説明

姿勢認識装置

【課題】使用者の着座姿勢を認識できる姿勢認識装置を提供する。
【解決手段】この姿勢認識装置は使用者10の腰に装着する歩数計1に組み込まれており、歩数計1と共用の加速度センサ2の出力信号が演算処理部5に入力される。演算処理部5は加速度センサ2の出力信号から使用者10が座ったことを認識した場合に、予め設定された期間における加速度センサ2の出力信号に基づいて使用者10の着座姿勢を認識する。使用者10が歩数計1を装着している長い時間の中で、歩いている時や走っている時以外の着座時にも健康に係わる有益な着座姿勢のセンシングと認識を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、使用者が着用して使用され、加速度センサを用いて使用者の姿勢を認識する姿勢認識装置に関し、特に、使用者が座っているときの姿勢を認識する姿勢認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加速度センサを内蔵し、加速度センサを用いて人間の行動などを認識する装置,システムが提案されている。
【0003】
特許文献1(特開昭62−106742号公報)では、使用者の身に付けた加速度センサの波形を分析して、立つ、座る、歩く、走る等の人間の動作状態を認識する装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特開平10−024026号公報)では、使用者に携帯され、加速度センサに加えてジャイロセンサを用い、歩く、座る、食事をする、会議をするなどの使用者の大雑把な行動の認識が可能である装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献3(特開平10−113343号公報)は、人間の色々な行動,活動状況を認識可能なシステムであり、加速度センサを利用することが記載されている。
【0006】
しかし、上述の特許文献1〜3に記載の技術では、使用者の着座姿勢を認識することはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−106742号公報
【特許文献2】特開平10−024026号公報
【特許文献3】特開平10−113343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の課題は、使用者の着座姿勢を認識できる姿勢認識装置を提供することにあり、さらには、使用者の悪い着座姿勢を認識したときに使用者に報知できる姿勢認識装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の姿勢認識装置は、使用者の身体に装着される加速度センサと、
上記加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者が座っているか否かを判別する判別部と、
上記判別部が上記使用者が座っていると判別した場合に上記加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識して評価する認識評価部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
この発明の姿勢認識装置によれば、使用者の身体に装着される加速度センサの出力信号に基づいて上記判別部は上記使用者が座っているか否かを判別し、上記認識評価部は、上記判別部が上記使用者が座っていると判別した場合に上記加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識できる。
【0011】
なお、上記加速度センサは、例えば使用者の腰部に装着され、使用者の腰回りの姿勢の傾きを検出する。また、上記加速度センサは、一例として3軸加速度センサが採用される。
【0012】
また、一実施形態の姿勢認識装置では、上記認識評価部は、
上記加速度センサの出力信号が入力されると共に上記加速度センサからの出力信号に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識できるように予め学習させたニューラルネットワークを有する。
【0013】
この実施形態によれば、上記認識評価部は、ニューラルネットワークを用いて使用者の着座姿勢の複雑,高度な認識が可能になる。
【0014】
また、一実施形態の姿勢認識装置では、上記ニューラルネットワークに予め学習させる着座姿勢は、健康に悪い影響を及ぼす複数の異なる悪い着座姿勢を含んでおり、
上記認識評価部は、
上記ニューラルネットワークにより認識した上記使用者の着座姿勢が上記悪い着座姿勢であるときに、この悪い着座姿勢が使用者の健康に及ぼす悪影響を表す情報を上記使用者に報知する報知部を有する。
