説明

媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置

【課題】送り負荷を抑制することができると共に、コンパクトに構成することができる。
【解決手段】反転搬送路R1に沿って、用紙Aを搬送する給送ローラー41と、給送ローラー41と同軸上で回動自在に構成されたキャリアー71と、搬送始端位置P1と搬送終端位置P2との間で公転可能に構成されたプラネタリーローラー72と、先端部が、給送ローラー41とプラネタリーローラー72との間に用紙Aを送り込む媒体送り込み手段41、59と、搬送終端位置P2において公転を停止させる終端ストッパー74と、を備え、給送ローラー41とプラネタリーローラー72とは、用紙Aの先端部を挟持した状態で、プラネタリーローラー72が給送ローラー41と連れ回りするための摩擦力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、円弧状の搬送路に沿って記録媒体を搬送する媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の媒体搬送機構として、画像記録装置において給紙カセットから記録部に用紙を搬送する構成が知られている。この画像記録装置では、給紙カセットに臨む給紙ローラーと、給紙ローラーと記録部との間の給紙搬送路を構成する搬送路体と、搬送路体に設けた複数の回転コロと、を備えている。
搬送路体は、Uターン状の給紙搬送路(Uターンパス)に沿って設けた湾曲形状の板部と、板部に形成した開口を介して給紙搬送路に臨む複数の回転コロと、を有しており、複数の回転コロは、板部の内側に僅かに突出させた状態で、搬送方向に間隔を存して配設されている。これにより、記録媒体を1ずつ確実に且つ安定に記録部に給送できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−8328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように従来の媒体搬送機構では、複数の回転コロが板部の外側に大きく突出するため、給紙搬送路に沿って十分なスペースが必要となり、全体として装置が大型化し、且つ部品点数が増してコスト高になる問題があった。また、用紙を複数の回転コロの相互間で受け渡しながら搬送するため、送り負荷が大小不安定となると共に、省スペースのために給紙搬送路の曲率を大きくすると、送り負荷が極端に大きくなってしまう問題があった。
【0005】
本発明は、送り負荷を抑制することができると共に、コンパクトに構成することができる媒体搬送機構およびこれを備えた記録装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の媒体搬送機構は、外周面に沿う円弧状の搬送路に沿って、記録媒体を搬送するサンローラーと、サンローラーと同軸上において、回動自在に構成されたキャリアーと、キャリアーの先端部に回転自在に設けられ、搬送路の搬送始端位置と搬送終端位置との間で、サンローラーに対し公転可能に構成されたプラネタリー部材と、先端部が、サンローラーと搬送始端位置に公転したプラネタリー部材との間に挟持されるように、記録媒体を送り込む媒体送り込み手段と、搬送終端位置において、プラネタリー部材の公転を停止させる終端ストッパーと、を備え、サンローラーとプラネタリー部材とは、記録媒体の先端部を挟持した状態で、キャリアーを介してプラネタリー部材がサンローラーと連れ回りするための摩擦力を発生させることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、媒体送り込み手段により、搬送始端位置にあるプラネタリー部材とサンローラーとの間に記録媒体を送り込むと、記録媒体の先端部がこのプラネタリー部材とサンローラーとの間に挟持される。このようにして、記録媒体がプラネタリー部材とサンローラーとの間に挟持されると、サンローラー、記録媒体およびプラネタリー部材との相互間に所望の摩擦力が発生し、キャリアーを介してプラネタリー部材がサンローラーと連れ回りする。これにより、記録媒体の先端部は、サンローラーに沿って(サンローラーの外周面に沿う円弧状の搬送路に沿って)搬送始端位置から搬送終端位置に移動する。記録媒体の先端部が搬送終端位置に達すると、プラネタリー部材は終端ストッパーによりその公転を停止する。プラネタリー部材が停止し、サンローラーが回転を継続すると、サンローラーにより記録媒体が先方に送り出されてゆく。
