説明

媒体搬送ローラー、記録装置、媒体搬送ローラーの製造方法

【課題】紙粉の飛散や用紙への再付着を防止することができ、更には記録装置の複雑化とコストアップを抑えることのできる媒体搬送ローラーを提供する。
【解決手段】被記録媒体に記録を行う記録装置において被記録媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーとしての搬送駆動ローラー40は、板材Tを円筒状に加工して形成されている。その外周面には、用紙と接する搬送領域Wに、中空軸の肉厚方向に貫通する貫通穴Hが点在する様に形成されているので、用紙に付着した紙粉Dが貫通穴Hから中空軸の内部に取り込まれ、そしてまた貫通穴Hを通じて中空軸の下方に排出される。これにより、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の用紙への再付着や飛散を防止することができ、もって記録ヘッド37に紙粉が付着することを防止し或いは抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置において、用紙等の被記録媒体の搬送を担う媒体搬送ローラー、およびこれを備えた記録装置に関する。また本発明は、媒体搬送ローラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリやプリンター等に代表される記録装置においては、被記録媒体に記録を行う記録手段の上流側に、被記録媒体を搬送する搬送手段が設けられている。搬送手段の構成としては、被記録媒体を吸着しながら搬送する搬送ベルトなどがあるが、被記録媒体を挟圧しながら回転する一対のローラーにより構成されるのが一般的である。
【0003】
更にローラーの構成としては、ゴムなどにより形成された弾性ローラーなどがあるが、特にインクジェットプリンターにおいては、特許文献1、2に示されるように金属軸の表面に高摩擦層が形成された軸状のローラーが用いられることがある。尚、高摩擦層は、耐摩耗性粒子を軸体の外周面に接着層により保持することによって形成され、被記録媒体との間の摩擦係数を向上させてスリップを防止する機能を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63862号公報
【特許文献2】特開2001−158544号公報
【特許文献3】特開2006−289496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、用紙には所定サイズに切断された際に発生した紙粉が付着している場合があり、そして紙粉がインクジェット記録ヘッドに付着すると、紙粉がノズル開口を直接閉塞することにより、或いはノズル面の清掃(ワイピング)時に紙粉がノズル開口に移動することによって、ドット抜けを招く場合がある。
【0006】
そして記録装置において何らの紙粉対策を講じない場合、紙粉が媒体搬送ローラーに付着すると、ローラーの回転に伴い紙粉が飛散し、或いは紙粉が用紙に再び付着してそこから飛散し、上記の様な不具合を招くことになる。
しかし、用紙の紙粉を除去する為に、例えば用紙と接して紙粉を掻き取る紙粉除去手段や、紙粉吸引手段などを別途設けると、装置の複雑化とコストアップを招いてしまうことになる。
【0007】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、紙粉の飛散や用紙への再付着を防止することができ、更には記録装置の複雑化とコストアップを抑えることのできる媒体搬送ローラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、外周面が媒体と接する媒体搬送領域を有する中空軸に、前記媒体搬送領域の肉厚方向に貫通する貫通穴が複数設けられたことを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーは、外周面において媒体と接する媒体搬送領域に、中空軸の肉厚方向に貫通する貫通穴が複数設けられて成るので、媒体に付着した紙粉が貫通穴から中空軸の内部に取り込まれ、そしてまた貫通穴を通じて中空軸の下方に排出される。これにより、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の媒体への再付着や飛散を防止することが可能となる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記中空軸は、板材を円筒状に加工して形成されており、前記貫通穴は、前記板材の一方側の面から他方側の面に向けて打ち抜かれたパンチ穴であり、前記中空軸は、前記一方側の面を外周面として、前記板材が円筒状に加工されて成ることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、前記貫通穴は板材の一方側の面から他方側の面に向けて打ち抜かれたパンチ穴であるため、前記他方側の面において貫通穴の縁には「カエリ」と呼ばれるバリ状の突起が形成される場合がある。