説明

太陽電池用ペースト組成物およびその製造方法ならびに太陽電池

【課題】基板に反り等の変形が発生するのを防止して良好な外観を有し得る膜状のアルミニウム電極を形成するためのペースト組成物を提供することを目的とする。また、その製造方法を提供すること。さらに、そのようなペースト組成物を用いて形成された裏面電極を備える太陽電池を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される太陽電池10の裏面電極形成用ペースト組成物は、固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末、を含んでいる。上記複合物粉末は、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用ペースト組成物およびその製法に関する。詳しくは、結晶シリコン系太陽電池の受光面の裏面側に(裏面電極として)アルミニウム電極を形成するためのアルミニウム含有ペースト組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽の光エネルギーを電力に変換する太陽電池の典型例として、結晶性のシリコン(単結晶または多結晶)を半導体基板として利用する太陽電池、いわゆる結晶シリコン系太陽電池が知られている。かかる結晶シリコン系太陽電池としては、例えば図1に示すような片面受光タイプの太陽電池10が知られている。
この太陽電池10は、シリコン基板(Siウエハ)11のp−Si層(p型結晶シリコン)18の受光面側にpn接合形成により形成されたn−Si層16を備え、その表面にはCVD等により形成された酸化チタンや窒化シリコンから成る反射防止膜14と、典型的には銀ペーストをスクリーン印刷し焼成することによって形成されるAgから成る表面電極(受光面電極)12とを備える。一方、p−Si層18の裏面側には、表面電極12と同様に銀ペーストをスクリーン印刷・焼成することによって形成されるAgから成る裏面側外部接続用電極22と、いわゆる裏面電界(BSF;Back Surface Field)効果を奏するアルミニウム電極20とを備える。
かかるアルミニウム電極20は、アルミニウム粉末を主体とするアルミニウムペーストを印刷・焼成することによって裏面の略全面に形成される。この焼成時に図示しないAl−Si合金層が形成され、アルミニウムがp−Si層18に拡散してp層24が形成される。かかるp層24、すなわちBSF層が形成されることによって、光生成されたキャリアが裏面電極近傍で再結合することが防止され、例えば短絡電流や開放電圧(Voc)の向上が実現される。
【0003】
ところで、上記BSF効果を効果的に実現させるには、アルミニウム電極20をある程度の膜厚(例えば30〜60μm)で形成する必要がある。その一方で、太陽電池(ソーラーセル)の製造コスト低減や太陽電池モジュールのコンパクト化等の理由によって、従来よりもさらに薄いシリコン基板(Siウエハ)11、すなわち太陽電池素子自体の薄板化が求められている。
しかしながら、基板(Siウエハ)11の薄板化は、当該基板11自体の熱膨張係数とアルミニウム電極20の熱膨張係数との差によって、当該アルミニウム電極20を形成するための焼成時にシリコン基板(ウエハ)自体に反りや曲がり等の変形が生じることを助長する。このため、従来、かかる反り等の変形発生を防止するための様々な工夫が行われている。
例えば特許文献1には、p型シリコン半導体基板に不純物層または電極層を形成するためのアルミニウム含有ペースト組成物であって酸化ケイ素または酸化アルミニウムを含むことを特徴とするペースト組成物が提案されている。また、特許文献2には、p型シリコン基板上にアルミニウムを主成分とする焼成電極を備えた太陽電池素子であって上記焼成電極が酸化亜鉛の集合体からなる粒子を含む太陽電池素子が提案されている。なお、本願とは直接関係しないが、特許文献3では、太陽電池コンタクト(ここでいう表面電極または裏面電極)を形成するためのペースト組成物であって鉛およびカドミウムを含まないガラス成分を含むペースト状組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3910072号公報
【特許文献2】特開2008−112808号公報
【特許文献3】特表2008−543080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら特許文献に記載される技術(アルミニウム含有ペースト組成物)の適用によって上記従来の問題(すなわち、アルミニウム電極焼成時に生じる基板の反りや曲がり)について多少の改善が図れるものの、依然として歩留まりやラインタクトを良好に向上させ得る程度には反り(例えば反りの程度が基板の厚みに対して10倍以下に軽減されること)が解消されておらず、更に改善されるべき余地がある。また、従来では、基板の焼成後に裏面電極上に異物が発生する虞があり、かかる異物発生に伴う外観不良を改善する必要があった。しかし、上記特許文献に記載される技術では、かかる異物発生を抑制することが難しかった。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、基板に反り等の変形が発生するのを防止して良好な外観を有し得る膜状のアルミニウム電極を形成するためのペースト組成物を提供することを目的とする。また、かかるペースト組成物の製造方法を提供することを他の目的とする。さらにかかるペースト組成物を用いて形成された裏面電極を備える太陽電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により提供されるペースト組成物は、太陽電池の裏面電極形成用ペースト組成物である。このペースト組成物は、固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末、を含んでいる。ここで上記複合物粉末は、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量の100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で含む。
本発明に係るペースト組成物に上記複合物粉末が上記含有率で含まれることにより、当該ペースト組成物を付与した基板(例えばSi基板)を焼成して裏面電極を形成した際も、当該基板の反りは効果的に抑制されるとともに、裏面電極上のブリスタ等の異物発生も好ましく抑制される。また、かかるペースト組成物が上記複合物粉末を含んでいても、該ペースト組成物を用いて得られる裏面電極(膜)を備えた太陽電池の電池特性(例えば開放電圧Voc)は高く維持され得る。
したがって、本発明に係る裏面電極形成用ペースト組成物によると、基板の反りが防止されるとともに優れた電池特性と良好な外観を有する太陽電池を実現することができる。
【0007】
