説明

媒体送り装置、記録装置

【課題】載置部に載置された被送り媒体を送る際の分離能力および載置部上の被送り媒体の状態を考慮した媒体送り装置を提供すること。
【解決手段】媒体送り装置(2)は、被送り媒体(P)が載置される載置部6と、該載置部6に載置された被送り媒体(P)のうち積層方向最上位の被送り媒体(P)と接触し該被送り媒体(P)を送り方向下流側へ送る第1ローラー(3)と、該第1ローラー(3)より送り方向上流側に設けられ、最上位の被送り媒体(P)における前記第1ローラー(3)が接触する箇所より上流側において該最上位の被送り媒体(P)に対して送り方向下流側への力を付与することにより前記第1ローラー(3)との間において最上位の被送り媒体(P)に撓みCを形成する撓み形成手段9と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被送り媒体が載置される載置部と、該載置部に載置された被送り媒体のうち積層方向最上位の被送り媒体と接触し該被送り媒体を送り方向下流側へ送るローラーと、を備えた媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンター、ワイヤドットプリンター、レーザープリンター、ラインプリンター、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、媒体送り装置としてのシート搬送装置は、給紙トレイと、給紙ローラーと、エッジガイドとしてのサイド規制板と、を有していた。そして、被送り媒体としてのシート材を給送する際にシート材の送り方向に対する傾きを抑制するために、送り方向において少なくとも前記サイド規制板が設けられた範囲で、給紙トレイ上のシート材が湾曲するように構成されていた。
【0003】
言い換えると、シート材の側端が前記サイド規制板の内側面を上ってしまうことによりシート材が送り方向に対して傾くこと虞があった。これに対して前記給紙トレイ上でシート材を湾曲させることによって、幅方向のシート材のコシを強くすることができた。従って、シート材の側端が前記サイド規制板の内側面を上ることを低減させることができ、前記サイド規制板は、シート材の姿勢をしっかりと規制することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−58463号公報
【特許文献2】特開平7−25482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シート部材が前記給紙トレイ上で長期間放置されるとシート材に湾曲した状態の癖が付く。また、湾曲させる空間を必要とするため、装置が大型化する虞がある。またさらに、重送された際の分離能力は変わらない。
また、特許文献2に示す如く、給紙トレイ上において部分的に突起物を設けて被送り媒体としての用紙の一部を持ち上げる方式では、用紙のダメージが大きい。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、載置部に載置された被送り媒体を送る際の分離能力および載置部上の被送り媒体の状態を考慮した媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の媒体送り装置は、被送り媒体が載置される載置部と、該載置部に載置された被送り媒体のうち積層方向最上位の被送り媒体と接触し該被送り媒体を送り方向下流側へ送る第1ローラーと、該第1ローラーより送り方向上流側に設けられ、最上位の被送り媒体における前記第1ローラーが接触する箇所より上流側において該最上位の被送り媒体に対して送り方向下流側への力を付与することにより前記第1ローラーとの間において最上位の被送り媒体に撓みを形成する撓み形成手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、最上位の被送り媒体を撓ませることにより、撓んだ範囲における最上位の被送り媒体と次位の被送り媒体との間に隙間を設けて空気を入れることができる。従って、最上位の被送り媒体を次位以降の被送り媒体から分離することができる。即ち、最上位の被送り媒体を送る前の段階で前記分離することができる。所謂、予備分離である。
【0009】
また、被送り媒体のサイズ、剛性や、湿度等に応じて撓みの程度を変化させることも可能である。即ち、被送り媒体の種類や環境に応じて撓み量を変えることができる。またさらに、前記第1ローラーによって被送り媒体を送る際に撓ませればよいので、被送り媒体に撓み癖が付く虞が殆ど無い。また、従来技術に用いられていた突起を必要としないので、被送り媒体がダメージを受ける虞がない。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記載置部における被送り媒体の送り方向に対する幅方向両側において、被送り媒体の側端と接触するエッジガイドをさらに備えることを特徴とする。