この様なバリ状の突起がローラー外周面に存在すると、媒体にダメージを与える虞がある。しかし本態様においては、上記のようなバリ状の突起が形成されない面がローラー外周面となるように、板材が円筒状に加工されるので、上記不具合を回避することができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、外周面が媒体と接する媒体搬送領域を有する中実軸に、前記媒体搬送領域の径方向に貫通する貫通穴が複数設けられたことを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーは、外周面において媒体と接する媒体搬送領域に、径方向に貫通する貫通穴が複数設けられて成るので、媒体に付着した紙粉が貫通穴の内部に取り込まれ、そしてまた貫通穴を通じて下方に排出される。これにより、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の媒体への再付着や飛散を防止することが可能となる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記貫通穴が、前記媒体搬送領域の全域に渡って点在することを特徴とする。
本態様によれば、前記貫通穴が、前記媒体搬送領域の全域に渡って点在するので、媒体の全域に対し、付着した紙粉を効果的にローラー内部に取り込むことができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、外周面が媒体と接する媒体搬送領域を有する中空軸の前記媒体搬送領域に、スリットが設けられたことを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーは、外周面において媒体と接する媒体搬送領域に、スリットが設けられているので、媒体に付着した紙粉をスリット内部に取り込むことができる。これにより、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の媒体への再付着や飛散を防止することが可能となる。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、前記貫通穴は、その入口がローラー外側に向かって拡開することを特徴とする。
本態様によれば、前記貫通穴が、その入口がローラー外側に向かって拡開するので、紙粉を良好にローラー内部に誘い込むことができるとともに、貫通穴の長さ方向(ローラーの径方向)全域に渡って当該貫通穴の径を大きくする必要がない為、ローラー全体の強度低下を抑えることができる。
【0018】
本発明の第7の態様は、媒体に記録を行う記録手段を備えた記録装置であって、第1から第6の態様のいずれかに係る前記媒体搬送ローラーを備えて構成されていることを特徴とする。本態様によれば、記録装置において、上記第1から第6の態様と同様な作用効果を得ることができる。
【0019】
本発明の第8の態様は、第7の態様において、記録装置は媒体の搬送経路において記録手段の上流側に、前記媒体搬送ローラーと、当該媒体搬送ローラーと接する従動ローラーと、を備えて構成された媒体搬送手段を備え、媒体の先端を前記媒体搬送ローラー又は前記媒体搬送ローラーと前記従動ローラーとの間に当接させることにより媒体のスキューを矯正するモードを実行可能に構成されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、記録装置は媒体の先端を前記媒体搬送ローラー又は前記媒体搬送ローラーと前記従動ローラーとの間に当接させることにより媒体のスキューを矯正するモードを実行可能に構成されているので、当該スキュー矯正モードを実行することにより、媒体先端に付着した紙粉を上記貫通穴を介して効果的に除去することができる。
【0021】
本発明の第9の態様は、第7のまたは第8の態様において、前記媒体搬送ローラーを経由した媒体を反転させ、再び前記媒体搬送ローラーの上流に到達させる媒体反転手段を備え、媒体に対し記録を行う前に、前記媒体反転手段により媒体を反転させて、前記媒体搬送ローラーと一度接した面に対して記録を実行することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、記録装置は前記媒体搬送ローラーを経由した媒体を反転させ、再び前記媒体搬送ローラーの上流に到達させる媒体反転手段を備えており、媒体に対して記録を行う前に、前記媒体反転手段により媒体を反転させて、前記媒体搬送ローラーと一度接した面に対して記録を実行するので、記録を実行する面が前記媒体搬送ローラーの貫通穴と一度接したことで紙粉が除去された状態となり、これにより紙粉の飛散、特に記録手段側への飛散を効果的に防止できる。