ここで開示されるペースト組成物の好ましい一態様では、上記複合物粉末は、上記ケイ素を含む有機または無機化合物によって表面の少なくとも一部が被覆された上記金属化合物である。
このような形態の複合体(粒子)から構成される複合物粉末を含むペースト組成物によると、上記基板の反り防止効果、異物発生の抑制効果および上記のような電池特性がさらに向上した太陽電池を実現することができる。
【0008】
ここで開示されるペースト組成物のより好ましい一態様では、上記金属酸化物は、チタンまたは亜鉛の酸化物である。
かかる金属酸化物を用いてなる複合物粉末を含むペースト組成物によると、上記効果がより一層奏される太陽電池を実現することができる。
【0009】
ここで開示されるペースト組成物の別の好ましい一態様では、上記複合物粉末の平均粒子径は、1nm以上100nm以下である。
かかる大きさの粒子からなる複合物粉末を含むペースト組成物によると、異物発生が抑制されるとともに高い導電性を維持し得る緻密な裏面電極が形成され、良好な電池特性を有する優れた太陽電池を実現することができる。
【0010】
ここで開示されるペースト組成物の好ましい一態様では、上記固形分は、液状媒体を含む上記ペースト組成物全体の60質量%以上80質量%以下の割合で含まれる。
かかる含有率で固形分を含むペースト組成物は基板に(典型的には膜状に)均一に付与し易く、また該ペースト組成物が付与された基板を焼成することにより、良好な外観の裏面電極(膜)を上記基板上に形成することができる。
【0011】
したがって、本発明によると、ここで開示されるいずれかのペースト組成物を用いて裏面電極を形成することにより、上記のような効果を奏する太陽電池を好ましく実現することができる。
【0012】
また、本発明は、他の側面として、太陽電池の裏面電極形成用ペースト組成物を製造する方法を提供する。この方法は、固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末を、それぞれ用意すること、および上記用意した各粉末と液状媒体とを混合し、ペースト状に調製すること、を包含している。ここで、かかる方法では、上記複合物粉末を、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で混合する。
本発明に係る製造方法を用いることにより、基板の反りが防止されるとともに異物発生を抑制して良好な外観を有し、優れた電池特性(例えば高い開放電圧)を備えた太陽電池を実現し得る裏面電極形成用ペースト組成物が好適に提供される。
【0013】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記複合物粉末として、上記ケイ素を含む有機または無機化合物によって表面の少なくとも一部が被覆された上記金属酸化物を用いる。
かかる構成の製造方法によると、このような形態の複合体(粒子)から構成される複合物粉末を用いることにより、上記基板の反り防止効果、異物発生の抑制効果、および電池特性がさらに向上した太陽電池を実現し得る裏面電極形成用ペースト組成物が提供される。
【0014】
ここで開示される製造方法のより好ましい一態様では、上記金属酸化物として、チタンまたは亜鉛の酸化物を用いる。
かかる構成の製造方法によると、上記効果がより一層奏される太陽電池を実現し得る裏面電極形成用ペースト組成物が提供される。
【0015】
ここで開示される製造方法の別の好ましい一態様では、上記ペースト状に調製するにあたり、上記複合物粉末は、予め該粉末を所定の液状媒体に分散させた分散液の形態で提供される。
かかる構成の製造方法によると、上記複合物粉末を予め用意(または調製)された分散液の形態で用いることにより、上記複合物粉末を分散性がさらに向上した状態で含むより一層好適なペースト組成物が提供される。
【0016】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記複合物粉末として、平均粒子径が1nm以上100nm以下のものを用いる。
かかる構成の製造方法によると、異物発生が抑制されるとともに高い導電性を維持した緻密な裏面電極を備える優れた太陽電池を実現し得る裏面電極形成用ペースト組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】太陽電池の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペースト組成物の原料粉末(固形分)と液状媒体とを混合する方法、ペースト組成物の基板への付与方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここで開示されるペースト組成物は、太陽電池における裏面電極としてのアルミニウム電極を形成する用途に用いられる裏面電極形成用ペースト組成物である。かかるペースト組成物は、固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末、を含んでおり、上記複合物粉末を、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で含むことによって特徴づけられるものである。したがって、本発明の目的を実現する限りにおいて、その他の構成成分やその配合量(率)に関して特に制限はない。
【0020】
ここで開示されるペースト組成物に主たる固形分として含まれるアルミニウム粉末は、アルミニウム(Al)を主体とする粒子の集合体であり、典型的には、Al単体からなる粒子の集合体である。しかし、かかるアルミニウム粉末が、Al以外の不純物やAl主体の合金(粒子)を微量含むものであっても、全体としてAl主体の粒子の集合体であれば、ここでいう「アルミニウム粉末」に包含され得る。なお、かかるアルミニウム粉末は、従来公知の製造方法によって製造されたものでよく、特別な製造手段を要求するものではない。
【0021】
かかるアルミニウム粉末を構成する粒子の形状としては、特に限定されない。典型的には球状であるが、いわゆる真球状のものに限られない。球状以外には、例えばフレーク形状や不規則形状のものが挙げられる。かかるアルミニウム粉末はこのような種々の形状の粒子から構成されていてもよい。かかるアルミニウム粉末が平均粒子径の小さい(例えば数μmサイズ)粒子から構成される場合には、該粒子(一次粒子)の70質量%以上が球状またはそれに類似する形状を有することが好ましい。例えば、かかるアルミニウム粉末を構成する粒子の70質量%以上がアスペクト比(すなわち、粒子の短径に対する長径の比)1〜1.5であるようなアルミニウム粉末が好ましい。
【0022】
ここで、太陽電池を構成する基板(例えばSi基板)の一つの面(典型的には受光面の裏面側)に裏面電極としてのアルミニウム電極を形成する場合には、焼成前の乾燥塗膜(すなわち乾燥アルミニウム膜)の状態で膜厚100μm以下が好ましく、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下、例えば40μm±10μmであることが好ましい。
