説明

太陽電池モジュール

【課題】容易に製造できるとともに、発電効率が優れた太陽電池モジュールを提供すること。
【解決手段】太陽電池モジュール1では、入射した光(太陽光)は、保護ガラス11を介して波長変換層9に入射する。この波長変換層9に入射した光のうち、波長400nm以下の光(紫外線)は、ナノ粒子に吸収され、波長585nm付近の光に変換される。そして、波長変換された光は封止材層7を介して太陽電池7に入射する。また、波長変換されない光は、そのまま太陽電池7に入射する。つまり、波長変換層9によって、紫外線等の短波長の光が、太陽電池7で効率的に利用できる長波長に光に変換されるので、光の有効利用ができ、発電効率が高いという顕著な効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、太陽電池の発電効率を改善することができる太陽電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池モジュールとして、バックシートと保護ガラスの間に太陽電池を挟み、太陽電池を封止材で封止した構造のものが知られている。
この種の太陽電池モジュールにおいては、紫外線も発電に有効に利用したいという要望があり、そのため、近年では、紫外線スペクトル域までの光エネルギーを有効に利用する目的で、保護ガラスとバックシートとの間に、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止層を設け、この封止層内に太陽電池を配置した技術が提案されている。この技術では、波長360nmにおける光透過率を40%以上とすることにより、発電効率が向上し、360nmにおける光透過率を70%以下にすることにより、紫外線による封止材の劣化を防ぐことができる(特許文献1参照)。
【0003】
また、これとは別に、有機材料からなる太陽電池は、紫外線によって劣化するという問題がある。この対策として、紫外線をカットして、耐光性を向上するだけではなく、エネルギー効率の高い帯域に発光する光変換膜を用いることで、発電効率を改善する技術が提案されている。具体的には、光変換膜の蛍光体の材料として、光吸収波長<370nmに相当するEg<3.35eVを条件として、ZnSeやCdSなどを用い、発光波長は、結晶欠陥による発光の波長としている(特許文献2参照)。
【0004】
更に、近年では、短波長の光を有効に利用するために、太陽電池の入力側に、波長変換層を配置するとともに、共鳴エネルギーによって発光させるために、波長変換層に入力量子ドットと出力量子ドットを含む構成が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−235610号公報
【特許文献2】特開平11−345993号公報
【特許文献3】特開2009−223309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の技術では、市場で一般的に使用されるSi結晶太陽電池(以下Si太陽電池と記す)の場合には、波長360nmの発電効率が非常に低いため、紫外線の透過率を上げても、発電効率の向上はそれほど期待できないという問題がある。
【0007】
また、前記特許文献2の技術では、光変換膜として無機薄膜を使用するので、バンドギャップが固定のため、吸収波長を正確に合わせることができない。また、発光起点が、無機薄膜成型時に生成した多数の欠陥であるため、エネルギー変換効率が悪く、輝度は低いという問題がある。更に、ZnSeやCdSは、薄膜では発光させるのが難しいという問題がある。その理由は、内部の欠陥が、無機発光化し、熱として損失するためである。従って、紫外線による有機劣化の防止機能はあるが、太陽電池の発電効率の向上への寄与は殆ど期待できない。
【0008】
更に、前記特許文献3の技術では、量子ドットによって波長変換しているが、その際には、入力量子ドットと出力量子ドットを両方ドープする必要がある。この2種類の量子ドットの場合、共鳴によってエネルギーを伝播させる必要があるので、数nmの間隔で均一に分散させないと、十分にエネルギーの伝播が起きない。従って、原料コストのアップや、製造の難しさがあり、実用化するのは難しい。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、容易に製造できるとともに、発電効率が優れた太陽電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)請求項1の発明は、太陽電池と該太陽電池の受光面側に配置された透光性を有する保護板とを備えた太陽電池モジュールにおいて、前記太陽電池と前記保護板との間に、光の波長を変換する波長変換層を備え、且つ、該波長変換層には、所定の波長を吸収するナノ粒子が分散して配置されるとともに、該ナノ粒子には、前記吸収される波長より長波長の光を発光する発光中心となる元素を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明では、波長変換層には、(所定の波長を吸収する)ナノ粒子が分散して配置され、且つ、ナノ粒子には(吸収される波長より長波長の光を発光する)発光中心となる元素を含んでいる。