【0015】
この実施形態によれば、上記認識評価部が、上記ニューラルネットワークにより認識した上記使用者の着座姿勢が上記悪い着座姿勢であるときに、上記報知部によって、上記悪い着座姿勢が使用者の健康に及ぼす悪影響を表す情報を上記使用者に報知できる。
【0016】
また、一実施形態の姿勢認識装置では、上記認識評価部は、
予め定められた期間において、上記加速度センサの出力信号の予め設定された時間毎の複数の平均値を求め、この複数の平均値に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識する。
【0017】
この実施形態によれば、上記認識評価部は、上記加速度センサの出力信号の複数の平均値を求めることで、着座姿勢の認識に使うデータを増やして使用者の着座姿勢に関する複雑,高度な認識が可能になる。
【0018】
また、一実施形態の姿勢認識装置では、上記認識評価部は、
現在時刻から予め定めた設定時間以上前の時刻から現在時刻までの期間において、上記加速度センサの出力信号の予め設定された上記検出時間毎の複数の平均値を求め、この複数の平均値に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識する。
【0019】
この実施形態によれば、上記認識評価部は、上記加速度センサの出力信号の複数の上記平均値を、現在時刻から予め定めた設定時間以上前の時刻から現在時刻までの期間において求めることで、着座姿勢の認識に使うデータを増やして使用者の着座姿勢に関する複雑,高度な認識が可能になる。
【0020】
また、一実施形態の姿勢認識装置では、上記設定時間は10秒間または60秒間であり、上記検出時間は1秒間である。
【0021】
この実施形態によれば、上記認識評価部は、上記加速度センサの出力信号の複数の上記平均値を、1秒毎に現在時刻から10秒間または60秒間以上前の時刻から現在時刻までの期間において求めることが、使用者の着座姿勢を求める上で人体の特性上好ましいことが判明した。
【0022】
また、一実施形態の歩数計は、上記姿勢認識装置を備えた。
【0023】
この歩数計によれば、使用者が歩数計を装着している長い時間の中で、歩いている時や走っている時以外の着座時にも健康に係わる有益な着座姿勢のセンシングと認識を行うことができる。また、上記加速度センサを上記歩数計の加速度センサと兼用とすることで、歩数計の構成要素としての加速度センサを利用して、使用者が座っているときの姿勢を認識できる。
【0024】
また、一実施形態の活動量計は、上記姿勢認識装置を備えた。
【0025】
この活動量計によれば、使用者が活動量計を装着している長い時間の中で、歩いている時や走っている時以外の着座時にも健康に係わる有益な着座姿勢のセンシングと認識を行うことができる。また、上記加速度センサを上記活動量計の加速度センサと兼用とすることで、活動量計の構成要素としての加速度センサを利用して、使用者が座っているときの姿勢を認識できる。
【0026】
すなわち、使用者があまり活動していなく、歩数計や活動量計があまり役立たない状況の中にも、健康に関心を持つ人にとって有益な検知すべき情報として着座姿勢が存在する。例えば、長時間座っているときの姿勢の良し悪しは、使用者の現在や将来における体のゆがみを知る上で参考になる。
【0027】
現在、加速度センサを主なセンシング手段とした歩数計や、消費カロリー,運動の大きさや活動量を見ることができる活動量計は多く存在する。こういったもののユーザーの中には運動不足を問題視している向きも多く、実際に歩いたり走ったりしている時間は少ないと推測できるが、例えば、仕事がデスクワークの人の場合、健康のために活動量計を、折角身に着けていても、装置がその機能を発揮するのは通勤時に歩く僅かな時間だけということもあり得る。このようなケースでは、本実施形態が有用になる。
【発明の効果】
【0028】
この発明の姿勢認識装置によれば、判別部により、使用者の身体に装着される加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者が座っているか否かを判別し、使用者が座っていると判別部が判別した場合に認識評価部により加速度センサの出力信号に基づいて使用者の着座姿勢を認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】この発明の姿勢認識装置の実施形態が組み込まれた歩数計の正面、側面、分解側面を左方から右方へ順に示す模式図である。
【図1B】上記歩数計の分解模式図である。
【図1C】上記歩数計を腰(ベルト)に装着した使用者を模式的に示す図である。
【図2】上記実施形態が備えるニューラルネットワークの模式図である。
