説明

太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体、および太陽電池封止膜の保存または運搬方法

【課題】保存および運搬中における太陽電池封止膜に含まれる架橋剤等の揮発や変質を抑制しつつ;包装部材に含まれる硫黄成分の、太陽電池封止膜への付着を抑制する。それにより、太陽電池モジュールの外観不良や発電効率の低下を抑制する。
【解決手段】
太陽電池封止膜と、前記太陽電池封止膜を包装する包装シートと、を含み、前記包装シートの単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、1.1×10−3μg/mm以下である、太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体、および太陽電池封止膜の保存または運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、通常は、多結晶シリコンなどにより形成された太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの太陽電池封止膜で挟んで積層し、その表裏両面をさらに太陽電池モジュール用保護シート(保護部材)でカバーした構造を有する。このような太陽電池モジュールは、表面側透明保護部材、太陽電池封止膜、太陽電池セル、太陽電池封止膜および裏面側保護部材をこの順で積層し;該積層体を加熱加圧してエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を架橋硬化させて封止することにより製造される。
【0003】
上記加熱加圧による架橋硬化を行うために、太陽電池封止膜に、有機過酸化物などの架橋剤や、太陽電池セル等との接着性や長期耐久性を付与するための各種添加剤を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このように、太陽電池封止膜は、未反応の架橋剤、接着剤などの各種添加剤を含んだ状態で保管および運搬されることが一般的である。
【0004】
しかしながら、太陽電池封止膜の運搬および保管時の外気温度の変化や大気中の水分との反応により、太陽電池封止膜に含まれる架橋剤や添加剤などが揮発または変質することがある。このため、太陽電池モジュールを製造する際に、太陽電池封止膜としての所望の硬化特性や接着性が得られないことがあった。また、変質した添加剤は、それ自体が着色して太陽光の光透過性を低下させたり、太陽電池モジュールの集電線などを腐食させて電荷の移動を妨げたりし、太陽電池の発電効率を低下させるおそれもあった。
【0005】
このため、太陽電池封止膜を包装シート等で包装して保管および運搬することで、太陽電池封止膜に含まれる架橋剤や添加剤の揮散や反応を抑制することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−281135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、太陽電池封止膜の品質は、包装シートによっても十分に保持されるものではなかった。さらに、太陽電池封止膜自体の品質が保持されていても、太陽電池封止膜を用いて形成した封止層を有する太陽電池モジュールを使用しているうちに、太陽電池セルの電極が腐食して、発電効率が低下したり、変色して外観不良が生じたりすることがあった。
【0008】
本発明者は、この原因が、太陽電池セルの電極に含まれる金属成分が、硫黄成分と反応するためであることを見いだした。さらに、この硫黄成分は、本来硫黄成分を含む部材ではない封止層に由来する成分であることが見いだされた。そして、この硫黄成分は、封止層を形成するための太陽電池封止膜を保存または運搬するための、包装シートやその粘着テープなどに含まれる成分であり;その成分が、保存または運搬中に太陽電池封止膜に付着していることがわかった。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、保存および運搬中における太陽電池封止膜に含まれる架橋剤等の揮発や変質を抑制しつつ;包装部材に含まれる硫黄成分の、太陽電池封止膜への付着を抑制することができる、太陽電池封止膜の保管用または運搬用包装体、および保管または運搬方法を提供する。それにより、太陽電池モジュールの外観不良や発電効率の低下を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一は、以下に示す太陽電池封止膜の包装体に関する。
[1] 太陽電池封止膜と、前記太陽電池封止膜を包装する包装シートと、を含み、前記包装シートの単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、1.1×10−3μg/mm以下である、太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[2] 前記包装体は、前記包装体の開口部を封止する粘着テープをさらに有し、前記粘着テープの粘着層の単位面積あたりの硫黄元素の含有量が、9.0×10−2μg/mm以下である、[1]に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[3] 前記包装体は、前記包装体の開口部を封止する粘着テープをさらに有し、前記粘着テープの粘着層の単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、4.5×10−3μg/mm以下である、[1]または[2]に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[4] 前記太陽電池封止膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[5] 前記太陽電池封止膜は、太陽電池セルの、金属成分を含む電極に積層される、[1]〜[4]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[6] 前記包装シートは、溶融温度が80〜160℃である樹脂を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