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、最上位の被送り媒体が撓むことにより幅方向の剛性が高まり、最上位の被送り媒体の側端が前記エッジガイドに乗り上がることを防止することができる。その結果、最上位の被送り媒体の幅方向における位置および送り方向に対する姿勢を安定させることができる。即ち、送り方向に対する姿勢が傾く所謂、スキューの発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記撓み形成手段は、前記第1ローラーより上流側において最上位の被送り媒体と接触し駆動する第2ローラーを有しており、前記第1ローラーが最上位の被送り媒体を送る際、前記第1ローラーが停止した状態で前記第2ローラーが先に駆動を開始し、次に前記第1ローラーおよび前記第2ローラーが駆動して最上位の被送り媒体を送る構成であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様と同様の作用効果に加え、容易に前記撓み形成手段を構成することができる。
また、最上位の被送り媒体の下流側への送りが始まる前の段階で撓みを形成することができる。従って、予備分離をすることができる。
またさらに、前記エッジガイドを有する場合、前記第1ローラーが最上位の被送り媒体に送り力を付与する際のスキューの発生を抑制することができる。また、前記第2ローラーが最上位の被送り媒体と接触していることによってもスキューの発生を抑制することができる。
【0013】
例えば、両側のエッジガイドのうちの一方を幅方向へ移動させ他方を基準に幅方向における被送り媒体の位置が決められる構成である場合を考える。そして、複数の被送り媒体サイズのうちの一のサイズのときであって、被送り媒体の幅方向中心に対して前記第1ローラーの位置が偏倚した位置となるとき、スキューが生じやすいので前記撓み形成手段は特に有効である。
【0014】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記第1ローラーより送り方向下流側に最上位の被送り媒体と次位以降の被送り媒体とを分離する分離手段をさらに備え、撓んだ状態の最上位の被送り媒体と前記第2ローラーとの接触箇所から最上位の被送り媒体の上流端である後端までの距離L1は、前記第1ローラーによって送られる前の状態の最上位の被送り媒体の下流端である先端の位置から前記第1ローラーによって送られ該先端が前記分離手段を通過するまでの距離L2より大となる関係が成立する構成であることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の態様によれば、第3の態様と同様の作用効果に加え、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過する際に確実に撓みがある状態にすることができる。そして、その際に生じようとするスキューを抑制することができる。即ち、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過する際に該分離手段から受ける負荷によって最上位の被送り媒体がスキューすることを防止することができる。
また、前記第2ローラーによる送り力が最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過することを助ける。即ち、最上位の被送り媒体に十分な送り力を付与することができる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記第2ローラーが駆動する状態と回動自在な状態とを切り換える第1切り換え手段をさらに備え、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過した際、前記第2ローラーを前記駆動させる状態から前記回動自在な状態に切り換える構成であることを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、前記第2ローラーによる送り力を無にして該第2ローラーによる重送を防止することができる。
【0017】
本発明の第6の態様は、第4の態様において、前記第2ローラーが被送り媒体と接触した接触状態と被送り媒体から離間した離間状態とを切り換える第2切り換え手段をさらに備え、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過した際、前記第2ローラーを前記接触状態から前記離間状態に切り換える構成であることを特徴とする。
本発明の第6の態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、上記第5の態様と同様に前記第2ローラーによる送り力を無にして該第2ローラーによる重送を防止することができる。
