説明

太陽電池素子のクラック検出方法及び装置

【課題】 太陽電池素子に生じたクラックを非接触で且つ高速に検出することが可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係るクラック検出装置100は、少なくとも半導体層SC2と導電体層SC3とが積層された太陽電池素子SCに対向配置され、太陽電池素子SCに交流磁界を作用させて渦電流を誘起すると共に、誘起された渦電流を検出し渦電流信号として出力するプローブコイル1と、プローブコイル1から出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分に分離する信号処理部2と、信号処理部2で分離された何れかの信号成分の振幅変化に基づいて、太陽電池素子SCに生じたクラックを検出する検出部3とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともシリコン等の半導体層とアルミニウム等の導電体層とが積層された太陽電池素子に生じ得るクラックを検出する方法及び装置に関し、特に非接触で且つ高速に検出することが可能な太陽電池素子のクラック検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は、風力発電と並んで、地球温暖化防止に寄与するクリーンエネルギーとして注目されている。太陽光発電は、少なくともシリコン等の半導体層と該半導体層の裏面側(受光面と反対の面側)にアルミニウム等の導電体層とが積層された太陽電池素子を多数配設した太陽電池モジュールを用いて、太陽光を電気エネルギーに変換することによってなされる。斯かる太陽光発電を商業ベースで広く実用化するためには、発電コストの低価格化が必要であり、太陽電池モジュールを構成する太陽電池素子の低価格化も急務となっている。このため、例えば半導体層が多結晶型シリコンからなる太陽電池素子では、材料価格を低減するために、より一層の薄型化が図られつつある。
【0003】
しかしながら、シリコン等の半導体層は硬くて脆いため、薄型化するためのスライシング工程や、その後の表面処理工程、電極形成工程等の生産工程において、或いはハンドリングする際において、半導体層に割れや欠けのような欠陥が発生する場合がある。これらの欠陥が生産工程で発生すると、操業上のトラブルが発生して生産性を阻害する他、製品に混入すると発電性能を低下させるという問題がある。
【0004】
上記の割れや欠けのような欠陥は、ヘアクラックと称される微細なクラックが成長して生ずることが多い。このため、ヘアクラックの段階で検出できれば、生産性の低下や発電性能の低下を抑止することが可能である。
【0005】
従来、クラックの検出方法として、生産工程中での目視検査が実施されているが、検査員の個人差が大きいことや、クラックと無害なスリ傷との識別ができない等の問題があった。
【0006】
また、クラックの自動検出方法として、太陽電池素子を加熱し、当該加熱した素子を赤外線カメラで撮像することによりクラックを検出する方法(特許文献1参照)や、太陽電池素子に応力を付与してクラックを顕在化させた後に、クラックの隙間から透過する光を検知することによりクラックを検出する方法(特許文献2参照)などが提案されている。しかしながら、特許文献1及び2の何れに記載の方法も、高速にクラックを検出できないという問題がある。
【特許文献1】特許第3220690号公報
【特許文献2】特開2003−298081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、太陽電池素子に生じたクラックを非接触で且つ高速に検出することが可能な方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来より、被検査対象が金属材料である場合、当該金属材料に生じた傷を検出するために、渦電流を利用する検査方法である渦流探傷法が広く適用されている。一般に、被検査対象中に誘起される渦電流の強さは、被検査対象に近接して配置したプローブコイルに通電する交流電流の周波数と被検査対象の透磁率及び導電率に依存する。半導体の導電率は金属の導電率の10−6〜10−8倍の値であるため、一般的には極めて微弱な渦電流しか発生しない。このため、従来においては、被検査対象が半導体材料である場合に渦流探傷法が適用されることはなかった。
【0009】
しかしながら、前記課題を解決するべく本発明の発明者が鋭意検討したところ、太陽電池素子を構成する半導体層にクラックが生じている場合には、該半導体層に積層された導電体層の対応する部位にもほぼ確実にクラックが生じていることが分かった。従って、導電体層に生じたクラックを該導電体層に渦電流を誘起することによって検出すれば、間接的に半導体層に生じたクラックを検出可能であることに想到した。本発明は、斯かる発明者の新しい知見に基づき完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも半導体層と導電体層とが積層された太陽電池素子に交流磁界を作用させて渦電流を誘起し、検出した渦電流信号の変化に基づいて、前記太陽電池素子に生じたクラックを検出することを特徴とする太陽電池素子のクラック検出方法を提供するものである。