[7] 前記包装シートは、ポリオレフィンを含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【0011】
本発明の第二は、以下に示す太陽電池封止膜の保存または運搬方法に関する。
[8] 太陽電池封止膜の保存または運搬方法であって、前記太陽電池封止膜を、単位体積あたりの硫黄元素の含有量が1.1×10−3μg/mm以下である包装シートで包装することにより包装体を得る工程と、前記包装体を暗所に置いて保存または運搬する工程と、を含む、太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
[9] 前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部を粘着テープで封止する工程を含み、前記粘着テープの粘着層の単位面積あたりの硫黄元素の含有量が、9.0×10−2μg/mm以下である、[8]に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
[10] 前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部を粘着テープで封止する工程を含み、前記粘着テープの粘着層の単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、4.5×10−3μg/mm以下である、[8]に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
[11] 前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部をヒートシールで封止する工程を含む、[8]〜[10]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
[12] 前記太陽電池封止膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として含む、[9]〜[11]のいずれかに記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、太陽電池封止膜の保存および運搬中における架橋剤等の揮発や変質を抑制しつつ、包装部材に含まれる硫黄成分の太陽電池封止膜への付着を抑制することができる。それにより、太陽電池モジュールの外観不良や発電効率の低下を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における包装体の作製方法の一例を示す模式図である。
【図2】太陽電池モジュールの構成の一例を示す断面図である。
【図3】太陽電池モジュールの受光面と裏面の構成の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.太陽電池封止膜
太陽電池封止膜は、主成分となる樹脂、架橋剤、および必要に応じて接着性付与剤等の各種添加剤を含む。
【0015】
主成分となる樹脂の例には、エチレン単独重合体や、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外の共重合成分との共重合体が含まれる。エチレン共重合体は、エチレンと共重合成分とのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、好ましくはランダム共重合体である。エチレン共重合体における共重合成分の例には、エチレン以外の炭素原子数が3〜20のα−オレフィン、環状オレフィン、酢酸ビニル等が含まれる。
【0016】
エチレン以外の炭素原子数が3〜20のα−オレフィンの例には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが含まれる。
【0017】
環状オレフィンの例には、ノルボルネン誘導体、トリシクロ−3−デセン誘導体、トリシクロ−3−ウンデセン誘導体、テトラシクロ−3−ドデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ−3−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ−3−ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ−4−ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ−5−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−4−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−5−ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ−5−ドコセン誘導体、ノナシクロ−5−ペンタコセン誘導体、ノナシクロ−6−ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン−アセナフチレン付加物、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3〜20のシクロアルキレン誘導体などが含まれる。中でも、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン誘導体およびヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−4−ヘプタデセン誘導体が好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンが特に好ましい。