このような膜厚の乾燥塗膜を形成するのに好適なアルミニウム粉末としては、該粉末を構成する粒子の平均粒子径が20μm以下であるものが適当であり、好ましくは1μm以上10μmであり、より好ましくは2μm以上8μm以下であり、例えば5μm±1μmである。ここでいう平均粒子径とは、粉末の粒度分布における累積体積50%時の粒径、すなわちD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、レーザー回折法(すなわちレーザー光が測定試料に照射され、散乱されたときの散乱パターンにより粒度分布を決定する。)に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
例えば、平均粒子径の差が互いに異なる(例えばその差が3μm以上7μm以下の範囲内にある)複数のアルミニウム粉末(典型的には2種類)同士を混合し、混合粉末の平均粒子径が上記範囲内にあるようなアルミニウム(混合)粉末を用いることもできる。上記のような平均粒子径のアルミニウム粉末を用いることにより、裏面電極として好適な緻密なアルミニウム電極を形成することができる。
【0023】
ここで開示されるペースト組成物中の上記アルミニウム粉末の含有量としては、特に制限されないが、該ペースト組成物全体を100質量%として、その60質量%以上80質量%以下(より好ましくは65質量%以上80質量%以下、例えば70質量%以上80質量%以下)がアルミニウム粉末となるように含有率を調整することが好ましい。製造されたペースト組成物中のアルミニウム粉末含有率が上記範囲内にあるような場合には緻密性がより向上したアルミニウム電極(膜)を形成することができる。
【0024】
ここで開示されるペースト組成物中の固形分のうち副成分として含まれるガラス粉末(典型的にはガラスフリット)は、太陽電池の裏面電極としてのアルミニウム電極を構成する基板への接着強度を向上させる無機添加材である。かかるガラス粉末としては、アルミニウムの熱膨張係数に近づくように比較的高い熱膨張係数を有するものが好ましい。このようなガラスとして、例えば亜鉛系、ホウケイ酸系、アルカリ系ガラス、および酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するガラス、またはこれら2種以上の組合せが挙げられる。具体例としては、以下の酸化物を主体として構成されるガラス、すなわちB−SiO−ZnO系ガラス、RO−ZnO−SiO−B系ガラス(ここでROはアルカリ金属酸化物)、RO−ZnO−SiO−B系ガラス(ここでROはアルカリ土類金属酸化物)、Bi−B−ZnO系ガラス、B−SiO−Bi系ガラス、等からなるガラス粉末が好ましい。基板(例えばSi基板)上に付与したペースト組成物(塗布膜)を安定的に焼成し、固着させる(焼き付かせる)ためには、該ペースト組成物中に含まれる好適なガラスフリットとしては、その比表面積が概ね0.5m/g以上50m/g以下の程度であることが好ましく、平均粒子径が2μm以下(特に1μm程度又はそれ以下)のものが好適である。
また、かかるガラス粉末の上記ペースト組成物中の含有量としては、特に限定されないが、該ペースト組成物全体の凡そ0.5質量%以上5質量%以下(好ましくは0.5質量%以上3質量%以下、より好ましくは1質量%以上3質量%以下)となる量が適当である。
【0025】
次に、ここで開示されるペースト組成物を特徴づける複合物粉末について説明する。
この複合物粉末は、上記ペースト組成物の固形分として上記アルミニウム粉末およびガラス粉末とともに含まれる成分である。かかる複合物粉末は、ケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体から構成されている(すなわち該粒状複合体の集合体である)。
かかる粒状複合体としては、上記ケイ素を含む有機または無機化合物によって表面の少なくとも一部が被覆されている状態の上記金属酸化物粒子が好ましい。かかる複合体としては、上記ケイ素を含む有機または無機化合物が上記金属酸化物の一次粒子の表面を被覆しているものであっても、上記金属酸化物の二次粒子(2以上の一次粒子が凝集してなる粒子)の表面を被覆しているものであっても特に制限はないが、上記ペースト組成物中のアルミニウム粒子同士が該複合体粒子を介して隣接することを考慮すれば、一次粒子表面を被覆しているものの方がより好ましい。かかる複合物粉末を構成する複合体粒子の平均粒子径としては、1nm以上100nm以下であることが適当であり、好ましくは1nm以上80nm以下であり、より好ましくは5nm以上70nm以下である。例えば上記金属酸化物が後述する二酸化チタンである場合には、平均粒子径が例えば1nm以上20nm以下程度のものを好適に用いることができる。また、例えば上記金属酸化物が後述の酸化亜鉛である場合には、平均粒子径が例えば10nm以上70nm以下のものを好適に用いることができる。
【0026】
上記複合体を構成する金属酸化物としては、チタンまたは亜鉛の酸化物(すなわち、二酸化チタン(TiO)または酸化亜鉛(ZnO))を好ましく挙げることができる。二酸化チタンは、従来公知の方法を用いて製造された微粒子、例えば硫酸チタン溶液を加水分解して得られた含水二酸化チタンを焼成するいわゆる硫酸法や、ハロゲン化チタンを気相酸化するいわゆる塩素法で製造された微粒子を用いることができる。また、例えば出発原料としてチタン酸テトライソプロポキシド(TTIP)を用いたゾルゲル法により得られる二酸化チタン微粒子を含むコロイド(ゾル)を利用してもよい。上記のようにして得られる二酸化チタンの結晶形はアナタース型、ルチル型のいずれでもよく、またアナタース型二酸化チタンとルチル型二酸化チタンとが混合した混合物でもよい。
また、酸化亜鉛粒子についても、従来公知の方法、例えば乾式法として、金属亜鉛を熱して気化させた後に空気中で燃焼して酸化させる方法(いわゆるフランス法)、湿式法として、硫酸亜鉛または塩化亜鉛の水溶液を炭酸ナトリウムの無水塩(ソーダ灰)溶液を加えて得られる塩基性炭酸亜鉛をか焼する方法(いわゆるドイツ法)等、を用いて得られる微粒子を利用することができる。
【0027】
上記ケイ素を含む有機または無機化合物(以下、両化合物を「ケイ素含有化合物」と総称することもある。)は、予め二酸化ケイ素(SiO)の状態で上記金属酸化物の表面を被覆して上記複合体を構成していてもよいし、あるいは上記ペースト組成物を焼成してアルミニウム電極を形成した段階で(少なくとも表面を被覆している該ケイ素含有化合物の一部、典型的にはほぼ全体が)酸化されることによって最終的にSiOの状態になるようなものであってもよい。かかるケイ素含有化合物としては、上記複合体がアルミニウムの融点660℃よりも低い(例えば250℃以上600℃以下)温度で分解することを実現し得るようなものが好ましい。ここで、上記複合体を含む上記ペースト組成物を焼成してアルミニウム電極を形成すると、局所的に存在し得る粗大な上記複合体がアルミニウムと異常反応を起こし、該複合体を核として異物が発生する虞がある。しかし、上記複合体がこのような分解温度を有することにより、アルミニウムとの異常反応が起こる前に該複合体が分解し易くなり得るので、上記異物の核形成ひいては該異物の発生が好適に防止され、結果、異物のない良好な外観を有するアルミニウム電極が形成され得る。
