説明

奥行き推定データ生成装置、奥行き推定データ生成プログラム及び擬似立体画像表示装置

【課題】モノトーン画像から色鮮やかな画像まであらゆるシーンに対して十分な立体効果を得ることのできる奥行き推定データ生成装置を提供する。
【解決手段】本発明の奥行き推定データ生成装置は、色差信号成分から彩度平均値データを生成する彩度平均値生成部12と、輝度信号成分と所定値との差分を求めて輝度信号変更値を算出する輝度信号変更値算出部132と、R成分が擬似立体画像の手前側に、B成分が擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値を算出するRB合成値算出部133と、輝度信号変更値を補正する輝度信号ゲインとRB合成値を補正するRBゲインとを彩度平均値データに基づいて生成するゲイン生成部134と、輝度信号変更値と輝度信号ゲインとの演算結果とRB合成値とRBゲインとの演算結果とを合成して奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出部135とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の静止画もしくは動画、即ち奥行き情報が明示的にも又はステレオ画像のように暗示的にも与えられていない画像(非立体画像)から擬似的な立体画像を生成するための奥行き推定データ生成装置、奥行き推定データ生成プログラム及び擬似立体画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
立体表示システムでは、非立体画像の擬似立体視による鑑賞を可能にするために、通常の静止画もしくは動画、即ち立体を表すための奥行き情報が明示的にも又はステレオ画像のように暗示的にも与えられていない画像(非立体画像)から、擬似的な立体化画像を生成する処理が行われている。
【0003】
このような技術の一例として、例えば特許文献1に開示された擬似立体画像生成装置がある。特許文献1の擬似立体画像生成装置では、できる限り現実に近いシーン構造の決定を行うために、基本となる複数のシーン構造のそれぞれについて奥行き値を示す複数の基本奥行きモデルを用意しておき、上部及び下部の高域成分評価部からの高域成分評価値に応じて合成比率を決定し、この合成比率に応じて複数の基本奥行きモデルを合成する。そして、合成した基本奥行きモデルと非立体画像のR信号とを加算器で重畳して最終的な奥行き推定データを生成し、この奥行き推定データをもとにした処理を非立体画像に施すことで、立体感を感じさせる別視点画像を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−185033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された手法では、基本奥行きモデルに重畳する信号についてR信号だけでなく、B信号でもよく、R信号とB信号を併用した信号でも良いとしている。ところが、この手法は重畳する信号を選択する方式であるため、例えばR信号とB信号を併用した場合には、暖色や寒色が多く含まれている色鮮やかな画像であれば立体効果を大きく出せるが、モノトーン画像の場合には立体効果が小さくなってしまうという問題点があった。したがって、特許文献1に開示された手法では、すべてのシーンに対して十分な立体効果を得られるわけではないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、モノトーン画像から色鮮やかな画像まであらゆるシーンに対して十分な立体効果を得ることのできる奥行き推定データ生成装置、奥行き推定データ生成プログラム及び擬似立体画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る奥行き推定データ生成装置は、入力映像信号の色差信号成分から彩度を算出し、前記彩度の平均値を求めて彩度平均値データを生成する彩度平均値生成部と、前記入力映像信号の輝度信号成分と予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値を算出する輝度信号変更値算出部と、前記入力映像信号のR成分が前記擬似立体画像の手前側に、前記入力映像信号のB成分が前記擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値を算出するRB合成値算出部と、前記輝度信号変更値を補正するための輝度信号ゲインと前記RB合成値を補正するためのRBゲインとを前記彩度平均値データに基づいて生成するゲイン生成部と、前記輝度信号変更値と前記輝度信号ゲインとの演算結果と前記RB合成値と前記RBゲインとの演算結果とを合成して、前記入力映像信号から擬似立体画像を示す信号を生成するための奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る奥行