説明

好塩菌による木材糖化液を用いたポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)等の産生方法

【課題】木材糖化液は有効なポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)生産の資源になるにもかかわらず、木材糖化液に含まれるFuran類、酢酸、Phenol類などの発酵阻害物質をい
かに除去するかが問題となっており、木材糖化液の有効活用はされていなかった。
【解決手段】好塩菌による木材糖化液を用いたPHAs等の産生方法であって、前記好塩菌は木材糖化液を含む単一もしくは複数のpH8.8〜11の培地で増殖並びに乾燥菌体重量に対し
て50重量%以上のPHAsを産生するPHAs産生方法。及び無機塩と木材糖化液単一もしくは複
数の有機炭素源からなるpH8.8〜11の培地で増殖並びに乾燥菌体重量に対して50重量%以上のPHAsを産生する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材糖化液を用いた好塩菌による生分解性プラスチックであるポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)(PHAs)等の産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、微生物などの作用により例えば土壌中に埋めた状態で分解されるため、環境破壊を防止する観点から注目されている。生分解性プラスチックは、通常の難分解性プラスチックよりも価格が高く、性能の点で劣っていたが、これらの欠点についても解消されて実用化の段階に入っており、使用量の増大に合わせて生分解性プラスチックの量産技術が求められている。
【0003】
生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシアルカノエートは、ラルストニア属水素細菌、ラン藻、メタン資化細菌等広範囲の細菌により、ある種の栄養源(窒素やリンなど)が欠乏した条件で産生される。
【0004】
一方、好塩菌は、グルコースなどを主な炭素源とし、ペプトンや酵母エキスを少量含むpH7.5〜8.56の培地で菌体内に著量のPHBを蓄積することが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0005】
本発明者らは、好塩菌によるポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)産生方法及び好塩菌に関する発明(特許文献1、2)を提出し、アルカリ性条件下で、グリセロール等を炭素源として著量のPHAsを蓄積する生産方法及び好塩菌を発見し、出願した。
【0006】
本発明者らは、上記特許文献1、2において、pH8.8以上のアルカリ性、高濃度のナト
リウムを含む培地で良好に生育する好塩菌を分離、同定し、各種の炭素源を用いて菌体を培養し、PHAsの生産量を調べたところ著量のPHAsの蓄積を行うことが認めた。
【0007】
各種の炭素源とは、六炭糖(グルコース、フラクトース)、五炭糖(キシロース、アラビ
ノース)、二糖(スクロース)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール)、酢酸、酢酸
ナトリウム、エタノール、グリセロール、可溶性デンプン、n-プロパノール、プロピオン酸等であったことを上記の特許文献1、2にて開示している。
【0008】
一方、既知の文献において、多くの微生物において、グルコースが培地にあると他の糖が存在してもグルコースを優先的に代謝すること(グルコース代謝抑制)が知られているが(例えば、非特許文献3参照)、Halomonas菌においては、キシロースに対するグルコー
ス代謝抑制が認められないデータが特許文献1、2の中に示されている。
【0009】
一般に木材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成され、セルロースの糖化物は主に六炭糖のグルコース、キシロースの糖化物は、六炭糖のグルコースに加えて、五炭糖のキシロースやアラビノースが含まれる。それぞれの六炭糖、五炭糖からFuran類
が、ヘミセルロースからは酢酸が、リグニンからはPhenol類が形成され、それぞれ多くの微生物に対して生育阻害や発酵阻害することが知られている。(例えば、非特許文献4、5参照)
一方、特殊なコリネバクテリウムでは、上記のFuran類やPhenol類と共存してもエタノ
ール発酵を阻害しないことが知られていた。(例えば、非特許文献6参照)しかしながら、成長の促進効果は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願2007-248651
【特許文献2】WO/2009/041531
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Quillaguaman J.; Munoz M.; Mattiasson B.; Hatti-Kaul R. Appl Microbiol Biotechnol 2007 ; 74 ( 5 ) : 981-986