【0023】
本発明の第10の態様は、第7のまたは第8の態様において、媒体に対し記録を行う前に、媒体が前記媒体搬送ローラーを抜ける直前まで前記媒体搬送ローラーにより媒体を送り出し、その後前記媒体搬送ローラーを逆転させて媒体を頭出し位置に位置決めすることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、記録装置は媒体に対し記録を行う前に、媒体が前記媒体搬送ローラーを抜ける直前まで前記媒体搬送ローラーにより媒体を送り出し、その後前記媒体搬送ローラーを逆転させて媒体を頭出し位置に位置決めするので、少なくとも記録開始前には、媒体において媒体搬送ローラーと接する面のほぼ全域について紙粉が除去された状態となり、これにより紙粉の飛散を効果的に防止できる。
【0025】
本発明の第11の態様は、第7から第10の態様のいずれかにおいて、前記記録手段は、媒体の搬送方向と直交する方向に移動しながら記録を実行する記録ヘッドを備え、前記記録ヘッドは、媒体の給送が開始されてから記録開始位置に位置決めされる迄の間において、少なくとも媒体が搬送方向における前記記録ヘッドの配置位置を通過する間は、媒体と対向しない位置に退避することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、前記記録ヘッドは、媒体の給送が開始されてから記録開始位置に位置決めされる迄の間において、少なくとも媒体が搬送方向における前記記録ヘッドの配置位置を通過する間は、媒体と対向しない位置に退避しているので、前記記録ヘッドに紙粉が付着することを効果的に抑制することができる。
【0027】
本発明の第12の態様は、媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーの製造方法であって、板材の一方側の面から他方側の面に向けてパンチ穴を打ち抜く第1の工程と、前記パンチ穴が打ち抜かれた面が外周面となるように、前記板材を円筒状に加工する第2の工程と、を備えることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、材の一方側の面から他方側の面に向けてパンチ穴を打ち抜く第1の工程と、前記パンチ穴が打ち抜かれた面が外周面となるように、前記板材を円筒状に加工する第2の工程と、を備えるので、得られた媒体搬送ローラーにより、上記第1の態様及び上記第2の態様と同様な作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るプリンターの用紙搬送経路の側断面概略図。
【図2】本発明に係るプリンターの用紙搬送経路の側断面概略図。
【図3】紙案内部材と搬送駆動ローラーの断面斜視図。
【図4】(A)は搬送駆動ローラーの完成状態の平面図、(B)は同ローラーの円筒加工前の展開状態の平面図。
【図5】(A)は搬送駆動ローラーの円筒加工前の板材を貫通穴の部分で切断した断面図、(B)は同円筒加工後の断面図。
【図6】(A)は記録動作の内容を示すフローチャート、(B)は記録動作の他の実施例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図1〜図6を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。ここで図1及び図2は本発明に係る記録装置の一例としてのインクジェットプリンター1の用紙搬送経路を示す側断面図、図3は紙案内部材30と搬送駆動ローラー40の断面斜視図、図4(A)は搬送駆動ローラー40の完成状態の平面図、図4(B)は同ローラーの円筒加工前の展開状態の平面図、図5(A)は搬送駆動ローラー40の円筒加工前の板材を貫通穴の部分で切断した断面図、図5(B)は同円筒加工後の断面図、図6(A)は記録動作の内容を示すフローチャート、図6(B)は記録動作の他の実施例を示すフローチャートである。
【0031】
尚、以下では図1、図2において中間ローラー24から排出駆動ローラー47に至る用紙搬送経路において同図右方向を用紙搬送経路の「下流側」と言い、同図左方向を用紙搬送経路の「上流側」と言うこととする。
【0032】
図1においてインクジェットプリンター1は装置底部に用紙給送部2を備えており、この用紙給送部2から被記録媒体の一例としての記録用紙Pを送り出し、用紙送りローラーユニット3にて湾曲反転させて記録手段(インクジェット記録ヘッド37)の側へと給送し、記録を行う構成を備えている。尚、図1において破線P1はこのときの記録用紙Pの搬送ルート(通過軌跡)を示している。
