説明

太陽電池封止材、太陽電池封止用シート、およびそれらを用いた太陽電池モジュール

【課題】架橋処理を行うことなく、ガラス基板に対する高い密着力を達成することで、生産効率の向上と長期間の封止安定性を両立させる太陽電池封止材を提供する。
【解決手段】190℃におけるMFRが0.5〜60g/10minであるアルファ−オレフィン重合体(A)、軟化点が70〜150℃である粘着付与剤(B)、190℃におけるMFRが100〜1000g/10minである酸基含有オレフィン重合体(C)を含むことを特徴とする太陽電池封止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子を外気から遮断するために用いられる太陽電池封止材に関し、更に詳しくは、透明性、柔軟性等の性質に優れるうえに、プロセス安定性に優れ、これを用いて太陽電池モジュールを製造する際に有利である太陽電池封止材に関する。
【0002】
本発明は、さらに、この様な太陽電池封止材を用いた太陽電池封止用シート、および、それら封止材および/または封止用シートを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0003】
地球環境問題、エネルギー問題等が深刻さを増す中、クリーンでかつ枯渇のおそれが無いエネルギー源として、太陽電池が注目されている。太陽電池を建物の屋根部分等の屋外で使用する場合、太陽電池モジュールの形で使用することが一般的である。
【0004】
太陽電池モジュールは、通常、多結晶シリコン等により形成された太陽電池セルを軟質透明樹脂からなる太陽電池封止材で挟み積層し、さらに表裏両面を太陽電池モジュール用保護シートでカバーした構造になっている。すなわち典型的な太陽電池モジュールは、太陽電池モジュール用保護シート(表面保護シート)/太陽電池封止用シート/太陽電池セル/太陽電池封止用シート/太陽電池モジュール用保護シート(裏面保護シート)という積層構造になっている。この結果、太陽電池モジュールは、耐候性を有し、建物の屋根部分等の屋外での使用にも適したものとなっている。
【0005】
従来、太陽電池封止用シートを構成する材料(太陽電池封止材)としては、その透明性、柔軟性等から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が広く用いられていた(例えば、特許文献1参照。)。エチレン−酢酸ビニル共重合体を太陽電池封止材に使用する場合、十分な耐熱性を付与するために架橋処理を行うのが一般的であるが、架橋処理には1〜2時間程度の比較的長時間を要するため、太陽電池モジュールの生産速度、生産効率を低下させる原因となっていた。また、EVAが分解して発生する酢酸ガス等の成分が、太陽電池素子に影響を与える可能性が懸念されていた。
【0006】
上述の技術的課題を解決するための方策の1つとして、太陽電池封止材の少なくとも一部にエチレン・アルファ−オレフィン共重合体を使用することを挙げることができ、また、エチレン・アルファ−オレフィン共重合体を使用した太陽電池封止材についての提案も存在する(特許文献2参照)。これらの提案により、生産効率の向上、酢酸ガスの発生回避が可能となったが、ガラス基板に対する密着安定性は上記EVA等を用いた架橋処理封止材には及ばず、長期間にわたる安定性を両立するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−283696号公報
【特許文献2】特開2007−103738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の背景に鑑み、アルファ−オレフィン重合体を用いた太陽電池封止材において、架橋処理を行わずにガラス基板に対する高い密着力を達成することで、生産効率の向上と長期間の封止安定性を両立することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するため、鋭意検討した結果、本発明に達した。
即ち、本発明は、 190℃におけるMFRが0.5〜60g/10minであるアルファ−オレフィン重合体(A)、軟化点が70〜150℃である粘着付与剤(B)、190℃におけるMFRが100〜1000g/10minである酸基含有オレフィン重合体(C)を含むことを特徴とする太陽電池封止材に関する。
【0010】
また、本発明は、粘着付与樹脂(B)が、完全水素添加された石油系樹脂及び/又は完全水素添加されたテルペン系樹脂であることを特徴とする上記太陽電池封止材に関する。
【0011】
また、本発明は、アルファ−オレフィン重合体(A)50〜90重量部、粘着付与剤(B)5〜50重量部、酸基含有オレフィン重合体(C)1〜20重量部を合計が100重量部になるように配合してなることを特徴とする上記太陽電池封止材に関する。
【0012】
また、本発明は、酸基含有オレフィン重合体(C)がマレイン酸付加重合体及び/又は無水マレイン酸付加重合体であることを特徴とする上記太陽電池封止材に関する。
【0013】
また、本発明は、シート状である上記太陽電池封止材に関する。
【0014】
また、本発明は、上記太陽電池封止材を用いてなる、太陽電池モジュールに関する。
