説明

宇宙船用の電気機械式アクチュエータシステムおよびその作動方法

【課題】宇宙船の推力ベクトル制御などのアクチュエータとして油圧式アクチュエータのような環境汚染や火災の問題を回避すると同時に、重いバッテリの使用を不要とする。
【解決手段】宇宙船の電気機械式アクチュエータシステム10として、電気機械式アクチュエータ(EMA)12を用い、EMA12に、タービン14で駆動される発電機20の電力が供給される。タービン14は、水素などの推進燃料16の流れによって回転する。
発電機20の回転速度は、推進燃料16の流量を制御する推進燃料制御バルブ26と通信するガバナ24によって制御される。電力は、システムコントローラ28を介してEMA12のモータ40に供給され、システムコントローラ28は宇宙船フライトコンピュータ30との通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気機械式アクチュエータに関し、詳しくは、電気機械式アクチュエータの電力供給・制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械式アクチュエータは、種々の用途ならびに環境において使用されている。例えば、宇宙船においては、多くの場合、打ち上げや操縦の際にメインエンジンの推力ベクトル制御がなされ、この推力ベクトル制御のためにメインエンジンのノズルを動かす手段が必要である。従来は、この用途に油圧アクチュエータシステムが用いられていたが、この油圧アクチュエータシステムは複雑でかつ重く、作動流体による火災や環境汚染の問題があり、しかも、保守管理や打ち上げ前の温度調整が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、推力ベクトル制御システムにおける油圧アクチュエータの代替として電気機械式アクチュエータが使用され始めている。電気機械式アクチュエータを用いる場合には、油圧流体システムのような複雑さが軽減するが、電気機械式アクチュエータに電力供給するために、バッテリの付加、あるいは、宇宙船に搭載した電気システムの使用が必要となる。宇宙船においては、物理的なスペースや宇宙船の重量は非常に貴重なものであり、従って、大きくかつ重いバッテリの付加は好ましくない。さらに、宇宙船に搭載される電気システムは、電気機械式アクチュエータに電力供給できるほどの大きさのものではなく、従って、電気機械式アクチュエータに対応するためには相当に大型化しなければならなくなる。
【0004】
本発明は、推力ベクトル制御や他の用途のための電気機械式アクチュエータに電力供給を行う代替システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様によれば、宇宙船用の電気機械式アクチュエータシステムは、推進燃料源と、この推進燃料源に連通し、該推進燃料源からの推進燃料の流れによって回転する少なくとも1つのタービンを含む。少なくとも1つの発電機が、上記の少なくとも1つのタービンに機能的に接続され、該タービンの回転を電気エネルギに変換するように構成されている。少なくとも1つの電気機械式アクチュエータが、上記の少なくとも1つの発電機に機能的に接続され、この発電機からの電気エネルギによって駆動される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、宇宙船用の電気機械式アクチュエータの作動方法は、推進燃料の流れを推進燃料源から少なくとも1つのタービンへ供給し、上記の少なくとも1つのタービンを通る推進燃料の流れによって該タービンを回転させる。この少なくとも1つのタービンの回転により、この少なくとも1つのタービンに機能的に接続された少なくとも1つの発電機において電気エネルギを生成する。この少なくとも1つの発電機において生成された電気エネルギによって、電気機械式アクチュエータを作動させる。
【0007】
本発明のさらに他の態様によれば、宇宙船メインエンジンの推力ベクトル制御システムは、上記メインエンジンに機能的に接続された少なくとも2つの電気機械式アクチュエータを有し、1つあるいはいくつかの電気機械式アクチュエータが上記メインエンジンを第1の方向に動かすように構成され、かつ、1つあるいはいくつかの電気機械式アクチュエータが上記メインエンジンを第2の方向に動かすように構成されている。また、上記システムは、推進燃料源と、この推進燃料源に機能的に接続され、該推進燃料源からの推進燃料の流れによって回転する少なくとも1つのタービンと、を有する。少なくとも1つの発電機が上記の少なくとも1つのタービンおよび上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータに機能的に接続され、上記タービンの回転を、上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータを駆動するための電気エネルギに変換する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】タービンにより電力供給される電気機械式アクチュエータシステムの一実施例を示す構成説明図。
【図2】タービンにより電力供給される電気機械式アクチュエータシステムの他の実施例を示す構成説明図。
【図3】タービンにより電力供給される電気機械式アクチュエータシステムのさらに他の実施例を示す構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
図1は、タービン電力供給型の電気機械式アクチュエータシステム10の一実施例を示す構成説明図である。このシステムは、例えば、宇宙船における推力ベクトル制御のためにメインエンジンの操作に利用され、あるいは他のコンポーネントの操作に利用される。このシステムは、図示しない操作対象のコンポーネント(例えば宇宙船のエンジンあるいは他のコンポーネント)に接続された電気機械式アクチュエータ(EMA:electromechanical actuator)12を含んでいる。このEMA12としては、リニア型のものであってもロータリ型のものであってもよい。EMA12に電力供給するために、タービン14が設けられている。このタービン14は、推進燃料(propellant)16の流れによって回転する。いくつかの実施例においては、推進燃料16は水素ガスであり、機体搭載型の液体推進燃料タンク18再加圧システムから排気される。液体推進燃料は、メインエンジンの駆動に用いられるものである。他の実施例においては、推進燃料16として、加圧されたヘリウムなどのガス、固体推進燃料ガス発生剤、ヒドラジンなどの液体推進燃料、が用いられ得る。