【0018】
エチレン共重合体における共重合成分(α−オレフィン、環状オレフィンおよび酢酸ビニル)は、1種類単独で用いられてもよく、少なくとも2種類以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0019】
エチレン共重合体における共重合成分は、さらにエチレン性不飽和シラン化合物やラジカル重合性不飽和化合物を含んでもよい。
【0020】
エチレン性不飽和シラン化合物は、従来公知のものが用いることができ、特に制限はない。エチレン性不飽和シラン化合物の例には、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシーエトキシシラン)、γ−グリシドキシプロピルートリピルトリーメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。
【0021】
ラジカル重合性不飽和化合物の例には、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、アミノ基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基エチレン性不飽和化合物、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸あるいはその誘導体、ビニルエステル化合物、塩化ビニル、カルボジイミド化合物などが含まれる。
【0022】
主成分となる樹脂は、透明性、柔軟性および耐久性が高く、各種添加剤との相溶性に優れる点などから、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。
【0023】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、好ましくはランダム共重合体でありうる。エチレン−酢酸ビニル共重合体における、酢酸ビニル由来の構成単位の含有量は、好ましくは20〜38重量%であり、より好ましくは24〜36重量%であり、さらに好ましくは26〜34重量%である。ただし、エチレン由来の構成単位の含有量と酢酸ビニル由来の構成単位の含有量の合計を100重量%とする。
【0024】
架橋剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を架橋反応させることにより、太陽電池封止膜の耐熱性および耐候性を向上させうる。このような架橋剤としては、一般に、100℃以上でラジカルを発生する有機過酸化物が好ましく、特に配合時の安定性を考慮すると、半減期10時間の分解温度が70℃以上である有機過酸化物がより好ましい。
【0025】
このような有機過酸化物の例には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエートおよびベンゾイルパーオキサイドなどが含まれる。
【0026】
架橋剤の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、0.1〜3.0重量部であることが好ましく、0.2〜2.0重量部であることがより好ましい。
【0027】
本発明に用いられる太陽電池封止膜は、必要に応じて、さらに接着性付与剤や架橋助剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0028】
接着性付与剤は、太陽電池封止膜の発電素子に対する接着性を向上させうる。接着性付与剤は、シランカップリング剤であることが好ましい。シランカップリング剤の例には、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが含まれる。これらのシランカップリング剤の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、通常0.1〜3.0重量部であることが好ましく、0.2〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0029】
架橋助剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋反応性を高めて、太陽電池封止膜の耐久性を向上させうる。架橋助剤の例には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアネートなどの3官能の架橋助剤のほか、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが含まれる。
【0030】
その他の添加剤の例には、着色剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、変色防止剤、耐熱安定剤、紫外線(耐候)安定剤、光安定剤などが含まれる。
【0031】
着色剤の例には、金属酸化物および金属粉などの無機顔料;アゾ系、フタロシアニン系、および酸性もしくは塩基性染料系レーキなどの有機顔料が含まれる。
【0032】
紫外線吸収剤の例には、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレートおよびp−t−ブチルフェニルサルシレートなどのヒンダートアミン系などが含まれる。
