説明

太陽電池、太陽電池用積層基板、およびそれらの製造方法

【課題】 集積型薄膜太陽電池のレーザー加工による基板へのダメージを軽減する。
【解決手段】 本発明のある態様においては、基板5の一方の面に基板の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含む下地層11を備える薄膜太陽電池100が提供される。その下地層11の上には、接続のためまたは電極のための導電体の層として接続配線層7、10が配置されている。集積型の太陽電池を形成するため、レーザー加工により接続配線層7、10が除去された分離部4が形成される。このような下地層11を用いると、より弱いレーザー光によって接続配線層7、10が除去されるため、分離部4に露出している基板5へのレーザー光によるダメージを軽減することか可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池、太陽電池用積層基板およびそれらの製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、レーザー加工を利用する太陽電池、その太陽電池のための積層基板、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産のための環境負荷が小さい太陽電池として薄膜太陽電池が注目されている。薄膜太陽電池には、複数の光電変換素子を基板の一方の面の上に形成し、各光電変換素子をその基板上にて直列接続して集積される、集積型薄膜太陽電池と呼ばれているものがある。集積型薄膜太陽電池は、スーパーストレート型とサブストレート型とに大別される。スーパーストレート型の太陽電池においては、発電のための光は基板を通過してから発電層すなわち半導体層に入射する。これに対して、サブストレート型の太陽電池においては、発電のための光は基板を通過せずに半導体層に入射する。このため、サブストレート型の太陽電池における基板は、半導体層にとって光の入射側(「前面側」)とは逆の側(「裏面側」)に配置される。その場合のアモルファスシリコン(a−Si)半導体層を用いた太陽電池では、半導体層に採用される構造は、基板側からn層、i層、p層の順に積層されるnip構造である。サブストレート型nip構造の直列接続構造を実現するためのパターニング加工を容易にする手法が特許文献1(特許4248351号明細書)に提案されている。
【0003】
上記提案における集積型の薄膜太陽電池の構成を詳細にみると、裏面電極層・半導体層・前面透明電極層からなる光電変換層が光電変換部の各単位(以下、単位光電変換部という)に区切られている。単位光電変換部は、基板上において隣接する単位光電変換部同士を相互に接続することにより直列接続されている。その際の直列接続は、隣接する二つの単位光電変換部のうち、一方の単位光電変換部の前面透明電極層と、他方の単位光電変換部の裏面電極層とが互いに電気的に接続して行われる。このような構成では、単位光電変換部それぞれが直列接続される要素となるため、各単位光電変換部に対応して、裏面電極層も単位裏面電極に電気的に切り離されて分離されている。この裏面電極は、光の反射性と電気伝導性とを併せ持つ必要があるため、通常は金属層によって形成される。
【0004】
サブストレート型の集積型の薄膜太陽電池において、単位光電変換部を要素として直列接続を構成するSCAF(Series Connection through Apertures on Film)構造と呼ばれる薄膜太陽電池が提案されている(例えば、特許文献2:特開2002−57357号公報)。SCAF構造の薄膜太陽電池においては可撓性の基板が採用されている。単位光電変換部同士を直列接続するために、基板を貫通する集電孔と接続孔とが用いられ、基板の背面(単位光電変換部が形成されている面からみて逆の面)には、接続孔と貫通孔とに接続している導電体の層が形成されている。この導電体の層は、単位光電変換部の列を直列接続するための配線としての役割を果たすため各単位接続配線部の間で切り離されて分離されている。この導電体の層は、良好な電気伝導性を持つ必要があることから金属層によって形成されている。
【0005】
上述した各提案におけるサブストレート型の薄膜太陽電池においては、金属層は電極または配線のいずれかまたはその両方として利用される。この金属層の分離処理は、処理コストや精度の点から通常はレーザー加工によって行われている。図1はそのレーザーによる分離処理の様子を模式的に示す説明図である。この分離処理においては、基板5に形成されている金属層に向かってレーザー光が照射され、レーザーの熱の作用によって金属層が除去されて分離部が形成される。レーザーの照射位置が走査されるとその走査された位置には線状の分離部が形成される。分離部の形状は通常は直線状とされる。
【0006】
図1に示すように、この分離処理では基板5に向かう空間に配置されるガルバノミラー52が利用される。ガルバノミラー52には固定されているレーザー光源54からのレーザー光が入射されており、そのガルバノミラー52は、例えば基板5の幅方向に照射部を移動させるように制御されている。基板5は、例えばある走査と次の走査の間に所定の距離だけ長手方向に送られてゆき、基板5にはレーザーの照射跡としてスキャンライン56が形成されてゆく。各スキャンライン56は金属層が除去された分離部となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4248351号明細書(特開2005−93903号公報)
【特許文献2】特開2002−57357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「新版物理定数表」、飯田ほか4名、朝倉書店、1979年、第172頁
【非特許文献2】「プラスチックの熱重量測定方法」(JIS K 7120)
【非特許文献3】「プラスチックの転移温度測定方法」(JIS K 7121)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、一般に金属層はレーザー光に対して大きな光反射率を示す。そのため、金属層を除去するために必要なレーザー光の照射パワーはその光反射率の大きさを見込んだ値に設定される。特に、サブストレート型の太陽電池の可撓性基板として、樹脂フィルム等の熱の影響を受けやすい材質の基板を採用する場合には、とりわけ大きな課題を生じさせる。以下その課題について説明する。
【0010】
まず、所期の目的どおりに分離処理を行なうためには、適切な波長のレーザーを金属層の除去が行えるだけのパワーにして基板の上の金属層に照射する必要がある。可撓性基板上の金属層の除去のために利用されるレーザーの一例を挙げれば、パルス発振されたNd−YAGレーザーの第2高調波(SHG、波長532nm)である。このNd−YAGレーザーの光は、例えば1kHz〜100kHz程度の繰り返し周波数によって繰りかえしパルス出力され、照射位置をオーバーラップさせながら線を描くように走査される。このとき、ビーム径、照射パワー等の他の条件は、基板に対する悪影響を可能な限り防止しつつ分離処理が適切に行えるように決定される。なお、パルスレーザーの照射パワーは、1パルス分のエネルギー量を指すものとして説明する。
【0011】
図2は、基板上に形成された金属層がパルス発振するレーザーによって除去されている途中の様子を示す模式斜視図(図2(a))、その平面図(図2(b))、各部のレーザーによる強度を示す説明図(図2(c))、および一つのレーザーパルスによって除去される領域と照射領域の関係を示す拡大平面図(図2(d))である。パルス発振するレーザーによる照射位置が走査されて分離処理が行われる場合、各パルスによる照射範囲は、一部をオーバーラップさせているようにして列をなしている。以下説明のため、整数kを用いて各パルスをパルスk等と区別し、その整数kは時間を追って、1、2、・・・というように値を増加させてゆくように付す。そうすると、パルス発振されながら照射位置が走査される様子は、図2(b)に模式的に示されるように、レーザー光の各パルスkが照射される範囲(照射範囲R)の列として示すことができる。説明のためさらに時刻も同一の整数によって区別し、パルスkまで照射した直後の時点を時刻tとする。
【0012】
図2(b)は時刻tにおける金属層に形成された分離部の様子を示している。図2(b)に示したように、照射範囲Rは照射範囲Rk−1とオーバーラップしている。図2(c)に示すように、パルスk−1による照射範囲Rk−1とパルスkによる照射範囲Rは互いに中心がずれていて、それぞれ山型の強度分布を有している。その山型の強度の裾の部分が互いに一部重なって上記のオーバーラップが形成されている。なお、その強度分布のために、各照射範囲に含まれるすべての位置において金属層が除去されるわけではないことには注意が必要である。各パルスの示す強度分布はレーザービームの光学系を工夫することによってある程度は防止されるが、完全に防げるわけではない。そして、レーザーの照射範囲のうち、金属層が除去されるのは強度の強い位置のみに限定される。
【0013】
このような照射範囲の列と金属層に形成される分離部の様子を図2(d)によって説明する。図2(d)は時刻tk−1と時刻tとについて金属層が除去されていく各段階を追って示す図である。パルスk-1が照射領域Rk−1に照射された後の時刻tk−1と比較すると、パルスkが照射領域Rに照射された後の時刻tにおいてはレーザーの走査に伴いパルスkの1パルス分だけ分離部が延びる。ここで、図2(d)においてハッチングにより示した領域Aと隣接する部分Bとに注目する。領域Aは、時刻tk−1には金属層が残存しており、パルスkが照射領域Rに照射されて初めて金属層が除去される部分である。つまり、領域Aはパルスkの1パルスによって新たに形成された分離部である。しかし、領域Aに近接する部分Bは、時刻tk−1においてすでに金属層が除去されて基板表面が露出していた部分である。それにもかかわらず、領域Aの金属層を除去しうる程度に設定される、大きな強度のパルスkが部分Bにも照射されてしまう。このため、基板の露出している部分Bにはレーザーによる悪影響(ダメージ)が及んでしまう。実際には、レーザーの照射位置が走査されて繰り返しパルスが照射されるため、分離部の形成とともにその内部においてダメージが及ぶ基板表面も線状に延びていく。
【0014】
このような課題に対処するため、上述したSCAF構造においては、低反射性の金属が利用される。図3に、SCAF構造の場合における薄膜太陽電池700の概略の層構成を断面図により示す。SCAF構造の薄膜太陽電池700には、基板75の第1面75Aに、例えば裏面電極層76、半導体層78、前面透明電極層79が配置される。そして、薄膜太陽電池700において基板75の第2面75Bには配線のために用いる金属層として第1接続配線層77および第2接続配線層80が形成されている。ここで、第2接続配線層80は、低反射の金属層とされる。つまり、第1接続配線層77は例えば銀(Ag)によって形成される層である一方、第2接続配線層80は例えばニッケル(Ni)によって形成され低反射性の層となっている。なお、非特許文献1(「新版物理定数表」、飯田ほか4名、朝倉書店、1979年、第172頁)によれば、銀とニッケルの薄膜の反射率の値はそれぞれ、97.9%(波長550nm)と54.9%(波長546nm)である。
