説明

太陽電池用基板の作製方法および太陽電池

【課題】本発明は、従来の方法よりも簡単な方法で、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製するための技術を提供することを課題とする
【解決手段】本発明の半導体基板の作製方法は、シリコンインゴットをスライスすることにより作製されたアズスライス状態のシリコン基板の第一の面に対して、サンドブラスト処理による表面処理を行うサンドブラスト工程と、前記サンドブラスト工程の後に、前記シリコン基板に対して、フッ酸、硝酸のいずれか1つ以上を含むエッチング溶液による表面処理を行う工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶シリコン太陽電池作製のためのシリコン基板のテクスチャー構造の作製方法および、その基板を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン太陽電池の高効率化及び低価格化は、太陽電池の普及にとって重要である。
【0003】
太陽電池の効率向上のための一方法として、基板の表面を凹凸構造(テクスチャー構造
)にして、太陽電池表面における光の反射率を低下させ、かつ基板内での光路長を長くすることで入射した光を有効に基板内に閉じ込める(光閉じ込め)方法が広く用いられている。この場合、効率の向上という観点からは、シリコン基板の両面にテクスチャー構造が形成される必要はない。むしろ、基板の片面のみにテクスチャー構造が形成され、もう片方の面は、テクスチャー構造を形成した面よりも反射率の高い鏡面であることが望ましい(非特許文献1)。
【0004】
ところで、現在結晶シリコン太陽電池に一般的に用いられる結晶シリコン基板は、砥粒を含んだ切削液とピアノ線とを用いるマルチワイヤーソーでシリコンインゴットをスライスする方法(遊離砥粒方式)により作製されている。この遊離砥粒方法で作製されたアズスライス状態におけるシリコン基板は、表面にランダムな凹凸やダメージ層が生じている。
【0005】
多結晶シリコン基板の場合は、面内の結晶粒ごとに面方位が違うため、面内で均一なテクスチャーが形成しにくいという問題があるが、このダメージ層を利用することによって、結晶粒の面方位の影響の少ないテクスチャー形成が可能となっている。具体的には、アズスライス状態の多結晶シリコン基板を、フッ酸と硝酸を含んだ等方性のエッチング液を用いてダメージ層の除去を行いながら、基板表面のテクスチャー構造を形成する方法が広く用いられている(非特許文献2)。
【0006】
しかし、この方法では、シリコン基板の両面にテクスチャー構造が形成されてしまう。なぜなら、遊離砥粒方式でスライスした基板は、上記ランダムな凹凸やダメージ層を有するため、シリコン基板の両面ともに溶液によるテクスチャーが形成されやすいからである。このため、遊離砥粒方式でスライスした基板において、基板の一方のみにテクスチャー構造を形成し、他方の面の反射率を一方の面よりも高くするためには、該反射率を高くしたい面に対して、テクスチャー形成用のエッチング溶液とは異なるエッチング溶液を用いて再度エッチングを行う必要があった。
【0007】
また、別のテクスチャー形成方法として、特開2003−101051号公報(特許文献1)では、溶液の代わりにプラズマを用いる方法が開示されている。しかし、この方法は、真空装置を用いなければならないため、コストが高くなるという問題がある。
【0008】
さらに、特開2005−340643号公報(特許文献2)では、ワイヤースライスやサンドブラストにより、シリコン基板全面(特許文献2の図2参照)にダメージ層を形成し、この基板を酸溶液、水洗、アルカリ溶液に順次浸してテクスチャー構造を形成する作製方法が開示されている。しかしながらこの文献では、アズスライス状態のシリコン基板における反射率や、テクスチャー後のシリコン基板の表面と裏面の反射率についての議論はされていない。
【0009】
一方、シリコンインゴットをスライスする方法として、電着、レジン、メタルあるいはその複合によってダイヤモンド砥粒をピアノ線に固着させた固定砥粒ワイヤー(ダイヤモンドワイヤー)を用いて、マルチワイヤーソーによってインゴットをスライスする方法(固定砥粒方式)が検討されている(非特許文献3)。この方式は、遊離砥粒方式に比べて、ワイヤーの使用量が少ない、スライス速度が2倍以上であり、砥粒を含まない冷却液を用いるので廃液処理の問題が少ないといった特徴を有する。したがって、この方法を用いることにより、スライスコストの低減を図ることが可能である。このため、固定砥粒方式によるインゴットのスライス方法は、次世代のスライス技術として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−101051号公報
【特許文献2】特開2005−340643号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Rentsch他、"Single side etching-key technology for industrial high efficiency processing", 23rd European Photovoltaic Solar Energy Conference, Valencia, P. 1889, September, 2008.
