説明

太陽光発電診断装置

【課題】 太陽電池ストリングなどの構成単位同士の比較により、当該構成単位間に出力のばらつきがあっても、確実な故障診断が可能な太陽光発電診断装置を提供する。
【解決手段】 発電量、日射量及び温度情報を取得し(図3中のS100)、これらの情報を記憶しておき(S110)、評価時間帯におけるシステム1〜3間の発電量の乖離度を算出して記憶する(S120)。次に、サンプルとしての乖離度を読み出し(S130)、サンプルとしての乖離度の中央値を算出して(S140)、評価対象となる日の乖離度との差分を算出する(S150)。そして、この差分に基づき、システム1〜3の単位で故障を判断する(S160)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電システムの故障を診断する太陽光発電診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素等の排出による地球の温暖化、原子力発電所の事故や放射性廃棄物による放射能汚染など、地球環境とエネルギーに対する関心が高まっている。このような状況の下、太陽の入射光を利用した光電変換素子である太陽電池は無尽蔵かつクリーンなエネルギー源として注目されている。
【0003】
太陽光発電システムの一つに、図1に示すような、系統連系型のシステムがある。太陽電池アレイ10にて発電される電力は、パワーコンディショナ20を介して、商用系統などの電力系統へ供給される。パワーコンディショナ20は、DC/AC変換を行い、効率的に電力を取り出す。
【0004】
ところで、太陽電池アレイ10は、一辺が1〜2m程度の太陽電池モジュール11で構成されている。太陽電池モジュール11は、一辺が10cm程度の太陽電池セル12を縦横に並べて構成されている。太陽電池モジュール11を直列に接続したものを太陽電池ストリング13と呼ぶ。
【0005】
このとき、例えば太陽電池ストリング13を構成する太陽電池モジュール11の一つが故障すると、その分だけ、該当する太陽電池ストリング13からの発電量は小さくなり、太陽電池アレイ10全体の発電量が小さくなる。
【0006】
ところが、太陽光発電システムにおける発電量は、日射量によっても大きく変化するため、発電量が低下したとしても、太陽電池モジュール11などの故障による発電量の低下なのか、日射量の低下による発電量の低下なのか、の判断は容易ではない。
【0007】
これを解決するための技術として、太陽電池ストリング13同士の出力を比較し、基準となる太陽電池ストリング13に対する別の太陽電池ストリング13の出力低下を判断して、異常を検知するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−334767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載される方法は、測定時において最高値を出力する太陽電池ストリング13を基準とするものである。そのため、各太陽電池ストリング13が同様の出力となることを前提としている。
【0010】
しかしながら、太陽電池アレイ10の設置場所によっては、特定の太陽電池ストリング13が障害物の陰になることがあり得る。このような場合には、太陽電池ストリング13が故障していなくても、その出力にばらつきが現れる虞がある。あるいは、性能上のばらつきが生じる虞がある。従来技術では、このような正常時に現れる出力のばらつきを考慮することができない。
【0011】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、その目的は、太陽電池ストリングなどの構成単位同士の比較により、当該構成単位間に出力のばらつきがあっても、確実な故障診断が可能な太陽光発電診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するためになされた請求項1に記載の太陽光発電診断装置は、情報取得部と、情報記憶部と、診断部とを備えている。
情報取得部は、太陽光発電システムに具備される計測器から、所定の構成単位での発電相当量を取得する。発電相当量は、発電量を導出可能なものであり、発電量そのものであってもよいし、発電量を導出可能な電流量であってもよい。例えば太陽電池アレイで発電される電力は数秒ごとにサンプリングされ、これらサンプリングデータを基に1分間の平均発電量を発電相当量とすることが考えられる。また、情報記憶部は、情報取得部にて取得される情報を過去から現在にわたって記憶するためのものである。なお、構成単位については後述するが、一例として、太陽電池ストリングの単位であることが考えられる。