【0015】
このような低反射率の金属層(第2接続配線層80)を用いれば、反射率が高い金属層(例えば第1接続配線層77)に直接レーザーを照射する場合に比べて照射パワーを低減しても分離部74を形成することが可能である。このため、上記の基板に対する悪影響(図3におけるダメージD)はある程度は軽減される。しかし、基板75の第2面75Bのうち分離部74にて露出している部分に照射されるレーザーのパルスは、第1接続配線層77および第2接続配線層80をいずれも除去しうる強度であることには変わりない。このため、第2接続配線層80を低反射金属とするのみでは、ダメージD(図3)を完全に防止することはできない。
【0016】
上述した基板露出部へのレーザー照射による影響を軽減するより効果的な手法はこれまで知られておらず、レーザーパワーをより低減させた場合であっても分離部を形成しうる基板と金属層との積層体の構成が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本出願の発明者らは、基板の厚み方向の位置において金属層が接する位置に、ある種の下地層を形成しておくことがレーザーパワーをより低減させるために有効であることを見出した。この解決策は、金属層がレーザーによって除去されるメカニズムを詳細に検討することによって見出されたものである。この点について以下説明する。
【0018】
従来、レーザーパルスによる金属層の除去メカニズムは、概略以下のような説明がなされていた。すなわち、まず、レーザーが光金属層に向かって入射する。その金属層に入射する光の光量のうちある量は反射によって失われ、残りの光が金属層に伝わる。その光による熱が十分な照射位置の金属層が一瞬のうちに除去される、というものである。この説明は、SCAF構造において低反射率の金属層(ニッケルの層、以下Ni層)を採用することによって照射パワーを低減させうることとも矛盾しない。つまり、Ni層を採用すると最表面の反射率が低くなる分だけ、吸収されて温度上昇に寄与する入射光が増大する。その結果、Ni層を形成しない場合に比べてより少ないパワーのレーザーパルスを用いても同等の温度に達するようになり、除去に必要な照射パワーが小さくなっている、と理解することができる。
【0019】
発明者は、このようなメカニズムをさらに詳細に検討した。その手がかりとして特に注目したのは、SCAF構造におけるAg層(第1接続配線層77、図3)とNi層(第2接続配線層80)との関係である。というのは、ニッケルの沸点および融点が銀のものに比べて大幅に高いためである。実際、ニッケルの沸点および融点は、それぞれ、約2837℃および約1453℃であるのに対し、銀ではそれぞれ約2150℃および約950℃である。このような関係があるにもかかわらず、Ni層を積層する図3の構成では、Ni層とAg層の両金属層を除去して分離部を形成するために必要なレーザーパワー(「最小レーザーパワー」という)がNi層のない場合よりも小さくなっている。このことから、Ni層を積層した金属層の除去のメカニズムに強く関わっているのはNi層より下の層の熱に対する挙動といえる。しかも、熱に対してより強い層(ここではNi層)がレーザーの入射する面にあったとしても、それより熱に弱い下の層(ここではAg層を含むNi層より下の層)へのレーザーによる熱の影響は増大されているのである。つまり、接続配線層の反射率を低減することが、その分だけ最小レーザーパワーを低減することに直結するのである。
【0020】
発明者はこの考えをさらに推し進めた。この際にさらに注目したのは、Ag層の除去に際してレーザーによる熱によって銀が完全に昇華したり蒸発しているとは限らないことである。結論を先に述べると、発明者は、金属層に接している近傍の基板の薄層部分(界面部分)がAg層に何らかの影響を与えることによってAg層が除去されているのではないか、と推測している。この点を以下説明する。まず、例えば第1接続配線層77(図3)のAg層は電気伝導の観点から設定される厚さ、例えば200nm厚に形成されている。このAg層の厚みは、熱伝導率が十分に大きいAg層にとっては熱の伝導の点からはごく薄い層といえる。このため、レーザーによる熱はAg層を瞬時に伝わってゆき、レーザーパルスの照射とほぼ同時に基板にもその熱が到達しているはずである。そうすると、Ag層それ自体が蒸発するような温度に達する前に、基板の界面部分の材質が何らかの形で熱の影響を受けはじめているといえる。このため、基板のうちAg層の近傍の部分である界面部分がAg層の除去に何らかの影響を与えている可能性が高いと推測している。具体的には、上記の銀の沸点および融点を考慮すれば、Ag層に接する基板の界面部分は例えば熱分解、蒸発、または昇華などの熱による作用によってガスを放出する、といった挙動をしていると考えるのが自然である。そして、Ag層やNi層は、そのような基板の界面部分の挙動によって、例えば吹き飛ばされる、といったより直接的な影響を受けている可能性が高い。このように、金属層に接する基板の部分はAg層の除去に重要な役割を果たしていると発明者は推測している。
【0021】
実際に、分離処理直後の分離部付近を顕微鏡観察した結果もこの推測をサポートしている。つまり、分離部の部分には内部に金属層の残渣が残っていない一方で、除去された金属層によるものと推測される固形物があたかも分離部から飛散したかのようにして分離部の周囲の金属層の上に付着している。このことから、除去される金属層の材質のうちには固体のまま飛散しているものもあると考えられる。加えて、実験的には、基板の厚みを変化させた場合において、薄い基板を用いる場合に基板が受けるレーザーによる影響が大きいことも観察されている。現時点においてこの現象の原因は必ずしも定かではない。基板が厚いか薄いかに関わらず同等の作用が基板に及んでいて基板が薄いために相対的にその作用の影響が大きく観察されるのか、それとも、薄い基板の場合のほうが大きい作用が及んでいるのかは特定できていない。しかし少なくとも、この基板の厚みに依存して基板がダメージを受けていること自体が、分離処理のメカニズムに対して基板が一定程度の役割を果たしている証拠であると発明者は考えている。
【0022】
このような実験事実を踏まえた検討の結果、本出願の発明者は、基板に対するダメージを軽減しうるようなレーザーの照射パワーの低減を達成するためには、金属層の下地を工夫することが有用であると考えた。具体的には、基板と金属層とを含む積層体においてレーザーによる照射パワーの低減に有効な構成を得るためには、まず、その工夫を施す位置は金属層の下地とすべきと考えた。しかも、その下地の位置においては、基板よりも熱的に弱いような材質を積極的に形成することが良いはずである。熱的に強い材質ではなく、熱的に弱い層を基板の保護に役立てるのである。
【0023】
次に、下地として採用する材質が熱的に「強い」あるいは「弱い」とは、本発明の課題に即した状況においてどういった属性によって規定するべきかを検討した。その際考慮した要素は3つである。第一に、レーザー加工が熱加工であり、レーザーによって照射された部位はごく高い温度となっていることである。第二に、その温度が下地層に伝わる際には、レーザーが下地層に直接入射するのではなく、金属層によって生成された熱が伝導していることである。そして、第三に、レーザーによって照射された後は少なくとも金属層に接している下地層は除去されるべきことである。これらの要素から発明者は、下地層として適する材質は、レーザーによって基板よりも容易にガスを放出するような材質であると考えている。すなわち、下地層として適する材質は、温度を上昇させていったときに、熱分解によってガスが放出され始める温度、または蒸発もしくは昇華といった熱の作用によってガスが放出され始める温度が基板の熱分解温度よりも低いような材質であるとの結論に至った。そして、特に、レーザーが照射されたときのガスを放出する温度のための指標として、下地層の熱分解温度および気化開始温度に着目した。
【0024】
そこで、本発明のある態様においては、第1面と第2面とを有する基板と、該第1面の上に配置される光電変換層と、前記第2面の上に配置され、前記基板の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含んでいる下地層と、該下地層の上に配置される接続配線層とを備え、該下地層の少なくとも一部と該接続配線層とがレーザー光によって除去されている分離部が前記基板の前記第2面に形成されている薄膜太陽電池が提供される。
【0025】
この態様においては、基板の第1面に光電変換層が形成され、第2面に接続配線層が形成される。接続配線層の分離処理にはレーザーが用いられる。
【0026】
同様に、本発明のある態様においては、第1面と第2面とを有する基板と、該第1面の上に配置され、該基板の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含んでいる下地層と、裏面電極層を備えるとともに、該裏面電極層を該下地層に接して配置される光電変換層とを備え、該下地層の少なくとも一部と前記裏面電極層とがレーザーによって除去されている分離部が前記基板の前記第1面に形成されている薄膜太陽電池が提供される。
【0027】
この態様においては、基板の第1面に光電変換層が形成され、その面に形成される金属層がレーザーによって分離処理される。特にこの構成では、金属層が光電変換層の裏面電極として用いられる層であることから、その金属層の上に低反射率の金属層を形成することができない。したがって、分離処理時の最小レーザーパワーを減少させるための手法を提供する本態様はとりわけ有用である。
【0028】
本発明の各態様においては、下地層を選択する際の指標として熱分解温度と気化開始温度とを用いる。このうちの熱分解温度は、いくつかの測定方法および定義に基づいて決定することが可能である。そのため、本発明の各態様に記載される熱分解温度による判定においては、いくつかの測定方法および定義のいずれかにおいて得られる熱分解温度を用いることが意図されている。以下、その熱分解温度に関して例示して説明する。
【0029】
