説明

太陽電池用波長変換フィルム

【課題】太陽電池の入射光側に設置されても劣化することなく、また、波長変換層を多層構成としても太陽電池の効率が低下することのない太陽電池用の波長変換フィルムを提供する。
【解決手段】太陽電池の入射光側から順に第一の波長変換層と蛍光材料を有する第二の波長変換層の少なくとも二層の波長変換層を有し、第一の波長変換層に近紫外光を吸収して蛍光を発する平板状の無機酸化物蛍光微粒子1を含有する太陽電池用波長変換フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の入射光側の表面に設置される波長変換フィルムに関し、更に詳しくは、太陽電池の入射光側の表面に設置されても劣化することなく、太陽光を太陽電池の感度特性に合わせた波長に変換することで、太陽電池の効率を向上させることができる波長変換フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は通常、短波長帯域の感度特性が低く、太陽光を有効に利用できていない。そのため、蛍光体等の波長変換材料を用いて感度特性の低い短波長帯域の光を感度特性の高い長波長帯域の光に変換させて、太陽光の利用効率を向上させる試みは以前から行われていた。
【0003】
一般にこうした波長変換材料には有機蛍光色素や有機蛍光錯体が使用されるが、耐候性の課題などから、例えば太陽電池の封止材料に波長変換材料を含有させる検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、こうした方法でも、耐候性は十分とはいえず、また、波長変換材料が劣化した場合は、太陽電池を分解して封止材料を交換する必要があり、現実的に波長変換材料を使用することは困難であった。さらに、途中の基材等で一部の紫外光が吸収されることから、紫外光は有効には利用されないという問題もあった。
【0005】
このような状況から、波長変換フィルムを別のユニットとして準備し、太陽電池(PV)表面に張り付けることも考えられている。
【0006】
しかしながら、太陽電池の表面に波長変換フィルムを使用する場合は、太陽光に直接さらされるために、封止剤に混合する場合に比べて、格段の耐候性が必要となる。そのため、紫外線吸収剤を併用することや、耐候性のある無機の蛍光材料を利用することが提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0007】
紫外線吸収剤を利用する技術は、耐候性には有効であるが、紫外光は遮断されるだけで、有効には利用されない。また、無機の蛍光材料は、吸収波長、発光波長がドープされる元素でおおよそ決まるため、太陽電池の感度分布に合わせた波長変換層の吸収波長、発光波長特性の設計ができない。
【0008】
そこで、波長変換層の吸収波長、発光波長特性の設計がしやすい、有機色素、有機錯体などの有機蛍光材料と耐候性が高く紫外域に吸収波長を持つ無機の蛍光材料を併用することで紫外光を無駄にしないでカットしつつ、かつ、太陽電池の感度特性に合わせて波長設計した波長変換フィルムを考えることができる。
【0009】
しかし、無機蛍光材料と有機蛍光材料を単純に同一の層に添加しても、紫外線遮蔽効果が十分ではなく、有機蛍光材料が壊れてしまうという課題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第08/047427号パンフレット
【特許文献2】国際公開第08/126766号パンフレット
【特許文献3】特開2003−218367号公報
【特許文献4】特開平11−345993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方で、平板の無機蛍光粒子は特開2004−18545号公報、特開2008−37961号公報などで知られており、透明性、隠ぺい性と発光効率に期待できることが示唆されている。そこで、平板の無機蛍光粒子についても発明者らは鋭意検討を行ったが、単独では変換できる波長が限られているため、太陽光を有効には利用できず、また、有機蛍光材料を併用して同一の層に添加しても有機蛍光材料が紫外線により壊れてしまうことを十分には防げなかった。
【0012】
その他にも、無機蛍光材料を太陽電池の表面側、有機蛍光剤を内側の二層構成にすることで、改善することが考えられる。
【0013】
しかし、波長変換層を多層構成にすると太陽電池の効率アップ幅が極端に小さくなってしまうことが分かってきた。詳細は分からないが、波長変換材料は等方的に発光するため、層内に光が閉じ込められやすく、多層構成としたことで、波長変換層内に閉じ込められる光の成分が増加し、ロスとなっているのではないかと思われる。
【0014】
また、第二の波長変換層の有機蛍光材料などの劣化を防ぐためには、紫外光を吸収して蛍光を発する無機蛍光材料を多量に使用する必要があり、その場合、無機蛍光材料の散乱などにより透過率が低下する影響も大きいことが分かってきた。
【0015】
このように、太陽電池表面に貼りつけて効果的に太陽光を有効に変換し、太陽光にさらされても劣化しない波長変換フィルムは達成できなかった。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、太陽電池の入射光側に設置されても劣化することなく、また、波長変換層を多層構成としても太陽電池の効率が低下することのない太陽電池用の波長変換フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記課題は以下の手段により達成される。
1、太陽電池の入射光側から順に第一の波長変換層と蛍光材料を有する第二の波長変換層の少なくとも二層の波長変換層を有し、第一の波長変換層に近紫外光を吸収して蛍光を発する平板状の無機酸化物蛍光微粒子を含有することを特徴とする太陽電池用波長変換フィルム
2、前記平板状の無機酸化物蛍光微粒子が、少なくともEuが賦活されたYを含む酸化物であることを特徴とする前記1に記載の太陽電池用波長変換フィルム
3、第二の波長変換層に含有される前記蛍光材料が有機蛍光色素、または、有機蛍光錯体であることを特徴とする前記1または2に記載の太陽電池用波長変換フィルム
4、前記第一の波長変換層において、前記平板状の無機酸化物蛍光微粒子が面内方向に配向していることを特徴とする前記1から3に記載の太陽電池用波長変換フィルム
5、前記第一の波長変換層が無機バインダーを含有することを特徴とする前記1から4に記載の太陽電池用波長変換フィルム
6、前記第一の波長変換層上に無機化合物を構成要素とする保護層を有することを特徴とする前記1から4に記載の太陽電池用波長変換フィルム
7、前記第二の波長変換層層が、熱可塑性樹脂を含有する溶液に蛍光材料を含有させて、溶液キャスト成膜した透明基材層であることを特徴とする前記1から6に記載の太陽電池用波長変換フィルム
8、前記1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池用波長変換フィルムを用いた太陽光発電モジュール
【発明の効果】
【0018】
本発明により、太陽電池の入射光側に設置されても劣化することなく、また、波長変換層を多層構成としても太陽電池の効率が低下することのない太陽電池用の波長変換フィルムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】平板状無機酸化物蛍光微粒子の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する過程において、入射光側に設ける第一の波長変換層に近紫外光を吸収する平板状の無機蛍光材料微粒子を用いることで、紫外光を無駄にすることなく太陽電池の感度の高い領域の波長に変換でき、かつ、紫外光を有効に遮蔽することが可能となり、耐候性で劣化することなく第二の波長変換層として太陽電池の感度特性に合わせた波長変換材料を使用できるようになり、効率的な波長変換フィルムが設計できるようになった。さらに、波長変換層を二層構成にすることで新たに顕在化した波長変換層内に波長変換材料から出た蛍光が閉じ込められることによるロスに対しても、第一の波長変換層の無機蛍光材料として平板状の粒子を用いることで、この低下を有効に防げることを見出し、本発明に至った次第である。メカニズムについては良くは分かっていないが、平板状の粒子とすることで、相対的に横方向に放出される成分が少なくなったのではないかと考えている(図1)。また、粒子が完全には波長変換層の界面とは平行ではないために、波長変換層内を導光する光に対して、粒子表面で反射する際にその角度を微妙に変えることで導光しなくなり、有効に太陽電池の方向へ導けるようになったのではないかと考えている。