【0013】
そして、診断部により、情報記憶部に記憶された発電相当量に基づき、乖離算出処理及び故障判断処理が実行される。
乖離算出処理では、構成単位間での特定の評価時間帯における発電相当値の乖離が算出される。「乖離」とは、乖離量であってもよいし、乖離度(乖離率)であってもよい。例えば発電相当量が発電量であれば、発電量の差分が乖離量となり、発電量の差分率が乖離度となる。また、特定の評価時間帯は、例えば9時〜11時といった数時間程度の時間帯であることが考えられる。ただし、評価時間帯は、任意に設定すればよく、例えば半日であってもよいし、1日であってもよい。また、数日〜数ヶ月という時間帯を設定してもよい。
【0014】
故障判断処理では、例えば乖離度として算出される乖離に基づき、複数のサンプルとしての乖離から基準値が算出される。基準値については後述するが、一例として、平均値であることが考えられる。そして、この基準値と評価対象となる乖離との差分を求めることによって、構成単位での故障を判断する。
【0015】
つまり、本発明では、構成単位間での乖離を算出することにより、この乖離の差分によって故障を判断するのである。すなわち、構成単位間で出力のばらつきがあっても、それは最初の時点の乖離となるため、評価時点の乖離との差分をとれば、確実な故障診断をすることができる。また、本発明では、日射量などを用いず故障診断を可能とするため、構成が簡単になる。
【0016】
なお、評価時間帯における発電相当量は、積算処理されたものとしてもよいし、平均処理されたものとしてもよい。このように、発電相当量から評価時間帯における発電相当量を算出する際、積算処理や平均処理が必要なことを考えると、上述した情報記憶部には、積算処理や平均処理された後のデータを記憶するようにしてもよい。
【0017】
ところで、サンプルとしての乖離を用いて過去の乖離を導出することから、請求項2に示すように、乖離算出処理にて算出される乖離を過去から現在にわたって記憶するための乖離記憶部を備える構成としてもよい。この場合、故障判断処理では、乖離記憶部に記憶された乖離を読み出して用いることになる。
【0018】
ここで、「基準値」について言及する。基準値は、上述したように、サンプルとしての乖離の平均値であることが例示される(請求項3)。ただし、サンプルの中に故障した後のものが含まれると、平均値が大きく推移する虞がある。
【0019】
そこで、請求項4に示すように、サンプルとしての乖離の中央値を用いるようにするとよい。また、請求項5に示すように、サンプルとしての乖離の標準偏差を用いて算出するようにするとよい。これらの構成によれば、たとえサンプルの中に故障した後のものが含まれた場合であっても、妥当な基準値を得られる可能性が高くなる。
【0020】
また、「構成単位」について言及する。構成単位は、上述したように、太陽電池ストリングの単位や太陽電池ストリングを構成するサブストリングの単位であることが例示される(請求項8)。このようにすれば、太陽電池ストリング間に出力のばらつきがあっても、確実な故障診断をすることができる。
【0021】
あるいは、請求項6に示すように、太陽光発電システムの単位とすることが考えられる。太陽光発電システムの単位であれば各システムの出力が異なっていることが往々にしてあるが、その場合でも、確実な故障診断をすることができる。また、請求項7に示すように、太陽光発電システムを構成する太陽電池アレイの単位であってもよい。これらの構成を採用すれば、太陽電池の種類が異なっていても、また、設置角度が異なっていても、確実な故障診断をすることができる。
【0022】
ところで、日射量などの情報を用いずとも故障診断が可能になることは既に述べたが、日射量などの情報を積極的に取得する構成とすれば、より確実な故障診断が可能となる。例えば、請求項9に示すように、情報取得部が発電相当量に加え日射量を導出可能な日射情報を取得する構成の下、評価時間帯における日射情報に基づく日射量と予め設定される設定日射量とを比較し、日射量が設定日射量に満たない場合、当該評価時間帯における乖離をサンプルから外すことが考えられる。このようにすれば、日射量が十分な条件下で算出された乖離がサンプルとして採用されるため、基準値が妥当なものとなり、妥当な故障診断を行うことができる。
【0023】
また、このような構成を前提として、次のような構成を採用することが考えられる。
