説明

太陽光発電設備の発電出力推定方法

【課題】太陽光発電設備の発電出力を推定することができる発電出力推定方法を提供する。
【解決手段】太陽光発電設備の設置位置近傍の気象観測地点における晴天時の代表的な日射量データと,当該気象観測地点で観測される単位時間あたりの日照時間とを取得し,晴天時の代表的な日射量データと単位時間あたりの日照時間の割合を表す比率との乗算値から求められる太陽光発電設備の設置位置の推定日射量に基づいて太陽光発電設備の発電出力推定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広域にわたって設置される複数の太陽光発電設備の発電出力を推定する発電出力推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出量削減のために,自然エネルギー,特に太陽光エネルギーを利用した太陽光発電設備の普及が進んでいる。太陽光発電設備は,最も多く設置される形態として,一般家庭の一戸建て家屋の屋根に設置される形態で,今後大量に設置されることが予想されている。各戸の太陽光発電設備で発電された電力は,各家庭で消費されるとともに,家庭で消費しきれなかった太陽光発電の余剰電力は,電力会社の送電網に送られる。また,各家庭での消費電力が各戸の太陽光発電設備で発電された電力では足りない場合,その不足分は,電力会社の送電網から供給される電力で補われる。
【0003】
家庭単位で設置される太陽光発電設備は,火力発電機や原子力発電機などの従来の発電機に比べて小規模であるが(例えば,火力発電機は1台60〜100万kWであるのに対して,太陽光発電機は1家庭あたり3〜4kW程度),今後大量に導入されることで,その合計発電出力は電力需要量のうちの無視できない比率を占めると考えられる。
【0004】
電力会社は,現在,発受電合計(発電機の出力合計と地域内連系線潮流の合計)から,現在の電力需要量(すなわち必要な発電出力)の概略を把握し,それに基づいて,主に火力発電機の発電出力を調整することで,瞬時々の電力需要に対する電力の需給調整を行っている。
【0005】
発受電合計を現在の電力需要として利用する場合,各家庭に設置された太陽光発電設備で発電された電力は各家庭で消費されるため,この太陽光発電電力分は,実際の需要であるにもかかわらず,発受電合計には含まれないので,電力需要の減少として把握されてしまい,真の電力需要(発受電合計に,各家庭の太陽光発電設備で発電された電力のうち各家庭での消費分を加えた合計)を把握することができない。
【0006】
特に,太陽光発電設備は,その発電出力が気象条件に依存して変化し,発電出力の不確実性が高い変動電源であるため,今後太陽光発電設備が大量に導入された場合に,例えば,晴天から曇天に天候が変化すること(又はその逆)等により,大きく出力が変動した場合には,系統の需要に大きな増減を生じることになる。太陽光発電設備の現在発電出力が把握できないと,この増減を含めた真の電力需要量を想定することは難しく,基幹系統の供給力をどのように構成するか等の,系統全体の計画的且つ効率的な需給運用が困難化する懸念がある。
【0007】
従って,真の電力需要を把握するためには,各家庭に設置された太陽光発電設備で発電された出力の情報を測定・収集することが重要となる。
【0008】
太陽光発電設備と同じ変動電源である風力発電設備について,その発電出力をリアルタイムで収集し,その実測データを用いて予測精度を向上させる手法が提案されている(非特許文献1,特許文献1)。風力発電設備の場合は,1地点あたり出力数万kWのウインドファームを形成し,一点連系するような構成となっており,その地点数も数十ヶ所程度であるため,各風力発電設備の発電出力をリアルタイムで取得することは可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「気象モデルによる風力発電出力の予測」,第28回風力エネルギー利用シンポジウム講演論文集,p41,(榎本重朗,平成18年11月)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−233639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方,太陽光発電設備は,一箇所あたりの規模が非常に小さく,また設置箇所も広範囲かつ膨大であるため,すべての太陽光発電設備の発電出力をリアルタイムで測定・収集することは困難である。通信手段により太陽光発電設備での発電出力を収集することも提案されているが,太陽光発電設備の通信機能に関する基盤整備は進んでおらず,また,通信手段によりすべての太陽光発電設備からの発電出力データを収集しようとする場合,そのデータ数が膨大であるため,伝送遅れやデータ処理時間などの要因により,既存電源と同程度のリアルタイム性をもって,発電出力を把握することは困難である。