【0033】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、ビスフェニル系およびヒンダートアミン系が含まれ、例えばジ−t−ブチル−p−クレゾールおよびビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペラジル)セバケートなどが含まれる。紫外線(耐候)安定剤の例には、ジブチルヒドロキシトルエンなどが含まれる。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体の安定性を向上させる上で、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノンおよびメチルハイドロキノンなどが含まれてもよい。
【0034】
このような太陽電池封止膜は、前述した成分を含む樹脂組成物を、T−ダイ押出成形機を用いて溶融混練して溶融樹脂シートとして押出した後、冷却固化する方法(溶融押出法);または溶融樹脂を複数のローラで挟んでフィルム状に圧延して成型する方法(カレンダー法)などにより得ることができる。太陽電池封止膜の厚みは、例えば100μm〜2000μm程度である。
【0035】
太陽電池封止膜は、加熱硬化工程におけるクッション性や脱気性を向上させる点で、その表面にエンボス加工が施されていてもよい。
【0036】
2.太陽電池封止膜の包装体
太陽電池封止膜は、ロール状または所定のサイズに切り出されたシート状に積層された後、包装シートで梱包された包装体として保存または運搬される。太陽電池封止膜に含まれる、揮発性を有する架橋剤(例えば、有機過酸化物)や添加剤(例えば、シランカップリング剤)の揮発や反応を抑制するためである。包装体は、密閉性を高める等の観点から、粘着テープで封止されていてもよい。
【0037】
包装シートは、ガスバリア性および水蒸気バリア性が良好である点などから、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、単独重合体であってもよいし、他の共重合体成分を含む共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂の例には、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン樹脂、エチレン−αオレフィン共重合体樹脂などが含まれる。
【0038】
包装シートに含まれるポリオレフィン樹脂は、ヒートシール性を有することが好ましい。ポリオレフィン樹脂のヒートシール温度(溶融温度)は、運搬中に溶融せず、かつヒートシールが容易である点から、80〜160℃であることが好ましい。良好なガスバリア性とヒートシール性とを有する点から、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどがより好ましい。
【0039】
包装シートは、ポリオレフィン樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂の例には、ポリエステルなどが含まれる。
【0040】
包装シートは、硫黄成分をできるだけ含まないことが好ましい。包装シートに硫黄が多く含まれると、硫黄元素が太陽電池封止膜に付着し;硫黄元素が付着した太陽電池封止膜を用いて太陽電池モジュールの封止層を形成すると、その封止層にも硫黄成分が混入し;太陽電池モジュールの使用中に、太陽電池セルの電極に含まれる金属成分が、封止層に含まれる硫黄成分と徐々に反応して、腐食したり変色したりするからである。
【0041】
包装シートの、単位体積あたりの硫黄元素の含有量は1.1×10−3μg/mm以下であり、硫黄元素を実質的に含まないことがより好ましい。硫黄元素の含有量は、一般的な硫黄成分測定法により測定することができ、具体的にはエネルギー分散型蛍光X線測定(EDX)で測定できる。
【0042】
包装シートは、架橋剤や添加剤の揮発を抑制する観点から、高いガスバリア性および水蒸気バリア性を有することが好ましい。包装シートの、厚み100μmにおける透湿度が10g/(24hr・m)以下であることが好ましく、厚み100μmにおける透湿度が1g/(24hr・m)以下であることがより好ましい。透湿度は、JIS Z 0208に準拠して、温度40℃、相対湿度90%で測定されうる。
【0043】
包装シートの厚みは、シートの強度、取り扱い性、およびガスバリア性などを考慮して、50〜200μmであることが好ましい。
【0044】
太陽電池封止膜を梱包した包装シートは、さらに粘着テープで封止されてもよい。粘着テープは、基材フィルムと、粘着層とを含む。
【0045】
粘着テープの粘着層は、粘着樹脂と、粘着性付与剤とを含む。粘着樹脂の例には、公知のアクリル系、ゴム系、シリコン系の粘着樹脂などが含まれる。
【0046】
アクリル系およびゴム系の粘着樹脂は、主剤となる重合体を架橋剤で架橋させたものである。粘着樹脂に含まれるゴム系重合体の例には、イソブチレン重合体等が含まれる。粘着樹脂に含まれるアクリル系共重合体の例には、n−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、エチルアクリレート等に由来する反復単位を含むアクリル系共重合体などが含まれる。アクリル系共重合体における共重合成分は、分子中に2重結合を有する成分、具体的には酢酸ビニル、アクリルニトリル、スチレンなどである。
【0047】
粘着性付与剤としては、ロジンや石油樹脂等のタッキファイアが含まれる。
【0048】
粘着テープは、例えば、主剤となる粘着樹脂、粘着性付与剤、および必要に応じて粘度を調整するための溶剤を混合することにより塗布液を得た後;該塗布液を、紙やプラスチック等の基材上に塗布・乾燥することにより得ることができる。
【0049】
