んでpn接合面で発電するpnヘテロ接合型の有機薄膜太陽電池、少なくとも一方が透明電極からなる一対の電極間にp型有機半導体とn型有機半導体の混合物を挟んでpn接合面で発電するバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池などが提案されている。
【0004】
これらの有機薄膜太陽電池のうち、ショットキー接合型の有機薄膜太陽電池では、光電流を取り出すことができるものの、その電流値が非常に低くて変換効率が非常に低いため、実用化が考えられなかったが、pnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池では、光電流値を高くして変換効率を向上させることができ、実用化が可能になってきた。このような変換効率を向上させたpnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池として、励起子拡散長が長いかご状クラスターのフラーレンC60(60個の炭素原子のみから構成された略球状の分子)のようなフラーレン誘導体をn型有機半導体に使用したpnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
従来のフラーレンC60をn型半導体(アクセプタ)に使用したpnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池は、有機層とフラーレンC60層とのヘテロ接続が形成される太陽電池であり、可視光により有機層において電子−正孔が生じ、電子がフラーレンC60に移動して、正孔が有機層にサイト分離されることによって、ショットキーが形成されて光起電力が生じる。しかし、有機層とフラーレンC60層とのヘテロ接続ではなく、フラーレンC60をp型半導体(ドナー)とn型半導体(アクセプタ)の両方に使用したpnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池については報告されていない。
【0006】
一方、カーボンナノチューブは、黒鉛結晶の薄層を円筒状に巻いた構造、すなわち、炭素分子の六員環が亀甲模様のように配列した平面状または曲面状のグラフェンシートを円筒状に巻いた構造を有し、その直径は数nm〜数十nm、長さは直径の数十倍〜数千倍以上である。このようなカーボンナノチューブは、円筒状に巻いたグラフェンシートが実質的に1層である単層カーボンナノチューブと、2層以上である多層カーボンナノチューブに分類される。
【0007】
単層カーボンナノチューブは、グラファイトと異なり、カイラリティーの違いによって金属的にも半導体的にも電気的性質を変えることができる。これは、カイラリティーによって、バンドギャップが変調され、光吸収も異なることを意味している。特に、単層カーボンナノチューブは、他のカーボン材料と異なり、金属的性質を有する場合には可視光を吸収し、半導体的性質を有する場合には近赤外光を吸収する。
【0008】
近年、有機半導体として単層カーボンナノチューブを使用した有機薄膜太陽電池の研究が行われ始めている。例えば、仕事関数の異なるパラジウム(Pd)とアルミニウム(Al)の間に化学蒸着法(CVD)によって数本の単層カーボンナノチューブを架橋させた有機薄膜太陽電池が作製されている。この有機薄膜太陽電池では、単層カーボンナノチューブで可視光を吸収し、電子と正孔をそれぞれの電極にサイト分離させている。また、p型の特性を有する単層カーボンナノチューブとn型シリコンを用いた太陽電池も作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−34764号公報(段落番号0006)
【特許文献2】特開2007−258235号公報(段落番号0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、単層カーボンナノチューブをp型半導体(ドナー)とn型半導体(アクセプタ)の両方に使用したpnヘテロ接合型やバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池については報告されていない。また、有機半導体として単層カーボンナノチューブを使用した有機薄膜太陽電池について報告された研究では、まだ光電流値が低く変換効率が低いため、光電流値を高めて変換効率を向上させることが望まれている。
【0011】
本発明者らは、単層カーボンナノチューブが光吸収活性層として機能するか否かを調べるために、アーク放電により生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を精製した後に真空中で加熱して得られた高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を含む単層カーボンナノチューブ薄膜の光電流の測定を行った。その結果、この高結晶性の単層カーボンナノチューブ薄膜を有機薄膜太陽電池の有機半導体薄膜として使用することにより、有機薄膜太陽電池の光電流値を向上させることができることがわかった。また、この高結晶性の単層カーボンナノチューブ薄膜を有機薄膜太陽電池のp型有機半導体とn型有機半導体の両方に使用することができることがわかった。
【0012】
