説明

太陽電池モジュール

【課題】表面側及び裏面側の両保護部材表面での局所的な形状変化の発生を低減した耐久性のよい太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】表面側の保護部材1と裏面側の保護部材8とを有し、これら両保護部材間に、複数の太陽電池セルCを同一平面内に列設し、金属製の薄板からなる接続部材6により各太陽電池セルを互いに電気的に接続したものを、熱可塑性樹脂製の充填剤7を加熱し、冷却固化させて封止する。このとき、前記接続部材のうち前記太陽電池セル表面に位置する部分の両側に、前記充填剤の冷却固化時における前記接続部材周辺の体積収縮を抑制する収縮抑制材9,9が夫々配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池として、アモルファス(非晶質)シリコン薄膜を利用したものが普及している(例えば特許文献1参照)。このアモルファスシリコン太陽電池は、例えば、受光面側となる表面側の保護部材たるガラス基板の片面に透明電極層(TCO)を第1電極として成膜する。このガラス基板に透明電極層を成膜した方向を下として、この透明電極層下面にアモルファスシリコンを備えた光電変換層と、この光電変換層下面に第2電極としてAg膜等とが積層される。次に、例えば、レーザー光により、所謂スクライブライン(溝)を形成して多数の平面視矩形の太陽電池セルとする(これにより、複数の太陽電池セルが同一平面内に列設される)。そして、金属製の薄板からなる一方向に長手の接続部材により第2電極を互いに電気的に直列接続する。
【0003】
次に、上記ガラス基板の下側に充填剤を介して裏面側の保護部材を対向配置し、この充填剤を加熱し、冷却固化させて封止することで太陽電池モジュールが得られる。裏面側の保護部材としては、放熱性の高いアルミ箔をシート状の樹脂で両側からラミネート加工したシートやガラス板が用いられる。充填剤としては、比較的容易に熱硬化するシート状のEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)やTPO(熱可塑性オレフィン樹脂)等の熱可塑性樹脂が通常用いられる。
【0004】
ここで、上記充填剤を冷却固化すると、この充填剤が体積収縮し、表面側及び裏面側の両保護部材が互いに引き付け合うようになる。このとき、第2電極表面で接続部材が設けられた箇所では、当該接続部材がその表面から裏面側の保護部材側へと突出し(一段高くなっている)、裏面側の保護部材までの間隔がその周囲と比較して狭くなっているので、体積収縮量が局所的に少なくなる。このため、当該個所では、表面側及び裏面側の両保護部材がその周辺と比較して近づくことができず、表面側及び裏面側の両保護部材表面に局所的な形状変化を生じ、過大な引張残留応力を持つ状態となる。このような状態では、例えば、表面側及び裏面側の両保護部材表面に弱い衝撃が加えられただけで、当該引張残留応力を持つ箇所が起点となって容易に破損してしまい、これでは、十分な耐久性は望めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−147307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、表面側及び裏面側の両保護部材表面での局所的な形状変化の発生を低減した耐久性のよい太陽電池モジュールを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、表面側の保護部材と裏面側の保護部材とを有し、これら両保護部材間に、複数の太陽電池セルを同一平面内に列設し、金属製の薄板からなる接続部材により各太陽電池セルを互いに電気的に接続したものを、熱可塑性樹脂製の充填剤を加熱し、冷却固化させて封止した太陽電池モジュールにおいて、前記接続部材のうち前記太陽電池セル表面に位置する部分の両側に、前記充填剤の冷却固化時における前記接続部材周辺の体積収縮を抑制する収縮抑制材が夫々配置されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、接続部材のうち太陽電池セルの表面に位置する部分の両側に収縮抑制材を夫々配置したため、上記充填剤を冷却固化するとき、この収縮抑制材と、表面側または裏面側の両保護部材との間の領域が緩衝領域となって、表面側及び裏面側の両保護部材表面に生じる局所的な形状変化が低減され、当該箇所での引張残留応力を低下させることができる。このため、例えば、表面側及び裏面側の両保護部材表面に衝撃が加えられても破損し難くすることができ、耐久性を向上することができる。
【0009】
また、アモルファス(非晶質)シリコン薄膜を利用した太陽電池モジュールのように、一方向に長手の接続部材により電極が互いに電気的に接続される構造のものがある。このような場合、請求項1記載の太陽電池モジュールであって、接続部材が同一平面内で一方向に長手のものであるものにおいて、前記収縮抑制材が、前記接続部材の長手方向全長に亘ってその両側に隙間なく配置されることが好ましい。これによれば、収縮抑制材を配置しても、接続部材周辺以外の他の箇所で、表面側及び裏面側の両保護部材表面に他の局所的な形状変化を生じること防止することができ、一層耐久性を向上することができる。
【0010】
本発明においては、 前記収縮抑制材が、前記充填剤の冷却固化時における当該充填剤の体積変化量より少ない材料から構成されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の太陽電池モジュールの構成を模式的に示す断面図。
