説明

妊娠及び授乳中の母体の栄養における長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)

本発明は、一般に母体用食品組成物に関する。特に、本発明は、LC−PUFAを含む母体用食品組成物、及びその使用に関する。本発明の実施形態は、脂質源を含む母体用食品組成物であって、脂質源が、リン脂質(PL)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、N−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)又はそれらのリゾ誘導体からなる群から選択される形態の少なくとも1種のLC−PUFAを含む、母体用食品組成物、並びに新生児の脳の発達及び目の発達におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、母体用食品組成物に関する。特に、本発明は、LC−PUFAを含む母体用食品組成物及びその使用に関する。
【0002】
ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)は、ヒト中枢神経系の高度に特化された膜脂質の重要な構造成分である。DHAは、網膜桿体及び網膜錐体の外節における主な長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)であり、そこでDHAは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)及びホスファチジルセリン(PS)中の脂肪酸の50%程度、並びに総多価不飽和脂肪酸の80%程度を構成できる。
【0003】
これらの膜は、光の高速透過のために特殊化されており、リン脂質のような脂質を90%〜95%含有している。リン脂質は、アシル基がいずれもDHAである、独特のPE種、PS種及びホスファチジルコリン(PC)種を含有している。
【0004】
脳の重量の約10%及び脳の乾燥重量の50%は、脂質に相当する。これらの脂質の約半分はリン脂質であり、コレステロールは約20%、セレブロシドは15%〜20%、スルファチド及びガングリオシドはより少量である。
【0005】
脳灰白質のリン脂質は、PE及びPS中にDHAを高比率で、且つホスファチジルイノシトール(PI)中にアラキドン酸(ARA)を大量に含有している。
【0006】
妊娠は、神経構造における脂肪酸プロファイルの調節に関して、人生の中で非常に敏感な期間である。母体血漿リン脂質中の総脂肪酸量は、妊娠中51%増加し、ARA及びDHAの絶対量は、各々23%及び52%増加することが報告された(Al等、Am J. Clin Nutr 2000)。最近、妊娠中、DHAが、ホスファチジルコリン中で最も高度に強化される、即ち約230%になることが報告された(Burdge等、Reprod. Nutr. Dev 2006)
【0007】
DHA及び他の重要なLC−PUFAは、理論的には、それらの前駆体であるリノール酸(LA)及びαリノール酸(ALA)から生合成できる。しかし、動物は、これらの2つの前駆体、所謂必須脂肪酸を合成できず、したがってこれらの化合物を食事から摂取しなければならない。
【0008】
体内のDHA量を増加させ、DHAのプラス効果を維持するために経口消費される多数の製剤が現在市販されている。例えば、魚油は、子供の成長を維持するために、しばしば子供に投与される。
【0009】
最近、DHAの食事形態は、脳に対するDHAを特に標的とするための決定因子となると思われることが判明した(図1参照)。例えば、ドコサヘキサエノイルPC又はそのリゾ誘導体は、脳に対するDHAの好ましい担体形態であることが示された(Lagarde等、J. Lipid Res. 1999; Thies等、Am. J. Physiology 1994)。
【0010】
しかし、現在入手できる製剤は全て、治療されるべき個人により消費される必要がある。これは、DHAでその栄養素を補給する意思がある個人が、当該製剤を独立に消費できなくてはならないことを意味する。これは、当然ながら、胎児及び新生児を排除している。
【0011】
できるだけ生後間もなく、例えば胎児、又は母体からの授乳期中の子供にも、DHAの補給を可能にする製剤が利用可能であることが望ましいであろう。しかし、最近、ALA及びLAの補給は、母体及び新生児のLC−PUFA濃度を増加させないことが示された(de Groot等、Am J. Clin Nutr 2004)。
【0012】
本発明は、この必要性に対処するものであった。したがって、本発明の目的は、技術水準を向上させ、妊娠及び授乳中母体に投与でき、新生児のDHA量を増加させ、例えば新生児の脳及び網膜の発達を支持する製剤を当技術分野にもたらすことであった。
【0013】
発明者等は、驚くべきことに、この目的が、独立請求項の主題により解決できることを見出した。従属請求項は、本発明を更に発展させている。
【0014】
本発明は、幼児の成長中、脳及び/若しくは網膜でのDHAの取り込み及び/又は増加を可能にする。DHA又はその前駆体の食用源は、消費後、子宮内にいる間及び幼児の初期発達中に脳及び網膜内におけるDHAの増加を保証することが特定された。
【0015】