【0015】
また、本発明は、上記太陽電池モジュールを用いて得られた、発電設備に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、架橋処理を行わずにガラス基板に対する高い密着力を達成することで、太陽電池モジュールの生産効率の向上と長期間の封止安定性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、まず、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0018】
(封止材)
本発明で用いられる封止材は、後述するアルファ−オレフィン重合物(A)、粘着付与樹脂(B)、酸基含有オレフィン重合体(C)、必要に応じてその他の添加剤を配合したものからなる樹脂組成物である。
【0019】
本発明に用いられるアルファ−オレフィン重合物(A)の具体例としては、エチレンや、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等のアルファ−オレフィン化合物から選ばれる1種類以上の単量体を重合してなる重合物である。
【0020】
アルファ−オレフィン重合体(A)は、190℃におけるMFRが0.5〜60g/10minであることが好ましく、より好ましくは1.0〜20g/10minである。190℃におけるMFRが60g/10minを超えると、得られる太陽電池封止材の弾性が低下する傾向にある。190℃におけるMFRが0.5g/10min未満であると、混練加工による製造が困難になる恐れがある。
【0021】
アルファ−オレフィン重合体(A)の25℃での密度は、0.85〜0.95g/cm3であることが好ましい。密度が0.85g/cm3未満になると凝集力が低下する傾向にあり、密度が0.95g/cm3を超えると流動性が低下する傾向にある。
【0022】
本発明の太陽電池封止材を構成するアルファ−オレフィン重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、及び酸基含有オレフィン重合体(C)の合計を100重量部としたとき、アルファ−オレフィン重合体(A)の配合量は50〜90重量部であることが好ましい。より好ましくは50〜80重量部であり、更に好ましくは50〜70重量部である。アルファ−オレフィン重合体(A)の配合量が50重量部未満であると、得られる太陽電池封止材の凝集力が低下する傾向にある。アルファ−オレフィン重合物(A)の配合量が90重量部を超えると、混練加工による製造が困難になる恐れがある。
【0023】
アルファ−オレフィン重合物(A)の市販品としては、商品名「エンゲージ」(デュポン ダウ エラストマージャパン社製)、商品名「タフマー」(三井化学製)等を挙げることができる。
【0024】
本発明の太陽電池封止材を構成する粘着付与樹脂(B)の軟化点は70〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜145℃である。70℃未満であると、タックが高く凝集破壊してしまうことがあり、150℃を超えると、接着性が消失してしまうことがある。
【0025】
粘着付与剤(B)としては、完全水素添加された脂肪族系、脂環族系、芳香族系等の石油系樹脂やテルペン系樹脂であることが好ましく、より好ましくは完全水素添加されたテルペン系樹脂である。完全水素添加されていない粘着付与剤を用いると、経時で脆化による接着力の低下が生じやすい。
【0026】
本発明の太陽電池封止材を構成するアルファ−オレフィン重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、及び酸基含有オレフィン重合体(C)の合計を100重量部としたとき、粘着付与樹脂(B)の配合量は5〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量部である。粘着付与樹脂(B)の配合量が5重量部未満であると、得られる太陽電池封止材の接着性が低下する傾向にある。粘着付与樹脂(B)の配合量が50重量部を超えると、耐久性が低下する傾向にある。
【0027】
粘着付与樹脂(B)の酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは20mgKOH/g以下である。酸価が30mgKOH/gを超えると耐久性が劣る傾向にある。
【0028】
粘着付与樹脂(B)の市販品としては、商品名「アルコンP」(荒川化学社製)、商品名「クリアロンP」(ヤスハラケミカル社製)等を挙げることができる。
【0029】
本発明に用いられる酸基含有オレフィン重合体(C)の具体例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基などの酸性官能基を有するオレフィン単量体を、必要に応じて他のオレフィン単量体と共に重合してなる重合体が挙げられ、その酸基は、金属塩となっていてもよい。これら重合体は、酸性官能基を有する単量体とその他の単量体とを共重合する方法、オレフィン樹脂に酸基含有ビニルモノマーを共重合させる方法などで得ることができる。さらに、これら酸基含有重合体を金属化合物と反応させて酸性基の一部ないしは全部を金属塩化する方法などにより得られる。
