説明

子牛用代用乳組成物

【課題】子牛のよりよい発育と水または温水等への溶解性・分散性に優れた子牛用代用乳組成物を得るため、小麦グルテン酵素分解物中に1種又は2種以上の特定の遊離アミノ酸含有量を一定量以上含む前記小麦グルテン酵素分解物を含有する子牛用代用乳組成物を提供する。
【解決手段】小麦グルテン酵素分解物100g中に、総遊離アミノ酸を700mg以上含み、かつ、小麦グルテン酵素分解物100g中に、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg以上含み、かつ/または、デンプン含量が1質量%未満である上記小麦グルテン酵素分解物を含有する子牛用代用乳組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜用の代用乳組成物に関する。更に詳しくは、子牛の育成に優れた効果を発揮し、水または温水等への溶解性・分散性に優れた子牛用代用乳組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子牛、子豚等の幼畜類の生産やその他の幼動物の飼育に当っては、飼育の合理化や育成率の向上のために、母乳に代用して、また母乳に併用して人工的に造られた代用乳組成物を給与することが行われている。この代用乳組成物は、通常、脱脂粉乳、乾燥ホエー等の乳成分を主成分とし、これに油脂類、糖類、穀類等を配合して製造され、水または温水等に溶解あるいは乳化分散させて給与されている。
【0003】
そのような代用乳組成物は、消化器官が未発達な幼畜類に対して母乳に代えて用いられるという性格上、栄養面で母乳に近いことが望まれるとともに、栄養成分や有効成分を付加することにより母乳のみでは不十分な栄養成分を補うこと、更には消化吸収性に優れていることが期待されている。また、代用乳組成物は通常粉末又は顆粒状の組成物であることから水または温水等に溶解して用いるところ、特に大規模飼育農家では毎日大量の代用乳を調製して幼畜類等に給与しなければならないことから、代用乳組成物が水または温水等に均一に溶解、分散し、溶け残りが生じない特性を有することが求められている。
【0004】
従来の家畜用代用乳の改善技術として、消化吸収性の良好な脂肪の利用を高めるため、脂肪中に含まれる2−パルミトイル−1,3−ジオレイルグリセロールの総量が8〜16重量%であり、かつ脂肪中に含まれるステアリン酸を含む三飽和型トリグリセリドの総量が2重量%以下である子牛などの家畜用代用乳(例えば、特許文献1参照)や、レシチンおよびポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルを含有する代用乳組成物とすることにより、脂肪球のサイズを小さくし、油脂含有量を高めるようにしたもの(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
また、子牛用代用乳の給与方法として、ホエー類を主成分とする代用乳組成物を水または温水に溶解または分散させて調製した代用乳であって且つ浸透圧を100〜300mOsm/kg・HOに調整したものを給与する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。さらに、分散性に関する技術としては、代用乳原料中に、0.1〜10重量%のトレハロースを含有する、温水に溶解する際の水への沈降性、分散性に優れた幼畜用代用乳組成物(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0006】
さらに、澱粉の分解物や蛋白質、アミノ酸の組み合わせにより改善した反芻動物用代用乳として、糖化度が5〜20のデキストリンを5〜30重量%配合してあり、かつ、粗蛋白質を18重量%以上、リジンを1.7重量%以上、メチオニンを0.5重量%以上、粗脂肪を15重量%以上含有するように調整してあると共に、その12.5重量%溶解物の浸透圧が250〜300mOsm/kg・HOである子牛などの反芻動物用代用乳組成物(例えば、特許文献5参照)やアミノ酸バランスの適正化をはかった子牛用代用乳として、L−トレオニンを添加し、トレオニンの含有量を1.00〜1.80重量%であって、かつ粗脂肪含有量の4〜8重量%に調整した子牛用代用乳組成物(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0007】
一方、特定の遊離アミノ酸を特定量含む小麦グルテン酵素分解物を含有する子牛用代用乳組成物は知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平8−98648号公報
【特許文献2】特開平10−84868号公報
【特許文献3】特開平10−84883号公報
【特許文献4】特開2007−222131号公報
【特許文献5】特開2004−187621号公報
