説明

姿勢保持補助具

【目的】 身体を特定姿勢に保持するために、それ自体の形状が曲げられた状態で固定されるような機構を有するとともに、別途のクッション材が無くとも、身体の荷重が特定の部位に集中しないようにした姿勢保持補助具を提供する。
【構成】 姿勢保持補助具1は、多数の粒状体を充填した通気性内袋と、この内袋を内部に密閉した非通気性外袋とを機構本体3として有し、外袋内の減圧により各粒状体が密着することで形状が固定される姿勢保持補助具であって、内袋は、粒状体充填室を縦及び/又は横に平面的に複数連ねた構造を有し、機構本体の少なくとも一表面に軟質の合成樹脂発泡体6が貼着されており、合成樹脂発泡体の外面には縦及び/又は横に延びる複数の凹部61が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体を特定姿勢に保持するために、それ自体の形状が曲げられた状態で固定されるような機構を有し、患者等が痛みを感ぜずに同じ姿勢を長く保てるようにするための姿勢保持補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
病院等で患者に各種の処置を施すために、多数の粒状体を密封した通気性内袋と、この内袋内部に密閉した非通気性の外袋とで構成して、外袋内を減圧することで形状が固定される機構を有する姿勢保持補助具を用いて、患者を特定姿勢に固定することが行われている。
このような、姿勢保持補助具を用いれば、患者は筋力をほとんど使用することなく同じ姿勢を保てるので、患者や医者にとって有用なものである。
【特許文献1】特開平2−264639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような姿勢保持補助具は、姿勢を固定させるには有用であるが、姿勢によっては身体荷重が一点集中することがあり、身体荷重を分散させるには別途クッション材をあてがう必要がある。また、単にクッション材を外袋に貼着したのでは、姿勢保持補助具を曲げたときに、外袋と合成樹脂発泡体との界面で大きなズレ応力が発生し、長期の使用では合成樹脂発泡体が外袋から剥がれてしまうことが危惧される。
本発明は、身体を特定姿勢に保持するために、それ自体の形状が曲げられた状態で固定されるような機構を有するとともに、別途のクッション材が無くとも、身体の荷重が特定の部位に集中しないようにした姿勢保持補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の姿勢保持補助具は、多数の粒状体を充填した通気性内袋と、この内袋を内部に密閉した非通気性外袋とを機構本体として有し、外袋内の減圧により各粒状体を密着状態にすることで形状が固定される姿勢保持補助具であって、内袋は、粒状体充填室を縦及び/又は横に平面的に複数連ねた構造を有し、機構本体の少なくとも一表面に軟質の合成樹脂発泡体が貼着されており、合成樹脂発泡体の外面には縦及び/又は横に延びる複数の凹部が形成されていることを特徴とする。
合成樹脂発泡体は、低反発弾性ポリウレタンフォームであることが好ましい。
姿勢保持補助具は非透水性カバーで被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の姿勢保持補助具は、軟質の合成樹脂発泡体を機構本体の一表面に配しているので身体に対する体圧分散性が良好であることは勿論、合成樹脂発泡体に形成された凹部のおかげで曲げられた合成樹脂発泡体の反発力が低減されるので、合成樹脂発泡体が機構本体より剥がれるといった問題が発生しづらいとともに、姿勢保持補助具を曲げた状態へ移行させるのが容易である。
【0006】
合成樹脂発泡体として低反発弾性ポリウレタンフォームを用いれば、曲げる段階では機構本体と合成樹脂発泡体との界面で大きなズレ応力が発生しても、低反発弾性であるがために復元力が小さいので、すぐにズレ応力は小さくなり、合成樹脂発泡体が機構本体より剥がれるといった問題が発生しづらいとともに、姿勢保持補助具を曲げた状態へ移行させるのも容易である。そして、低反発弾性ポリウレタンフォームを用いれば、身体に対する体圧分散性も良好である。