【0033】
またインクジェットプリンター1は記録用紙Pの第1面(おもて面)に記録を行った後、これをバックフィードして用紙送りローラーユニット3に送り込み、反転させ、第2面(うら面)を上にして再びインクジェット記録ヘッド37の側へ搬送することができるように構成されている。即ち両面記録可能に構成されており、図2において破線P2はこのときの記録用紙Pの搬送ルート(通過軌跡)を示している。
【0034】
符号8はプリンター機構部の上部に設けられるスキャナーユニットを示しており、インクジェットプリンター1はこのスキャナーユニット8にて読み込んだ原稿画像を下部のプリンター機構部により印刷出力が可能な、所謂複合機として構成されている。
【0035】
以下、更に用紙搬送経路の構成について詳説する。用紙給送部2は用紙カセット11と、給送ローラー18と、を備えている。プリンター装置本体に対して着脱可能な用紙カセット11には図示を省略するエッジガイドが設けられており、このエッジガイドによって用紙カセット11に収容された記録用紙Pの側端位置および後端位置が規制されるようになっている。
【0036】
用紙カセット11に収容された記録用紙Pの先端と対向する位置には分離斜面12が設けられており、給送ローラー18により送り出される記録用紙Pの先端が分離斜面12に摺接しつつ下流側へ給送されることで、給送されるべき最上位の記録用紙Pと、これに連れられて重送されようとする次位以降の記録用紙Pとの分離が行われる。
【0037】
給送ローラー18は、揺動軸20を中心にして図1及び図2の時計回り方向及び反時計回り方向に揺動可能な揺動部材19に軸支されており、且つ、図示しない駆動モーターの動力によって回転駆動されるように設けられている。給送ローラー18は、用紙給送時には用紙カセット11に収容された記録用紙Pの最上位のものに接して回転することにより、最上位の記録用紙Pを用紙カセット11から送り出す。
【0038】
尚、用紙カセット11において給送ローラー18と対向する位置には摩擦パッド13が設けられており、給送ローラー18が用紙束に上方から圧接した際に、最下位の記録用紙Pが摩擦パッド13に向けて押圧されることにより、用紙束ごと送り出されないように用紙束を保持する機能を果たす。
【0039】
用紙カセット11から上方に送り出された記録用紙Pは、用紙送りローラーユニット3に入る。この用紙送りローラーユニット3は、用紙反転手段を構成する反転ローラー22と、中間ローラー23、24と、ガイド部材25と、を備えている。
【0040】
反転ローラー22は、記録用紙Pを湾曲反転させる経路の内側を形成する大径ローラーであり、本実施形態では用紙幅方向(図1及び図2の紙面表裏方向)において中心位置、即ち本実施形態に係るインクジェットプリンター1の給送基準位置に1つ、配置されている(図3も参照)。反転ローラー22は、図示しない駆動モーターの動力により回転駆動されるよう設けられており、図1及び図2の時計回り方向に回転することにより、記録用紙Pを下流側へと搬送する。
【0041】
中間ローラー23、24は自由回転可能なローラーであり、反転ローラー22との間で記録用紙Pをニップすることにより、反転ローラー22による用紙送りを補助する。ガイド部材25は、反転ローラー22と搬送駆動ローラー40との間に位置し、上側経路と、第1面に記録がおこなわれた記録用紙Pがバックフィードされる際に経由する下側経路とを形成する。
【0042】
次に、中間ローラー24の下流側には、搬送駆動ローラー40と搬送従動ローラー41とを備えて構成された第1搬送手段が設けられている。搬送駆動ローラー40は、本実施形態では用紙幅方向に長い軸体の表面に耐摩耗性粒子が付着されて成り、図示を省略する駆動モーターにより回転駆動される。尚、搬送駆動ローラー40は、本実施形態では金属板材を円筒状に加工した中空軸により形成されているが、これについては後に詳述する。
【0043】
また、図4及び図5において符号Saは前記耐摩耗性粒子が付着されて成る高摩擦領域を示しており、この高摩擦領域Saが記録用紙Pと接する領域(媒体搬送領域)となる。また、符号Wは高摩擦領域Saの形成範囲を、符号Sbは耐摩耗性粒子が付着されていない低摩擦領域を、それぞれ示している。
【0044】
図1及び図2に戻って、搬送従動ローラー41は、本実施形態では樹脂材料により形成され、搬送駆動ローラー40の長手方向に沿って複数配置される。この搬送従動ローラー41は、ローラー支持体としての紙案内部材30に自由回転可能に軸支されるとともに、搬送駆動ローラー40に対して圧接するよう設けられ、搬送駆動ローラー40との間で記録用紙Pをニップする。
【0045】