すなわち、請求項10に示すように、診断部が、評価対象の乖離に対応する日射情報に基づく日射量と設定日射量とを比較して、判断処理の信頼度を判定する構成を採用することが考えられる。例えば、設定日射量よりも実際の日射量が大きい場合、信頼度が高い旨を示す情報を出力するという具合である。また例えば、設定日射量よりも実際の日射量が小さい場合、信頼度が低い旨を示す情報を出力するという具合である。なお、信頼度は、「高い」、「低い」といった情報であってもよいし、設定日射量との離れ具合を示す数値などの情報であってもよい。このようにすれば、単に故障の診断が行われる構成と比べて、故障診断の正当性まで判断することができる。
【0024】
また、請求項11に示すように、診断部が、評価対象の乖離に対応する日射情報に基づく日射量と設定日射量とを比較して、判断処理の実行の有無を決定する構成を採用することが考えられる。例えば、設定日射量よりも実際の日射量が大きい場合に、故障判断処理を実行するという具合である。また例えば、設定日射量よりも実際の日射量が小さい場合に、故障判断処理を実行しないという具合である。このようにすれば、上述した故障診断の正当性が不十分な場合、故障診断自体をキャンセルすることができる。
【0025】
なお、日射量が十分な場合に故障診断の正当性が高くなることに鑑み、請求項12に示すように、評価時間帯が太陽の南中時刻を含むようにするとよい。このようにすれば、故障診断の正当性が高くなる。
【0026】
また、サンプルの数は、例えば20日分の20個とすることが考えられるが、請求項13に示すように、設定変更可能にしてもよい。例えば季節などで異なる日射量を考慮して妥当なサンプル数を設定すれば、確実な故障診断に寄与する。評価時間帯の乖離がサンプルから外される場合(請求項9)、サンプル数を減らしてもよいし、サンプル数が同じになるように過去に遡ってデータ取得するようにしてもよい。
【0027】
ところで、請求項14に示すように、故障判断処理によって故障したと判断された回数が予め設定された設定回数を越えると、通知部が、構成単位の故障を外部へ通知するようにしてもよい。このようにすれば、例えば利用者以外の第三者が故障を管理することもできるため、確実な故障の発見につながる。
【0028】
また、複数回の故障判断を行うような構成では、請求項15に示すように、故障判断処理によって故障したと判断された場合、当該判断時の評価対象の乖離を、次の故障判断処理では、サンプルから外すようにすることが好ましい。このようにすれば、サンプルとしての乖離の信頼性を向上させることができ、サンプルの精度を向上させることができる。
【0029】
同様の観点から、情報取得部が発電相当量に加え日射情報を取得する構成では、一方のデータが存在するのに他方のデータが存在しない場合など、取得される情報に欠損があった場合には、当該情報に基づくデータを除外するようにしてもよい。例えば、日射情報があるにもかかわらず発電相当量が「0」であるような場合、当該発電相当量を用いた積算データや平均データを除外するという具合である。このようにすれば、異常値をとるデータが除外されるため、妥当な診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】太陽光発電システムを模式的に示す説明図である。
【図2】太陽光発電診断装置を示す機能ブロック図である。
【図3】診断処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】乖離度の算出及び故障判断の一例を示す説明図である。
【図5】診断処理の別例を示すフローチャートである。
【図6】システム間乖離度の算出記憶の別例を示すフローチャートである。
【図7】診断処理の別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。図2は、太陽光発電診断装置の機能ブロック図である。
図2に示すように、太陽光発電診断装置30は、太陽光発電システム(以下「システム」という)1,2,3に対して用いられる。以下、3つのシステム1〜3を区別するため、図中の記号A〜Cを適宜用いる。また、以下では、発電量の差分(発電量差)などを求めるが、Aシステム1とBシステム2との間を「A−B間」と記述する。同様に、Aシステム1とCシステム3との間を「A−C間」、Bシステム2とCシステム3との間を「B−C間」と記述する。なお、図1に示したように、システム1〜3では、太陽電池アレイ10にて発電される電力がPCS20にて取り出されて商用系統などの電力系統へ供給される。
【0032】
太陽光発電診断装置30は、計測データ受信部31、実績履歴DB部32、ユーザ設定部33、診断部34、表示部35、及び、送信部36を備えている。