【0011】
推進燃料16によってタービン14が回転し、このタービン14によって、該タービン14に接続された発電機20が回転する。この発電機20の回転速度は、例えばタービン14と発電機20との間に配置されたギアボックス22によって制御される。同様に、いくつかの実施例においては、例えば、タービン14に接続されて、推進燃料16の流量を制御する推進燃料制御バルブ26と通信するガバナ24や他のデバイスからなる速度制御デバイス24によって、タービン14の回転速度が制御される。発電機20の回転によって電力が生成され、システムコントローラ28に供給される。
【0012】
システムコントローラ28は、いくつかの機能を奏しうるものであり、EMA12に供給する前に電力の調整を行い、かつ宇宙船フライトコンピュータ30との通信を行う。さらに、システムコントローラ28は、EMA12に配置された複数のEMAセンサ32に接続されている。使用されるEMAセンサ32の数は、モータの形式およびシステムの位置フィードバックの要件によって異なる。EMAセンサ32は、モータのコミュテーション、位置フィードバック、状態監視(health monitoring)、などの用途のためのものである。複数のEMAセンサ32は、EMA12の位置をモニタし、かつEMA12の状態監視情報を、宇宙船フライトコンピュータ30へ供給する。宇宙船フライトコンピュータ30からの指令によって、システムコントローラ28は、EMA12に接続された1つあるいは複数のモータ40に電力を供給してEMA12を動作させ、付随するコンポーネントの位置を変更する。
【0013】
図2は、宇宙船のメインエンジン34の推力ベクトルを制御するために2つのEMA12を用いた実施例を示している。第1のEMA12aは、第1の軸36の方向に沿ったメインエンジン34の動きを制御するために用いられ、第2のEMA12bは、第2の軸38の方向に沿ったメインエンジン34の動きを制御するために用いられている。図3に示すように、いくつかの実施例においては、EMA12aおよびEMA12bが、別々のタービン14にそれぞれ接続された独立した各々のシステムコントローラ28によって制御される。しかし、他の実施例においては、EMA12aおよびEMA12bは、単一のシステムコントローラ28を介して単一の共通のタービン14によって電力供給される。また、機器の冗長性が要求される他の実施例においては、複数個、例えば2つのEMA12aおよびEMA12bがメインエンジン34に接続され、1つあるいは複数のEMA12が故障した場合でもアクチュエータシステム10の動作を確保するようになっている。さらに、複数のモータ40および複数の負荷経路を備えてなるEMA12を用いることで、EMA12の冗長性を得ることができる。特定のシステムの冗長性の要求にさらに適合するために、複数のシステムコントローラ28とタービン14とを組み合わせてアクチュエータシステム10を構成することができる。
【0014】
上記のように、アクチュエータシステム10は、1つあるいは複数のタービン14の使用を介して、1つあるいは複数のEMA12に電力を供給する。推進燃料16、例えば機体搭載型の推進燃料タンク18再加圧システムから得られる推進燃料16、によって駆動される1つあるいは複数のタービン14を用いることで、EMA12を駆動するバッテリの使用に代えて、軽量な構成が提供される。さらに、本システムでは、アクチュエータを駆動するために油圧流体を用いる必要がなく、従って、環境汚染や火災の問題がないとともに、打ち上げ前に作動流体を温度調整する必要がなくなり、さらに、油圧流体システムに関連した保守管理の要求が軽減する。
【0015】
以上、この発明の一実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0016】
10…タービン電力供給型電気機械式アクチュエータシステム
12…電気機械式アクチュエータ
14…タービン
16…推進燃料
20…発電機
24…ガバナ
28…システムコントローラ
30…宇宙船フライトコンピュータ
34…メインエンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙船用の電気機械式アクチュエータシステム(10)であって、
推進燃料源(18)と、
この推進燃料源(18)に連通し、該推進燃料源からの推進燃料(16)の流れによって回転する少なくとも1つのタービン(14)と、
この少なくとも1つのタービン(14)に機能的に接続され、該タービン(14)の回転を電気エネルギに変換するように構成された少なくとも1つの発電機(20)と、
この少なくとも1つの発電機(20)に機能的に接続され、この発電機(20)からの電気エネルギによって駆動される少なくとも1つの電気機械式アクチュエータ(12)と、
を備えてなる電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項2】
上記電気機械式アクチュエータ(12)として少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項3】
個々の発電機(20)が電気機械式アクチュエータ(12)の各々に機能的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項4】
上記の推進燃料(16)の流れは、液体推進燃料タンク(18)再加圧システムから排気された水素ガス、加圧されたヘリウムもしくは他のガス、固体推進燃料ガス発生剤、液体推進燃料、の中の1つからなることを特徴とする請求項1に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項5】
上記の少なくとも1つの発電機(20)に機能的に接続され、かつ上記の少なくとも1つの電気機械式アクチュエータ(12)への電気エネルギの流れを制御するように構成された少なくとも1つのシステムコントローラ(28)をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項6】