【0012】
そこで,本発明は,リアルタイム処理も可能な程度の少ないデータ処理により,広範囲に且つ多数設置された太陽光発電設備の合計発電出力を精度良く推定する手法の開発を課題とするものである。すなわち,本発明の目的は,広域にわたって配置される複数の太陽光発電設備の発電出力を推定することができる発電出力推定方法を提供することにある。本方法によって得られる発電出力推定結果は,取得の困難な太陽光発電の現在出力の代替として使用することが可能であり,これにより非特許文献1及び特許文献1で提案する出力予測の予測精度の向上をはかることも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための請求項1の発電出力推定方法は,太陽光発電設備の発電出力を推定する発電出力推定方法において,前記太陽光発電設備の設置位置近傍の気象観測地点における晴天時の代表的な日射量データと,当該気象観測地点で観測される単位時間あたりの日照時間とを取得し,前記晴天時の代表的な日射量データと前記単位時間あたりの日照時間の割合を表す比率との乗算値から求められる前記太陽光発電設備の設置位置の推定日射量に基づいて前記太陽光発電設備の発電出力推定値を算出することを特徴とする。
【0014】
請求項2の発電出力推定方法は,複数の気象観測地点を含む所定エリア内に設置された複数の太陽光発電設備の発電出力を推定する方法において,
各気象観測地点の晴天時の代表的な日射量データと,各気象観測地点で観測される単位時間あたりの日照時間とを取得し,
各気象観測地点の近傍区域内に設置されている少なくとも一つの太陽光発電設備の気象観測地点ごとの合計最大出力を取得し,
各気象観測地点の前記晴天時の代表的な日射量データと前記単位時間あたりの日照時間の割合を表す比率との乗算値から求められる前記太陽光発電設備の設置位置の推定日射量,及び気象観測地点ごとの前記合計最大出力を用いて,各近傍区域内の太陽光発電設備の発電出力推定値を算出し,当該区域ごとの発電出力推定値を合計することで,前記所定エリア内に設置された複数の太陽光発電設備全体の発電出力推定値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,あらかじめ用意される晴天時の代表的な日射量データと気象観測点から取得できる日照時間データとを用いて,少ない演算量にて太陽光発電設備の発電出力推定値を精度良く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における発電出力推定装置の構成例を示す図である。
【図2】晴天時日射量データベースDB1に格納されるデータ例を示す。
【図3】太陽光発電設備情報データベースDB2に格納されるデータ例を示す。
【図4】設備1−3の設置位置近傍のアメダスの晴天時日射量データの数値を示す表データである。
【図5】設備1−3それぞれの発電出力推定値と実測値とのグラフである。
【図6】設備1−3の合計発電出力推定値と合計実測値とのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
太陽光発電設備の発電出力は,その設置位置の日射量に依存する。そこで,本発明の実施の形態では,観測される日照時間の観測データを利用して,広域にわたって多数設置されている太陽光発電設備の各設置位置の推定日射量を求め,その推定日射量を太陽光発電設備の発電出力に換算することで,太陽光発電設備の発電出力推定値を算出する方法を提案する。ある気象観測地点の推定日射量は,当該気象観測地点の晴天時における既知の日射量(以下,「晴天時日射量」と称する)に,観測される単位時間あたりの日照時間の実測値に基づく比率を乗算することで求めることができる。
【0019】
図1は,本発明の実施の形態における発電出力推定方法を実行する発電出力推定装置の構成例を示す図である。発電出力推定装置は,晴天時日射量データ取得部12,太陽光発電設備情報取得部14,観測データ取得部16及び演算部18を備える。本発電出力推定装置は,パーソナルコンピュータなどの汎用コンピュータで実現可能であり,コンピュータ装置はコンピュータ読み取り可能なコンピュータプログラムを実行することにより,本実施の形態における発電出力推定処理を実行する。