計測データ受信部31は、システム1〜3側の計測器50から各種の情報を取得するための構成である。例えば、コンピュータシステムの入力ポートとして具現化される。なお、計測器50からの情報は、有線で取得されるようにしてもよいし、無線で取得されるようにしてもよい。
【0033】
計測器50は、日射/温度計測部51と、電力計測部52とを有している。日射/温度計測部51は、日射量及び温度情報を送信する。一方、電力計測部52は、発電量を送信する。なお、電力計測部52はPCS20の機能として実現されるが、計測器50自体がPCS20の機能として実現されることもある。
【0034】
発電量は、1分間の平均発電量となっている。詳しく言うと、電力計測部52は、太陽電池アレイ10にて発電される電力を所定秒(例えば6秒)ごとにサンプリングし、1分間の平均の発電量を送信する。
【0035】
日射/温度計測部51は、電力計測部52と同一の間隔で、あるいは所定間隔(例えば10分間隔)で、日射量及び温度情報を送信する。ここでは、10分間隔で、その時点での日射量及び太陽電池アレイ10のパネル周りの気温が送信されるものとする。もちろん、所定期間における平均日射量や平均温度を送信するようにしてもよい。また、温度情報は、気温でなく、パネルの温度そのものとしてもよい。パネルの温度の場合、通常、パネルの裏面温度となる。
【0036】
計測データ受信部31にて受信された情報は、実績履歴DB部32に記憶される。上述したように、発電量は1分間の平均発電量であり、日射量及び温度情報は、10分ごとの日射量及び気温である。
【0037】
また、実績履歴DB部32には、ユーザ設定部33にて設定される各種のパラメータが記憶されている。
診断部34は、乖離度算出処理部37、乖離度DB部38、及び、故障判断処理部39を有している。
【0038】
乖離度算出処理部37は、評価時間帯におけるA〜Cの3つのシステム1〜3間の乖離度、すなわちA−B間、A−C間及びB−C間の発電量の乖離度を算出する。本実施形態では、評価時間帯は、12時〜13時の太陽の南中時刻を含む時間帯である。乖離度算出処理部37は、実績履歴DB部32に記憶された1分間の発電量を基に、積算処理を行い、A〜Cの3つのシステム1〜3毎の評価時間帯の発電量を求める。そして、発電量差を求め、乖離度(乖離率)を求める。
【0039】
乖離度DB部38は、ハードディスク装置などの記憶媒体として具現化される。この乖離度DB部38には、日ごとに、評価時間帯におけるA〜Cの各システム1〜3間の乖離度が記憶される。
【0040】
故障判断処理部39は、乖離度DB部38から、各システム1〜3間の乖離度をサンプルとして読み出し、乖離度の中央値を算出する。本実施形態において、サンプル数は、評価対象となる日から遡って20日分の20個とする。例えば8月31日が評価対象となる日であれば、8月11日〜30日までの20個のデータがサンプルとなる。そして、故障判断処理部39は、算出した乖離度の中央値と評価対象となる日の乖離度とを比較し、システム1〜3の故障診断を行う。
【0041】
表示部35は、例えば液晶表示装置として具現化される。表示部35には、故障判断処理部39によってシステム1〜3のいずれかが故障したとの判断がなされた場合、その旨が表示される。また、送信部36は、コンピュータシステムの出力ポートとして具現化され、所定条件成立時に、外部コンピュータシステムへ、システム1〜3の故障診断結果を通知する。
【0042】
次に、診断処理の一例を、図3のフローチャートに基づいて説明する。
最初のS100では、発電量、日射量、及び、温度情報を取得する。この処理は、図2中の計測器50からの情報を、計測データ受信部31にて取得するものである。
【0043】
続くS110では、各種情報を記憶する。この処理は、S100にて受信した情報を、図2中の実績履歴DB部32に記憶するものである。これにより、上述したように、1分間の平均発電量、10分ごとの日射量及び気温が記憶されることになる。
【0044】
次のS120では、システム間の乖離度を算出して記憶する。ここではまず、1分間の発電量を積算処理し、評価時間帯における発電量を求める。そして、各システム1〜3間の発電量の乖離量である発電量差を求め、発電量差から乖離度を求める。具体的には、図4(a)に示すように、A−B間の発電量差を求め、Aを基準とするA−B間の乖離度を求める。同様に、A−C間の発電量差を求めAを基準とするA−C間の乖離度を、また、B−C間の発電量差を求めBを基準とするB−C間の乖離度を求める。その後、乖離度DB部38に、算出した乖離度を記憶する。これにより、評価時間帯におけるシステム1〜3間の乖離度が日毎に記憶されることになる。
【0045】