【非特許文献2】Quillaguaman J.; Hashim S.; Bento F.; Mattiasson B.; Hatti-Kaul R. J Appl Microbiol 2005 ; 99 ( 1 ) : 151-157
【非特許文献3】Voet著 Biochemistry3rd edition pp1239-1242
【非特許文献4】Bioresource Technology 74 (2000) 25-33 Eva Palmqvist 1, B arbel Hahn-H agerdal
【非特許文献5】Applied Microbiology and Biotechnology 66,No1, 10-26Inhibition of ethanol-producing yeast and bacteria by degradation products produced during pre-treatment of biomassH. B. Klinke, A. B. Thomsen and B. K. Ahring
【非特許文献6】Effect of Lignocellulose-Derived Inhibitors on Growth of and Ethanol Production by Growth-Arrested Corynebacterium glutamicum R Shinsuke Sakai, Yoshiki Tsuchida, Shohei Okino, Osamu Ichihashi, Hideo Kawaguchi, Takashi Watanabe, Masayuki Inui, and Hideaki Yukawa Appl. Environ. Microbiol. April 2007 73: 2349-2353
【非特許文献7】Fanny Monteil-Riveraa; Aimesther Betancourta; Huu Van Trab; Abdessalem Yezzaa; Jalal Hawaria: “Use of headspace solid-phase microextraction for the quantification of poly(3-hydroxybutyrate) inmicrobial cells” Journal of Chromatography A 2007;1154(1-2):34-41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、有望な炭素資源としてバイオエタノール等の生産に用いられている木材糖化液は有効なポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)生産の資源になるにもかかわらず、木材糖化液に含まれるFuran類、酢酸、Phenol類などの発酵阻害物質をいかに除去するかが
問題となっており、木材糖化液の有効活用はされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、単一の有機炭素源を基質とする場合において、好塩菌の増殖を中心とする工程と、PHAs蓄積を中心とする工程を、自動的、連続的に変換して行い、高価な複数種の有機炭素・窒素源を含むペプトンや酵母エキス等を与えなくても著量のPHAsが蓄積されることを見出していた。そこで、木材糖化液と無機塩を含むpH8.8〜11の培地においても、生育阻害、発酵阻害が起きず、逆に菌の生育、PHAs産生が促進されることをすること方法を提供するものである。
【0014】
項1
ハロモナス属に属する好塩菌を用いたポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)(PHAs)製造方法であって、好塩菌を無機塩、木材糖化液、および単一もしくは
複数の有機炭素源を含むpH8.8〜11の培地で培養することを特徴とするPHAs製造方法。
【0015】
項2
前記ポリヒドロキシアルカノエートがポリヒドロキシブチレート(polyhydroxybutyrate)(PHB)である、項1に記載の方法。
【0016】
項3
前記有機炭素源がn-プロパノール、プロピオン酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記ポリヒドロキシアルカノエートがヒドロキシブチレートとヒドロキシバレレート(polyhydroxyvalerate)(PHV)のコポリマーである、項1に記載の方法。
【0017】
項4
前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株(FERM BP-10995)である、項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の好塩菌による木材糖化液を用いたポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)等の産生方法によれば、PHAs生産に際し従来のようにペプトンや酵母エキス等の高価な有機炭素・窒素源を用いず、木材糖化液を単独もしくは複数の他の炭素源に追加した培地で、PHAsの蓄積を一段階の培養で、他のバクテリアのコンタミネーションが起こりにくい環境で行うことができる。
【0019】