熱分解温度としては第1に、熱重量測定(TG)によって計測した質量変化温度を採用することができる。熱重量測定は、例えば非特許文献2(「プラスチックの熱重量測定方法」(JIS K 7120))に規定される手法であり、熱天秤を使用して昇温させながら試料の質量の変化を調べる方法である。その手法には等温加熱法と等速昇温法があり、本発明の各態様においてはいずれを用いることも可能である。測定される基板の試料と下地層の試料とはともに粉砕された試料または粉末とし、雰囲気として例えば乾燥空気などの中で加熱する。試料の条件や雰囲気の条件は、比較対象となる試料、例えば基板の試料と下地層の試料とが同一の条件とされる。ここで、例えば上記規格が当事者間の協定に任せているように、試料の条件や雰囲気の条件は特定の条件に限定されるものではなく、比較対象との間で対比可能な程度に同一とされていれば任意である。本発明の各態様に即している条件を強いて挙げるなら、金属層に覆われた位置でのレーザーによる分離処理の指標とするため、酸素のない不活性ガス雰囲気とすることである。ただし他の雰囲気中でまたは真空中で測定することが排除されるものではない。
【0030】
熱重量測定によって計測される質量変化温度は、測定されたTG曲線から算出される質量変化の開始温度、中点温度、終了温度のいずれかである。比較される試料には、これらのうち同一の種類の温度を用いる。例えば質量変化の開始温度としては、5%熱重量減少温度を用いることができる。なお、上記規格には、多段階に質量減少を示す場合のために、各段階を第一次、第二次・・・と区別すること、および、各段階において開始温度、中点温度、終了温度を決定することが規定される。本発明の各態様においては、レーザーによる分離処理の際の熱に対する耐性の指標として用いるため、基板および下地層ともに、多段階の熱分解が観測された場合には、第一次すなわち最も低い温度における質量減少を比較対象とする。
【0031】
採用しうる熱分解温度の第2の決定手法は、示差熱分析(DTA)によって下地層の材質と基板の材質との昇温時の熱分解のピークを測定することである。示差熱分析による測定は、転移温度のための手法が、例えば非特許文献3(「プラスチックの転移温度測定方法」(JIS K 7121))に規定されている。ここで、この規格にて規定されるのは、一般の転移温度(融解温度、結晶化温度、ガラス転移温度等)であり、熱分解温度の直接的な決定手法ではない。しかし、例えば窒素雰囲気中において昇温させながら基板と下地層の材質の間の温度差を比較すると、熱分解のピークが吸熱側のピークとして観察される。このため、このような吸熱側ピークが出現する温度が基板よりも低い材質が金属層の下地層であれば、その下地層の熱分解温度が基板よりも低い下地層であるといえる。このような測定によって、基板と下地層の材質の熱分解温度を比較することが可能である。
【0032】
熱分解温度の第3の決定手法は発生気体分析である。熱分解によって生成される気体の種類は基板材質に依存する。このため、基板および下地層の材質に対する熱分解温度として採用しうる指標には、例えば昇温していって発生する気体が最も多量に発生する温度、各試料の材質の分解生成ガスの量がピークとなる温度、気体の発生が開始する温度といったガスの放出に関連する各種の温度指標が含まれている。ガスの定量分析には、公知の手法(例えばガスクロマトグラフィー法)を採用することができる。
【0033】
これらの決定手法以外にも、他の手法によって決定される温度指標を熱分解温度として採用することも本発明の各態様に含まれる。本発明の各態様の熱分解温度として採用される例には、昇温させて測定する真空中における揮発率に基づいて決定される揮発の生じる温度、所定時間(例えば30分)だけ真空中で加熱したときに重量が半減する温度、ならびに熱重量測定(TG)によって得られる微分熱分解温度および積分熱分解温度が含まれる。さらに、示差熱と熱重量を同時測定するTG/DTA測定を行ってもよい。これらの手法においても、酸素が存在しない状態において決定される温度指標が本発明の各態様の熱分解温度として好ましい。
【0034】
さらに、本発明の各態様においては、熱分解温度ではなくもう一つの指標、すなわち気化開始温度に基づいて下地層の材質を選択することも提案される。本出願において気化開始温度とは、蒸発および昇華(以下、総称して「気化現象」という)を含む物質相の変化によって、固体であった物質が液体を経由して、または液体を経由することなく、それ自体がガスとなる相変化が生じる温度範囲の下限値をいう。なお、このガスには、固体物質の組成を変化させずに気体となったとなったガスばかりではなく、何らかの化学変化を伴って生じたガスが含まれることもある。つまり、本出願の気化現象からは、例えば熱分解といった化学変化によるガスの放出が排除されている訳ではない。
【0035】
この気化開始温度も熱分解温度と同様にいくつかの測定方法および定義に基づいて決定することが可能である。そのため、本発明の各態様に記載される気化開始温度による判定においては、いくつかの測定方法および定義のいずれかにおいて得られる気化開始温度を用いることが意図されている。例えば、熱分解温度の第1の決定手法として上述した熱重量測定(TG)により、気化に伴う質量減少の測定を採用することができる。また、熱分解温度の第2の決定手法として上述した示差熱分析(DTA)によって、気化に伴う吸熱のピークを求める手法を採用することができる。さらには、熱分解温度の第3の決定手法として上述した発生気体分析によって、気体の発生が開始する温度として決定される温度を気化開始温度とすることもできる。
【0036】
上述した熱分解温度の場合と同様に、これらの決定手法以外の他の手法によって決定される温度指標も気化開始温度として採用することができる。その中には、昇温させて測定する真空中における揮発率に基づいて決定される揮発の生じる温度、所定時間(例えば30分)だけ真空中で加熱したときに重量が半減する温度、ならびに熱重量測定(TG)によって得られる微分熱分解温度および積分熱分解温度が含まれる。熱分解温度の場合と同様に、気化開始温度の決定のために、示差熱と熱重量を同時測定するTG/DTA測定を行ってもよい。酸素が存在しない状態において決定される温度指標が本発明の各態様の気化開始温度として好ましい点も、熱分解温度と同様である。
【0037】
なお、本発明の各態様において下地層の材料による金属層の除去には、主として下地層の熱分解または気化現象(蒸発または昇華)によるガスの放出が作用していると推測している。この熱分解または気化現象によって引き起こされる典型的な除去の態様は、次の通りである。基板に形成されている下地層に熱が伝わると、その下地層のうちのある厚みの部分(界面部分)が熱によって分解したり気化したりする。それに伴って、下地層の直上に位置する金属層は、基板に対する付着力を失う。さらに、下地層の分解生成物に含まれるガスまたは下地層それ自体のガスは、金属層を下から持ち上げたり吹き飛ばしたりするように作用する。こうして、レーザーの熱によって金属層が除去される。このような除去の態様を実現させるために、本発明の各態様においては、基板の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す下地層が基板と金属層との間に形成される。なお、金属層が除去された位置においては下地層のうちの一部のみが除去され、他の一部が残る場合も想定される。このような現象が想定されるのは、主として二つの場合である。一つは、下地層が厚い場合である。この場合には、金属層を除去させるために分解または気化してしまった下地層の部分の下に依然として下地層が残っている。もう一つの場合は、熱分解または気化の態様が、組成の異なる気体と固体(融体)とに分解する現象、つまり非相合蒸発(incongruent vaporization)である場合である。この熱分解または気化の態様では下地層が除去された跡に何らかの固体成分が残留する。いずれにしても、金属層が除去された分離部において下地層が完全に除去されていることは本発明の各態様において必須とはされない。
【発明の効果】
【0038】
本発明のいくつかの態様によれば、分離処理を行う際の最小レーザーパワーを低減することが可能となるため、基板に及ぶレーザーの影響を軽減させた薄膜太陽電池を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】レーザーを用いて行われる分離処理の様子を示す説明図である。
【図2】分離処理において金属層が除去される様子を示す説明図であり、その様子を示す模式斜視図(図2(a))、平面図(図2(b))、各部のレーザーによる強度を示す説明図(図2(c))、およびレーザーパルスによって除去される領域と照射領域の関係を示す拡大平面図(図2(d))である。
【図3】従来のSCAF構造の薄膜太陽電池の概略の層構成を示す断面図である。
【図4】本発明のある実施形態における薄膜太陽電池の概略の構成を示す断面図であり、接続配線層が2層の金属層を含む構成(図4(a))と、接続配線層が1層の金属層を含む構成(図4(b))である。
【図5】本発明のある実施形態においてSCAF構造を有する薄膜太陽電池の概略構成を示す平面図(図5(a))および拡大平面図(図5(b))である。
【図6】本発明のある実施形態においてSCAF構造を有する薄膜太陽電池の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明のある実施形態においてSCAF構造の薄膜太陽電池を製造する工程の概略を説明する工程フロー図である。
【図8】本発明のある実施形態の薄膜太陽電池の概略の構成を示す断面図である。
【図9】本発明のある実施形態における薄膜太陽電池を製造する工程の概略を説明する工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0041】
<第1実施形態>
図4は、本発明の第1実施形態の薄膜太陽電池100の概略構成を示す概略断面図である。図4(a)に示すように、薄膜太陽電池100に用いる基板5は第1面5Aと第2面5Bとを有している。薄膜太陽電池100は、その基板5に加え、第1面5Aの上に配置される光電変換層と、第2面5Bの上に配置される下地層11と、下地層11の上に配置される接続配線層とを備えている。ここで、光電変換層は裏面電極層6と半導体層8と前面透明電極層9とからなり、接続配線層は第1接続配線層7と第2接続配線層10とを備えている。この接続配線層の典型的な構成としては、第1接続配線層7を厚さ200nmのAg層とし、第2接続配線層10を厚さ50nmのNi層とする積層構成である。第1接続配線層7と第2接続配線層10とは互いに直接積層されている。この構成においては、第2接続配線層10は第1接続配線層7に電気的に接続され、また、第2接続配線層10の光反射率は第1接続配線層7のものよりも小さくなる。なお、ここでの光反射率は、少なくとも加工に用いるレーザーの波長の光が空気中から各層に垂直入射する際の反射率である。
【0042】
本実施形態の薄膜太陽電池は、必ずしも二層の接続配線層すなわち第1接続配線層と第2接続配線層の両方を用いるものに限定されず、図4(b)に示す薄膜太陽電池110のように、第1接続配線層7のみを用いる構成とすることもできる。薄膜太陽電池110はこの点以外は薄膜太陽電池100と同一の構成を有しているため、以下、薄膜太陽電池100の説明をもって薄膜太陽電池100と薄膜太陽電池110の説明を行うものとする。