搬送従動ローラー41を支持する紙案内部材30は、揺動軸30aを介してフレーム33に揺動可能に支持されるとともに、フレーム33と紙案内部材30との間で付勢力を発揮する引っ張りばね31により、搬送従動ローラー41が搬送駆動ローラー40に圧接する方向に付勢された状態に設けられる。
【0046】
尚、この紙案内部材30は、搬送従動ローラー41を軸支するほか、上流側から給送される記録用紙Pを搬送駆動ローラー40と搬送従動ローラー41とのニップ点に案内する機能を果たす。また紙案内部材30は、後端が搬送従動ローラー41と搬送駆動ローラー40とのニップ点から下流側(図1及び図2において右側)に外れた記録用紙Pがバックフィードされる際(図1及び図2において左方向に搬送される際)、用紙後端を搬送駆動ローラー40と搬送従動ローラー41とのニップ点に案内する機能をも果たす。
【0047】
次に、搬送駆動ローラー40の下流側には、インクジェット記録ヘッド37と、紙案内部材45とが上下に対向配置されている。インクジェット記録ヘッド37はキャリッジ36の底部に設けられ、このキャリッジ36は前後に配置されたフレーム33、34にガイドされながら、図示を省略する駆動モーターの動力を受けて主走査方向(図1及び図2の紙面表裏方向)に往復動するよう設けられる。尚、このキャリッジ36には図示を省略するンクカートリッジが収容される。
【0048】
紙案内部材45においてインクジェット記録ヘッド37と対向する面には用紙搬送方向に延びるリブ45a、45b、45cが、用紙搬送方向の上流側から下流側に向かってこの順で所定間隔で配置され、また各リブが主走査方向に適宜の間隔を置いて複数設けられている(主走査方向の配置は図示せず)。記録用紙Pは、これらリブにより支持され、インクジェット記録ヘッド37との距離が規定される。
【0049】
次に、インクジェット記録ヘッド37と紙案内部材45とが対向する領域の下流側には用紙浮きを防止する補助ローラー46が設けられ、更にその下流側には第2搬送手段を構成する排出駆動ローラー47と排出従動ローラー48とが設けられている。排出駆動ローラー47はゴムローラーにより構成され、図示を省略する駆動モーターにより回転駆動される。排出従動ローラー48は排出駆動ローラー47に軽く弾接するよう設けられた拍車であり、排出駆動ローラー47との間で記録用紙Pをニップする。これらローラーにより、記録の行われた記録用紙Pは、図示を省略するスタッカへむけて排出される。
【0050】
尚、搬送駆動ローラー40は正逆回転可能に構成されており、即ち記録用紙Pをインクジェット記録ヘッド37の側へ搬送する第1方向(図1及び図2において右方向:下流側方向)と、反転経路を有する用紙送りローラーユニット3の側へ搬送する第2方向(図1および図2において左方向:上流側方向)の双方向に記録用紙Pを搬送可能である。また排出駆動ローラー47についても同様に、正逆回転可能に構成されており、上記第1方向、第2方向いずれの方向にも記録用紙Pを搬送可能である。
【0051】
以上がインクジェットプリンター1の用紙搬送経路の構成であり、以下、図3乃至図6を参照しながら媒体搬送ローラーとしての搬送駆動ローラー40について詳説する。
【0052】
搬送駆動ローラー40は、上述の通り本実施形態では金属板材を円筒状に加工して形成されたものであり、主として金属板材のプレス加工と、当該プレス加工時に、或いは当該プレス加工とは別に行われる、貫通穴Hを形成する穴開け加工(後述)と、得られた板材の円筒加工と、円筒加工により得られた円筒軸の表面に耐摩耗性粒子を付着する加工と、を含んでいる。以下では先ず、金属板材のプレス加工を行う際の抜き形状について詳説する。尚、円筒加工については、例えば上述した特許文献3に記載された加工方法を採用することができる。
【0053】
図4(A)は搬送駆動ローラー40の平面図であり、符号Rは搬送領域Wにおける接合部を示し、符号Qは円周線(仮想の直線:用紙搬送方向に対して平行となる)を示している。また符号Jはジグソー部を、符号Maはマッチング穴を、それぞれ示している。そしてこの搬送駆動ローラー40は、図4(B)に示す板材Tを円筒状に曲げ加工することで得られる。図4(B)において符号Mはマッチングを、符号R1、R2は円筒加工後に搬送領域Wを形成することとなる、板材Tの一対の端部を示している。
【0054】
図4(B)に示すように、端部R1、R2は円周線Qに対して直角(α=90°)を成す様に直線状に延びており、凹凸部等は一切形成されない滑らかな直線により形成されている。円筒加工後の接合部Rも、これにより図4(A)に示すように円周線Qに対して直角(α=90°)を成す様に直線状に延び、凹凸部等は一切形成されない滑らかな直線となる。
【0055】