【非特許文献2】A. Hauser他、”Acidic texturisation mc-Si using a high throughput in-line prototype system which no organic chemistry", 19th European Photovoltaic Solar Energy Conference, Paris, p.1094, June, 2004.
【非特許文献3】T. Aoyama 他、”Fabrication of single-crystalline silicon solar cells using wafers sliced by a diamond wire saw, 5th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion, Valencia, September, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来の方法よりも簡単な方法で、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製するための技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、固定砥粒方式によるインゴットのスライス方法は、該スライスの条件を適当に選択することにより、該スライス方法によりスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面の反射率をより高くすることができるという特徴を有することを見出した。また、本願発明者らは、固定砥粒方式によってスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面は、遊離砥粒方式でスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面と比べて、溶液によるエッチングでは表面にテクスチャー構造を形成しにくいという特徴を有することを見出した。本願発明者らは、これらの特徴を見出すことによって、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
本発明の半導体基板の作製方法は、シリコンインゴットをスライスすることにより作製されたアズスライス状態のシリコン基板の第一の面に対して、サンドブラスト処理による表面処理を行うサンドブラスト工程と、前記サンドブラスト工程の後に、前記シリコン基板に対して、フッ酸、硝酸のいずれか1つ以上を含むエッチング溶液による表面処理を行う工程と、を含む。
【0016】
上記構成によれば、本発明の半導体基板の作製方法では、上記第一の面は、サンドブラスト処理による表面処理が行われるため、該第一の面の反対側の面と比べて、テクスチャー構造の形成に適した表面形状を有するダメージ層を面内で均一に含みうる。そして、溶液によるエッチング処理では、テクスチャー構造の形成に適した表面形状を有する一定の深さのダメージ層が面内で均一に存在すればするほど、該面にはテクスチャー構造が形成されやすい。上記構成によれば、このようなテクスチャー構造の形成のしやすさの異なる面をもつシリコン基板に対して、エッチング溶液による表面処理が行われる。
【0017】
したがって、上記構成によれば、第一の面とその反対側の面とにおけるテクスチャー構造の形成のしやすさの違いを利用することで、第一の面とその反対側の面とを区別することなく、エッチング溶液による表面処理によって、第一の面のみにテクスチャー構造を形成することが可能である。よって、本発明の半導体基板の作製方法によれば、従来の方法よりも簡単な方法で、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製するための技術を提供することができる。
【0018】
また、本発明の別の形態として、本発明の半導体基板の作製方法は、シリコンインゴットをスライスすることで、前記第一の面と、前記第一の面の反対側の面である第二の面とが、600nmから800nmの範囲の光の波長に対して、28%以上36%以下の反射率を有するシリコン基板を作製するスライス工程を更に含み、上記アズスライス状態のシリコン基板は、前記スライス工程により作製されてもよい。
【0019】
ここで、28%以上36%以下の反射率は、従来のアズスライス状態のシリコン基板表面の反射率の中で、比較的に高い反射率である。
【0020】
したがって、上記構成によれば、従来の方法よりも簡単な方法で、より効率のよいシリコン基板を作製することができる。
【0021】
また、本発明の別の形態として、上記スライス工程が、電着、レジン、メタルまたはそれらの複合による方法によってダイヤモンド砥粒を金属ワイヤー表面に固着させた固定砥粒方式のワイヤーを用いたスライス工程であってもよい。
【0022】
上述のとおり、固定砥粒方式によるスライス方法では、適当なスライス条件を選択することにより、該スライス方法でスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面の反射率をより高くすることができる。
【0023】
したがって、上記構成によれば、アズスライス状態における第一の面の反射率と第二の面の反射率をより高くすることができる。
【0024】