【0012】
従って、この波長変換層に光が入射した場合には、波長の短い例えば紫外線などの光を、(発光中心の元素の種類に対応した)それより波長の長い光に変換することができる。つまり、本発明では、通常、Si太陽電池等の太陽電池では有効利用できない紫外線等の短波長の光を、有効利用できる長波長の光に変換できるので、発電効率を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【0013】
また、本発明は、従来の様に、入力量子ドット及び出力量子ドットを調整する様な複雑な構成では無いので、その製造が容易であるという利点がある。
ここで、ナノ粒子とは、ナノレベル(例えば粒径1〜20nm)の量子ドットの性質を有するものである。なお、原子のド・ブロイ波長に相当する大きさの粒状の構造を作ると、電子はその領域に閉じこめられ電子の状態密度は離散化されるが、3次元全ての方向から閉じ込めたものが、量子ドットである。
【0014】
(2)請求項2の発明では、前記ナノ粒子の粒径は、1〜20nmの範囲であることを特徴とする。
ナノ粒子の粒径(直径)は、1〜20nmであり、量子ドットとしての性質を有する。
【0015】
また、後述する様に、ナノ粒子の粒径と吸収する光の波長とに相関関係があることは知られており、ナノ粒子の粒径を制御することにより、吸収する光の波長を設定することが可能である。
【0016】
具体的には、ナノ粒子の粒径を1〜20nmとすることにより、吸収する光の波長を紫外線等の短波長(例えば500nm未満)に設定することが可能である。
(3)請求項3の発明では、前記波長変換層により、波長500nm未満の光を吸収し、吸収した光の波長以上の光に変換することを特徴とする。
【0017】
本発明では、図3に示す様に、Si太陽電池では利用し難い波長500nm未満の光を吸収し、Si太陽電池で利用し易い波長、例えば500nm以上の光に変換するので、特にSi太陽電池において、発電効率が向上するという利点がある。
【0018】
(4)請求項4の発明では、前記ナノ粒子は、バンドギャップが2.48eV以上の材料からなることを特徴とする。
本発明は、バルク結晶より高いバンドギャップを有するナノ粒子を用いることにより、吸収する光の波長を例えば500nm未満の様に短くすることができる。
【0019】
その理由は、量子効果により、サイズが小さくなるほどバンドギャップエネルギーが高くなるためである。
(5)請求項5の発明では、前記ナノ粒子は、無機材料からなることを特徴とする。
【0020】
本発明は、ナノ粒子の材料を例示したものである。
(6)請求項6の発明では、前記ナノ粒子は、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化亜鉛カドミウム(ZnCdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カルシウム(CaS)のいずれか1種からなることを特徴とする。
【0021】
本発明は、ナノ粒子の材料として好ましいものを例示したものである。
(7)請求項7の発明では、前記ナノ粒子は、セレン化亜鉛硫化物(ZnSeS)の混晶、セレン化カドミウム硫化物(CdSeS)の混晶、セレン化亜鉛カドミウム硫化物(ZnCdSeS)の混晶のいずれか1種からなることを特徴とする。
【0022】
本発明は、ナノ粒子の材料として好ましいものを例示したものである。
(8)請求項8の発明では、前記発光中心となる元素は、Mn、Eu、Yb、Er、Cu、Tbのいずれか1種であることを特徴とする。
【0023】
本発明は、発光中心となる好ましい元素を例示したものである。これらの元素を用いることにより、長波長(例えば500nm以上)の発光が可能であるので、特に太陽電池としてSi太陽電池を用いる場合には、効率の良い発電が可能である。つまり、図3に示す様に、Si太陽電池は、波長400nm以上の光を効率よく電気に変換できるので、この長波長の発光が可能な元素を用いることにより、効率よく発電を行うことができる。
【0024】
(9)請求項9の発明では、前記太陽電池は、その周囲を透光性を有する樹脂材料で封止されていることを特徴とする。