本発明において、好塩菌は、ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を含む培地を用いることが生育に必須ではないため、例えば、安価な栄養塩に加え、エタノール発酵などの過程で生産される木材糖化液を単独もしくは他の炭素源に追加して用いることや、酵母によるエタノール発酵において利用が難しいため問題となっている五炭糖のキシロース、アラビノース等を有効に利用できるため、現状の遺伝子組換えをしていない酵母で木材糖化液をエタノール発酵した残渣または廃液(主にキシロースやアラビノースを含
む)を利用して、PHAs等の生産を行うことが可能である。
【0020】
また、木材糖化液を基質として用いるとヒドロキシブチレートのホモポリマーを形成するが、n-プロパノール又はプロピオン酸を有機炭素源として用いて培養すると、ヒドロキシブチレートだけでなくヒドロキシバレレート13%程度まで構成要素として含むコポリマーの作成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を各種炭素源で培養したときの菌体濁度OD600と培養時間を調べたグラフである。凡例に示す「%」はすべて、「w/v%」を示す(図2〜6においても同じ)。
【図2】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を各種炭素源で培養したときに蓄積されたPHBの割合(PHB/乾燥菌体)と培養時間を示したグラフである。
【図3】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を各種炭素源で培養したときに蓄積されたPHBの総量(g/L:PHB/培養液)と培養時間を示したグラフである。
【図4】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を、グルコース量5,8,10%と木材糖化液のサンプルで培養したとき、菌体濁度OD600と培養時間を調べたグラフである。
【図5】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を、グルコース量5,8,10%と木材糖化液のサンプルで培養したときに蓄積されたPHBの割合(PHB/乾燥菌体)と培養時間を示したグラフである。
【図6】好塩菌ハロモナス・エスピー KM-1株を、グルコース量5,8,10%と木材糖化液のサンプルで培養したときに蓄積されたPHBの総量(g/L:PHB/培養液)と培養時間を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好塩菌について
本発明の方法は、無機塩と木材糖化液を単独もしくは他の炭素源に追加した初期pH8.8
〜11の培地を用いて、ハロモナス属に属する好塩菌を培養することで実施することができる。該ハロモナス属に属する好塩菌は、前記培地中で乾燥菌体重量に対して、好ましくは50重量%以上のPHAsを産生することができる。
【0023】
ハロモナス属とは、0.2M以上1.0M程度までの塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。該ハロモナス属に属する好塩菌は、0.2M以上1.0M程度までの塩濃度を適とする好塩性を示す細菌である。
【0024】
当該ハロモナス属に属する好塩菌としては、ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を培養に必要としないものであり、pHが8.8以上、好ましくは8.8〜11で生育可能なものであって、前記培地中で乾燥菌体重量に対して50重量%以上のPHAsを産生すること
ができるものであれば特に限定されない。最も好ましいハロモナス属の好塩菌はハロモナス・エスピー(Halomonassp.) KM-1株である。当該ハロモナス・エスピー KM-1株は、無機塩と単一の有機炭素源からなり、pHが8.8以上、好ましくは8.8〜11の培地で培養でき、当該培地中で乾燥菌体重量に対して50重量%以上のPHAsを産生することを特徴とする。
【0025】
当該ハロモナス・エスピー KM-1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術
総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。
【0026】
ハロモナス・エスピー KM-1株以外の当該好塩菌の具体例としては、例えば16SリボゾームRNA配列による分析から、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリ
アなどが挙げられる。
【0027】
尚、上述した細菌と同様の性質を有するハロモナス属に属する好塩菌であれば、ハロモナス・ニトリトフィルスや、ハロモナス・エスピー KM-1等に限らず、本発明の好塩菌に
よるPHAs産生方法を適用できる。
【0028】
PHAs産生方法について
(a)培地
本発明における、好塩菌の培養は、無機塩と木材糖化液を単独もしくは複数の他の炭素源に追加した初期pH8.8〜11の培地で行うことができる。
【0029】