【0007】
姿勢保持補助具が非透水性カバーで被覆されたものである場合には、汗などに起因した合成樹脂発泡体と機構本体との接着力の低下を未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の姿勢保持補助具の実施形態を以下図面に基づいて具体的に説明する。図1及び図2に示すように、本発明の姿勢保持補助具1、2は、機構本体3の表面に軟質の合成樹脂発泡体6が貼着され、これらをカバー7で被覆した構造である。なお合成樹脂発泡体は機構本体の両面に貼着されても良い。この姿勢保持補助具1、2は、例えば図3に示すように身体形状に対応するように曲げられたのち外袋内(機構本体内)が減圧されることで、曲げられたままの形状で固定され、身体を同じ姿勢に保たせる補助具として利用されるものである。
【0009】
機構本体3は、粒状体充填室を縦及び/又は横に平面的に複数連ねた構造を有する通気性の内袋4と、この内袋を内部に密閉した非通気性の外袋5と、粒状体充填室に充填された粒状体とを基本的な構成としている。また、外袋には開閉弁9が取り付けられており、開閉弁を通して外袋内の空気をポンプで排出することで減圧される構造である。そして、本発明の姿勢保持補助具は、自然状態では内袋内の粒状体が流動するので身体形状に対応した形状に曲げることができるが、減圧下においては各粒状体が密着して動かないので形状が固定されるというものである。
【0010】
粒状体8は、各種プラスチックビーズが好適に用いられるが、軽量とするためにポリスチレン発泡ビーズ、ポリエチレン発泡ビーズであることが好ましい。粒状体の大きさは特に限定されるものではなく、粒径0.3〜5.0mmのものを使用すれば問題はない。ビーズの比重は、繰り返し使用で変形しないように0.02以上であることが好ましい。
【0011】
内袋4は、粒状体の分布の偏りに起因した厚さ(高さ)ばらつきが発生しないように、符号41や42で示す粒状体充填室を縦及び/又は横に平面的に複数連ねた構造を有している。内袋は、粒状体充填室に粒状体が充填されて、図6に示すように複数の筒状の粒状体充填室が横に連ねられたような構造、あるいは図5に示すように複数の筒状の粒状体充填室が縦及び横に連ねられたような構造となる。内袋の材料は、繊維系材料が好適に用いられ、編布、織布、不織布などの布帛が利用される。その中で、ポリウレタン系弾性繊維を用いた布帛が伸縮性に優れていて好ましい。
粒状体充填室は、重ね合わせられた2枚の布帛を縫着によって仕切ることで形成されることが好ましく、このようにすれば、隣り合う粒状体充填室間の角度が容易に変えられるので、姿勢保持補助具としたときに曲げやすくなる。
【0012】
粒状体充填室に粒状体が充填されているときの、自然状態(減圧、荷重などの負荷がかかっていない状態)における粒状体充填室の高さHは、40〜80mmであることが好ましい。高さが40mm未満であると身体荷重によって姿勢保持補助具自体の形状が維持できないことがあり、80mmを超えると姿勢保持補助具自体を曲げた状態へ移行させづらいことがある。また同自然状態での粒状体充填室の連なり方向の縦又は横の短い方の長さLは、150〜300mmであることが好ましい。この長さが150mm未満であると減圧時に曲がった形状を作り難く、300mmを超えると粒状体の分布に偏りが発生しやすくなる。
【0013】
外袋5は、内袋の材料よりも伸びづらい材料で作製することが好ましく、カレンダー法、押出法などで成形されるポリ塩化ビリニデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどの柔軟性のあるフィルムが利用される。外袋は、例えばこれらのフィルムを2枚重ね合わせて周縁を融着することで作製される。外袋には、開閉弁9が直接あるいはチューブなどを介して取り付けられている。外袋内は開閉弁を通して空気が排出されて減圧状態となり、開閉弁を閉じることで減圧状態が維持される。