【0020】
晴天時日射量データ取得部12は,例えばコンピュータの内部記憶装置又は外部記憶媒体のような記憶手段である晴天時日射量データベースDB1から,太陽光発電設備の発電出力を推定する対象地域内の複数の気象観測地点における晴天時日射量データを取得する。気象観測地点は,気象庁が設置している地域気象観測システムである通称アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)のうちの日照時間を観測しているアメダスの設置位置である。日照時間は,現在全国に1300ヶ所に設置されているアメダスのうちの約850ヶ所で観測されている。晴天時日射量は,各気象観測地点における全日にわたって晴天であるときの理想的な日射量であり,1月乃至12月までの各月ごとに晴天時日射量を既知のデータとして予め用意される。
【0021】
図2は,晴天時日射量データベースDB1に格納されるデータ例を示し,図2(a)に示すように,晴天時日射量データベースは,各気象観測地点について,月ごとの晴天時日射量データを格納する。一例として,気象観測地点aについては,1月から12月までの各月の晴天時日射量データ(a1〜a12)を格納する。図2(b)は,晴天時日射量データの例を示すグラフであり,晴天時日射量データは,1日の可照時間内での時刻tに対して,単位時間(例えば10分)あたりの日射量の数値として与えられる。具体的な晴天時日射量データの数値例は,後述の図4に示す。
【0022】
晴天時日射量は,例えば新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の標準気象・日射データ「METPV−3」から入手できる。「METPV−3」は,気象官署:アメダス836地点(1990〜2003年)における標準気象・日射データベースであり,指定月日の標準的な日射量データを表示することができる。また,「METPV−3」は,各アメダス気象観測地点における指定した月日における日射量などの水平面データをはじめ,任意の方位及び任意の傾斜角の斜面日射量も入手することができる。本実施の形態例では,晴天時日射量は,太陽光パネルの実際の設置方向及び設置角度を勘案して,南向き傾斜30度の斜面日射量を用いる。
【0023】
「METPV−3」に蓄積されている複数年にわたる対象月の各日の日射量データの中から,1日中晴天であって,日射カーブの形状が良好且つ日射強度が強い代表的なものを1つ選択して,それを対象月の晴天時日射量として用いる。晴天時日射量データは,各月ごとに限らず,週単位,日単位,又は季節単位(3ヶ月単位)などの任意の期間単位ごとに求めてもよい。
【0024】
太陽光発電設備情報取得部14は,コンピュータの内部記憶装置又は外部記憶媒体などの記憶手段である太陽光発電設備情報データベースDB2から,対象地域内に設置されている各太陽光発電設備の設備情報を取得する。
【0025】
図3は,太陽光発電設備情報データベースDB2に格納されるデータ例を示す。設備情報は,それぞれの設置位置(住所又は緯度・経度情報),最大出力(公称最大出力),及び近傍の気象観測地点との対応付け情報を有する。住所又は気象観測地点との距離により,対象地域は各気象観測地点の近傍区域に区分けされ,近傍区域ごとに太陽光発電設備に対応付けられる気象観測地点は決定される。
【0026】
日照時間を観測するアメダスは,上述したように,全国850ヶ所に設けられ,平均して約21km間隔で設置されている。そのため,その気象観測地点数は1県あたりおおよそ20ヶ所程度と細分化されており,各太陽光発電設備の設置位置と最寄りのアメダス気象観測地点間の距離は最大でも約10km程度しか離間せず,対象地域全域において,太陽光発電設備の設置位置の気象条件に近い観測データを得ることができる。各太陽光発電設備の日照時間,気温の気象データとして,その設置位置近傍のアメダス気象観測地点での観測データを用いることで,高い推定精度を得ることができる。
【0027】
観測データ取得部16は,インターネットなどのネットワーク通信を通じて,気象観測データ提供元である気象庁から各アメダス気象観測地点の日照時間及び気温を少なくとも含むリアルタイムの観測データを取得する。アメダスで観測される日照時間は10分値であり,前10分間の日照時間の観測データを秒単位で取得することができる。また,アメダスでは,10分単位の現時点の気温,前10分間最高気温,前10分間最低気温を0.1℃単位で観測しているが,いずれかの気温観測値が適宜選択されて使用される。