上記の少なくとも1つのシステムコントローラ(28)が宇宙船フライトコンピュータ(30)に機能的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項7】
回転制御のために上記の少なくとも1つのタービン(14)に機能的に接続された少なくとも1つのガバナ(24)を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項8】
上記の少なくとも1つのタービン(14)に供給される推進燃料(16)の流量を制御するように上記の少なくとも1つのガバナ(24)に機能的に接続された推進燃料制御バルブ(26)を備えることを特徴とする請求項7に記載の電気機械式アクチュエータシステム(10)。
【請求項9】
宇宙船用のタービン電力供給型電気機械式アクチュエータ(12)の作動方法であって、
推進燃料(16)の流れを推進燃料源(18)から少なくとも1つのタービン(14)へ供給し、
上記の少なくとも1つのタービン(14)を通る推進燃料(16)の流れによって該タービン(14)を回転させ、
この少なくとも1つのタービン(14)の回転により、この少なくとも1つのタービン(14)に機能的に接続された少なくとも1つの発電機(20)において電気エネルギを生成し、
この少なくとも1つの発電機(20)において生成された電気エネルギによって、電気機械式アクチュエータ(12)を作動させる、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
上記の少なくとも1つの発電機(20)に機能的に接続された少なくとも1つのシステムコントローラ(28)を介して、上記の少なくとも1つの電気機械式アクチュエータ(12)への電気エネルギの流れを制御することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記の少なくとも1つのシステムコントローラ(28)を介して電気エネルギの流れを導くための指令を宇宙船フライトコンピュータ(30)から受け取ることをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記の少なくとも1つのタービン(14)に機能的に接続された少なくとも1つの速度制御デバイス(24)を介して、上記の少なくとも1つのタービン(14)の回転を制御することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
上記の少なくとも1つの速度制御デバイス(24)に機能的に接続された推進燃料制御バルブ(26)を介して、上記の少なくとも1つのタービン(14)への推進燃料(16)の流量を制御することをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
宇宙船メインエンジン(34)の推力ベクトル制御システムであって、
1つあるいはいくつかの電気機械式アクチュエータ(12)が上記メインエンジン(34)を第1の方向(36)に動かすように構成され、かつ、1つあるいはいくつかの電気機械式アクチュエータ(12)が上記メインエンジンを第2の方向(38)に動かすように構成された、上記メインエンジン(34)に機能的に接続された少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)と、
推進燃料源(18)と、
上記推進燃料源(18)に機能的に接続され、該推進燃料源からの推進燃料(16)の流れによって回転する少なくとも1つのタービン(14)と、
上記の少なくとも1つのタービン(14)および上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)に機能的に接続され、上記タービン(14)の回転を、上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)を駆動するための電気エネルギに変換する少なくとも1つの発電機(20)と、
を備えてなる推力ベクトル制御システム。
【請求項15】
上記タービン(14)として少なくとも2つのタービン(14)を有することを特徴とする請求項14に記載の推力ベクトル制御システム。
【請求項16】
上記発電機(20)として少なくとも2つの発電機(20)を有し、その各々の発電機(20)は、上記の少なくとも2つのタービン(14)の中の1つあるいは複数のタービン(14)に機能的に接続されるとともに、上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)の中の1つあるいは複数の電気機械式アクチュエータ(12)に機能的に接続されることを特徴とする請求項15に記載の推力ベクトル制御システム。
【請求項17】
上記の推進燃料(16)の流れは、液体推進燃料タンク(18)再加圧システムから排気された水素ガス、加圧されたヘリウムもしくは他のガス、固体推進燃料ガス発生剤、液体推進燃料、の中の1つからなることを特徴とする請求項14に記載の推力ベクトル制御システム。
【請求項18】
上記の少なくとも1つの発電機(20)に機能的に接続され、かつ上記の少なくとも2つの電気機械式アクチュエータ(12)への電気エネルギの流れを制御するように構成された少なくとも1つのシステムコントローラ(28)をさらに備えることを特徴とする請求項14に記載の推力ベクトル制御システム。
【請求項19】
回転制御のために上記の少なくとも1つのタービン(14)に機能的に接続された少なくとも1つの速度制御デバイス(24)を備えることを特徴とする請求項14に記載の推力ベクトル制御システム。
【請求項20】
上記の少なくとも1つのタービン(14)に供給される推進燃料(16)の流量を制御するように上記の少なくとも1つの速度制御デバイス(24)に機能的に接続された推進燃料制御バルブ(26)を備えることを特徴とする請求項19に記載の推力ベクトル制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−148489(P2011−148489A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9599(P2011−9599)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.