【0043】
薄膜太陽電池100に採用される下地層11は、図4(a)の紙面上の基板5の下方に向く面の上、すなわち基板5の第2面5Bの上に配置される。この下地層11は、基板5の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含んでいる。この下地層11の詳細については後述する。また、基板5の第2面5Bには、第1接続配線層7および第2接続配線層10が除去され、下地層11も少なくとも一部が除去された分離部4が形成されている。そして、この除去を行う分離処理は、第2面5B側から照射されるレーザー加工によって行われる。このため、図1に示したレーザー加工の時点において、少なくとも、下地層11、第1接続配線層7、および第2接続配線層10が基板5の第2面5Bに形成されている。
【0044】
この薄膜太陽電池100と同様の構成を適用するSCAF構造の薄膜太陽電池150について、その詳細を図5〜図7を参照して説明する。図5は、SCAF構造を採用する本実施形態の薄膜太陽電池150の概略の構成を示す平面図(図5(a))および拡大平面図(図5(b))であり、図6は、本実施形態の薄膜太陽電池の構成を示す断面図であり、そして、図7は、本実施形態において薄膜太陽電池を製造する工程を説明する工程フロー図である。
【0045】
本実施形態においては、SCAF(Series Connection through Apertures on Film)構造を有する集積型の薄膜太陽電池150が作製される。この薄膜太陽電池150を実際に使用する際には、例えば耐候性を確実にするため付加的な部材(封止部材など)も適宜用いられる。これらの付加的な部材については、本実施形態を明確に説明するために記載および図示が省略されている。
【0046】
SCAF構造の薄膜太陽電池150においては、図5(a)に示すように、基板5の一方の面(第1面5A)において、光を電気に変換する光電変換層が単位光電変換部120、120、・・・120の列となるように、分離部3によって区切られて電気的に分離されている。基板のもう一方の面(第2面5B)に配置される接続配線層も、単位接続配線部140、140、・・・140の列となるように分離部4によって区切られて電気的に分離されている。以下、単位光電変換部や単位接続配線部に用いる符号については、総称する際には添え字を略した符号により示し、これらの個別のものを指す場合には添え字を付して示す。なお、基板5の第1面5Aと第2面5Bは、基板5の厚みをなす両面からそれぞれ選択される。ここでは、基板の両面のうち、光電変換層が配置または形成される面を第1面5Aとしている。また、薄膜太陽電池150を説明する各図面において、断面を記載する各図面においては上方に向く面が第1面5Aとして描かれ、平面を記載する各図面においては紙面が第1面5Aとなるように描かれている。そして、基板5の平面内の方向を区別する際には、図5(a)および(b)における紙面上の左右方向を長手方向、上下方向を幅方向と呼ぶ。
【0047】
薄膜太陽電池150においては、図5(b)に示すように、分離部3と分離部4とのそれぞれは同様のものが複数繰り返して一方向に並んでおり、分離部3と分離部4は、基板5の各面において互いの位置が異なるようにずらされている。こうして、単位光電変換部120をなす区切りの位置と単位接続配線部140をなす区切りの位置とが互い違いになるようにされている。単位接続配線部140の配置は、一つひとつの単位接続配線部すなわち単位接続配線部140をみると、基板5の第1面5Aにて隣り合う二つの単位光電変換部120および120i+1に電気的に接続可能な領域に対して基板5を介して重なるようになっている。
【0048】
図6は、図5(b)の拡大平面図においてA−A’部における断面図(図6(a))とB−B’部における断面図(図6(b))である。基板5に開口として形成される集電孔1および接続孔2は基板5を貫通するようになっていて、この集電孔1および接続孔2を通じて第1面5Aの単位光電変換部のそれぞれが直列接続されるように構成されている。すなわち、例えば、薄膜太陽電池150の中央部を見ると、分離部4によって区切られている単位接続配線部140は、その単位接続配線部140と重なる一方の単位光電変換部120の前面透明電極層9に対して、集電孔1を通じて接続されている(図6(a)、集電孔1付近のA部参照)。それと同時に単位接続配線部140は、その同じ単位接続配線部と重なるもう一方の単位光電変換部120i+1の裏面電極層6に対しても接続孔2を通じて接続されている(図6(a)、接続孔2付近のA部参照)。この接続構成が繰りかえされることによって、第2面5Bの単位接続配線部140、140、・・・140のそれぞれを配線として、第1面5Aにおける単位光電変換部120、120、・・・120がその並びの順に直列接続されている。
【0049】
単位光電変換部120は、光電変換層が分離部3によって区切られたものである。ここで、接続孔2が設けられる基板5の幅方向の両端部以外は、基板5の第1面5Aの上に、裏面電極層6とnip接合構造を含む半導体層8と前面透明電極層9とをこの順に備えて構成されている。一方、接続孔2が設けられる両端部には、前面透明電極層9が形成されていない(図6(a)の接続孔2付近のA部参照)。このため、接続孔2が設けられる両端部においては、露出された半導体層8とその基板側の裏面電極層6とが接続孔2にまで延びている。
【0050】
次に、このような構造の薄膜太陽電池150を作製する工程について、図7を参照して説明する。まず、薄膜太陽電池150を作製する基板としては絶縁性の可撓性基板5(以下、「基板5」という)を採用する。具体的には、例えばポリイミド樹脂のフィルム基板を用いる。他に採用することができる基板の材質の例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、アクリル、アラミド等の他の絶縁性プラスチックフィルムが挙げられる。
【0051】
基板5にはまず、一方の面である第2面5Bに下地層11が形成される(下地層形成工程S102)。この下地層11を形成する工程の具体例を説明すると、まず、下地層11の前駆体溶液を基板5に対して印刷または塗布して、前駆体溶液の層を基板5の第2面5Bの上に形成する。そして、その前駆体溶液の層を乾燥、硬化、重合等させて固形化し下地層11を形成する。この乾燥、硬化、重合といった固形化の処理条件は、下地層11に用いる材質に応じて適宜に決定される。形成される下地層11はいくつかの技術的要求を満たすようにされている。本実施形態においては、下地層11の熱分解温度または気化開始温度が基板の熱分解温度よりも低くなるようにされる。これ以外の下地層11に対する技術的要件は任意選択的なものであり、例えば、後の各工程の温度に耐えられること、各工程や使用時において、基板5とその上の導電体層(例えば第1接続配線層7)との間の十分な密着性を確保しうること、基板5の可撓性を妨げない程度の柔軟性を持つこと等を挙げることができる。下地層形成工程S102としては上述した工程例以外にも、例えば、基板5を帯状のフィルムに成形する段階において、下地層11となる層をラミネートしておいて下地層11を基板5の少なくとも一方の面に形成するような処理を行っても良い。このような下地層11の形成処理は、下地層11として採用する具体的な材質に依存して種々の手法を採用することが可能となる。以下、下地層11の材質毎にその工程の概略をさらに説明する。
【0052】
まず、下地層11としてアクリル樹脂を採用する場合について説明する。この場合の典型的なアクリル樹脂としては、塗料などに用いられるアクリル系の樹脂を採用することができる。より具体的には、例えば、有機溶剤系、水系、無溶剤系のいずれかのアクリル樹脂を用いることができる。これらの各系統に含まれるアクリル樹脂を例示すれば、有機溶剤系アクリル樹脂には、非架橋型のアクリルラッカーならびに架橋型のアミノアクリルおよびアクリルウレタンが含まれる。また、水系アクリル樹脂には、水溶性アクリル、アクリルヒドロゾル、アクリルエマルジョンが含まれる。そして、無溶剤系アクリル樹脂には、粉体アクリル、UV(紫外線)・EB(電子線)硬化アクリルが含まれる。これらの各種の樹脂は、各材料の硬化方法に応じた工程によって溶液の前駆体を硬化させて下地層11として形成される。例えば、アミノアクリルや粉体アクリルは加熱によって熱硬化され、アクリルラッカー、アクリルウレタン、アクリルエマルジョンなどは溶媒を揮発させることによって硬化され、また、UV硬化アクリルは紫外線を照射して硬化され、EB硬化アクリルは電子線を照射して硬化される。
【0053】
このようなアクリル樹脂の前駆体には、例えばモノマーやオリゴマーとなるような各種のアクリレート(アクリル酸エステル)やメタクリレート(メタクリル酸エステル)が用いられる。その前駆体は、硬化の必要に応じてさらに重合開始剤が適量混入された溶液とされていて、その前駆体溶液が基板5に薄層をなすように配置される。その後、重合開始剤に合わせた刺激(熱、光、電子線など)を前駆体溶液の薄層に作用させることによって固形化された下地層11が形成される。以上のようなアクリル樹脂においては、化学構造や固形化の条件を調整することにより、熱分解温度または気化開始温度を調整することが可能となる。発明者は、その熱分解温度の調整のために特に重要なパラメータとして重合度に着目している。したがって、固形化後の下地層11の材質の重合度に影響する要素であるラジカルの濃度、酸素濃度、温度などの各要素が適宜制御される。この重合度に影響を及ぼすために適切に制御される条件には、下地層11のための前駆体溶液や下地層11それ自体が基板5から受ける影響や、後の第2面パターニング処理S122直前までの各工程において下地層11が受ける熱などが含まれる。具体的には、各種の重合反応による硬化においては、熱による反応の結果として下地層11の重合度が高まりすぎることは好ましいとはいえない。そのため、例えば、熱をきっかけにして重合反応を起こさせる熱重合開始剤を用いることなく、光重合開始剤を含んでいて光による重合によって固形化するような前駆体溶液から下地層11を形成することは、本実施形態の下地層を形成する手法の好ましい一例である。
【0054】