このように、記録媒体をサンローラーに添わせて送ることができるため、装置全体をコンパクトに構成することができる。また、記録媒体を、サンローラーとプラネタリー部材とで挟持して搬送するようにしているため、記録媒体が他の部材に摺動することがなく、記録媒体の摺動抵抗を極力押えることができる。また、記録媒体をサンローラーに巻き付けるようにして搬送するため、記録媒体の剛性が送り負荷として作用することがない。したがって、サンローラーに作用する記録媒体の送り負荷を極力抑制することができる。
【0008】
この場合、摩擦力の解除に伴って、プラネタリー部材を搬送終端位置から搬送始端位置に公転させる戻しばねを、更に備えることが好ましい。
【0009】
この場合、搬送始端位置において、戻しばねによるプラネタリー部材の公転を停止させる始端ストッパーを、更に備えることが好ましい。
【0010】
これらの構成によれば、搬送終端位置において、サンローラーが記録媒体を送り終えると、サンローラーとプラネタリー部材との間から記録媒体が外れるため、サンローラー、記録媒体およびプラネタリー部材との相互間に摩擦力はゼロに戻る。これにより、プラネタリー部材に戻しばねのばね力が作用して、プラネタリー部材を元の搬送始端位置に自動的に戻すことができる。すなわち、1の記録媒体の搬送を完了した瞬間に、元の状態(搬送開始の待機状態)に戻すことができる。
【0011】
また、媒体送り込み手段は、記録媒体の一方の面に転接するサンローラーと、サンローラーに記録媒体を押し付ける押圧機構と、により構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、サンローラーを媒体送り込み手段の一部として利用することができるため、装置構成を単純化することができる。また、装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0013】
さらに、プラネタリー部材は、自由回転するプラネタリーローラーを有していることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、搬送始端位置において、プラネタリー部材とサンローラー(太陽ローラー)との間に記録媒体を送り込むと、記録媒体の押込み力により、プラネタリー部材(遊星部材)が僅かに回転し、記録媒体の先端部がこのプラネタリー部材とサンローラーとの間に挟持される。すなわち、プラネタリー部材とサンローラーとによる記録媒体の挟持を、自動的に且つ適切に行うことができ、この部分の構造を単純化することができる。また、搬送終端位置において、プラネタリー部材の公転が停止し、サンローラーが回転を継続すると、プラネタリー部材がサンローラーの従動ローラーとして機能し、記録媒体が先方に適切に送り出すことができる。なお、プラネタリー部材(プラネタリーローラー)は、従動ローラーとしてサンローラーに向って付勢(ばねにより)されていることが好ましい。
【0015】
この場合、プラネタリーローラーには、記録媒体の搬送方向に自由回転するワンウェイクラッチが組み込まれていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、プラネタリーローラー(遊星ローラー)とサンローラーとの間に記録媒体がいったん挟持されると、プラネタリーローラーのワンウェイクラッチにより、記録媒体が抜け落ちることがない。また、記録媒体の先方への送り出しに際し、ワンウェイクラッチが悪影響を及ぼすことがない。
【0017】
本発明の記録装置は、記録媒体に記録を行う記録部と、記録部に記録媒体を給紙する給紙部と、給紙部から記録部に記録媒体を搬送する、上記の媒体搬送機構と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、送り負荷を抑制することで、記録媒体の搬送を確実且つ安定に行うことができる、記録部による記録品質を良好に維持することができる。また、装置の小型化と省エネルギー化を、低コストで達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る記録装置を示した外観斜視図である。
【図2】記録装置の内部構造を示した側方断面図である。