また、本発明者らは、厚さ数十nmの高結晶性の単層カーボンナノチューブ薄膜の光電流特性を調べるために、くし形Pt電極に高結晶性の単層カーボンナノチューブのエタノール分散液をスプレーして塗布した。しかし、走査型電子顕微鏡(SEM)によって塗布状態を確認したところ、高結晶性の単層カーボンナノチューブは、結晶性が良いため、エタノールに均一に分散せず、薄く付着している薄膜部分と凝集体のバルク部分としてPt電極に塗布されることがわかった。このようにして作製したセルにキセノンランプにより光照射したところ、光照射時に電気抵抗が上がること、光照射強度を増加すると電気抵抗も増加すること、波長1000〜2000nmの近赤外光などの光のオン−オフに対する光応答性があること、光照射により0.16mVの起電力が発生することがわかった。これらの結果から、Pt電極間に存在する単層カーボンナノチューブのみで起電力が生ずることがわかった。
【0013】
したがって、本発明は、光電変換層としてカーボンナノチューブを使用しても光電流値を高めて変換効率を向上させることができる、太陽光発電装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、一対の電極間に光電変換層が挟持された太陽光発電装置において、異なる厚さのカーボンナノチューブ膜を積層して光電変換層を形成することにより、光電変換層としてカーボンナノチューブを使用しても光電流値を高めて変換効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明による太陽光発電装置は、一対の電極間に光電変換層が挟持された太陽光発電装置において、光電変換層が、カーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜とを重ね合わせて形成されていることを特徴とする。
【0016】
この太陽光発電装置において、複数のカーボンナノチューブ薄膜とこれらのカーボンナノチューブ薄膜より厚い複数のカーボンナノチューブ膜を交互に積層して光電変換層を形成してもよい。また、カーボンナノチューブ膜の厚さが、カーボンナノチューブ薄膜の厚さの5〜5000倍であるのが好ましい。また、カーボンナノチューブ薄膜およびカーボンナノチューブ膜が、高結晶性のカーボンナノチューブからなるのが好ましい。さらに、一対の電極の少なくとも一方が光透過性であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明による太陽光発電装置の製造方法は、カーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜とを重ね合わせて形成された光電変換層を一対の電極間に挟持することを特徴とする。
【0018】
この太陽光発電装置の製造方法において、光電変換層が、高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を溶媒に分散させて得られた単層カーボンナノチューブ分散液を、一対の電極の一方の電極に塗布してカーボンナノチューブ薄膜を形成するとともに、一対の電極の他方の電極にカーボンナノチューブ薄膜より厚く塗布してカーボンナノチューブ膜を形成した後、カーボンナノチューブ薄膜とカーボンナノチューブ膜とを当接させることによって形成されるのが好ましい。また、複数のカーボンナノチューブ薄膜とこれらのカーボンナノチューブ薄膜より厚い複数のカーボンナノチューブ膜を交互に積層して光電変換層を形成してもよい。この場合、光電変換層が、高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を溶媒に分散させて得られた単層カーボンナノチューブ分散液を、一対の電極の一方の電極に塗布してカーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜をこの順で交互に積層して形成するとともに、一対の電極の他方の電極にカーボンナノチューブ膜とカーボンナノチューブ薄膜をこの順で交互に積層して形成し、一方の電極の最表面に形成されたカーボンナノチューブ膜およびカーボンナノチューブ薄膜の一方と、他方の電極上の最表面に形成されたカーボンナノチューブ膜およびカーボンナノチューブ薄膜の他方とを当接させることによって形成されるのが好ましい。また、高結晶性の単層カーボンナノチューブが、アーク放電により生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を精製した後に真空中で加熱して得られるのが好ましい。また、生成した単層カーボンナノチューブを含む煤の精製は、生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を大気中で加熱して燃焼酸化した後に酸で処理することによって行われるのが好ましい。さらに、真空中で加熱する温度が1000℃以上であるのが好ましい。また、カーボンナノチューブ膜の厚さが、カーボンナノチューブ薄膜の厚さの5〜5000倍であるのが好ましい。また、一対の電極の少なくとも一方が光透過性であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光電変換層としてカーボンナノチューブを使用しても光電流値を高めて変換効率を向上させることができる、太陽光発電装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による太陽光発電装置の第1の実施の形態を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明による太陽光発電装置の第2の実施の形態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明による太陽光発電装置およびその製造方法の実施の形態を説明する。
【0022】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明による太陽光発電装置の第1の実施の形態を模式的に示している。図1に示すように、本実施の形態の太陽光発電装置10は、一対の電極基板12および14と、これらの電極基板12および14の間に挟持された光電変換層16とから構成されている。
