説明

太陽電池用封止剤及びこれを用いた太陽電池

【課題】光電変換効率を改善し得る太陽電池用封止剤を提供し、光電変換効率に優れ実用特性に優れた太陽電池を提供する。
【解決手段】透明樹脂に蛍光物質が分散又は溶解されてなる太陽電池用封止剤において、蛍光物質は、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収し、また、平均粒径が20nm以下である。この太陽電池用封止剤の波長600nm〜800nmにおける光透過率は、90%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルの封止に使用する太陽電池用封止剤及びこれを用いた太陽電池に関するものであり、特に、波長変換効果を有する新規な太陽電池用封止剤及びこの太陽電池用封止剤を用いて封止剤層を形成した太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、ニ酸化炭素等の温室効果ガスを排出する化石燃料に替わり、クリーンな再生可能エネルギーとして注目されている。太陽電池が一般に普及し、電力の一部を賄うことができれば、環境保全上その意義は大きいものとなる。
【0003】
このような背景から、各方面で太陽電池の開発が進められている。しかしながら、太陽電池を実用化する上では、エネルギーの変換効率の悪さが大きな問題となっている。すなわち、太陽電池セルは、光電変換を行う際、太陽光のうちの一部の波長の光しか利用できず、このことが変換効率低下の要因となっている。
【0004】
この問題を解決する方法の一つとして、太陽電池セルが利用できない短波長域の太陽光を、太陽電池セルが利用可能な長波長域の光に変換し、波長変換物質として蛍光物質等を用いる波長変換技術が提案されている。また、この波長変換技術を利用した太陽電池も提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、光電変換層の光入射側に、光電変換層での光電変換効率の低い波長範囲の光を吸収して光電変換効率の高い波長範囲の光を発光する波長変換体の層を光電変換層と平行に配置した太陽電池が開示されている。この特許文献1に記載された太陽電池では、例えば光電変換層と透明保護カバーとの間の透明接着剤層中に波長変換体の微粉末を分散して混入することで波長変換体の層を形成している。
【0006】
また、例えば特許文献2には、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、照射された光を吸収し、吸収した光を、これよりも長波長の光に変換する波長変換層を有する太陽電池モジュールが開示されている。この特許文献2に記載された太陽電池モジュールでは、波長変換層は、受光面に塗布されて形成されるか、又は太陽電池セルを保護する封止材として形成される。
【0007】
また、例えば特許文献3には、光が太陽電池素子に到達するまでの経路中に、酸化物蛍光物質を含む材料を配設した太陽電池が開示されている。ここで、酸化物蛍光物質は、200〜400nmの波長範囲にある紫外線を400〜1000nmの波長範囲に変換することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−200576号公報
【特許文献2】特開平7−202243号公報
【特許文献3】特開2003−218379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら特許文献1〜3に記載された技術に基づいて太陽電池を作製しても、例えば光電変換効率等の点で、必ずしも満足のいく結果が得られていない。その原因の一つとしては、波長変換に使用する蛍光物質の吸収特性、発光特性、太陽光の透過率等に関する検討が不十分であることが挙げられる。
【0010】
例えば、特許文献1〜3の何れの記載の技術においても、光電変換効率の低い短波長範囲の光を吸収し、これよりも長波長範囲の光を発光することが規定されているが、具体的に蛍光物質がどのような吸収スペクトルを有すれば良いかについてはほとんど検討されていない。特に、光電変換を行う太陽電池セルの前面に形成される封止剤層を波長変換層として利用する場合、波長変換による効率向上を最大限に実現するとともに、封止剤層自体が太陽電池セルの太陽光吸収の妨げにならないように最適化する必要がある。