本発明では、太陽電池の周囲を透光性の樹脂材料で隙間無く封止することができる。
【0025】
(10)請求項10の発明では、前記波長変換層の光の透過率は、波長500nm以上の光においては90%以上であることを特徴とする。
本発明では、波長変換層の光の透過率は、波長500nm以上の光においては90%以上であり、波長変換層にて長波長(例えば500nm以上)に変換された光は、効率よく太陽電池に入力する。よって、発電効率が高いという利点がある。
【0026】
特に、Si太陽電池を用いる場合には、波長400nm以上の光を効率よく電気に変換できるので、この長波長の光の透過率が高いことは、発電のために好ましいものである。
(11)請求項11の発明では、前記波長変換層を構成する基材は、透光性を有する樹脂又はガラスからなることを特徴とする。
【0027】
本発明は、波長変換層を構成する基材(ナノ粒子を添加する基材)を例示したものである。
(12)請求項12の発明では、前記透光性を有する樹脂は、エチレン−酢酸ビニル重合体又はシリコーン樹脂であることを特徴とする。
【0028】
本発明は、波長変換層を構成する透光性を有する樹脂を例示したものである。
(13)請求項13の発明では、前記波長変換層は、透光性を有するフィルム、プレート板、コーティング膜のいずれか1種であることを特徴とする。
【0029】
本発明は、波長変換層を例示したものである。
(14)請求項14の発明では、前記保護板及び/又は波長変換層の平面方向における側端部は、平面方向に対して斜面となるように構成されていることを特徴とする。
【0030】
本発明では、保護板や波長変換層の側端部が斜面とされているので、保護板や波長変換層内にて反射して側方に至る光が、効率よく太陽電池側に入射することができる。これにより、発電効率が高まるという利点がある。
【0031】
(15)請求項15の発明では、前記斜面に、光の反射膜が形成されていることを特徴とする。
本発明では、保護板や波長変換層の側端部の斜面に反射膜が形成されているので、保護板や波長変換層内にて反射して側方に至る光が、効率よく太陽電池側に入射することができる。これにより、一層発電効率が高まるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の太陽電池モジュールを板厚方向に切断した状態を示す説明図である。
【図2】実施例1の太陽電池モジュールの平面図である。
【図3】実施例1で用いる太陽電池の分光感度特性を示すグラフである。
【図4】(a)は実施例1の波長変換層の形成方法を示す説明図、(b)は実施例2の波長変換層の形成方法を示す説明図、(c)〜(e)は他の波長変換層の形成方法を示す説明図である。
【図5】実施例1の波長変換層の形成方法を詳細に示す説明図である。
【図6】実施例1の太陽電池モジュールの製造手順を分解して示す説明図である。
【図7】実施例2の太陽電池モジュールを板厚方向に切断した状態を模式的に示す説明図である。
【図8】実施例3の太陽電池モジュールを板厚方向に切断した状態を模式的に示す説明図である。
【図9】実施例4の太陽電池モジュールを板厚方向に切断した状態を模式的に示す説明図である。
【図10】(a)は太陽電池モジュールの性能試験に用いる太陽電池モジュールの製造手順を示す説明図、(b)はその太陽電池モジュールを破断して示す説明図、(c)はその実験方法を示す説明図である。
【図11】実験に用いる比較例の太陽電池モジュールを板厚方向に切断した状態を模式的に示す説明図である。
【図12】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の太陽電池モジュールの実施例について、いくつかの具体的な例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0034】
a)まず、本実施例の太陽電池モジュールの構成について説明する。
図1及び図2に示す様に、本実施例の太陽電池モジュール1は、平面形状が正方形で板状の部材であり、バックシート3の受光側(図1の上方)の表面に、透明な封止材層5内に封止された太陽電池7を備えるとともに、太陽電池7の受光側の表面に光の波長を変換する波長変換層9を備え、更に、波長変換層9の受光側の表面に透明な保護ガラス11を備えたものである。
【0035】
以下、各構成について説明する。
前記バックシート3は、例えば(ポリエチレンテレフタレートなどの)プラスチック系の板状の部材である。
【0036】
前記封止材層5は、太陽電池7の下側の下封止材層13と上側の上封止材層15とからなり、例えば、エチレン−酢酸ビニル重合体又はシリコーン樹脂から構成されている。