【0018】
本発明の第7の態様は、第4の態様において、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過し最上位の被送り媒体の後端が前記第2ローラーを通過した後に、該第2ローラーの駆動を停止させる構成であることを特徴とする。
本発明の第7の態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、次位の被送り媒体を押圧し摩擦力によって保持することができる。前記第1ローラーの押圧力によって次位以降の被送り媒体に送り力が伝わった場合であっても重送をより確実に防止することができる。
【0019】
本発明の第8の態様の記録装置は、被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、前記媒体送り手段は、上記第1から第7のいずれか一の態様の前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体であることを特徴とする。
本発明の第8の態様によれば、前記媒体送り手段は、上記第1から第7のいずれか一の態様の前記媒体送り装置を備えている。従って、前記記録装置において、上記第1から第7のいずれか一の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るプリンターの概略を示す側面図。
【図2】本発明に係る媒体送り手段の概略を示す側面図。
【図3】本発明に係る媒体送り手段の概略を示す平面図。
【図4】本発明の媒体送り手段において用紙に撓みを形成した状態を示す側面図。
【図5】本発明の媒体送り手段において用紙の給送を開始した状態を示す側面図。
【図6】図5の状態を送り方向上流側上方からみた斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る記録装置の一例であるプリンターの概略を示す側面図である。
図1に示す如く、本発明に係るプリンター1は、媒体送り手段2と、送り経路と、記録部16と、排出部20と、を備えている。
【0022】
このうち、媒体送り手段2は、被送り媒体の一例である用紙Pを送り方向Yに送ることができるように設けられている。また、送り経路は、媒体送り手段等によって送られる用紙Pを案内する媒体案内部によって構成されており、用紙Pが送られる経路を示す。
また、記録部16は、媒体送り手段2によって送られた用紙Pに対して記録を実行することができるように構成されている。またさらに、排出部20は、記録された用紙Pを排出し、排出トレイ上(図示せず)に載置することができるように設けられている。
【0023】
具体的に、媒体送り手段2は、載置部6と、ピックアップローラー3と、第1アーム部4と、分離手段7と、第1ローラー対14と、第2ローラー対15と、撓み形成手段9と、を備えている。このうち、載置部6は、用紙Pが載置されるように設けられている。また、ピックアップローラー3は、モーターの動力によって駆動することができ、載置部6に積層された用紙Pのうち、積層方向最上位に用紙Pと接触することができるように設けられている。尚、Z軸の矢印が示す方向は積層方向上方である。
【0024】
またさらに、第1アーム部4は、送り方向上流側である一端側の第1揺動軸5を中心に揺動可能に設けられている。そして、送り方向下流側である他端側にピックアップローラー3を回動可能に保持するように構成されている。
尚、モーターは、第1アーム部4とは別のプリンター1の基体部側の箇所に設けてもよいし、第1アーム部上に設けてもよい。前者の場合、第1揺動軸5を介してギア輪列等の動力伝達手段によってピックアップローラー3まで動力を伝達するように構成する。一方、後者の場合、第1揺動軸5を介さずにギア輪列等の動力伝達手段によってピックアップローラー3まで動力を伝達するように構成する。
【0025】
また、分離手段7は、載置部6における用紙Pがセットされる箇所より送り方向下流側に設けられている。具体的には、ピックアップローラー3によって送られる用紙Pの側視した姿勢に対して傾斜した傾斜面8と有している。そして、用紙Pが重送された場合、ピックアップローラー3に対して最上位の用紙Pと次位以降の用紙Pとを分離することができるように設けられている。所謂、土手分離機構である。
ここで、「土手分離機構」とは、所定の角度で用紙Pが進入するように面を設け用紙Pの先端に負荷を与えることにより分離する機構をいう。
【0026】
またさらに、第1ローラー対14および第2ローラー対15は、分離手段7を通過した用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。このうち、第1ローラー対14は、第1駆動ローラー14aと、第1従動ローラー14bとを有している。