発明者等は、驚くべきことに、本発明の母体用食品組成物が、幼児に直接投与された場合に有効なだけでなく、母体に投与された場合も有効であることを認識した。この認められた効果により、自ら食品を消費できない幼児及び胎児を治療できる。
【0016】
本発明の母体用食品組成物は、ヒト母体により消費されることが主として意図されているが、本発明の母体用食品組成物を、ヒト以外の哺乳動物、特にコンパニオンアニマル、ペット及び/又は家畜に同様によく施すことができる。
【0017】
したがって、本発明の一実施形態は、脂質源を含む母体用食品組成物であって、脂質源が、リン脂質(PL)、PC、PE、N−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)、PI及びPSからなる群から選択される形態の少なくとも1種のLC−PUFAを含む、母体用食品組成物である。
【0018】
母体用食品組成物は、妊娠及び/又は授乳中に母体により消費される食品組成物である。
【0019】
LC−PUFAは、ARA、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群から選択されることが好ましい。
【0020】
DHAは、例えばヒト中枢神経系、並びに網膜桿体及び網膜錐体の外節において主として見出されるLC−PUFAであるため、特に好ましい。しかし、DHAをそのままではなく、ALA、ステアリドン酸、n−3エイコサトリエン酸、n−3エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)又はn−3ドコサペンタエン酸等の前駆体の形態で提供することが好ましい場合もある。これは、体が、必要に応じて、要求に基づきDHAを生成できる利点がある。したがって、体は、確実に最適なDHAの供給を行うことができる。
【0021】
妊婦のDHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAの1日量は、好ましくは100〜500mgの間、より好ましくは200〜400mgの間である。したがって、組成物中のDHA、アラキドン酸、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAの量は、1日1回又はより頻繁に消費されることが意図されているかどうかに応じて適宜選択できる。例えば、1日1回消費されることが意図された組成物は、DHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAを200mg含有し得る。
【0022】
例えばDHA含有リン脂質の形態のLC−PUFA内容物は、動物由来の、特にオキアミ油、エビ油、又は、頭、内臓、若しくは魚卵レシチン等の魚副産物から得られる油、又は、卵レシチン、又は、化学的若しくは酵素的に合成されたLC−PUFA含有レシチン等のLC−PUFA含有レシチンからの、PL源の形態で提供できる。
【0023】
オキアミ油は、例えば、PC−DHA及び他のPC−LC−PUFAの市販されている源を代表するものであり、脳及び網膜の発達を維持するのに効率的であろう。典型的なオキアミ脂質抽出物は、リン脂質含量が30〜45%の範囲であり、PCが主な部類である(図2参照)。
【0024】
母体用食品組成物は、LC−PUFA源中の脂質の0.1〜50%の間の量で、DHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAを含有するリン脂質からなる群から選択される形態のLC−PUFAを含むことが好ましいだろう。
【0025】
DHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAを含有するリン脂質の形態の食品組成物中のLC−PUFA含量は、全食品組成物の熱量の約0.1〜50%となり得る。
【0026】
組成物は、妊娠第2期が、さらに妊娠第3期での補給が特に有利であると考えられるが、DHAの母体貯蔵を増加させるために妊娠全期を通して摂取されることが好ましい。
【0027】
同様に、補給は、出産後、例えば乳児に母乳が与えられる場合、母体による組成物の継続的な消費を介して継続できる。
【0028】
本発明の組成物は、例えば乳児に与えるために使用する乳児用調合乳に本発明の組成物を含有させることにより乳児に直接投与できる。乳児用調合乳中の適切なDHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAの含量は、調合乳中の総脂肪酸の0.2〜0.8重量%の間の範囲である。
【0029】
請求項1に記載の食品組成物は、プロバイオティクスを更に含むことができる。
【0030】
「プロバイオティクス」とは、宿主の健康や福祉に対して有益な効果を有する微生物細胞調製物又は微生物細胞成分を意味する(Salminen S、Ouwehand A. Benno Y.等、「Probiotics: how should they be defined」Trends Food Sci. Technol. 1999:10 107〜10)。
【0031】
妊娠及び授乳中の母親は、生理学的及び心理学的の両方で通常有意な量のストレスを受けているため、母体の健康と福祉に対するプロバイオティクスのプラス効果が、母体と成長過程の幼児の両方のために所望され得る。
【0032】