【0021】
本発明の波長変換フィルムは各種太陽電池の入射光側に設置される。本発明の波長変換フィルムはフィルムの平面と太陽電池表面を合わせるタイプであることが好ましい。本発明で使用可能な太陽電池の種類は特に制限されることはなく、結晶シリコン太陽電池・アモルファスシリコン太陽電池等のシリコン系太陽電池、GaAs・CdS/CdTeやCIS、CIGSなどの化合物半導体系の太陽電池、色素増感太陽電池・有機薄膜太陽電池等の有機太陽電池等、すべての太陽電池に適用することができる。
【0022】
本発明の波長変換フィルムは、太陽電池の入射光側から順に第一の波長変換層と第二の波長変換層の少なくとも二層の波長変換層を有し、第一の波長変換層には、近紫外光を吸収して蛍光を発する平板状の無機酸化物蛍光微粒子を含有する。
(第一の波長変換層)
本願発明における第一の波長変換層は、近紫外光を吸収して蛍光を発する平板状の無機酸化物蛍光微粒子を含有していれば特に制限はないが、例えば、平板状の無機酸化物蛍光微粒子とバインダーで構成される。平板状の無機酸化物蛍光微粒子のみで構成されていても構わない。
【0023】
(平板状の無機酸化物蛍光微粒子)
本発明において、近紫外光とは、300−400nmの波長の光を表し、近紫外光を吸収するとは、300−400nmの少なくとも一部の波長の光を吸収することを表す。本発明においては、300−400nmの全領域の光を吸収することがより好ましい。また、平板状粒子とは、アスペクト比2以上の粒子を表し、アスペクト比が5以上であることがより好ましく、10以上であることが最も好ましい。ここで言うアスペクト比とは平板状粒子の厚さに対する直径の比で示される。さらに粒子の直径とは粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を指すもの(以下、投影面積径と呼ぶ。)とする。また、粒子の厚さは平板粒子を構成する二つの平行な面の距離を10箇所以上測定し、測定した値を平均した値で示される。また、測定の際に他の場所と比べて明らかに厚さが異なっているところは測定しないものとする。
【0024】
本願発明において、無機酸化物蛍光微粒子とは、酸化物系の母結晶中に賦活剤として発光イオンを含有したものを表す。無機酸化物蛍光微粒子の材料としては、近紫外光を吸収して蛍光を発する材料であれば、特に限定はされないが、例えば、母結晶となる酸化物としては、Mg、K、Ca、Sr、Y、Ba、Zn、Ga、In、Al、La、Gd、V、B、P、Siの酸化物やこれらの複合酸化物をあげることができる。
【0025】
賦活剤としての発光イオンには、Mn、Ag、Ce、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Tm、Sm、Bi等が1種類以上用いられている無機酸化物蛍光微粒子をあげることができる。
【0026】
中でも、Eu、Tb、Dy、Ho、Sm、Mnのいずれか1種類以上が少なくとも用いられていることが好ましく、さらに、多くの太陽電池において感度の高い600nm前後に発光を有するEuが少なくとも用いられていることが最も好ましい。また、母結晶の結晶構造を崩さないように、母結晶中の元素が同族の発光イオンに置換されている無機蛍光体が好ましい。特にEuが賦活剤として用いられる場合、Y、Laを少なくとも1種類以上含有してなる母結晶であることが好ましく、合成の容易さ、耐候性の高さ、太陽電池の効率向上の高さから少なくともEuが賦活されたYを含む酸化物であることが最も好ましい。
【0027】
以下に本発明に使用される蛍光体の具体的な化合物例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
[青色発光蛍光体化合物]
SrAl1425:Eu2+
BaMgAl1017:Eu2+
CaCl:Eu2+
[緑色発光蛍光体化合物]
SiO:Ce3+,Tb3+
BaSiO:Eu2+
GdS:Tb
LaS:Tb
Al12:Ce3+
SrGe12:Ce3+
YVO:Bi3+
[赤色発光蛍光体化合物]
S:Eu3+
S:Eu3+,Bi3+
LaS:Eu3+
YVO:Eu3+
YVO:Eu3+,Bi3+
:Eu3+
:Eu3+、Bi3+
La:Eu3+
SiO:Eu3+
BaMgSi:Ce、Mn
BaSrMgSi:Ce,Mn。
【0028】
〈平板状の無機酸化物蛍光微粒子の製法〉
本願発明における平板状の無機酸化物蛍光微粒子の製法としては、従来公知の固相法、液相法、噴霧熱分解法、水熱合成法等、種々の製法を適用することができるが、特に、平板状の無機酸化物蛍光微粒子の粒径のそろった小さい粒子を得るには液相法、噴霧熱分解法、水熱合成法を適用することが好ましく、液相法の中でも反応晶析法により合成する方法が最も好ましい。
【0029】
また本願発明における平板状の無機酸化物蛍光微粒子の製法は、蛍光発光前駆体を調製する工程と、蛍光発光前駆体を焼成して蛍光発光体を得る焼成工程と、焼成後、冷却を行う冷却工程を有することが好ましい。必要に応じて粒子の表面処理の工程を有してもよい。
【0030】
反応晶析法とは、冷却、蒸発、pH調節、濃縮等による物理的又は化学的な環境の変化、或は化学反応によって混合系の状態に変化を生じる場合等において液相中から固相を析出させることであり、一般に晶析現象と言われているが、この様な晶析現象発生を誘引する物理的、化学的操作を施す製造方法を意味する。
【0031】
また、反応晶析法を適用する際の溶媒は反応原料が溶解すれば何を用いてもよいが、過飽和度制御のしやすさの観点から水が好ましい。複数の反応原料を用いる場合は、原料の添加順序は同時でも異なってもよく、活性によって適切な順序を適宜組み立てることができる。
【0032】
反応晶析法を用いて作製した粒子では、晶析中に、保護コロイドや吸着物質を注意深く共存させることで、粒子の形状を制御することが可能となり、平板状粒子を形成することが可能となる。平板粒子の形状には円盤、楕円状、多角形、多角形の一部または全部の角が欠けているものまたは一部・すべての角に微粒子がエピタキシャル成長したものなどさまざまな形状が含まれる。この中でも四角形平板、六角形平板からなる蛍光発光体は高輝度であり、好ましく用いられる。
【0033】
本願発明において、反応晶析法で前駆体を合成する場合、反応中は温度、添加速度、攪拌速度、pHなどを制御してもよく、反応中に超音波を照射してもよい。粒径制御のために界面活性剤、ポリマー、ゼラチンなどを添加してもよい。原料を添加し終ったら必要に応じて液を濃縮、及び/または熟成することも好ましい態様の1つである。
【0034】
反応晶析法で前駆体を合成した後、必要に応じてろ過、蒸発乾固、遠心分離等の方法で回収した後に好ましくは洗浄を行い、更に乾燥、焼成等の諸工程を施してもよく、分級してもよい。
【0035】
乾燥温度は特に制限は無いが、乾燥温度は使用した溶媒が気化する温度付近以上の温度であることが好ましく、具体的には50〜300℃の範囲であることが好ましい。焼成温度についても特に制限は無いが、一般に600〜1800℃の範囲を好ましく使用できる。
【0036】
乾燥温度が高い場合は乾燥と同時に焼成が施されることがある。焼成は還元雰囲気下、酸化雰囲気下、または硫化物存在下、不活性ガス等のどの条件下でも良く、適宜選択することができる。焼成方法は現在知られているあらゆる方法を用いてもよいが、回転型のキルンを用いることが好ましい。更に、必要に応じて焼成の後に還元処理または酸化処理等を施しても良い。また、蛍光発光体の組成や反応条件等によっては焼成を行う必要が無い場合があり、その場合は焼成工程を省いても構わない。焼成にあたり焼結防止剤を混合してもよい。