次のS130では、サンプルの乖離度を読み出す。本実施形態では、評価対象日よりも過去の20日分の乖離度をサンプルとして読み出す。例えば評価対象日が8月31日であれば、8月11〜30日の乖離度を読み出すという具合である。
【0046】
続くS140では、サンプルとして読み出した乖離度の中央値を算出する。
次のS150では、S140にて算出した乖離度の中央値と評価対象日の乖離度との差分を算出する。
【0047】
続くS160では、S150で算出した乖離度の差分に基づき、故障を判断する。ここで故障判断の具体的な手法を説明する。
一例として、図4(b)〜(d)に示すような判断を行う。例えば、図4(b)に示すように、過去乖離度(中央値)がA−B間で「1.50」、A−C間で「−3.05」、B−C間で「−5.00」であるとし、評価乖離度(評価対象日の乖離度)がA−B間で「1.86」、A−C間で「6.84」、B−C間で「5.08」であるとすると、各差分は、A−B間で「0.36」、A−C間で「9.89」、B−C間で「10.08」となる。
【0048】
このとき、差分が所定値(例えば5%)を上回っている場合、故障の可能性あり、と判断する。例えば図4(c)に示すように、差分が5%以下となっているA−B間では、Aシステム1もBシステム2も共に正常であると判断される。一方、差分が5%を上回っているA−C間では、Aシステム1を基準とするA−C間の乖離度であるため、Aシステム1は正常でCシステム3に故障の可能性あり、と判断する。同様に、差分が5%を上回っているB−C間では、Bシステム2を基準とするB−C間の乖離度であるため、Bシステム2は正常でCシステム3に故障の可能性あり、と判断する。これらの結果から、図4(d)に示すように、Cシステム3が故障した、と判断する。
【0049】
故障判断後に実行されるS170では、故障したことを表示する。この処理は、表示部35(図2参照)を介して故障したことを知らせるものである。
次のS180では、故障回数をインクリメントする。故障回数は、故障判断が累積して何回なされたかを示すものである。
【0050】
続くS190では、故障回数が予め設定される設定回数を越えたか否かを判断する。ここで設定回数を越えたと判断された場合(S190:YES)、S200にて故障したことを送信部36(図1参照)から外部へ通知し、その後、診断処理を終了する。なお、故障診断結果及び故障回数は、例えば図2に示すように、実績履歴DB部32に記憶しておくことが考えられる。一方、設定回数を越えていないと判断された場合(S190:NO)、S200の処理を実行せず、診断処理を終了する。
【0051】
次に、太陽光発電診断装置30の発揮する効果を説明する。
本実施形態では、発電量、日射量及び温度情報を取得し(図3中のS100)、これらの情報を記憶しておき(S110)、評価時間帯におけるシステム1〜3間の発電量の乖離度を算出して記憶する(S120)。次に、サンプルとしての乖離度を読み出し(S130)、サンプルとしての乖離度の中央値を算出して(S140)、評価対象となる日の乖離度との差分を算出する(S150)。そして、この差分に基づき、システム1〜3の単位で故障を判断する(S160)。
【0052】
つまり、本実施形態では、システム1〜3間での乖離度を算出することにより、この乖離度の差分によって故障を判断するのである。すなわち、システム1〜3間で出力が異なっている場合でも、それは最初の時点の乖離度となるため、評価時点の乖離度との差分をとれば、確実な故障診断をすることができる。
【0053】
また、図2に示すように日射量及び温度情報を取得する構成となっているが、図3に示した診断処理では、日射量などを用いず故障診断が可能となる。したがって、図2に示した日射/温度計測部51の構成を省略してもよい。
【0054】
さらにまた、システム1〜3間で太陽電池の種類が違っていても、また、太陽電池アレイ10の設置角度が異なっていても、故障診断を行うことができる。
また、本実施形態では、過去の乖離度を求めるに際し、サンプルの乖離度の中央値を算出している(図3中のS140)。これにより、サンプルの乖離度に故障後のものが含まれていたとしても、基準となる過去の乖離度を適切に算出することができる。
【0055】
さらにまた、本実施形態では、評価時間帯が12時〜13時となっており、太陽の南中時刻が含まれる。これにより、日射量が十分となる可能性が高くなり、故障診断の正当性が高くなる。
【0056】
また、本実施形態では、故障回数をインクリメントし(図3中のS180)、予め設定される設定回数を故障回数が越えた場合(S190:YES)、外部へ通知する(S200)。これにより、例えば利用者以外の第三者が故障を管理することもできるため、確実な故障の発見につながる。