下地層11の別の材料としては、ポリイミド樹脂を挙げることができる。この場合には、下地層11の前駆体溶液として、ポリアミック酸(ポリアミド酸)を適切な溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン、キシレン、ガンマ・ブチロラクトン)に溶解させたものを採用することができる。このような前駆体溶液を層状に形成した基板5を、例えば300℃程度の温度になるように加熱焼成してイミド化させることにより、ポリイミド樹脂を含む下地層11を得ることが可能である。それ以外にも、感光性ポリイミド樹脂の前駆体を塗布して露光して硬化することや、予めイミド化されている可溶性ポリイミドを溶媒に溶かして塗布し、乾燥することによってポリイミド樹脂の下地層11を形成することも可能である。なお、基板5それ自体も例えばポリイミドのフィルム基板とする場合には、例えば350℃程度の基板到達温度を伴う熱処理に耐えられる基板とすることが好ましい。また、下地層11と基板5の両方をポリイミド樹脂によって形成する場合であっても、下地層11の材質を基板5の材質よりも低い熱分解温度または気化開始温度を示すように調製することは十分に可能である。
【0055】
上述した各種の前駆体溶液によって下地層11を形成する場合には、その下地層11が前駆体溶液を乾燥、硬化または重合して得られるものである場合にも、また、その下地層11が前駆体溶液を経ずに形成される場合にも、種々の手法によって基板5の一方の面の上に薄層状または薄膜状になるように配置または形成される。そのためには、印刷やコンバーティングのための任意の手法を採用することができる。すなわち、下地層11の前駆体溶液を基板5の少なくとも一方の面に前駆体溶液の層として形成するための手法には、スクリーン印刷などの印刷の手法や、スリットコータ−、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーターなどのコーティングの手法を採用することが可能である。さらには、スプレーによって前駆体溶液を散布したり、例えば基板5を前駆体溶液に浸漬して引き上げるといった手法によって基板5に前駆体溶液の層を形成することもできる。さらには、例えば粉体塗装のように、静電的に基板5に下地層11の前駆体溶液の微粒子を薄層状に形成することができる。
【0056】
また、本実施形態を含む本発明の各態様において、下地層11の材質は、上述した各種の材料や、または、上述した材料のいずれかを含む混合物から選択することもできる。この混合物は、例えば相分離する複数の高分子材料の混合物や、何らかのフィラーを混入した高分子層とすることも可能である。
【0057】
下地層11の材質選択のために考慮される技術的要件には、すでに説明したように、下地層11の熱分解温度(または気化開始温度)が基板5の材質の熱分解温度よりも低いかどうかが含まれる。熱分解温度(または気化開始温度)の決定手段は、実際に下地層形成工程S102を経た後のいずれかの段階の下地層11および基板5の材質を対象にして決定される。最も典型的には、レーザーによる分離処理である第2面パターニング工程(S122、後述)の直前の段階においてこの下地層11が示す熱分解温度(または気化開始温度)を下地層11の材質の熱分解温度(または気化開始温度)とし、その段階での基板5の材質の熱分解温度と比較される。こうして、下地層11の材質が本発明の各態様の思想を反映するものといえるかどうかが決定される。ただし、下地層11や基板5の材質の熱分解温度(または気化開始温度)を決定するのは必ずしもその段階のみには限られず、他の段階においてまたは同じ材料を用いた測定のための標本試料を利用して決定することも可能である。なお、下地層11に対する技術的要件には、太陽電池を作製する工程において到達する基板の温度に耐えうる程度の耐熱性も含まれる。したがって、下地層11のためには、上述したアクリル樹脂、ポリイミド樹脂以外にも、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の、熱分解温度または気化開始温度が基板の熱分解温度より低い他の種類の材質を用いることが可能である。
【0058】
下地層11が形成された後には、接続孔2のための開口が形成される(接続孔形成工程S104)。このためには、打ち抜き金型(パンチ)によって基板5の所定の位置に開口が設けられる。次いで、減圧下において加熱することにより、基板5の材質のポリイミドフィルムや下地層11から放出されるガスが除去される(脱ガス処理S106)。なお、この脱ガス処理S106は接続孔形成工程S104の前後のいずれかもしくは両方において実施してもかまわない。また、この脱ガス処理工程S106は基板5ばかりではなく下地層11もともに加熱される工程であることから、下地層11の材質に対して例えば重合度を高めるといった影響を及ぼすことを想定しておくことも可能である。
【0059】
その後、基板5の一方の面(第1面5A)に裏面電極層6が形成され(裏面電極層形成工程S108)、次いで、基板5の面のもう一方の面(第2面5B)の下地層11の上に第1接続配線層7が形成される(第1接続配線層形成工程S110)。裏面電極層6は、例えばAg層を膜厚200nmとなるようにスパッタリング法によって形成する。また、第1接続配線層7の材質は、裏面電極層6と同じくAgを採用する。なお、これら裏面電極層6および第1接続配線層7の材料としては、これら以外にAg合金、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタニウム(Ti)等の金属を用いることができる。また、裏面電極層6には、金属層と透明電極層との多層構造からなる膜などを用いることもできる。これら裏面電極層6および第1接続配線層7を形成する際の成膜法はスパッタリング法に限られず、真空蒸着法やスプレー成膜法、印刷法、塗布法、めっき法を採用することもできる。
【0060】
裏面電極層形成工程S108と第1接続配線層形成工程S110とを終えると、基板5の第1面に形成した裏面電極層6と基板5の第2面に形成した第1接続配線層7とは接続孔2の内側壁付近において直接重なり、互いに電気的に接続される。
【0061】
第1接続配線層形成工程S110を終えると、接続孔2の場合とは別の打ち抜き金型を用いて基板5に集電孔1が形成される(集電孔形成工程S112)。この際には、基板5のみならず、その段階において基板5に形成されている裏面電極層6、下地層11、および第1接続配線層7も貫通するようにして集電孔1が形成される。さらに基板5の第1面側には半導体層8が形成される(半導体層形成工程S114)。この半導体層8は、例えばアモルファスシリコンのn層、i層、およびp層を基板5側から配置するnip構造のシリコン(Si)層である。その形成のためには、例えば高周波容量結合プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。なお本実施形態において半導体層8を形成する際の成膜手法は特段限定されない。上述のように高周波容量結合プラズマCVD法を用いること、さらには、そのための成膜装置として平行平板型のシャワーヘッド電極を放電電極とする装置を利用することは成膜法の好ましい例である。半導体層8の他の構成としては、微結晶Siをi層に用いた光電変換層としてもよいし、また、アモルファスSiのnip構造と微結晶Siのnip構造とを積層するような多接合型(タンデム型)の光電変換層としてもよい。
【0062】
また、本実施形態における半導体層8の形成の際には、成膜処理の処理効率を高めるための他の工夫も有用である。例えば、基板5を連続搬送させながら連続成膜するロール・ツー・ロール方式は、本実施形態のための好ましい工程として採用することができる。これ以外にも、搬送モードと成膜モードとを繰りかえすように動作して、成膜モードにおいては基板を停止させた状態となるようにして成膜処理を進める手法(ステッピングロール法)もまた本実施形態の好ましい工程として採用することができる。
【0063】
半導体層形成工程S114によって半導体層が形成された後、さらに、前面透明電極層9として基板5の第1面5Aの側に透明導電性材料を堆積させる(透明導電層形成工程S116)。この際、光電変換層の両側端部、すなわち、接続孔2が設けられる部分(図5(b)A、A付近)には、マスクを掛けて透明導電性材料を堆積させないようにする。結果として、この部分には半導体層8が露出される(図6(a))。上述の直列接続された単位光電変換部120を複数の列をなすように設ける場合(図示しない)にも、各列の間には、透明導電性材料を堆積させない。こうして、透明導電層9が接続孔2の領域に形成されないようにしておく。
【0064】
本実施形態の前面透明電極層9のための透明導電性材料には各種の透明導電性材料を用いることが可能であり、その材質は特に限定されない。この透明導電性材料は、典型的には、ITO、SnO、TiO、ZnO、IZO(In−ZnO、登録商標)などの金属酸化物の透明導電性材料のいずれかまたはその組み合わせ(積層体または混合物)が選択される。さらに、透明導電層形成工程S116の成膜方法としてはRFスパッタリング、DCスパッタリング、印刷法、塗布法なども採用することができる。
【0065】
次いで、基板5の第2面側の全面に、第2接続配線層10が形成される(第2接続配線層形成工程S118)。第2接続配線層形成工程S118を終えると、基板5の第1面に形成した前面透明電極層9と基板5の第2面5Bに形成した第2接続配線層10とが集電孔1の内側壁付近において直接重なり、互いに電気的に接続される。なお、第2接続配線層10は基板5の第2面5Bにおいて第1接続配線層7にも接するように形成されるため、第2面5Bにおけるこれらの接続配線層は互いに接続されて電気的に一体化された接続配線層となっている。
【0066】
第2接続配線層形成工程S118の後に、基板5の第1面5Aの側に分離部3を形成するパターニングが行われる(第1面パターニング処理S120)。このパターニングによって、半導体層8が裏面電極層6とともに分離部3によって区切られる。前面透明電極層9は、接続孔2の付近には形成されていないが、分離部3の付近は裏面電極層6と同じ位置において区切られる。その結果、分離部3に囲われる形状のうち、端部の接続孔2の付近を除き、裏面電極層6、半導体層8、前面透明電極層9がこの順に積層された単位光電変換部120が形成される。
【0067】
なお、単位光電変換部120を形成する工程をより確実に行うため、ここに示した第1面パターニング処理S120に加えて予備的なパターニング処理を行うことも好ましい。この予備的なパターニング処理は、例えば、裏面電極層形成工程S108よりも後であって、半導体層形成工程S114よりも前となるいずれかの段階において実施される。この予備的なパターニング処理の際にも、裏面電極層6を区切るようにパターニングされるのは分離部3の位置とされる。
【0068】