【特許文献6】特開2008−193901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
子牛用代用乳組成物に従来使用されている小麦グルテン酵素分解物は、消化器官の未発達な子牛に対する消化吸収性、ならびに水または温水等への溶解性、分散性が脱脂粉乳等乳原料と比較して劣ることにより使用量が制限されるため、満足できるものではない。
【0010】
本発明の課題は、小麦グルテン酵素分解物のうち、子牛のよりよい発育と水または温水等への溶解性・分散性に優れた子牛用代用乳組成物を得るため、小麦グルテン酵素分解物中に1種又は2種以上の特定の遊離アミノ酸含有量を一定量以上含む小麦グルテン酵素分解物を含有する子牛用代用乳組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、代用乳組成物において、含まれる小麦グルテン酵素分解物中における遊離アミノ酸比率が700mg/100gと高く、同時にデンプン含量が1質量%未満と低く抑えられている小麦グルテン酵素分解物を原料として用いることにより、消化吸収性に優れ、消化器官が未発達な幼畜類の発育、健康を適切にサポートすることができ、かつ水または温水等に対する溶解性が優れたものであることを見出し、さらに含まれる遊離アミノ酸の種類、含有量などと子牛の発育具合(体重等)との関連や代用乳組成物の水または温水等への溶解性との関連についても検討した結果、小麦グルテン酵素分解物中の遊離アミノ酸のうち遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg/100g以上含有する小麦グルテン酵素分解物が、子牛の成育に良好な成育をもたらすことも確認でき、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)小麦グルテン酵素分解物100g中に、総遊離アミノ酸を700mg以上含み、かつ、小麦グルテン酵素分解物100g中に、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg以上含む小麦グルテン酵素分解物を含有することを特徴とする子牛用代用乳組成物に関する。
【0013】
また本発明は、(2)小麦グルテン酵素分解物が、デンプン含量が1質量%未満であることを特徴とする前記(1)記載の子牛用代用乳組成物や、(3)小麦グルテン酵素分解物が、子牛用代用乳組成物中に5〜30質量%含有されることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の子牛用代用乳組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、消化器官が未発達な幼畜類における消化吸収性を改善することにより、従来にない発育と健康を適切にサポートすることができ、また、水または温水等に対して優れた溶解性を示す子牛用代用乳組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の子牛用代用乳組成物としては、小麦グルテン酵素分解物100g中に、総遊離アミノ酸を700mg以上含み、かつ、小麦グルテン酵素分解物100g中に、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg以上含むものであれば、小麦グルテンを酵素で分解した調製品、市販品など特に制限されない。ここで、小麦グルテン酵素分解物とは、小麦の主要タンパクであるグルテンを酵素的に加水分解したものである。そして、小麦グルテン酵素分解物100g中に、総遊離アミノ酸を700mg以上含み、かつ、小麦グルテン酵素分解物100g中に、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg以上含む小麦グルテン酵素分解物が得られる酵素であればその種類や起源は特に制限されず、また1種又は2種以上の酵素を用いて分解してもよい。
【0016】
本発明における子牛用代用乳組成物としては、上記小麦グルテン酵素分解物の他、脱脂粉乳、乾燥ホエー、濃縮ホエー等の乳成分および粉末油脂などの油脂類、糖類、穀類等を配合できるが、これらに制限されるものではない。通常、水や温水等に溶かして、出生直後からおおむね70日齢の子牛に液状で給与されるものである。
【0017】