【0030】
上記酸性官能基を有する単量体として、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、及びその無水物などを挙げることができる。
【0031】
本発明に用いられる酸基含有オレフィン重合体(C)を構成する他の単量体としてエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸グリシジルなどの不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0032】
酸基含有オレフィン重合体(C)としてより具体的には、酸基を有しないオレフィン単量体と不飽和カルボン酸の共重合体またはその金属塩を好適例として挙げることができる。さらに、オレフィン−(無水)マレイン酸グラフト重合体を好適例として挙げることができる。
【0033】
酸基含有オレフィン重合体(C)は、190℃におけるMFRが100〜1000g/10minであることが好ましく、より好ましくは200〜400g/10minである。1000g/10minを超えると、膜強度が劣り凝集破壊してしまうことがあり、100g/10min未満であると、接着性が消失してしまうことがある。
【0034】
本発明の太陽電池封止材を構成するアルファ−オレフィン重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、及び酸基含有オレフィン重合体(C)の合計を100重量部としたとき、酸基含有オレフィン重合体(C)の配合量は1〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜20重量部である。酸基含有オレフィン重合体(C)の配合量が1重量部未満であると、得られる太陽電池封止材の接着性が低下する傾向にある。酸基含有オレフィン重合体(C)の配合量が20重量部を超えると、耐久性が低下する傾向にある。
【0035】
酸基含有オレフィン重合体(C)の市販品としては、商品名「ニュクレル」(三井デュポンケミカル社製)、商品名「アドマー」(三井化学社製)、商品名「トーヨータック」(東洋紡績社製)等を挙げることができる。
【0036】
本発明のMFRとは、JIS K7210−1999による熱可塑性プラスチックの一般的な流れ試験方法(190℃、2.16kgf荷重)によった。
本発明の軟化点とは、JIS K 6863−1994による環球法による軟化点試験方法によった。
【0037】
本発明の太陽電池封止材には、発明の目的を損なわない範囲で紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、酸化防止剤などの添加剤が添加されてもよい。
【0038】
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの通常使用されるものが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0039】
上記光安定剤としては、ヒンダードアミン系の通常使用されるものが挙げられる。
【0040】
上記シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトブチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0041】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は、単独で用いても良いし、2種類以上が併用されてもよい。
【0042】
上記フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジエチル〔[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル〕ホスフォネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル]プロピオネート等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、単独で用いても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0043】
上記リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。
【0044】
本発明の太陽電池封止材を製造する方法としては特に限定されず、公知の方法を適用することができる。一般的な調製方法として、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダーなどの装置を用いて各種成分を混練し、次いで得られた混練物を冷却及び粉砕する方法が挙げられる。混練形式についても特に限定されないが、溶融混練とすることが好ましい。溶融混練時の条件は、使用する各種成分の種類や配合量によって適宜決定すればよく、特に制限はない。さらに、プレス成型、シート状に押出しなどの後、所定の大きさに切断処理したり、また射出成型などにより所定の形状に成型可能である。本発明の太陽電池封止材に適用するためには、得られる成形体の生産安定性の観点から、シート状が好ましい。