これらの粘着樹脂には、粘着性を得るための硫黄成分が含まれることが多い。しかしながら、粘着層の成分は太陽電池封止膜の保管または運搬中に、太陽電池封止膜に付着しやすく;さらに付着した成分のうちの硫黄成分が電池セルの電極の金属成分と接すると、電極の腐食または変色を引き起こす。この腐食や変色を抑制するために、粘着層の硫黄成分の含有量を少なくすることが好ましい。
【0050】
具体的に、粘着層の、単位面積あたりの硫黄元素の含有量は9.0×10−2μg/mm以下であることが好ましい。粘着層の単位体積あたりの硫黄元素の含有量は4.5×10−3μg/mm以下であることが好ましい。
【0051】
硫黄成分の少ない粘着樹脂の例には、アクリル系粘着樹脂が含まれ、好ましくは架橋剤として有機過酸化物を用いたアクリル系の粘着樹脂である。一方で、ゴム系の粘着樹脂には多くの硫黄成分が含まれることが多い。硫黄成分の少ない粘着樹脂を粘着層とする粘着テープの例には、商品名:ダンブロン30(日東電工株式会社製)、商品名:オリエンテープ(積水化学株式会社製)などが含まれる。
【0052】
粘着層の厚みは、例えば5〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。粘着層が薄すぎると所望の粘着性が得られ難く、粘着層が厚すぎると粘着層に含まれる硫黄量が多くなるためである。
【0053】
包装体は、任意の方法で作製されうる。包装体の製造方法の例には、太陽電池封止膜の積層体を包装シートで梱包した後、包装シートの開口部をヒートシールまたは粘着テープで固定する方法;ボトムシールした袋状の包装シートに、太陽電池封止膜の積層体を入れた後、開口部をヒートシールまたは粘着テープで封止する方法などが含まれる。
【0054】
図1は、シート状の太陽電池封止膜を収納した包装体10の作製方法の一例を示す模式図である。図1(A)に示されるように、まずボトムシールした袋状の包装シート12を用意し、これに太陽電池封止膜14を入れる。次いで、図1(B)に示されるように、包装シート12の開口部12Aを、太陽電池封止膜とできるだけ重ならないように折り曲げる。その後、図1(C)に示されるように、折り曲げた部分を粘着テープ16で封止することにより、包装体10を得ることができる。粘着テープは、太陽電池封止膜14の端部と、包装シート12とが重なっている部位の上に位置するように貼り付ける。
【0055】
得られた包装体は、暗所に置かれて運搬または保存されることが好ましい。暗所とは、30℃以下、好ましくは25℃以下の直射日光の当たらない所であることが好ましい。包装体は、断熱性を高める観点などから、さらにダンボール等の梱包容器内に梱包されて保存または運搬されることが好ましい。
【0056】
3.太陽電池モジュール
保管および運搬された太陽電池封止膜は、太陽電池モジュールにおける太陽電池セルの封止部材(封止層)として好ましく用いられる。太陽電池セルの種類には、シリコン系(例えば結晶シリコン系、薄膜シリコン系)、化合物系(例えば、CIGS系)、有機系(例えば、色素増感系)などが含まれる。太陽電池セルがシリコン系である例で、以下説明する。
【0057】
(1)結晶シリコン系の太陽電池モジュール
図2は、結晶シリコン系の太陽電池モジュール20の構成の一例を示す断面図である。図2に示されるように、太陽電池モジュール20は、インターコネクタ29により電気的に接続された複数の結晶シリコン系の太陽電池セル22と、それを挟持する一対の表面側透明保護部材24と裏面側保護部材26とを有し、これらの保護部材と複数の太陽電池セル22との間に、封止層28が充填されている。封止層28は、本発明における太陽電池封止膜を加熱硬化させて得られるものであり、太陽電池セル22の受光面および裏面に形成された電極と接している。電極とは、太陽電池セル22の受光面および裏面にそれぞれ形成された集電部材であり、後述する集電線、タブ付用母線、および裏面電極層などを含む。
【0058】
図3は、太陽電池セル22の受光面22Aと裏面22Bに構成の一例を示す平面図である。図3(A)に示されるように、太陽電池セル22の受光面22Aには、ライン状に多数形成された集電線32と、集電線32から電荷を収集するとともに、インターコネクタ29と接続されるタブ付用母線(バスバー)34Aと、が形成されている。
【0059】
図3(B)に示されるように、太陽電池セル22の裏面22Bには、全面に導電層(裏面電極)36が形成され、その上に導電層36から電荷を収集するとともに、インターコネクタ29と接続されるタブ付用母線(バスバー)34Bが形成されている。
【0060】
集電線32の線幅は、例えば0.1mm程度であり;タブ付用母線34Aの線幅は、例えば2〜3mm程度であり;タブ付用母線34Bの線幅は、例えば5〜7mm程度である。集電線32、タブ付用母線34Aおよびタブ付用母線34Bの厚みは、例えば20〜50μm程度である。
【0061】
集電線32、タブ付用母線34Aおよびタブ付用母線34Bは、導電性が高い金属を含むことが好ましい。このような導電性の高い金属の例には、金、銀、銅などが含まれるが、導電性や耐腐食性が高い点などから、銀や銀化合物、銀を含有する合金などが好ましい。
【0062】
導電層36は、導電性の高い金属だけでなく、受光面で受けた光を反射させて太陽電池セルの光電変換効率を向上させる観点などから、光反射性の高い成分、例えばアルミニウムを含むことが好ましい。
【0063】
集電線32、タブ付用母線34A、タブ付用母線34Bおよび導電層36は、太陽電池セル22の受光面22Aまたは裏面22Bに、前記導電性の高い金属を含む導電材塗料を、例えばスクリーン印刷により50μmの塗膜厚さに塗布した後、乾燥し、必要に応じて例えば600〜700℃で焼き付けすることにより形成される。
【0064】