前記太陽電池7は、平面形状が正方形であり、バンドギャップ1.1eVのSi単結晶太陽電池(Si太陽電池)である。この太陽電池7は、図3に示す様な分光特性を有している。なお、各太陽電池7は、直列に接続されている。
【0037】
前記保護ガラス11は、例えば白板ガラスからなる透明な板材である。
前記波長変換層9は、親水性透明樹脂中に、例えばプルラン(グルコース多糖類)に、量子ドットであるナノ粒子が均一に分散されたシートであり、波長500nm以上の光の90%以上が透過可能な透光性を有している。
【0038】
このナノ粒子は、直径がナノレベル(例えば1〜20nm)で、その内部に発光中心となる元素(ドーパント)を含むものであり、500nm未満の光を吸収して、それ以上の波長の光(例えば500nm以上の光)を発光可能なものである。
【0039】
つまり、ナノ粒子のバンドギャップ(具体的には粒径:直径)を規定することにより、所定の波長の光を吸収するとともに、所定の波長の光を発光できるように、発光中心となる元素(ドーパント)を含んでいる。
【0040】
ここでは、例えば直径3nmの例えばセレン化亜鉛(ZnSe)からなるナノ粒子を用いるとともに、その内部には、発光中心となるドーパントとして、例えばMnが含まれている。これにより、波長400nm以下の紫外線等の光を吸収して、585nm付近で発光することができる。なお、ナノ粒子を構成する材料(例えばZnSe)のバルク結晶のバンドキャップは2.48eV以上である。
【0041】
なお、ナノ粒子としては、各種の無機材料を採用でき、前記セレン化亜鉛以外に、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、セレン化亜鉛カドミウム、硫化亜鉛、硫化カルシウム、さらに、セレン化亜鉛硫化物の混晶、セレン化カドミウム硫化物の混晶、セレン化亜鉛カドミウム硫化物の混晶などを採用できる。
また、発光中心となる元素としては、Mn以外に、発光波長に応じて、Eu(発光波長690nm)、Yb(発光波長900nm)、Er(発光波長1500nm)、Cu(発光波長450nm)、Tb(発光波長550nm)などを採用できる。
【0042】
なお、ナノ粒子の粒径を規定することにより、吸収する光の波長を設定できることは、例えば「L. E. Brus, J. Chem. Phys. Vol. 80, p.4403 (1984)」等に記載の様に、公知であり、以下に、ナノ粒子の粒径と吸収する光の波長との関係について簡単に説明する。
【0043】
光学遷移エネルギー(E(R))とナノ粒子の粒子半径(R)との間には、下記式(1)の関係がある。
【0044】
【数1】

【0045】
Eg:バルク結晶におけるバンドギャップエネルギー
R :粒子半径
μ :電子・正孔の換算質量
h :プランク定数
ε :誘電率
e :電気素量
つまり、この式(1)から、粒子半径Rとそのナノ粒子における光学遷移エネルギーE(R)が決まる。エネルギーと波長の関係式は、E=1240/λで与えられる。ただし、Eの単位はeV(電子ボルト)、波長λの単位はnm(ナノメートル)である。
【0046】
b)次に、本実施例の太陽電池モジュール1の製造方法を説明する。
・まず、波長変換層9を形成するためのフィルムの製造方法について説明する。
<ナノ粒子溶液の合成>
まず、図4(a)に示す様に、Znイオン源とSeイオン源とMnイオン源とを用いて、MnをドーピングしたZnSeナノ粒子を、水熱合成法で作製する。
【0047】
詳しくは、図5に示す様に、まず、Znイオン源と有機系配位子(NアセチルLシステイン:NAC)を、モル比で1:5(詳しくは4.8)に配合した溶液(1)を作製する。
【0048】
次に、Mnイオン源と有機系配位子を、モル比で1:1に配合した溶液(2)を作製する。
次に、溶液(1)と溶液(2)を、99:1で、pH1.5〜2の間に保ちながら、混合して、Mn濃度1%の溶液(3)を作る。
【0049】
次に、この溶液(3)に、NaOHを添加して、pH8.5としての溶液(4)をつくる。
次に、この溶液(4)に、Seイオン源を加え、ZnMnSeのプリサーカー溶液(5)をつくる。なお、この溶液(5)のpHは、pH10.5程度にすることが好ましい。また、Zn:Seのモル比は、ZnSeナノ粒子作製時と同じ、1:0.6である。
【0050】
次に、この溶液(5)10ミリリットルを、オートクレーブ反応容器に入れ、200℃、2気圧に保持し、数分から30分程度加熱することにより、直径数nm〜8nm程度のZnSe:Mnナノ粒子を合成する。
【0051】
なお、ナノ粒子の粒径を、例えば1〜20nmの範囲に調節する場合には、加熱時間によって制御すればよい。
<バインダ混合>