尚、第1従動ローラー14bに代えて回動に所定の負荷を伴う所謂、リタードローラーでもよい。係る場合、土手分離機構での分離が十分でない場合に、重送された用紙Pを確実に分離することができる。即ち、第1駆動ローラー14aと直接的に接触する用紙を、該用紙よりリタードローラー側の用紙から分離することができる。
【0027】
また、第2ローラー対15は、送り経路において第1ローラー対14より下流側に設けられている。具体的には、第2ローラー対15は、第2駆動ローラー15aと第2従動ローラー15bとを有している。そして、例えば、ステッピングモーターによって精度よく用紙Pを記録部16へ送ることができるように設けられている。
尚、用紙Pの先端が第2ローラー対15に到達した際、送り方向Yに対する用紙Pの姿勢を正す所謂、スキュー取りが実行されるように構成されているのは言うまでもない。
【0028】
またさらに、撓み形成手段9は、詳しくは後述するが、ピックアップローラー3より送り方向上流側に設けられている。そして、最上位の用紙Pに対して送り方向下流側への力を付与することにより、ピックアップローラー3との間において、用紙Pに撓みC(図4〜図6参照)を形成することができるように構成されている。これにより、給送開始前の段階において最上位の用紙Pと、次位以降の用紙Pとを分離することができる。所謂、予備分離である。
【0029】
また、記録部16は、キャリッジ17と、記録ヘッド18と、媒体支持部19と、を備えている。このうち、キャリッジ17は、用紙Pの幅方向Xへ延設されたガイド軸(図示せず)に案内されながら移動手段(図示せず)の動力によって幅方向Xへ移動するように構成されている。また、記録ヘッド18は、キャリッジ17に設けられており、インクを用紙Pに対して吐出することができるように設けられている。所謂、インクジェット式の記録である。
【0030】
またさらに、媒体支持部19は、記録ヘッド18と対向する位置に設けられ、用紙Pを支持し、用紙Pと記録ヘッド18との間の距離を所定の間隔にすることができるように構成されている。
尚、本実施形態では、インクを吐出するインクジェット式の記録部16を採用したが他の構成でもよい。例えば、トナーを用紙Pに付着させ、熱と圧力をかけて用紙Pに記録する所謂、レーザープリンターの構成でもよい。
【0031】
また、排出部20は、第3ローラー対21と、図示しない排出トレイを備えている。第3ローラー対21は、送り経路において記録部16より下流側に設けられ、記録された用紙Pを排出トレイへ送ることができるように設けられている。
尚、媒体送り手段2の載置部6は、プリンター本体に対して着脱可能な所謂、カセットタイプの構成でもよいし、プリンター本体と一体に形成されている構成でもよい。
続いて、本発明の要部である媒体送り手段2についてさらに詳しく説明する。
【0032】
図2に示すのは、本発明に係る媒体送り手段の概略を示す側面図である。また、図3に示すのは、本発明に係る媒体送り手段の概略を示す平面図である。
図2および図3に示す如く、ピックアップローラー3より送り方向上流側には、前述したように撓み形成手段9が設けられている。具体的には、撓み形成手段9は、上流側ローラー10と、第2アーム部11と、第2揺動軸22と、を有している。
【0033】
このうち、上流側ローラー10は、ピックアップローラー3より上流側に設けられている。そして、図示しないモーターの動力によって駆動することができるように構成されている。また、幅方向Xにおける上流側ローラー10の位置は、上流側ローラー10とピックアップローラー3との関係でローラーの幅が同じである場合は、幅方向Xにおけるピックアップローラー3の位置と同じである。
【0034】
一方、ローラーの幅が異なる場合は、相対的に一方の幅が広いローラーが設けられている幅方向Xの範囲内に、他方の幅が狭いローラーが設けられていればよい。これは、後述するようにピックアップローラー3と、上流側ローラー10との間において幅方向Xを軸とする弧のような向きの撓みCを形成するためである。
また、第2アーム部11は、第1アーム部4と同様に一端側である下流側に上流側ローラー10を回転可能に保持し、他端側である上流側の第2揺動軸22を中心に揺動することができるように設けられている。
尚、第2揺動軸22の位置は、上流側ローラー10より上流側、下流側のいずれでもよい。本実施例で上流側としたのは、下流側とした場合と比較して、最上位の用紙Pに対して上流側ローラー10が押圧する押圧力をより大きく作用させるためである。これにより、より確実に撓みC(図4〜図6参照)を形成することができる。
【0035】
またさらに、媒体送り手段2において、第1切り換え手段23と、第2切り換え手段24とがさらに設けられている。このうち、第1切り換え手段23は、上流側ローラー10が駆動する状態と回動自在な状態とを切り換えることができるように構成されている。例えば、動力を伝達するギア輪列のギアの噛み合い状態を切り換えることにより、前記駆動する状態と前記回動自在な状態とを切り換えることができる。