【0045】
[太陽電池用封止シート]
本発明の太陽電池封止材を用いて得られた太陽電池用封止シートは、本発明の好ましい実施形態の1つである。この太陽電池用封止シートは、本発明の太陽電池封止材からなる層を、少なくとも1層有する。なお、ここで、「からなる」とは、当該層の全部が当該太陽電池封止材で構成されている場合、当該層の一部が当該太陽電池封止材で構成されている場合、の双方を含む趣旨である。
【0046】
上記の本発明の太陽電池封止材からなる層の厚みは、通常0.01mm〜1mm、好ましくは、0.05〜0.8mmである。厚みがこの範囲内であると、ラミネート工程における、ガラス、太陽電池セルの破損が抑制でき、かつ、十分な光線透過率を確保することにより高い光発電量を得ることができるので好ましい。
【0047】
本発明の太陽電池封止材からなる層の成形方法には特に制限は無いが、公知の各種の成形方法(キャスト成形、押出しシート成形、インフレーション成形、射出成形、圧縮成形、カレンダー成形等)を採用することが可能である。また、その表面にはエンボス加工を施すことが可能であり、エンボス加工によりこの層の表面を装飾することで封止シート同士、または、封止シートと他のシート等とのブロッキングを防止し、さらに、エンボスが、ラミネート時の太陽電池素子等に対するクッションとなって、これらの破損を防止するので好ましい。
【0048】
本発明の好ましい実施形態である太陽電池用封止シートは、本発明の太陽電池封止材からなる層を少なくとも1層有していれば良い。従って、本発明の太陽電池封止材からなる層の層数は、1層であっても良いし、2層以上であっても良い。構造を単純にしてコストを下げる観点、および、層間での界面反射を極力小さくし光を有効に活用する観点等からは、1層であることが好ましい。
【0049】
本発明の好ましい実施形態である太陽電池用封止シートは、本発明の太陽電池封止材からなる層のみで構成されていても良いし、本発明の太陽電池封止材を含有する層以外の層(以下、「その他の層」とも言う)を有していても良い。
【0050】
その他の層の例としては、目的で分類するならば、表面または裏面保護のためのハードコート層、接着層、反射防止層、ガスバリア層、防汚層等を設けることができる。材質で分類するならば、紫外線硬化性樹脂からなる層、熱硬化性樹脂からなる層、ポリオレフィン樹脂からなる層、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂からなる層、フッ素含有樹脂からなる層、環状オレフィン(共)重合体からなる層、無機化合物からなる層等を設けることができる。
【0051】
本発明の太陽電池封止材からなる層と、その他の層との位置関係には特に制限はなく、発明の目的との関係で好ましい層構成が適宜選択される。すなわち、その他の層は、2以上の本発明の太陽電池封止材からなる層の間に設けられても良いし、太陽電池用封止シートの最外層に設けられても良いし、それ以外の箇所に設けられても良い。本発明の太陽電池封止材からなる層の片面にのみその他の層が設けられても良いし、両面にその他の層が設けられても良い。その他の層の層数に特に制限はなく、任意の数のその他の層を設けることができるし、その他の層を設けなくともよい。
【0052】
構造を単純にしてコストを下げる観点、および、界面反射を極力小さくし光を有効に活用する観点等からは、その他の層を設けず、本発明の太陽電池封止材からなる層のみで、太陽電池用封止シートを作製すればよいし、目的との関係で必要又は有用なその他の層があれば、適宜そのようなその他の層を設ければよい。
【0053】
他の層を設ける場合の本発明の太陽電池封止材からなる層と他の層との積層方法については特に制限はないが、キャスト成形機、押出しシート成形機、インフレーション成形機、射出成形機等の公知の溶融押出機を用いて共押出して積層体を得る方法、あるいはあらかじめ成形された一方の層上に他方の層を溶融あるいは加熱ラミネートして積層体を得る方法が好ましい。また、適当な接着剤(たとえば、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(たとえば、三井化学社製のアドマー、三菱化学社製のモディックなど)、不飽和ポリオレフィンなどの低(非)結晶性軟質重合体、エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸3元共重合体(たとえば、住化シーディエフ化学製のボンダインなど)をはじめとするアクリル系接着剤、エチレン/酢酸ビニル系共重合体またはこれらを含む接着性樹脂組成物など)を用いたドライラミネート法あるいはヒートラミネート法などにより積層してもよい。接着剤としては、120°C〜150°C程度の耐熱性があるものが好ましく使用され、ポリエステル系あるいはポリウレタン系接着剤などが好適なものとして例示される。また、両層の接着性を改良するために、たとえば、シラン系カップリング処理、チタン系カップリング処理、コロナ処理、プラズマ処理等を用いても良い。
【0054】