【図3】用紙カセットを示した裏面斜視図である。
【図4】給送ローラーおよび搬送ガイド廻りを示した側面模式図である。
【図5】反転搬送路における搬送動作を示した遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る記録装置について説明する。この記録装置は、起立姿勢で保持した用紙(記録媒体)を搬送しながら所望の記録を行い、排紙した印刷済みの用紙を起立状態で重ねてストック(蓄積)するものである。なお、各図に示す通り、X軸(左右)方向、Y軸(前後)方向およびZ軸(上下)方向を規定して、以降説明する。また、本記録装置1は、縦置き配置および横置き配置が可能に構成されているが、以降の説明では、縦置き配置した場合について説明する。
【0021】
図1は、記録装置1を示した外観斜視図である。図1に示すように、記録装置1は、X軸およびY軸方向よりもZ軸方向の寸法が大きく形成された薄型の箱状体を成す筐体2によって外観が構成されている。筐体2の上面には、操作ボタン等が配置された操作パネル21と、PC等に接続するためのケーブルが接続されるケーブル端子22と、複数のインクカートリッジ(図示省略)を着脱可能に装着するカートリッジ装着部(図示省略)を開閉するカートリッジカバー23と、が設けられている。また、筐体2の上面には、記録が行われた用紙Aを排出するための用紙排出口24(図2参照)を開閉する用紙排出口カバー25が設けられている。なお、用紙排出口カバー25は、ユーザーによって開閉されるものであるが、仮に閉じた状態で記録が実行された場合でも、図外の開閉機構によって自動的に開くようになっている。さらに、筐体2の前面には、後述の用紙カセット5を着脱自在に装着するためのカセット装着部26が広く設けられている。
【0022】
ここで図2を参照して、記録装置1の内部構造について詳細に説明する。図2は、記録装置1の内部構造を示した側方断面図である。図2に示すように、記録装置1は、カセット装着部26に対し着脱自在に装着されると共に、枚葉の用紙Aを起立状態で収容する用紙カセット5と、記録装置1の下部で用紙Aを反転させて上方に送る送り経路Rに沿って、収容された用紙Aを送る搬送部(媒体搬送機構)4と、送り経路Rに面し且つ記録装置1の上下中間位置に配設されると共に、用紙Aにインクジェット方式で印刷処理を行う印刷部(記録部)3と、搬送部4および印刷部3を支持する装置フレーム(図示省略)と、を備えている。
【0023】
印刷部3は、装置フレームに支持されると共に、X軸方向に幅一杯に延在するキャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36と、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に往復動自在に支持されたキャリッジユニット30と、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に沿って、キャリッジユニット30を往復動させるキャリッジ移動機構(図示省略)と、を備えている。キャリッジガイド軸34は、キャリッジユニット30の下端を支持し、キャリッジガイド板36は、キャリッジガイド軸34を中心として回動しようとする力に抗して、キャリッジユニット30の上端を支えている。すなわち、キャリッジユニット30は、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36によって、傾斜姿勢に保持されている。
【0024】
キャリッジユニット30は、キャリッジガイド軸34およびキャリッジガイド板36に往復動自在に支持された箱状のキャリッジ31と、キャリッジ31に搭載されたインクジェットヘッド32と、インクジェットヘッド32に上側から接続されると共に、インクチューブ(図示省略)を介してインクカートリッジに接続された接続アダプター(図示省略)と、を備えている。インクジェットヘッド32は、複数色のインク滴を吐出する複数のノズル列(図示省略)を有しており、用紙Aに対し所定のギャップを介して対面する。
【0025】
なお、本実施形態は、インクカートリッジがキャリッジ31から独立して設けられたいわゆるオフキャリッジ型であるが、インクカートリッジがキャリッジ31に搭載された、いわゆるオンキャリッジ型であってもよい。また、本実施形態では、キャリッジ31がX軸方向に移動しながら記録を行ういわゆるシリアルプリンターであるが、用紙A幅をカバーする固定式のインクジェットヘッド32を用いてもよい。さらに、インクジェット方式に限らず、その他の記録方式であってもよい。