一方、第2切り換え手段24は、上流側ローラー10が用紙Pと接触した接触状態と用紙Pから離間した離間状態とを切り換えることができるように構成されている。例えば、図示しないモーターの動力によって第2アーム部11を揺動させることにより、前記接触状態と前記離間状態とを切り換えることができる。
【0036】
またさらに、媒体送り手段2において、載置部上には、第1エッジガイド12および第2エッジガイド13が設けられている。このうち、第1エッジガイド12は、幅方向Xにおける用紙Pの一方の側端と接触して用紙Pを送り方向Yへ案内することができるように設けられている。また、第2エッジガイド13は、用紙のサイズに応じて幅方向Xへ摺動可能に設けられており、用紙Pの他方の側端と接触して用紙Pを送り方向Yへ案内することができるように設けられている。即ち、第1エッジガイド12および第2エッジガイド13は、幅方向Xにおける用紙Pの位置を決めることができるように設けられている。
【0037】
続いて、給送を開始する際の撓み形成手段9の動作についてより詳しく説明する。
図4に示すのは、本発明の媒体送り手段において用紙に撓みを形成した状態を示す側面図である。
図4に示す如く、図3に示す状態から先ず、上流側ローラー10を図中の時計方向へ所定量だけ駆動させる。
【0038】
ここで、「所定量」とは、上流側ローラー10が用紙Pを送る距離が、上流側ローラー10が用紙Pと接触する箇所から用紙Pの後端までの距離より短い関係となる上流側ローラー10の駆動量であって、後述する「距離L1>距離L2」の関係を満たす駆動量をいう。「距離L1」は、上流側ローラー10が最上位の用紙Pと接触する箇所から撓んだ状態の最上位の用紙Pの後端までの距離である。また、「距離L2」は、ピックアップローラー3による給送開始前の状態の用紙Pの先端位置から該先端が分離手段7を通過するまでの距離である。
【0039】
尚、上流側ローラー10が用紙Pと接触する箇所から用紙Pの後端までの距離は、用紙サイズの設定から算出することができる。また、後端側のエッジガイド(図示せず)の位置から用紙Pのサイズを認識して、これに基づいて算出してもよい。また、載置部6に載置された用紙Pの後端の位置を検出するセンサーを設け、これに基づいて算出してもよい。
【0040】
従って、上流側ローラー10から最上位の用紙Pに対して送り力を付与することができる。このとき、ピックアップローラー3は停止した状態である。
ここで、上流側ローラー10と用紙Pとの間の摩擦係数は、用紙Pと用紙Pとの間の摩擦係数より高くなるように構成されている。ピックアップローラー3と用紙Pとの間の摩擦係数も同様である。
【0041】
従って、ピックアップローラー3と上流側ローラー10との間において、最上位の用紙Pに撓みCを形成することができる。このとき、前述した摩擦係数の関係により、次位以降の用紙Pには撓みは形成されない。
その結果、最上位の用紙Pと、次位以降の用紙Pとの間に積極的に隙間を発生させることができ、給送開始前の段間において、最上位の用紙Pを次位以降の用紙Pから分離しやすい状態にすることができる。即ち、最上位の用紙Pが次位以降の用紙Pと密接にくっついている場合に、少なくとも一部において最上位の用紙Pを次位以降の用紙Pから引きはがすように分離することができる。所謂、予備分離である。
【0042】
ここで、上流側ローラー10が最上位の用紙Pと接触する箇所から撓んだ状態の最上位の用紙Pの後端までの距離をL1とする。また、ピックアップローラー3による給送開始前の状態の用紙Pの先端位置から該先端が分離手段7を通過するまでの距離をL2とする。そして、詳しくは後述するように、
距離L1 > 距離L2
の関係が成立するように構成されている。
【0043】
図5に示すのは、本発明の媒体送り手段において用紙の給送を開始した状態を示す側面図である。また、図6に示すのは、図5の状態を送り方向上流側上方からみた斜視図である。
図5および図6に示す如く、図4に示す状態からピックアップローラー3および上流側ローラー10を図5における時計方向へ駆動させる。従って、最上位の用紙Pを送り方向下流側へ送ることができる。即ち、給送開始である。
【0044】
この際、前述したように上流側ローラー10が最上位の用紙Pと接触する箇所から撓んだ状態の最上位の用紙Pの後端までの距離L1は、ピックアップローラー3による給送開始前の状態の用紙Pの先端位置から該先端が分離手段7を通過するまでの距離L2より大となる関係である。そして、用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8と衝突し傾斜面8を上っていく。この際、仮に次位の用紙Pが最上位の用紙Pと一緒に送られた場合、次位の用紙Pの先端は傾斜面8に衝突し停止し、最上位の用紙Pから分離される。言い換えると、最上位の用紙Pのみが傾斜面8を通過することができる。