本発明の太陽電池用封止シートは、厚み0.5mm以下の試料で測定したときの内部ヘイズが1%〜60%、好ましくは5%〜50%の範囲にあることが望ましい。
【0055】
[太陽電池モジュール]
本発明の太陽電池封止材および、本発明の好ましい実施形態である太陽電池封止用シートは、上述のような優れた特性を有する。従って、かかる太陽電池封止材および/または太陽電池封止用シートを用いて得られた太陽電池モジュールは、本発明の効果を活用することが可能であり、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0056】
太陽電池モジュールは、通常、多結晶シリコン等により形成された太陽電池素子を太陽電池用封止シートで挟み積層し、さらに表裏両面を保護シートでカバーした構造になっている。すなわち典型的な太陽電池モジュールは、太陽電池モジュール用保護シート(表面保護シート)/太陽電池用封止シート/太陽電池素子/太陽電池用封止シート/太陽電池モジュール用保護シート(裏面保護シート)という構成になっている。尤も、本発明の好ましい実施形態の1つである太陽電池モジュールは、上記の構成には限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で、上記の各層の一部を適宜省略し、又は、上記以外の層を適宜設けることができる。典型的には、接着層、衝撃吸収層、コーティング層、反射防止層、裏面再反射層、光拡散層等を設けることができるがこれらに限定されない。これらの層を設ける位置には特に限定はなく、そのような層を設ける目的、および、そのような層の特性を考慮のうえ、適切な位置に設けることができる。
【0057】
[太陽電池モジュール用表面保護シート]
本発明の好ましい実施形態である太陽電池モジュールにおいて好ましく用いられる太陽電池モジュール用表面保護シートには特に制限はないが、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、耐候性、撥水性、耐汚染性、機械強度をはじめとして、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保するための性能を具備することが好ましい。また、太陽光を有効に活用するために、光学ロスの小さい、透明性の高いシートであることが好ましい。
【0058】
上記太陽電池モジュールに好適に用いられる太陽電池モジュール用表面保護シートの材料としては、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン(共)重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる樹脂フィルムの他、ガラス基板などが挙げられる。
【0059】
樹脂フィルムとして特に好適なのは、透明性、強度、コスト等の点で優れたポリエステル樹脂、とりわけポリエチレンテレフタレート樹脂である。
【0060】
また、特に耐侯性の良いフッ素樹脂も好適に用いられる。具体的には、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(TFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)がある。耐候性の観点ではポリフッ化ビニリデン樹脂が優れているが、耐候性および機械的強度の両立では四フッ化エチレン−エチレン共重合体が優れている。また、封止材層等の他の層を構成する材料との接着性の改良のために、コロナ処理、プラズマ処理を表面保護シートに行うことが望ましい。また、機械的強度向上のために延伸処理が施してあるシート、例えば2軸延伸のポリプロピレンシートを用いることも可能である。
【0061】
太陽電池モジュール用表面保護シートとしてガラスを用いる場合には、波長350乃至1400nmの光の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。かかるガラス基板としては赤外部の吸収の少ない白板ガラスを使用するのが一般的であるが、青板ガラスであっても厚さが3mm以下であれば太陽電池モジュールの出力特性への影響は少ない。また、ガラス基板の機械的強度を高めるために熱処理により強化ガラスを得ることができるが、熱処理無しのフロート板ガラスを用いてもよい。また、ガラス基板の受光面側に反射を抑えるために反射防止のコーティングをしても良い。
【0062】
[太陽電池モジュール用裏面保護シート]
本発明の好ましい実施形態である太陽電池モジュールにおいて用いられる太陽電池モジュール用裏面保護シートには特に制限はないが、太陽電池モジュールの最表層に位置するため、上述の表面保護シートと同様に、耐候性、機械強度等の諸特性を求められる。従って、表面保護シートと同様の材質で太陽電池モジュール用裏面保護シートを構成しても良い。すなわち、表面保護シートにおいて用いることができる上述の各種材料を、裏面保護シートにおいても、用いることができる。特に、ポリエステル樹脂、およびガラスを好ましく用いることができる。
【0063】