【0026】
図3は、用紙カセット5を示した裏面斜視図である。図2および図3に示すように、用紙カセット5は、未印刷(未記録)の用紙Aを起立姿勢で収容し、用紙Aを給紙するカセット本体(給紙部)51と、カセット本体51の外面(装置内部側)に設けられ、印刷済み(記録済み)の用紙Aを起立姿勢で且つストック面61に重ねてストックする排紙保持部52と、を備えている。すなわち、カセット本体51から未印刷の用紙Aが供給され、排紙保持部52に印刷済みの用紙Aが排出される。そして、用紙カセット5を装置本体から取り外すことで、カセット本体51と共に、ストックした印刷済みの用紙Aを取り出すことができる。また、用紙カセット5を取り外すことで記録装置1の内部が露出させることができ、送り経路Rに用紙Aが詰まった等の不具合を容易に解消することができる。なお、図示は省略するが、用紙カセット5は、筐体2に対してZ軸方向にスライド自在に構成されており、その着脱操作は、用紙カセット5をスライドさせることで行われる。
【0027】
カセット本体51は、装着時に筐体2の前面と面一になり(図1参照)、記録装置1の外観をなすカセット筐体部53と、カセット筐体部53側を収容面とし、全体としてトレイ状に形成された本体トレイ54と、本体トレイ54の上部に対面し、用紙Aを収容する用紙収容空間を開閉する上部カバー55と、本体トレイ54の下部に位置し、用紙収容空間に収容した用紙Aの先端を揺動させる可動トレイ59と、を備えている。
【0028】
また、上部カバー55の外面、すなわち、筐体2に装着した際に装置内部側に向く面は、印刷済みの用紙Aをストックする(蓄える)ためのストック面61として機能している(詳細は後述する。)。
【0029】
可動トレイ59は、用紙カセット5が装着された状態において用紙送り方向下流側となる本体トレイ54の下側に設けられ、いわゆるホッパーとして機能するものである。可動トレイ59は、本体トレイ54の上下方向略中央部に設けられた左右一対の揺動支点59aを中心に回動可能になっており、図外の駆動機構により揺動するようになっている。これにより、収容された用紙Aの先端を、後述の給送ローラー41に圧接させる(押し付ける)状態(図2参照)と、離間させる状態(図示省略)と、にすることができる。なお、請求項にいう押圧機構は、可動トレイ59および当該駆動機構により、構成されている。
【0030】
排紙保持部52は、上部カバー55の外面(装置内部側)によって構成されたストック面61と、排紙された用紙Aの下端を受容する受容部62と、ストック面61に設けられ、用紙Aを起立姿勢に保持するホルダー63と、を有している。
【0031】
図2に示すように、搬送部4は、可動トレイ59の先端部に対向し、収容された用紙Aに転接して1枚ずつ引き出すと共に、用紙Aを湾曲反転させて上方に送る大形の給送ローラー(サンローラー)41と、給送ローラー41に対向し、給送ローラー41による搬送をガイドする搬送ガイド45と、給送ローラー41からの用紙Aを印刷部3に送る紙送りローラー42と、印刷部3に対面する案内部材33と、案内部材33の下流側に配設され、用紙Aの上反りを矯正する拍車状のガイドローラー43と、ガイドローラー43の下流側に配設され、用紙Aを排紙保持部52に排紙する排紙ローラー44と、を備えている。なお、請求項にいう媒体送り込み手段は、上記押圧機構(可動トレイ59およびその駆動機構)と、給送ローラー41と、給送ローラー41を駆動する給送モーター(図示省略)とにより、構成されている。
【0032】
紙送りローラー42は、前方側の紙送り駆動ローラー42aと後方側の紙送り従動ローラー42bとを有するニップローラーで構成されており、用紙Aの送り(副走査)を制御するメインローラーとして機能する。排紙ローラー44は、前方側の排紙駆動ローラー44aと後方側の排紙従動ローラー44bとを有するニップローラーで構成されており、案内部材33の上側に位置する用紙Aに張力(tension)を付与するテンションローラーとして機能する。また、排紙ローラー44は、排紙保持部52の下部近傍に配設され、用紙Aを排紙保持部52のストック面61に沿わせるように下方から送り出す。なお、紙送りローラー42、ガイドローラー43および排紙ローラー44は、それぞれ用紙Aの幅方向(X軸方向)に適宜の間隔で配設された複数の分割ローラーで構成されている。
