説明

太陽電池および太陽電池の製造方法

【課題】CIS系結晶が大きく、CIS系膜にクラックがない膜を得る太陽電池および太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る太陽電池は、11族元素、13族元素、16族元素を含む光吸収層12を有する太陽電池10であって、光吸収層12が空隙構造を有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収層を含む太陽電池および太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結晶系シリコン(バルク型)太陽電池に代わる太陽電池として、薄膜系太陽電池の開発が進められている。現在主流の結晶系シリコン(バルク型)太陽電池は高い光電変換効率を誇るが、使用する資源量及び製作時の二酸化炭素の排出、コスト等の面から環境負荷が大きい。薄膜系太陽電池は使用する材料が結晶系シリコン(バルク型)太陽電池に比較して少なく、資源の制約が少ないため、省資源の太陽電池として有望視されており、大規模普及に適した太陽電池として大きな期待が寄せられている。
【0003】
薄膜系太陽電池は、可とう性のある太陽電池とすることができるという特徴を有する。そのため、薄膜系太陽電池は、結晶系シリコン(バルク型)太陽電池に比べ形状の自由度が大きいため、高い意匠性を備えることができるという特徴を有することができる。そのため、アモルファスシリコン系太陽電池のように可とう性のある太陽電池は、例えば金属箔や有機フィルムを支持体としている。支持体として、金属箔、有機フィルムを用いることから、太陽電池をロールトゥロールで生産することが可能となり、コストの削減を図ることができる。
【0004】
また、薄膜系太陽電池として、カルコパイライト構造を有するp型半導体(化合物系半導体薄膜)を光吸収層に用いた太陽電池(化合物系太陽電池)がある。このカルコパイライト構造(以下、化合物系、または、CIS系ということがある)を有するp型半導体(化合物系半導体薄膜)を用いた太陽電池(化合物系太陽電池)は理論効率も高く、今後の太陽電池の主力の一つとなる可能性がある。
【0005】
カルコパイライト構造物質を用いた太陽電池は基板上に裏面電極、光吸収層、バッファ層、表面電極を有し、この順に構成されるのが一般的である。光吸収層として、薄膜のp型半導体でカルコパイライト構造を有する物質を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
光吸収層として、カルコパイライト構造を有する物質として、具体的には、CuInSe2、Cu(InGa)Se2、CuInS2、AgInSe2等をあげることができる。特に、11族元素のうち、Cu、Ag、13族元素のうちGa、In、16族元素のうちS、Seが主に使用される。現在、これらの光吸収層は蒸着法、スパッタリング法を用いて主に成膜されている。
【0007】
品質の高いCIS系膜は、蒸着法、スパッタリング法にて製造されている(例えば、特許文献1参照)。蒸着法では、加熱状態で、13族元素(主にIn、Ga)と16族元素(主にSe)の化合物を蒸着した後、11族元素(主にCu)と16族元素(主にSe)の化合物を蒸着し、再度、13族元素(主にIn、Ga)と16族元素(主にSe)の化合物を蒸着することで光吸収層を得ている。
【0008】
スパッタリング法では、11族金属(主にCu)と必要に応じて13族金属(主にGa)をスパッタリングした後に、13族金属(主にIn)をスパッタリングして太陽電池用金属プリカーサを形成する。金属プリカーサに16族元素(主にSe、もしくはS)を含む物質(例えば、H2Se)を作用させて、光吸収層を得る。
【0009】
蒸着法、スパッタリング法を用いた場合、いずれも真空工程があるために、生産性が低い。また、ターゲットの使用率には限界があり、省資源という面でも課題がある。そのため、これらの方法で形成された光吸収層の品質は安定しているが、工程に真空工程を有するために生産性に難があり、製造コストの高いものとなっている。
【0010】
一方、コスト低減を図る方法として、塗布法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。CuInSe2粉末をスクリーン印刷し、焼結処理することによりCuInSe2薄膜を形成している。特許文献2のように、生産性の向上、省資源という面から塗布法を用いることが提案されているが、通常CIS系微粒子を塗布、焼結させてCIS系膜を得ている。そのため、微粒子から結晶の大きなものを得るには困難を伴い、容易に結晶が大きくならない。また、結晶を大きくしようとして、焼結温度を上げると収縮が大きくなりクラックが発生する。また、焼結温度を上げるだけでは結晶は容易に大きくならない。