【0057】
なお、本実施形態における太陽光発電システム1〜3が「太陽光発電システム」に相当し、計測器50が「太陽光発電システムに具備される計測器」に相当する。
また、本実施形態における太陽光発電診断装置30が「太陽光発電診断装置」に相当し、計測データ受信部31が「情報取得部」に相当し、実績履歴DB部32が「情報記憶部」に相当し、乖離度DB部38が「乖離記憶部」に相当し、診断部34が「診断部」に相当し、送信部36が「通知部」に相当する。
【0058】
さらにまた、乖離度算出処理部37の機能としての処理が「乖離算出処理」に相当し、図3中のS120として具現化される。さらにまた、故障判断処理部39の機能としての処理が「故障判断処理」に相当し、図3中のS130〜S160として具現化される。
【0059】
以上、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施できる。
(イ)診断処理の別例を図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0060】
S300,S310の処理は、図3に示した診断処理におけるS100,110の処理と同様である。また、S330〜S360の処理は、図3に示した診断処理におけるS130〜S160の処理と同様である。
【0061】
S320では、評価時間帯におけるシステム1〜3間の乖離度を算出して乖離度DB部38に記憶するのであるが、当該評価時間帯の日射量が予め設定される設定日射量に満たない場合、当該評価時間帯の乖離度をサンプルから外す。例えば図6に示すごとくである。
【0062】
図6中のS321では、日射量が十分か否かを判断する。例えば、基準となる日射量を設定日射量として予め記憶しておき、この設定日射量との比較によって判断するという具合である。ここで日射量が十分であると判断された場合(S321:YES)、S322にて評価時間帯におけるシステム1〜3間の乖離度を算出し、S323にて乖離度をサンプルとして記憶する。一方、日射量が十分でないと判断された場合(S321:NO)、以降の処理を実行せず、処理を終了する。このとき、図5中のS330では、例えば、評価対象となる日以前でサンプルとして蓄積されている20日分の乖離度を読み出すという具合である。
【0063】
このようにするのは、曇天時においては、晴天時に比べ、システム1〜3間の乖離度が実際のものよりも大きくなる虞があるためである。このようにすれば、日射量が十分な条件下で算出された乖離度から中央値が算出されるため、中央値が妥当なものとなり、故障診断が妥当なものとなる。
【0064】
また、図5に示す診断処理では特に、S370にて、評価対象となる日の評価時間帯における日射量が十分であるか否かを判断する。この処理は、図6中のS321と同様のものである。ここで日射量が十分であると判断された場合(S370:YES)、S380にて、故障したことを表示すると共に、故障診断の信頼度が高い旨を表示する。一方、日射量が十分でないと判断された場合(S370:NO)、故障したことを表示すると共に、故障診断の信頼度が低い旨を表示する。このようにすれば、上記実施形態の装置と同様の効果が奏されるとともに、単に故障の診断が行われる構成と比べて、故障診断の正当性まで判断することができる。
【0065】
なお、ここでは、信頼度が高い旨、信頼度が低い旨のいずれかを表示するようにしたが(図5中のS380,S390)、例えば設定日射量との離れ具合などを数値として表示するようにしてもよい。
【0066】
(ロ)診断処理の別例を図7のフローチャートに基づいて説明する。
S400〜S420の処理は、図5に示した診断処理におけるS300〜S320の処理と同様である。したがって、この場合も、評価時間帯の日射量が十分でない場合、当該評価時間帯におけるシステム1〜3間の乖離度がサンプルから外される。また、S440〜S470の処理は、図5に示した診断処理におけるS330〜S360の処理と同様である。
【0067】
図7に示す診断処理では特に、S420に続くS430にて、日射量が十分であるか否かを判断する。この処理は、図5中のS370の処理と同様のものである。ここで日射量が十分であると判断された場合(S430:YES)、S440からの処理を実行する。一方、日射量が十分でないと判断された場合(S430:NO)、以降の処理を実行せずに、診断処理を終了する。つまり、日射量が不十分である場合には、診断処理を中止するのである。
【0068】
このようにすれば、上記実施形態と同様の効果が奏されると共に、故障診断の正当性が不十分な場合、故障診断自体をキャンセルすることができる。