プレス加工時に形成されるマッチングMは、搬送領域Wの外側に位置しており、円筒加工後は凹部が対向することでマッチング穴Maとなる。ジグソー部Jは、接合強度を高める為に形成される凹凸嵌合部であり、接合時にちょうど嵌合する様に板材Tの一方側端部が凹状に、他方側端部が凸状に形成される。ジグソー部Jにより、搬送駆動ローラー40は円筒加工後の特にねじれ強度が向上する様になっているが、このジグソー部Jも、マッチング穴Maと同様に搬送領域Wの外側に位置する。
【0056】
以上の様に本実施形態によれば、板材Tを円筒状に加工して形成される搬送駆動ローラー40は、板材Tの一対の端部R1、R2を接合した接合部Rは、少なくとも用紙と接する搬送領域Wが、円周線Qに対して交差する方向に直線状に延びており、マッチング穴Maやジグソー部Jが搬送領域Wの外側に形成されるので、用紙先端が搬送駆動ローラー40の外周面に引っ掛かることを軽減或いは防止でき、円滑な搬送を確保することができる。
【0057】
尚、マッチング穴Maとジグソー部Jを、搬送駆動ローラー40を軸支する軸受部(図示せず)により軸支される領域外に配置することで、軸受部の内周面との間で円滑な摺動を確保することも可能となる。
【0058】
次に、搬送領域Wには、板厚方向に貫通する貫通穴Hが、搬送領域Wの全域に渡って点在する様に形成される。より具体的には、本実施形態では軸方向(用紙幅方向:図4の左右方向)に間隔X1を空けて複数形成された貫通穴Hの列が、軸方向と直交する方向(用紙搬送方向となる:図4の上下方向)に間隔Y1を空けて、且つ軸方向位置をX2(本実施形態では、X2=X1/2)ずらしながら複数形成されている。換言すれば、貫通穴Hが、千鳥状に形成されている。
【0059】
貫通穴Hの大きさ、配置間隔、開口形状、等は、後述する紙粉の誘い込み性と、搬送駆動ローラー40全体の強度を考慮して適宜設定することができる。例えば、貫通穴Hの開口形状を直径2mmの真円とし、軸方向の配置間隔X1を10mmとし、軸方向と直交する方向の配置間隔Y1については円筒を形成した際に45°間隔とする(搬送駆動ローラー40の直径をdとすれば、Y1=π・d/8とする)ことができる。
【0060】
ここで貫通穴Hは、円筒加工前にパンチ加工により形成することができ、例えば図5(A)に示すように穴開けポンチZを用いて板材Tの一方側の面T1の側から他方側の面T2に向けて打ち抜くことで形成することができる。
【0061】
このとき、一方側の面T1にはダレと呼ばれる凹み(符号Kで示す)が形成され、他方側の面T2にはカエリと呼ばれるバリ状の突起(符号Lで示す)が形成される。このバリ状の突起Lが形成された面T2がローラー外周面を形成すると、バリ状の突起Lが用紙にダメージを与える虞がある。或いは、この様なバリ状の突起Lを除去する為の研磨工程が別途必要となる。本実施形態では、板材Tの円筒加工時に面T2が内側に成るように加工するため、上記不具合の発生を防止している。
【0062】
また、本実施形態では、貫通穴Hの入口がローラー外側に向かって拡開する様に、即ちローラー内側の開口径a2よりもローラー外側の開口径a1が大きくなるように形成されている。これにより、紙粉を良好にローラー内部に誘い込むことができるとともに、貫通穴Hの長さ方向(図5では板厚方向)全域に渡って径を大きくする必要がない為、ローラー全体の強度低下を抑えることができる。
【0063】
以上説明したように、搬送駆動ローラー40は、外周面において用紙と接する搬送領域Wに、中空軸の肉厚方向に貫通する貫通穴Hが点在する様に形成されているので、用紙に付着した紙粉(図3において符号Dで示す)が貫通穴Hから中空軸の内部に取り込まれ(図3)、そしてまた貫通穴Hを通じて中空軸の下方に排出される。これにより、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の用紙への再付着や飛散を防止することができ、もって記録ヘッド37に紙粉が付着することを防止し或いは抑制することが可能となる。
【0064】
尚、本実施形態では貫通穴Hの開口形状は真円形状としたが、これに限られず、多角形の形状や星形の形状など、種々の形態を採用することができる。また、図3において符号45dは、紙案内部材45に形成された紙粉受け凹部を示しており、搬送駆動ローラー40の内部に取り込まれた紙粉Dは、この紙粉受け凹部45dに落下し、収集される様になっている。しかしこの様な紙粉受け手段は、紙案内部材45と一体に形成する構成ではなく、別途トレイ状の紙粉受けを搬送駆動ローラー40の下方に配置することでも構成できる。
【0065】
ところで、この様な搬送駆動ローラー40による紙粉回収効果は、用紙給送時の制御によってより効果的に得ることができる。例えば、用紙先端を搬送駆動ローラー40、又は搬送駆動ローラー40と搬送従動ローラー41との間に当接させることにより用紙スキューを矯正するスキュー取りモードを実行することで、用紙先端に付着した紙粉を貫通穴Hを介して効果的に除去することができる。