【0037】
添加する焼結防止剤は、アルミナやシリカなどの金属酸化物、界面活性剤や、ポリマーなどの有機物、など一般的なものが使用できる。
【0038】
また、別な合成方法として、水熱合成によるEuを賦活したYを有する酸化物の合成法を述べる。母結晶となるイットリウム化合物を水熱溶液に対して、0.02から0.2mol/lの範囲で高分子テンプレートであるエチレングルコールモノイソプロピルエーテル(水熱溶液に対して3%から15%の範囲)等に混合した後、活性中心となるEu3+化合物を母結晶に対して1%から10%の範囲で添加して水熱反応させる。
【0039】
この場合、水を加えて更に撹拌した後、100℃から250℃の範囲で1時間から12時間の間で水熱反応を行うことにより、Eu3+がドープされた平板状の蛍光発光水酸化物粒子を得ることができる。蛍光発光水酸化物は、所定の熱処理を行うことにより、酸化物にすることができ、平板状の酸化物蛍光発光粒子とすることが可能となる。熱処理の条件は、600℃から1400℃の範囲である。
【0040】
本発明に用いるイットリウム源としては、好適には、例えば、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、酢酸イットリウム、イットリウムイソプロポキシド等が例示され、これらの適当なイットリウム化合物が使用される。また、ユーロピウム源としては、好適には、例えば、硝酸ユーロピウム、塩化ユーロピウム、ユーロピウムイソプロポキシド等が例示され、それらの適当なユーロピウム塩が使用される。これらは水溶性であることが好適である。
【0041】
上記のイットリウムイオン、ユーロピウムイオンの個々の溶液又は混合溶液は、余り極端なアルカリ性や酸性にならぬように、pH調整することも必要である。ここで、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水が好適である。更に、水熱反応中に、高分子テンプレートとして、析出する粒子の成長をシート状に進展させるための添加剤として、エチレングルコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコール、ジプロピレングリコール等が用いられる。
【0042】
本発明の平板状の無機酸化物蛍光微粒子は厚みの平均が20nm〜2μm、投影面積径の平均としては、100nm〜10μmであることが好ましい。本発明の平板状の無機酸化物蛍光微粒子の厚み及び投影面積径の平均は、波長変換層に含有されている平板状の無機酸化物蛍光微粒子を100個以上測定し、数平均値として求めたものを用いるものとする。また、明らかに平板状の無機酸化物蛍光微粒子ではないものは測定しないものとする。
【0043】
(第一の波長変換層のバインダー)
第一の波長変換層のバインダーとしては、有機化合物を構成要素とする有機バインダー、無機化合物を構成要素とする無機バインダー、有機化合物及び無機化合物を構成要素とする有機無機ハイブリッドバインダーなどいずれも利用可能だが、太陽電池の入射光側に設置されることから耐候性の観点から無機バインダーであることがより好ましい。無機バインダーの具体例としては、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイトなどのスメクタイト群、バーミキュライト群、カオリナイト、ハロイサイトなどのカオリナイト−蛇紋石群、セピオライトなどの天然粘土鉱物の他、コロイダルシリカ、コロイダルアルミおよびこれらの変性物や合成無機高分子化合物などが挙げられる。
【0044】
有機バインダーとしては、特に限定されないが、透明性及び耐候性の観点からアクリル系やビニル系、フッ素系の樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
第一の波長変換層における無機酸化物蛍光微粒子の比率は特に制限はないが、UV遮蔽性から、下記に表わす面積率が70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0046】
ここで、面積率とは、波長変換フィルムを上から見たとき、ある面積Aにおいて、無機酸化物蛍光微粒子が占めている投影面積をBとした時の(B/A)×100(%)を面積率とする。面積率は、第一の波長変換層を上から直接、あるいは、表面を覆っているバインダーの一部をプラズマアッシング等で除去した後、SEM観察などで得られた画像を画像処理することにより測定できる。
【0047】
また、第一の波長変換層において無機酸化物蛍光微粒子は面内方向に配向していることが好ましい。ここで、面内方向に配向しているとは、波長変換フィルムの基材表面と個々の無機酸化物蛍光微粒子の主平面とのなす角度(以下、配向角と表現する)が小さい状態を表し、本発明においては、70%以上の平板粒子の配向角が±30°以下であることが好ましい。
【0048】
配向角は、例えば、適当な断面切片を作製し、この切片における基板及び平板粒子を観察して評価する方法であってもよい。具体的には、波長変換フィルムを、ミクロトーム、集束イオンビーム(FIB)を用いて波長変換フィルムの断面サンプル又は断面切片サンプルを作製し、これを、各種顕微鏡(例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等)を用いて観察して得た画像から評価する方法などが挙げられる。
【0049】
(第二の波長変換層)
本願発明における第二の波長変換層は、蛍光材料を含有していれば特に制限はないが、例えば、蛍光材料とバインダーで構成される。蛍光材料のみで構成されていても構わない。
【0050】
第二の波長変換層に利用される蛍光材料は、太陽電池の感度特性に合わせて選択すれば良く、特に、限定されない。例えば、無機蛍光体、量子ドット化合物、有機蛍光色素、有機蛍光錯体、高分子蛍光体等が挙げられ、これらを単独で使用してもよく、また、2種以上併用してもよい。特に、波長特性を制御しやすい有機蛍光色素、有機蛍光錯体であることがより好ましい。
【0051】
(無機蛍光体)
無機蛍光体としては、前述のような酸化物蛍光体に加えて、硫化物蛍光体、窒化物蛍光体などをあげることができる。硫化物蛍光体としては、例えば、CaS:Eu、SrS:Eu、(Ca、Sr)S:Eu、SrGa:Euなどをあげることができる。また、窒化物蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)SiN:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSiN:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSiN:Ceなどをあげることができる。
【0052】
(量子ドット系蛍光体)
本発明における量子ドットとは、原子が数百個から数千個集まったナノスケールの塊で、3次元全ての方向から電子を閉じ込めた構造を有したものを指す。量子ドットは、粒径を変更することで任意の吸収・励起・放出光特性を付与することができ、且つ粒径が小さく入射光を散乱させないため好ましい。種類は特に限定されないが、例えば、Cd、Se、Te、Pb等の何れかの組み合わせからなるコア層と、Zn、S等からなるシェル層からなるコアシェル構造体や、Cd、Se、Te、Pb、Zn、S等の何れかの組み合わせからなる構造体が用いることができる。量子ドット系蛍光体の例としては、CdSe/ZnSコアシェルエヴィドット、PbSコアエヴィドット(販売元:オーシャンフォトニクス株式会社)、Qdot ナノクリスタル(販売元:ライフテクノロジーズジャパン株式会社)等が挙げられる。
【0053】
(有機蛍光色素)