このようなケイ素含有化合物により表面が被覆された金属酸化物粒子からなる複合物粉末は、例えば以下に示すような方法で得ることができる。すなわち、一例としては、上記のような金属酸化物微粒子およびケイ素含有化合物を所定の液状媒体とともに攪拌ミル(媒体攪拌ミル)等で湿式粉砕(または湿式解砕)し、その後乾燥させて液状媒体を除去する方法が挙げられる。また、金属酸化物粉末を攪拌しながら、そこにケイ素含有化合物(典型的には溶液に調製された状態で)をエアースプレー等で霧化させたものを噴霧する(吹き付ける)方法が挙げられる。かかる方法で用いられるケイ素含有化合物としては、有機ケイ素化合物、典型的には有機シラン化合物、特にアルコキシシラン、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、またはデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。その他の有機ケイ素化合物として、種々のシランカップリング剤を用いることもできる。また、上記複合物粉末の製造方法のその他の例としては、上記金属酸化物粉末(粒子)を水系の液状媒体(水系媒体)に分散させた水分散液(またはスラリー)や、上記金属酸化物のゲルを含む水系媒体に対して、所定のpH(例えばアルカリ性)下でケイ素含有化合物を添加し、その後中和させることにより上記複合物(複合体)を沈殿させる方法でもよい。また、かかる方法を用いて上記複合体を作製する場合には、上記ペースト組成物の調製時において、中和させて上記複合体を沈殿させる前の状態のもの(典型的には分散液やスラリー状の状態のもの)を用いることができる。このため、上記複合体を粉末状態にする前の段階の状態で用いることができるので効率的である。ここで、かかる方法で用いられるケイ素含有化合物としては、水溶性のものが好適であり、例えばケイ酸のアルカリ金属塩(アルカリケイ酸塩)やシリカゾルが挙げられる。アルカリケイ酸塩としては、オルトケイ酸(HSiO)、メタケイ酸(HSiO)、メタ二ケイ酸(HSiO)のアルカリ金属塩(典型的にはナトリウム塩)が挙げられ、典型的にはメタケイ酸のアルカリ金属塩であり、特にその濃厚水溶液である水ガラス(典型的にはケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液(NaO・SiO)を指す。)を用いることができる。なお、上記水分散液または上記ゾルを含む水系媒体はケイ素含有化合物以外に安定性や分散性等を向上させるための種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
上記のような方法により製造された複合物粉末は、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量(すなわちここで開示されるペースト組成物に含まれる固形分の質量)を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で、上記ペースト組成物に含まれることが好ましい。このような割合で複合物粉末が含まれるペースト組成物を用いることにより、基板の反りや(アルミニウム電極上の異物発生等による)外観不良が改善されるとともに、開放電圧(Voc)等の電池特性も良好な裏面電極(太陽電池)を形成することができる。例えば、かかる裏面電極を備える太陽電池は、610mV以上の開放電圧値を呈し得る。ここで、該複合物粉末の上記固形分に占める割合が0.01質量%より少なければ、基板の反りを抑制する効果がほとんど発揮されないとともに、上記のような外観不良も改善されない。また、該複合物粉末の上記固形分に占める割合が0.45質量%を大幅に超えると、基板の反りや異物発生を抑制する効果は大きく発揮され得るものの、その一方で、開放電圧が低下して電池特性に悪影響を及ぼし得る。また、上記複合物粉末の上記固形分に占める割合が0.1質量%以上(0.45質量%未満)であると、上記複合物粉末を添加しない場合や該複合物粉末の代わりに金属酸化物(例えば二酸化チタン)粉末を添加した場合に比べて、基板の反り量が30%以上低減し得るのでより好ましい。また、かかる割合が0.3質量%以上(0.45質量%未満)であると、基板の反り量が40%以上低減し得るのでさらに好ましい。
【0029】
また、上記複合物粉末と他の構成成分(含有成分)とを混合して上記ペースト組成物を調製する際には、該複合物粉末は、粉末状態のまま用いることができるが、例えば、予め該複合物粉末を所定の液状媒体に分散させた分散液またはスラリー状組成物(以下、単に「スラリー」ということもある。)の形態で提供されてもよい。このような分散液またはスラリーの形態として上記複合物粉末を他の構成成分と混合すると、上記複合物粉末を構成する複合体粒子は、粉末状態で混合されるよりも上記混合物(すなわち上記ペースト組成物)中で均質に分散し易い。このことにより、基板の反りやアルミニウム電極上の異物発生を抑制する効果がより向上した良好なペースト組成物を得ることができる。かかる複合物粉末を分散させて分散液またはスラリーの形態にするための液状媒体としては、上記複合体粒子における金属酸化物の表面を被覆しているケイ素含有化合物が上記分散液またはスラリー中で反応(例えば分解)することなく安定的に存在し、且つ該複合体粒子が良好に(すなわち均質に)分散し得ることを実現するとともに、上記ペースト組成物に含まれる固形分(粉末)を分散させるための液状媒体(例えば後述のビヒクル)との親和性(相溶性)が良好であるものが好ましい。このような液状媒体としては、例えば水系溶媒(例えば所定のpHに液性が調整されていてもよい。)や、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。あるいは、上記ビヒクルを構成する有機溶剤として用いられ得る高沸点有機溶剤であるエチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等が挙げられる。このような液状媒体に上記複合物粉末を分散させた分散液またはスラリーにおいて、該複合物粉末の含有率としては、特に制限されないが、例えば該分散液(またはスラリー)全体の10質量%以上30質量%以下(より好ましくは10質量%以上20質量%以下)のものを用いることが好ましい。なお、上記複合物粉末を主体とする分散液またはスラリーは、副成分として種々の添加剤(例えば上記複合物粉末の分散性を向上させる分散剤等)を含んでいてもよい。