受光側の導電塗料の具体例には、商品名:Dupont Solametの品番:PV135(銀)、PV145(銀)、PV142(銀)などが含まれる。導電層36の導電塗料の例には、アルミニウムを主成分とし、導電性の高い金属をさらに添加した導電塗料が含まれ、具体例には商品名:Dupont Solametの品番:PV202(銀/アルミ)、PV322(アルミニウム)、PV34x(アルミニウム)などが含まれる。
【0065】
表面側透明保護部材24は、受光面側に配置されることから、透明である必要がある。表面側透明保護部材24の例には、透明ガラス板や透明樹脂フィルムなどが含まれる。一方、裏面側保護部材26は透明である必要はなく、その材質は特に限定されない。裏面側保護部材26の例にはガラス基板やプラスチックフィルム等が含まれる。
【0066】
太陽電池モジュール20は、任意の製造方法で得ることができる。太陽電池モジュール20は、例えば、裏面側保護部材26、太陽電池封止膜、複数の太陽電池セル22、太陽電池封止膜および表面側透明保護部材24をこの順に積層した積層体を得る工程;該積層体を、ラミネータ等により加熱加圧する工程;必要に応じて積層体を加熱処理する工程により得ることができる。
【0067】
加熱加圧条件は、太陽電池封止膜の種類にもよるが、例えば130℃、真空下3分、加圧下4分とすることができる。加熱処理条件は、主に太陽電池封止膜を架橋させる目的から、例えば150℃、40分とすることができる。
【0068】
(2)薄膜シリコン系(アモルファスシリコン系)の太陽電池モジュール
薄膜シリコン系の太陽電池モジュールは、1)表面側透明保護部材(ガラス基板)/薄膜太陽電池セル/封止層/裏面側保護部材をこの順に積層したもの;2)表面側透明保護部材/封止層/薄膜太陽電池セル/封止層/裏面側保護部材をこの順に積層したもの等でありうる。表面側透明保護部材、裏面側保護部材および封止層は、前述の1)の場合と同様である。
【0069】
1)の態様における薄膜太陽電池セルは、例えば、透明電極層/pin型シリコン層/裏面電極層をこの順に含む。透明電極層の例には、In、SnO、ZnO、CdSnO、ITO(InにSnを添加したもの)等の半導体系酸化物が含まれる。裏面電極層は、例えば銀薄膜層を含む。各層は、プラズマCVD(ケミカル・ベ−パ・デポジション)法やスパッタ法により形成される。
【0070】
封止層は、裏面電極層(例えば銀薄膜層)と接するように配置される。透明電極層は、表面側透明保護部材上に形成されるので、表面側保護部材と透明電極層との間に封止層は配置されないことが多い。
【0071】
2)の態様における薄膜太陽電池セルは、例えば、透明電極層/pin型シリコン層/金属箔、または耐熱性高分子フィルム上に配置された金属薄膜層(例えば、銀薄膜層)、をこの順に含む。金属箔の例には、ステンレススチール箔等が含まれる。耐熱性高分子フィルムの例には、ポリイミドフィルム等が含まれる。
【0072】
透明電極層およびpin型シリコン層は、前述と同様、CVD法やスパッタ法により形成される。つまり、pin型シリコン層は、金属箔、または耐熱性高分子フィルム上に配置された金属薄膜層に形成され;さらに透明電極層は、pin型シリコン層に形成される。また、耐熱性高分子フィルム上に配置される金属薄膜層もCVD法やスパッタ法により形成されうる。
【0073】
この場合、封止層は、透明電極層と表面側保護部材との間;および金属箔または耐熱性高分子フィルムと裏面側保護部材との間にそれぞれ配置される。封止層に混入した硫黄成分は、耐熱高分子フィルムを透過して薄膜太陽電池セルの金属薄膜層を腐食する場合もある。
【0074】
このように、太陽電池封止膜から得られる封止層は、太陽電池セルの集電線、タブ付用母線および導電層などの電極と接している。本発明によれば、保存および運搬中において、包装部材に含まれる硫黄成分の、太陽電池封止膜への付着を抑制することができる。このため、太陽電池封止膜から得られる封止層に硫黄成分が混入することなく、太陽電池モジュールの使用中に、太陽電池セルの電極に含まれる金属成分が、封止層に含まれる硫黄成分と徐々に反応して、腐食したり変色したりするのを抑制できる。それにより、太陽電池モジュールの外観不良や発電効率の低下を抑制する。
【0075】
本発明は、特に建材用途に適した、合わせガラスタイプの太陽電池モジュールの封止層(特に裏面側の封止層)となる太陽電池封止膜の保管または運搬方法に好ましく適用される。建材用途の太陽電池モジュールとは、具体的には、ビルの壁面や吹き抜けのホールの天井などに用いられるモジュールである。これらの建材用途の太陽電池モジュールは、裏面が建物内から視認されやすく、裏面側保護部材であるガラスを通して、太陽電池セルの変色による外観不良が目立つためである。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
太陽電池封止膜(三井化学ファブロ株式会社製、商品名:ソーラーエバ(登録商標)、品番:SC50)を300×300cmのシート状に裁断した。
シート状の太陽電池封止膜を、厚さ150μmの低密度ポリエチレンフィルム(株式会社 林産業社製、商品名:LLボトムシ−ル平袋)の包装袋に入れた後、包装袋の開口部を折り曲げた(前述の図1(A)および(B)参照)。この包装袋は、低密度ポリエチレンフィルムをヒートシールにより袋状に加工したものである。
次いで、包装袋の折り曲げ部を粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名:ダンブロン30)で封止して、包装体を得た(図1(C)参照)。粘着テープは、太陽電池封止膜の端部と、低密度ポリエチレンフィルムとが重なっている部位の上に位置するように貼り付けた。