【0023】
下側の電極基板12は、ガラスまたはプラスチックなどからなる基板部材12aと、この基板部材12a上に形成されたPtなどからなる電極膜12bとから構成されている。一方、上側の電極基板14は、ガラスまたはプラスチックなどからなる透明基板部材14aと、この基板部材14a上に形成された酸化インジウム錫(以下、「ITO」という)などからなる透明電極膜14bとから構成されている。また、光電変換層16は、電極基板14の透明電極膜14b上に形成された単層カーボンナノチューブ薄膜18と、電極基板12の電極膜12b上に形成された(単層カーボンナノチューブ薄膜18より厚い)単層カーボンナノチューブ膜20とから構成されている。
【0024】
上述した構造の太陽光発電装置10は、以下の方法により製造することができる。
【0025】
まず、基板部材12a上にPtなどを塗布して電極膜12bを形成して電極基板12を作製するとともに、透明基板部材14a上にITOなどを塗布して透明電極膜14bを形成して電極基板14を作製する。また、アーク放電により生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を精製(好ましくは、大気中において加熱して燃焼酸化した後に酸で処理して精製)した後に真空中において1000℃以上で加熱して得られた高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を、エタノールなどの溶媒に分散させて単層カーボンナノチューブ分散液を作製する。次に、単層カーボンナノチューブ分散液を電極基板14の透明電極膜14b上にスプレー塗布して単層カーボンナノチューブ薄膜18を形成するとともに、単層カーボンナノチューブ分散液を電極基板12の電極膜12b上に(単層カーボンナノチューブ薄膜18を形成する際の圧力と異なる圧力で)スプレー塗布して単層カーボンナノチューブ薄膜18より厚くなるように単層カーボンナノチューブ膜20を形成する。次に、単層カーボンナノチューブ薄膜18と単層カーボンナノチューブ膜20を当接させて配置することにより、電極基板12および14の間に光電変換層16を挟持して、太陽光発電装置10が得られる。
【0026】
なお、本実施の形態の太陽光発電装置では、単層カーボンナノチューブ薄膜18がn型の特性を有し、単層カーボンナノチューブ膜20がp型の特性を有する。また、単層カーボンナノチューブ薄膜18と単層カーボンナノチューブ20との当接面は、成膜時の単層カーボンナノチューブの積層密度や配向性などの相違から、走査型電子顕微鏡(SEM)などによって確認することができる。
【0027】
また、単層カーボンナノチューブ薄膜18と単層カーボンナノチューブ膜20の形成方法としては、電気的な導通と所望の膜厚が得られれば、スプレー塗布の他、スピンコート、ロールコート、浸漬塗布などの様々な塗布方法を使用することができる。
【0028】
アーク放電法により生成した単層カーボンナノチューブは、CVD法などの他の方法で合成する場合と比べて、構造欠陥が少なく結晶性が高い単層カーボンナノチューブである。また、アーク放電法により生成した単層カーボンナノチューブを含む煤は、アモルファスカーボンなどの不純物も多量に含んでいる。これらの不純物は、生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を大気中において加熱して燃焼酸化した後に酸で処理することによって除去することができる。また、精製した単層カーボンナノチューブを含む煤を真空中において1000℃以上で加熱することにより、さらに高い結晶性の単層カーボンナノチューブを得ることができる。このようにして得られた高結晶性の単層カーボンナノチューブ薄膜および単層カーボンナノチューブ膜を太陽光発電装置の光電変換層として使用することにより、例えば、それぞれ有機薄膜太陽電池のp型有機半導体およびn型有機半導体として使用することにより、太陽光発電装置の光電流値を高くすることができる。
【0029】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明による太陽光発電装置の第2の実施の形態を模式的に示している。図2に示すように、本実施の形態の太陽光発電装置110は、一対の電極基板112および114と、これらの電極基板112および114の間に挟持された複数の光電変換層116とから構成されている。本実施の形態の太陽光発電装置110は、光電変換層16の代わりに複数の光電変換層116を設けた以外は、第1の実施の形態の太陽光発電装置10と略同一の構成を有するので、同一の部分の参照符号に100を加えて、その説明を省略する。
【0030】
また、本実施の形態の太陽光発電装置110は、単層カーボンナノチューブ分散液を電極基板114の透明電極膜114b上にスプレー塗布して単層カーボンナノチューブ薄膜118と単層カーボンナノチューブ膜120をこの順で交互に積層して形成するとともに、単層カーボンナノチューブ分散液を電極基板112の電極膜112b上に(単層カーボンナノチューブ薄膜118を形成する際の圧力と異なる圧力で)スプレー塗布して単層カーボンナノチューブ膜120と単層カーボンナノチューブ薄膜118をこの順で交互に積層して形成した後、電極基板114の透明電極膜114bの最表面に形成された単層カーボンナノチューブ膜120および単層カーボンナノチューブ薄膜118の一方と、電極基板112の電極膜112b上の最表面に形成された単層カーボンナノチューブ膜120および単層カーボンナノチューブ薄膜118の他方とを当接させる以外は、第1の実施の形態の太陽光発電装置10の製造方法と略同一の方法によって製造することができるので、その説明を省略する。