特に、適切なプロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)及びサッカロミセス(Saccharomyces)又はそれらの混合物からなる群から選択でき、特に、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ストレプトコッカス フェシウム(Streptococcus faecium)、サッカロミセス ブーラジ(Saccharomyces boulardii)及びラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)又はそれらの混合物からなる群から選択でき、好ましくは、ラクトバチルス ジョンソニイ NCC533(CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム ロンガム NCC490(CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム ロンガム NCC2705(CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム ラクティス Bb12、ビフィドバクテリウム ラクティス NCC2818(CNCM I−3446)、ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)NCC2461(CNCM I−2116)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GG、ラクトバチルス ラムノサスNCC4007(CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium)SF68(NCIMB10415)及びそれらの混合物からなる群から選択できる。
【0033】
本発明による食品組成物は、タンパク質源及び/又は炭水化物源、場合によりミネラル源、ビタミン源及び/又は抗酸化物質源を更に含むことができる。
【0034】
これらの成分の存在は、数多くの利点を有し得る。これらの成分により、例えば本発明の組成物を、母体の正しい栄養補給を確実にする完全栄養製剤の形態で提供できよう。タンパク質及び炭水化物の存在は、組成物の味にも寄与し得る。更なる脂質源を取り込むこともできる。
【0035】
本発明の食品組成物は、例えば食品添加物、栄養補強食品又は薬剤であってよい。一実施形態において、食品組成物は、栄養組成物である。栄養組成物は、例えば栄養学的に完全な製剤、栄養サプリメント、乳製品等の食品、チルド若しくは貯蔵安定性のある飲料若しくはスープ、食事サプリメント、食事代替物又は栄養バーであってよい。
【0036】
タンパク質源として、任意の適切な食事タンパク質は、例えば動物タンパク質(例えば、乳タンパク質、肉タンパク質及び卵タンパク質)、植物タンパク質(例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質及び豆タンパク質)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組合せを使用できる。乳タンパク質、例えばカゼイン及びホエー、並びに大豆タンパク質が特に好ましい。組成物は、炭水化物源及び脂肪源も含有できる。
【0037】
組成物が、DHA、ARA、エイコサトリエン酸、EPA及び/又はDPAに加えて脂肪源を含む場合、脂肪源は、組成物、例えば製剤の、エネルギーの5%〜40%、例えばエネルギーの20%〜30%となることが好ましい。適切な脂肪プロファイルは、キャノーラ油、トウモロコシ油及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンドを用いて得ることができる。
【0038】
炭水化物源を加えてもよい。炭水化物源は、組成物、例えば製剤のエネルギーの40%〜80%となることが好ましい。任意の適切な炭水化物、例えばスクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン及びそれらの混合物を使用できる。所望される場合、食物繊維を加えてもよい。食物繊維は、酵素で消化されずに小腸を通過し、天然の膨張性薬剤及び下剤として機能する。食物繊維は、可溶性であっても、又は不溶性であってもよく、一般に、2種類のブレンドが好ましい。食物繊維の適切な源は、大豆、豆、オート麦、ペクチン、グアーガム、アラビアガム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース及び動物乳由来のオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンと短鎖フラクトオリゴ糖との混合物である。繊維が存在する場合、繊維含量は、消費される製剤の10〜40g/lの間であることが好ましい。
【0039】
組成物は、USRDA等の政府機関の推奨に基づき微量元素及びビタミン等のミネラル及び微量栄養素も含有できる。例えば、組成物は、1日量当たり、以下の微量栄養素の1種又は複数を所与の範囲で含有できる:カルシウム−300〜500mg、マグネシウム50〜100mg、リン150〜250mg、鉄5〜20mg、亜鉛1〜7mg、銅0.1〜0.3mg、ヨード50〜200μg、セレン5〜15μg、βカロテン1000〜3000μg、ビタミンC 10〜80mg、ビタミンB1 1〜2mg、ビタミンB6 0.5〜1.5mg、ビタミンB2 0.5〜2mg、ナイアシン5〜18mg、ビタミンB12 0.5〜2.0μg、葉酸100〜800μg、ビオチン30〜70μg、ビタミンD 1〜5μg、ビタミンE 3〜10μg。