【図2】図1のII−II線方向の断面図。
【図3】(a)及び(b)は、発明実験1の結果を示すグラフ。
【図4】(a)及び(b)は、発明実験2の結果を示すグラフ。
【図5】(a)及び(b)は、発明実験3の結果を示すグラフ。
【図6】(a)及び(b)は、比較実験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、太陽電池モジュールとしてアモルファス(非晶質)シリコン薄膜を利用したものを例に本発明の実施形態の太陽電池モジュールを説明する。
【0013】
図1を参照して、Mは、本実施形態の太陽電池モジュールである。太陽電気モジュールMは、表面側の保護部材たるガラス基板1を備え、受光面側となる。ガラス基板1の片面には、透明電極層2が第1電極として成膜されている。以降、このガラス基板1に透明電極層2を成膜した方向を下として説明する。透明電極層2は、例えばSnO、ITOやZnO等の光透過性の金属酸化物から形成される。透明電極層2の下面には、光電変換層3が積層されている。
【0014】
光電変換層3としては、例えば、p型アモルファスシリコン膜31とn型アモルファスシリコン膜32との間にi型アモルファスシリコン膜33を挟んだpin接合構造のものである。光電変換層3の下面には第2電極4が成膜されている。なお、光電変換層3の構成はこれに限定されるものでなく、pn接合構造のものでもよい。第2電極4としては、Ag(銀)やAl(アルミニウム)など導電性の光反射膜によって構成される。そして、光電変換層3に太陽光が入射すると、電子とホールが生じて、p型アモルファスシリコン膜31とn型アモルファスシリコン膜32との電位差によって移動し、これが連続的に繰り返されることで第1電極2と第2電極4との間に電位差が生じる。
【0015】
次に、ガラス基板1に上記の如く所定の各層が積層されると、次に、例えば、レーザ光により、所謂スクライブライン(溝)5が形成され、多数の平面視矩形の太陽電池セルCとされる。この場合、複数の太陽電池セルCが同一平面内に列設されたものとなる。なお、以上の各層の形成方法や分割方法等は公知であり、また、太陽電池モジュールの具体的な構造や作用も公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0016】
上記太陽電池セルCは互いに電気的に区画されており、互いに隣接する太陽電池セルCは、例えばCu製の薄板よりなる接続部材6により、上部電極4を介して互いに電気的に直列(及び/または並列)に接続される。なお、図1中、Iは、PET材等からなるシート状の絶縁体である。そして、太陽電気モジュールMとして構成する場合、上記ガラス基板1の下側に、充填剤7を介して裏面側の保護部材8を対向配置し、この充填剤を加熱し、冷却固化させて封止することで太陽電池モジュールMが得られる。裏面側の保護部材8としては、放熱性の高いアルミ箔をシート状の樹脂で両側からラミネート加工したシートや表面側の保護部材1と同じ材質のガラス板が用いられる。充填剤7としては、比較的容易に熱硬化するシート状のEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)やTPO(熱可塑性オレフィン樹脂)等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0017】
上記充填剤7による封止は、例えば、ヒータプレートを備えた加熱装置(図示せず)を用いて行うことができる。この場合、ヒータプレート上に、太陽電池セルCが形成されたガラス基板1を設置し、その上面に充填剤7を載置した後、この充填剤上に裏面側の保護部材8を設置する。そして、例えば処理室内に所定ガスを導入した加圧雰囲気で加圧しつつ、ヒータプレートにより加熱することで加熱圧着され、その後、冷却することで充填剤7を固化させる。
【0018】
ここで、上記充填剤7を加熱後に冷却固化するとき、この充填剤7が体積収縮し、表面側及び裏面側の両保護部材1、8が互いに引き付け合うようになる。このとき、接続部材6は、例えば、その厚みが100μm程度でかつその横幅が3mm程度のものであるが、この接続部材6の第2電極4下面(表面)で接続部材6が設けられた箇所では、当該接続部材6がその下面から裏面側の保護部材8側へと突出し(一段高くなっている)、裏面側の保護部材8までの間隔がその周囲と比較して狭くなっているので、体積収縮量が局所的に少なくなる。このため、当該個所では、表面側及び裏面側の両保護部材1、8がその周辺と比較して近づくことができず、表面側及び裏面側の両保護部材1、8表面に局所的な形状変化を生じ、過大な引張残留応力を持つ状態となる。このため、引張残留応力を低減できるように構成する必要がある。
【0019】
本実施形態では、前記接続部材6の長手方向に沿う両側に、前記接続部材6周辺の体積収縮を抑制する収縮抑制材9、9が、その全長に亘って接続部材6に対して隙間なく夫々配置することとした。この場合、収縮抑制材9、9としては、充填剤7を冷却固化するとき、当該充填剤7の体積収縮量より小さい材料(つまり、体積変化の少ない材料)で、かつ、接続部材6の体積収縮量と同等以上である、PET等からなるシート状の熱可塑性樹脂が用いられる。また、収縮抑制材9、9の厚さとしては、充填剤7を冷却固化した後、配線部材を挟んだ表面側・裏面側の両保護部材に凹状の局所的な形状変化を生じ、過大な引張残留応力を持つ状態になることを防止するため、接続部材6の厚さより薄いものが好ましい。他方、収縮抑制材9の幅は、表面側及び裏面側の両保護部材1、8表面に局所的な形状変化を生じないものであれば、特に制限はないが、接続部材6の幅の1〜10倍の範囲とすれば、効果的に表面側及び裏面側の両保護部材1、8の形状変化を低減することができる。