当該無機塩としては、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、及びナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。ナトリウムを含む培地成分としては、NaCl、NaNO3、NaHCO3等が挙げられる。当該無機塩は複数で
あってもよく、これらの無機塩は、菌体における窒素源やリン源となるものが含まれる。当該無機塩の濃度は、総量で0.2〜2.5M、好ましくは0.2〜1.0M、より好ましくは0.2〜0.5
M程度である。
【0030】
木材糖化液に加える有機炭素源としては、六炭糖(グルコース、フラクトース)、五炭糖(キシロース、アラビノース)、二糖(スクロース)、糖アルコール(マンニトール、ソルビ
トール)、酢酸、酢酸ナトリウム、エタノール、グリセロール、可溶性デンプン、n-プロ
パノール、プロピオン酸等が挙げられ、好ましくは、酢酸ナトリウム、エタノール、n-プロパノール、プロピオン酸、グルコース、キシロース、グリセロール、スクロースである。より好ましくは、グルコースである。
【0031】
本発明の方法にて用いる木材糖化液は、硫酸法、酵素法など各種糖化法によって製造され、原料も広葉樹、針葉樹いずれもその利用に耐える。 具体的な広葉樹の例としてはユ
ーカリ、ポプラ、ナラ、ブナなどがあり、好ましくはユーカリ、ナラである。具体的な針葉樹の例としては、スギ、ヒノキ、カラマツ、ダグラスファー(米松)などがあり、好ましくはカラマツ、ダグラスファーである。
本発明にて木材糖化液の原料として用いる至適木材の主要構成成分はセルロースであるが、結晶構造を持つ強固な構造の物質であり、同じグルコースのポリマーであるデンプンなどと比較して分解が難しい。
【0032】
本発明の方法にて用いる木材糖化液の作製法としては、上記木材を酸などで化学的に分解する酸分解法と、酵素によって分解する酵素分解法があげられる。ここで、酵素コストが高いことから、酸分解法の方が現実的な選択と考えられるが、酸分解法には、糖の過分解と発酵阻害物質の生成、装置に高価な耐酸性材料を使用する必要性、廃酸の回収・処理等、酸を使用する以上、不可避な欠点が存在することが問題となっている。
【0033】
本発明の木材糖化液作製方法においては、酵素分解法を用いることが望ましい。酵素分解法に用いる酵素としては、セルラーゼが好適に用いられる。セルラーゼの由来は、アクレモニウム属由来、トリコデルマ属由来、アスペルギルス属由来のセルラーゼなどが挙げられる。より好ましくはアクレモニウム属由来のセルラーゼである。
【0034】
本発明の木材糖化液作製方法において用いる酵素は、セルラーゼのみならず、他の酵素が含まれていても良いものとする。例えば、ヘミセルラーゼなどの木材に含まれる糖鎖を分解する他の酵素などが挙げられる。
【0035】
酵素分解法において、反応にかかる時間は5〜120時間が挙げられ、より好ましくは24〜72時間である。また、反応温度は用いる酵素の活性至適温度の範囲内であれば良いものとし、酵素反応において使用する緩衝液のpHは、用いる酵素の活性至適pHの範囲内であれば問題はない。
【0036】
本発明にて木材糖化液の作製時に原料として用いる木材中には、セルロースが存在し、このセルロースはリグニン、ヘミセルロースによって保護されているため、上記の酵素を直接加えてもほとんど反応は起きない。このため、この保護を外して酵素を反応させやすくするための前処理が行ったほうが好ましい。
【0037】
上記の前処理には、酸を加えて高温、高圧で処理する酸処理法、水だけで高温、高圧処理を行う水熱処理法、原料を物理的に微小粒子に破砕する粉砕処理法、エタノールなどの有機溶媒で処理するオルガノソルブ法などの処理法が挙げられるが、本発明において好ましい方法は微粉砕処理である。微粉砕処理は、原料の種類を選ばず、少ない酵素量でも高い糖化率が得られる、優れた前処理法である。
【0038】
上記の微粉砕処理には、ディスクミル、カッターミル、ボールミルを用いた方法が挙げられ、好ましくはボールミルを用いた方法である。ここで、木材の微粉砕処理は、粒径が10〜1000μmの範囲大きさに粉砕されればよく、好ましくは10〜100μm、より好ましくは10〜50μmの範囲に粉砕されていればよい。
【0039】
本発明において、微粉砕処理に供する原料の木材は、予め木材チップの形状に加工されていても良い。他に、木粉、おがくず、の形状に加工された木材原料を用いることも可能である。
【0040】
上述した方法によって作製した木材糖化液を、酵母菌などによるエタノール発酵などの用途に供し、後に得られるキシロースなどの五炭糖が多く含まれている残渣または廃液を、本発明のPHAs作成の方法における木材糖化液として用いることも可能である。前記の残
渣中または廃液中にエタノールなどのアルコール成分が含まれていても、本発明を実施するにあたって問題となることはない。
【0041】
本発明において、木材糖化液に加える有機炭素源がn-プロパノール、プロピオン酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であるとは、有機炭素源としてこれらを含み、木材糖化液に加えて他の有機炭素源が含まれていてもよいことを意味する。
【0042】
当該培地は、無機塩と有機炭素源以外の成分を一部含んでいてもよく、そのような成分としては、例えば木材糖化液の場合、六炭糖、五炭糖からのFuran類、ヘミセルロースか