【0011】
微粒子膜を塗布した場合、図2に示すように、空隙構造をもった構造体となってしまう。例えば、球径が同じ球であれば、ある空間体積の中に六方最密充填構造までしか球を詰め込むことしかできず、球が占める空間以外は空隙となる。微粒子の場合、微粒子同士が相互作用して構造体となるが空隙を有している(空隙構造)。これを焼結処理させた場合微粒子がネック成長を始めるが空隙は小さくなるが空隙構造は残ったままである。また、空隙が小さくなるために体積が収縮する。支持体が収縮しない場合、その上の塗膜が収縮し、応力が発生し、限界を超えるとクラックが発生する。また、空隙は小さくはなるが、結晶は成長しづらい。これは空隙が存在するために、微粒子の同士の接触が限定的になり、結晶成長が阻害されるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平5−57746号公報
【特許文献2】特開昭63−285974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
太陽電池の発電効率を高めるために、CIS系の結晶が大きいものを得るため手法が研究されている。塗布法においては、CIS系微粒子を塗布し、焼結する手法が公開されているが、微粒子を塗布、焼結したものは、ネック成長はするが、結晶が小さく、結晶の大きさにおいて所望のものが得られていない。また、結晶を大きくしようとして焼結温度を上げると塗膜の収縮を伴うために、塗膜にクラックが入り、短絡の原因となったりする。これらのことから、塗布法では結晶が大きく、クラックがないものを得ることができない、という問題がある。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、CIS系結晶が大きく、CIS系膜にクラックがない膜を得る太陽電池および太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る太陽電池は、11族元素、13族元素、16族元素を含む光吸収層を有する太陽電池であって、前記光吸収層が空隙構造を有しないことを特徴とする。微粒子を集合させ成膜した膜は、微粒子同士はつながった構造体となり、構造体には図2に示すような空隙が存在する。また、個々の空隙はつながった構造を持つ。空隙構造を有しないとは図2に示すような空隙を持っていないことをいう。空隙構造を有していないことによって、結晶成長を阻害する因子がないために結晶は大きくなる。また、結晶が大きくてもクラックのないCIS系膜が得られる。
【0016】
また、本発明に係る太陽電池の製造方法は、支持体上に、13族元素と16族元素とを含む化合物微粒子を含む第1の化合物微粒子膜を形成し、前記第1の化合物微粒子膜上に、11族元素と16族元素を含む第2の化合物微粒子膜を形成し、前記第1の化合物微粒子膜と前記第2の化合物微粒子膜とを積層した膜を熱処理することを特徴とする。熱処理を、11族元素と16族元素を含む化合物微粒子の融点以上の高温という条件で行われることによって、13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜が空隙構造を有するために、その毛管力により液化した11族元素と16族元素を含む化合物が13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜に含浸される。それとともに、11族と13族が相互拡散し、CIS系の化合物が生成される。13族元素と16族元素とを含む第1の化合物微粒子膜における空隙の体積が、液化された11族元素と16族元素を含む化合物の体積より少ない場合、第1の化合物微粒子膜の空隙構造は11族元素と16族元素を含む化合物により満たされ消失することになる。また、空隙構造を有していないために結晶成長を阻害する因子がないために結晶は大きくできる。
【0017】
また、本発明においては、前記第1の化合物微粒子膜を圧縮膜とすることが好ましい。13族元素と16族元素とを含む第1の化合物微粒子膜として圧縮膜とすることで13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜を緻密化させ、空隙の体積を少なくすることができる。また、樹脂バインダーを用いなくても強固な膜とすることができる。樹脂バインダーを用いなければ脱バインダー工程が必要なくなる。13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜上にさらに11族元素と16族元素を含む第2の化合物微粒子膜を形成する場合、下の13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜が圧縮膜であれば、強固な膜質のため、下の13族元素と16族元素を含む第1の化合物微粒子膜にキズが入りづらくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、CIS系結晶が大きく、CIS系膜にクラックがない膜を得ることができる。