き推定データ生成プログラムは、入力映像信号の色差信号成分から彩度を算出し、前記彩度の平均値を求めて彩度平均値データを生成する彩度平均値生成ステップと、前記入力映像信号の輝度信号成分と予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値を算出する輝度信号変更値算出ステップと、前記入力映像信号のR成分が前記擬似立体画像の手前側に、前記入力映像信号のB成分が前記擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値を算出するRB合成値算出ステップと、前記輝度信号変更値を補正するための輝度信号ゲインと前記RB合成値を補正するためのRBゲインとを前記彩度平均値データに基づいて生成するゲイン生成ステップと、前記輝度信号変更値と前記輝度信号ゲインとの演算結果と前記RB合成値と前記RBゲインとの演算結果とを合成して、前記入力映像信号から擬似立体画像を示す信号を生成するための奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る擬似立体画像表示装置は、前記奥行き推定データを生成する請求項1に記載の奥行き推定データ生成装置と、前記奥行き推定データと前記入力映像信号とを用いて、前記入力映像信号のテクスチャのシフトを対応部分の奥行きに応じた量だけ行うことによって擬似立体画像を表示するための別視点画像信号を生成するステレオペア生成装置と、前記別視点画像信号と前記入力映像信号とを用いて擬似立体画像を表示するステレオ表示装置とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る奥行き推定データ生成装置及び奥行き推定データ生成プログラムによれば、輝度信号から推定される奥行きとR信号及びB信号から推定される奥行きとを、彩度の平均値に応じて合成して奥行き推定データを生成するので、モノトーン画像から色鮮やかな画像まであらゆるシーンに対して十分な立体効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る擬似立体画像表示装置によれば、輝度信号から推定される奥行きとR信号及びB信号から推定される奥行きとを彩度の平均値に応じて合成し、この合成された奥行き推定データを用いて擬似立体画像を生成して表示するので、モノトーン画像から色鮮やかな画像まであらゆるシーンに対して十分な立体効果のある画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した一実施形態に係る擬似立体画像表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置の彩度平均値生成部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置の奥行き推定部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置のリーク型積分部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置による彩度平均値データの生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置による奥行き推定データの生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置による輝度変更値の算出方法を説明するための図である。
【図8】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置によるRB合成値の算出方法を説明するための図である。
【図9】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置による輝度信号ゲイン及びRBゲインの算出方法を説明するための図である。
【図10】本発明を適用した一実施形態に係る奥行き推定データ生成装置による効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係る擬似立体画像表示装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る擬似立体画像表示装置は、奥行き推定データ生成装置1と、ステレオペア生成装置2と、ステレオ表示装置3とを備えており、奥行き情報が明示的にも又はステレオ画像のように暗示的にも与えられていない非立体画像が入力されると、時系列的に連続した複数の画像で構成されている非立体画像から左目画像信号と右目画像信号とを生成し、ステレオ表示装置3で左目画像信号と右目画像信号とを用いて擬似立体画像を表示するように構成されている。
【0015】
以下、擬似立体画像表示装置を構成する奥行き推定データ生成装置1とステレオペア生成装置2とステレオ表示装置3の各装置について説明する。