最後に、基板5の第2面5Bの側に対しても分離部4の位置にレーザー加工が施される(第2面パターニング処理S122)。この第2面パターニング処理S122においては、第2接続配線層10と第1接続配線層7とが同時に分離され、分離部4が形成される。つまり、この処理において、第2接続配線層10および第1接続配線層7は分離部4から除去される。この際、下地層11については、その厚みのうち、第1接続配線層7側のある一部分、またはすべての厚みが除去される。ここで、第2面パターニング処理S122におけるレーザー加工については、例えばYAGレーザーのSHG波(波長532nm)を用いてパターニングが実施される。加工に用いられるレーザーは、加工に必要なレーザーパワーが確保できる限りにおいて、この他にYAG−THG波(355nm)、YAG−FHG波(266nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)等を用いることもできる。この際の照射の条件は、下地層11を採用しない場合の条件を出発点にして調整して決定される。その条件には種々の条件が含まれており、例えば、円形パルスか矩形パルスか、照射範囲などのビームの形状に関する条件、パルス周波数やオーバーラップ、走査速度といった走査に関する条件、そして、照射パワーに関する条件が調整の対象となり得る。こうして、基板5の第2面5Bに単位接続配線部140が形成される。
【0069】
なお、この第2面パターニング処理S122においては、同時に電力取り出し電極(図示しない)の電気的な分離すなわち個別化が行われ、基板5の周縁部に第1面の側の分離部と重なるようにレーザー加工により分離部が描かれる(いずれも図示しない)。形成された第2面5Bの分離部をみると、全ての薄膜太陽電池素子を一括して囲う周縁、および二列の直列接続太陽電池素子の隣接する境界(周縁導電部の内側)には分離部がある。分離部4を含めて分離部の中においては、少なくとも第2接続配線層10および第1接続配線層7が残らないようにされ、下地層11はその厚みのうち少なくとも一部が除去されている。
【0070】
このようにして形成された単位光電変換部が直列接続の列をなしていることは、電気的な経路を図5(a)の紙面の左側から順に追うことにより明らかとなる。電気的な経路はまず、図5(a)の左側の第1の単位光電変換部120(前面透明電極層9、半導体層8、裏面電極6)から、縦に並んだ集電孔1を通じて第1の単位接続配線部140に接続される。そして、第1の単位接続配線部140から接続孔2を通じて第2の単位光電変換部120に接続される。以下、この繰り返しによって、第Nの単位光電変換部120まで接続されて第Nの単位接続配線部140までつながっている。ここで、直列接続された単位光電変換層120全体からの出力を取り出すためには、例えば、第Nの単位接続配線部140が電力を取り出すための電極としても利用され、第1の単位光電変換部120の裏面電極6またはその裏面電極6に接続された配線部も電力を取り出すための電極として利用される。
【0071】
薄膜太陽電池150の薄膜太陽電池モジュールとしての実用性を一層高めるために、さらに封止材やバックシートなどが外装としてラミネートされる。この封止材やバックシートとしては、例えばEVA(エチレンビニールアセテート)、PE(ポリエチレン)、PET、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)、などの各種の樹脂材料が採用される。ここではこれらの材質は図示していない。
【0072】
本実施形態の薄膜太陽電池150の奏する効果は、下地層11を採用していない従来のSCAF構造の場合と比較して、同じ材質の第1接続配線層7および第2接続配線層10を採用したとしても、より小さい照射パワーのレーザー光によって分離部4を形成することが可能となることである。このため、分離部4において露出している基板5の部分がレーザーによってダメージを受ける可能性が小さくなる。
【0073】
本実施形態の薄膜太陽電池150においてはさらに追加の効果ももたらされる。それは、下地層11を設けることにより、これまで採用しにくかった種類の金属を接続配線層に採用することが可能になる点である。具体的には、分離部のためのレーザー加工による分離処理を行うと基板へのダメージが大きく採用しにくかったような光反射率の高い金属を例えば第2接続配線層10として採用することが可能となる。例えば、SCAF構造の太陽電池において、第1接続配線層7のAg層の厚みを薄くしておいて、第2接続配線層10としてアルミニウムを第2接続配線層10として採用すれば、導電性や耐久性といった性能面とコストとのバランスに一層優れた薄膜太陽電池を実現することが可能となる。なぜなら、従来は反射率が高く採用することが難しかった種類の金属であっても、下地層11を用いることによって第2接続配線層10として採用することが可能となるためである。
【0074】
<第2実施形態>
次に、基板の一方の面のみにおいて直列接続を実現する薄膜太陽電池の実施形態として第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0075】
図8は、本発明の第2実施形態のある概略構成を有する薄膜太陽電池200の断面図である。図8に示すように、薄膜太陽電池200に用いる基板5も第1面5Aと第2面5Bとを有している。加えて、薄膜太陽電池200は、その基板5の第1面5Aの上に配置される下地層11と、下地層11の上に配置される光電変換層とを備えている。ここで、光電変換層は、裏面電極層6と半導体層8と前面透明電極層9とを有していてその裏面電極層6を下地層11に接するようにして配置されている。
【0076】
上記各要素のうち、下地層11の少なくとも一部と裏面電極層6は、第1面5Aの上の分離部(P1部)23において除去されている。薄膜太陽電池200に採用される下地層11は、基板5の第1面5Aの上に、すなわち、図8の紙面上の上方に向く基板5の面に配置される。そして、第2実施形態においてもこの下地層11は、第1実施形態と同様に基板5の材質の熱分解温度より低い熱分解温度(または気化開始温度)を示す材質を含んでいる。下地層11の材質および形成方法についても第1実施形態において説明したものと同様である。
【0077】
本実施形態において作製される太陽電池200は、サブストレート型の太陽電池である。つまり、太陽電池200は図8の上方から入射する光を発電に用いるように構成されている。この薄膜太陽電池200を実際に使用する際には、例えば耐候性を確実にするため付加的な部材(封止部材など)も適宜用いられるが、第1実施形態と同様に付加的な部材については、本実施形態を明確に説明するために記載および図示が省略されている。
【0078】
この薄膜太陽電池200は、基板5の第1面5Aのみに電気的な要素が作製されて直列接続の集積型太陽電池とされている。その構成を具体的にみると、光電変換部を区切って形成された単位光電変換部220、220、・・・220が互いに直列に接続されている。図8にはこのうちの単位光電変換部220i−1、220i、220i+1(iは2〜N−1の整数)を示している。単位光電変換部220i−1の前面透明電極層9は、コンタクト部(P2部)24において単位光電変換部220における裏面電極層6と接続される。この接続構成は、単位光電変換部220における前面透明電極層9と単位光電変換部220i+1の裏面電極層6との間においても同様である。分離部23においては、単位光電変換部220に対応する裏面電極層6と単位光電変換部220i+1に対応する裏面電極層6とが互いに電気的に短絡することがないように、裏面電極層6および下地層11の少なくとも一部が除去されている。こうして、各単位光電変換部220、220、・・・220の直列接続が基板5の第1面5Aにおいて実現されている。このような直列接続を実現するために、コンタクト部(P2部)24においては、裏面電極層6と下地層11とを残しつつ半導体層8が除去され、その後に前面透明電極層9が形成されている。同様に、分離部(P3部)25においては、裏面電極層6と下地層11とを残して前面透明電極層9と半導体層8が除去されている。なお、分離部23、コンタクト部24、分離部25は、慣用上、P1(パターン1)、P2(パターン2)、およびP3(パターン3)ともよばれるため、適宜併記している。
【0079】
このような下地層11を採用する薄膜太陽電池200を作製する工程について以下説明する。図9は、本実施形態において薄膜太陽電池200を製造する工程を説明する工程フロー図である。まず、薄膜太陽電池200を作製する基板5は、絶縁性の可撓性基板とされる。典型的には、第1実施形態と同様に、例えばポリイミドフィルムを用いる。他にPET、PEN、PES、アクリル、アラミド等の他の絶縁性プラスチックフィルムを採用しうることも第1実施形態と同様である。
【0080】
基板5にはまず、一方の面である第1面5Aに下地層11が形成される(下地層形成工程S202)。形成される面が光電変換層を形成する第1面5Aであること以外、この下地層11を形成する詳細な工程については第1実施形態と同様である。
【0081】
下地層11が形成された後には、基板5の材質のポリイミドフィルムや下地層11から放出されるガスが除去される(脱ガス処理S204)。なお、この脱ガス処理S204を下地層11に対する熱の影響を想定した条件としておくことも第1実施形態と同様に可能である。
【0082】
次いで、基板5の一方の面(第1面5A)における下地層11の上に裏面電極層6を形成する(裏面電極層形成工程S206)。裏面電極層6は、例えば銀の層(Ag層)を膜厚200nmとなるようにスパッタリング法によって形成する。なお、裏面電極層6の材料としては、これら以外にAg合金、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタニウム(Ti)等の金属を用いることができる。また、裏面電極層6には、金属層と透明電極層との多層構造からなる膜などを用いることもできる。裏面電極層6を形成する際の成膜法はスパッタリング法に限られず、真空蒸着法やスプレー成膜法、印刷法、塗布法、めっき法を採用することもできる。
【0083】
裏面電極層形成工程S206を終えると、パターン1形成工程S208を行う。このパターン1形成工程S208は、分離部23を形成する工程である。分離部23を形成するためには、図1に示したようなレーザーによるパターニング処理が行われる。この際のレーザー光のパワーは調整して照射される。用いられるレーザーおよび波長は、例えばYAGレーザーのSHG波であり、波長は532nmである。
【0084】
次に、基板5の第1面5Aの側の裏面電極層6の上には、半導体層8が形成される(半導体層形成工程S210)。この半導体層8は、第1実施形態と同様に、例えばアモルファスシリコンのn層、i層、およびp層を基板5側から配置するnip構造のシリコン(Si)層である。その形成のためには、例えば高周波容量結合プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。なお本実施形態においても半導体層8を形成する際の成膜手法は特段限定されないこと、微結晶Siをi層に用いた光電変換層としうること、アモルファスSiのnip構造と微結晶Siのnip構造とを積層するような多接合型(タンデム型)の光電変換層としうること、そして、ロール・ツー・ロール方式やステッピングロール法を採用しうることも第1実施形態と同様である。