特に厚み方向では膜厚と同じ大きさとなっており、CIS系太陽電池で求められている大きさを満足することができる。すなわち、表層から裏面電極にかけて粒界が存在しないために電荷の再結合が起こりづらくなる。また、塗布法を用いているため、スパッタリング法や蒸着法と比較してコストを低くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施形態に係る太陽電池の一例を示す図である。
【図2】図2は、微粒子膜を塗布形成した一般的な光吸収層の空隙構造を模式的に示す図である。
【図3】図3は、支持体上に13族元素と16族元素を含む微粒子で形成される圧縮前の微粒子膜を模式的に示す図である。
【図4】図4は、支持体上に13族元素と16族元素を含む微粒子で形成される圧縮後の圧縮膜を模式的に示す図である。
【図5】図5は、実施例1のCuInSe2の状態を模式的に示す図である。
【図6】図6は、比較例1のCuInSe2の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る太陽電池の実施の形態(以下、実施形態という)及び実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための実施形態及び実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
【0021】
<太陽電池>
本実施形態に係る太陽電池の一例について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る太陽電池の一例を示す図である。図1に示すように、太陽電池10は、カルコパイライト構造を有する化合物系半導体薄膜を利用した太陽電池(化合物系太陽電池)であり、支持体11と、光吸収層12、バッファ層13、表面電極14とを有し、支持体11から表面電極14にかけてこの順に積層されている。支持体11は、基体15と裏面電極16とを有し、基体15に裏面電極16が形成されている。
【0022】
基体15の材料としては、例えば、セラミックス、ガラス、金属、ポリイミドのような耐熱性の高いプラスチックを使用できる。ガラスは各種ガラスが使用でき、青板ガラス、石英ガラス等がある。青板ガラスがコスト面の観点から好ましく、耐熱性の観点からでは石英ガラスが好ましい。金属としては、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン、モリブデン、タングステン、金、白金等がある。また、基体15の形状は、板状、フィルム状(箔状)などとすることができる。金属はガラスに比較して靭性が高いのでフィルム状にして使用するのに好適である。
【0023】
裏面電極16の材料としては、例えば、モリブデン、タングステン、金を使用することができる。基体15が、例えば、モリブデン、タングステン、金を用いて作製されるものである場合、基体15を裏面電極16として使用することもできる。この場合、基体15の材料としては、特にモリブデンが好ましい。裏面電極16は、例えば、スパッタリング法などを用いて形成される。また、酸化モリブデンを還元してモリブデンとすることも可能である。
【0024】
基体15と裏面電極16との間に基体15から光吸収層12に基板成分が拡散しないために保護膜を設けることも好ましい。保護膜を形成する材料として、例えば、珪素化合物、酸化アルミニウムなどがある。基体15上に保護膜の未形成部を設けて裏面電極16と電気的接触を持たせることも好ましい。電極厚みを薄くすることができる。
【0025】
バッファ層13としては、例えば、CdS、Zn(S、O)、Zn(S、O、OH)、In23等を用いることができる。バッファ層13は、例えば、化学析出法(CBD法)、スパッタリング法等を用いて、成膜することができる。
【0026】
表面電極14の材料としては、透明導電膜を各種用いることができる。透明導電膜として、例えば、AZO、GZO、ITO等がある。これら透明導電膜は、スパッタリング法などを用いて形成することができる。また、表面電極14としては、金属で光を透過するほどの薄膜を用いることもできる。また、表面電極14として、金属グリッドを用いてもよい。
【0027】
また、バッファ層13と表面電極14の間に高抵抗層を設けてもよい。高抵抗層の材料としては、例えば、ZnO等がある。バッファ層13の膜厚は数十nm程度である。
【0028】
<光吸収層>