【0045】
そして、最上位の用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8を通過した際、第1切り換え手段23は、上流側ローラー10が駆動する状態から従動回転する状態に切り換えるように構成されている。
ここで、最上位の用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8を通過する際、傾斜面8から受ける負荷によって最上位の用紙Pの姿勢が、送り方向Yに対して傾く虞がある。特に、幅方向Xにおけるピックアップローラー3の位置が用紙Pにおける幅方向中央に対して偏倚している構成である場合に傾きやすい傾向にある。
【0046】
そこで、本実施形態では、最上位の用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8を通過するまでは、上流側ローラー10が最上位の用紙Pに対して送り力を付与するように構成されている。従って、最上位の用紙Pの先端が分離手段7を通過する際に生じるスキューを低減することができる。
また、最上位の用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8を上るために必要十分な送り力を付与することができる。
【0047】
またさらに、幅方向Xを軸とする弧のような向きの撓みCを形成するので、幅方向Xのみの用紙Pのコシを強くすることができる。従って、第1エッジガイド12および第2エッジガイド13による位置決め効果を最大限に発揮させることができる。具体的には、用紙Pの側端が幅方向中央部分に対して上方または下方へ変位するように撓むことを防止することができる。そして、しっかりと第1エッジガイド12および第2エッジガイド13にガイドされる。即ち、用紙Pの一方の側端が第1エッジガイド12および第2エッジガイド13の一方を乗り上げるように撓んで用紙全体の姿勢が送り方向Yに対して傾く虞がない。その結果、スキューをより効果的に抑制することができる。
【0048】
そして、最上位の用紙Pの先端が分離手段7の傾斜面8を通過した際、前述したように上流側ローラー10は従動回転する状態に切り換えられる。従って、最上位の用紙Pの後端が上流側ローラー10を通過した際、上流側ローラー10は次位の用紙Pに対して送り力を付与しない。その結果、次位の用紙Pが最上位の用紙Pの後端側と重なった状態で一緒に送り方向下流側へ送られる虞がない。即ち、重送を防止することができる。
【0049】
尚、第1切り換え手段23によって上流側ローラー10が駆動する状態から従動回転する状態への切り換える構成としたがこれに限られない。例えば、ラッチ機構によって上流側ローラー10を図中における時計方向に回動させる動力のみを伝達し、反時計方向に回動させる動力を伝達しない構造としてもよい。所謂、ワンウェイクラッチである。係る場合、図中における上流側ローラー10の時計方向への駆動を停止させるだけ従動回転する状態とすることができる。
【0050】
また、第1切り換え手段23による切り換えに代えて、第2切り換え手段24による切り換えを実行してもよい。係る場合も同様の作用効果を得ることができるからである。具体的には、第2アーム部11を揺動させて、上流側ローラー10が用紙Pと接触した接触状態から上流側ローラー10が用紙Pから離間した離間状態に切り換える。
またさらに、第1切り換え手段23および第2切り換え手段24による切り換えに代えて、最上位の用紙Pの後端が上流側ローラー10を通過した際、上流側ローラー10の回動を停止させてもよい。係る場合、次位の用紙Pをしっかりと押さえることができる。その結果、次位の用紙Pが最上位の用紙Pの後端側と重なった状態で一緒に送り方向下流側へ送られることをより確実の防止することができる。
【0051】
その後、用紙Pの先端が第1ローラー対14に達した際、ピックアップローラー3を、上流側ローラー10と同様に従動回転する状態に切り換える。または、第1アーム部4を揺動させて、ピックアップローラー3が用紙Pと接触した状態からピックアップローラー3が用紙Pから離間した状態に切り換えてもよい。いずれの場合も、第1ローラー対14によって用紙Pはさらに下流側へ送られるからである。
【0052】
以上、説明したように、最上位の用紙Pを給紙する際、最上位の用紙Pを撓ませることにより、次位の用紙Pと予備分離することができる。その結果、重送される虞を低減することができる。
また、給送開始する際にのみ、給送する用紙Pを撓ませる構成である。即ち、載置部6に載置された用紙Pの全てが常に撓んでいる構成ではない。従って、用紙Pを給送するとき以外は用紙Pに余分な負荷を与えないため、用紙Pに対してそりや歪みを強制しない。