【0033】
案内部材33は、送り経路Rの一部を構成すると共に、用紙Aの記録面とインクジェットヘッド32との間のギャップ(ワークギャップ)を規定する(いわゆるプラテンとして機能する)。また、案内部材33には、インクジェットヘッド32と対向する位置に縁無し印刷の際、用紙A端から外れた領域に吐出されるインクを受ける凹部が形成されている。この凹部の中には、インクを吸収するインク吸収材(図示省略)が設けられている。そして更に、案内部材33の下方には、打ち捨てられたインクを貯留する廃液タンク(図示省略)が配置されている。
【0034】
給送ローラー41により下方へと引き出された用紙Aは、給送ローラー41および搬送ガイド45によって上向きに反転させられ、紙送りローラー42へと送られる。さらに、用紙Aは、紙送りローラー42の間に挟圧搬送されて、印刷部3に送られる。印刷部3で記録の行われた用紙Aは、ガイドローラー43および排紙ローラー44を介して、用紙カセット5の排紙保持部52に排紙される。
【0035】
印刷処理では、搬送部4によって用紙Aを略Z軸方向に間欠送り(副走査)すると共に、インクジェットヘッド32を駆動しつつ、キャリッジ移動機構によって、キャリッジユニット30をX軸方向に往復させて(主走査)、用紙Aに画像データを印刷する。
【0036】
ここで図4を参照して、給送ローラー41および搬送ガイド45について詳細に説明する。図4は、給送ローラー41および搬送ガイド45廻りを示した側面模式図である。給送ローラー41および搬送ガイド45は、用紙Aを反転させて搬送するものであり、以下、この給送ローラー41の外周面に沿う円弧状の経路を反転搬送路(搬送路)R1と呼称する(図4中の1点鎖線で図示)。図4に示すように、給送ローラー41は、給送モーターが接続された駆動ローラーであると共に、ローラー軸41aと、用紙Aの幅方向(X軸方向)に適宜の間隔で、ローラー軸41aに軸着された複数の分割ローラー41bと、により構成されている。そして、給送ローラー41は、用紙カセット5に収容された用紙Aの一方の面(非記録面)に転接して、下方に用紙Aを引き出すと共に、用紙Aをその外周面に沿わせるように、反転搬送路R1に沿って搬送する。
【0037】
搬送ガイド45は、給送ローラー41と同軸上において、回動自在に構成されたキャリアー71と、キャリアー71の先端部に回転自在に設けられ、給送ローラー41に対し公転可能に構成されたプラネタリーローラー(プラネタリー部材)72と、キャリアー71の回動を規制する始端ストッパー73および終端ストッパー74と、キャリアー71の基端部に配設された戻しばね75と、反転搬送路R1に外側から沿って延在し、用紙Aを外側からガイドする湾曲板状のガイド板76と、を備えている。
【0038】
キャリアー71は、一対のアーム状の部材で構成されており、基端部において、給送ローラー41のローラー軸41aに回動自在に軸支され、先端部において、プラネタリーローラー72を両持ちで回転自在に支持している。すなわち、キャリアー71は、上記ローラー軸41aに対し自由回動可能に構成され、また、プラネタリーローラー72は、キャリアー71に対し自由回転可能に構成されている。よって、当該ローラー軸41aとキャリアー71の基端部との摩擦は、給送ローラー41の回転駆動によって、キャリアー71が連れ回りしない程度になっている。もっとも、キャリアー71を、ローラー軸41aと同軸上の他の軸に取り付けるようにしても良い。
【0039】
プラネタリーローラー72は、自由回転ローラーで構成されており、給送ローラー41の外周面に微小間隙を存して対峙すると共に、反転搬送路R1の外側に面して配設されている。また、プラネタリーローラー72は、用紙Aの搬送方向に自由回転するワンウェイクラッチが組み込まれており、逆回転不能に構成されている。さらに、プラネタリーローラー72は、キャリアー71を介して、反転搬送路R1の搬送始端位置P1と搬送終端位置P2との間で円運動自在に配設されている。すなわち、サンローラーである給送ローラー41に対し、公転自在に配設されている。またさらに、プラネタリーローラー72は、給送ローラー41に対応するように、幅方向に適宜の間隔で配設された複数の分割ローラーで構成されている。
【0040】