【0011】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、従来のものに比べてより高い光電変換効率を実現し得る太陽電池用封止剤及びこれを用いた太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明の太陽電池用封止剤は、透明樹脂に蛍光物質が分散又は溶解されてなる太陽電池用封止剤であって、前記蛍光物質は、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の太陽電池は、光電変換層を有する太陽電池セル上に封止剤層を介して透明保護ガラスが貼り合わされてなる太陽電池であって、前記封止剤層は、透明樹脂に蛍光物質が分散又は溶解されてなる太陽電池用封止剤により形成されており、前記封止剤層に含まれる蛍光物質は、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することを特徴とする。
【0014】
太陽電池用封止剤に用いられる蛍光物質は、波長変換体として機能するものであり、先の特許文献1〜3等にも記載されている通り、光電変換層での光電変換効率の低い短波長域の光を吸収して光電変換効率の高い長波長域の光を発光することが必要である。ただし、単に短波長域(例えば400nm以下の波長域)に吸収があればよいというわけではない。例えば、400nm以下の波長域に吸収があるとしても400nmより長波長域にも吸収がある場合、光電変換層における光電変換に必要な光も吸収してしまうことになり、波長変換による効率の向上が相殺され、十分な変換効率が実現できない。本発明の太陽電池用封止剤は、350nm〜400nmの光を400nmを越える波長域の光より多く吸収する蛍光物質を含有する。これにより、光電変換層が吸収できない光を効率的に光電変換して利用可能とすることができるため、実効的な変換効率の向上を実現することが可能となる。
【0015】
また、本発明の太陽電池用封止剤では、このような構成に加えて、蛍光物質の平均粒径を20nm以下とし、封止剤の波長600nm〜800nmにおける光透過率を90%以上としてもよい。この場合、封止剤自体が光電変換層への太陽光の到達を妨げることがなく、更なる光電変換効率の向上を実現することが可能となる。蛍光物質を利用して波長変換を行う場合、蛍光物質の粒子が100nm以上となると太陽光の散乱等により変換効率が大きく低下することがあり、この問題が、波長変換層を採用した太陽電池が実用化されにくい原因の一つとなっていた。本発明の太陽電池用封止剤は、蛍光物質の平均粒径を20nm以下とし、封止剤の波長600〜800nmにおける光透過率を90%以上とすることにより、このような問題を解消することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、直接光電変換に寄与できなかった波長域の光をも光電変換に有効利用できる等、太陽電池の光電変換層において利用可能な光を拡大させることができ、単位面積当たりの光電変換効率が良好な値となる太陽電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルにおける吸収特性を示す図である。
【図2】太陽電池の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図3】(a)は蛍光物質CdSeナノ粒子の吸収スペクトルを示す図であり、(b)はその発光スペクトルを示す図である。
【図4】(a)は蛍光物質DPhP−C4の吸収スペクトルを示す図であり、(b)はその発光スペクトルを示す図である。
【図5】(a)は蛍光物質ADS085の吸収スペクトルを示す図であり、(b)はその発光スペクトルを示す図である。
【図6】評価に使用したサンプルセルの一例を示す図であり、多結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルを用いた評価セルの概略断面図である。
【図7】多結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルにおける吸収特性を示す図である。
【図8】評価に使用したサンプルセルの一例を示す図であり、単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルを用いた評価セルの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した太陽電池用封止剤及びこれを用いた太陽電池の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照して説明する。
【0019】
本実施の形態の太陽電池用封止剤は、光電変換層を有する太陽電池セルの前面に配置し、2枚の透明保護ガラス同士を貼り合わせるのに用いられるものであり、接着剤としても機能する透明樹脂に、波長変換体である蛍光物質を分散又は溶解してなるものである。
【0020】