【図3A】上記歩数計を装着した使用者が良い姿勢で座っている様子を示す模式図である。
【図3B】上記使用者が悪い姿勢の一例で座っている様子を示す模式図である。
【図3C】上記使用者が悪い姿勢の他の例で座っている様子を示す模式図である。
【図4】上記ニューラルネットワークの出力層n1〜n7と動作状態(着座姿勢の種類)との対応表を示す図である。
【図5】上記ニューラルネットワークの学習フローチャートおよび姿勢認識フローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0031】
図1Aは、この発明の姿勢認識装置の実施形態が組み込まれている歩数計1の正面、側面、分解側面を左方から右方へ順に示している。また、図1Bは、状態表示用のディスプレイ3が取り付けられた歩数計1の前面パネル1Aと、本体基板1Bと、ディスプレイ3,本体基板1Bの電源としての充電池(二次電池)6と、裏蓋1Cを示す模式図である。また、図1Cは、歩数計1を腰(ベルト)に装着した使用者10を模式的に示している。
【0032】
図1Aに示すように、本体基板1Bおよび充電池6は、前面パネル1Aと裏蓋1Cの間に収容される。図1Bに示すように、本体基板1Bには、加速度センサ2と演算処理部5と無線通信機能部4とスピーカ15が実装されている。ディスプレイ3およびスピーカ15は、報知部を構成している。加速度センサ2は、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を±2Gの範囲で検知可能な3軸加速度センサとした。また、演算処理部5はマイクロコンピュータ等で構成され、後述するニューラルネットワーク20およびメモリ5Aを含んでいる。加速度センサ2の出力信号は演算処理部5に入力される。演算処理部5は、判別部および認識評価部を構成している。すなわち、加速度センサ2と演算処理部5が本実施形態の姿勢認識装置を構成しており、加速度センサ2は歩数計1の歩数を計測するための加速度センサと共用している。
【0033】
また、無線通信機能部4は、携帯電話,パソコン等と歩数計1との間で無線通信のためのものである。この歩数計1は、無線通信機能部4によりブルートゥース(Bluetooth)で携帯電話と接続されているものとする。
【0034】
図1Cに示すように、使用者10は、歩数計1を腰の横側、概ねベルトの高さに取り付けて使用する。使用者10は、歩数計1を前述の位置に着用し、日中の生活を行う。使用者10の歩行中は、歩数計1は歩数計として機能し、使用者10の歩数や歩数に応じた標準的な表示カロリー等をディスプレイ3に表示する。
【0035】
一方、使用者10が椅子などに座った場合、演算処理部5は、加速度センサ2から入力された出力信号に基づいて使用者10が座ったことを認識する。ここで、使用者10の着座動作や立ち上がり動作には、それぞれの動作に応じた加速度センサ2の出力のパターンがある。したがって、使用者10が座ったことの認識は様々な方法で可能である。例えば、加速度センサ2の出力信号から、演算処理部5が上下方向に大きな加速度が発生した後で、かつ長時間に渡って歩数が増加しないことを検出した場合などは高い確率で使用者10が座っていると判定できる。また、演算処理部5は、後述するニューラルネットワーク20によるパターンマッチングを用いて、歩数カウントのバックグラウンドで着座,立ち上がりに相当する動きを認識することも可能である。ここで、後述するニューラルネットワーク20は、着座姿勢の判定のためのもので、加速度センサ2から入力される1秒毎のデータを60秒前まで遡って判定するという時定数の大きいシステムになっているが、着座動作,立ち上がり動作等の定常的でない動作を認識する場合は、例えば、加速度センサ2から入力される100ms(ミリ秒)毎のデータを5秒前まで遡って判定するなど、時定数を小さくして動作の認識を行う。
【0036】
使用者10が椅子などに座って、演算処理部5が加速度センサ2からの出力信号に基づいて、使用者10が座った状態になったと判断すると、歩数計1に組み込まれた姿勢認識装置は、着座姿勢検知モードへ移行する。この着座姿勢検知モードでは、上記認識評価部をなす演算処理部5は、加速度センサ2が出力する出力信号の1秒間における平均を平均値Aとし、この平均値Aの1分間における平均値(以下、平均値Bと言う)、上記平均値Aの1分間における分散、上記平均値Aのゼロクロス回数を利用して、使用者10の着座姿勢を認識する。
【0037】