粘着テープの粘着層に含まれる単位面積当たりの硫黄含有量、および、粘着テープが貼られた部分の包装シートに含まれる硫黄含有量を、日本電子製の装置(JSX−3203EV)で、エネルギー分散型(ED)蛍光X線測定により測定した。この結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名:ダンブロン30)の代わりに、粘着テープ(積水化学株式会社製、商品名:オリエンテープ)を用いた以外は、実施例1と同様にして包装体を得た。
【0078】
(比較例1)
粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名:ダンブロン30)の代わりに、粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名:紙粘着テープNo.7210)を用いた以外は、実施例1と同様にして包装体を得た。
【0079】
実施例1〜2および比較例1で得られた包装体を、40℃で35日間保管した。保管後の太陽電池封止膜の架橋率、ガラスとの接着力を評価した。さらに、保管後の太陽電池封止膜を太陽電池セルと積層してラミネートした際の、太陽電池セルの電極部分の変色の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0080】
1.架橋率
シート状に積層された太陽電池封止膜を所定の大きさに裁断して、太陽電池封止シートを得た。その後、太陽電池封止シートを、圧縮成形機を用いて20分間加圧下で150℃に加熱することにより架橋シートを作製した。この架橋シート約1gを精密天秤で秤量した後、100mlのキシレンに浸漬し、110℃、24時間加熱した後、金網で濾過して不溶解分を捕集した。この架橋シートを乾燥させた後、精密天秤で秤量することにより、架橋率を計算した。
架橋率(%)=〔乾燥後の試料の重量(g)/採取した試料の重量(g)〕×100
【0081】
2.ガラスとの接着力
表面側保護部材である透明ガラス板上に、シート状に積層された太陽電池封止膜を所定の大きさに裁断して、太陽電池封止シートを得た。この太陽電池封止シートを、太陽電池モジュール製作用ラミネータを用いて、160℃、真空3分、加圧4分でラミネートし、さらに160℃で7分間保持した。この透明ガラス板と太陽電池封止シートとの接着力を評価した。接着力は、引張試験機械を用いて、剥離速度:300mm/分、剥離幅(サンプルの幅):1.0cm、剥離角度:180°の条件で測定した。
【0082】
3.太陽電池セル(多結晶シリコン系)の変色評価1
まず、多結晶シリコン系の太陽電池セルとして、受光面側に導電性塗料A(Dupont Solamet、品番:PV145)を;裏面側に導電性塗料B(Dupont Solamet、品番:PV202)を、それぞれ膜厚が40μmとなるように公知の方法で塗布および乾燥した後、焼き付けることにより、導電層を形成したセルを作製した。
【0083】
次いで、実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれの太陽電池封止膜を用いて、態様電池モジュールを作製した。具体的には、ガラス/太陽電池封止膜/太陽電池セル/太陽電池封止膜/ガラスを、この順で積層して積層体を得て;得られた積層体を、ラミネータで150℃、22分間加熱加圧して、太陽電池モジュールを作製した。実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれについて、これらの太陽電池モジュールを7つ作製した。作製した太陽電池モジュールにおける太陽電池セルの受光面と裏面の導電層の変色の有無を目視で観察した。
【0084】
7つの太陽電池モジュールのすべてについて、太陽電池モジュール作製前の太陽電池セルの導電層の色と比べて、変色が観察されなかった場合を良好(○)とし;7つのうち3つ以上の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セルの変色が観察された場合を不良(×)とした。
【0085】
4.太陽電池セル(薄膜シリコン系)の変色評価2
まず、薄膜シリコン系の太陽電池セルとして、白板ガラス基板上にSnO透明導電膜を熱CVD法により形成し;該SnO透明導電膜上に、pin素子構造のシングル構造アモルファスシリコン半導体膜を公知のプラズマCVD法により形成し;該アモルファスシリコン半導体膜上に、ZnO透明導電膜および銀薄膜(厚み0.003μm)からなる裏面電極を、公知のDCマグネトロンスパッタにより形成することにより作製した。
【0086】
次いで、実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれの太陽電池封止膜を用いて、態様電池モジュールを作製した。具体的には、薄膜シリコン系の太陽電池セルの銀薄膜側に、太陽電池封止膜およびガラスを順に積層した積層体を得て;得られた積層体を用いて、前記変色評価1と同様の手順で、太陽電池モジュールを作製した。実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれについて、これらの太陽電池モジュールを7つ作製した。
【0087】
前記変色評価1と同様に、太陽電池セルの変色の有無を目視で観察および評価した。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示されるように、太陽電池封止膜の架橋率、ガラスとの接着力については、実施例1〜2および比較例1のいずれも同等であり、保管前に対する低下はほとんどみられなかった。参考例として、包装シートで包装せず常温の大気中で保管した以外は実施例1と同様に保管した結果、10日間経過後には、太陽電池封止膜のガラスとの接着力は保管前の75%程度に低下し、架橋特性は失われることがわかった。
【0090】