そして、給送ローラー41とプラネタリーローラー72とは、用紙Aの先端部を挟持した状態で、キャリアー71を介してプラネタリーローラー72が給送ローラー41と連れ回りするための摩擦力を発生させる。言い替えれば、給送ローラー41とプラネタリーローラー72との間隙は、用紙Aが挟む込まれたときに、プラネタリーローラー72が給送ローラー41に連れ回りする摩擦力を発生させる寸法に設定されている。
【0041】
よって、プラネタリーローラー72は、連れ回りにより、搬送始端位置P1から搬送終端位置P2に達するまでの間、給送ローラー41と供して用紙Aの先端部を挟持(把持)し、この状態で用紙Aの先端部を反転搬送路R1に沿って搬送する。一方、搬送終端位置P2に達すると、用紙Aに転接する案内ローラー(給送ローラー41に対する従動ローラー)として機能する。すなわち、プラネタリーローラー72が、搬送終端位置P2に達すると、プラネタリーローラー72は位置規制されるため、用紙Aは、給送ローラー41によりその先方に送られ、プラネタリーローラー72は用紙Aを介して、給送ローラー41の回転動力を受け回転(従動)する。なお、給送ローラー41とプラネタリーローラー72との摩擦力は、両者の間隙で調整されるが、この調整幅を持たせるべく、プラネタリーローラー72を給送ローラー41に向かって弱く付勢する付勢ばねを組み込んでも良い。
【0042】
始端ストッパー73および終端ストッパー74は、キャリアー71に対する度当りとなり、装置フレームに形成されると共に、キャリアー71の回動範囲を回動方向前後で規制する。これによって、キャリアー71を介して、プラネタリーローラー72の移動範囲(円運動範囲:公転範囲)を、搬送始端位置P1と搬送終端位置P2との間に規制している。終端ストッパー74は、プラネタリーローラー72が給送ローラー41と連れ回りした際、搬送終端位置P2で連れ回り(公転)を停止する役割を担っており、一方、始端ストッパー73は、戻りばね75によって、プラネタリーローラー72が搬送方向と逆方向に移動(公転)した際(後述する)、搬送始端位置P1で当該移動を停止する役割を担っている。
【0043】
戻りばね75は、一端がキャリアー71に係止されており、キャリアー71を、用紙Aの搬送方向に対し逆方向に回動付勢する。戻りばね75の付勢力は、用紙Aを挟持していない状態のプラネタリーローラー72を、キャリアー71を介して搬送始端位置P1側に移動させることが可能で、且つ、用紙Aを挟持した状態のプラネタリーローラー72を、移動させることが不能な大きさ(摩擦力より小さい)となっている。よって、給送ローラー41およびプラネタリーローラー72により、用紙Aが紙送りローラー42側に完全に送り出されて挟持(摩擦)が解除されると、この摩擦力の解除に伴って戻りばね75が、キャリアー71を介して、プラネタリーローラー72を搬送終端位置P2から搬送始端位置P1に移動(逆行公転)させる。なお、始端ストッパー73は、搬送始端位置P1において、この戻りばね75によるプラネタリーローラー72の逆行公転は停止するストッパーとなる。
【0044】
ガイド板76は、反転搬送路R1に沿って送られる用紙Aを外側からガイドする。厳密には、給送ローラー41およびプラネタリーローラー72によって、用紙Aの先端側を搬送する間、用紙Aの後端側が、反転搬送路R1の外側に反ろうとする。ガイド板76は、この反りを押さ込み、反転搬送路R1から外れることを抑制する。なお、ガイド板76と、プラネタリーローラー72およびその円運動軌跡とのオーバーラップする部分については、ガイド板76の当該部分を除去(開口)して対応する。
【0045】
ここで図5を参照して、反転搬送路R1における搬送動作について説明する。図5は、反転搬送路R1における搬送動作を示した遷移図である。図5に示すように、まず、可動トレイ59およびその駆動機構により、用紙Aの先端部が給送ローラー41に押し付けられると共に、給送ローラー41の駆動を開始する(図5(b)参照)。給送ローラー41の駆動を開始すると、用紙Aの先端部が給送ローラー41の外周面に沿って搬送される。これにより、用紙Aの先端部が、搬送始端位置P1に公転したプラネタリーローラー72と給送ローラー41との間に送り込まれ、両ローラー41、72によって用紙A先端部を挟持した状態となる(図5(c)参照)。すると、プラネタリーローラー72と給送ローラー41と間に摩擦力が発生することになり、プラネタリーローラー72を回転させようとする力がキャリアー71に作用し、プラネタリーローラー72が連れ回り可能な状態となる。なお、以下省略するが、可動トレイ59は、1枚の用紙Aが可動トレイ59から完全に送り出されるタイミングで、駆動機構により可動トレイ59が元の状態(用紙Aを給送ローラー41から離間させる状態)に戻される。