例えば、図3Aに示すように、座った使用者10が良い姿勢を取っている場合について説明する。この場合、加速度センサ2の出力信号の平均値Bは、加速度センサ2の3軸のXYZ直交座標系から見た重力方向を表す値になる。図3Aに示す良い姿勢の場合、上記姿勢認識装置の加速度センサ2のZ軸が上を向いている。このため、上記姿勢認識装置の加速度センサ2は、出力信号として、−Z方向に1G相当の値を出力することになる。また、使用者10が図3Aに示すような良い姿勢を取っているときには、加速度センサ2の出力信号の平均値Aの1分間における分散,および平均値Aのゼロクロス回数については、小さくなる傾向がある。
【0038】
一方、座った使用者10が、図3Bに示す悪い姿勢を取っている場合は、重力の方向が−Z方向から大きくずれるので、加速度センサ2の出力信号の平均値Bは、−Z方向から大きくずれた方向に1G相当の値となる。図3Bに示す悪い姿勢の場合、加速度センサ2の出力信号の平均値Aの1分間における分散,および平均値Aのゼロクロス回数については、悪い姿勢ではあるがあまり大きくならない傾向がある。
【0039】
また、座った使用者51が、図3Cに示す悪い姿勢を取っている場合は、重力の方向が図3Aに示す良い姿勢の場合の−Z方向と図3Bに示す悪い姿勢の場合の−Z方向との中間程度の方向になる。この図3Cの悪い姿勢では、加速度センサ2の出力信号の平均値Bは、図3Cの−Z方向からずれた方向に1G相当の値となるが図3Bの悪い姿勢に比べると−Z方向からのずれは小さくなる。図3Bに示す悪い姿勢は、背筋が丸まった姿勢になっているので、内臓,骨格,肩や首の筋肉などに大きな負担がある。よって、使用者10の姿勢が落ち着かない傾向があり、結果として、平均値Aの1分間における分散,および平均値Aのゼロクロスは大きくなる。
【0040】
このように、良い姿勢,悪い姿勢については、加速度センサ2の出力信号の平均値Aの平均値Bと平均値Aの分散,ゼロクロスを併用することにより判別が可能である。図3A,図3B,図3Cに一例を示した姿勢以外の良い姿勢,悪い姿勢についても、それぞれ、加速度センサ2の出力信号の平均値Bと分散,ゼロクロスの値を見ると微妙な違いがある。このため、図3A〜図3Cの一例で説明したような簡単な場合分けではなく、より高度なパターン認識,判別法を用いれば上記微妙な違いによる着座姿勢の区別,認識が可能である。この実施形態の姿勢認識装置は、このようなより高度な判別を図2に示すニューラルネットワーク20を用いて行う。
【0041】
加速度センサ2が出力する使用者の動き(姿勢)に応じた出力値は、演算処理部5に渡されて適切に信号処理が行われ、演算処理部5に設定されたニューラルネットワーク20に渡される。
【0042】
ニューラルネットワーク20は、予め、加速度センサ2の出力の値から良い姿勢,悪い姿勢の代表的な例を認識できるよう調整(学習)されており、入力信号が投入されると、「良い姿勢」、「腹筋が衰える姿勢」、「腰に悪い姿勢」などの各姿勢に対応する適切な応答を返す。
【0043】
ニューラルネットワーク20によって認識した結果(着座姿勢)は、現在の着座姿勢の状態としてディスプレイ3に表示される。また、この認識した着座姿勢は、無線通信機能部4から無線を通じて携帯電話や、無線接続が確立されたパソコンの画面上にも表示可能である。
【0044】
併せて、ニューラルネットワーク20によって認識した姿勢が引き起こす健康,美容面でのメリット,デメリットなどについてのデータベースを携帯電話やパソコン側に持たせることにより、「今の姿勢を取り続けると腰に悪い」、「肩こりを引き起こす」、「頭痛が生じる恐れがある」というような有意義な情報を使用者にフィードバックすることもできる。
【0045】
次に、この実施形態の姿勢認識装置による認識の具体的な処理について説明する。動作状態の認識を行う時刻をt1とし、その時刻t1から60秒前の時刻をt0とする。加速度センサ2は1秒間に100サンプルの加速度を測定して、この1秒間に100サンプルの加速度を表す出力信号を演算処理部5に出力する。演算処理部5では、この100サンプルの加速度データを用いて、1秒毎のX方向,Y方向,Z方向の加速度の平均値(平均値A)を計算している。
【0046】
演算処理部5は、時刻t0から時刻t1までの60秒間に、X方向,Y方向,Z方向の加速度の平均値Aを1秒周期で計算し、この3種類の平均値Aは、演算処理部5に内蔵されたメモリに現時点(時刻t1)の1秒前から60秒前(時刻t0)までの値が(3方向×60個)保持されている。
【0047】
演算処理部5では、時刻t0〜時刻t1間の平均値Aのログを利用して、さらに、X方向,Y方向,Z方向それぞれの方向の平均値Aの上記60秒間における平均値(平均値B)を作成し、それぞれ、平均値X1,Y1,Z1とする。また、上記平均値Aを元に、同区間(t0〜t1)の標準偏差も求め、それぞれ、標準偏差X2,Y2,Z2とする。
【0048】