【0030】
ここで開示されるペースト組成物は、固形分として、上記のようなアルミニウム粉末、ガラス粉末、および複合物粉末を含むとともに、該固形分を分散させるための液状媒体をも含んでいる。上記固形分がペースト組成物全体に占める割合、すなわち該ペースト組成物中の固形分の含有率としては、該固形分および上記液状媒体を含む該ペースト組成物全体を100質量%として、50質量%以上90質量%以下が適当であり、好ましくは60質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは65質量%以上75質量%である。このような含有率で固形分を含むペースト組成物は、基板上にアルミニウム電極(膜)として均一な厚さで付与(塗布)し易い等、その取扱いが容易であり、またアルミニウム電極膜を焼成する前に乾燥工程において、長時間を要することなく好適に乾燥させることができるので好ましい。
【0031】
ここで開示されるペースト組成物において該組成物中の固形分を分散させておく液状媒体は、典型的には有機媒質(ビヒクル)である。かかるビヒクルルを構成する有機溶剤は、上記固形分(粉末)、特にアルミニウム粉末を良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、ビヒクルを構成する溶剤として、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤を一種類または複数種組み合わせて使用することができる。
また、ビヒクルを構成する有機バインダーとして種々の樹脂成分を含ませることができる。かかる樹脂成分はペースト組成物に良好な粘性および塗膜形成能(基板に対する付着性)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が好ましい。また、特に限定しないが、有機ビヒクル含有率は、ペースト組成物全体の10質量%以上50質量%以下が適当であり、好ましくは20質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上35質量%である。また、上記有機ビヒクルに含まれる有機バインダーは、ペースト組成物全体の1質量%以上5質量%以下(より好ましくは1質量%以上3質量%以下)の割合で含まれることが好ましい。
【0032】
ここで開示されるペースト組成物は、従来の太陽電池用アルミニウムペーストと同様に、典型的にはアルミニウム粉末、ガラス粉末、複合物粉末、および有機ビヒクルを混合することによって容易に調製することができる。例えば、三本ロールミルその他の混練機を用いて、所定の混合比のアルミニウム粉末、ガラス粉末、および複合物粉末を有機ビヒクルとともに所定の配合比で混合・撹拌するとよい。
【0033】
ここで開示されるペースト組成物は、基板上に裏面電極としてのアルミニウム電極(延いてはp+層すなわちBSF層)を形成するのに従来用いられてきたアルミニウムペーストと同様に取り扱うことができ、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。典型的には、スクリーン印刷法、ディスペンサー塗布法、ディップ塗布法等によって、所望する膜厚(上述のように、例えば30μm以下)や塗膜パターンとなるようにしてペースト組成物を基板に付与(塗布)する。かかる基板としてはシリコン(Si)製基板が好適であり、典型的にはSiウエハである。かかる基板の厚さとしては、所望する太陽電池のサイズ、該基板上に形成されるアルミニウム電極の膜厚、該基板の強度(例えば破壊強度)等を考慮して設定することができ、100μm以上300μm以下が適当であり、150μm以上250μm以下が好ましく、例えば180μm以上220μmである。
次いで、ペースト塗布物を適当な温度(例えば室温以上であり典型的には100℃程度)で乾燥させる。乾燥後、適当な焼成炉(例えば高速焼成炉)中で適当な加熱条件(例えば600℃以上900℃以下、好ましくは700℃以上800℃以下)で所定時間加熱することによって、乾燥塗膜の焼成を行う。これにより、上記ペースト塗布物が基板上に焼き付けられ、上述した図1に示すようなアルミニウム電極20が形成される。通常、アルミニウム電極20が焼成されるとともに、上述のとおり、P層(BSF層)24も形成され得る。すなわち、焼成によって裏面電極となるアルミニウム電極20が基板11上に形成されるとともに、アルミニウム原子が該基板11中に拡散することで、アルミニウムを不純物として含むp層24が形成されることとなる。
【0034】
ここで開示されるペースト組成物は、上述したように、該組成物中にケイ素を含む有機または無機化合物(ケイ素含有化合物)と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末を含んでいる。このため、上記複合体粒子がアルミニウム粒子同士の間に介在することにより、該ペースト組成物を基板に付与(塗布)して焼成しても、アルミニウム粒子同士の過度の凝集および焼結が抑制され得るので、基板とペースト塗布物(アルミニウム電極)との間の熱膨張(収縮)差が緩和され、その結果、上記基板の反り等の変形および該焼成により形成されたアルミニウム電極上の異物発生を抑制、防止することができる。また、かかるペースト組成物を用いて得られたアルミニウム電極は、上記複合体粒子を含むものの、アルミニウム粒子同士で良好な導通を維持することができる。したがって、かかるペースト組成物によると、良好な電池特性(例えば610mV以上の高い開放電圧)を有する優れた太陽電池が実現され得る。
【0035】
なお、ここで開示されるペースト組成物を使用してアルミニウム電極(裏面電極)を形成すること以外の太陽電池製造のための材料やプロセスは、従来と全く同様でよい。そして、特別な処理をすることなく、当該ペースト組成物によって形成された裏面電極を備えた太陽電池(典型的には結晶シリコン系太陽電池)を製造することができる。かかる結晶シリコン系太陽電池の構成の一典型例としては、上述の図1に示される構成が挙げられる。アルミニウム電極形成後のプロセスとしては、例えば、従来の銀を主体とするペースト組成物(銀ペースト)を用いてスクリーン印刷等を行うことにより、受光面側および裏面側に所定パターンのAg電極(図1における表面電極12および裏面側外部接続用電極22)を形成することができる。また、従来と同様の処理を行うことによって受光面側にn層(すなわち図1におけるn−Si層16)や反射防止膜(図1における反射防止膜14)を形成することができる。
このようにして太陽電池(素子)を製造することができる。なお、太陽電池(素子)の製造プロセス自体は従来技法のままでよく特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0036】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0037】