【0031】
なお、本実施の形態の太陽光発電装置では、単層カーボンナノチューブ薄膜118がn型の特性を有し、単層カーボンナノチューブ膜120がp型の特性を有する。また、単層カーボンナノチューブ薄膜118と単層カーボンナノチューブ120との当接面は、成膜時の単層カーボンナノチューブの積層密度や配向性などの相違から、走査型電子顕微鏡(SEM)などによって確認することができる。
【0032】
また、単層カーボンナノチューブ薄膜118と単層カーボンナノチューブ膜120の形成方法としては、電気的な導通と所望の膜厚が得られれば、スプレー塗布の他、スピンコート、ロールコート、浸漬塗布などの様々な塗布方法を使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明による太陽光発電装置およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0034】
まず、Fe、Ni、CおよびS(質量比1:1:3:0.1)の混合粉末からなる金属触媒を調製し、直径6mmのグラファイト棒(純度99.9%、高純度化学(株))に形成された直径3.2mmの穴に充填して陽極棒とした。この陽極棒とグラファイト棒からなる陰極棒をアーク放電装置のチャンバ内の電極アダプタに取り付け、ロータリーポンプを用いてチャンバ内を10−2Torr以下の真空状態にした。その後、陰極棒と陽極棒を接触させた状態において80Aで7分間直流電流を流した。この抵抗加熱により金属触媒とグラファイト粉末が溶解して混合され、陽極の組成が均一になる。25分間待機してチャンバが十分冷えた後、Heガスを100Torrになるように満たし、陰極と陽極の間を2〜3mm程度に保持して、67Aでアーク放電を行った。放電終了後、20分間以上チャンバを冷却し、チャンバ内部の壁面および天板に堆積した煤を回収した。
【0035】
このようにして合成した単層カーボンナノチューブから試料(約1g)を取り、大気中において723Kで30分間燃焼酸化した後、大気中において773Kで30分間燃焼酸化した。この燃焼酸化後の試料を6MのHCl水溶液100mlに浸して333Kのオーブン中で12時間以上静置した。その後、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)メンブランフィルタ(直径47mm、孔径0.1μm、ADVANTEC社製)を用いて、濾液が中性になるまで精製水で洗浄しながら吸引濾過を行った。この吸引濾過後の濾過物を333Kのオーブン中で12時間以上静置して乾燥した。さらに、大気中において773Kで30分間燃焼酸化し、6MのHCl水溶液100mlに浸して333Kのオーブン中で12時間以上静置した後、上記と同様の方法により、洗浄しながら吸引濾過を行った後に乾燥して、単層カーボンナノチューブの試料を回収した。
【0036】
このようにして燃焼酸化および酸処理によって精製した単層カーボンナノチューブ(約150mg)をグラファイト製の坩堝へ投入した後、高真空炉のチャンバ内に設置し、ロータリーポンプとターボポンプを用いてチャンバ内の圧力が10−5Pa以下になるまで減圧した。その後、赤外線温度センサーを用いて坩堝の温度を測定しながら、坩堝の温度を室温から373Kずつ昇温させた。なお、この昇温は、保持温度において1時間以上経過するか、内部圧力が10−5Pa以下になったときに行った。坩堝の温度が1273Kになった後は50Kずつ昇温させ、1473Kに達した時点で3時間保持してアニール処理を施した。その後、室温まで十分に冷却し、アニール処理された単層カーボンナノチューブを回収した。このように高温且つ高真空雰囲気下でアニール処理することにより、精製処理後の単層カーボンナノチューブの壁面に存在する精製処理由来の欠陥構造が殆どなく、高結晶性の単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【0037】
次に、得られた高結晶性の単層カーボンナノチューブ10mgを瑪瑙乳鉢で微細化し、エタノールに分散させて、単層カーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0038】
次に、ガラス基板上にPtを塗布して電極膜を形成してPt電極基板を作製するとともに、ガラス基板上にITOを塗布して透明電極膜を形成してITO電極基板を作製した。
【0039】
次に、単層カーボンナノチューブ分散液をITO電極基板の透明電極膜上にスプレー塗布して厚さ150nmの単層カーボンナノチューブ薄膜を形成するとともに、単層カーボンナノチューブ分散液をPt電極基板の電極膜上にスプレー塗布して厚さ10μmの単層カーボンナノチューブ膜を形成した。
【0040】
次に、単層カーボンナノチューブ薄膜と単層カーボンナノチューブ膜を当接させて配置し、、電極基板間に単層カーボンナノチューブ薄膜と単層カーボンナノチューブ膜からなる光電変換層を挟持して太陽光発電装置を作製した。
【0041】
このようにして作製した太陽光発電装置のITO電極基板側から光照射エネルギー100W/cmの光を照射したところ、電極間に電流0.1mA、電圧0.2mVの起電力が発生し、変換効率が1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明による太陽光発電装置は、pnヘテロ接合型またはバルクへテロ接合型の有機薄膜太陽電池などの太陽光発電装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10、110 太陽光発電装置