種類は特に限定されないが、有機蛍光色素の例としては、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体(フェニルアントラセン誘導体)、ペンタセン誘導体、アゾール誘導体(オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾアザトリアゾール誘導体)、チオフェン誘導体(オリゴチオフェン誘導体)、カルバゾール誘導体、ジエン系(シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体)、スチリル誘導体、(ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、スチルベン誘導体)、シロール誘導体、スピロ化合物、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾール誘導体(ピラゾリン誘導体)、ピリジン環化合物、ピロール誘導体(ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体)、フルオレン誘導体、フェナントロリン誘導体、ピレン誘導体(フェナントレン誘導体)、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、フェニレン化合物、ローダミン類、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ベンゾオキサジノン誘導体、キナゾリノン誘導体、キノフタロン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、シアニン系化合物を1種類以上含む有機蛍光色素が挙げられる。
【0054】
例としては、Lumogen F シリーズ(製造元:BASF)、7−Diethylamino−4a,8a−dihydro−chromen−2−one、7−Diethylamino−4−trifluoromethyl−chromen−2−one、7−Diethylamino−3−phenyl−chromen−2−one、1,4−Bis−[2−(4−fluoro−phenyl)−vinyl]−2,5−bis−octyloxy−benzene、[4−[2−(4−Fluoro−phenyl)−vinyl]−phenyl]−diphenyl−amine、Diphenyl−(4−styryl−phenyl)−amine、5−tert−Butyl−2−(2−(4−(2−(5−tert−butylbenzoxazol−2−yl)vinyl)phenyl)vinyl)benzoxazole(テクノケミカル株式会社)、新規有機蛍光色素シリーズ(製造元:ハリマ化成株式会社)、シンロイヒカラーシリーズ(販売元:シンロイヒ株式会社)、TINOPAL OB、TINOPAL OB−one(販売元:チバ・ジャパン株式会社)等が挙げられる。中でも特に、Lumogen F Violet570やBlue650、Orange240(製造元:BASF)は、紫外領域から可視領域にかけての広い励起帯を有し、量子収率が高く、励起光と放出光との重なりが少ないため特に好ましい。
【0055】
(有機蛍光錯体)
本発明における錯体とは、配位結合や水素結合によって、一種以上の発光中心に、配位子が配位して形成された分子性化合物を指す。特に限定はされないが、錯体の発光中心には、例えば、遷移金属元素、典型元素、非典型元素等が用いられる。配位子には、蛍光発光する構造体を用いても良い。これらの錯体は、発光中心を1分子以上含んでもよく、種類も一種類以上含んでも良い。典型元素ではBeが、非典型元素ではBが、遷移金属元素ではAl、Fe、Cu、Zn、Ru、Ir、Pt、Au、Re、Os等が含まれている錯体は、配位子を交換することで所望の発光特性を持たせることができ、比較的安価に入手することができるため好ましい。更に、遷移金属元素中の希土類であるGd、Yb、Y、Eu、Tb、Yb、Nd、Er、Sm、Dy、Ce等の何れかが含まれている錯体は、励起光と放出光との重なりが小さく、配位子に強く依存しない半値幅の狭い発光を持つため好ましい。特に、Eu錯体は量子収率も高くより好ましい。中でも特に、Eu(TTA)3phen(販売元:東京化成工業株式会社)は、量子収率も高く、励起光と放出光と波長の差が非常に大きく重なりが無く、励起光の帯域が広いため好ましい。
【0056】
(高分子蛍光体)
高分子蛍光体は、分子内の主鎖あるいは側鎖に、上述の有機蛍光色素や有機蛍光錯体を導入されたものや、2量体、3量体やそれ以上に連なった重合体やデンドリマー等が用いられ、各々が任意に導入された共重合体でもよい。例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレノン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリチオフェン誘導体及びそれらの共重合体等が挙げられる。
【0057】
(第二の波長変換層バインダー)
第二の波長変換層のバインダーとしては、第二の波長変換層に利用させる波長変換材料との親和性が良ければ、特に限定されない。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂等を単独あるいは複数併用して用いることができる。また、アクリル系やエポキシ系などの紫外線硬化、あるいは、熱硬化型の樹脂を利用しても良い。
【0058】
(波長変換層の形成)
波長変換層は、例えば、第一の波長変換層の形成方法は、平板状の無機酸化物蛍光微粒子とバインダーと溶媒とを少なくとも含んでなる塗布液を塗布、乾燥することで形成することができる。
【0059】
溶媒としては、材料に合わせて、水系、溶剤系溶媒を適宜選んで利用できる。例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒を用いることができる。
【0060】
塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法等従来公知の方法を用いることができる。
【0061】
塗布した後、溶媒を揮発させるために適宜乾燥処理を施す。乾燥処理の条件として特に制限はなく、波長変換材料、バインダー、基材が損傷しない範囲の温度で乾燥処理することが好ましい。
【0062】
各波長変換層中のバインダーに対する波長変換材料の比率は、バインダー100質量%に対して0.01〜50質量%であることが好ましく、0.05〜30質量%であることがより好ましく、0.1〜15質量%であることが最も好ましい。
【0063】
各変換層の膜厚としては特に制限はないが、例えば、塗布により形成する場合は、0.1μm〜50μmであることが好ましく、0.5μm〜10μmであることがより好ましい。
【0064】
(基材)
本発明の波長変換フィルムにおいては、透明基材を用いることが好ましい。透明基材としては、高い光透過性を有していればそれ以外に特に制限はない。例えば、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムや薄膜ガラスを用いることが好ましい。
【0065】
透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等の二軸延伸ポリエステル系フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
【0066】
本発明に用いられる透明基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
【0067】
また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0068】
また、本発明において、第二の波長変換層のバインダーとして溶液キャストにより支持体を形成できる樹脂を選択し、波長変換材料とともにキャスト成膜して、第二の波長変換層と支持体を兼ねても良い。
【0069】
キャスト成膜については、選択した樹脂に合わせた公知の方法で成膜できる。
【0070】
以下にセルロースエステル樹脂のドープをキャスト成膜する例を記載する。なお、ここでいうドープとは、熱可塑性樹脂を溶剤に溶かした溶液をいう。
【0071】
(キャスト成膜例)
セルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0072】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃すぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0073】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度) によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えば、アセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0074】
用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0075】
また、用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。
【0076】
好ましい溶媒組成としては、メチレンクロライド80〜95質量%、エタノール5〜20質量%、或いは酢酸メチル60〜95質量%、エタノール5〜40質量%の組み合わせが挙げられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることも好ましい。
【0077】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱出来る。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0078】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0079】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高すぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜11℃がより好ましく、70℃ 〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0080】
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることが出来る。
【0081】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0082】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(R) 等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物を除去、低減することが好ましい。
【0083】
ドープの濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0084】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0085】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0086】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることが出来る。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速く出来るので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。支持体温度は使用する溶媒によって異なるが、0〜70℃が好ましく、5〜40℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0087】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量% または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0088】
残留溶媒量は下記式で定義される。
【0089】
【数1】

【0090】
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0091】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0092】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式( 上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式) やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0093】
セルロースエステルフィルムを作製するためには、金属支持体より剥離した直後のウェブの残留溶剤量の多いところで搬送方向(縦方向)に延伸し、更にウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸(2軸延伸)を行うことが特に好ましい。縦方向、横方向ともに好ましい延伸倍率は1.05〜1.3倍であり、1.05〜1.15倍が特に好ましい。縦方向及び横方向延伸により面積が1.12倍〜1.44倍となっていることが好ましく、1.15倍〜1.32倍となっていることが好ましい。これは縦方向の延伸倍率× 横方向の延伸倍率で求めることが出来る。
【0094】
剥離直後に縦方向に延伸するために、剥離張力を210N/m以上で剥離することが好ましく、特に好ましくは220〜300N/mである。
【0095】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことが出来るが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0096】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜150℃で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性をよくするため更に好ましい。
【0097】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが好ましく用いられる。特に10〜70μmの薄膜フィルムでは平面性と硬度に優れたハードコートフィルムを得ることが困難であったが、平面性と硬度に優れた薄膜のハードコートフィルムが得られ、また生産性にも優れているため、セルロースエステルフィルムの膜厚は10〜70μmであることが特に好ましい。更に好ましくは20〜60μmである。最も好ましくは35〜60μmである。
【0098】
(保護層)
本発明において、第一の波長変換層上に耐候性を向上させるために無機化合物を構成要素とする保護層を形成することは、好ましい実施態様である。
無機系の保護層としては、前述の第一の波長変換層の無機バインダーを利用することもできる。さらに、ポリシラザン化合物を含有する塗布液を積層塗布することも好ましく用いることができる。
【0099】
(ポリシラザン化合物を含有する塗布液)
「ポリシラザン化合物」とは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO、Siおよび両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
【0100】
フィルム基材を損なわないように塗布するためには、特開平8−112879号公報に記載されているように比較的低温でセラミック化してシリカに変性する化合物が好ましい。
【0101】
シリカに変性する化合物としては、下記の構造を有するものが好ましく用いられる。
【0102】
【化1】

【0103】
式中、R1、R2、R3は、各々水素原子,アルキル基,アルケニル基,シクロアルキル基,アリール基,アルキルシリル基,アルキルアミノ基,アルコキシ基を表す。
【0104】
得られる保護層の、膜としての緻密性の観点からは、R1、R2およびR3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0105】