<例1:ペースト組成物の調製(1)>
(1) アルミニウム粉末として、平均粒子径(D50)が5μmのアルミニウム粉末を用意した。
(2) ガラス粉末として、亜鉛系(B−SiO−ZnO系)ガラスからなるガラスフリット(B:36mol%,SiO:29mol%,ZnO:8mol%,Al:4mol%,SrO:10mol%,BaO:13mol%、の各配合比から構成されるガラスフリット)を用意した。
(3) 複合物粉末を以下のような手順で作製した。
1)四塩化チタンを用意し、これを気相酸化して得られた二酸化チタンを粉砕し、所定の平均粒子径を有する二酸化チタン(TiO)粉末を得た。次に、得られた二酸化チタン粉末を水に分散させることにより、二酸化チタン濃度300g/Lの水性スラリーを調製した。次いで、該水性スラリーに所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加して該水性スラリーのpHを10.5とした後、30分間超音波分散を行った。次に該スラリー4000mlを攪拌しながら、70℃以上80℃以下程度まで昇温し、この温度条件下で、水ガラス(JIS K1408に規定される水ガラス3号)を水で希釈してなる水溶液(SiO換算で150g/l)を320ml添加した。その後、引き続き攪拌を30分程度続けて十分に混合した。次いで、90℃以上100度未満の沸騰しない温度条件下まで昇温した後に、2mol/Lの硫酸を約1mL/分の速度で60分間添加して、pHが5となるまで中和した。その後70℃の温度条件を維持した状態で、攪拌しながら60分間熟成した。熟成したスラリーを濾過および水洗し、これをボールミルにて湿式粉砕した後に、所定温度条件下で乾燥することにより、所定の平均粒子径(すなわち6nm、30nm、および70nm)を有する3種類の複合物粉末であってケイ素含有化合物が表面を被覆している形態のTiOからなる複合物粉末を得た。
2)次に、得られた複合物粉末16gを、別途用意したイソブチルトリメトキシシラン4gとともにイソプロピルアルコール80gに添加し、さらに直径0.5mmのジルコニアビーズ250gを加えてペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズを取り除いて、上記複合物粉末を16質量%の割合で含む分散液またはスラリー状組成物(以下、単に「複合物スラリー」ということもある。)を得た。
3)ここで、上記得られた複合物スラリーについて、熱重量(TG)測定を実施した。この結果、250℃から600℃の範囲において重量が低下した。この重量変化は上記二酸化チタン粒子表面を被覆していたケイ素含有化合物が分解したことが原因と考えられる。
4)次に、上記用意したアルミニウム粉末、ガラス粉末、上記1)にて得られた複合物粉末または上記2)にて得られた複合物スラリーを、バインダー(エチルセルロース)と有機溶剤(ターピネオール)とからなる有機ビヒクルとともに混練し、ペースト組成物を得た。ここで、得られたペースト組成物に含まれるアルミニウム粉末とガラス粉末の配合比は、ペースト組成物全体を100質量%として、アルミニウム粉末70質量%、ガラス粉末1質量%となるように調製した。また、上記複合物粉末の配合比については、該複合物粉末と上記アルミニウム粉末と上記ガラス粉末との総量(すなわち固形分の全質量)に対する割合として算出し、該複合物粉末の上記固形分に対する割合がそれぞれ異なるペースト組成物を10種類調製した。これらのペースト組成物をサンプル1〜10とした。サンプル1〜10と上記複合物粉末の上記固形分に対する割合と該複合物粉末の平均粒子径(添加物粒径)との相関を表1に示した。なお、表1では、かかるサンプル1〜10において添加した複合物粉末を「TiO−Si」と表記した。
ここで、サンプル1〜8については、上記複合物スラリーを用いて調製されたペースト組成物である。一方、サンプル9および10については、上記複合物粉末を複合物スラリーには調製せず、粉末状態のまま用いることによって調製されたペースト組成物である。
また、かかるペースト組成物(サンプル1〜10)において、100質量%から上記固形分(すなわちアルミニウム粉末、ガラス粉末および複合物粉末)の占める割合を除いた分が液体成分の占める割合(配合比)である。かかる液体成分の内訳としては、上記バインダーが(ペースト組成物全体の)1.5質量%であり、その残りが有機溶剤である。なお、上記複合物スラリーを用いて調製されたペースト組成物(サンプル1〜8)については、該スラリーに含まれるイソブチルトリメトキシシランとイソプロピルアルコールとが占める割合は上記液体成分として含まれており、上記液体成分からこれら2成分と上記バインダー分を除いた残りが、上記有機溶剤がペースト組成物中に占める割合(配合比)になるように調製されている。
【0038】
<例2:ペースト組成物の調製(2)>
次に、上記例1に示したペースト組成物の調製方法において、上記複合物粉末の代わりに上記(3)の1)で得られた二酸化チタン粉末を用いる以外は同じ手順で、二酸化チタン粉末の配合比が異なる4種類ペースト組成物を調製した。これらをサンプル12〜15とした。サンプル12〜15と二酸化チタン粉末の添加量の固形分(すなわちアルミニウム粉末とガラス粉末と該二酸化チタン粉末の総量)に対する割合(配合比)と該二酸化チタン粉末の平均粒子径との相関を表1に示した。
また、上記例1に示したペースト組成物の調製方法において、上記複合物粉末を添加物として全く添加しないこと以外は同じ手順で、ペースト組成物を調製した。このペースト組成物をサンプル11とした。
【0039】
<例3:ペースト組成物の調製(3)>
次に、上記例1に示したペースト組成物の調製方法において、金属酸化物として二酸化チタン粉末を用いて作製された複合物粉末の代わりに、酸化亜鉛(ZnO)粉末(平均粒子径:25nm)を用いて作製された複合物粉末を使用する以外は同じ手順で、酸化亜鉛とケイ素含有化合物とからなる複合物粉末の配合比が異なる3種類のペースト組成物を調製した。これらをサンプル16〜18とした。このうち、サンプル16および17については、上記複合物粉末を粉末の形態のまま添加することにより調製されている。一方、サンプル18については、上記複合物粉末を粉末の形態ではなくスラリーの形態で添加することにより調製されている。かかるスラリーの調製方法も上記例1の(3)の2)と同様である。これらサンプル16〜18と複合物粉末の配合比(上記固形分に対する割合)との相関を表1に示した。なお、表1において上記複合物粉末の形態を「ZnO−Si」と表記した。
また、酸化亜鉛を用いて作製された複合物粉末の代わりに酸化亜鉛粉末を添加してペースト組成物を調製する以外は、上記サンプル16および17と同様にして、互いに酸化亜鉛粉末の配合比が異なる2種類のペースト組成物を調製した。これらをサンプル19および20とした。サンプル19および20は、酸化亜鉛をスラリーではなく粉末の形態のまま添加して調製されたものである。