また、裏面保護シートは、太陽光の通過を前提としないため、表面保護シートで求められていた透明性は必ずしも要求されない。そこで、太陽電池モジュールの機械的強度を増すために、あるいは、温度変化による歪、反りを防止するために、補強板を張り付けても良い。例えば、鋼板、プラスチック板、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)板等を好ましく使用することができる。
【0064】
[太陽電池素子]
本発明の好ましい実施形態である太陽電池モジュールにおける太陽電池素子は、半導体の光起電力効果を利用して発電できるものであれば特に制限はなく、たとえば、シリコン(単結晶系、多結晶系、非結晶(アモルファス)系)太陽電池、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)太陽電池、湿式太陽電池、有機半導体太陽電池などを用いることができる。この中では発電性能とコストとのバランスなどの観点から、多結晶シリコン太陽電池が好ましい。
【0065】
シリコン、化合物半導体とも、太陽電池素子として優れた特性を有しているが、外部からの応力、衝撃等により破損しやすいことで知られている。本発明の太陽電池封止材は、柔軟性に優れているので、太陽電池素子への応力、衝撃等を吸収して、太陽電池素子の破損を防ぐ効果が大きい。従って、本発明の好ましい実施形態である太陽電池モジュールにおいては、本発明の太陽電池封止材からなる層が、直接太陽電池素子と接合されていることが望ましい。
【0066】
また、太陽電池封止材が熱可塑性を有していると、一旦太陽電池モジュールを作製した後であっても、比較的容易に太陽電池素子を取り出すことが可能であり、リサイクル性に優れている。本発明の太陽電池封止材の必須成分は熱可塑性を有しているので、太陽電池封止材全体としても熱可塑性を付与することが容易であり、リサイクル性の観点からも好ましい。
【0067】
[発電設備]
本発明の好ましい実施形態である太陽電池モジュールは、生産性、発電効率、寿命等に優れている。このため、この様な太陽電池モジュールを用いた発電設備は、コスト、発電効率、寿命等に優れ、実用上高い価値を有する。
【0068】
上記の発電設備は、家屋の屋根に設置する、キャンプなどアウトドア向けの移動電源として利用する、自動車バッテリーの補助電源として利用する等の、屋外、屋内を問わず長期間の使用に好適である。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明を実施例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様に過ぎず、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
なお、例中、「部」とあるのは「重量部」を、「%」とあるのは「重量%」をそれぞれ表すものとする。
【0070】
表1に示した割合で、攪拌機を備えたニーダーにアルファ−オレフィン共重合体(A)、粘着付与樹脂(B)、酸基含有オレフィン重合体(C)を加え、170℃で3時間攪拌し、太陽電池封止材用樹脂組成物を得た。
【0071】
上記製造例で得られた樹脂組成物をTダイ法により押し出しにより、厚みが0.5mmであるシート状成型物を得た。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に記載のアルファ−オレフィン重合物(A)の略号を以下に示す。
3110:「タフマー BL−3110」(三井化学社製) プロピレン・1−ブテン共重合体、MFR(190℃)=1.0g/10min、密度(25℃)=0.91g/cm2
3450:「タフマー BL−3450」(三井化学社製) プロピレン・1−ブテン共重合体、MFR(190℃)=4.0g/10min、密度(25℃)=0.90g/cm2
8130:「エンゲージ 8130」(デュポン ダウ エラストマージャパン社製)、エチレン−オクテン共重合体、MFR(190℃)=13g/10min、密度(25℃)=0.86g/cm2
8402:「エンゲージ 8402」(デュポン ダウ エラストマージャパン社製)、エチレン−オクテン共重合体、MFR(190℃)=30g/10min、密度(25℃)=0.90g/cm2
888:「ベストプラスト888」(デボニック デグサ社製)、熱可塑性樹脂:エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体、MFR(190℃)=132g/10min、密度=0.87g/cm2
【0074】
表1に記載の粘着付与樹脂(B)の略号を以下に示す。
P−100:アイマーブP−100(出光興産社製)、完全水添石油樹脂、軟化点100℃
P−105:クリアロンP−105(ヤスハラケミカル社製)、完全水添テルペン樹脂、軟化点105℃
P−125:クリアロンP−125(ヤスハラケミカル社製)、完全水添テルペン樹脂、軟化点125℃
P−145:アルコンP−145(荒川化学工業社製)、完全水添石油樹脂、軟化点145℃
P−150:クリアロンP−150(ヤスハラケミカル社製)、完全水添テルペン樹脂、軟化点150℃
M−70:アルコンM−70(荒川化学工業社製)、部分水添石油樹脂、軟化点70℃
M−115:アルコンM−115(荒川化学工業社製)、部分水添石油樹脂、軟化点115℃