【0011】
斯かる発明によれば、太陽電池素子の導電体層においてクラックが生じている部位では、クラックが生じていない部位と比べて誘起される渦電流の流路が変化するため、検出した渦電流信号の振幅や位相も変化することになり、これにより導電体層に生じたクラック、ひいては半導体層に生じたクラックを精度良く検出することが可能である。また、太陽電池素子への渦電流の誘起や渦電流信号の検出は、太陽電池素子に対向配置したプローブコイルを用いて実施できるため、非接触でクラックの検出が可能であると共に、太陽電池素子を加熱したり応力を付与する必要がないため、高速にクラックを検出することができる。
【0012】
ここで、太陽電池素子に、半田や銀ろう等の金属材料からなる電極を形成した状態においては、電極を形成した部位についても、クラックが生じている部位と同様に、誘起される渦電流の流路が変化するため、検出した渦電流信号が変化することになる。従って、渦電流信号の振幅変化を検出するのみでは、電極とクラックとの識別が困難であり、電極を誤ってクラックとして検出するおそれがある。
【0013】
本発明の発明者は、太陽電池素子に電極を形成した状態においてもクラックを検出可能(電極と識別可能)とするべく、さらに鋭意検討した結果、電極とクラックとでは検出される渦電流信号の位相が異なること、及び、渦電流信号の位相遅れが交流磁界の周波数fと交流磁界を作用させた部位の導電率σとの積の平方根(f・σ)1/2におおよそ比例する関係にあることを利用すれば良いことを見出した。すなわち、太陽電池素子に作用させる交流磁界の周波数を所定値以上に高めることによって、電極に対応する渦電流信号の位相遅れをクラックに対応する渦電流信号と識別できる程度に大きくすると共に、両渦電流信号の位相情報を利用(位相の差異を利用)すれば、電極とクラックとを識別可能であり、結果的にクラックを高精度に検出可能であることを見出した。
【0014】
すなわち、好ましくは、前記交流磁界の周波数を1MHz以上に設定し、前記渦電流信号の位相情報に基づいて、前記太陽電池素子上に形成された電極と前記太陽電池素子に生じたクラックとを識別するように構成される。
【0015】
斯かる好ましい構成によれば、太陽電池素子に電極が形成されている状態においても、クラックを高精度に検出することが可能である。
【0016】
なお、前記課題を解決するべく、本発明は、少なくとも半導体層と導電体層とが積層された太陽電池素子に対向配置され、前記太陽電池素子に交流磁界を作用させて渦電流を誘起すると共に、誘起された渦電流を検出し渦電流信号として出力するプローブコイルと、前記プローブコイルから出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分に分離する信号処理部と、前記信号処理部で分離された何れかの信号成分の振幅変化に基づいて、前記太陽電池素子に生じたクラックを検出する検出部とを備えることを特徴とする太陽電池素子のクラック検出装置としても提供される。
【0017】
また、太陽電池素子に電極が形成されている状態においてもクラックを高精度に検出することを可能とするべく、好ましくは、前記プローブコイルに通電する交流電流の周波数が1MHz以上に設定され、前記プローブコイルを前記太陽電池素子上に形成された電極に対向する位置で相対的に走査した場合、前記信号処理部は、前記プローブコイルから出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なり且つ一方の振幅が実質的に0である2つの信号成分に分離するように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る太陽電池素子のクラック検出方法及び装置によれば、太陽電池素子に生じたクラックを非接触で且つ高速に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子のクラック検出装置の概略構成を示す模式図である。図2は、太陽電池素子の概略構成を表す図であり、図2(a)は平面図を、図2(b)は裏面図を、図2(c)は図2(a)のL−L線に沿った縦断面を厚み方向に拡大した断面拡大図を示す。図1に示すように、本実施形態に係るクラック検出装置100は、プローブコイル1と、信号処理部2と、検出部3とを備えている。また、図2に示すように、本実施形態に係る太陽電池素子SCは、表面側から裏面側に向けて、適宜の反射防止層SC1と、シリコンからなる半導体層SC2と、アルミニウムからなる導電体層SC3とが積層されて形成されている。そして、太陽電池素子SCの表面及び裏面の適宜の箇所に、半導体層SC2で生成された電力を外部に取り出すための半田や銀ろう等の金属材料からなる電極E1、E2がそれぞれ形成されている。
【0020】