【0066】
この様なスキュー取り制御としては、所謂突き当て方式や食い付き吐き出し方式を採用することができる。例えば、食い付き吐き出し方式のスキュー取りでは、用紙先端が搬送駆動ローラー40よりも下流側に所定量送り出された後、中間ローラー22による用紙送りを停止した状態で搬送駆動ローラー40を逆転させる。これにより、用紙Pが中間ローラー22と搬送駆動ローラー40との間で撓むとともに用紙先端が搬送駆動ローラー40と搬送従動ローラー41との間に倣うことで、スキューが除去される。そしてこの際に、用紙先端の紙粉が除去される。
【0067】
また、図6(A)、(B)に示すような制御を行うことでも、紙粉を効果的に除去することができる。一例として、インクジェットプリンター1は図6(A)に示すように、用紙カセット11から用紙を給紙した後(ステップS101)、そのまま印刷は行わずに、一旦図2で示したように用紙を反転させ(ステップS102)、その後に第1面(おもて面)に記録を実行する(ステップS103)。そして用紙の両面に記録を行う場合には、再度用紙を反転させ(ステップS104)そして第2面(うら面)への記録を実行する(ステップS105)。
【0068】
即ち、用紙に対し記録を行う前に一旦反転させることで、記録を行う面について一度必ず搬送駆動ローラー40と接触させ、当該搬送駆動ローラー40に形成された貫通穴Hにより紙粉を除去する。従ってこれにより、紙粉の飛散、特に用紙においてインクジェット記録ヘッド37と対向する面から記録ヘッド37側への紙粉の飛散を効果的に防止できる。
【0069】
また、他の実施例としては、図6(B)に示すように用紙カセット11から用紙を給送した後(ステップS201)、そのまま印刷は行わずに、搬送駆動ローラー40から用紙後端が外れる直前まで順送りし(ステップS202)、その後用紙を逆送りすることにより用紙の頭出しを行う(ステップS203)。
【0070】
その後、第1面(おもて面)に記録を実行し(ステップS204)、そして用紙の両面に記録を行う場合には、用紙を反転させ(ステップS205)、そして第2面(うら面)への記録を実行する(ステップS206)。
【0071】
これにより、少なくとも記録開始前には、用紙において搬送駆動ローラー40と接する面のほぼ全域について紙粉が除去された状態となり、これにより紙粉の飛散を効果的に防止することができる。
【0072】
尚、用紙の給送が開始されてから記録開始位置に位置決めされる迄の間において、少なくとも用紙が搬送方向における記録ヘッド37の配置位置を通過する間は、記録ヘッド37を用紙と対向しない位置に退避させておくことが有効である。これにより、記録ヘッド37に紙粉が付着することを効果的に抑制することが可能となる。
【0073】
以上説明した実施形態は一例であり、種々の変形を行うことができる。特に上記実施形態は、本発明が上述した各特徴的構成を全て備えることを意味するものではなく、例えば少なくとも貫通穴Hを搬送駆動ローラー40に備える限りに置いて、貫通穴Hによる紙粉のローラー内部への誘い込み効果を得ることができる。
【0074】
加えて、上記実施形態では搬送駆動ローラー40に中空軸を利用したが、上記実施形態のように板材の円筒加工により得られた中空軸に限らず、その他の製造方法によって得られた中空軸であっても、軸方向に貫通する貫通穴Hが形成されていれば、当該貫通穴Hによる紙粉のローラー内部への誘い込み効果を得ることができる。
【0075】
また、中空軸には、貫通穴のほか、スリットを形成することもできる。この様にスリットを形成することで、当該スリットを介して紙粉がローラー内部に取り込まれ、そして当該スリットを介してローラー下方に排出されるので、特別な構成要素を別途設けることなく、紙粉の用紙への再付着や飛散を防止することができる。尚、中空軸にスリットを形成する場合は、当該スリットは肉厚方向に貫通する様に形成し、中実軸にスリットを形成する場合は、径方向に貫通する様に形成する。また、スリットの形態として、例えば外周面に螺旋状に延びる様に形成することもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェットプリンター、2 用紙給送部、3 用紙送りローラーユニット、4 スキャナーユニット、11 用紙カセット、12 分離斜面、13 摩擦パッド、18 給送ローラー、19 揺動部材、20 揺動軸、22 反転ローラー、23、24 中間ローラー、25 ガイド部材、30 紙案内部材、36 キャリッジ、37 インクジェット記録ヘッド、40 搬送駆動ローラー、41 搬送従動ローラー、45 紙案内部材、46 補助ローラー、47 排出駆動ローラー、48 排出従動ローラー、