【0040】
所望される場合、1種又は複数の食品等級の乳化剤、例えば、ジアセチル酒石酸エステルモノグリセリド及びジグリセリド、レシチン並びにモノグリセリド及びジグリセリドを使用してもよい。同様に、適切な塩及び安定化剤が含まれていてもよい。
【0041】
本発明の食品組成物が、栄養学的に完全な製剤である場合、本発明の食品組成物は任意の適切な方式で調製できる。例えば、本発明の食品組成物は、タンパク質、炭水化物源、及び適切な比率でDHAを含む脂肪源を一緒にブレンドすることによって調製できる。乳化剤を使用する場合、この時点で含めることができる。ビタミン及びミネラルをこの時点で加えてもよいが、熱分解を回避するために通常後で加える。任意の親油性ビタミン、乳化剤等を、ブレンド前に脂肪源に溶解させてもよい。次いで、水、好ましくは逆浸透を行った水を混合して、液体混合物を形成できる。水の温度は、原料の分散を補助するために約50℃〜約80℃であることが好都合である。市販されている液化装置を使用して液体混合物を形成できる。次いで、液体混合物を、例えば2段階で、均質化する。
【0042】
次いで、液体混合物を、例えば約80℃〜約150℃の範囲の温度まで約5秒〜約5分間急加熱することにより、液体混合物を熱処理して細菌負荷を減少できる。これは、蒸気注入器、オートクレーブ又は熱交換器、例えばプレート熱交換器により行うことができる。
【0043】
次いで、液体混合物を、例えばフラッシュ冷却により約60℃〜約85℃まで冷却できる。次いで、液体混合物を、例えば第1段階では約10MPa〜約30MPa及び第2段階では約2MPa〜約10MPaの2段階で再び均質化できる。次いで、均質化した混合物を更に冷却して、任意の熱に弱い成分、例えばビタミン及びミネラルを加えることができる。均質化した混合物のpH及び固形分は、この時点で調節されることが好都合である。
【0044】
粉末製剤を製造することが所望される場合、均質化した混合物を適切な乾燥装置、例えばスプレー乾燥機又は凍結乾燥機に移し、粉末に変換する。粉末は、含水量が約5重量%未満でなくてはならない。
【0045】
液体製剤を製造することが所望される場合、均質化した混合物を予熱し(例えば約75℃〜85℃)、次いで蒸気を均質化した混合物に注入して、温度を約140〜160℃まで、例えば約150℃に上昇させることにより、均質化した混合物を適切な容器に無菌充填することが好ましい。次いで、均質化した混合物を、例えばフラッシュ冷却により約75〜85℃の温度まで冷却できる。次いで、均質化した混合物を、均質化し、ほぼ室温まで更に冷却し、容器に充填することができる。この種の無菌充填を行うのに適した装置は、市販されている。液体組成物は、約10〜約14重量%の固形分を有するすぐに供給できる製剤の形態であっても、又は通常約20〜約26重量%の固形分の濃縮物の形態であってもよい。
【0046】
本発明の食品組成物が食品サプリメントである場合、例えば、錠剤、カプセル、トローチ又は液体の形態であってよい。サプリメントは、保護親水コロイド(例えば、ガム、タンパク質、変性デンプン)、バインダー、フィルム形成剤、カプセル化剤/物質、壁/殻物質、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチン等)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤及び抗菌剤を更に含有できる。サプリメントは、それだけに限らないが、水、任意の起源のゼラチン、植物性ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、フレーバー剤、保存料、安定化剤、乳化剤、バッファー、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤等を含む、従来の医薬品添加物及びアジュバント、賦形剤並びに希釈剤も含有できる。
【0047】
本発明の食品組成物は、例えば乳若しくは水で再構成するための粉末濃縮若しくは液体濃縮物、固体生成物又はすぐに飲める飲料の形態で、経腸的に投与可能であることが好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態は、脂質源を含む母体用食品組成物であって、脂質源が、新生児の脳の発達を促進するためにPL、PC、PE、N−NAPE、PI、PS又はそのリゾ誘導体からなる群から選択される形態の少なくとも1種のLC−PUFAを含む、母体用食品組成物である。
【0049】
本発明は、脂質源を含む母体用食品組成物であって、脂質源が、新生児の脳の発達遅延を治療又は予防するためにPL、PC、PE、N−NAPE、PI、PS及び/又はそのリゾ誘導体からなる群から選択される形態の少なくとも1種のLC−PUFAを含む、母体用食品組成物にも関する。
【0050】
したがって、本発明は、新生児の脳の発達を促進するために妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、上に記載の母体用食品組成物の使用にも関する。
【0051】