一方、そのSiと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。
【0106】
用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
【0107】
パーヒドロポリシラザンは直鎖構造と6および8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。
【0108】
その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体又は固体の物質であり、分子量により異なる。
【0109】
これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
【0110】
低温でセラミック化するポリシラザン化合物の別の例としては、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
【0111】
ポリシラザン化合物を含有する塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応してしまうようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは好ましくない。
【0112】
具体的には、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。他にも、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリコロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等がある。
【0113】
これらの溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度、等目的にあわせて選択し、複数の溶剤を混合しても良い。
【0114】
ポリシラザン化合物含有塗布液中のポリシラザン化合物の濃度は目的とするバリア性層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度である。
【0115】
ポリシラザン化合物は、そのSiと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換された誘導体であってもよい。
【0116】
アルキル基、特に最も分子量の少ないメチル基を有することにより下地基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいシリカ膜に靭性を持たせることができ、より膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる。
【0117】
酸化珪素化合物への変性を促進するために、アミンや金属の触媒を添加することもできる。具体的には、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製 アクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140などが挙げられる。
【0118】
ポリシラザン化合物を含有する塗布液中には、必要に応じて、反応触媒を添加してもよいが、触媒による過剰なシラノール形成、および膜密度の低下、膜欠陥の増大のなどを避けるため、ポリシラザン化合物に対する触媒の添加量を2質量%以下に調整することが好ましい。
【0119】
ポリシラザン化合物を含有する塗布液には、ポリシラザン化合物以外にも無機前駆体化合物を含有させることができる。ポリシラザン化合物以外の無機前駆体化合物としては、塗布液の調製が可能であれば特に限定はされない。
【0120】
(ポリシラザン改質方法)
本願発明におけるポリシラザン含有塗布膜の改質方法としては、熱または紫外線照射による改質方法等が好ましい。特に、保護層表面によりNの多いSi層を形成することができ、表面高屈折率になることから波長が200nm以下の真空紫外線を照射する方法がより好ましい。
【0121】
熱による改質方法としては、常温状態に置いておいても良いが、改質までに非常に時間がかかるため、加熱処理することが好ましい。このときの加熱温度は、樹脂基材や有機化合物の熱分解が起こらないようにするために、60℃〜200℃、更に好ましくは70℃〜160℃である。加熱時間は、好ましくは5秒〜24時間程度、更に好ましくは10秒〜2時間程度である。 加熱処理は、酸素ガスおよび水蒸気を含む空気中での加熱が好ましいが、空気の代わりに酸素ガス含有窒素ガス、水蒸気含有窒素ガス、酸素ガスと水蒸気含有窒素ガスを使用してもよい。
【0122】
紫外線照射による改質方法としては、波長が200nm以下の真空紫外線を照射する方法が好ましい。
【0123】
真空紫外線照射による処理は、化合物内の原子間結合力より大きい100〜200nmの光エネルギーを用い、原子の結合を光量子プロセスと呼ばれる光子のみによる作用により、直接切断しながら活性酸素やオゾンによる酸化反応を進行させることで、比較的低温で、膜の形成を行う方法である。なかでもエキシマ光が特に好ましい。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0125】
(実施例)
〔無機酸化物蛍光微粒子の作製〕
〔蛍光粒子1(球状、BaSiO:Eu2+)〕
メタ珪酸ナトリウム12.2gを純水200mlに溶解しA1液と、塩化バリウム26.0gを純水2 00mlに溶解しB1液と、塩化ユーロピウム4水和物3.664gを純水50mlに溶解しC1液を作製した。
純水200mlをD1液とし、D1液をマグネチックスターラーで充分攪拌を行ない、その中にA1 液、B1液、C1液を各々10分間かけて等速で添加した。D1液中に形成した白色沈殿を、1050℃ 大気中で3hr焼成し、蛍光粒子1を得た。得られた粒子は0.7μmの球状であった。
【0126】
〔蛍光粒子2(平板状、BaSiO:Eu2+)〕
低分子量ゼラチン(平均分子量約1万)10%溶液200mlをD2液とする。D1液をD2液に変更した以外は同様にして蛍光粒子2を得た。得られた粒子は厚みの平均値が0.3μm、投影面積径の平均値が1.2μmの六角平板状であった。
【0127】
〔蛍光粒子3(平板状、Y:Eu3+,Bi3+)〕
低分子量ゼラチン(平均分子量約1万)10% 溶液400mlをA3液とする。硝酸イットリウム0.171mol、硝酸ユーロピウム0.009mol、硝酸ビスマス0.005molを純水に溶解し300mlに仕上げB3液を作製した。蓚酸0.27molを純水に溶解し300mlに仕上げC3液とした。
【0128】
A3液を40℃で激しく攪拌し、同じく40℃のB3液、C3液を等速で10分間かけて添加した。得られた白色沈殿をろ過・乾燥した後1050℃で3hr焼成を行ない、蛍光粒子3を得た。得られた粒子は厚みの平均値が0.6μm、投影面積径の平均値が3μmの四角平板状であった。
【0129】
〔蛍光粒子4(平板状、Y:Eu3+,Bi3+)〕
1.5mmolのイットリウムイソプロポキシド(Y(O−i−C)及び0.12mmolの塩化ユーロピウム六水和物(EuCl・6HO)、0.08mmolの塩化ビスマスを秤量し、20mlのエチレングルコールモノイソプピルエーテルが入った蓋付きフラスコに入れて、12時間撹拌した。この溶液を60mlの蒸留水に混合した後、内容積100mlのテフロン(登録商標)製内筒に入れてオートクレーブ装置を用い、温度180℃、圧力10kg/cm2の条件で6時間水熱合成を行ない、反応終了後、自然冷却した。生成物を容器から取り出し、水及びエタノールで数回洗浄した後、エバポレータにより固液分離し、真空乾燥し、水酸化イットリウム粉末を得た。
【0130】
得られた粉末を昇温速度10℃/minで900℃を1時間保持する熱処理を行うことにより酸化イットリウム、蛍光粒子4を得た。得られた蛍光粒子4は、大きさは水酸化物とほとんど変わらず、得られた粒子は厚みの平均値が20nm、投影面積径の平均値が1μmの四角平板状であった。