【0046】
この状態で、給送ローラー41の駆動が進むと、用紙Aの先端部を挟持した状態で、プラネタリーローラー72が給送ローラー41に連れ回り(プラネタリーローラー72が公転)し、プラネタリーローラー72および給送ローラー41により、用紙Aの先端部が反転搬送路R1に沿って搬送される(図5(d)参照)。この搬送によって、用紙Aが搬送始端位置P1から搬送終端位置P2に搬送されると、終端ストッパー74により、プラネタリーローラー72の連れ回り(順行公転)が停止される(図5(e)参照)。
【0047】
さらに給送ローラー41の駆動が進むと、キャリアー71を回転させようとする力は、今度はプラネタリーローラー72に作用し、用紙Aの送りに従ってプラネタリーローラー72が回転する。これによって、給送ローラー41およびプラネタリーローラー72により用紙Aが挟圧搬送され、紙送りローラー42側に送り出していく(図5(f)参照)。その後、この送出しが進み、用紙Aの後端部が搬送終端位置P2のプラネタリーローラー72と給送ローラー41との挟圧位置を越えて、用紙Aが完全に送り出されると、プラネタリーローラー72と給送ローラー41との摩擦力がゼロに戻り(挟持による摩擦が解除され)、プラネタリーローラー72が、戻りばね75によって移動可能な状態となる。よって、戻りばね75により、プラネタリーローラー72が、搬送終端位置P2から搬送始端位置P1に移動(逆行公転)される(図5(g)参照)。これにより、本動作前の状態に戻り、本動作を終了する。
【0048】
以上のような構成によれば、用紙Aを給送ローラー41に添わせて送ることができるため、装置全体をコンパクトに構成することができる。また、用紙Aを、給送ローラー41とプラネタリーローラー72とで挟持して搬送するようにしているため、用紙Aが他の部材に摺動することがなく、用紙Aの摺動抵抗を極力押えることができる。また、用紙Aを給送ローラー41に巻き付けるようにして搬送するため、用紙Aの剛性が送り負荷として作用することがない。したがって、給送ローラー41に作用する用紙Aの送り負荷を極力抑制することができる。
【0049】
また、戻しばね75を用いることで、プラネタリーローラー72を元の搬送始端位置P1に自動的に戻すことができる。すなわち、1の用紙Aの搬送を完了した瞬間に、元の状態(搬送開始の待機状態)に戻すことができる。
【0050】
さらに、媒体送り込み手段を、給送ローラー41と、押圧機構(可動トレイ59およびその駆動機構)と、により構成することにより、給送ローラー41を媒体送り込み手段の一部として利用することができるため、装置構成を単純化することができる。また、装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0051】
またさらに、プラネタリー部材を、自由回転するプラネタリーローラー72で構成することにより、搬送始端位置P1において、プラネタリーローラー72と給送ローラー41との間に用紙Aを送り込むと、用紙Aの押込み力により、プラネタリー部材(遊星部材)が僅かに回転し、用紙Aの先端部がこのプラネタリーローラー72と給送ローラー41との間に挟持される。すなわち、プラネタリーローラー72と給送ローラー41とによる用紙Aの挟持を、自動的に且つ適切に行うことができ、この部分の構造を単純化することができる。また、搬送終端位置P2において、プラネタリーローラー72の公転が停止し、給送ローラー41が回転を継続すると、プラネタリー部材がサンローラーの従動ローラーとして機能し、用紙Aが先方に適切に送り出すことができる。
【0052】
また、プラネタリーローラー72にワンウェイクラッチが組み込むことにより、プラネタリーローラー72と給送ローラー41との間に用紙Aがいったん挟持されると、プラネタリーローラー72のワンウェイクラッチにより、用紙Aが抜け落ちることがない。また、用紙Aの先方への送り出しに際し、ワンウェイクラッチが悪影響を及ぼすことがない。
【0053】