更に、本発明は、新生児の脳の発達遅延を治療又は予防するために妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、上に記載の母体用食品組成物の使用にも関する。
【0052】
本発明の母体用食品組成物は、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される場合、新生児にとって幾つかの更なる利点ももたらす。
【0053】
本発明の母体用食品組成物は、例えば、母乳中のDHA量を増加させるため、新生児の目の発達を増進するため、新生児の網膜中のDHAの増加を増進するため、新生児の脳グリア細胞PS中のDHAの長期的増加を増進するため、新生児の血漿及び/若しくは赤血球中のDHA量を増加させるため、並びに/又は、母体の血漿及び/若しくは赤血球中のDHA量を増加させるために有用であることが判明した。
【0054】
したがって、本発明は、新生児の脳内のDHAの増加を増進するため、及び/又は、母乳中のDHA量を増加させるための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用にも関する。
【0055】
更なる実施形態は、新生児の目の発達を増進するための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0056】
更なる実施形態は、新生児の目の発達遅延を治療又は予防するための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0057】
更なる実施形態は、新生児の網膜中のDHAの増加を増進するための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0058】
更なる実施形態は、新生児の網膜中のDHAの増加障害を治療又は予防するための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0059】
更なる実施形態は、新生児の脳グリア細胞PS中のDHAの長期的増加を増進するため、並びに/又は、新生児の血漿及び/若しくは赤血球中のDHA量を増加させるための、妊娠及び/若しくは授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0060】
更なる実施形態は、母体の血漿及び/又は赤血球中のDHA量を増加させるための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用である。
【0061】
本発明は、母体の血漿及び/又は赤血球中の低すぎるDHA量を治療又は予防するための、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される本発明の母体用食品組成物の使用にも関する。
【0062】
本明細書に記載の任意の特徴は、開示された本発明の範囲から逸脱することなく自由に組み合わせることができることが、当業者には明らかである。特に、本発明の組成物について示された全ての特徴が、本発明の使用に適しており、逆の場合も同じである。
【0063】
本発明の更なる特徴及び利点は、以下の実施例及び図から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、脳内の食事性PC−DHAからのDHAの好ましい取り込みを示す図である(略語:GIは胃腸管及びBBBは血液脳関門)。
【図2】図2は、(A)リン脂質類の分布及び(B)ホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸組成を示す。
【図3】図3は、研究設計図である。
【図4】図4は、対照飼料(青棒)、DHA−TG飼料(黄棒)又はDHA−PL飼料(赤棒)を与えた雌から母乳を摂取した子犬の胃内容物中のDHA量を示す。
【図5】図5は、対照飼料(青棒)、DHA−TG飼料(黄棒)又はDHA−PL飼料(赤棒)を与えた雌から母乳を摂取した子犬の14日目、21日目の網膜中のDHA量を示す。21日目以降、新生児は3カ月間対照飼料を摂取し、データを最後のパネル(右側)に報告する。
【図6】図6は、対照飼料(青棒)、DHA−TG飼料(黄棒)又はDHA−PL飼料(赤棒)を与えた雌から母乳を摂取した子犬に対して21日目に行われたフリッカー(Flicker)網膜電図(ERG)試験の結果を示す。
【図7】図7は、対照飼料(青棒)、DHA−TG飼料(黄棒)又はDHA−PL飼料(赤棒)を与えた雌から母乳を授乳した子犬の14日目、21日目のPE及びPS脳グリア細胞中のDHA量を示す。21日目以降、新生児は3カ月間対照飼料を摂取し、データを最後のパネル(右側)に報告する。
【実施例】
【0065】
A.研究設計
A.1.飼料
3つの異なる飼料を使用して、妊娠及び/又は授乳期中の母獣に与えた。基本的なマクロ栄養素の分布は、これらの異なる飼料全てで同じであった(図1参照)。対照飼料は、DHA又は他のLC−PUFAを含有していなかったが、DHA−TG群及びDHA−PL群は、トリアシルグリセロール(TG)(魚油)又はリン脂質(PL)(オキアミ油)としてこれらの異なる飼料に加えられたDHAを同量含有していた。オキアミ油において、DHAは、リン脂質、主にホスファチジルコリンに結合する。離乳期後(生後21日目)、全ての新生児にDHAを含まない飼料が与えられた。成育飼料の組成を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