太陽電池10は変換効率を高めることが望まれており、CIS系太陽電池10では光吸収層12の結晶が大きいことが高効率化のために必要とされている。光吸収層12の結晶を大きくするためには、光吸収層12の結晶性を阻害する因子を極力排除することが必要である。また、リーク電流を低減するためにも膜品質は重要であり、クラックのないことも求められている。
【0029】
光吸収層12は、11族、13族、16族元素が化合したカルコパイライト構造を有するp型半導体(以下CIS系膜)である。CIS系膜としては、CuInSe2、Cu(InGa)Se2、CuInS2、AgInSe2等が提案されている。
【0030】
発電効率を左右する因子のひとつに励起した電子と正孔の再結合のしやすさがあげられる。再結合しやすい膜質だと、効率が低下する。結晶が小さいものは粒界が多数存在するということである。粒界において再結合を抑制するために、結晶を大きくしたいという要請がある。CIS系太陽電池10としては、結晶粒子径は、例えば500nm以上が要求されており、1μm以上であることが好ましいとされる。
【0031】
本発明では塗布法による光吸収層12であっても結晶の大きなものを得ることできる。図2に示すような光吸収層12に空隙構造を有しないようにすることで結晶は大きくなる。
【0032】
光吸収層12の製造方法としては、支持体11上に、13族元素と16族元素の化合物微粒子の膜が形成され、13族元素と16族元素の化合物微粒子膜上に11族元素を含む微粒子の膜が形成され、積層複合された膜を熱処理することにより得られる。塗布法で形成された膜であっても、空隙構造を有しないことで結晶が大きいCIS系の光吸収層12を製造することができる。
【0033】
11族元素としては、例えばCu、Agを用いることができる。13族元素としては、例えばIn、Gaを用いることができる。16族元素としては、例えばS、Seを用いることができる。本実施形態の例においては、11族元素としてCuを、13族元素としてInを、16族元素としてSeを用いている。
【0034】
まず、11族元素と16族元素の化合物微粒子としてCuSe微粒子を、13族元素と16族元素の化合物微粒子としてIn2Se3微粒子とを準備して各々の分散液を作製する。裏面電極16を含む支持体11上にIn2Se3微粒子分散液を塗布してIn2Se3微粒子膜を形成する。また、このIn2Se3微粒子膜は空隙を有した構造を形成している。次いで、In2Se3微粒子膜上にCuSe微粒子分散液を塗布してCuSe微粒子膜を形成する。In2Se3の融点は約891℃であり、CuSeの融点は約523℃である。In2Se3微粒子膜とCuSe微粒子膜とが形成された支持体11をCuSeの融点以上、例えば600℃に加熱するとCuSeは液化する。In2Se3は空隙構造を有するために液化したCuSeは毛管力によりIn2Se3層に含浸される。In2Se3微粒子膜における空隙の体積が、液化されたCuSeの体積より少ない場合、In2Se3微粒子膜の空隙構造はCuSeにより満たされ、消失する。
【0035】
この状態はCuSeの融点以上の高温という条件で行われるために、CuSeがIn2Se3微粒子膜に含浸されるとともに、CuとInが相互拡散し、CuInSe2が生成される。また、空隙構造を有していないために結晶成長を阻害する因子がないために結晶は大きくなる。
【0036】
13族元素と16族元素を含む微粒子膜22(本実施形態の例では、In2Se3微粒子膜)は圧縮膜であることが好ましい。
【0037】
図3は、支持体上に13族元素と16族元素を含む微粒子21で形成される圧縮前の微粒子膜22を模式的に示す図である。図3に示すように、微粒子21を含む分散液を支持体11上に塗布、乾燥し、支持体11上に微粒子21で形成される微粒子膜22を形成する。微粒子膜22を形成する微粒子21の相互間は大きく空いており、微粒子膜22は微粒子21同士の隙間を有した状態で形成されている。圧縮とは、微粒子膜21に対して、外的な圧力を加えて微粒子膜21同士の間隔を密にすることをいう。
【0038】
図4は、支持体11上に13族元素と16族元素を含む微粒子21で形成される圧縮後の圧縮膜23を模式的に示す図である。図4に示すように、微粒子膜22に外的な圧力を加えて圧縮することで、圧縮膜23を形成することができる。圧縮膜23を形成する微粒子21の相互間は、圧縮膜23を形成する際に微粒子膜21に対して外的な圧力を加えて形成されるため、圧縮膜23は微粒子21同士の間隔を密にした状態で形成されている。
【0039】
13族元素と16族元素を含む微粒子膜22を、圧縮膜23とすることで微粒子膜22を緻密化させ、空隙の体積を少なくすることができる。また、樹脂バインダーを用いなくても強固な膜とすることができる。樹脂バインダーを用いなければ脱バインダー工程が必要なくなる。