【0085】
半導体層形成工程S210によって半導体層8が形成された後、パターン2形成工程S212を行う。このパターン2形成工程S212は、半導体層8にコンタクト部24を形成する処理である。この処理のためには、半導体8によって吸収されやすく、裏面電極6が高反射性を有する波長のレーザー、例えばYAGレーザーのSHG波(532nm)を採用することができる。YAGレーザーのSHG波を採用する場合には、レーザーパワーが裏面電極6の加工に必要なレーザーパワーよりも小さくても、コンタクト部24を形成するパターニング処理を行うことができる。また、下地層11がそのパターニング処理に耐えられずに裏面電極層6の除去が引き起こされるような場合には、例えば金属の針によって半導体層8を機械的に除去するメカニカルスクライビング法を採用することも可能である。
【0086】
次いで、コンタクト部24が形成された半導体層8の上に前面透明電極層9として透明導電性材料を堆積させる(透明導電層形成工程S214)。前面透明電極層9は、コンタクト部24を埋めて裏面電極層6と電気的に接続される。本実施形態においても、第1実施形態と同様に前面透明電極層9のための透明導電性材料には各種の透明導電性材料を用いることが可能であり、その成膜方法も各種の手法を採用することが可能となる。
【0087】
最後にパターン3形成工程S216を行う。このパターン3形成工程S216は、分離部25を形成する処理である。この処理も、パターン2形成工程S212と同様に、半導体層8の吸光度が大きく、裏面電極6による反射が強い波長(532nm)のレーザー光を用いるパターニングとすることが好ましく、また、メカニカルスクライビング法を採用することも可能である。
【0088】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に薄膜太陽電池モジュールの実用性を一層高めるために、封止材やバックシートなどが外装としてラミネートされる。この封止材やバックシートとしては、例えばEVA、PE、PET、ETFE、などの各種の樹脂材料が採用される。ここではこれらの材質は図示していない。
【0089】
本実施形態においても、特にパターン1形成工程S208において第1実施形態と同様にレーザーのパワーを低下させうるという利点がある。この利点は、パターン1形成工程S208の際に分離部23において露出する基板5の部分に対するダメージが軽減されることにつながる。また、金属の選択範囲が広がる点も第1実施形態と同様である。
【0090】
次に、上述した第1実施形態および第2実施形態において、分離処理の際の最小レーザーパワーがどの程度低減されるかを実測するためのサンプルを作製した。まず、第1実施形態のSCAF構造における下地層11の効果を確認するために、第1実施形態として説明した通りに下地層11を採用して作製した実施例サンプル1と、下地層11を採用しないで作製した比較例サンプル1とを比較した。この際、分離処理(第2面パターニング処理S122)が適切に行える最小レーザーパワーを調査した。次に、第2実施形態における分離処理(パターン3形成工程S216)に対する下地層11の効果を確認するために同様に最小レーザーパワーを調査した。つまり、下地層11を採用して第2実施形態として説明した通りに作製した実施例サンプル2と、下地層11を採用せず、それ以外は第2実施形態として説明した通りに作製した比較例サンプル2とを対象にした。以下各サンプルの作製の条件とその比較結果について説明する。なお、実施例および比較例において「熱分解温度」と記載した温度指標の呼称およびその値は、いずれも、実際に起きている現象が熱分解であると限定するために用いられてはいない。むしろ、実際に生じている現象には、可能性として気化現象(蒸発または昇華)も含んでいる。このため、以下の実施例および比較例の記載中に「熱分解温度」とした記載箇所は、気化開始温度とも理解されるべきである。
【0091】
[実施例サンプル1]
実施例サンプル1として、薄膜太陽電池150の構成を有する薄膜太陽電池セルを作製した。作製したのは単接合のアモルファスSi太陽電池である。作製した工程は図7に基づいて説明した通りである。具体的な条件は以下の通りとした。まず、基板5として厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いた。また、アクリル樹脂の下地層11として、UV硬化アクリルを採用した。このため、下地層形成工程S102においては、まず、アクリレートに光重合開始剤を混入して得た前駆体溶液の薄層をスリットコータ−によって基板5の第2面5Bに塗布した。そして、その前駆体溶液を紫外線によって重合硬化させ、下地層11を形成した。なお、この下地層11の第2面パターニング処理S122の直前の段階での熱分解温度は、おおむね280〜320℃であった。これに対して同じ段階での基板5のポリイミド樹脂の熱分解温度はおおむね500〜550℃であった。なお、これらの熱分解温度は、図7の第2面パターニング処理S122の直前までと同じ熱履歴を経た下地層および基板の測定試料を対象にして計測したTG曲線に基づく質量変化の開始温度を採用している。
【0092】
接続孔形成工程S104にてパンチを用いて接続孔2を開口させ、脱ガス処理S106として10Pa以下の減圧下で基板温度が250°Cとなるように加熱し基板5と下地層11の脱ガス処理を行った。裏面電極層形成工程S108の裏面電極層として、Ag層を膜厚200nmになるようにスパッタリングにより形成した。
【0093】
第1接続配線層形成工程S110として、基板5の第2面にAgを2Paの圧力でArガスのスパッタリング法により200nm形成して第1接続配線層7とした。集電孔形成工程S112としては、直径1mmの5mmピッチとなるようにパンチにより集電孔1を多数形成した。
【0094】
次に、半導体層形成工程S114としてプラズマCVD法により半導体層8を形成した。半導体層8の各層は、容量結合プラズマ法を用いて層厚が20nm(n層)、300nm(i層)、および20nm(p層)となるように形成した。具体的には、プラズマCVD装置の放電電極として平行平板型のシャワーヘッド電極を用いて電極間距離20mmにおいて放電周波数を27.12MHzとして半導体層8を形成した。なお、半導体層8の形成時には、基板5を静止させた状態とした。使用したガス等の条件については、SiHガス、Hガス、PHガスの混合ガスを用いて、n型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは5W、成膜温度(基板の設定温度)は250℃とした。次に、SiHガス、Hガスの混合ガスを用いて、i型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは20Wとし成膜温度を250℃とした。さらに、SiHガス、Hガス、Bガスの混合ガスを用いて、p型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは5W、成膜温度160℃とした。
【0095】
その後、透明導電層形成工程S116として、基板5の第1面の側に作製したアモルファスSiからなるnip単接合構造の上に前面透明電極層9を形成した。この前面透明電極層9の透明導電性材料にはITOを採用した。その形成条件は、本実施例ではArガスによるRFスパッタリング法により0.7Paとし、その層厚が70nmとした。この際、接続孔2の付近はマスクして接続孔2に前面透明電極層9が形成されないようにした。
【0096】
次いで第2接続配線層形成工程S118として、第2面の全面に第2接続配線層10となるNi層を形成した。Ni層の形成は、2Paの圧力でArガスによるスパッタリング法により実施された。Ni層の厚みは50nmとした。最後に、第1面パターニング工程S120と第2面パターニング処理S122とを行った。第2面パターニング処理S122の際には、下地層11の少なくとも一部がその上の第1接続配線層7および第2接続配線層10とともに除去された分離部4が形成されるように条件を決定した。
【0097】
[従来例サンプル1]
基板5の第2面5Bに下地層11を形成する下地層形成工程S102を行わない以外は実施例サンプル1と同様にして、薄膜太陽電池の比較例サンプル1を作製した。この場合には、第2面パターニング処理S122の際には、第1接続配線層7および第2接続配線層10とともに除去された分離部4が形成されるようにYAGレーザーの照射条件を決定した。その照射条件は、実施例サンプル1の照射条件から照射パワーのみを変更したものとした。
【0098】
[実施例サンプル1と従来例サンプル1との比較]
第2面パターニング処理S122の際に良好な分離部4を形成しうる照射パワーの最小値(最小レーザーパワー)は、実施例サンプル1においては、各パルス当たり1.0mJであったのに対し、比較例サンプル1においては、2.1mJであった。このように、第1実施形態にて説明したSCAF構造の薄膜太陽電池においては、下地層11を採用することにより、分離処理に必要なレーザーのパワーが2分の1以下となった。この時、その他のレーザー照射条件は、加工幅400μm、繰返し周波数5kHz、加工速度900mm/sとした。
【0099】
[実施例サンプル2]
実施例サンプル2は、第2実施形態の薄膜太陽電池200(図8)の構成によって作製した。作製した工程は図9に基づいて説明した通りである。具体的な条件は以下の通りとした。まず、基板5として厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いた。下地層形成工程S202においては、実施例サンプル1と同様の材料および手法によって下地層11を形成した。なお、この下地層11のパターン1形成工程S208の直前の段階での熱分解温度は、おおむね280〜320℃、基板5のポリイミド樹脂の熱分解温度はおおむね500〜550℃であった。これらの熱分解温度の値はTG曲線から測定した質量変化の開始温度の値である。
【0100】
次いで脱ガス処理S204として10Pa以下の減圧下で基板温度が350°Cとなるように加熱することにより基板5と下地層11の脱ガス処理を行った。裏面電極層形成工程S206の裏面電極層6として、Ag層を膜厚200nmになるようにスパッタリングにより形成した。この際の圧力は1Paとした。
【0101】
次にパターン1形成工程S208を行った。その際、下地層11の少なくとも一部がその上の裏面電極層6とともに除去された分離部23が形成されるように条件を決定した。
【0102】
次に、半導体層形成工程S210として単接合のアモルファスSi太陽電池をプラズマCVD法により半導体層8を形成した。半導体層8の各層の層厚は実施例サンプル1と同様とした。半導体層8の形成時には、基板5を静止させたのも同様である。