A.2.研究設計
スプラーグドーリー(Sprague Dawley)ラットを、光(点灯7:00AM〜7:00PM)、温度(22±1℃)及び湿度(55〜60%)の制御された条件下で10日間交尾させ、いずれかの実験飼料を与えた。図3の表は、各時点で屠殺された動物の数を含む実験設計を報告している。
【0068】
図3に示すように、若い雄新生児を、生後14日目及び21日目に屠殺した。14日目に屠殺したラットに関して、母乳の脂肪酸組成を決定するために、胃内容物の脂肪酸組成を分析した。離乳期後(生後21日目)、全ての動物に、DHA又は他の種類のLC−PUFAを含有しない対照飼料を与えた。網膜、脳グリア細胞の総PL、PS及びPEの脂肪酸組成を屠殺した動物全てで決定した。標準(ガンツフェルト(Ganzfeld))及びフリッカー網膜電図(ERG)分析を、示された時点で行った。
【0069】
B.結果
B.1.母乳のDHA含量に対するPC−DHAの効果
胃内容物の脂肪酸組成を分析し、母乳の脂肪酸組成を反映した。図4に報告されたデータは、対照飼料(青棒)と比較して、DHA含有飼料のいずれにおいても、n−3PUFA、特にDHAの取り込みが強化されたことを示している。DHA量の有意な増加が、他の飼料と比較してDHA−PL群において観察され、DHA−PLを含む母体用飼料の供給は、DHA−TGよりも効率的であることを示している。
【0070】
B.2.新生児の網膜中のDHA含量に対するPC−DHAの効果
生後14日目及び21日目の雄新生児ラットの網膜の脂肪酸組成を決定した(図5参照)。対照群と比較して、DHAを有する母体飼料の供給は、新生児の網膜中のDHA量に影響を与える。生後14日目に、DHA−PLは、DHA−TGよりもわずかに優れた効果を示す。しかし、21日目に逆の傾向が観察された。離乳期後、動物は、n−3脂肪酸源としてαリノール酸のみを摂取した。この飼料下で3カ月後、網膜の脂肪酸組成の分析は、DHA量が、DHA−PLを与えた動物において2つの他の群よりも統計的に高いことが判明した。この結果は、妊娠及び授乳期中のサプリメントとしてのDHA−PLの使用は、網膜中のDHA量に対して長期的効果を有することを示している。
【0071】
B.3.網膜電図(ERG)により測定された視覚機能に対するPC−DHAの効果
21日目の新生児に対して行われたフリッカーERG実験の結果は、DHA−PL処理は、桿体の感度を向上させることを示している(図6参照)。この知見は、桿体(症例によっては錐体)中のロドプシン量の低下及び暗所視力の低下により特徴付けられるヒトの病態である、ヒトにおける網膜色素変性症に関連する(Perlman等、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 1981、Aguirre等、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 1997、Anderson等、Mol. Vis. 2002、Hartong等、Lancet 2006参照)。
【0072】
B.4.脳グリア細胞リン脂質中のDHA含量に対するPC−DHAの効果
図7に報告されているように、DHA飼料はいずれも、生後14日目及び離乳時の雄子犬中の脳グリア細胞から精製したPS中のDHA量を有意に増加させた(p<0.0001)。興味深いことに、DHAは、DHA−PL群においては3カ月経ってもPS中に一定値で残ったが(30.5%)、離乳から3カ月の間でDHAの減少を示したDHA−TG群においてはそうならなかった(p=0.0019)。逆に、DHA−TG飼料及びDHA−PL飼料は、対照飼料と比較して14日目、21日目及び3カ月後にPE中のDHA量が増加したが(p<0.0001)、DHAの比率は、いずれのDHA飼料においても離乳から3カ月の間で年齢に依存した低下が低いことを示した(p<0.0001)。
【0073】
C.結論
この研究の幾つかの主な結果は、魚油を補給した標準の母体用飼料を使用する代わりに本発明の母体用食品組成物を投与することにより、
母乳中のDHA量を増加させること、
新生児の網膜中のDHAの増加を増進すること、
新生児の網膜の成熟を促進すること、及び/又は、
脳グリア細胞PS中のDHAの長期的増加を増進すること
が可能となることである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質源を含む母体用食品組成物であって、前記脂質源が、リン脂質(PL)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、N−アシルホスファチジルエタノールアミン(NAPE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)及び/又はそれらのリゾ誘導体からなる群から選択される形態の少なくとも1種のLC−PUFAを含む、母体用食品組成物。
【請求項2】
前記LC−PUFAが、アラキドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群から選択される、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
プロバイオティクスを更に含む、請求項1に記載の食品組成物であって、