【0016】
[奥行き推定データ生成装置の構成]
図1に示すように、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1は、入力されたRGB信号を輝度信号と色差信号に変換するマトリクス変換部11と、入力映像信号の色差信号成分から彩度を算出して彩度平均値データを生成する彩度平均値生成部12と、奥行き推定データを生成する奥行き推定部13とを備えている。奥行き推定データは、奥行き情報が与えられていない画像(非立体画像ともいう)から擬似立体画像を生成するためのデータである。
【0017】
ここで、図2を参照して彩度平均値生成部12の構成を説明する。図2に示すように、彩度平均値生成部12は、色差信号B−Y、R−Yから各画素の彩度(VC)を算出する彩度算出部121と、画素毎に算出された彩度の値を積算して1フレームの彩度積算値(VC_total)を算出する積算部122と、彩度積算値(VC_total)を1フレームの総画素数で除算して彩度の平均値(VC_ave)を算出する正規化部123と、算出された彩度の平均値(VC_ave)を保持するレジスタ124とを備えている。尚、本実施形態では1フィールド又は1フレーム毎に彩度平均値データを生成しているが、複数フィールド又は複数フレーム毎に彩度平均値データを生成してもよく、画面の所定単位(時間単位)毎に彩度平均値データを生成すればよい。ただし、1フィールド又は1フレーム毎に彩度平均値データを生成することが望ましい。
【0018】
次に、図3を参照して奥行き推定部13の構成を説明する。図3に示すように、奥行き推定部13は、彩度平均値データにリーク型積分処理を行うリーク型積分部131と、輝度信号Yと予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値(Y_out)を算出する輝度信号変更値算出部132と、R信号が擬似立体画像の手前側に、B信号が擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値(RB_out)を算出するRB合成値算出部133と、輝度信号変更値(Y_out)を補正するための輝度信号ゲインGyとRB合成値(RB_out)を補正するためのRBゲインGrbとを彩度平均値データ(VC_ave_out)に基づいて生成するゲイン生成部134と、輝度信号変更値(Y_out)と輝度信号ゲインGyとの演算結果とRB合成値(RB_out)とRBゲインGrbとの演算結果とを合成して奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出部135とを備えている。
【0019】
ここで、図4を参照してリーク型積分部131の回路構成を説明する。図4に示すように、リーク型積分部131は、加算器41と、レジスタ42と、乗算器43、44とを備えている。そして、彩度平均値データ(VC_ave)が入力されると、時間方向にリーク型の積分処理を実行する。このリーク型積分処理については後述する。
【0020】
[彩度平均値データの生成処理の手順]
次に、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1による彩度平均値データの生成処理の手順を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0021】
図5に示すように、ステップS101において、まず入力された映像信号(RGB)を式(1)によってマトリクス変換部11が輝度信号Yと色差信号U(B−Y)、V(R−Y)に変換する。
【0022】
Y = 0.299×R + 0.587×G + 0.114×B
U = −0.169×R −0.331×G + 0.500×B (1)
V = 0.500×R − 0.419×G − 0.081×B
変換後の色差信号B−Y、R−Yは彩度平均値生成部12に供給され、輝度信号Yは奥行き推定部13に供給される。
【0023】
次に、ステップS102において、彩度平均値生成部12に色差信号R−Y、B−Yが入力されると、式(2)に示す計算式によって各画素の彩度(VC)を算出する。
【数1】

【0024】
画素毎に彩度(VC)が算出されると、彩度平均値生成部12はステップS103では算出された彩度の値を積算していき、1フレーム分の彩度の積算値(VC_total)を算出する。そして、ステップS104では算出した彩度の積算値を1フレームの総画素数で除算し、彩度の平均値(VC_ave)を算出する。
【0025】
VC_ave = VC_total / 総画素数 (3)
こうして1フレーム毎に彩度の平均値(VC_ave)が生成されると、レジスタ124で保持してから奥行き推定部13へ彩度平均値データとして供給し、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1による彩度平均値データの生成処理は終了する。