(ハ)上記実施形態では、評価時間帯を12時〜13時の1時間としているが、例えば1時間を上回る時間帯を設定してもよい。半日、1日、数日、数ヶ月を評価時間帯とすることも考えられる。また、上記実施形態では評価時間帯の発電量を積算処理しているが、評価時間帯の平均の発電量を用いてシステム1〜3間の乖離度を算出するようにしてもよい。
【0069】
(ニ)上記実施形態では、計測器50から送信される情報をそのまま実績履歴DB32に記憶しているが、上記(ハ)で説明した評価時間帯に合わせて積算処理をした後のデータを実績履歴DB部32に記憶するようにしてもよい。この場合、図2に破線で示すように、計測データ受信部31にて受信された情報を、データ処理部40によって前処理することが例示される。
【0070】
(ホ)計測データ受信部31にて取得される情報に欠損があった場合、当該情報に基づくデータを除外するようにしてもよい。例えば、日射量があるにもかかわらず発電量が「0」であるような場合、当該発電量を用いた積算データを除外するという具合である。この場合、図2に破線で示したデータ処理部40にてデータを除外するようにしてもよいし、診断部34における処理に際しデータを除外するようにしてもよい。
【0071】
(へ)上記実施形態ではシステム1〜3を単位として故障診断を行っていたが、システム1〜3を構成する太陽電池アレイ10を単位として故障診断を行うようにしてもよい。この場合も、太陽電池の種類や設置角度、あるいは、木陰になっているなどの理由による太陽電池アレイ10間のばらつきを考慮した故障診断を行うことができる。
【0072】
また、太陽電池アレイ10を構成する太陽電池ストリング13(図1参照)や太陽電池ストリングの一部を構成するサブストリングを単位として故障診断を行ってもよい。この場合も、太陽電池ストリング13やサブストリングの出力のばらつきを考慮した故障診断を行うことができる。
【0073】
(ト)上記実施形態では、サンプルとしての乖離度の中央値を算出し(図3中のS140)、この中央値を基準値として故障を判断していた。これに対し、サンプルとしての乖離度の平均値を算出し、この平均値を基準値として故障を判断するようにしてもよい。ただし、サンプルの乖離度に故障後のものが含まれると平均値が大きく推移する虞があるため、上記実施形態のような中央値、あるいは、サンプルとしての乖離度の標準偏差を用いて基準値を算出するようにするとよい。
【0074】
(チ)上記実施形態では、発電量を取得する構成であったが(図3中のS100)、発電量を導出可能な電流量を取得するようにしてもよい。また、乖離度を算出するようにしていたが、発電量差(乖離量)で故障を判断するようにしてもよい。
【0075】
(リ)上記実施形態では、故障診断結果及び故障回数を、実績履歴DB部32に記憶している。このとき、故障診断結果に基づき、故障したと判断された日の乖離度はサンプルとして読み出さないようにしてもよい。具体的には、図3中のS130にて、故障判断がなされていない日の乖離度を読み出す構成とする。この場合、例えば、評価対象となる日以前で故障の判断がなされていない20日分の乖離度を読み出すという具合である。このようにすれば、サンプルとしての乖離度の信頼性を向上させることができ、サンプルの精度を向上させることができる。
【0076】
(ヌ)上記実施形態では、系統連系システムを例に挙げたが、系統連系しない独立型の太陽光発電システムでも、同様に適当することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,2,3:太陽光発電システム
10:太陽電池アレイ
11:太陽電池モジュール
12:太陽電池セル
13:太陽電池ストリング
20:パワーコンディショナ(PCS)
30:太陽光発電診断装置
31:計測データ受信部
32:実績履歴DB部
33:ユーザ設定部
34:診断部
35:表示部
36:送信部
37:乖離度算出処理部
38:乖離度DB部
39:故障判断処理部
40:データ処理部
50:計測器
51:日射/温度計測部
52:電力計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電システムに具備される計測器から、所定の構成単位での発電量を導出可能な発電相当量を取得する情報取得部と、
前記情報取得部にて取得される前記発電相当量を過去から現在にわたって記憶するための情報記憶部と、
前記情報記憶部にて記憶された前記発電相当量に基づき、前記構成単位間での特定の評価時間帯における発電相当量の乖離を算出する乖離算出処理、