らの酢酸、リグニンからはPhenol類が夾雑物として含まれていてもよい。当該培地のpHは、5以上、菌種により好ましくは8.8以上、特に8.8〜11であればよい。
【0043】
本発明の方法において、培地に含まれる木材糖化液の割合は、培地に対して20〜50%(w/v)が挙げられる。
【0044】
本発明の方法は、アルカリ条件かつ塩濃度の高い条件の培地で、好塩菌を培養するため、他のバクテリアのコンタミネーションの恐れがほとんどなく、また安価な木材糖化液や、その残渣を用いて培養が行えるため、低コストでの培養が可能となる。
【0045】
(b)培養方法
本発明の好塩菌を培養する方法としては、PHAsが生産される方法であれば特に制限されないが、培養の例を以下に挙げる。
【0046】
本発明の好塩菌を用いた、PHAsの産生において、菌の培養環境は好気条件下が望ましい。
【0047】
ハロモナス・エスピー KM-1株を含むハロモナス属に属する好塩菌は、5 ml程度の培地
に植菌し、30〜37℃程度、攪拌速度120〜180rpmで1晩振盪前培養される。
【0048】
前培養した菌体を、三角フラスコ、発酵槽等に入った培地中に100〜1000倍程度に希釈
し本培養する。本培養は20〜45℃で可能であるが、好ましくは30〜37℃で行う。
【0049】
必要な培養時間は、培地の条件により異なるが、培地の条件により最適な培養時間を適宜設定すれば、乾燥菌体重量あたり50重量%以上のPHAsを生産できる。
【0050】
(c)PHAs
本発明で産生されるPHAsの含有量は乾燥菌体に対し50重量%以上である。
より好ましくは50〜75%である。最も好ましくは60〜75%である。
【0051】
本発明で産生されるPHAsの数平均分子量は100000〜1000000である。
【0052】
本発明により生産されるPHAsは、ヒドロキシアルカノエート単位からなるポリマーであり、ヒドロキシアルカノエートの具体例としては、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート等が挙げられる。また、有機炭素源として木材糖化液を単独で用いて作成したPHAsは、すべて同じヒドロキシブチレートから構成されるホモポリマーであることが多い。
【0053】
n-プロパノール、プロピオン酸又はその塩を有機炭素源として培養することで、ヒドロキシブチレートとヒドロキシバレレートからなるPHAsコポリマーを産生できる。PHAsコポリマーに含まれるヒドロキシバレレートの含有量は、0.5〜13重量%であり、好ましくは5〜13重量%である。
【0054】
菌体中に蓄積されたPHAsは、例えば菌体を破砕後、トリクロロエチレンで抽出するなどの常法に従い回収することができる。具体的には、非特許文献7に記載された方法が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明が実施例に限定されないことは言うまでも無い。
【0056】
本実施例では、木材糖化液を用いて、微生物により産生される脂肪族ポリエステル系生分解性プラスチックであるポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)を産生する方法について詳述する。
【0057】
使用した培地として、SOT改3(Spirulina platensis Medium改)を用いた。
この培地は、下記の表1に示す組成に従い、作成した。本実施例においては、SOT3改培地に、1.0gの酢酸ナトリウム・3水和物を加えた。下記の培地調整後のpHは、9.4±0.1とな
る。
【0058】
【表1】

【0059】
<木材糖化液の調整>
米松(ダクラスファー、針葉樹)、ユーカリ(広葉樹)の木材チップをボールミルによる微粉砕処理(2時間)を行い、処理物に乾燥重量1g当たり20 FPU のアクレモニウムセルラー
ゼ(明治製菓)を加え、pH 5.0 の50 mM 酢酸バッファー中で、45℃で48時間反応させて、
酵素糖化を行った。
糖化産物の組成は以下の表2の通りである。
【0060】
【表2】

【0061】
<PHAs蓄積率測定>
菌体内に蓄積されたPHAsの蓄積量を測定するため、非特許文献7に記載の手法を用い以下の実験を行った。
【0062】
上記培養した培養液を遠心分離して菌体のみ採取し、蒸留水で数回洗浄したのち乾燥させた。この乾燥菌体1〜3 mgに、3vol%のH2SO4を含むメタノール0.2 mlを加え105℃で2時
間加熱した。その後、室温まで冷却した後、クロロホルム0.2 ml、蒸留水0.1 mlを加え、激しく攪拌した。1分間遠心分離したのち、クロロホルム層を2 μl分取し、ガスクロマトグラフ装置を用いて、PHAsを分析した。ヒドロキシブチレートの標品を乾燥菌体と同様に処理、分析し、これを基準として乾燥菌体あたりのPHAs蓄積率(PHAs(g)/乾燥菌体重量(g))を求めた。
<PHAs産生菌ハロモナス・エスピー KM-1株のプレ培養>
プレート培養より、16.5 mm径の試験管に5mlの上記SOT3改培地(グルコース等の炭素源
を1 w/v%を含む)を加え、37℃で1晩振盪培養した。
【0063】

<PHAs産生菌ハロモナス・エスピー KM-1株の培養、サンプルの回収など>
プレ培養した菌体0.1 mlを、100 ml容の三角フラスコに入れた上記SOT3改培地20 mlに