一方で、太陽電池セルの変色については、実施例1〜2と比較例1とで異なる結果が得られた。すなわち、実施例1〜2の太陽電池封止膜を用いた太陽電池セルでは、電極の変色は観察されなかったのに対し;比較例1の太陽電池封止膜を用いた太陽電池セルでは、電極の変色が観察された。実施例1〜2の太陽電池封止膜は、比較例1の太陽電池封止膜と比較して、粘着テープの粘着層の硫黄成分の付着が極めて少なく、太陽電池セルの電極に含まれる金属成分とほとんど反応しなかったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の保管または運搬方法によれば、保存および運搬中における太陽電池封止膜に含まれる架橋剤等の揮発や変質を抑制しつつ;包装部材に含まれる硫黄成分の、太陽電池封止膜への付着を抑制できる。それにより、太陽電池モジュールの外観不良や発電効率の低下を抑制できる。本発明の保管または運搬方法は、シリコン系の太陽電池モジュールに限らず、シリコン系以外の各種太陽電池モジュールの太陽電池封止膜の保管または運搬方法などにも幅広く適用できる。
【符号の説明】
【0092】
10 包装体
12 包装シート
12A 開口部
14 太陽電池封止膜
16 粘着テープ
20 太陽電池モジュール
22 太陽電池セル
24 表面側透明保護部材
26 裏面側保護部材
28 封止層
29 インターコネクタ
32 集電線
34A、34B タブ付用母線
36 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池封止膜と、
前記太陽電池封止膜を包装する包装シートと、を含み、
前記包装シートの単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、1.1×10−3μg/mm以下である、太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項2】
前記包装体は、前記包装体の開口部を封止する粘着テープをさらに有し、
前記粘着テープの粘着層の単位面積あたりの硫黄元素の含有量が、9.0×10−2μg/mm以下である、請求項1に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項3】
前記包装体は、前記包装体の開口部を封止する粘着テープをさらに有し、
前記粘着テープの粘着層の単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、4.5×10−3μg/mm以下である、請求項1に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項4】
前記太陽電池封止膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項5】
前記太陽電池封止膜は、太陽電池セルの、金属成分を含む電極に積層される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項6】
前記包装シートは、溶融温度が80〜160℃である樹脂を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項7】
前記包装シートは、ポリオレフィンを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用包装体。
【請求項8】
太陽電池封止膜の保存または運搬方法であって、
前記太陽電池封止膜を、単位体積あたりの硫黄元素の含有量が1.1×10−3μg/mm以下である包装シートで包装することにより包装体を得る工程と、
前記包装体を暗所に置いて保存または運搬する工程と、
を含む、太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
【請求項9】
前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部を粘着テープで封止する工程を含み、
前記粘着テープの粘着層の単位面積あたりの硫黄元素の含有量が、9.0×10−2μg/mm以下である、請求項8に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
【請求項10】
前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部を粘着テープで封止する工程を含み、
前記粘着テープの粘着層の単位体積あたりの硫黄元素の含有量が、4.5×10−3μg/mm以下である、請求項8に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
【請求項11】
前記包装体を得る工程は、前記包装体の開口部をヒートシールで封止する工程を含む、請求項8に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。
【請求項12】
前記太陽電池封止膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分として含む、請求項9〜11のいずれか一項に記載の太陽電池封止膜の保存または運搬方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−267853(P2010−267853A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118676(P2009−118676)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000111432)三井化学ファブロ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】