また、上述のとおり、固定砥粒方式によってスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面は、遊離砥粒方式でスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面と比べて、溶液によるエッチングでは表面にテクスチャー構造を形成しにくい。
【0025】
したがって、上記構成によれば、第一の面と第二の面におけるテクスチャー構造の形成されやすさをより顕著にすることができる。よって、上記エッチング溶液による表面処理を行う工程において、より簡単に、第一の面のみにテクスチャー構造を形成することができる。
【0026】
また、本発明の別の形態として、上記エッチング溶液による表面処理を行う工程では、
前記第一の面と前記第二の面とが前記エッチング溶液により同時に表面処理が行われてもよい。
【0027】
上述のとおり、第一の面は、第二の面よりも、テクスチャー構造が形成されやすい。したがって、上記構成のように、第一の面と第二の面とをエッチング溶液により同時に表面処理を行っても、第一の面のみにテクスチャー構造を形成することが可能である。
【0028】
したがって、上記構成によれば、第一の面と第二の面とを区別することなくエッチングが可能であるため、従来の方法よりも簡単な方法で、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製するための技術を提供することができる。
【0029】
また、本発明の別の形態として、上記シリコンインゴットは多結晶シリコンであってもよい。
【0030】
また、本発明の別の形態として、上記それぞれの半導体基板の作製方法により作製された半導体基板を用いて、太陽電池が作成されてもよい。
【0031】
上記構成によれば、従来よりも簡単な方法でシリコン基板を作製することができるため、従来よりも簡単な方法で太陽電池を作製することができる。また、当該シリコン基板を用いることで、光閉じ込めの効果やBSF(Back Surface Field)の効果が高くなり、同一プロセスでもより効率の高い結晶シリコン太陽電池を作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来よりも簡単な方法で、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】固定砥粒方式でスライスしたシリコン基板の表面状態を示す写真。
【図1B】遊離砥粒方式でスライスしたシリコン基板の表面状態を示す写真。
【図2】固定砥粒方式でスライスしたシリコン基板の表面反射率と遊離砥粒方式でスライスしたシリコン基板の表面反射率とを比較した図。
【図3】固定砥粒方式でスライスしたシリコン基板のサンドブラスト処理を行った面の表面状態を示す写真。
【図4A】本発明の実施例で得られたシリコン基板の第一の面(テクスチャー面)を示す写真。
【図4B】本発明の実施例で得られたシリコン基板の第二の面を示す写真。
【図5】本発明の実施例で得られたシリコン基板の第一の面(テクスチャー面)の表面反射率と本発明の実施例で得られたシリコン基板の第二の面の表面反射率とを比較した図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一側面に係る太陽電池用シリコン基板の作製方法の実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を説明する。
【0035】
まず、固定砥粒ワイヤー(ダイヤモンドワイヤー)を用いたマルチワイヤーソーを用いて、シリコンインゴットをスライスし、アズスライス状態のシリコン基板を作製する(以下、シリコン基板を単に「基板」とも記載する)。この場合、固定砥粒ワイヤーは、ダイヤモンド砥粒を、電着、レジン、メタル、あるいはそれらの複合の方法によって金属ワイ
ヤーに固着させたものを用いる。なお、本実施形態で用いられるシリコンインゴットは、多結晶シリコンインゴットであるが、単結晶シリコンインゴットでもよい。
【0036】
また、スライスしたアズスライス状態でのシリコン基板の表面は、なるべく高い光の反射率(以下、「表面反射率」とも記載する)を有することが要求される。本実施形態では、スライスしたアズスライス状態でのシリコン基板の反射率は、両面共に、波長600nmから800nmまでのすべての波長の光に対して、28%以上36%以下、望ましくは、3
0%以上36%以下であることが求められる。反射率が28%未満であれば、遊離砥粒方
法でスライスしたアズスライス基板の表面反射率とあまり変わらなくなってしまう。一方、反射率の上限値は36%である。これは、波長600nmから800nmの範囲における鏡面の単結晶シリコン基板の反射率の最大値が、36%程度であることに起因する(Phys.Rev.,Vol.120,p.37(1960))。波長600nmから800nmの範囲における鏡面状態になっているシリコン基板の反射率の最大値が36%であるため、本実施形態に係るシリコン基板の表面反射率の上限値は36%である。
【0037】
シリコン基板の反射率を上記範囲にするための固定砥粒ワイヤーでのスライスの条件は、固定砥粒ワイヤーのワイヤー径、ダイヤモンド砥粒の砥粒径、スライススピードなどの要因に依存する。そのため、作業者は、上記の表面反射率の要求を満たすスライス条件を実験などにより予め調べておく必要がある。例えば、固定砥粒ワイヤーを使用して、アズスライス状態のシリコン基板の厚さが100mmから200mm程度、サイズが156mm角となるようにシリコンインゴットをスライスする場合、固定砥粒ワイヤーのワイヤー径が90mmから160mm、ダイヤモンド砥粒の砥粒径が5mmから30mm、スライススピードが約0.2mm/minから1.5mm/minであることが望ましい。