【0026】
[奥行き推定データの生成処理の手順]
次に、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1による奥行き推定データの生成処理の手順を図6のフローチャートを参照して説明する。
【0027】
図6に示すように、ステップS201において、彩度平均値生成部12から供給された彩度平均値データ(VC_ave)に対してリーク型積分部131でリーク型積分処理を行い、リーク型積分後の彩度平均値データ(VC_ave_out)を出力する。
【0028】
ここで、図4を参照してリーク型積分処理を説明する。図4に示すように、入力データとしてVC_ave_inが入力されると、レジスタ42から出力されたデータに乗算器43で15/16が乗算され、その値が加算器41で入力データに加算される。この加算された結果はレジスタ42に格納され、次のVC_ave_inが入力された際に同様に利用される。次に、レジスタ42から出力されたデータは乗算器44で1/16が乗算されて最終的な出力データであるVC_ave_outが出力される。このように、リーク型積分部131でリーク型積分処理を行うことによって、画像を緩やかに変化させてより自然な画質を提供することができる。
【0029】
次に、ステップS202では、マトリクス変換部11から供給された輝度信号Yと予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値(Y_out)を算出する。ここで、図7を参照して輝度信号変更値を算出する処理を説明する。図7に示すように、図7の横軸は入力の輝度信号Y(0〜255)であり、縦軸は出力される輝度信号変更値(Y_out)である。本実施形態では、式(4)に示す計算式によって輝度信号Yから128を減算している。
【0030】
Y_out = Y − 128 (4)
このように輝度信号Yから所定値を減算する理由は、下記の2つの特徴を実現するためである。
【0031】
1)白色は膨張色であり、黒色よりも奥行きが手前に認識される特徴を有する。
【0032】
2)黒色は収縮色であり、白色よりも奥行きが奥に認識される特徴を有する。
【0033】
すなわち、輝度信号Yから128を減算することによって黒色はマイナスの値になるので、擬似立体画像では奥側に配置され、白色はプラスの値になるので、擬似立体画像では手前側に配置される。したがって、輝度変更値(Y_out)を算出することによって、上記した2つの特徴を実現することができる。ただし、本実施形態では輝度信号Yに対して減算する処理を行っているが、G信号に対して処理を行うようにしてもよい。
【0034】
次に、ステップS203では入力された映像信号のうちR信号とB信号に対して、R信号が擬似立体画像の手前側に、B信号が擬似立体画像の奥側になるように合成してRB合成値を算出する。ここで、図8を参照してRB合成値算出部133のRB合成値の算出処理を説明する。図8に示すように、X軸は入力されるB信号(0〜255)であり、Y軸は入力されるR信号(0〜255)であり、Z軸は式(5)に示す計算式によって算出されるRB_rateを示している。
【0035】
RB_rate = ( 0.5 × R ) + { 0.5 × (255 − B) } (5)
さらに、式(6)に示す計算式によってRB_rateからRB合成値(RB_out)を算出する。
【0036】
RB_out = RB_rate − 128 (6)
このようにしてRB合成値(RB_out)を算出することにより、赤の強い部分を擬似立体画像の手前側に、青の強い部分を擬似立体画像の奥側に配置することができる。また、黒色や白色(グレースケール)の出力値は0となるので、奥行きは変化しない。したがって、モノトーン画像では立体効果は得られない。
【0037】
このようにRB合成値を算出する理由は以下に示す3つの特徴のためである。
【0038】
1)R信号が強い部分を手前側に配置する理由は、順光に近い環境で、尚且つテクスチャの明度が大きく異ならないような条件において、R信号の大きさは被写体の凹凸と一致する確率が高いという経験則があるためである。
【0039】
2)B信号が強い部分を奥側に配置する理由は、光線の散乱によって遠くにあるもの程、青寄りに見えるという物理法則の一般論(空気遠近法)があるためである。
【0040】
3)暖色系は色彩学における前進色であり、寒色系(後退色)よりも奥行きが手前に認識されるという特徴があり、寒色系(後退色)は暖色系よりも奥行きが奥側に認識されるという特徴がある。
【0041】
したがって、RB合成値を算出することにより、これら3つの特徴によって擬似立体画像に立体効果を与えることができる。
【0042】
次に、ステップS204において、輝度信号変更値(Y_out)を補正するための輝度信号ゲインGyとRB合成値(RB_out)を補正するためのRBゲインGrbとを彩度平均値データ(VC_ave_out)に基づいて生成する。