前記プロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)及びサッカロミセス(Saccharomyces)又はそれらの混合物からなる群から好ましくは選択され、特に、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ストレプトコッカス フェシウム(Streptococcus faecium)、サッカロミセス ブーラジ(Saccharomyces boulardii)及びラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)又はそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、ラクトバチルス ジョンソニイ NCC533(CNCM I−1225)、ビフィドバクテリウム ロンガム NCC490(CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム ロンガム NCC2705(CNCM I−2618)、ビフィドバクテリウム ラクティス Bb12、ビフィドバクテリウム ラクティス NCC2818(CNCM I−3446)、ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)NCC2461(CNCM I−2116)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)GG、ラクトバチルス ラムノサスNCC4007(CGMCC 1.3724)、エンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium)SF68(NCIMB10415)及びそれらの混合物からなる群から選択される、食品組成物。
【請求項4】
妊娠及び/又は授乳期中に消費される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項5】
さらに、タンパク質源及び/又は炭水化物源、並びに、場合によりミネラル源、ビタミン源及び/又は抗酸化物質源を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項6】
DHA含有リン脂質からなる群から選択される形態の前記LC−PUFA含量が、前記脂質源中の脂質の0.1〜50%の間である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項7】
DHA含有リン脂質の形態の前記LC−PUFA含量が、食品組成物の熱量の約0.1〜50%となる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項8】
DHA含有リン脂質の形態のLC−PUFA内容物(content)が、動物由来の、特にオキアミ油、エビ油、又は、頭、内臓、若しくは魚卵レシチン等の魚副産物から得られる油、又は、卵レシチン、又は、化学的若しくは酵素的に合成されたLC−PUFA含有レシチン等のLC−PUFA含有レシチンからの、リン脂質源の形態で提供される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項9】
ヒト又は動物、特にコンパニオンアニマル(companion animal)による消費が意図されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の食品組成物。
【請求項10】
新生児の脳の発達を促進するために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。
【請求項11】
新生児の脳内のDHAの増加を増進するため、及び/又は母乳中のDHA量を増加させるために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。
【請求項12】
新生児の目の発達を増進するために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。
【請求項13】
新生児の網膜中のDHAの増加を増進するために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。
【請求項14】
新生児の脳グリア細胞ホスファチジルセリン中のDHAの長期的増加を増進するため、並びに/又は新生児の血漿及び/若しくは赤血球中のDHA量を増加させるために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。
【請求項15】
母体の血漿及び/又は赤血球中のDHA量を増加させるために、妊娠及び/又は授乳期中に母体により消費される製品の調製のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−516054(P2011−516054A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502364(P2011−502364)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053743
【国際公開番号】WO2009/121839
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】