次に、演算処理部5では、時刻t0〜t1間におけるX,Y,Z方向の各方向の加速度の平均値Aの最大値と最小値を探索し、その最大値と最小値の差をそれぞれX3,Y3,Z3とする。また、演算処理部5では、同区間(t0〜t1)において、X,Y,Z方向の各方向の加速度の平均値Aのゼロクロス回数もカウントし、そのゼロクロス回数をそれぞれX4,Y4,Z4とする。
【0049】
加速度センサ2による実際の測定自体は、10ms(ミリ秒)周期で行っているが、上記平均値X1,Y1,Z1、標準偏差X2,Y2,Z2、最大値と最小値の差X3,Y3,Z3、ゼロクロス回数X4,Y4,Z4の計算は平均値Aを利用して60秒前の時刻t0から現時刻t1まで1秒周期で実施している。例えば、X軸,Y軸,Z軸の各方向の加速度の平均値B(X1,Y1,Z1)としては、X軸,Y軸,Z軸のうちの一つの軸方向について、現時点(t1)から現時点(t1)の60秒前(t0)までの60サンプルの平均値Aから計算された平均値Bが1秒毎に生成される、ということになる。
【0050】
なお、この実施形態の一例では、時刻t0から時刻t1の時間を60秒間としたが、時刻t0から時刻t1の時間は60秒間に限らないのは勿論で、例えば、40秒間、30秒間、10秒間、5秒間等に設定してもよく、他の所望の時間に設定できる。また、この実施形態の一例では、上記加速度の平均値Aを求める周期は1秒周期にしたが、上記加速度の平均値Aを求める周期は1秒周期に限らないのは勿論で、3秒間、2秒間、0.5秒間等に設定してもよく、他の所望の時間に設定できる。また、上記加速度の平均値Aを求める期間は、現在時刻から或る時間だけ前の或る期間に設定してもよい。
【0051】
そして、演算処理部5では、これら計12個のデータ(X1,Y1,Z1、X2,Y2,Z2、X3,Y3,Z3、X4,Y4,Z4)を、図2に示すニューラルネットワーク20の12個の入力層i1〜i12に入力する。その結果として、使用者10がどの様な動作状態(姿勢)にあるかを出力層n1〜n7から取得する。上記加速度の平均値X1,Y1,Z1は入力層i1,i2,i3に入力され、標準偏差X2,Y2,Z2は入力層i4,i5,i6に入力される。また、最大値と最小値の差X3,Y3,Z3は入力層i7,i8,i9に入力され、ゼロクロス回数X4,Y4,Z4は入力層i10,i11,i12に入力される。
【0052】
ここで、判別対象の動作状態として7種類の姿勢がニューラルネットワーク20に予め学習されているものとする。このニューラルネットワーク7は、12個の入力層i1〜i12と、7個の中間層m1〜m7と、7個の出力層n1〜n7の3層とで構成されており、BP(バックプロパゲーション)法と呼ばれるアルゴリズムで学習している。このBP法を用いる手法においては、予め、入力の組(ここでは、X1〜X4,Y1〜Y4,Z1〜Z4の12種類の値)と、それに対応する適切な動作状態(着座姿勢)とのセットを大量に用意し、これを使って学習を行っている。具体的には、使用者が、予め座って、良い姿勢,悪い姿勢を取ったときの加速度データX1〜X4,Y1〜Y4,Z1〜Z4に相当するデータを開発者または試験用のスタッフ等を対象にして測定しておき、これを学習に用いる。
【0053】
図4は、ニューラルネットワーク20の出力層n1〜n7と動作状態(着座姿勢の種類)との関係を示す対応表である。何種類かの姿勢(図4では出力層n1〜n7の個数7から7種類の姿勢)について、対応する12個の加速度データX1〜X4,Y1〜Y4,Z1〜Z4を取得し、その12個の加速度データX1〜Z4を用いて、ニューラルネットワーク7に学習させる。すると、加速度データX1〜Z4を入力層i1〜i12に入れた際に、判定結果が出力層n1〜n7に出力される。出力層n1〜n7は、それぞれ、図4に示す表のように互いに異なる1つの着座姿勢に対応しており、12個の入力層i1〜i12に入力される12個の加速度データX1〜Z4によって、0から1までの値を取る。例えば、加速度センサ2の出力から前述の処理によって生成された、ニューラルネットワーク20の入力層i1〜i12への入力(X1〜Z4)の結果、出力層n1の値が1に近く、その他の出力層n2〜n7の値が0に近い場合、入力(X1〜Z4)の基になったその時の使用者10の姿勢は、出力層n1に対応する姿勢、すなわち「腰に悪い姿勢」であると判断する。
【0054】
ニューラルネットワーク20の学習は、学習用に測定したデータを用い、PC(パーソナルコンピュータ)等で学習のためのアルゴリズムを実行することによって行う。大まかな流れは、図5に示す学習フローチャートの通りとする。
【0055】
すなわち、まず、ステップS1で、判別したい複数の着座姿勢に対応する加速度データを実測して取得する。この判別したい複数の着座姿勢とは、例えば、図4に示されるような、「腰に悪い姿勢」,「左右のバランスが悪い姿勢」,「良い姿勢」,「内臓に悪い姿勢」,「腹筋が衰える姿勢」,「肩こりを引き起こす姿勢」,「頭痛を引き起こす姿勢」である。そして、使用者10が、これらの姿勢でいる場合に加速度センサ2が出力する加速度データが演算処理部5に入力される。