次に、前記図4(a)に示す様に、上述の様に合成されたナノ粒子溶液に、バインダとして親水性透明樹脂、例えばプルラン(グルコース多糖類)を、ナノ粒子:親水性透明樹脂=1:1の割合となる様に混合して、ペースト状の混合樹脂材料を作製する。ここでは、ナノ粒子が親水性のため、親水性樹脂のバインダを採用したが、ナノ粒子が疎水性ならば、疎水性樹脂のバインダ、例えば、シリコーン樹脂などを採用するのが好ましい。
【0052】
<印刷によるフィルム化>
次に、同図に示す様に、前記混合樹脂材料を用いて基台21上にスクリーン印刷を行って、印刷層23を形成し、その印刷層23を乾燥して、ナノ粒子を含む(波長変換層9を形成する)フィルム25を完成した。
【0053】
・次に、前記フィルム25等を用いた太陽電池モジュール1の製造方法について説明する。
図6に示す様に、下側より、バックシート3、下封止材層13、太陽電池7、上封止材層15、(波長変換層9の)フィルム25、保護ガラス11を積層して配置し、高温プレスを行い、熱硬化封止を行って、太陽電池モジュール1を完成する。
【0054】
c)次に、本実施例による作用効果について説明する。
本実施例の太陽電池モジュール1では、前記図1の上方から入射した光(太陽光)は、保護ガラス11を介して波長変換層9に入射する。この波長変換層9に入射した光のうち、波長400nm以下の光(紫外線)は、ナノ粒子に吸収され、波長585nm付近の光に変換される。そして、波長変換された光は封止材層7を介して太陽電池7に入射する。また、波長変換されない光は、そのまま太陽電池7に入射する。
【0055】
つまり、本実施例では、波長変換層9によって、紫外線等の短波長の光が、太陽電池7で効率的に利用できる長波長の光に変換されるので、光の有効利用ができ、発電効率が高いという顕著な効果を奏する。
【0056】
また、波長変換層9自身の光の透過率も高いので、具体的には、波長500nm以上の光の透過率が90%以上であるので、波長変換された光が効率的に太陽電池7に入射し、よって、その点からも発電効率が高いという利点がある。
【0057】
更に、本実施例の太陽電池モジュール1は、高い発電効率を有するとともに、その製造が容易であるという利点がある。
なお、本実施例以外に、ナノ粒子として、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、セレン化亜鉛カドミウム、硫化亜鉛、硫化カルシウム、セレン化亜鉛硫化物の混晶、セレン化カドミウム硫化物の混晶、セレン化亜鉛カドミウム硫化物の混晶のいずれか1種を採用するとともに、発光中心となる元素として、Eu、Yb、Er、Cu、Tbのいずれか1種を採用した波長変換層を備えた太陽電池モジュールでも、同様な効果を得られる。
【実施例2】
【0058】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図7に示す様に、本実施例の太陽電池モジュール31は、下側から、バックシート33と、封止材層35と、太陽電池37と、波長変換層39と、保護ガラス41とが積層されたものである。
【0059】
特に、本実施例では、波長変換層39は、波長変換材料と封止材料とからなる。
この波長変換層39を形成する場合には、例えばエチレン−酢酸ビニル重合体又はシリコーン樹脂からなるペースト状の封止材料中に、前記実施例1と同様な(ナノ粒子を含む)混合樹脂材料を入れて複合材料を作製し、この複合材料を、例えば(太陽電池7の表面を含む)封止材層35の表面に塗布し(後に波長変換層39となる)複合材料層を作製する。或いは、保護ガラス41の表面に塗布して同様な複合材料層を形成する。
【0060】
そして、この複合材料層や各部材を、前記実施例1と同様に積層して、高温プレスして、(波長変換層39を形成するとともに)太陽電池モジュール31を完成する。
本実施例は、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、太陽電池37の表面などに複合材料を塗布するので、太陽電池37の表面やその周囲に隙間ができにくいという利点がある。
【実施例3】
【0061】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図8に示す様に、本実施例の太陽電池モジュール51は、下側から、バックシート53と、下封止材層55と、太陽電池57と、上封止材層59と、波長変換層61と、保護ガラス63とが積層されたものである。
【0062】
特に、本実施例では、波長変換層61は、前記図4(b)に示す様に、保護ガラス63の表面に、前記ナノ粒子を含む混合樹脂材料を滴下し、保護ガラス63を回転させることによりスピンコートし、その後乾燥したものである。
【0063】