【0028】
演算部18は,晴天時日射量データ,設備情報及び日照時間を含む気象データを用いて,対象地域内に設置されているすべての太陽光発電設備での発電出力推定値の合計を,以下に説明する演算処理により算出する。具体的には,上述により得られる晴天時日射量データ,日照時間データ及び気温データを用いて,ある気象観測地点近傍における定格出力(R(kW)とする)の太陽光発電設備の発電出力推定値Pは,次式(1)により算出することができる。
発電出力推定値P(kW)=晴天時日射量データ(kW/m2)×日照時間関数f×(補正係数r1−気温係数g) …(1)
日照時間関数fは,単位時間H当たりの日照時間hの割合を表す比率であり,非線形性を持たせることが可能である。線形関数とする場合は,観測時間10分を単位時間Hとすると,h/Hで表すことができる。晴天時日射量データに日照時間関数fを乗算することで,当該太陽光発電設備の設置位置の推定日射量が得られる。例えば,観測時間10分の内日照時間が6分間の場合は,日照時間関数fは6/10で0.6となる。
【0029】
補正係数r1は,日射量(kW/m2)を発電出力(kW)に換算する係数であり,定格出力あたりの太陽光パネルの面積及び太陽光パネルの変換効率を含む係数である。例えば,補正係数r1=太陽光パネルの面積(m2)×太陽光パネルの変換効率で表される。太陽光パネルの変換効率は太陽光パネルの種類で決まる。
【0030】
気温係数gは,太陽光パネルの発電効率が気温に依存することを考慮するための係数である。例えば,多結晶シリコン系の太陽光パネルは,気温が高いほど発電効率が低下する特性を有するため,気温が高いほど発電出力推定値Pが小さくなる係数を用意する。気温係数gは,温度損失算出の基準となる基準温度から1℃上昇するごとにX(Xは太陽光パネルの種類で決まり,多結晶シリコン系パネルの場合は20℃の温度上昇に対して約10%程度出力が低下するので,X=0.1/20(℃)=0.005)の温度損失が発生すると仮定すれば,g=r1×X×(外気温度−基準温度))と表される。基準温度は,太陽光パネルの種類で決まり,太陽光パネルの材料,特性等に応じて最適な値に設定される。なお,気温係数gは,これに限らず,他の演算式を用いる方法や,統計値を用いる方法などさまざまな手法により決定可能である。また,上記(1)式では,補正係数r1から気温係数gを減算する演算式の例を示したが,気温係数g’が乗算される次式の演算式(1’)が用いられてもよい。
発電出力推定値P(kW)=晴天時日射量データ(kW/m2)×日照時間関数f×補正係数r1×気温係数g’ …(1’)
この場合,気温係数g’は,太陽光パネルの定格出力を定義する基準温度から1℃上昇するとX(Xは太陽光パネルの特性による)の温度損失が発生すると仮定すると,g’=(1−X×(外気温度−基準温度))と表される。
【0031】
上述したように,図3の設備情報において,各太陽光発電設備に対してその近傍の気象観測地点があらかじめ登録されており,ある気象観測地点について合計最大出力A(kW)の太陽光発電設備が設置されている場合には,その合計発電出力推定値Paは,次式(2)により算出することができる。
合計発電出力推定値Pa(kW)=P×A×補正係数r2 …(2)
補正係数r2は,ある気象観測地点近傍エリア合計の発電出力に換算するための不等率である。補正係数r2は,太陽光パネルの設置角の違いやその他ロスを考慮する係数をY(Yは太陽光発電設備の変換装置などの損失を考慮すれば,0.9〜0.95程度である。この他,設置角などの違いを考慮する)とすれば,r2=(1/R)×Yと表される。
【0032】
従って,発電出力を推定する対象地域全体における太陽光発電設備の全体発電出力推定値Pbは,対象地域内のすべての気象観測地点における各合計発電出力推定値Paの合算値として,次式(3)により求められる。
全体発電出力推定値Pb=ΣPa …(3)
演算部18は,コンピュータの中央演算装置であって,コンピュータプログラムを実行することにより,上記(1),(2)及び(3)式又はこれに等価の演算処理を実行し,対象地域内に多数設置されている太陽光発電設備の合計発電出力推定値を算出する。アメダスで観測される単位時間ごと(10分単位)の日照時間及び気温の気象観測データを用いて,簡易な演算処理により,広域にわたって多数設置されている太陽光発電設備全体の現在の発電出力の推定値をほぼリアルタイムに高精度に求めることもできる。