なお、本実施形態においては、プラネタリー部材として、自由回転するプラネタリーローラー72を用いたが、これに限るものではない。例えば、プラネタリー部材として、給送ローラー41との間で用紙Aの先端部を挟持する挟持位置と、挟持を解除する解除位置との間で回転(回動)自在に構成された挟持部材(例えば、カム部材やクサビ状部材)を用いても良い。かかる場合、搬送始端位置P1から搬送終端位置P2に達するまでの間、挟持部材を挟持位置に位置させておく機構(例えば、付勢ばね)と、搬送終端位置P2において、挟持部材を挟持位置から解除位置に移動し、摩擦力を解除する機構と、用紙Aを挟持部材から受け取って先方に搬送する機構(例えば、ニップローラー)を、更に備えることが好ましい。
【0054】
また、本実施形態においては、プラネタリーローラー72を、幅方向に適宜の間隔で配設した複数の分割ローラーで構成したが、これに限るものではない。例えば、プラネタリーローラー72を、幅方向に延在した一体のローラーで構成しても良いし、用紙Aの左右両端に対応して配設された一対の分割ローラーで構成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1:記録装置、 3:印刷部、 4:搬送部、 41:給送ローラー、 51:カセット本体、 59:可動トレイ、 71:キャリアー、 72:プラネタリーローラー、 73:始端ストッパー、 74:終端ストッパー、 75:戻しばね、 A:用紙、 P1:搬送始端位置、 P2:搬送終端位置、 R1:反転搬送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に沿う円弧状の搬送路に沿って、記録媒体を搬送するサンローラーと、
前記サンローラーと同軸上において、回動自在に構成されたキャリアーと、
前記キャリアーの先端部に回転自在に設けられ、前記搬送路の搬送始端位置と搬送終端位置との間で、前記サンローラーに対し公転可能に構成されたプラネタリー部材と、
先端部が、前記サンローラーと前記搬送始端位置に公転した前記プラネタリー部材との間に挟持されるように、前記記録媒体を送り込む媒体送り込み手段と、
前記搬送終端位置において、前記プラネタリー部材の公転を停止させる終端ストッパーと、を備え、
前記サンローラーと前記プラネタリー部材とは、前記記録媒体の先端部を挟持した状態で、前記キャリアーを介して前記プラネタリー部材が前記サンローラーと連れ回りするための摩擦力を発生させることを特徴とする媒体搬送機構。
【請求項2】
前記摩擦力の解除に伴って、前記プラネタリー部材を前記搬送終端位置から前記搬送始端位置に公転させる戻しばねを、更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の媒体搬送機構。
【請求項3】
前記搬送始端位置において、前記戻しばねによる前記プラネタリー部材の公転を停止させる始端ストッパーを、更に備えたことを特徴とする請求項2に記載の媒体搬送機構。
【請求項4】
前記媒体送り込み手段は、
前記記録媒体の一方の面に転接する前記サンローラーと、
前記サンローラーに前記記録媒体を押し付ける押圧機構と、により構成されていることを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の媒体搬送機構。
【請求項5】
前記プラネタリー部材は、自由回転するプラネタリーローラーを有していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の媒体搬送機構。
【請求項6】
前記プラネタリーローラーには、前記記録媒体の搬送方向に自由回転するワンウェイクラッチが組み込まれていることを特徴とする請求項5に記載の媒体搬送機構。
【請求項7】
前記記録媒体に記録を行う記録部と、
前記記録部に前記記録媒体を給紙する給紙部と、
前記給紙部から前記記録部に前記記録媒体を搬送する、請求項1ないし6のいずれかに記載の媒体搬送機構と、を備えたことを特徴とする記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−171729(P2012−171729A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34342(P2011−34342)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】