なお、他の方法として、図4(d)に示す様に、混合樹脂材料に用いるバインダとしてゾルゲルガラスを用い、その混合樹脂材料を保護ガラス63の表面に塗布して硬化させてコーティングする方法を採用できる。
【0064】
本実施例は、前記実施例1と同様な効果を奏する。
【実施例4】
【0065】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図9に示す様に、本実施例の太陽電池モジュール71は、下側から、バックシート73と、下封止材層75と、太陽電池77と、上封止材層79と、波長変換層81と、保護ガラス83とが積層されたものである。
【0066】
特に、本実施例では、波長変換層81及び保護ガラス83の外周側の側面は、波長変換層81及び保護ガラス83内で反射して側面に至る光が太陽電池77側に反射する様に、斜め(例えば平面方向に対して45〜60°傾斜する範囲)にカットされており、その斜面には、光を反射する反射層85が形成されている。
【0067】
この反射層85は、金属の反射テープにより構成されている。なお、反射層85としては、例えばアルミニウムからなる光を反射する薄膜の反射膜を、例えば蒸着やスパッタにより形成してもよい。
【0068】
本実施例は、前記実施例1と同様な効果を奏するとともに、波長変換層81及び保護ガラス83の側面に斜めの反射層85が形成されているので、波長変換層81及び保護ガラス83内にて反射して側方に至る光が、効率よく太陽電池77に入射するという利点がある。
【0069】
<実験例>
次に、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
本実験例では、本発明品として、図10(a)、(b)に示す太陽電池モジュール91を10個作製した。この太陽電池モジュール91は、太陽電池(Si太陽電池)93とその受光側の構造とを、透明なシリコーン樹脂からなる接着層94によって貼り合わせたものである。
【0070】
詳しくは、太陽電池モジュール91は、下側より、太陽電池93、接着層94、白板ガラス95、ナノ粒子を含む波長変換層97、保護ガラス98、光の反射を防止する反射防止層99を備えるとともに、斜めに傾斜した側面に反射テープ101を貼り付けたものである。
【0071】
そして、図10(c)に示す様に、この太陽電池モジュール91に対して、およそ3 0〜35cmの間隔をあけて、白色灯によって100mW/cm2の光源で光を照射し た。そして、その時に太陽電池93によって発生する電流及び電圧から、太陽電池93 の出力を求めた。その結果を図12に示す。
【0072】
また、図11(a)に示す様に、本発明の範囲外の比較例1の太陽電池モジュール111を10個作製した。この太陽電池モジュール111は、太陽電池113の上に、透明なシリコーン接着剤(接着層)115を用いて白板ガラス117を貼り付け、この白板ガラス117の表面に反射防止層119を形成するとともに、斜めの側面に反射テープ121を貼り付けたものである。
【0073】
そして、この太陽電池モジュール111を用いて、前記本発明品と同様にて太陽電池113の出力を求めた。その結果を同じく図12に示す。
更に、図11(b)に示す様に、本発明の範囲外の比較例2の太陽電池モジュール131を5個作製した。この太陽電池モジュール131は、太陽電池133の上に、透明なシリコーン接着剤(接着層)135を用いて白板ガラス137を貼り付け、この白板ガラス137の表面に透明な樹脂からなるバインダ層139を介して保護ガラス140を貼り合わせ、その上に反射防止層141を積層するとともに、斜めの側面に反射テープ143を貼り付けたものである。
【0074】
そして、この太陽電池モジュール131を用いて、前記本発明品と同様にて太陽電池133の出力を求めた。その結果を同じく図12に示す。
図12から明らかな様に、本発明品の太陽電池モジュール91は、太陽電池出力が約1530mWと高いものであったが、比較例1の太陽電池モジュール111は、太陽電池出力が約1485mWと低く、また、比較例2の太陽電池モジュール131は、太陽電池出力が約1455mWと低く好ましくない。
【0075】
なお、以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記の具体的な実施例に限定されず、本発明の範囲内でこの他にも種々の形態で実施することができる。
(1)例えば、前記実施例1〜4の太陽電池モジュールの保護ガラスの表面に、例えば無機多層膜や表面粗度からなる反射防止層を設けてもよい。
【0076】
(2)また、波長変換層の形成方法としては、前記図4(c)に示す様に、roll to roll法を採用できる。この方法は、ロールで巻き付けられるシートに、波長変換層となる材料をスプレイによって噴霧してシートに塗布し、シート上に波長変換層を形成するものである。