【0053】
またさらに、幅方向Xを軸とする弧のような向きの撓みCを形成するので、送り方向Yにおける用紙Pのコシは変化しない。従って、分離手段7の傾斜面8やリタードローラーによる分離に影響を与える虞がない。
また、幅方向Xを軸とする弧のような向きの撓みCを形成するので、幅方向Xのみの用紙Pのコシが強くなる。従って、第1エッジガイド12および第2エッジガイド13による位置決め効果を最大限に発揮させることができる。その結果、スキューをより効果的に抑制することができる。
【0054】
尚、次に最上位となる後続の用紙Pを給送する際、ピックアップローラー3、上流側ローラー10が用紙Pから離間している場合は、第1アーム、第2アームを揺動させて用紙Pと接触した状態に切り換える。また、ピックアップローラー3、上流側ローラー10が従動回転する状態である場合は、駆動可能な状態に切り換える。そして、前述したように次に最上位となる後続の用紙Pを撓ませてから該用紙Pの給送を開始する。
【0055】
また、撓み形成手段9として上流側ローラー10およびピックアップローラー3が協働して最上位の用紙Pに撓みCを形成する構成としたが該構成に限られない。技術的思想としては、停止しているピックアップローラー3より上流側において、用紙Pに対して送り方向下流側へ送る力を付与することができる構成であればよい。例えば、レバーの先端を用紙Pと接触させて送り方向下流側へ送る力を付与する構成でもよい。
【0056】
本実施形態の媒体送り装置としての媒体送り手段2は、被送り媒体の一例である用紙Pが載置される載置部6と、載置部6に載置された用紙Pのうち積層方向最上位の用紙Pと接触し用紙Pを送り方向下流側へ送る第1ローラーとしてのピックアップローラー3と、ピックアップローラー3より送り方向上流側に設けられ、最上位の用紙Pにおけるピックアップローラー3が接触する箇所より上流側において該最上位の用紙Pに対して送り方向下流側への力である送り力を付与することによりピックアップローラー3との間において最上位の用紙Pに撓みCを形成する撓み形成手段9と、を備えていることを特徴とする。
【0057】
また、本実施形態において、載置部6における用紙Pの送り方向Yに対する幅方向両側において、用紙Pの側端と接触するエッジガイドである第1エッジガイド12および第2エッジガイド13をさらに備えていることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、撓み形成手段9は、ピックアップローラー3より上流側において最上位の用紙Pと接触し駆動する第2ローラーとしての上流側ローラー10を有しており、ピックアップローラー3が最上位の用紙Pを送る際、ピックアップローラー3が停止した状態で上流側ローラー10が先に駆動を開始し、次にピックアップローラー3および上流側ローラー10が駆動して最上位の用紙Pを送る構成であることを特徴とする。
【0058】
また、本実施形態において、ピックアップローラー3より送り方向下流側に最上位の用紙Pと次位以降の用紙Pとを分離する分離手段7をさらに備え、撓んだ状態の最上位の用紙Pと上流側ローラー10との接触箇所から最上位の用紙Pの上流端である後端までの距離L1は、ピックアップローラー3によって送られる前の状態の最上位の用紙Pの下流端である先端の位置からピックアップローラー3によって送られ該先端が分離手段7を通過するまでの距離L2より大となる関係が成立する構成であることを特徴とする。
【0059】
またさらに、本実施形態において、上流側ローラー10が駆動する状態と回動自在な状態とを切り換える第1切り換え手段23をさらに備え、最上位の用紙Pの先端が分離手段7を通過した際、上流側ローラー10を前記駆動させる状態から前記回動自在な状態に切り換える構成であることを特徴とする。
また、本実施形態において、上流側ローラー10が用紙Pと接触した接触状態と用紙Pから離間した離間状態とを切り換える第2切り換え手段24をさらに備え、最上位の用紙Pの先端が分離手段7を通過した際、上流側ローラー10を前記接触状態から前記離間状態に切り換える構成であることを特徴とする。
【0060】
またさらに、本実施形態において、最上位の用紙Pの先端が分離手段7を通過し最上位の用紙Pの後端が上流側ローラー10を通過した後に、上流側ローラー10の駆動を停止させる構成であることを特徴とする。
本実施形態の記録装置としてのプリンター1は、被記録媒体の一例である用紙Pを送り方向Yへ送る媒体送り手段2と、媒体送り手段2によって送られた用紙Pに対して記録ヘッド18により記録する記録部16と、を備えていることを特徴とする。
【0061】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1 プリンター、2 媒体送り手段、3 ピックアップローラー、4 第1アーム部、