H 貫通穴、J ジグソー部、K ダレ、L カエリ、M マッチング、Ma マッチング穴、P 記録用紙、Q 円周線、R 接合部、R1、R2 端部、Sa 高摩擦領域、Sb 低摩擦領域、T 板材、W 搬送領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、
外周面が媒体と接する媒体搬送領域を有する中空軸に、
前記媒体搬送領域の肉厚方向に貫通する貫通穴が複数設けられた媒体搬送ローラー。
【請求項2】
請求項1に記載の媒体搬送ローラーにおいて、前記中空軸は、板材を円筒状に加工して形成されており、
前記貫通穴は、前記板材の一方側の面から他方側の面に向けて打ち抜かれたパンチ穴であり、
前記中空軸は、前記一方側の面を外周面として、前記板材が円筒状に加工されて成る、
ことを特徴とする媒体搬送ローラー。
【請求項3】
媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、
外周面が媒体と接する媒体搬送領域を有する中実軸に、
前記媒体搬送領域の径方向に貫通する貫通穴が複数設けられた媒体搬送ローラー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の媒体搬送ローラーにおいて、前記貫通穴が、前記媒体搬送領域の全域に渡って点在する媒体搬送ローラー。
【請求項5】
媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーであって、
外周面が媒体と接する媒体搬送領域に、スリットが設けられた媒体搬送ローラー。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の媒体搬送ローラーにおいて、前記貫通穴は、その入口がローラー外側に向かって拡開することを特徴とする媒体搬送ローラー。
【請求項7】
媒体に記録を行う記録手段を備えた記録装置であって、
請求項1から6のいずれか1項に記載された前記媒体搬送ローラーを備えて構成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項8】
請求項7に記載の記録装置において、媒体の搬送経路において前記記録手段の上流側に、前記媒体搬送ローラーと、当該媒体搬送ローラーと接する従動ローラーと、を備えて構成された媒体搬送手段を備え、
媒体の先端を前記媒体搬送ローラー又は前記媒体搬送ローラーと前記従動ローラーとの間に当接させることにより媒体のスキューを矯正するモードを実行可能に構成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の記録装置において、前記媒体搬送ローラーを経由した媒体を反転させ、再び前記媒体搬送ローラーの上流に到達させる媒体反転手段を備え、
媒体に対し記録を行う前に、前記媒体反転手段により媒体を反転させて、前記媒体搬送ローラーと一度接した面に対して記録を実行する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の記録装置において、媒体に対し記録を行う前に、媒体が前記媒体搬送ローラーを抜ける直前まで前記媒体搬送ローラーにより媒体を送り出し、その後前記媒体搬送ローラーを逆転させて媒体を頭出し位置に位置決めする、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載の記録装置において、前記記録手段は、媒体の搬送方向と直交する方向に移動しながら記録を実行する記録ヘッドを備え、
前記記録ヘッドは、媒体の給送が開始されてから記録開始位置に位置決めされる迄の間において、少なくとも媒体が搬送方向における前記記録ヘッドの配置位置を通過する間は、媒体と対向しない位置に退避することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
媒体の搬送を担う媒体搬送ローラーの製造方法であって、
板材の一方側の面から他方側の面に向けてパンチ穴を打ち抜く第1の工程と、
前記パンチ穴が打ち抜かれた面が外周面となるように、前記板材を円筒状に加工する第2の工程と、を備える媒体搬送ローラーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230916(P2011−230916A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105277(P2010−105277)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】