【0040】
微粒子膜上にさらに微粒子膜を形成する場合、下の微粒子膜が圧縮膜であれば、強固な膜質のため、下の微粒子膜にキズが入りづらくなる。
【0041】
圧縮膜22を形成するための形態として、例えば、下記のようなものがある。
【0042】
(1)支持体11上にIn2Se3微粒子膜を形成し、圧縮して、微粒子圧縮膜22を得る。支持体11にIn2Se3微粒子膜を形成する方法としては、In2Se3微粒子の分散液を塗布し、乾燥すればよい。In2Se3微粒子を液に分散させて塗布し、乾燥すると、均一な膜を作成しやすい。
【0043】
(2)転写支持体にIn2Se3微粒子膜を形成し、In2Se3微粒子膜面と支持体11面を合わせて圧縮し、支持体11面にIn2Se3微粒子を転写するとともに、In2Se3微粒子の圧縮膜22とする形態である。転写支持体にIn2Se3微粒子膜を形成する方法としては、In2Se3微粒子の分散液を塗布し、乾燥すればよい。転写支持体としてはPETフィルムのような樹脂フィルム上にハードコートを設けたものを用いることができる。支持体11が薄い金属箔のようなものは切れやすく扱いづらい。また、箔にうねりがあって、均一に塗布できないような場合がある。前記のような転写支持体は切れづらく、また、塗布時に均一な厚みを得やすいので好適な形態である。
【0044】
(微粒子の大きさ)
微粒子の大きさは形成する膜厚により適宜選択すればよいが、1nmから1000nmが好ましく、5nmから200nmがより好ましく、5nmから50nmが特に好ましい。1nm未満であると、凝集力が強く、分散しにくい等の性質から作業性が悪くなる。また、1000nmを超えると、凝集力が弱くなり、膜になりづらく、また、膜厚の変動が大きくなる。
【0045】
(11族元素と13族元素とのmol比)
11族元素と13族元素とのmol比(=11族/13族)が0.7以上1.1以下となるように塗布量、厚みを設定すればよい。より好ましくは0.8以上1.0以下である。11族元素と13族元素とのmol比が0.7未満であると、カルコパイラト構造以外の構造(例えば、スタナイト構造)を含み、性能が劣化する。また、11族元素と13族元素とのmol比が1.1を超えると、膜中にCuSe、Cu2Seが残り、電流がリークして性能が劣化する。
【0046】
(微粒子分散液)
微粒子膜は微粒子分散液を塗布、乾燥することで得ることができる。微粒子を分散する液体としては、特に限定されることなく、既知の各種液体を使用することができる。液体として、例えば、ヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。これらのなかでも、極性を有する液体が好ましく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、NMP等のアミド類のような水と親和性のあるものは、分散剤を使用しなくても分散性が良好であり好適である。これら液体は、単独でも2種以上の混合したものでも使用することができる。また、液体の種類により、分散剤を使用することもできる。
【0047】
用いる液体の量は、特に制限されず、前記微粒子の分散液が後述する塗布方法に適した粘度を有するようにすればよい。例えば、前記微粒子100質量部に対して、液体100質量部以上100,000質量部以下である。100質量部未満であると、粘度が高くなり、膜厚の精度が悪くなる。また、100,000質量部を超えると単位面積当たりの分散液を多量に塗布するため、乾燥工程の作業性が悪化するとともに、乾燥時に波うち現象が起こりやすく、膜厚の精度が悪化する。
【0048】
前記微粒子と液体の種類に応じて適宜選択するとよい。一般的には、前記微粒子の粒径が小さくなるほど比表面積が大きくなり、粘度が高くなりやすい。比表面積が大きい微粒子を用いる場合は、液体の量を多くして、固形分濃度を下げればよい。また、塗膜厚みが薄くする場合も、液体の量を多くして、固形分濃度の低い塗布液を用いるとよい。
【0049】
前記微粒子の液体中への分散は、公知の分散手法により行うとよい。例えば、サンドグラインダーミル法により分散する。分散に際しては、微粒子の凝集をほぐすために、ジルコニアビーズ等のメディアを用いることも好ましい。また、分散の際に、ゴミ等の不純物の混入が起こらないように注意する。
【0050】
前記微粒子の分散液は、有機バインダーを必要に応じて含めてもよいが、含まないことが好ましい。すなわち、有機バインダー量=0であることが好ましい。前記微粒子の分散液に有機バインダーを含まなければ、膜中に有機バインダーがないことになり、脱バインダー工程は不要となる。有機バインダーを含めるときは熱分解性がよいものを選ぶとともに、還元時に熱分解して、膜中に炭素が残らない程度の少ない量を用いる。