【0043】
ここで、ゲイン生成部134における輝度信号ゲインGyとRBゲインGrbの生成方法を、図9を参照して説明する。図9(A)は輝度信号ゲインGyの生成方法を説明するための図であり、図9(B)はRBゲインGrbの生成方法を説明するための図である。
【0044】
図9(A)に示すように、横軸は彩度平均値(VC_ave_out)、縦軸は輝度信号ゲインGyを表しており、彩度平均値(VC_ave_out)が大きくなるにつれて輝度信号ゲインGyが小さくなるような特性を持たせている。
【0045】
一方、図9(B)では横軸が彩度平均値(VC_ave_out)、縦軸がRBゲインGrbを表しており、彩度平均値(VC_ave_out)が大きくなるにつれてRBゲインGrbが大きくなるような特性を持たせている。そして、式(7)に示す計算式に基づいて、輝度信号ゲインGyとRBゲインGrbの特性を決定している。
【0046】
Gy + Grb = 1.0 (7)
但し、これはあくまで一例でありゲイン特性は式(7)に限定されるものではない。
【0047】
こうして輝度信号ゲインGyとRBゲインGrbが決定すると、次にステップS205において、式(8)に示す計算式によって奥行き推定データ(Depth)を算出する。
【0048】
Depth = ( Y_out × Gy ) + ( RB_out × Grb) (8)
この奥行き推定データ(Depth)では、輝度信号変更値(Y_out)に輝度信号ゲインGyを乗算し、RB合成値(RB_out)にRBゲインGrbを乗算してから、それぞれを加算している。
【0049】
ここで、輝度信号ゲインGyとRBゲインGrbは彩度平均値データ(VC_ave_out)に基づいて生成されているので、式(8)の奥行き推定データでは、輝度信号(Y)から推定される奥行き推定データと色信号(R、B)から推定される奥行き推定データとの合成比率が、彩度平均値データ(VC_ave_out)に基づいて決定されている。
【0050】
こうして奥行き推定データが生成されると、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1による奥行き推定データの生成処理は終了する。
【0051】
[奥行き推定データ生成装置の効果]
次に、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置の効果について、図10を参照して説明する。
【0052】
図10に示すように、入力画像として図10(a)に示すような空(モノトーン)の画像が入力された場合について説明する。この入力画像の輝度のレベルと画素の出現頻度との間の関係を示すと、図10(b)に示すようになり、中間輝度領域に画像が分布していることが分かる。
【0053】
ここで、従来の処理を施したシフト量画像を図10(c)に示す。このシフト量画像はグレースケールで表現したものであり、黒〜白を256ステップで表示して黒側は奥行き(凹)方向へ移動し、白側は飛出し(凸)方向へ移動したものとする。図10(d)は横軸をシフト量、縦軸を画素頻度として表したものであり、シフト量は128に集中している。すなわち視差0となっており、図10(c)に示すようにフラットな立体効果の得られない出力画像となっている。
【0054】
一方、図10(e)に示す本発明による処理を施したシフト量画像では、画像の彩度平均値を検出して輝度信号変更値とRB合成値との合成比率を決定している。したがって、図10(e)の画像ではモノトーンの画像なので彩度平均値が0になり、輝度信号ゲインGy=1、RBゲインGrb=0となって輝度信号から推定された奥行き値の比率が100%となる奥行き推定データを自動で生成することができる。これにより図10(f)に示す広い分布からも分かるように、濃淡の差が大きい、すなわち視差が大きくて十分な立体効果を有する出力画像を生成することが可能となる。
【0055】
このように従来ではモノトーン画像に対して立体効果を得ることはできなかったが、本実施形態に係る奥行き推定データ生成装置1によれば、モノトーン画像であっても十分な立体効果を得ることができ、これによってモノトーン画像から色鮮やかな画像まであらゆるシーンに対して十分な立体効果を得ることができる。
【0056】
[ステレオペア生成装置、ステレオ表示装置の構成]
上述したように奥行き推定データ生成装置1によって奥行き推定データが生成されると、奥行き推定データに基づいて別視点の画像を生成することが可能になる。ここで、図1を参照して、本実施形態に係るステレオペア生成装置2及びステレオ表示装置3の構成を説明する。
【0057】
図1に示すように、ステレオペア生成装置2は、入力される非立体画像の映像信号のテクスチャを奥行き推定データに基づいてシフトするテクスチャシフト部21と、オクルージョンを補償するオクルージョン補償部22と、ポスト処理を行うポスト処理部23と、左目画像信号生成部24と、右目画像信号生成部25とを備えている。