【0056】
次に、ステップS2に進み、演算処理部5は、上記加速度データから上述の平均値X1,Y1,Z1、標準偏差X2,Y2,Z2、最大値と最小値の差X3,Y3,Z3、ゼロクロス回数X4,Y4,Z4等を含む教師データを算出する。
【0057】
次に、ステップS3に進み、上記教師データを用いてニューラルネットワーク20に学習させる。次に、ステップS4に進み、上記学習により姿勢判別のための数式を得る。次に、ステップS5に進み、上記姿勢判別のための数式を演算処理部5に組み込む。
【0058】
図5の学習フローチャートによる学習の結果、学習が完了したニューラルネットワーク20と等価な計算式が得られる。この計算式を演算処理部5に組み込むことにより、この姿勢認識装置が組み込まれた歩数計1を使って、リアルタイムな姿勢の判定結果を使用者10にフィードバックすることができる。
【0059】
演算処理部5による着座姿勢の判定は、使用者10が歩数計1を装着して活動している時間のうち、座っている(着席している)と判定されている間はリアルタイムで常時行う。この姿勢の判定の大まかな流れは、図5に示す認識フローチャートの通りである。
【0060】
まず、ステップS11で、演算処理部5は、1秒周期で上記X方向,Y方向,Z方向の加速度の平均値Aを計算する。次に、ステップS12で、演算処理部5は、姿勢認識を行う時刻t1の60秒前t0からの時刻t1の1秒前までの1秒毎の平均値Aから、60個×3方向の平均値X1,Y1,Z1と標準偏差X2,Y2,Z2と最大値と最小値の差X3,Y3,Z3とゼロクロス回数X4,Y4,Z4を算出する。
【0061】
次に、ステップS13で、演算処理部5は、算出した平均値X1,Y1,Z1と標準偏差X2,Y2,Z2と最大値と最小値の差X3,Y3,Z3とゼロクロス回数X4,Y4,Z4をニューラルネットワーク20の入力層i1〜i12に入力する。すると、ステップS14で、ニューラルネットワーク20の出力層n1〜n7から前述の図4の対応表に示されるような7種類の着座姿勢に関する出力データが得られる。そして、ステップS15で、各出力層n1〜n7からの出力データから姿勢認識を行う時刻t1での使用者10の着座姿勢を判定し、ステップS16で、時刻t1での使用者10の着座姿勢の判定結果をディスプレイ3に表示する。また、上記判定結果は、無線通信機能部4により携帯電話やパソコンにログ保存する。
【0062】
この認識フローチャートのステップS11からステップS16のフローは、1秒周期で行われる。これによって、1秒毎に使用者10の着座姿勢を認識し、リアルタイムで認識結果を使用者10、あるいは、認識結果を利用する外部のシステム(例えば、健康維持目的とした携帯電話向けアプリケーション等)にフィードバックすることができる。また、着座姿勢が悪いことを使用者10にフィードバックする際には、この姿勢認識装置が組み込まれた歩数計1の本体に内蔵したスピーカ15を用い、警告音を発するなどして使用者10に自覚を促すアクションを行う。
【0063】
このように、加速度センサ2の出力の一定の時間区間における平均値,標準偏差,最大値と最小値との差,ゼロクロス回数を算出し、使用者10の着座姿勢の認識に使うデータを仮想的に増やし、この複数のパラメータを入力数の多いニューラルネットワーク20への入力として同時に認識している。これにより、ハードウェアは簡単でも、ソフトウェア的には仮想的に多数のデータから高度なアルゴリズムを用いて使用者10の着座姿勢を判定している状況になり、結果として使用者10の姿勢に関する複雑,高度な認識が可能になる。認識アルゴリズムに多くの情報を同時に処理できるニューラルネットワーク20を利用し、加速度センサ2の一定時間区間における出力から生成されたこれらのパラメータを併用して判別することによって、腰回りの姿勢が傾いているかというような簡単な認識だけでなく、例えば、上述のような「内臓に悪い姿勢を取っていないか」という複雑な内容の認識が可能になる。
【0064】
このように、本実施形態の姿勢認識装置は歩数計1に組み込まれており、歩数計1の構成要素(加速度センサ2,ディスプレイ3等)を使って使用者10が座っている状態の姿勢を推定し、悪い姿勢を検知した場合は携帯電話やPC(パーソナルコンピュータ)、あるいは歩数計1のディスプレイ3やスピーカ15を通じて使用者10に警告や指示を与えることができる。
【0065】