【0051】
[微粒子膜の塗布形成]
前記微粒子の分散液を前記支持体11または転写支持体上に塗布、乾燥し、微粒子膜を形成する。前記支持体11または転写支持体上への前記微粒子分散液の塗布は、特に限定されることなく、公知の方法により行うことができる。例えば、1000cps以上の高粘度の分散液の塗布は、ブレード法、ナイフ法などの塗布法によって行うことができる。500cps未満の低粘度の分散液の塗布は、バーコート法、キスコート法、スクイズ法などの塗布法によって行うことができ、又は噴霧、吹き付けなどにより、支持体11または転写支持体上へ分散液を付着させることも可能である。さらに、分散液の粘度によらず、リバースロール法、ダイレクトロール法、エクストルージョンノズル法、カーテン法、グラビアロール法、ディップ法などの塗布法を用いることも可能である。
【0052】
[微粒子膜の乾燥]
乾燥温度は分散に用いた液体の種類、支持体11または転写支持体の耐熱温度等によるが、10〜150℃程度が好ましい。10℃未満では空気中の水分の結露が起こりやすく、150℃を越えると転写支持体が変形する場合がある。また、乾燥の際に、不純物が前記微粒子の表面に付着しないように注意する。
【0053】
[微粒子膜の圧縮]
圧縮は44N/mm2以上の圧縮力で行うことが好ましい。44N/mm2未満の低圧であれば、微粒子膜を十分に圧縮することができず、塗膜的強度が得られにくい、また、上記(2)においては部分的転写されないところができることがある。138N/mm2以上の圧縮力がより好ましい。圧縮力が高いほど、塗膜強度が向上し、傷の入りづらい膜となる。一般には1000N/mm2までの圧縮力が適当であり、圧力が高くなり過ぎると支持体11が変形する。
【0054】
圧縮は、特に限定されることなく、シートプレス、ロールプレス等により行うことができるが、ロールプレス機を用いて行うことが好ましい。ロールプレスは、ロールとロールの間に圧縮すべきフィルムを挟んで圧縮し、ロールを回転させる方法である。ロールプレスは均一に高圧がかけられ、シートプレスよりも生産性が良く好適である。ロールプレス機のロール温度は生産性の点から常温(作業者が作業しやすい環境であり、例えば25℃程度)が好ましい。
【0055】
ロールプレス機のロールは、強い圧力がかけられることから金属ロールが好適である。また、上記(1)ではロール表面が柔らいと、圧縮時に微粒子がロールに転写することがあるので、ロール表面をハードクロムやセラミック溶射膜、TiNなどのイオンプレーティングにより得た膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の硬質膜で処理することが好ましい。また、ロールを微粒子面の間にハードコートフィルムを入れて圧縮することで対策してもよい。
【0056】
微粒子の分散液を塗布して乾燥させると、分散液中に有機バインダーが存在しなくても微粒子は膜を形成する。有機バインダーが存在しなくても膜となる理由は必ずしも明確ではないが、乾燥させて液が少なくなってくると毛管力のため、微粒子が互いに集まってくる。さらに微粒子であるということは比表面積が大きく凝集力も強いので、膜となると考えている。しかし、この段階での膜の強度は弱い。そこで、圧縮することにより、膜の強度を向上させる。すなわち、圧縮することで微粒子などの微粒子相互間の接触点が増え接触面が増加する。このため、塗膜強度が上がる。微粒子は元々凝集しやすい性質があるので圧縮することで強固な膜となる。支持体11表面に超微細な凹凸に微粒子の一部が埋め込まれるような状態になり、支持体11とも密着する。
【0057】
<剥離防止の樹脂皮膜>
裏面電極16の表面が平滑で硬いものの場合、圧縮膜がはがれる不具合が発生することがある。この場合、裏面電極16の表面に非常に薄い樹脂皮膜を形成しておくとよい。樹脂としてはアクリル樹脂等を挙げることができる。膜厚としては、樹脂種により適宜選択すればよいが、例えば、1nm以上30nm以下であり、好ましくは2nm以上10nm以下である。1nm未満であると、密着性が弱く、また、30nmを超えると炭素が残留することがあり、炭素残量により注意する必要が生じ、熱処理時の条件設定幅が狭くなる。微粒子の粒径により適宜選択すればよい。この程度あれば、熱処理時に熱分解可能であるし、微粒子の表面の吸着水により酸化されて除去され、炭素が残留して問題となることはない。
【0058】
<微粒子膜の熱処理>
支持体11上に、13族元素と16族元素を含む化合物微粒子の膜が形成され、13族元素と16族元素を含む化合物微粒子膜上に11族元素と16族元素を含む微粒子の膜が形成され、前記積層された膜を熱処理する。
【0059】