【0058】
そして、ステレオペア生成装置2で生成された左目画像信号と右目画像信号は、ステレオ表示装置3へ入力され、ステレオ表示装置3で擬似的な立体画像として表示される。
【0059】
[ステレオペア生成装置2の動作の一例]
ステレオペア生成装置2では、奥行き推定データ生成装置1によって生成された奥行き推定データと入力された非立体画像の映像信号とを基にして別視点の画像を生成する。例えば、左に視点移動する場合、画面より手前に表示するものについては、近い物ほど画像を見る者の内側(鼻側)に見えるので、対応部分のテクスチャを内側すなわち右側へ奥行きに応じた量だけ移動する。これに対して、画面より奥に表示するものについては、近い物ほど画像を見る者の外側に見えるので、対応部分のテクスチャを左側へ奥行きに応じた量だけ移動する。このような処理を施した画像を左目画像とし、入力された非立体画像を右目画像とすることによってステレオペアが構成される。
【0060】
つまり、図1に示す本実施形態に係るステレオペア生成装置2では、まずテクスチャシフト部21が奥行き推定部13から出力された奥行き推定データに基づいて、小さい値、すなわち奥に位置するものから順に、その値に対応する部分の映像信号のテクスチャを、奥行き信号が示すシフト量S画素分だけ、例えば右にシフトする。なお、奥行き信号が負の場合には、奥行き信号が示すそのシフト量S画素分だけ左へシフトする。
【0061】
テクスチャシフト部21におけるシフト量Sに基づいた映像信号のテクスチャのシフト動作は、非立体画像のテクスチャのシフトに対応するものである。換言すると、非立体画像の各画素を、奥行き推定データの値であるシフト量Sの値に応じてそれぞれを左右に移動する処理である。
【0062】
ここで、シフトを行うことによる画像中の位置関係の変化により、テクスチャの存在しない部分、すなわちオクルージョンが発生する場合がある。このような部分については、オクルージョン補償部22が、映像信号の対応部分周辺の映像信号により充填するか、若しくは公知の文献(山田邦男,望月研二,相澤清晴,齊藤隆弘:“領域競合法により分割された画像のテクスチャの統計量に基づくオクルージョン補償”,映情学誌,Vol.56,No.5,pp.863-866(2002.5))等に記載された手法で充填する。
【0063】
オクルージョン補償部22でオクルージョン補償された画像は、ポスト処理部23によって平滑化などのポスト処理を施すことにより、それ以前の処理において発生したノイズなどを軽減し、左目画像信号生成部24が左目画像信号として出力する。一方で、右目画像信号生成部25は、入力された映像信号を右目画像信号として出力する。
【0064】
このようにして、ステレオペア生成装置2は、奥行き推定データ生成装置1によって生成された奥行き推定データと入力された非立体画像の映像信号とを基にして、左目画像信号と右目画像信号とのステレオペアを生成することができる。これらの左目画像信号と右目画像信号はステレオ表示装置3へ出力され、ステレオ表示装置3ではステレオペアによって画面全体として擬似的な立体感を向上させた擬似立体画像を表示することが可能となる。
【0065】
なお、ステレオペアに関して、左右反転することで左目画像信号を原画、右目画像信号を別視点画像とするステレオペアを構成してもよい。また、上記処理では、右目画像信号もしくは左目画像信号のどちらかを映像信号、他方を生成された別視点画像信号とするステレオペアを構成しているが、左右どちらについても別視点画像信号を用いる、すなわち、右に視点移動した別視点画像信号と左に視点移動した別視点画像信号とを用いてステレオペアを構成することも可能である。
【0066】
[ステレオ表示装置3の動作の一例]
図1に示す本実施形態に係るステレオ表示装置3は、例えば、偏光メガネを用いたプロジェクションシステム、あるいは時分割表示と液晶シャッタメガネを組み合わせたプロジェクションシステム若しくはディスプレイシステム、レンチキュラ方式のステレオディスプレイ、アナグリフ方式のステレオディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイやステレオ画像の各画像に対応した2台のプロジェクタによるプロジェクタシステムであり、ステレオペア生成装置2によって生成された左目画像信号と右目画像信号とが入力されてディスプレイ等に擬似立体画像を表示する。
【0067】
なお、上記実施形態の説明では、ステレオペア生成装置2として左目画像信号と右目画像信号の2視点での例を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではない。すなわち、2視点以上の表示が可能な表示装置で表示する場合には、その視点数に応じた数の別視点画像を生成するように構成しても勿論よい。
【0068】