【0033】
発明者らは,上述の方法で算出される発電出力推定値の有効性を確認するために,算出した発電出力推定値と実際の発電出力との比較実験を行った。実験は,出願人により過去に実測された太陽光発電設備の出力値と,その実測に対応する期間の気象データを用いた出力推定値を比較するものであり,3ヶ所(仙台,郡山,新潟)に設置された太陽光発電設備の1997年1月,4月,8月及び10月の各月の発電出力推定値を上述の算出方法により求め,それぞれ発電出力の実測値と比較した。
【0034】
太陽光発電設備の設置位置(緯度・経度),その設置位置近傍のアメダスの設置位置(緯度・経度)は次の通りである。
【0035】
(設備1)
設置位置:北緯38度18.6分,東経140度53.9分
(仙台市泉区八乙女4丁目5番地の1)
近傍アメダス位置:北緯38度15.7分,東経140度53.8分(仙台市宮城野区五輪)
設置位置−近傍アメダス位置間距離:約5.4km
定格出力:10kW
(設備2)
設置位置:北緯37度23.8分,東経140度22.6分
(郡山市細沼町1番5号))
近傍アメダス位置:北緯37度22.1分,東経140度19.8分(郡山市安積成田字東丸山)
設置位置−近傍アメダス位置間距離:約5.2km
定格出力:10kW
(設備3)
設置位置:北緯37度53.8分,東経139度1.2分
(新潟市中央区網川原664番222)
近傍アメダス位置:北緯37度53.3分,東経139度2.9分(新潟市中央区女池南)
設置位置−近傍アメダス位置間距離:約2.6km
定格出力:10kW
図4は,設備1−3の設置位置近傍のアメダスの晴天時日射量データの数値を示す表データである。図4のデータは,「METPV−3」から入手されるデータであり,それぞれ設備1,2,3の設置位置近傍のアメダス観測地点における1997年1月各日の日射量データの中から選択された1997年1月の晴天時日射量データである。なお,図4の晴天時日射量データは1時間値のデータであるので,例えば1時間値のデータ間を便宜的に線形補間することにより10分値データを求め,10分値である日照時間データを用いて,10分毎の発電出力推定値を求めた。もちろん,補間方法は線形補間に限らず,非線形補間などの他の手法が用いられてもよい。
【0036】
図5は,設備1−3それぞれの発電出力推定値と実測値とのグラフである。図5(a),(b),(c)は,それぞれ設備1,2,3における1997年1月の所定期間(7日間)の発電出力推定値(実線:Estimated)と実測値(点線:Measured)を示す。図6は,図5に示した設備1−3の発電出力推定値と実測値の合計を示すグラフである。
【0037】
一例として,上述の(1)式を用いて,図5(a)の点Qにおける発電出力推定値(第1日目の午前11時の発電出力推定値)を求める例を以下に示す。
【0038】
設備1の太陽光パネル面積=103.7m2(定格出力あたりのパネル面積)
設備1の変換効率=11.5%
とすると,
(1)式の補正係数r1は,
r1=103.7(m2)×11.5(%)=11.926(m2)
として求められる。
【0039】
なお,太陽光パネルの変換効率は太陽光パネルの種類で決まる。
【0040】
また,多結晶シリコン系パネルは,20℃の温度上昇に対しておよそ10%程度出力低下することから,外気温度1℃上昇あたりの温度損失は,
11.926(m2)×10(%)/20(℃)=0.0596(m2/℃)
と表される。また,温度損失算出の基準となる基準温度を-20℃と仮定すると,(1)式の温度係数gは,
g=0.0596(m2/℃)×(外気温度-(-20))(℃)
と表すことができる。
そして,点Q時点における晴天時日射量は,図4より, 晴天時日射量=805/1000=0.805(kW/m2
と求められ,日照時間及び気温の測定値は,
日照時間=10分(日照時間関数f=10/10=1)
気温=1.5℃
とすると,点Qにおける発電出力推定値Pは,
P=0.805×1×(11.926-0.0596×(1.5+20))=8.568(kW)
として求められる。同様の演算により,設備1の他の時点の発電出力推定値,及び設備2及び設備3の各時点の発電出力推定値を求めることができる。
【0041】