【0038】
次に、このシリコン基板の片面のみをサンドブラスト処理を行い、この面に一様にダメージ層を形成する。サンドブラスト処理の条件(研磨剤の種類、研磨剤の大きさ、研磨剤を吹き付ける圧力)は、次のエッチング工程において面内で均一にエッチングができるような深さ方向および面内の均一性があればかまわない。
【0039】
ただし、研磨材の種類は、シリコンカーバイド(SiC)、酸化アルミナ、エメリー、ガ
ーネットであることが望ましい。また、研磨剤の大きさは、粒度番号が400番から3000番の研磨剤の大きさであることが望ましい。更に、研磨剤を吹き付ける圧力は、0.2〜0.6MPaであることが望ましい。サンドブラスト処理の方式としては、研磨材を空
気、窒素などの気体と共に吹き付ける方式のほかに、研磨材と水とを混合させてそれを吹きつける方式でもよい。なお、サンドブラスト処理を行った面は、本発明の第一の面に相当する。
【0040】
さらに、サンドブラスト処理の後、このシリコン基板を、フッ酸、硝酸のいずれか1つ以上を含む溶液によりエッチングすることによって所望のシリコン基板を得ることができる。
【0041】
この理由は、次のように説明できる。すなわち、サンドブラスト処理を行った面は、サンドブラスト処理を行っていない面よりも、テクスチャー形成に適した表面形状を有するダメージ層を面内で均一に含む。そして、溶液によるエッチング処理では、テクスチャー形成に適した表面形状を有する一定の深さのダメージ層が面内で均一に存在すればするほど、該面にはテクスチャー構造が形成されやすい。よって、溶液によるエッチング処理において、サンドブラスト処理を行った面は、サンドブラスト処理を行っていない面よりもテクスチャー構造が形成されやすい。このテクスチャー構造の形成されやすさを利用することで、サンドブラスト処理を行った面にはテクスチャー構造を形成し、サンドブラスト処理を行っていない他方の面にはテクスチャー構造を形成させないことが可能である。つ
まり、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製することができる。
【0042】
なお、固定砥粒方法でスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面は、遊離砥粒方式でスライスしたアズスライス状態のシリコン基板の表面よりも、ダメージ層が形成されにくい。よって、遊離砥粒方式よりも固定砥粒方法を用いた方が、サンドブラスト処理を行っていない面は、溶液によるエッチング処理でテクスチャー構造が形成されにくい。したがって、溶液によるエッチングにおけるテクスチャー構造の形成されやすさの差をより明確にするためには、固定砥粒方法が有効である。
【0043】
エッチングの方法としては、シリコン基板をエッチング溶液の中に浸漬させてもよいし、シリコン基板にシャワーなどでエッチング液を吹きかけてエッチングを行ってもよい。
【0044】
シリコン基板のエッチングの一例として、フッ酸と硝酸とが含まれる溶液の温度を5℃から30℃の範囲に保持し、この中に基板を浸漬させ、その後水洗する方法がある。条件によっては、このエッチング処理中、シリコン基板の表面に黒褐色のポーラス層が形成されることがある。この場合は、当該シリコン基板を、水洗後、数%(例えば、1%〜3%)の水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液に浸し、ポーラス層を除去する必要がある。また、上記フッ酸と硝酸が含まれる溶液にポーラス層を生じさせないような添加剤を加えた溶液によってエッチングを行ってもよい。
【0045】
このようにして、複数回エッチング処理せず、基板両面を同時にエッチング処理しても、片方の面は、テクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製することができる。したがって、本実施形態におけるシリコン基板作製方法では、エッチング処理は1回でよく、複数回行わなくてもよいため、従来よりも簡単で、かつ、従来よりも低価格で、前記構造を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を作製することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本実施形態の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
反射率のより高いアズスライス状態のシリコン基板を得るために、固定砥粒ワイヤー(ダイヤモンドワイヤー)を用いたマルチワイヤーソーで多結晶シリコンインゴットをスライスした。このときのワイヤーは、ダイヤモンド砥粒をレジンボンドで金属ワイヤーに固着させたもので、ワイヤー径は、約150mmであった。また、スライス速度は、0.5mm/minとした。また、スライスされた多結晶シリコン基板の厚さは、約200mmであった。
【0048】
図1Aは、固定砥粒ワイヤーを用いた固定砥粒方式でスライスされたアズスライス状態の多結晶シリコン基板の表面写真を示す。また、図1Bは、遊離砥粒方式でスライスされたアズスライス状態の多結晶シリコン基板の表面写真を示す。図1A及び図1Bより、シリコン基板の表面形状は、スライス方式によって大きく異なっていることがわかる。