また、上記のように2視点以上の表示が可能な表示装置を用いた多視点立体画像表示システムの構築も可能である。本立体表示システムでは音声出力を装備する形態のものを考慮してもよい。この場合、静止画等音声情報を持たない画像コンテンツについては、画像にふさわしい環境音を付加するような態様のものが考えられる。
【0069】
さらに、本実施形態では、図1に示すように奥行き推定データ生成装置1と、ステレオペア生成装置2と、ステレオ表示装置3とをハードウエアによって構成する場合について説明したが、本発明はハードウエアによって構成されたものに限定されるわけではなく、例えば、CPUと、そのCPUを前述のように動作させるためのコンピュータプログラムのソフトウェアによって奥行き推定データ生成装置1、ステレオペア生成装置2及びステレオ表示装置3の機能を達成するようにしても勿論よい。この場合、コンピュータプログラムは、記録媒体からコンピュータに取り込まれてもよいし、ネットワーク経由でコンピュータに取り込まれるようにしても良い。
【0070】
以上、本発明を一実施形態によって説明したが、上記実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するためのものであって、この発明の技術的思想は、構成物品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 奥行き推定データ生成装置
2 ステレオペア生成装置
3 ステレオ表示装置
11 マトリクス変換部
12 彩度平均値生成部
13 奥行き推定部
21 テクスチャシフト部
22 オクルージョン補償部
23 ポスト処理部
24 左目画像信号生成部
25 右目画像信号生成部
121 彩度算出部
122 積算部
123 正規化部
124 レジスタ
131 リーク型積分部
132 輝度信号変更値算出部
133 RB合成値算出部
134 ゲイン生成部
135 奥行き推定データ算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力映像信号の色差信号成分から彩度を算出し、前記彩度の平均値を求めて彩度平均値データを生成する彩度平均値生成部と、
前記入力映像信号の輝度信号成分と予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値を算出する輝度信号変更値算出部と、
前記入力映像信号のR成分が前記擬似立体画像の手前側に、前記入力映像信号のB成分が前記擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値を算出するRB合成値算出部と、
前記輝度信号変更値を補正するための輝度信号ゲインと前記RB合成値を補正するためのRBゲインとを前記彩度平均値データに基づいて生成するゲイン生成部と、
前記輝度信号変更値と前記輝度信号ゲインとの演算結果と前記RB合成値と前記RBゲインとの演算結果とを合成して、前記入力映像信号から擬似立体画像を示す信号を生成するための奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出部と
を備えていることを特徴とする奥行き推定データ生成装置。
【請求項2】
入力映像信号の色差信号成分から彩度を算出し、前記彩度の平均値を求めて彩度平均値データを生成する彩度平均値生成ステップと、
前記入力映像信号の輝度信号成分と予め設定された所定値との差分を求めて輝度信号変更値を算出する輝度信号変更値算出ステップと、
前記入力映像信号のR成分が前記擬似立体画像の手前側に、前記入力映像信号のB成分が前記擬似立体画像の奥側になるように合成したRB合成値を算出するRB合成値算出ステップと、
前記輝度信号変更値を補正するための輝度信号ゲインと前記RB合成値を補正するためのRBゲインとを前記彩度平均値データに基づいて生成するゲイン生成ステップと、
前記輝度信号変更値と前記輝度信号ゲインとの演算結果と前記RB合成値と前記RBゲインとの演算結果とを合成して、前記入力映像信号から擬似立体画像を示す信号を生成するための奥行き推定データを算出する奥行き推定データ算出ステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする奥行き推定データ生成プログラム。
【請求項3】
前記奥行き推定データを生成する請求項1に記載の奥行き推定データ生成装置と、
前記奥行き推定データと前記入力映像信号とを用いて、前記入力映像信号のテクスチャのシフトを対応部分の奥行きに応じた量だけ行うことによって擬似立体画像を表示するための別視点画像信号を生成するステレオペア生成装置と、
前記別視点画像信号と前記入力映像信号とを用いて擬似立体画像を表示するステレオ表示装置と
を備えていることを特徴とする擬似立体画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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