及び、前記乖離算出処理にて算出される前記乖離に基づき、複数のサンプルとしての乖離から基準値を算出し、当該基準値と評価対象となる乖離との差分を求めることによって、前記構成単位での故障を判断する故障判断処理、
を実行可能な診断部と、
を備えていることを特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽光発電診断装置において、
前記乖離算出処理にて算出される前記乖離を過去から現在にわたって記憶するための乖離記憶部を備えていること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の太陽光発電診断装置において、
前記基準値は、前記サンプルとしての前記乖離の平均値であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の太陽光発電診断装置において、
前記基準値は、前記サンプルとしての前記乖離の中央値であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の太陽光発電診断装置において、
前記基準値は、前記サンプルとしての前記乖離の標準偏差を用いて算出されること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記構成単位は、前記太陽光発電システムの単位であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記構成単位は、前記太陽光発電システムを構成する太陽電池アレイの単位であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記構成単位は、前記太陽光発電システムの太陽電池アレイを構成する太陽電池ストリング又はそのサブストリングの単位であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記情報取得部は、前記発電相当量に加え、日射量を導出可能な日射情報を取得するようになっており、
前記評価時間帯における前記日射情報に基づく日射量と予め設定される設定日射量とを比較し、前記日射量が前記設定日射量に満たない場合、当該評価時間帯における前記乖離を前記サンプルから外すこと
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項10】
請求項9に記載の太陽光発電診断装置において、
前記診断部は、前記評価対象の前記乖離に対応する前記日射情報に基づく日射量と前記設定日射量とを比較して、前記故障判断処理の信頼度を判定すること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項11】
請求項9に記載の太陽光発電診断装置において、
前記診断部は、前記評価対象の前記乖離に対応する前記日射情報に基づく日射量と前記設定日射量とを比較して、前記故障判断処理の実行の有無を決定すること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記サンプルの数は、設定変更可能となっていること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記評価時間帯は、南中時刻を含む時間帯であること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記故障判断処理によって故障したと判断された回数が予め設定された設定回数を越えると、前記構成単位の故障を外部へ通知する通知部を備えていること
を特徴とする太陽光発電診断装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の太陽光発電診断装置において、
前記故障判断処理によって故障したと判断された場合、当該判断時の前記評価対象の乖離を、次の故障判断処理では、前記サンプルから外すこと
を特徴とする太陽光発電診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−104750(P2012−104750A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253958(P2010−253958)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月14日 社団法人電子情報通信学会発行の「2010ソサイエティ大会 講演論文集」に発表
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】