プローブコイル1は、太陽電池素子SCの表面又は裏面から一定距離だけ離間して対向配置され、太陽電池素子SCとの離間距離を一定に保ちながら太陽電池素子SCの表面又は裏面に沿って相対的に走査される。すなわち、太陽電池素子SCとプローブコイル1との相対的な位置が順次変わるように、太陽電池素子SC及び/又はプローブコイル1が走査される。なお、太陽電池素子SCに生じたクラックを横断する方向にプローブコイル1を走査しなければ、クラックによる渦電流の変化は生じない一方、クラックの延びる方向は予測がつかない場合が多い。従って、クラックを自動検出するためには、プローブコイル1の走査方向として、一定の方向で太陽電池素子SCの全面を走査した後、直交する方向で再度太陽電池素子SCの全面を走査する構成を採用することが好ましい。或いは、円弧を描くようにプローブコイル1を回転させながら一定の方向に走査する構成を採用しても良い。
【0021】
プローブコイル1には、信号処理部2の発振器21から高周波電流が供給される。これにより、プローブコイル1から太陽電池素子SCに向かう交流磁界が生じ、太陽電池素子SC(太陽電池素子SCの導電体層SC3)に渦電流が誘起されることになる。太陽電池素子SCに誘起された渦電流は、プローブコイル1によって検出され(渦電流によって生じる磁界の変化が検出され)、渦電流信号として出力される。
【0022】
信号処理部2は、プローブコイル1から出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分(X成分、Y成分)に分離するように構成されている。具体的に説明すれば、本実施形態に係る信号処理部2は、発振器21と、増幅器22と、移相器23と、90度移相器24と、第1の位相検波器25と、第2の位相検波器26とを備える構成とされている。
【0023】
プローブコイル1から出力された渦電流信号は、信号処理部2の増幅器22によって所定の増幅率で増幅された後、第1の位相検波器25及び第2の位相検波器26のそれぞれに入力される。第1の位相検波器25は、移相器23の出力信号を参照信号として、増幅器22から出力された信号を位相検波する。より具体的に説明すれば、移相器23には発振器21からの出力信号(発振器21からプローブコイル1に供給される高周波電流と同一の周波数で同一の位相を有する信号)が入力され、移相器23は、入力された信号の位相を所定量だけ移相した信号を第1の位相検波器25の参照信号として出力するように構成されている。そして、第1の位相検波器25は、増幅器22の出力信号から、参照信号の位相と同位相の信号成分(X成分)を抽出する。
【0024】
一方、第2の位相検波器26は、90度移相器24の出力信号を参照信号として、増幅器22から出力された信号を位相検波する。より具体的に説明すれば、90度移相器24には移相器23からの出力信号が入力され、90度移相器24は、入力された信号の位相を90°だけ移相した信号を第2の位相検波器26の参照信号として出力するように構成されている。そして、第2の位相検波器26は、増幅器22の出力信号から、参照信号の位相と同位相の信号成分(Y成分)を抽出する。すなわち、第2の位相検波器26から出力されるY成分は、第1の位相検波器25から出力されるX成分と位相が90°異なる信号成分となる。
【0025】
以上のようにして、信号処理部2は、プローブコイル1から出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分(X成分、Y成分)に分離し、各信号成分を検出部3に出力する。なお、X成分及びY成分は、渦電流信号(増幅後の渦電流信号)の振幅をS、位相をθとして極座標(S、θ)で表した渦電流信号(所謂リサージュ波形)を、互いに直交する2軸にそれぞれ投影した成分に相当することになる。
【0026】
検出部3は、信号処理部2で分離された何れかの信号成分(X成分若しくはY成分或いは両方の信号成分)の振幅変化に基づいて、太陽電池素子SCに生じたクラックを検出する(直接的には導電体層SC3に生じたクラックを検出し、これにより間接的に半導体層SC2に生じたクラックを検出する)ように構成されている。より具体的に説明すれば、プローブコイル1を走査した際に、何れかの信号成分の振幅が予め定めたしきい値を超えて変化すれば、当該しきい値を超える振幅の得られた走査部位にクラックが生じているものと判定する。
【0027】
以上に説明した構成を有するクラック検出装置100によれば、太陽電池素子SC(特に電極E1、E2が形成される前の段階における太陽電池素子SC)に生じたクラックを非接触で且つ高速に検出することが可能である。
【0028】
なお、本実施形態では、太陽電池素子SCに電極E1、E2が形成された状態においてもクラックを高精度に検出可能(電極E1、E2と識別可能)とするために、好ましい構成として、プローブコイル1に通電する交流電流の周波数が1MHz以上に設定されている。また、好ましい構成として、電極E1、E2とクラックとでは検出される渦電流信号の位相が異なるため、プローブコイル1を太陽電池素子SC上に形成された電極E1又はE2に対向する位置で走査した場合において、信号処理部2が、プローブコイル1から出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なり且つ一方の振幅が実質的に0である2つの信号成分に分離するように構成されている。