設備1〜設備3の出力推定値の一部を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図5において,発電出力推定値と実測値との比較からは,各設備1,2及び3の個別の出力推定値を見ると,日照時間が比較的長い時間帯と比較して日照時間が比較的短い時間帯において,発電出力推定値と実測値間の誤差が大きくなる傾向が見受けられるが,発電出力推定値と実測値との相関係数は0.84〜0.92程度(図5(a):0.92,図5(b):0.93,図5(c):0.84)であり,比較的高い精度で発電出力を推定できることが確認できた。また,日射量が異なる別の月(1997年4月,1997年8月,1997年10月)についても,同様の比較検討を行ったが,当該1997年1月の比較実験とほぼ同程度の精度による推定結果が得られた。
【0044】
また,設置位置間の日照時間の相関性が低いと考えられるため,3ヶ所での発電出力推定値を合計することで,図6に見られるように,誤差が平滑化され相関係数が0.95となって,推定精度が向上した。従って,実際の推定値算出処理においては,さらに多数の気象観測地点の発電出力推定値を合算することで,更なる推定精度が向上することが期待される。
【0045】
以上により得られた各設備の出力をもとに,エリアの出力推定を行う場合,引き続き(2)式を適用する。例えば,設備1が代表するエリア内の太陽光発電設備の定格出力合計が1000kWである場合,点Qにおけるエリアの出力推定値は,
A=1000kW
補正係数r2=(1/R)×Y=(1/10)×0.95=0.095
(Rは設備1の定格出力10kW,Yは変換損失など5%程度のロスを考慮した)
とすると,
合計発電出力推定値Pa(kW)=P×A×補正係数r2=8.568×1000×0.095=813.96kW
と求められる。
【0046】
なお,以上の演算により求められた発電出力推定値に対して,さらに精度を高めるための各種補正・学習処理が施されてもよい。例えば,各太陽光発電設備の実際の発電出力を実績データとして事後的に取得・収集し,必要な統計解析処理を行い,その処理結果を発電出力推定値との誤差に反映させる。
【0047】
本実施の形態例では,晴天時日射量データを,NEDOの標準気象・日射データ「METPV−3」を用いて過去の観測データから求めたが,例えば,快晴時の日射量の理論値を算出するいわゆるベルラーゲ(Berlage)の式などの理論式を用いて求めることもできる。
【符号の説明】
【0048】
12:晴天時日射量データ取得部,14:太陽光発電設備情報取得部,16:観測データ取得部,18:演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電設備の発電出力を推定する発電出力推定方法において,
前記太陽光発電設備の設置位置近傍の気象観測地点における晴天時の代表的な日射量データと,当該気象観測地点で観測される単位時間あたりの日照時間とを取得し,
前記晴天時の代表的な日射量データと前記単位時間あたりの日照時間の割合を表す比率との乗算値から求められる前記太陽光発電設備の設置位置の推定日射量に基づいて前記太陽光発電設備の発電出力推定値を算出することを特徴とする発電出力推定方法。
【請求項2】
複数の気象観測地点を含む所定エリア内に設置された複数の太陽光発電設備の発電出力を推定する方法において,
各気象観測地点の晴天時の代表的な日射量データと,各気象観測地点で観測される単位時間あたりの日照時間とを取得し,
各気象観測地点の近傍区域内に設置されている少なくとも一つの太陽光発電設備の気象観測地点ごとの合計最大出力を取得し,
各気象観測地点の前記晴天時の代表的な日射量データと前記単位時間あたりの日照時間の割合を表す比率との乗算値から求められる前記太陽光発電設備の設置位置の推定日射量,及び気象観測地点ごとの前記合計最大出力を用いて,各近傍区域内の太陽光発電設備の発電出力推定値を算出し,当該区域ごとの発電出力推定値を合計することで,前記所定エリア内に設置された複数の太陽光発電設備全体の発電出力推定値を算出することを特徴とする発電出力推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−43853(P2012−43853A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181527(P2010−181527)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】