蛍光物質は、透過する光に対して波長変換を行うものである。変換効率が高い太陽電池を実現するために、蛍光物質は、光電変換層での光電変換効率の低い短波長域の光を吸収して光電変換効率の高い長波長域の光を発光する必要がある。また、単結晶シリコンや多結晶シリコンからなる光電変換層を有する太陽電池では、多少の相違はあるものの、一般に、500nm以下の波長域の光に対して吸収が小さくなり、400nm以下の波長域の光に対しては吸収が一段と小さくなる。
【0021】
図1は、単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルにおける太陽光スペクトルの吸収特性(分光感度特性)を示す図である。図1において(a)は太陽電池セルを通常型セルとした場合の分光感度特性であり、(b)は太陽電池セルをBSF(back surface field;背面電界)型セルとした場合の分光感度特性である。ここで、BSF型セルは、セルの裏面にP型拡散層を設け、PPの電界によりキャリアの再結合による損失を小さくしたものである。図1に示すように、太陽電池セルが通常型、BSF型の何れの場合も400nm以下の波長域の光に対する吸収特性(分光感度特性)が非常に小さくなる。このため、本実施の形態の太陽電池は、400nmを超える波長域の光を光電変換している。
【0022】
このような観点から、本実施の形態における太陽電池用封止剤に添加する蛍光物質は、400nm以下の波長域の光を吸収し、400nmを超える波長域の光を発光する蛍光物質とすることが好ましい。太陽電池用封止剤にこのような蛍光物質を添加することにより、光電変換層で吸収できない光を波長変換して光電変換層で吸収されることが可能な光とすることができる。
【0023】
更に、蛍光物質は、波長域350nm〜400nmの光を、400nmを越える波長域の光よりも多く吸収するものであることが好ましい。400nm以下の波長域の光を吸収していても、400nmを越える波長域の光を多く吸収する場合には、光電変換層で利用できる光の総量が少なくなってしまうからである。350nm〜400nmの波長域の光を、400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することにより、光電変換層で利用可能な光(直接光)を減少させることなく、波長変換された光も利用可能となり、その結果、光電変換層で利用できる光の総量を増加させることができる。
【0024】
また、蛍光物質は、その吸収スペクトルにおいて、400nm以下の波長域にピークを有するとともに、発光スペクトルにおいて、太陽電池の感度が高い450nm以上の波長域にピークを有する蛍光物質であることが好ましい。更に、吸収のピークと発光のピークとの波長の差、すなわちストークシフトは、50nmより大きいことが好ましい。なお、蛍光物質が量子トッドである場合は、ストークシフトが明確にならない場合もあるが、このようなストークシフトであっても光電変換効率を高める上では効果的である。
【0025】
更に、蛍光物質は、このような吸収特性を有するとともに、いわゆるナノ粒子であることが好ましい。具体的に、蛍光物質は、平均粒径が20nm以下のナノ粒子であることが好ましい。従来、蛍光物質の平均粒径は、可視光の波長よりも大きく、サブミクロン以上の大きさであることが一般的であった。粒径の大きな蛍光物質を封止剤に使用すると、入射した太陽光が光散乱を起こし、その結果、太陽光の一部が光電変換層に到達しないため、高い光透過率(90%以上)を実現することは難しく、その結果、光電変換効率を低下させることになる。このような光散乱による光電変換効率の低下は、蛍光物質を用いた波長変換層を採用した太陽電池が実用化され難い理由の一つとなっていた。これに対し、本実施の形態における太陽電池用封止剤では、蛍光物質を平均粒径20nm以下のナノ粒子とすることにより、光散乱を抑制し、入射する太陽光の大部分を有効利用することが可能となる。このような特性を有する蛍光物質としては、平均粒径が20μm以下のCdSe等のナノ粒子を挙げることができる。
【0026】
蛍光物質を分散又は溶解させる透明樹脂は、太陽光を十分に透過可能な透明性を有する樹脂材料であれば任意の樹脂材料とすることができ、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニル樹脂、スチレン系エラストマ樹脂(スチレン・エチレン−ブチレン・スチレン(SEBS))等を挙げることができる。中でも、SEBSは、透明性に優れ取り扱い性も良好であり、また、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のように酸を発生することがなく、蛍光物質に悪影響を及ぼすこともないことから、透明樹脂として特に好ましい。
【0027】
太陽電池用封止剤が、SEBSに、平均粒径20nm以下のナノ粒子からなる蛍光物質を分散又は溶解してなる場合、太陽光の光透過率を90%以上、特に、波長600nm〜800nmでの光透過率を90%以上、更には波長600nm〜800nmでの光透過率を95%以上とすることができる。