【0029】
より具体的に説明すれば、プローブコイル1を太陽電池素子SC上に形成された電極E1又はE2に対向する位置で走査した場合に、前述したX成分及びY成分の何れか一方の信号成分の振幅が実質的に0となるように信号処理部2の移相器23の移相量が調整されている。例えば、プローブコイル1を太陽電池素子SC上に形成された電極E1又はE2に対向する位置で走査した場合に、X成分の振幅が実質的に0となるように移相器23の移相量を調整すると共に、検出部3においてX成分の振幅変化を検出するように構成すれば良い。これにより、プローブコイル1が電極E1又はE2に対向する位置にある場合にはX成分の振幅が実質的に0となる一方、プローブコイル1がクラックに対向する位置にある場合にはX成分の振幅が大きくなるため、クラックのみを高精度に検出することが可能である。
【0030】
図3は、上記の好ましい構成を適用した場合におけるX成分及びY成分の信号波形の一例を示す。より具体的には、図3(a)の上段はX成分の信号波形例を、下段はY成分の信号波形例を示す。また、図3(a)のA〜Dの各信号波形は、それぞれ図3(b)のA〜Dの矢符で示す太陽電池素子SCの各部位に対向する位置において、プローブコイル1を4回往復走査した場合に得られた信号波形例を示す。なお、図3に示す信号波形は、プローブコイル1に供給する高周波電流の周波数を3MHzに設定した場合に得られた信号波形である。
【0031】
図3に示すように、プローブコイル1を電極E2に対向する位置(図3(b)の矢符C)で走査した場合に、そのX成分(図3(a)のCのX成分)の振幅が実質的に0となるように移相器23の移相量を調整すれば、太陽電池素子SCの表面側にプローブコイル1を配置してクラックCRに対向する位置(図3(b)の矢符D)で走査した場合のX成分(図3(a)のDのX成分)も、太陽電池素子SCの裏面側にプローブコイル1を配置してクラックCRに対向する位置(図3(b)の矢符A)で走査した場合のX成分(図3(a)のAのX成分)も、共に振幅が大きくなった。また、クラックCRが存在しない部位に対向する位置(図3(b)の矢符B)でプローブコイル1を走査した場合のX成分(図3(a)のBのX成分)の振幅は実質的に0になった。従って、検出部3においてX成分の振幅変化を検出するように構成すれば、太陽電池素子SCに形成された電極の影響を受けることなく、クラックCRのみを高精度に検出することが可能である。
【0032】
なお、太陽電池素子SCに電極を形成する前の段階でクラックCRを検出するのであれば、クラックCRが存在しない部位に対向する位置(図3(b)の矢符B)でプローブコイル1を走査した場合のX成分(図3(a)のBのX成分)も、Y成分(図3(a)のBのY成分)も、共に振幅が実質的に0であるため、検出部3においてX成分又はY成分の何れの振幅変化を検出するように構成したとしても、クラックCRを高精度に検出することが可能である。
【0033】
図4は、プローブコイル1に供給する高周波電流の周波数の影響を調査するべく、当該周波数を種々の値に変更した場合におけるX成分及びY成分の信号波形の一例を示す。より具体的には、図4(a)は周波数を3MHzとした場合の信号波形例(上段はX成分、下段はY成分)を、図4(b)は周波数を1MHzとした場合の信号波形例(上段はX成分、下段はY成分)を、図4(c)は周波数を0.3MHzとした場合の信号波形例(上段はX成分、下段はY成分)を示す。また、図4(a)〜(c)のAの信号波形(図の左側の信号波形)は、図3(b)のAの矢符で示す太陽電池素子SCの部位に対向する位置においてプローブコイル1を3〜4回往復走査した場合に得られた信号波形例を示す。図4(a)〜(c)のCの信号波形(図の右側の信号波形)は、図3(b)のCの矢符で示す太陽電池素子SCの部位に対向する位置においてプローブコイル1を3〜4回往復走査した場合に得られた信号波形例を示す。
【0034】
図4に示すように、何れの周波数についても、プローブコイル1を電極E2に対向する位置(図3(b)の矢符C)で走査した場合に、そのX成分(図4(a)〜(c)のCのX成分)の振幅が実質的に0となるように移相器23の移相量を調整したところ、周波数が0.3MHzのときには、プローブコイル1をクラックCRに対向する位置(図3(b)の矢符A)で走査した場合のX成分(図4(c)のAのX成分)の振幅も極めて小さくなり、クラックCRと電極とを識別することは困難であった。しかしながら、前述した好ましい構成のように、周波数を1MHz以上に設定したときには、プローブコイル1をクラックCRに対向する位置(図3(b)の矢符A)で走査した場合のX成分(図4(a)及び(b)のAのX成分)の振幅は大きくなったため、検出部3においてX成分の振幅変化を検出するように構成すれば、太陽電池素子SCに形成された電極の影響を受けることなく、クラックCRのみを高精度に検出することが可能である。
【0035】