12、112 電極基板
12a、112a 基板部材
12b、112b 電極膜
14、114 電極基板
14a、114a 基板部材
14b、114b 透明電極膜
16、116 光電変換層
18、118 単層カーボンナノチューブ薄膜
20、120 単層カーボンナノチューブ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に光電変換層が挟持された太陽光発電装置において、光電変換層が、カーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜とを重ね合わせて形成されていることを特徴とする、太陽光発電装置。
【請求項2】
前記光電変換層が、複数のカーボンナノチューブ薄膜とこれらのカーボンナノチューブ薄膜より厚い複数のカーボンナノチューブ膜を交互に積層して形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の太陽光発電装置。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ膜の厚さが、前記カーボンナノチューブ薄膜の厚さの5〜5000倍であることを特徴とする、請求項1または2に記載の太陽光発電装置。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ薄膜および前記カーボンナノチューブ膜が、高結晶性のカーボンナノチューブからなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項5】
前記一対の電極の少なくとも一方が光透過性であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項6】
カーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜とを重ね合わせて形成された光電変換層を一対の電極間に挟持することを特徴とする、太陽光発電装置の製造方法。
【請求項7】
前記光電変換層が、高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を溶媒に分散させて得られた単層カーボンナノチューブ分散液を、一対の電極の一方の電極に塗布してカーボンナノチューブ薄膜を形成するとともに、前記一対の電極の他方の電極に前記カーボンナノチューブ薄膜より厚く塗布してカーボンナノチューブ膜を形成した後、前記カーボンナノチューブ薄膜と前記カーボンナノチューブ膜とを当接させることによって形成されることを特徴とする、請求項6に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項8】
前記光電変換層が、複数のカーボンナノチューブ薄膜とこれらのカーボンナノチューブ薄膜より厚い複数のカーボンナノチューブ膜を交互に積層して形成されることを特徴とする、請求項6に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項9】
前記光電変換層が、高結晶性の単層カーボンナノチューブの微粉末を溶媒に分散させて得られた単層カーボンナノチューブ分散液を、一対の電極の一方の電極に塗布してカーボンナノチューブ薄膜とこのカーボンナノチューブ薄膜より厚いカーボンナノチューブ膜をこの順で交互に積層して形成するとともに、前記一対の電極の他方の電極に前記カーボンナノチューブ膜と前記カーボンナノチューブ薄膜をこの順で交互に積層して形成し、前記一方の電極の最表面に形成された前記カーボンナノチューブ膜および前記カーボンナノチューブ薄膜の一方と、前記他方の電極上の最表面に形成された前記カーボンナノチューブ膜および前記カーボンナノチューブ薄膜の他方とを当接させることによって形成されることを特徴とする、請求項8に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項10】
前記高結晶性の単層カーボンナノチューブが、アーク放電により生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を精製した後に真空中で加熱して得られることを特徴とする、請求項7または9に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項11】
前記生成した単層カーボンナノチューブを含む煤の精製が、前記生成した単層カーボンナノチューブを含む煤を大気中で加熱して燃焼酸化した後に酸で処理することによって行われることを特徴とする、請求項10に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項12】
前記真空中で加熱する温度が1000℃以上であることを特徴とする、請求項10または11に記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブ膜の厚さが、前記カーボンナノチューブ薄膜の厚さの5〜5000倍であることを特徴とする、請求項6乃至12のいずれかに記載の太陽光発電装置の製造方法。
【請求項14】
前記一対の電極の少なくとも一方が光透過性であることを特徴とする、請求項6乃至13のいずれかに記載の太陽光発電装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−191076(P2012−191076A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54779(P2011−54779)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】