【0028】
次に、本実施の形態における太陽電池用封止剤を用いた太陽電池について説明する。図2は、本実施の形態における太陽電池の構成を示す図である。太陽電池1は、一対の透明保護ガラス2,3の間に、本実施の形態における太陽電池用封止剤からなる封止剤層7を形成し、光電変換層を有する太陽電池セル4を封止することにより構成される。太陽電池セル4は、互いに接続配線5により電気的に接続されており、裏面側に設けられたターミナルボックス6より電力が取り出される。
【0029】
太陽電池セル4の光電変換層としては、単結晶シリコンを用いたもの、多結晶シリコンを用いたもの、アモルファス(非晶質)シリコンを用いたもの等、公知の光電変換層を適用することが可能である。
【0030】
封止剤層7は、透明保護ガラス2と透明保護ガラス3との間に形成される。封止剤層7の外周部は、シール材8を介してフレーム9に固定される。これにより、太陽光は、前面側の透明保護ガラス2及び封止剤層7を透過して太陽電池セル4に入射される。
【0031】
太陽電池1は、上述したように、封止剤層7中の蛍光物質として、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを超える波長域の光よりも多く吸収するものを用いることにより、光電変換層で利用可能な光を減少させることなく、波長変換された光も利用可能となり光電変換層で利用可能な光の総量を増加させることができる。また、この蛍光物質として、平均粒径20nm以下のナノ粒子を用いることにより、光散乱を抑制し、入射する太陽光の大部分を有効利用することが可能となる。仮に、封止剤層7にナノ粒子ではなく通常の粒子径の蛍光物質を含有させた場合、光散乱があるために光透過率を90%以上にすることは難しい。封止剤層7において、蛍光物質として平均粒径20nm以下のナノ粒子を用いるとともに、透明樹脂としてSEBSを用いることで、太陽光の光透過率を90%以上とすることができる。特に波長600nm〜800nmでの光透過率を90%以上、更には95%以上とすることができる。これにより、太陽電池1は、太陽電池セル4の光電変換層で十分な量の太陽光を光電変換することができる。
【0032】
太陽電池1は、このように、光電変換効率が低い波長域の光を吸収し、且つ光電変換効率の高い波長域の光を発光し、更には波長600nm〜800nmにおける光透過率が90%の透明性に優れた封止剤層7が、太陽電池セル4の光入射側に設けてられている。これにより、光電変換に寄与できなかった波長範囲の光も光電変換に有効に利用することができるとともに光電変換率の高い波長範囲の光も有効に光電変換に利用することができるため、単位面積当たりの発電効率に優れた太陽電池を実現することが可能となる。
【0033】
以上、本実施の形態について説明してきたが、本発明は、このような実施の形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
≪1.多結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルによる実験例≫
(実施例1)
250mgのSEBSに、平均粒径8nmのCdSeナノ粒子からなる蛍光物質E560(EVIDOT社製)を44μl加えるとともに、トルエンを950μl加えて封止剤を調製した。
【0036】
蛍光物質E560の吸収スペクトルを図3(a)に示す。また、蛍光物質E560の発光スペクトルを図3(b)に示す。図3(a)に示すように、蛍光物質E560の吸収スペクトルにおいては、350nm以下の波長域に吸収のピークがあり、350nm〜400nmの波長域における吸収が400nmを越える波長域における吸収よりも大きい。また、図3(b)に示すように、蛍光物質E560の発光スペクトルにおいては、500nmを越えた波長域(波長570nm付近)に発光のピークがある。
【0037】
以下の比較例1、2では、色素用途の蛍光物質を用いた太陽電池用封止剤を調製した。
【0038】
(比較例1)
以下の[化1]に示す色素用途の蛍光物質DPhP−C4を用意した。250mgのSEBSにDPhP−C4を194μl加えるとともに、トルエンを800μl加えて太陽電池用封止剤を調製した。この蛍光物質DPhP−C4の吸収スペクトルを図4(a)に示す。また、蛍光物質DPhP−C4の発光スペクトルを図4(b)に示す。図4(a)に示すように、蛍光物質DPhP−C4の吸収スペクトルにおいては、波長450nm付近及び波長435nm付近に吸収のピークがあり、350nm〜400nmの波長域における吸収が400nmを越える波長域における吸収よりも小さい。また、発光スペクトルにおいて、発光のピーク位置は、500nm以下の波長域(波長480nm付近)である。