M−135:アルコンM−135(荒川化学工業社製)、部分水添石油樹脂、軟化点135℃
T−50:YSポリスターT−50(ヤスハラケミカル社製)、テルペンフェノール樹脂、軟化点50℃
D−160:ペンセルD−160(荒川化学工業社製)、変性ロジンエステル樹脂、軟化点160℃
【0075】
表1の中の酸基含有オレフィン重合体(C)の略号を以下に示す。
2050H:「ニュクレルN2050H」(三井デュポンケミカル社製) エチレン−メタクリル酸共重合体、MFR(190℃)=500g/10min、密度(25℃)=0.95g/cm2
PMA:「トーヨータック PMA−H」(東洋紡績社製) オレフィン−マレイン酸グラフト重合体、MFR(190℃)=780g/10min、密度(25℃)=0.98g/cm2
5130H:「ニュクレルN5130H」(三井デュポンケミカル社製) エチレン−アクリル酸共重合体、MFR(190℃)=300g/10min、密度(25℃)=0.95g/cm2
QF500:「アドマー QF500」(三井化学社製) オレフィン−マレイン酸グラフト重合体、MFR(190℃)=3.2g/10min、密度(25℃)=0.99g/cm2
N1035:「ニュクレルN1035」(三井デュポンケミカル社製) エチレン−メタクリル酸共重合体、MFR(190℃)=35g/10min、密度(25℃)=0.93g/cm2
【0076】
[接着性]
太陽電池用の上部透明保護材である透明ガラス板とPETフイルムとの間に、0.5mm厚みの上記シートサンプルを挟んで真空ラミネーター内に仕込み、160℃に温調したホットプレート上に載せて15分間加熱し、ガラス板/シートサンプル/PETフイルムの積層体を作成した。この積層体について、ガラスとシートサンプル間を手で剥がしてその剥がれ具合を観察し、下記3段階で評価した。
【0077】
○:接着性良好 △:やや接着不足 ×:接着性不良
【0078】
【表2】

【0079】
表2の結果から本発明の太陽電池封止材は、長時間の加熱処理時間を必要とせずにガラス板に対する高い接着性が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の太陽電池封止材は、接着性、耐熱性、耐久性に優れている。また、本発明の太陽電池封止材は、一般ラベル、シールの他、塗料、弾性壁材、塗膜防水材、床材、粘着付与樹脂、接着剤、積層構造体用接着剤、シーリング剤、成形材料、表面改質用コーティング剤、バインダー(磁気記録媒体、インキバインダー、鋳物バインダー、焼成レンガバインダー、グラフト材、マイクロカプセル、グラスファイバーサイジング用等)、ウレタンフォーム(硬質、半硬質、軟質)、ウレタンRIM、UV・EB硬化樹脂、ハイソリッド塗料、熱硬化型エラストマー、マイクロセルラー、繊維加工剤、可塑剤、吸音材料、制振材料、界面活性剤、ゲルコート剤、人工大理石用樹脂、人工大理石用耐衝撃性付与剤、インキ用樹脂、シート(ラミネート接着剤、保護シート等)、合わせガラス用樹脂、反応性希釈剤、各種成形材料、弾性繊維、人工皮革、合成皮革等の原料として、また、各種樹脂添加剤及びその原料等としても非常に有用に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃におけるMFRが0.5〜60g/10minであるアルファ−オレフィン重合体(A)、軟化点が70〜150℃である粘着付与剤(B)、190℃におけるMFRが100〜1000g/10minである酸基含有オレフィン重合体(C)を含むことを特徴とする太陽電池封止材。
【請求項2】
粘着付与樹脂(B)が、完全水素添加された、石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池封止材。
【請求項3】
アルファ−オレフィン重合体(A)50〜90重量部、粘着付与剤(B)5〜50重量部、酸基含有オレフィン重合体(C)1〜20重量部を合計が100重量部になるように配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池封止材。
【請求項4】
酸基含有オレフィン重合体(C)がマレイン酸付加重合体及び/又は無水マレイン酸付加重合体であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項5】
シート状である請求項1〜4いずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池封止材を用いてなる、太陽電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池モジュールを用いて得られた、発電設備。

【公開番号】特開2012−204551(P2012−204551A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66865(P2011−66865)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【出願人】(591004881)東洋アドレ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】