混合して植菌し、シリコセンをした。これを、30℃で振盪培養し、12時間後より、およそ12時間おきに培養液を1 ml回収して、OD600、乾燥菌体重量、及びPHB含有量を測定した。培養液は、再度シリコセンをし、30℃で振盪培養を継続し、培養した。
【0064】
プレテストとして、ユーカリ、米松それぞれの糖化液に、上記の培地の栄養塩をそのまま加えて小スケール(5ml試験管)で60時間培養したところ、すべてOD600=10.0以上まで生
育した。
<木材糖化液を含む培地を用いたPHAsの生産>
SOT3改培地に、炭素源として一般的なグルコースと木材糖化物を加えて培養を行った。調整したサンプルは以下の表3の通りである。
【0065】
【表3】

【0066】
上記のサンプルを加えた後の培地におけるpHはおよそ8.9であった。
【0067】
図1では、45時間以降においては、有機炭素源としてグルコース5%と比較して、グルコースに木材糖化物を加えたサンプルの濁度が濃く、菌体がより生育していることが示されている。
【0068】
図2では、45時間以降においては、有機炭素源としてグルコース5%と比較して、グルコースに木材糖化物を加えたものが、50%以上のPHB量を示し、グルコースに比べ、PHBの蓄
積の割合も向上、促進されていることをしめしている。
【0069】
図3では、グルコース5%のものに比べ、ユーカリ糖化物を加えたもののPHB蓄積総量は
さほど差はないが、特に米松糖化物を加えたについては、グルコース単独に比べ45時間での比較において20%以上PHB蓄積総量が多く、木材糖化液がPHBの蓄積を促進していること
を示している。
図4では、図1の条件で、グルコース8%、及び10%を生育させた場合を示している。いずれの場合のグルコース5%に比べ、8%、及び10%のものが、少し生育が悪いことが示されてい
る。
【0070】
図5では、図2の条件で、グルコース8%、及び10%を生育させた場合を示している。い
ずれの場合のグルコース5%に比べ、8%、及び10%のものが、少しPHB蓄積の割合が低くなっていることが示されている。
【0071】
図6では、図2の条件で、グルコース8%、及び10%を生育させた場合を示している。い
ずれの場合のグルコース5%に比べ、8%、及び10%のものが、少しPHB蓄積総量が低くなっていることが示されている。
【0072】
グルコース総量としては、木材糖化サンプルとグルコース5%のものは、グルコース8%等とほぼ等しいが、木材糖化サンプルを含むものの方が、生育が著しく良好で、木材糖化サンプルに生育を促進する効果があることが示されている。
【0073】
上記結果から木材糖化物を含む初期pHが8.8以上の培地で、ハロモナス・エスピー KM-1株による乾燥菌体あたり50%以上のPHBの産生が確認された。そのため、低コストで、他のバクテリアのコンタミネーションが起こりにくい環境で行うことができる。PHBの産生が
一連の菌体増殖の中で行われるため、一段階の培養でのPHBの産生が可能であることも分
かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の好塩菌による木材糖化液を用いたポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)等の産生方法は、プラスチック原料のバイオベース化において工業的なPHAsの産生に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロモナス属に属する好塩菌を用いたポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)(PHAs)製造方法であって、好塩菌を無機塩、木材糖化液、および単一もしくは
複数の有機炭素源を含むpH8.8〜11の培地で培養することを特徴とするPHAs製造方法。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエートがポリヒドロキシブチレート(polyhydroxybutyrate)(PHB)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機炭素源がn-プロパノール、プロピオン酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記ポリヒドロキシアルカノエートがヒドロキシブチレートとヒドロキシバレレート(polyhydroxyvalerate)(PHV)のコポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記好塩菌がハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株(FERM BP-10995)である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−50337(P2011−50337A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203364(P2009−203364)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】