【0040】
<例4:ペースト組成物の調製(4)>
上記例1に示したペースト組成物の調製方法において、金属酸化物として二酸化チタン粉末を用いて作製された複合物粉末の代わりに二酸化ケイ素(SiO)粉末(平均粒径25nm)を用いて作製された複合物粉末を使用する以外は同じ手順で、ペースト組成物を調製した。これをサンプル21とした。なお、サンプル21は、上記複合物粉末を粉末の形態ではなくスラリーの形態で添加することにより調製されている。かかるスラリーの調製方法は上記例1の(3)の2)と同様である。なお、表1においてかかる複合物粉末の形態を「SiO−Si」と表記した。
また、上記二酸化ケイ素粉末を用いて作製された複合物粉末の代わりに、酸化ジルコニウム(ZrO)粉末(平均粒径6nm)を用いて作製された複合物粉末を使用する以外は同じ手順で、ペースト組成物を調製した。これをサンプル22とした。なお、サンプル22も上記複合物粉末を粉末の形態ではなくスラリーの形態で添加することにより調製されている。かかるスラリーの調製方法も上記例1の(3)の2)と同様である。また、表1においてかかる複合物粉末の形態を「ZrO−Si」と表記した。
さらに、上記二酸化ケイ素粉末を用いて作製された複合物粉末の代わりに、酸化アルミニウム(Al)粉末(平均粒径30nm)を用いて作製された複合物粉末を使用する以外は同じ手順で、ペースト組成物を調製した。これをサンプル23とした。なお、サンプル23も上記複合物粉末を粉末の形態ではなくスラリーの形態で添加することにより調製されている。かかるスラリーの調製方法も上記例1の(3)の2)と同様である。なお、表1においてかかる複合物粉末の形態を「Al−Si」と表記した。
【0041】
<例5:反り量の算定>
上記得られたサンプル1〜23のペースト組成物をアルミニウム電極形成用として用いて、太陽電池を製造した。
具体的には、市販の125mm四方の大きさの太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚200μm)を用意し、その表面を水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリエッチング処理した。
次いで、上記エッチング処理でテクスチャ構造が形成されたシリコン基板の受光面にリン含有溶液を塗布し、熱処理を行なうことによって当該シリコン基板の受光面に厚さが約0.5μmであるn−Si層(n層)を形成した(図1参照)
次いで、n−Si層上にプラズマCVD(PECVD)法によって厚みが50nm以上100nm以下程度の反射防止膜(酸化チタン膜)を形成した。さらに、所定の表面電極(Ag電極)形成用銀ペーストを用いて反射防止膜上にスクリーン印刷法によって表面電極(Ag電極)となる塗膜(厚さ20μm以上50μm以下)を形成した(図1参照)。
シリコン基板の裏面側に、スクリーン印刷(ステンレス製スクリーンメッシュSUS#
165を使用した。以下同じ。)により、サンプル1〜23の各ペースト組成物を印刷(塗布)し、膜厚が約55μmの塗布膜を形成した。次いで、このシリコン基板を焼成して、アルミニウム電極(裏面電極)を形成した。具体的には、大気雰囲気中で近赤外線高速焼成炉を用いて、焼成温度凡そ700℃以上800℃以下で焼成した。
【0042】
次いで、焼成後のシリコン基板の反り量を調べた。すなわち、アルミニウム電極が形成された面が上向きになるように水平試験台上に焼成後のシリコン基板を配置し、当該シリコン基板の厚さ方向における最低部と最上部との間の寸法を測定した。その測定値を本試験例における反り量(mm)とした。結果を表1の該当欄に示す。
【0043】
<例6:アルミニウム電極の外観評価>
また、焼成後に形成されたアルミニウム電極の表面上にブリスタ等の異物が発生しているか否かを目視により観察した。この結果を表1の該当欄に示す。ここで異物が発生したサンプルには「有」と記した。
【0044】
表1に示されるように、添加物として何も添加されていないサンプル11では、基板の反り量が2.3mmであるとともに、該サンプル11を用いて形成されたアルミニウム電極上には異物発生が認められた。
これに対して、複合物粉末(TiO−Si)が添加されているサンプル1〜10では、全てにおいて基板の反り量が低下し、且つアルミニウム電極上の異物発生は認められなかった。
また、上記複合物粉末の粒径が同じであり複合物スラリーを用いたサンプル1〜5および8において、上記複合物粉末の上記固形分に対する割合が大きくなるにつれて基板の反り量が低減した。例えば、かかる割合が0.03質量%のサンプル1では、上記サンプル11に比べて反り量が25%以上低減していた。また、0.1質量%以上0.3質量%未満であるサンプル2および3では、反り量が30%以上低減していた。また、0.3質量%以上0.45質量%未満であるサンプル4、5および8では反り量が40%以上低減した。
複合物粉末の上記固形分に対する割合が同じで該複合物粉末の平均粒子径が互いに異なるサンプル5〜7では、平均粒子径が小さいものほど(すなわち、サンプル7、6、5の順に)基板の反り量は低減した。
サンプル5と9では、サンプル5の方がより基板の反り量が小さいことから上記複合物粉末を粉末のままよりもスラリーの形態で添加した方がより基板の反りを抑制するのに効果的であることが確認された。また、この傾向は、サンプル8と10との比較でも確認された。
次に、二酸化チタン粉末(TiO)が添加されているサンプル12〜15については、これら全てにおいて基板の反り量が上記サンプル11に比べて低下した。しかし、アルミニウム電極上に異物発生が認められた。
【0045】
また、酸化亜鉛を用いた複合物粉末(ZnO−Si)を添加してなるサンプル16〜18についても、かかる複合物粉末を粉末のままで用いてもスラリーとして用いても、基板の反り量は好ましく低減した。これに対して、酸化亜鉛粉末を添加してなるサンプル19および20については、該酸化亜鉛粉末の添加量(配合比)が少ない方のサンプル19では、上記サンプル11と比較して、基板の反り量に大差がなかった。添加量の多い方のサンプル20では基板の反り量は低減したが、該サンプル20と同じ添加量の上記サンプル17と比較すると、複合物粉末を用いたサンプル17の方が反り量はより小さく、酸化亜鉛粉末よりも複合物粉末の方が反り量を低減させる効果が高いことが確認された。
また、複合物粉末(SiO−Si)、複合物粉末(ZrO−Si)、および複合物粉末(Al−Si)をそれぞれ用いたサンプル21、22および23においては、いずれのサンプルでも基板の反り量が上記サンプル11に比べて低減した(特にサンプル22)。一方、サンプル21および22では、該サンプルを用いたアルミニウム電極上に異物発生が認められた。
【0046】
<例7:開放電圧の測定>