【0103】
その後、パターン2形成工程S212を行った。その際には、YAGレーザーのSHG波(532nm)のパルスを利用し、下地層11があることによって裏面電極層6が除去されることがないように条件を決定した。次いで、透明導電層形成工程S214を行った。最後に、パターン3形成工程S216を行った。パターン3形成工程S216においても、パターン2形成工程S212と同様に、YAGレーザーのSHG波(532nm)のパルスを利用して条件を決定した。以上のようにして実施例サンプル2を作製した。
【0104】
[従来例サンプル2]
基板5の第1面5Aに下地層11を形成する下地層形成工程S202を行わない以外は実施例サンプル2と同様にして、薄膜太陽電池の比較例サンプル2を作製した。従来例サンプル2のパターン1形成工程S208の際には、裏面電極層6が除去された分離部23が形成されるようにYAGレーザーの照射条件を決定した。その照射条件は、実施例サンプ21の照射条件から照射パワーのみを変更したものとした。
【0105】
[実施例サンプル2と従来例サンプル2との比較]
良好な分離部23を形成しうる最小レーザーパワーは、実施例サンプル2においては、各パルス当たり1.8mJであり、比較例サンプル2においては、3.6mJであった。このように、第2実施形態にて説明したサブストレート型の薄膜太陽電池においては、下地層11を採用することにより、分離処理の最小レーザーパワーが2分の1となった。
【0106】
<各実施形態の変形例>
以上に本発明の実施形態として第1実施形態および第2実施形態を説明した。これらの実施形態は、その利点を維持したまま様々に変形することができる。例えば、第1実施形態に関連するSCAF構造の構成において下地層11は、基板5の第2面5Bのみに形成する構成を説明した。この構成において同様の下地層は、例えば第1面5Aにも形成することも可能である。この場合、下地層形成工程S102において基板5の両面に下地層が形成される。このようにすると、第1面パターニング処理S120のパターニング処理を行う際の第1面5Bに対するダメージをも軽減することが可能となる。さらには、例えば基板の片面のみに下地層を形成した場合に比べると基板が反りにくくなるため、太陽電池を製造するプロセスにおいて基板のハンドリングが容易になる。
【0107】
上述した第1実施形態および第2実施形態は、いずれも薄膜太陽電池を作製する全体の処理を通して説明したが、本発明の別の態様においては、太陽電池用の積層基板やその基板を製造する方法も提供される。すなわち、電気絶縁性の基板と、該基板の少なくとも一方の面の上に形成され、前記基板の材質の熱分解温度よりも低い熱分解温度(または気化開始温度)を示す材質を含む下地層とを備える上述した薄膜太陽電池のための積層基板も本発明の実施形態に含まれる。そして、電気絶縁性の基板の少なくとも一方の面の上に、前記基板の材質の熱分解温度よりも低い熱分解温度(または気化開始温度)を示す材質を含む下地層を形成する工程を含む上述したいずれかの薄膜太陽電池のための積層基板の製造方法も本発明の実施形態に含まれる。これらのいずれの場合であっても、後に太陽電池を製造する際に上述した利点の少なくともいずれかが得られるような太陽電池用の基板が作製されるため、下地層を形成した積層基板それ自体がレーザー加工を伴う太陽電池の製造に適する基板となる。
【0108】
以上、本発明のいくつかの実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および実施例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、レーザー加工を行う際の基板への影響を軽減させた太陽電池を提供することにより、そのような太陽電池を一部に含む任意の電力機器または電気機器の普及または高性能化に大きく貢献する。
【符号の説明】
【0110】
100、110、150、200、700 薄膜太陽電池
1 集電孔
2 接続孔
3、4、74 分離部
5、75 基板
5A、75A 第1面
5B、75B 第2面
6、76 裏面電極層
7、77 第1接続配線層
8、76 半導体層
9、79 前面透明電極層
10、80 第2接続配線層
11 下地層
12 位置
120、220 単位光電変換部
140 単位接続配線部
23 分離部(P1部)
24 コンタクト部(P2部)
25 分離部(P3部)
52 ガルバノミラー
54 レーザー光源
56 スキャンライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とを有する基板と、
該第1面の上に配置される光電変換層と、
前記第2面の上に配置され、前記基板の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含んでいる下地層と、
該下地層の上に配置される接続配線層と
を備え、
該下地層の少なくとも一部と該接続配線層とがレーザー光によって除去されている分離部が前記基板の前記第2面に形成されている
薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記分離部によって区切られた前記接続配線層がいくつかの単位接続配線部を含む単位接続配線部の列をなしており、
前記光電変換層が単位光電変換部の列をなしており、
前記接続配線部によって互いに電気的に接続されることにより各単位光電変換部が直列接続されている
請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記基板の前記材質および前記下地層の前記材質のいずれもが電気絶縁性を示す可撓性の材質であり、
前記光電変換層は、裏面電極層と、半導体層と、前面透明電極層とが前記基板の前記第1面の上に該第1面の側からこの順に配置されるものであり、
前記単位光電変換部は、前記光電変換層が区切られたものであり、
前記基板の前記第1面において互いに隣り合ういずれか二つの単位光電変換部は、一方の単位光電変換部の前面透明電極層が前記基板を貫通する集電孔を通じて前記第2面のいずれか一の単位接続配線部に電気的に接続され、他方の単位光電変換部の裏面電極層が前記基板を貫通する接続孔を通じて当該一の単位接続配線部に電気的に接続されることにより、互いに直列接続されている
請求項2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記接続配線層が
前記下地層の上に配置される第1接続配線層と、
該第1接続配線層の上に配置され、該第1接続配線層に対して電気的に接続される第2接続配線層と
を含み、
該第2接続配線層が、前記第1接続配線層に比べて小さい光反射率を示す
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
第1面と第2面とを有する基板と、
該第1面の上に配置され、該基板の材質の熱分解温度より低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含んでいる下地層と、
裏面電極層を備えるとともに、該裏面電極層を該下地層に接して配置される光電変換層と
を備え、
該下地層の少なくとも一部と前記裏面電極層とがレーザー光によって除去されている分離部が前記基板の前記第1面に形成されている
薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記光電変換層が単位光電変換部の列をなしており、
該単位光電変換部は、各単位光電変換部に対応する単位前面透明電極部を備えており、
前記裏面電極層が前記分離部によって区切られて、前記単位光電変換部それぞれに対応させて単位裏面電極部が並ぶ単位裏面電極部の列をなしており、
前記単位裏面電極部のそれぞれが、各単位裏面電極部が属している単位光電変換部の一方の側に隣接する別の単位光電変換部に属している単位前面透明電極部に対して電気的に接続されることにより、前記単位光電変換部の前記列が直列接続となっている
請求項5に記載の薄膜太陽電池。
【請求項7】
前記基板の前記材質および前記下地層の前記材質のいずれもが可撓性の材質である
請求項5または請求項6に記載の薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記下地層の材質が、前記基板の少なくとも一方の面の上に溶液の状態で塗布され、その後に硬化される成分を含む
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項9】
前記下地層の材質が、光硬化性の成分または光重合開始剤を含むとともに、熱重合開始剤を含んでいない前駆体から硬化したものである
請求項8に記載の薄膜太陽電池。
【請求項10】
前記基板の材質がポリイミド樹脂であり、
前記下地層の材質が、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、およびポリプロピレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を含む
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項11】
電気絶縁性の基板と、
該基板の少なくとも一方の面の上に形成され、前記基板の材質の熱分解温度よりも低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含む下地層と
を備える
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池のための積層基板。
【請求項12】
電気絶縁性の基板の少なくとも一方の面の上に、前記基板の材質の熱分解温度よりも低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含む下地層を形成する工程と、
該下地層の上に導電体層を形成する工程と、
前記基板の前記一方の面の側の空間から、該導電体層に向かってレーザー光を照射して、前記下地層の少なくとも一部と前記導電体層とを部分的に除去する工程と
を含む
太陽電池の製造方法。
【請求項13】
電気絶縁性の基板の少なくとも一方の面の上に、前記基板の材質の熱分解温度よりも低い熱分解温度または気化開始温度を示す材質を含む下地層を形成する工程
を含む
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池のための積層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−23070(P2012−23070A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157490(P2010−157490)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】