【0131】
なお、蛍光粒子1から4は、365nmの近紫外光LEDを照射して、目視により蛍光を発することを確認した。
【0132】
〔波長変換フィルム101の作製(比較)〕
透明基材としてシクロオレフィンポリマーフィルム、ゼオノアZF14−100(日本ゼオン社製、膜厚100μm)を準備した。
【0133】
準備した透明基材に下記組成の蛍光塗布液1を、ギャップを調整できるアプケータを用いて塗布し、120℃のオーブンで10分乾燥して、波長変換フィルム101を得た。なお、アプリケータのギャップは乾燥膜厚が10μmになるように調整した。
【0134】
蛍光塗布液1
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
有機蛍光色素1(ルモゲンFオレンジ240、BASF社製) 1.2g
〔波長変換フィルム102の作製(比較)〕
波長変換フィルム101の蛍光塗布液1を設けた上に、下記組成の紫外線遮蔽塗布液1を、ギャップを調整できるアプケータを用いて塗布し、120℃のオーブンで10分乾燥して、波長変換フィルム102を得た。なお、アプリケータのギャップは乾燥膜厚が10μmになるように調整した。
【0135】
紫外線遮蔽塗布液1
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
シリカ被覆酸化亜鉛(昭和電工社製、マックスライトZS−032) 5g
〔波長変換フィルム103の作製(比較)〕
波長変換フィルム101において、蛍光塗布液1を下記組成の蛍光塗布液2に変更した以外は同様にして波長変換フィルム103を得た。
【0136】
蛍光塗布液2
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
有機蛍光色素1 1.2g
蛍光粒子1 5g
有機蛍光色素1:ルモゲンFオレンジ240、BASF社製
〔波長変換フィルム104の作製(比較)〕
波長変換フィルム102において、紫外線遮蔽塗布液1を下記組成の蛍光塗布液3に変更した以外は同様にして波長変換フィルム104を得た。
【0137】
蛍光塗布液3
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
蛍光粒子1 5g
〔波長変換フィルム105の作製(比較)〕
波長変換フィルム201において、蛍光塗布液1による第二の波長変換層を形成しなかったこと以外は同様にして波長変換フィルム105を得た。
【0138】
〔波長変換フィルム201の作製(本発明)〕
波長変換フィルム104において、蛍光塗布液3を下記組成の蛍光塗布液4に変更した以外は同様にして波長変換フィルム201を得た。
【0139】
蛍光塗布液4
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
蛍光粒子2 5g
〔波長変換フィルム202の作製(本発明)〕
波長変換フィルム201において、蛍光粒子2を蛍光粒子3に置き換えた以外は同様にして波長変換フィルム202を作製した。
【0140】
〔波長変換フィルム203の作製(本発明)〕
波長変換フィルム201において、蛍光粒子2を蛍光粒子4に置き換えた以外は同様にして波長変換フィルム203を作製した。
【0141】
〔波長変換フィルム204の作製(本発明)〕
波長変換フィルム201において、蛍光塗布液4を下記組成の蛍光塗布液5に変更した以外は同様にして波長変換フィルム204を得た。
【0142】
蛍光塗布液5
コロイダルシリカ(スノーテックXS;日産化学工業社製、SiO 20質量%)
100g
蛍光粒子4 5g
〔波長変換フィルム205の作製(本発明)〕
波長変換フィルム201において、蛍光塗布液4を下記組成の蛍光塗布液6に変更し、ワイヤレスバーを用いて、乾燥後の膜厚が2μmとなる条件で塗布し、100℃で2分乾燥した後、下記の改質処理条件で真空紫外線照射を行った以外は同様にして波長変換フィルム205を得た。
【0143】
蛍光塗布液6
無触媒のパーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20)と、アミン触媒を固形分で5質量%含有するパーヒドロポリシラザンの20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NAX120−20)を、アミン触媒が固形分として1質量%になるように調整した後、総固形分量が5質量%になるようにジブチルエーテルで希釈した液と、蛍光粒子4を5質量%含むジブチルエーテル溶液を2:1で混合して、蛍光塗布液6を作製した。
【0144】
改質処理条件
実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度が0.1%に維持されるように窒素と酸素を適量供給した装置チャンバー内に、蛍光塗布液6による層を形成した試料を80℃、移動速度0.6mm/minで供給し、172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有するXeエキシマランプを照射距離3mm、最大照度90mW/cm、積算照射エネルギー2000mJ/cmになるようにして改質処理した。
【0145】
このときの積算照射エネルギーの測定は、浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、前記改質処理と同条件で行った。
【0146】
また、測定及び改質処理に先立ち、Xeエキシマランプの照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設けた。
【0147】
〔波長変換フィルム206の作製(本発明)〕
波長変換フィルム203において、保護層として下記ポリシラザン化合物を含有する保護層形成用塗布液1を、ワイヤレスバーを用いて、乾燥後の膜厚が200nmとなる条件で塗布し、100℃で2分乾燥した後、下記の改質処理条件で真空紫外線照射を行った以外は同様にして波長変換フィルム206を作製した。
【0148】
保護層形成用塗布液1
無触媒のパーヒドロポリシラザンを20質量%含むジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN120−20)と、アミン触媒を固形分で5質量%含有するパーヒドロポリシラザンの20質量%ジブチルエーテル溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NAX120−20)を、アミン触媒が固形分として1質量%になるように調整した後、総固形分量が5質量%になるようにジブチルエーテルで希釈して、保護層形成用塗布液1を作製した。
【0149】
改質処理条件
実質的に水蒸気を除去し、酸素濃度が0.1%に維持されるように窒素と酸素を適量供給した装置チャンバー内に、保護層を形成した試料を80℃、移動速度0.6mm/minで供給し、172nmの真空紫外線を照射する二重管構造を有するXeエキシマランプを照射距離3mm、最大照度90mW/cm、積算照射エネルギー2000mJ/cmになるようにして改質処理した。
【0150】
このときの積算照射エネルギーの測定は、浜松ホトニクス社製の紫外線積算光量計:C8026/H8025 UV POWER METERを用い、前記改質処理と同条件で行った。
【0151】
また、測定及び改質処理に先立ち、Xeエキシマランプの照度を安定させるため、Xeエキシマランプ点灯後に10分間のエージング時間を設けた。
【0152】
〔波長変換フィルム207の作製(本発明)〕
波長変換フィルム203において、下層の蛍光塗布液1を下記組成の蛍光塗布液7に変更した以外は同様にして波長変換フィルム207を得た。
【0153】
蛍光塗布液7
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
有機蛍光色素2 1.2g
有機蛍光色素2(シアニン化合物)
下記の四フッ化ホウ酸塩
【0154】
【化2】

【0155】
〔波長変換フィルム208の作製(本発明)〕