総遊離アミノ酸とは、小麦グルテン酵素分解物に含まれる遊離アミノ酸全てを合計したもので、本発明においては、小麦グルテン酵素分解物100g中に総遊離アミノ酸を700mg以上含むものであり、700mg未満では、本発明の所期の効果を奏することができない。即ち、消化吸収性や組成物の水または温水等への溶解性に好ましくない影響を及ぼす。小麦グルテン酵素分解物100g中に含まれる総遊離アミノ酸の上限は特に制限されない。さらに、小麦グルテン酵素分解物には、遊離アミノ酸の中でも、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg/100g以上含むことが重要である。例えば、遊離リジン20mg/100g以上好ましくは40mg/100g以上、遊離メチオニン20mg/100g以上好ましくは50mg/100g以上及び遊離スレオニン20mg/100g以上好ましくは30mg/100g以上含む小麦グルテン酵素分解物を好適に例示することができる。これらの遊離アミノ酸を含むことにより、子牛の増体重によい影響を及ぼすとともに、子牛の下痢などの疾病を防ぐことができる。さらに、小麦グルテン酵素分解物には、表1に示すように、リジン、メチオニン及びスレオニン以外の種々の遊離アミノ酸を含んでいてもよい。
【0018】
本発明の小麦グルテン酵素分解物は、デンプン含量が1質量%未満であることが好ましく、水または温水等への溶解性、分散性に優れた影響を及ぼす。また、小麦グルテン酵素分解物は、子牛用代用乳組成物に5〜30質量%配合することが好ましく、体重増加や水または温水等への溶解性、分散性に十分に寄与する。
【0019】
本発明における遊離アミノ酸含量は、試料10gをTCA(トリクロロ酢酸)法により除タンパクし、pH調整(pH=2.2)後に濾過した試験溶液を、高速アミノ酸分析計(株式会社日立ハイテクノロジーズ L−8800)を用いアミノ酸自動分析法により測定した値で表されている。
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
粉末油脂40質量部、総遊離アミノ酸を974mg/100g含有する小麦グルテン酵素分解物(商品名「NUTRIOR」;CHAMTOR社製)10質量部、乳由来原料30質量部、及び糖類、ビタミン類、ミネラル類20質量部を攪拌混合機で均一になるまで混合して代用乳粉末混合物を調製した。得られた代用乳粉末混合物100質量部を流動層造粒機(商品名「ミクスグラード」;株式会社大川原製作所製)に投入し、100℃の熱風で代用乳粉末混合物を流動させながら、60℃の温水を0.034質量部/秒の噴霧速度で噴霧し造粒した。噴霧した温水の総量は10質量部であり、代用乳粉末組成物の重量に対して10質量部となるまで噴霧した。温水の噴霧終了後、さらに5分間乾燥した後、流動層造粒機から取り出し代用乳組成物とした。
【0022】
[比較例]
実施例1の小麦グルテン酵素分解物を、表1に示す総遊離アミノ酸を539mg/100g含有する小麦グルテン酵素分解物(商品名「ソルプロ508」;TATE&LYLE社製)に置きかえた以外は実施例1と同様の方法で代用乳を調製した。
【0023】
実施例1、比較例でそれぞれ用いた小麦グルテン酵素分解物の遊離アミノ酸含量を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[試験例1]
近隣家畜市場で購入したおおよそ3週齢の乳用種×黒毛和種交雑牛を当社試験牧場に導入し、実施例で調製した代用乳組成物給与区(以下、試験区)と比較例で調製した代用乳組成物給与区(以下、対照区)にそれぞれ8頭ずつ供試した。試験区の子牛には実施例で調製した代用乳200gを9倍量の温水(45℃)に溶かして朝、夕の2回、28日間給与した。対照区の子牛には比較例で調製した代用乳200gを9倍量の温水(45℃)に溶かして朝、夕の2回、28日間給与した。また、両区とも哺乳期子牛育成用配合飼料を上限1500g/日として給与した。その結果を表2に示す。
【0026】

【表2】

【0027】
表2に示すとおり、試験区の方がより高い発育を示していることが分った。
【0028】
[試験例2]
実施例1で調製した代用乳組成物30gと、比較例で調製した代用乳組成物30gを9倍量の温水(41℃)の入った300mlビーカーに加えてそれぞれ1分間攪拌した後、300mlメスシリンダーに移し替えて30分間静置し、沈殿残渣を沈殿堆積量として測定した。その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3に示すとおり、実施例1で調製した代用乳組成物では、沈殿残渣は認められなかったのに対し、比較例で調製した代用乳組成物の沈殿残渣は沈殿堆積量として4.0mlであり、本発明の代用乳組成物は、溶解性に優れることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦グルテン酵素分解物100g中に、総遊離アミノ酸を700mg以上含み、かつ、小麦グルテン酵素分解物100g中に、遊離リジン、遊離メチオニン及び遊離スレオニンからなる1種又は2種以上を各20mg以上含む小麦グルテン酵素分解物を含有することを特徴とする子牛用代用乳組成物。
【請求項2】
小麦グルテン酵素分解物が、デンプン含量が1質量%未満であることを特徴とする請求項1記載の子牛用代用乳組成物。
【請求項3】
小麦グルテン酵素分解物が、子牛用代用乳組成物中に5〜30質量%含有されることを特徴とする請求項1又は2記載の子牛用代用乳組成物。