【0014】
カバー7は、織布、編布などの通気性材料で作製しても良いが、多くの患者が利用することになるので非透水性カバーで作製することが好ましい。また、非透水性カバーを用いれば、汗などに起因した合成樹脂発泡体と機構本体との接着力の低下を未然に防止できる。
非透水性カバーは、繊維系材料を基材として樹脂系あるいはゴム系の薄膜を表層として積層した材料で作製すれば感触、耐久性に優れるので好ましい。このような材料としては、塩ビ系レザー、ゴム引き布、ポリウレタン系合成皮革などが挙げられるが、その中でも、基材として編布、捲縮加工糸又は捲縮繊維で形成した布帛を用い、薄膜としてポリウレタンを用いたポリウレタン合成皮革が伸縮性に富むので好ましい。
【0015】
軟質の合成樹脂発泡体6は、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォームなどが挙げられるが、ポリウレタンフォームが体圧分散性に優れているので好ましく、中でも、荷重を解放させたときに、ゆっくりと復元する性質を有する低反発弾性ポリウレタンフォームが好ましい。低反発弾性ポリウレタンフォームは、一般のポリウレタンフォームよりもガラス転移点を高くして常温あるいは常温付近にくるようにしたもので、常温で柔軟であるが適度に弾性が喪失しているフォームである。そのために、低反発弾性ポリウレタンフォームは、それ自体の変形が大きくても、元の形状に戻ろうとする力は一般のポリウレタンフォームに比較してはるかに小さいため3次元的な身体形状を広い面積で均等に支えるという性質を有している。そして、低反発弾性ポリウレタンフォームはこのような性質のため、身体保持補助具を曲げたときにでも、機構本体とのズレ応力が小さい。
【0016】
合成樹脂発泡体の外面には、縦及び/又は横に延びる複数の凹部が形成されている。凹部の形状は断面Vの字状(図7)、断面半円状(図8)などが挙げられる。また、凹部は、図10に示すようなプロファイル加工によって形成される平面視千鳥格子状の凹部凸部の繰り返し(図9)で形成したものであっても良い。このようなプルファイル加工した合成樹脂発泡体であれば、身体保持補助具を曲げたときに合成樹脂発泡体にかかる負荷が凹部に集中することがないので、耐久性が高い。
【0017】
合成樹脂発泡体の厚さTは特に限定されるものではないが、図7、図8に示すような凹部が形成された合成樹脂発泡体の場合は、10〜40mmとして体圧分散性を良好にすること、すなわち身体荷重が身体の一部に集中しないようにすることが好ましい。凹部の深さDは厚さTの20〜60%、凹部の巾Wは5〜15mmが好ましい。凹部の深さや巾があまり小さいと、身体保持補助具自体の曲げ性があまり良くならないだけでなく、身体保持補助具を曲げたときの機構本体との間のズレ応力を小さくすることができない。凹部の深さや巾があまり大きいと、身体保持補助具を曲げたときに合成樹脂発泡体にかかる負荷が凹部に集中するのでこの部位が破壊されることが危惧されるとともに、体圧分散性が損なわれることがある。
【0018】
図9に示すようなプルファイル加工した合成樹脂発泡体の場合は、厚さTを20〜60mmとし、凹部の深さDを厚さTの40〜70%とし、隣接凹部間の距離は20〜40mmとして体圧分散性を良好にすることが好ましい。
【実施例】
【0019】
(実施例1)ポリウレタン系弾性繊維を用いた伸縮性の編布を2枚重ね合わせ、周縁の3辺を縫着し、内部を仕切るように縫着することで図6に示すような5つの粒状体充填室を有する内袋を作製した。それぞれの粒状体充填室には平均比重0.03、平均粒径0.5mmのポリスチレン発泡ビーズを充填したのち開口している1辺を縫着した。このものの自然状態での外形の寸法は、高さ60mm×縦長さ0.8m×横長さ1mであり、一つの粒状体充填室の連なり方向の長さは200mmである。
【0020】