【0049】
また、図2は、これらのアズスライス状態のシリコン基板の反射率を示す。本測定は、分光光度計(日立分光光度計U4000)で積分球を用いて行った。波長600nmから8
00nmの範囲の光の波長に対する、固定砥粒方式でスライスした基板表面の反射率は32〜34%の範囲、遊離砥粒方式でスライスした基板表面の反射率は26〜27%の範囲である。よって、固定砥粒方式でスライスした基板の反射率は、その表面形状を反映して、遊離砥粒方式でスライスした基板より高くなっている。これより、固定砥粒方式では、適
当なスライス条件によって、遊離砥粒方法でスライスした基板表面よりもより高い反射率を有するシリコン基板が作成可能であることが示された。
【0050】
その後、該シリコン基板の片面のみにサンドブラスト処理を行った。図3は、サンドブラスト後の基板の表面の状態を示す。本実施例では、ニューマブラスター(登録商標)SG-4(不二製作所製)を用いて研磨材を空気で吹き付けることでサンドブラスト処理を行った。用いた研磨材の種類は、フジランダムWA(不二製作所製)、用いた研磨剤の大きさは、粒度番号が1000(平均粒径11μm)のもの、研磨剤を吹き付ける圧力は、0.3MPaであった。図3に示されるとおり、サンドブラスト処理によって、固定砥粒方式でスライスした基板に特有のスジ状の模様がなくなり、表面に均一なダメージ層が形成された。
【0051】
次に、この基板に酸エッチング溶液を用いた等方性のエッチングを行った。本実施例では、溶液に含まれるフッ酸と硝酸との容積比を7:5とした混合溶液を用いて、基板を、20℃に保持したエッチング液に約100秒浸すことで、エッチング処理を行った。図4Aは、サンドブラスト処理を行った面にエッチング処理を行った後の面(以下、「第一の面」と表記する)の表面写真を示す。また、図4Bは、サンドブラスト処理を行わなかった面にエッチング処理を行った後の面(以下、「第二の面」と表記する)の表面写真を示す。第一の面では、基板の全面にテクスチャー構造が形成されており、サンドブラスト処理の有効性が確認できた。一方、サンドブラスト処理を行わなかった第二の面では、溶液処理で形成されたテクスチャーの形状が見られるものの、エッチング前からあるスジ状の模様がみえており、第一の面に比べ明らかにテクスチャー構造が形成されなかった。図5は、このシリコン基板の第一の面と第二の面の反射率を示す。上記第一の面は、広い波長にわたって低い反射率が得られており、波長600nmから800nmの範囲の波長の光に対する反射率は、24〜26%の範囲であった。一方、上記第二の面では、エッチング処理前のアズスライス状態の面よりも反射率は低くなるが、第一の面に比べて絶対値で約3.
5%反射率が高いことがわかった。
【0052】
以上のように、本実施例では、本実施形態によるシリコン基板の作製方法を用いることで、一回のエッチング処理によって、片方の面はテクスチャー構造を有し、もう片方の面は、該テクスチャー構造を有する面よりも反射率の高い面を有する光閉じ込めに有効なシリコン基板を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンインゴットをスライスすることにより作製されたアズスライス状態のシリコン基板の第一の面に対して、サンドブラスト処理による表面処理を行うサンドブラスト工程と、
前記サンドブラスト工程の後に、前記シリコン基板に対して、フッ酸、硝酸のいずれか1つ以上を含むエッチング溶液による表面処理を行う工程と、
を含むことを特徴とする半導体基板の作製方法。
【請求項2】
シリコンインゴットをスライスすることで、前記第一の面と、前記第一の面の反対側の面である第二の面とが、600nmから800nmの範囲の光の波長に対して、28%以上36%以下の反射率を有するシリコン基板を作製するスライス工程を更に含み、
前記アズスライス状態のシリコン基板は、前記スライス工程により作製されることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の作製方法。
【請求項3】
前記スライス工程が、電着、レジン、メタルまたはそれらの複合による方法によってダイヤモンド砥粒を金属ワイヤー表面に固着させた固定砥粒方式のワイヤーを用いたスライス工程であることを特徴とする請求項2に記載の半導体基板の作製方法。
【請求項4】
前記エッチング溶液による表面処理を行う工程では、前記第一の面と前記第二の面とが前記エッチング溶液により同時に表面処理が行われることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体基板の作製方法。
【請求項5】
前記シリコンインゴットが多結晶シリコンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体基板の作製方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体基板の作製方法により作製された半導体基板を用いて作製された太陽電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−160568(P2012−160568A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19092(P2011−19092)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】