熱処理は11族元素と16族元素を含む微粒子が液相となる温度であることが好ましい。例えばCuSeであれば523℃以上である。CuSであれば813℃以上である。熱処理雰囲気とすると窒素雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気とすればよい。また、16族元素を含む雰囲気とすることも好ましい。光吸収層12の16族元素が雰囲気に拡散し、光吸収層12から脱落することを抑制する。なお、例えば、In2Se3とCuSeからCuInSe2を生成する例ではSeが過剰であるが、過剰分は雰囲気に拡散する。In2Se3とCu2Seとを組み合わせた場合、Seを含む雰囲気にすることで、Cu2SeがCuSeとなり、液相を出現しやすくすることができ好適である。
【0060】
熱処理時間は膜厚、11族元素と16族元素を含む微粒子物質の種類等によって適宜選択すればよいが、1分から1時間が好ましい。熱処理を行う装置としては既知の装置を用いることができる。バッチ式の装置であってもよいし、連続式の装置であってもよい。
【0061】
CIS系結晶の結晶粒子径は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)により調べることができる。空隙構造もSEMにより調べることができる。前記に得られたCIS系膜は、太陽電池10においては光吸収層12となる。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
(ハードコートフィルムの作製)
PETフィルム25μm厚をコロナ処理し、ハードコート塗布液(「KP-854」、信越化学工業社製)を塗布、乾燥、硬化して、PETフィルム上に0.5μm厚のハードコートフィルムを用意した。
【0063】
(In2Se3微粒子圧縮膜の作製)
平均粒子径100nmのIn2Se3微粒子25質量部にエタノール75質量部を加え、メディアをジルコニアビーズとして分散機を用いて分散した。バーコーターを用いて、100μm厚のモリブデン箔上にIn2Se3微粒子分散液を塗布し、70℃の熱風を用いて乾燥した。次に、In2Se3が塗布されたモリブデン箔のIn2Se3面がハードコートフィルムのハードコート面と接触するように重ね、ロールブレス機で圧縮した後、ハードコートフィルムを取り除いて、モリブデン箔上に1.7μm厚みのIn2Se3微粒子圧縮膜を形成した。圧縮圧力は200N/mm2であった。
【0064】
(CuSe微粒子膜の作製)
平均粒子径100nmのCuSe微粒子25質量部にエタノール75質量部を加え、メディアをジルコニアビーズとして分散機を用いて分散した。バーコーターを用いて、In2Se3微粒子膜上に塗布し、70℃の熱風を用いて乾燥した。次に、前記CuSeが塗布されたIn2Se3を含むモリブデン箔のCuSe面がハードコートフィルムのハードコート面と接触するように重ね、ロールブレス機で圧縮した後、ハードコートフィルムを取り除いて、モリブデン箔のIn2Se3上に1.1μm厚みのCuSe微粒子圧縮膜を形成した。圧縮圧力は200N/mm2であった。
【0065】
(熱処理)
In2Se3微粒子圧縮膜上にCuSe微粒子膜が形成されたモリブデン箔を熱処理した。熱処理は窒素雰囲気にSeを昇華させ、550℃の温度とし、30分間置くことにより、光吸収層としてのCuInSe2を生成させた。出来上がったCuInSe2膜の膜厚は2μmであった。
【0066】
(光吸収層の結晶)
X線分光装置にてモリブデン箔上に得られたCuInSe2膜を調査し、CuInSe2であることを確認した。次にCuInSe2膜表面をSEMにて観察した。平面方向の結晶の大きさは2μmから10μmの範囲であった。また、クラックの発生はなかった。また、微粒子による空隙構造はなかった。次に断面をSEMにて観察した。図4は、実施例1のCuInSe2膜の状態を模式的に示す図である。図4に示すように、CuInSe2膜の結晶の大きさは厚み方向に膜厚と同じ2μmの大きさであった。空隙構造は見られなかった。これにより、大きな結晶を有するCuInSe2膜を得ることができた。
【0067】
<実施例2>
実施例1のIn2Se3をIn23、CuSeをCuSに変更して、モリブデン箔上にIn23微粒子圧縮膜を形成し、次いでCuS微粒子膜を形成した。
【0068】
(熱処理)
In23微粒子圧縮膜上にCuS微粒子膜が形成されたモリブデン箔を熱処理した。熱処理は窒素雰囲気にSを蒸発させ、830℃の温度とし、30分間置くことにより、光吸収層としてのCuInS2を生成させた。出来上がったCuInS2膜の膜厚は2μmであった。
【0069】
(光吸収層の結晶)