次に、ポリウレタンフィルム(300μm×0.9m×1.1m)を2枚重ね合わせ、周縁の3辺を融着するとともに、その内の1辺に開閉弁9を取り付けた。そしてフィルムの一表面に図7に示すような断面の低反発弾性ポリウレタンフォーム(密度50kg/m、30mm×0.9m×0.7m、W=10mm、D=10mm)を貼り付けた。その後、この外袋に、発泡ビーズを充填した内袋を挿入して、開口している一辺を融着した。そして、このものに、編布を基材としたポリウレタン合成皮革で作製した非透水性カバーを被せて、図1に示すような姿勢保持補助具1を作製した。
【0021】
(実施例2)図9に示すような断面をもつ平面視千鳥格子状の凹部凸部の繰り返しによる凹部を有する低反発弾性ポリウレタンフォーム(30mm×0.9m×0.7m、T=40mm、D=25mm、隣接凹部間の距離は20mm)を用いる以外は実施例1と同様にして、図2に示すような姿勢保持補助具2を作製した。
【0022】
図3に示すように、実施例1、実施例2で作製した姿勢保持補助具を、曲げた状態で固定して身体保持に使用したところ、身体荷重は分散されて心地よいものであった。また、繰り返し使用においても外袋のフィルムから低反発弾性ポリウレタンフォームが剥がれることもなかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る姿勢保持補助具を一部切り欠いて示した斜視説明図。
【図2】本発明に係る姿勢保持補助具を一部切り欠いて示した斜視説明図。
【図3】本発明に係る姿勢保持補助具の使用状態の説明図
【図4】本発明に係る機構本体を一部切り欠いて示した斜視説明図。
【図5】本発明に係る内袋を、内部に多数の粒状体を充填した状態で一部切り欠いて示した斜視説明図。
【図6】本発明に係る内袋を、内部に多数の粒状体を充填した状態で一部切り欠いて示した斜視説明図。
【図7】本発明に使用する合成樹脂発泡体を、断面で示した説明図。
【図8】本発明に使用する合成樹脂発泡体を、断面で示した説明図。
【図9】本発明に使用する合成樹脂発泡体を、断面で示した説明図。
【図10】ポリウレタンフォームのプロファイル加工の説明図。
【符号の説明】
【0024】
1 本発明の姿勢保持補助具
2 本発明に係る姿勢保持補助具
3 機構本体
4 内袋
5 外袋
6 軟質の合成樹脂発泡体(低反発弾性ポリウレタンフォーム)
7 カバー
8 粒状体
9 開閉弁
41 粒状体充填室
42 粒状体充填室
61 凹部
H 粒状体の充填状態での粒状体充填室の高さ
L 粒状体の充填状態での粒状体充填室の連なり方向の長さ
L1 粒状体の充填状態での内袋の縦長さ
L2 粒状体の充填状態での内袋の横長さ
T 合成樹脂発泡体の厚さ
D 合成樹脂発泡体の凹部の深さ
W 合成樹脂発泡体の凹部の巾

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の粒状体を充填した通気性内袋と、この内袋を内部に密閉した非通気性外袋とを機構本体として有し、外袋内の減圧により各粒状体を密着状態にすることで形状が固定される姿勢保持補助具であって、
内袋は、粒状体充填室を縦及び/又は横に平面的に複数連ねた構造を有し、
機構本体の少なくとも一表面に軟質の合成樹脂発泡体が貼着されており、合成樹脂発泡体の外面には縦及び/又は横に延びる複数の凹部が形成されていることを特徴とする姿勢保持補助具。
【請求項2】
合成樹脂発泡体が、低反発弾性ポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項1記載の姿勢保持補助具。
【請求項3】
非透水性カバーで被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の姿勢保持補助具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−288451(P2006−288451A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109437(P2005−109437)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】