以下のセルロースエステル、可塑剤、蛍光染料、微粒子及び溶媒を用いてセルロースエステル溶液(ドープ)を調製し、溶液流延製膜法にて蛍光染料含有基材を準備した。
【0156】
セルロースエステル( セルローストリアセテート、アセチル基置換度2.9、Mn=16 0000、Mw/Mn=1.8) 100g
可塑剤(トリメチロールプロパントリベンゾエート) 5g
可塑剤(エチルフタリルエチルグリコレート) 5g
有機蛍光色素1(ルモゲンFオレンジ240、BASF社製) 1.2g
微粒子(アエロジルR972V、日本アエロジル(株)製) 0.3g
溶媒(メチレンクロライド) 440g
溶媒(エタノール) 110g
上記のセルロースエステル、可塑剤、蛍光染料、微粒子及び溶媒を用いてセルロースエステル溶液(ドープ)を調製した。
【0157】
フッ素コートした37℃に温調したガラス基板に、前記セルロースエステル溶液(ドープ)を、ギャップを調整できるアプケータを用いて流延した。なお、ギャップは乾燥後のフィルムの膜厚が100μmになるように調整した。
【0158】
その後、45℃の温風で5分間乾燥させた後、剥離して木枠に固定して125℃のオーブンで30分乾燥させた。
【0159】
この蛍光染料含有基材上に、下記組成の蛍光塗布液8を、ギャップを調整できるアプケータを用いて塗布し、120℃のオーブンで10分乾燥して、波長変換フィルム208を得た。なお、アプリケータのギャップは乾燥膜厚が10μmになるように調整した。
【0160】
蛍光塗布液8
トルエン 70g
メチルエチルケトン 10g
ポリメチルメタクリレート 20g
蛍光粒子4 5g
(評価)
(太陽電池効率(PV効率))
(CdS/CdTe太陽電池の作製)
透明ガラス基板の一方の面にCdS膜およびCdTe膜がこの順に形成されており、CdTe膜には集電体膜と正電極となるAgIn膜が形成されており、CdS膜には負電極となるAgIn膜が形成されている。
【0161】
CdS膜は、CdS粉とCdCl粉とを重量比で4:1のプロピレングリコールと水の混合溶液に、重量比で100:12:30の割合で分散してなるCdSペーストを透明ガラス基板に印刷し、乾燥を行った後、690℃の窒素ガス気流下で約60分加熱し焼結処理を行って作成した。
【0162】
CdTe膜は、CdとTeを水中で粉砕し、乾燥した粉とCdCl粉をエチレングリコールモノフェニルエーテルに、重量比で100:0.5:30の割合で分散してなるCdTeペーストを透明ガラス基板上に形成したCdS膜上に印刷し、乾燥を行った後、620℃の窒素ガス気流下で約20分加熱し焼結処理を行って作製した。
【0163】
本実施例では、CdS膜、CdTe膜、集電体膜およびAgIn膜で構成される基本セルを印刷パターニングでガラス基板に4個直列に接続したCdS/CdTe太陽電池を用いた。CdS膜の膜厚は8〜10μmであり、CdTe膜の膜厚は15〜20μmである。
【0164】
こうして作製した太陽電池の受光面となる透明ガラス基板の他方の面に、透明粘着シート(日東電工社製、LUCIACS CS9621T)を用いて各波長変換フィルムを基材側が太陽電側にくるようにして貼り付けた。
【0165】
また、透明基材シクロオレフィンポリマーフィルム、ゼオノアZF14−100(日本ゼオン社製、膜厚100μm)のみを貼り合わせた基準太陽光発電モジュールを準備した。
【0166】
上記方法で作製した太陽光発電モジュールについて、ソーラーシミュレーターにより、AM1.5Gフィルタ、100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を4.0mmにしたマスクを受光部に重ね、短絡電流密度Jsc(mA/cm)及び開放電圧Voc(V)、フィルファクターFFをそれぞれ測定し、〔式1〕に従ってエネルギー変換効率η(%)を求め、基準太陽光発電モジュールのエネルギー変換効率に対する相対値を求め、以下の指標で評価した。
【0167】
【数2】

【0168】
◎ :1.10以上
○ :1.08以上 1.10未満
○△:1.06以上 1.08未満
△ :1.04以上 1.06未満
△×:1.02以上 1.04未満
× :1.02未満
(耐候性)
メタルハライドランプ方式の耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス社製)を使用し、試料面放射強度:2.16MJ/m以下、ブラックパネル温度63℃、相対湿度:50%、照射時間300時間の条件で耐候性試験を行い、その後、温度85℃、湿度85%RH環境で1000時間保存した加速試験後の発電効率を初期の発電効率に対する残存比率を求め、下記の基準で評価した。
【0169】
◎ :90%以上
○ :80%以上 90%未満
○△:70%以上 80%未満
△ :60%以上 70%未満
△×:40%以上 60%未満
× :40%未満
(配向評価)
本発明の波長変換フィルムについて、集束イオンビーム(FIB)を用いて断面サンプルを作製し、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等)を用いて、各フィルムについてランダムに100個の粒子について配向角を測定したところ、いずれのフィルムも70%以上の粒子が配向角±30%以下であった。
【0170】
【表1】

【0171】
表1の結果からわかるように、本発明の波長変換フィルムは、太陽電池の入射光側に設置されても劣化することなく、太陽光を太陽電池の感度特性に合わせた波長に変換できるので、有効に太陽電池の効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0172】
1 平板状の無機酸化物蛍光微粒子
2 蛍光発光方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の入射光側から順に第一の波長変換層と蛍光材料を有する第二の波長変換層の少なくとも二層の波長変換層を有し、第一の波長変換層に近紫外光を吸収して蛍光を発する平板状の無機酸化物蛍光微粒子を含有することを特徴とする太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項2】
前記平板状の無機酸化物蛍光微粒子が、少なくともEuが賦活されたYを含む酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項3】
第二の波長変換層に含有される前記蛍光材料が有機蛍光色素、または、有機蛍光錯体であることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項4】
前記第一の波長変換層において、前記平板状の無機酸化物蛍光微粒子が面内方向に配向していることを特徴とする請求項1から3に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項5】
前記第一の波長変換層が無機バインダーを含有することを特徴とする請求項1から4に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項6】
前記第一の波長変換層上に無機化合物を構成要素とする保護層を有することを特徴とする請求項1から4に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項7】
前記第二の波長変換層層が、熱可塑性樹脂を含有する溶液に蛍光材料を含有させて、溶液キャスト成膜した透明基材層であることを特徴とする請求項1から6に記載の太陽電池用波長変換フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池用波長変換フィルムを用いた太陽光発電モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2013−69728(P2013−69728A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205324(P2011−205324)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】