5 第1揺動軸、6 載置部、7 分離手段、8 傾斜面、9 撓み形成手段、
10 上流側ローラー、11 第2アーム部、12 第1エッジガイド、
13 第2エッジガイド、14 第1ローラー対、14a 第1駆動ローラー、
14b 第1従動ローラー(リタードローラー)、15 第2ローラー対、
15a 第2駆動ローラー、15b 第2従動ローラー、16 記録部、
17 キャリッジ、18 記録ヘッド、19 媒体支持部、20 排出部、
21 第3ローラー対、22 第2揺動軸、23 第1切り換え手段、
24 第2切り換え手段、C 撓み、
L1 上流側ローラーが用紙と接触する箇所から撓んだ状態の用紙の後端までの距離、
L2 給送開始前の状態の用紙の先端位置から分離手段を通過するまでの距離、
P 用紙、X 幅方向、Y 送り方向、Z 積層方向(鉛直方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被送り媒体が載置される載置部と、
該載置部に載置された被送り媒体のうち積層方向最上位の被送り媒体と接触し該被送り媒体を送り方向下流側へ送る第1ローラーと、
該第1ローラーより送り方向上流側に設けられ、最上位の被送り媒体における前記第1ローラーが接触する箇所より上流側において該最上位の被送り媒体に対して送り方向下流側への力を付与することにより前記第1ローラーとの間において最上位の被送り媒体に撓みを形成する撓み形成手段と、を備えた媒体送り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の媒体送り装置において、前記載置部における被送り媒体の送り方向に対する幅方向両側において、被送り媒体の側端と接触するエッジガイドをさらに備える媒体送り装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の媒体送り装置において、前記撓み形成手段は、前記第1ローラーより上流側において最上位の被送り媒体と接触し駆動する第2ローラーを有しており、
前記第1ローラーが最上位の被送り媒体を送る際、前記第1ローラーが停止した状態で前記第2ローラーが先に駆動を開始し、次に前記第1ローラーおよび前記第2ローラーが駆動して最上位の被送り媒体を送る構成である媒体送り装置。
【請求項4】
請求項3に記載の媒体送り装置において、前記第1ローラーより送り方向下流側に最上位の被送り媒体と次位以降の被送り媒体とを分離する分離手段をさらに備え、
撓んだ状態の最上位の被送り媒体と前記第2ローラーとの接触箇所から最上位の被送り媒体の上流端である後端までの距離L1は、前記第1ローラーによって送られる前の状態の最上位の被送り媒体の下流端である先端の位置から前記第1ローラーによって送られ該先端が前記分離手段を通過するまでの距離L2より大となる関係が成立する構成である媒体送り装置。
【請求項5】
請求項4に記載の媒体送り装置において、前記第2ローラーが駆動する状態と回動自在な状態とを切り換える第1切り換え手段をさらに備え、
最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過した際、前記第2ローラーを前記駆動させる状態から前記回動自在な状態に切り換える構成である媒体送り装置。
【請求項6】
請求項4に記載の媒体送り装置において、前記第2ローラーが被送り媒体と接触した接触状態と被送り媒体から離間した離間状態とを切り換える第2切り換え手段をさらに備え、
最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過した際、前記第2ローラーを前記接触状態から前記離間状態に切り換える構成である媒体送り装置。
【請求項7】
請求項4に記載の媒体送り装置において、最上位の被送り媒体の先端が前記分離手段を通過し最上位の被送り媒体の後端が前記第2ローラーを通過した後に、該第2ローラーの駆動を停止させる構成である媒体送り装置。
【請求項8】
被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、
該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、
前記媒体送り手段は、請求項1から7のいずれか1項に記載された前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体である記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195237(P2011−195237A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62083(P2010−62083)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】