なお、太陽電池素子SCは、その表面の保護のためガラス等に封入されて使用されるのが一般的である。このように、太陽電池素子SCがガラス封入された状態では、目視検査がより一層困難となる。しかしながら、ガラスは絶縁体であり渦電流の誘起に影響を及ぼさないため、本実施形態に係るクラック検出装置100によれば、ガラス封入された状態の太陽電池素子SCについても、上記と同様にクラックCRのみを精度良く検出可能であるという利点を有する。
【0036】
また、太陽電池素子SCに電極を形成する前の段階でクラックCRを検出するのであれば、図4に示すように、何れの周波数に設定しても、プローブコイル1をクラックCRに対向する位置(図3(b)の矢符A)で走査した場合のY成分(図4(a)〜(c)のAのY成分)の振幅が大きくなる一方、クラックCRが存在しない部位に対向する位置(図3(b)の矢符B)でプローブコイル1を走査した場合のY成分は振幅が実質的に0になるため、検出部3においてY成分の振幅変化を検出するように構成すれば、クラックCRを高精度に検出することが可能である。
【0037】
以上に説明した実施形態では、プローブコイル1を電極に対向する位置で走査したときに、そのX成分の振幅が実質的に0となるように移相器23の移相量を調整する場合について説明したが、本発明は無論これに限るものではなく、Y成分の振幅が実質的に0となるように移相器23の移相量を調整し、検出部3においてY成分の振幅変化を検出するように構成しても、電極の影響を受けることなくクラックCRを高精度に検出することが可能である。
【0038】
また、本実施形態では、信号処理部2で分離された何れかの信号成分の振幅変化に基づいて、検出部3が太陽電池素子SCに生じたクラックを自動的に検出する構成について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、信号処理部2から出力される信号成分の波形をオペレータが目視で確認することによって、クラックの存在有無を判定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子のクラック検出装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、表裏面に電極が形成された太陽電池素子の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子のクラック検出装置で出力されるX成分及びY成分の信号波形の一例を示す。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る太陽電池素子のクラック検出装置において、プローブコイルに供給する高周波電流の周波数を変更した場合に出力されるX成分及びY成分の信号波形の一例を示す。
【符号の説明】
【0040】
1・・・プローブコイル
2・・・信号処理部
3・・・検出部
100・・・クラック検出装置
SC・・・太陽電池素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも半導体層と導電体層とが積層された太陽電池素子に交流磁界を作用させて渦電流を誘起し、検出した渦電流信号の変化に基づいて、前記太陽電池素子に生じたクラックを検出することを特徴とする太陽電池素子のクラック検出方法。
【請求項2】
前記交流磁界の周波数を1MHz以上に設定し、前記渦電流信号の位相情報に基づいて、前記太陽電池素子上に形成された電極と前記太陽電池素子に生じたクラックとを識別することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池素子のクラック検出方法。
【請求項3】
少なくとも半導体層と導電体層とが積層された太陽電池素子に対向配置され、前記太陽電池素子に交流磁界を作用させて渦電流を誘起すると共に、誘起された渦電流を検出し渦電流信号として出力するプローブコイルと、
前記プローブコイルから出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分に分離する信号処理部と、
前記信号処理部で分離された何れかの信号成分の振幅変化に基づいて、前記太陽電池素子に生じたクラックを検出する検出部とを備えることを特徴とする太陽電池素子のクラック検出装置。
【請求項4】
前記プローブコイルに通電する交流電流の周波数が1MHz以上に設定され、
前記プローブコイルを前記太陽電池素子上に形成された電極に対向する位置で相対的に走査した場合、前記信号処理部は、前記プローブコイルから出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なり且つ一方の振幅が実質的に0である2つの信号成分に分離することを特徴とする請求項3に記載の太陽電池素子のクラック検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−319303(P2006−319303A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321922(P2005−321922)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(592244376)住友金属テクノロジー株式会社 (43)
【Fターム(参考)】