したがって、本実施形態の姿勢認識装置によれば、複数のセンサを使うことなく、シンプルなハードウェアでの高度な姿勢の認識が可能になり、体の様々なところにセンサを取り付ける必要もないので、歩数計のようなシンプルな装置において姿勢の検知が可能になる。よって、使用者10が歩数計1を装着している長い時間の中で、歩いている時や走っている時以外の着座時にも健康に係わる着座姿勢の有益なセンシングと認識を行い、使用者へ健康に関するフィードバックを行うことができる。つまり、常時身につけて使用する歩数計において、あまり役に立っていない「座っている時間」に、使用者の健康に役立つ情報をフィードバックできるようになり、歩数計を常時身に付ける意義が向上する。
【0066】
尚、上記実施形態の姿勢認識装置は、歩数計に組み込んだが活動量計に組み込んでもよく、さらには、他の装置に組み込まずに姿勢認識装置単体としてもよい。また、上記実施形態では、歩数計1と共に使用者の腰に装着したが、この発明の姿勢認識装置を装着する箇所は使用者の腰以外の足,腕,背中,腹,胸,頭,肩等であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 歩数計
1A 前面パネル
1B 本体基板
1C 裏蓋
2 加速度センサ
3 ディスプレイ
4 無線通信機能部
5 演算処理部
5A メモリ
6 充電池
10 使用者
15 スピーカ
20 ニューラルネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の身体に装着される加速度センサと、
上記加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者が座っているか否かを判別する判別部と、
上記判別部が上記使用者が座っていると判別した場合に上記加速度センサの出力信号に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識して評価する認識評価部とを備えたことを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項2】
請求項1に記載の姿勢認識装置において、
上記認識評価部は、
上記加速度センサの出力信号が入力されると共に上記加速度センサからの出力信号に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識できるように予め学習させたニューラルネットワークを有することを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項3】
請求項2に記載の姿勢認識装置において、
上記ニューラルネットワークに予め学習させる着座姿勢は、健康に悪い影響を及ぼす複数の異なる悪い着座姿勢を含んでおり、
上記認識評価部は、
上記ニューラルネットワークにより認識した上記使用者の着座姿勢が上記悪い着座姿勢であるときに、この悪い着座姿勢が使用者の健康に及ぼす悪影響を表す情報を上記使用者に報知する報知部を有することを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の姿勢認識装置において、
上記認識評価部は、
予め定められた期間において、上記加速度センサの出力信号の予め設定された検出時間毎の複数の平均値を求め、この複数の平均値に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識することを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の姿勢認識装置において、
上記認識評価部は、
現在時刻から予め定めた設定時間以上前の時刻から現在時刻までの期間において、上記加速度センサの出力信号の予め設定された上記検出時間毎の複数の平均値を求め、この複数の平均値に基づいて上記使用者の着座姿勢を認識することを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項6】
請求項5に記載の姿勢認識装置において、
上記設定時間は10秒間または60秒間であり、上記検出時間は1秒間であることを特徴とする姿勢認識装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の姿勢認識装置を備えたことを特徴とする歩数計。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1つに記載の姿勢認識装置を備えたことを特徴とする活動量計。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250915(P2011−250915A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125515(P2010−125515)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】