【0020】
以上によれば、充填剤7を冷却固化するとき、この収縮抑制材9、9と、表面側または裏面側の両保護部材1、8との間の領域が緩衝領域となって、表面側及び裏面側の両保護部材1、8表面に生じる局所的な形状変化が低減され、当該箇所での引張残留応力を低下させることができる。このため、例えば、表面側及び裏面側の両保護部材1、8表面に衝撃が加えられても破損し難くでき、耐久性を向上することができる。収縮抑制材9、9が、接続部材6の長手方向全長に亘ってその両側に隙間なく配置したため、収縮抑制材9、9を配置しても、接続部材6周辺以外の他の箇所で、表面側及び裏面側の両保護部材1、8表面に他の局所的な形状変化を生じること防止することができ、一層耐久性を向上することができる。
【0021】
次に、上記効果を確認するため、上述した構造の太陽電池モジュールMを用いて次の実験を行った。即ち、表面側及び裏面側の両保護部材1、8としてガラス基板を用い、表面側の保護部材1の下面に、上記の如く、第1電極たる透明電極層2、光電変換層3及び第2電極4を積層し、レーザ光によりスクライブライン5を形成した太陽電池セルCとした。そして、絶縁体としてPET材からなるシート状のものを用い、また、接続部材6として、厚みが100μmでかつその横幅が3mmの錫メッキを施した銅製のものを用いた。次に、充填剤7としては、シート状で厚さ0.6mmのTPOを用い、TPOを介して裏面側の保護部材8を対向配置し、この充填剤を加熱し、冷却固化させて封止した。
【0022】
発明実験1では、厚みが50μmでかつその横幅が19mmのPET製の収縮抑制材9、9を接続部材6の全長に亘って接続部材6に対して隙間なく夫々配置し、また、発明実験2では、厚みが100μmでかつその横幅が19mmのPET製の収縮抑制材9、9を接続部材6の全長に亘って接続部材6に対して隙間なく夫々配置し、更に、発明実験3では、厚みが150μmでかつその横幅が19mmのPET製の収縮抑制材9、9を接続部材6の全長に亘って接続部材6に対して隙間なく夫々配置した。また、比較実験として、収縮抑制材9を配置することなく、上記の如く、太陽電池モジュールを作製した。
【0023】
図3〜図5及び図6は、上記により作製した太陽電池モジュールの表面側及び裏面側の両保護部材の表面のうち、接続部材6付近の起伏量を夫々測定したものであり(図3:発明実験1、図4:発明実験2、図5:発明実験3、図6:比較実験)、各図において、(a)が表面側の保護部材1のものであり、(b)が裏面側の保護部材8のものである。なお、起伏量は、表面形状測定機により測定した。
【0024】
以上によれば、比較実験のものでは、特に、表面側の保護部材表面のうち接続部材6上に位置する部分で起伏量が鋭利に変化しており、過大な引張残留応力を持つ状態となっていることが判る。それに対して、発明実験1〜3のものでは、表面側の保護部材表面のうち接続部材6上に位置する部分の両側に緩衝領域があることで、その起伏量がなだらかに変化し、過大な引張残留応力の集中が低減できていることが判る。収縮抑制材9、9の厚みが増加する程、この場合、引張残留応力の集中が低減できていることが判る。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、アモルファス(非晶質)シリコン薄膜を利用したものを例に説明したが、本発明は、所謂結晶系の太陽電池セルを接続部材で互いに接続し、表面側及び裏面側の両保護部材の間に充填剤で封止するような太陽電池モジュールにも適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1…ガラス板(表面側の保護部材)、8…ガラス板(裏面側の保護部材)、C…太陽電池セル、6…接続部材、7…充填剤、9、9…収縮抑制材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側の保護部材と裏面側の保護部材とを有し、これら両保護部材間に、複数の太陽電池セルを同一平面内に列設し、金属製の薄板からなる接続部材により各太陽電池セルを互いに電気的に接続したものを、熱可塑性樹脂製の充填剤を加熱し、冷却固化させて封止した太陽電池モジュールにおいて、
前記接続部材のうち前記太陽電池セル表面に位置する部分の両側に、前記充填剤の冷却固化時における前記接続部材周辺の体積収縮を抑制する収縮抑制材が夫々配置されることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の太陽電池モジュールであって、接続部材が同一平面内で一方向に長手のものであるものにおいて、前記収縮抑制材が、前記接続部材の長手方向全長に亘ってその両側に隙間なく配置されることを特徴とする請求項1記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記収縮抑制材が、前記充填剤の冷却固化時における当該充填剤の体積変化量より少ない材料から構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の太陽電池モジュール。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−42076(P2013−42076A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179559(P2011−179559)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】