本例では、上記例5で表面電極(Ag電極)が形成された各シリコン基板の裏面側に、まず、上記表面電極(Ag電極)形成用銀ペーストと同様の裏面電極(Ag電極)形成用銀ペーストを用いて所定のパターンにスクリーン印刷し、乾燥することにより、厚さ20μm以上50μm以下の裏面側Ag塗布物(すなわち、焼成後におけるAgからなる裏面側外部接続用電極:図1参照)を形成した。
次いで、スクリーン印刷により、サンプル1〜23の各ペースト組成物を印刷(塗布)し、膜厚が約55μmの塗布膜を形成した。次いで、このシリコン基板を大気雰囲気中で近赤外線高速焼成炉を用いて、焼成温度700℃以上800℃以下で焼成した。かかる焼成によって表面電極(Ag電極)および裏面側外部接続用Ag電極とともに、アルミニウム電極(裏面電極)を形成した。
次に、このようにして得られた太陽電池(図1参照)について、表裏Ag電極間に電圧計を接続し、太陽光を受光面に照射したときの最大電圧すなわち開放電圧(Voc)を測定した。結果を表1の該当欄に示す。
表1に示されるように、添加物として何も添加していないサンプル11を用いたアルミニウム電極を備えた太陽電池では、開放電圧値が610mVを示した。
サンプル1〜7および9については全て、複合物粉末(TiO−Si)を添加しても、得られる太陽電池は610mV以上の良好な開放電圧値を示し、優れた電池特性を有し得ることが確認された。一方、複合物粉末を上記固形分に対して0.5質量%以上の割合で添加してなるサンプル8および10では、得られる太陽電池がどちらも607mVの開放電圧値を示し、610mVを下回った。
また、二酸化チタン粉末を添加したサンプル12〜15についても、得られる太陽電池の開放電圧値は610mVを下回った。
複合物粉末(ZnO−Si)を用いたサンプル16〜18では、得られる太陽電池の開放電圧値は610mV以上を示し、複合物粉末(ZnO−Si)を添加しても、優れた電池特性を有し得ることが確認された。一方、酸化亜鉛粉末を用いたサンプル19および20では、得られる太陽電池の開放電圧値は610mVを下回った。
また、複合物粉末(SiO−Si)、複合物粉末(ZrO−Si)、および複合物粉末(Al−Si)をそれぞれ用いたサンプル21、22および23については、得られる太陽電池の開放電圧値は、全て610mVを下回った。
【0047】
【表1】

【0048】
したがって、本実施例に係るペースト組成物によると、金属酸化物とケイ素含有化合物とから構成される複合物粉末が固形分に対して0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で含まれることにより、当該ペースト組成物を塗布したシリコン基板を焼成しても、当該基板の反り量は低減し、かかる反りが効果的に抑制されるとともに、該焼成により形成されたアルミニウム電極(裏面電極)上の異物発生も好ましく抑制されることが確認された。また、かかるペースト組成物が上記複合物粉末を含んでいても、かかるアルミニウム電極を備えた太陽電池の電池特性(開放電圧Voc)は高く維持される(例えばVocが610mV以上である。)ことが確認された。
したがって、本発明に係る裏面電極形成用ペースト組成物によると、基板の反りが防止されるとともに優れた電池特性と良好な外観を有する太陽電池を実現することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 太陽電池
11 シリコン基板(Siウェハ)
12 表面電極(受光面電極)
14 反射防止膜
16 n−Si層(n層)
18 p−Si層
20 アルミニウム電極(裏面電極)
22 裏面側外部接続用電極
24 p


【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の裏面電極形成用ペースト組成物であって
固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末、を含んでおり、
ここで前記複合物粉末は、該複合物粉末と前記アルミニウム粉末と前記ガラス粉末との総量を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で含む、ペースト組成物。
【請求項2】
前記複合物粉末は、前記ケイ素を含む有機または無機化合物によって表面の少なくとも一部が被覆された前記金属酸化物である、請求項1に記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物は、チタンまたは亜鉛の酸化物である、請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
前記複合物粉末の平均粒子径は、1nm以上100nm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項5】
前記固形分は、液状媒体を含む前記ペースト組成物全体の60質量%以上80質量%以下の割合で含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項6】
太陽電池の裏面電極形成用ペースト組成物を製造する方法であって
固形分として、アルミニウム粉末、ガラス粉末、およびケイ素を含む有機または無機化合物と金属酸化物との粒状複合体からなる複合物粉末を、それぞれ用意すること、および
前記用意した各粉末と液状媒体とを混合し、ペースト状に調製すること、
を包含しており、
ここで前記複合物粉末を、該複合物粉末と前記アルミニウム粉末と前記ガラス粉末との総量を100質量%として0.01質量%以上0.45質量%未満の割合で混合する、ペースト組成物の製造方法。
【請求項7】
前記複合物粉末として、前記ケイ素を含む有機または無機化合物によって表面の少なくとも一部が被覆された前記金属酸化物を用いる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物として、チタンまたは亜鉛の酸化物を用いる、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ペースト状に調製するにあたり、前記複合物粉末は、予め該粉末を所定の液状媒体に分散させた分散液の形態で提供される、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記複合物粉末として、平均粒子径が1nm以上100nm以下のものを用いる、請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のペースト組成物を用いて形成された裏面電極を備える太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−138928(P2011−138928A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297944(P2009−297944)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】