【0039】
【化1】

【0040】
(比較例2)
250mgのSEBSに、以下の[化2]に示す色素用途の蛍光物質ADS085を44μl加えるとともに、トルエンを950μl加えて太陽電池用封止剤を調製した。この蛍光物質ADS085の吸収スペクトルを図5(a)に示す。また、蛍光物質ADS085の発光スペクトルを図5(b)に示す。図5(a)に示すように、蛍光物質ADS085の吸収スペクトルにおいては、波長411nm付近に吸収のピークがあり、350nm〜400nmの波長域における吸収が400nmを越える波長域における吸収よりも小さい。また、図5(b)に示すように、蛍光物質ADS085の発光スペクトルにおいて、発光のピーク位置は、500nm以下である。
【0041】
【化2】

【0042】
次に、実施例1及び比較例1,2で調整した封止剤を用いて太陽電池モジュールを試作した。具体的には、図6に示すように、多結晶シリコンを光電変換層として備えた太陽電池セルモジュール11の前面に、2枚の透明保護ガラス12,13間に封止剤を挟み込んで封止剤層14を形成したものを設置した。この封止剤層14は、封止剤をドクターブレードで塗布した後、Ar雰囲気中で封止することにより形成した。封止剤層14の厚さは60μmとした。また、太陽電池セルモジュール11の太陽電池セルのサイズは65mm×41mm、透明保護ガラス12,13のサイズは70mm×70mmとした。
【0043】
このような構成を備えた太陽電池モジュールの吸収特性(分光感度)を図7に示す。この図7において、曲線(a)、(b)は、何れも多結晶シリコンであるSiNを光電変換層として備えた太陽電池モジュールの分光感度としての内部量子効率を示し、曲線(c)は、SiNを備えていない太陽電池モジュールの内部量子効率を示す。ここで、曲線(a),(c)は、定数Q=+5.0×1011とするものであり、曲線(b)は定数Q=−2.7×1011とするものである。内部量子効率は、電流によって発生する電子と正孔との対が、どの程度目的の波長の光を放射して再結合するかを割合として示すものであり、結晶中の欠陥の濃度、発光機構等の材料の物性によって値が特定され、1を理想な値とする。
【0044】
図7に示すように、約600nmよりも小さい波長域において、SiNを光電変換層として備えた太陽電池モジュールの内部量子効率(曲線(a),(b))は、SiNを備えていない太陽電池(曲線(c))の内部量子効率(曲線(c))よりも大きい。SiNを備えていない太陽電池では、特に400nm以下において急激に内部量子効率が小さくなる。
【0045】
このような結果から、太陽電池モジュールは、多結晶シリコンであるSiNを光電変換層として備えることにより、特に400nm以下の波長域で、SiNを備えていない場合よりも良好な吸収特性(分光感度)を実現することができる。
【0046】
次に、試作した太陽電池モジュールについて、光電変換効率を計測した。計測結果を[表1]に示す。なお、[表1]において「セル単体」は、2枚の透明保護ガラス12、13で挟み込んだ封止剤層14を設置していない太陽電池セルモジュール11のみの状態で光電変換効率を計測した場合の計測結果である。また「参照例1」、「参照例2」は、蛍光物質を含まないSEBSで封止剤層14を形成した太陽電池モジュールについて光電変換効率を計測した場合の、それぞれ1回目、2回目の計測結果である。
【0047】
【表1】

【0048】
[表1]に示すように、光電変換層として多結晶シリコンを備えた太陽電池セルにおいて、実施例1の太陽電池セルは、最も良好な光電変換効率の値が得られた。このことは、実施例1では、蛍光物質が、350nm以下の波長域に吸収のピークがあり、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することにより、光電変換層で利用できる光の総量を増加させることができ、また、平均粒径が8nmのCdSeナノ粒子からなることにより、光散乱を抑制し、入射する太陽光の大部分を有効利用することができたため、良好な光電変換効率の値が得られたと考えられる。
【0049】
≪2.単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルによる実験例≫
先の実施例1及び比較例1、2の太陽電池用封止剤の封止剤層を備えるとともに単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールを試作した。また、[化3](a)、(b)に示す蛍光物質を含有する太陽電池用封止剤を調製し(比較例3とする。)、同様に太陽電池モジュールを試作した。
【0050】
【化3】

【0051】