X線分光装置にてモリブデン箔上に得られたCuInS2を調査し、CuInS2であることを確認した。次にCuInS2表面をSEMにて観察した。平面方向の結晶の大きさは2μmから10μmの範囲であった。また、クラックの発生はなかった。また、微粒子による空隙構造はなかった。次に断面をSEMにて観察した。結晶の大きさは厚み方向に膜厚と同じ2μmの大きさであった。空隙構造はなかった。これにより、大きな結晶を有するCuInS2膜を得ることができた。
【0070】
<比較例1>
(CuInSe微粒子膜の作製)
平均粒子径100nmのCuInSe2微粒子25質量部にエタノール75質量部を加え、メディアをジルコニアビーズとして分散機を用いて分散した。バーコーターを用いて、100μm厚のモリブデン箔上にCuInSe2微粒子分散液を塗布し、70℃の熱風を用いて乾燥した。モリブデン箔上に4μm厚みのCuInSe2微粒子膜を形成した。
【0071】
(熱処理)
CuInSe2微粒子膜が形成されたモリブデン箔を熱処理した。熱処理は窒素雰囲気にSeを昇華させ、550℃の温度とし、30分間置くことにより、光吸収層としてのCuInSe2を焼結させた。出来上がったCuInSe2膜の膜厚は3μmであった。
【0072】
(光吸収層の結晶)
X線分光装置にてモリブデン箔上に焼結されたCuInSe2膜を調査し、CuInSe2であることを確認したが、X線分光のピークが実施例1に比較して低いものであった。次にCuInSe2膜表面をSEMにて観察した。CuInSe2微粒子がクラスター状に焼結された構造であり、クラスターは空隙構造となっていた。また、亀甲状なクラックが発生していた。結晶の大きさは100nmから500nmあった。次に断面をSEMにて観察した。図5は、比較例1のCuInSe2膜の状態を模式的に示す図である。図5に示すように、CuInSe2膜の結晶の大きさは100nmから500nmであった。また、表面観察と同様に空隙構造が存在した。
【0073】
<比較例2>
(CuInS2微粒子膜の作製)
比較例1のCuInSe2微粒子をCuInS2微粒子に変更して、モリブデン箔上に4μm厚みのCuInS2微粒子膜を形成した。
【0074】
(熱処理)
CuInS2微粒子膜が形成されたモリブデン箔を熱処理した。熱処理は窒素雰囲気にSを蒸発させ、830℃の温度とし、30分間置くことにより、光吸収層としてのCuInS2を焼結させた。出来上がったCuInS2膜の膜厚は3μmであった。
【0075】
(光吸収層の結晶)
X線分光装置にてモリブデン箔上に焼結されたCuInS2膜を調査し、CuInS2であることを確認したが、X線分光のピークが実施例2に比較して低いものであった。次にCuInS2膜表面をSEMにて観察した。CuInS2微粒子がクラスター状に焼結された構造であり、クラスターは空隙構造となっていた。また、亀甲状なクラックが発生していた。結晶の大きさは100nmから500nmあった。次に断面をSEMにて観察した。結晶の大きさは100nmから500nmであった。表面観察と同様に空隙構造が存在した。
【0076】
この結果より、CIS系結晶が大きく、CIS系膜にクラックがない膜を得ることができる。特に厚み方向では膜厚と同じ大きさとなっており、CIS系太陽電池で求められている大きさを満足するといえる。つまり、表層から裏面電極にかけて粒界が存在しないために電荷の再結合が起こりづらくなる。また、塗布を用いているため、スパッタ法や蒸着法と比較してコストを低くすることが可能となることから、太陽電池用として有効であることが判明した。
【符号の説明】
【0077】
10 CIS系太陽電池
11 支持体
12 光吸収層
13 バッファ層
14 表面電極
15 基体
16 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
11族元素、13族元素、16族元素を含む光吸収層を有する太陽電池であって、
前記光吸収層が空隙構造を有しないことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
支持体上に、13族元素と16族元素とを含む化合物微粒子を含む第1の化合物微粒子膜を形成し、
前記第1の化合物微粒子膜上に、11族元素と16族元素を含む第2の化合物微粒子膜を形成し、
前記第1の化合物微粒子膜と前記第2の化合物微粒子膜とを積層した膜を熱処理することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1の化合物微粒子膜を圧縮膜とする請求項2に記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−212783(P2012−212783A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77560(P2011−77560)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】