【0077】
(3)更に、前記図4(e)に示す様に、保護ガラスの上に波長変換層を形成するとともに、この波長変換層の上に薄い保護ガラスを形成してもよい。
(4)例えば太陽光以外の光も利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1、31、51、71、91、111、131…太陽電池モジュール
3、33、53、73…バックシート
5、13、15、35、55、59、75、79…封止材層
7、37、57、77、93、113、133…太陽電池
9、39、61、81、97…波長変換層
11、41、63、83、98、140…保護ガラス
85、101、121、143…反射層(反射テープ)
99、119、141…反射防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池と該太陽電池の受光面側に配置された透光性を有する保護板とを備えた太陽電池モジュールにおいて、
前記太陽電池と前記保護板との間に、光の波長を変換する波長変換層を備え、
且つ、該波長変換層には、所定の波長を吸収するナノ粒子が分散して配置されるとともに、該ナノ粒子には、前記吸収される波長より長波長の光を発光する発光中心となる元素を含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記ナノ粒子の直径は、1〜20nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記波長変換層により、波長500nm未満の光を吸収し、吸収した光の波長以上の光に変換することを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、バンドギャップが2.48eV以上の材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記ナノ粒子は、無機材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、セレン化亜鉛カドミウム、硫化亜鉛、硫化カルシウムのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、セレン化亜鉛硫化物の混晶、セレン化カドミウム硫化物の混晶、セレン化亜鉛カドミウム硫化物の混晶のいずれか1種からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
前記発光中心となる元素は、Mn、Eu、Yb、Er、Cu、Tbのいずれか1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項9】
前記太陽電池は、その周囲を透光性を有する樹脂材料で封止されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項10】
前記波長変換層の光の透過率は、波長500nm以上の光においては90%以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項11】
前記波長変換層を構成する基材は、透光性を有する樹脂又はガラスからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項12】
前記透光性を有する樹脂は、エチレン−酢酸ビニル重合体又はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の太陽電池モジュール。
【請求項13】
前記波長変換層は、透光性を有するフィルム、プレート板、コーティング膜のいずれか1種であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項14】
前記保護板及び/又は波長変換層の平面方向における側端部は、平面方向に対して斜面となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項15】
前記斜面に、光の反射膜が形成されていることを特徴とする請求項14に記載の太陽電池モジュール。

【図2】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−222152(P2012−222152A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86604(P2011−86604)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】