図8に、これら試作した太陽電池モジュールの構成を示す。図8に示す太陽電池モジュールは、単結晶シリコンを光電変換層とする太陽電池セルモジュール21の前面に封止剤層22を介してポリエチレンテレフタレートフィルム23を貼り合わせた構造を有するものである。封止剤層22の厚さ、ポリエチレンテレフタレートフィルム23の厚さは、何れも25μmである。太陽電池セルモジュール21の太陽電池セルのサイズは125mm×125mmであり、ポリエチレンテレフタレートフィルム23のサイズは150mm×150mmである。
【0052】
作製した太陽電池2について、光電変換効率を計測した。結果を[表2]に示す。なお、[表2]において、「セル単体」は、封止剤層22やポリエチレンテレフタレートフィルム23を設置していない太陽電池セルモジュール21のみで測定した場合の計測結果であり、「参照例3」は、蛍光物質を含まないSEBSで封止剤層22を形成した場合の計測結果である。
【0053】
【表2】

【0054】
[表2]に示す結果から明らかなように、光電変換層として多結晶シリコンを備えた太陽電池セルにおいても、実施例1の封止剤を用いた太陽電池において、最も良好な光電変換効率の値が得られた。このことは、上述したように、蛍光物質が、350nm以下の波長域に吸収のピークがあり、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することにより、光電変換層で利用できる光の総量を増加させることができ、また、平均粒径が8nmのCdSeナノ粒子からなることにより、光散乱を抑制し、入射する太陽光の大部分を有効利用することができたため、良好な光電変換効率の値が得られたと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
1 太陽電池、2,3 透明保護ガラス、4 太陽電池セル、5 接続配線、6 ターミナルボックス、7 封止剤層、8 シール材、9 フレーム、11,21 太陽電池セルモジュール、12,13 透明保護ガラス、14,22 封止剤層、23 ポリエチレンテレフタレートフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂に蛍光物質が分散又は溶解されてなる太陽電池用封止剤であって、
前記蛍光物質は、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することを特徴とする太陽電池用封止剤。
【請求項2】
前記蛍光物質は、400nm以下の波長域に吸収スペクトルのピークを有するとともに、500nm以上の波長域に発光スペクトルのピークを有することを特徴とする請求項1記載の太陽電池用封止剤。
【請求項3】
前記蛍光物質の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の太陽電池用封止剤。
【請求項4】
波長600nm〜800nmにおける光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の太陽電池用封止剤。
【請求項5】
前記透明樹脂は、スチレン・エチレン−ブチレン・スチレンを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の太陽電池用封止剤。
【請求項6】
光電変換層を有する太陽電池セル上に封止剤層を介して透明保護ガラスが貼り合わされてなる太陽電池であって、
前記封止剤層は、透明樹脂に蛍光物質が分散又は溶解されてなる太陽電池用封止剤により形成されており、
前記蛍光物質は、350nm〜400nmの波長域の光を400nmを越える波長域の光よりも多く吸収することを特徴とする太陽電池。
【請求項7】
前記蛍光物質は、400nm以下の波長域に吸収スペクトルのピークを有するとともに、500nm以上の波長域に発光スペクトルのピークを有することを特徴とする請求項6記載の太陽電池。
【請求項8】
前記蛍光物質の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする請求項6又は7記載の太陽電池。
【請求項9】
前記封止剤層は、波長600nm〜800nmにおける光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか1項記載の太陽電池。
【請求項10】
前記透明樹脂は、スチレン・エチレン−ブチレン・スチレンを含有することを特徴とする請求項6乃至請求項9の何れか1項記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−171512(P2011−171512A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33902(P2010−33902)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】