説明

安全性評価用ダミー、安全性評価用人工皮膚

【課題】より人体に近似した物性を示す安全性評価用ダミー、安全性評価用人工皮膚を得る。
【解決手段】安全性評価用ダミー10は、金属系材料から成る骨部と、骨部の外周を取り囲む発泡ゴム系材料から成る内皮部と、内皮部の外周を取り囲むシリコンゴム系材料から成る外皮部と、から構成される3層構造の指部11を備えている。特に、外皮部を構成するシリコンゴム系材料には粘着性抑制部材が混入されており、切れ具合や裂け具合が人皮と同様の様相を示すことができるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体を構成するヒトの各部位と非常に近似した物性を示す安全性評価用ダミー、および安全性評価用人工皮膚の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの衝突試験においては、人間が被る傷害を予測するための測定ツールとして、衝突試験用人体模型(人体ダミー)が使用されている。そして、例えば人体ダミーを自動車に搭乗させて衝突試験を行い、この試験から得られたデータを分析・利用することで、自動車の衝突安全性能の向上が図られてきた。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0004】
【非特許文献1】株式会社ジャスティ、ホームページ“人体ダミー/ダミー部品 ・HYBRID-III 50th”、[online]、2003年、[平成20年8月7日検索]、インターネット<URL:http://www.jasti.co.jp/08/7-1a.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、人体ダミーの研究開発は発展途上にある。例えば、自動車衝突試験用人体ダミーについては、現在、ハイブリッド3ダミーが国際的には使用されているが、衝撃応答特性を一層改善し、より人体に近付ける必要性が世界的に叫ばれている。これは、より人体構造に近似し、生体忠実性などの性能向上を図った人体ダミーを実現することで、かかる改良された人体ダミーが、自動車の衝突安全性能等といった人間が利用する機械装置の安全性向上に寄与することを期待されているからである。
【0006】
本発明は、上述した課題の存在に鑑みて成されたものであって、その目的は、従来技術では実現できなかった、より人体に近似した物性を示す安全性評価用ダミー、および安全性評価用人工皮膚を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る安全性評価用ダミーは、金属系材料から成る骨部と、前記骨部の外周を取り囲む発泡ゴム系材料から成る内皮部と、前記内皮部の外周を取り囲むシリコンゴム系材料から成る外皮部と、から構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る安全性評価用ダミーにおいて、前記外皮部を構成する前記シリコンゴム系材料には、粘着性抑制部材を混入することができる。
【0009】
また、本発明に係る安全性評価用ダミーにおいて、前記シリコンゴム系材料は、シリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を混合することで構成されており、さらに、シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5からなる2つの比例式が成り立つ混合比率にて構成されていることとすることができる。
【0010】
さらに、本発明に係る安全性評価用ダミーにおいて、前記骨部を構成する前記金属系材料は、ステンレス鋼であることとすることができる。
【0011】
またさらに、本発明に係る安全性評価用ダミーにおいて、前記内皮部を構成する前記発泡ゴム系材料は、スポンジゴムであることとすることができる。
【0012】
さらにまた、本発明に係る安全性評価用ダミーは、5〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を有して構成されていることが好適である。
【0013】
本発明に係る安全性評価用人工皮膚は、発泡ゴム系材料から成る内皮部と、前記内皮部の外方側に形成されるシリコンゴム系材料から成る外皮部と、から構成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る安全性評価用人工皮膚において、前記外皮部を構成する前記シリコンゴム系材料には、粘着性抑制部材を混入することができる。
【0015】
また、本発明に係る安全性評価用人工皮膚において、前記シリコンゴム系材料は、シリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を混合することで構成されており、さらに、シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5からなる2つの比例式が成り立つ混合比率にて構成されていることとすることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る安全性評価用人工皮膚において、前記内皮部を構成する前記発泡ゴム系材料は、スポンジゴムであることとすることができる。
【0017】
またさらに、本発明に係る安全性評価用人工皮膚は、5〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を有して構成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来技術では実現できなかった、より人体に近似した物性を示す安全性評価用ダミー、および安全性評価用人工皮膚を実現することができる。したがって、本発明に係る安全性評価用ダミー、および安全性評価用人工皮膚を利用したダミー試験を実施し、これにより得られた試験データを分析・利用することで、人間が利用する機械装置のより一層の安全性向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、以下の実施形態は、本発明に係る安全性評価用ダミーをヒトの指に適用することで安全性評価用ヒト指ダミーとして構成した場合を例示するものであり、その構成部材として本発明に係る安全性評価用人工皮膚を含んだものである。
【0020】
図1は、本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミーの斜視外観透視図である。また、図2は、本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミーの具体的な構成を説明するための図であり、図中(a)は上面視を、図中(b)は側面視を、図中(c)は正面視を示している。さらに、図3は、図2で示したA−A断面を示す図であり、また、図4は、図2で示したB−B断面を示す図である。
【0021】
本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミー10は、破壊荷重を与えることで安全性の評価を行うための指部11と、この指部11を移動不能に固定設置するとともに試験の際に安全性評価用ヒト指ダミー10本体を固定する役割を担うグリップ部21とから構成されている。
【0022】
指部11は、金属系材料から成る骨部12と、骨部12の外周を取り囲む発泡ゴム系材料から成る内皮部13と、内皮部13の外周を取り囲むシリコンゴム系材料から成る外皮部14と、から構成される3層構造を有している。
【0023】
この指部11の付け根側には、グリップ部21との確実な固定を行うために、グリップ部21に嵌まり込む箇所にキー溝15が形成されている。一方、グリップ部21の側にも指部11が有するキー溝15に対応する箇所にキー溝22が形成されており、これら2つのキー溝15,22にキーを差し込むことで、指部11とグリップ部21との回り止めが実現されている。
【0024】
さらに、グリップ部21には、ねじ穴が形成されており、このねじ穴にセットスクリュー23を螺合設置することでグリップ部21に嵌め込まれた指部11の押圧が実施されている。以上のような2つのキー溝15,22とキー、およびセットスクリュー23の作用によって、グリップ部21に対する指部11の確実な固定が実現されている。
【0025】
安全性評価用ヒト指ダミー10を構成する部材の具体的な材料としては、例えば、骨部12を構成する金属系材料についてはSUS304などのステンレス鋼、内皮部13を構成する発泡ゴム系材料についてはイノアック社製のスポンジゴムN−145、外皮部14を構成するシリコンゴム系材料については信越シリコーン社製のRTVゴム、グリップ部21についてはPOM(polyacetal;ポリアセタール樹脂)、キーについてはS45C、セットスクリュー23についてはSCM440などを採用することが好適である。これらの材料を採用することにより、より人体に近似した物性を示す安全性評価用ヒト指ダミー10を実現することが可能となっている。
【0026】
さらに、本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミー10では、破壊荷重を加える際に指部11の損傷具合が人皮と同じ様相を呈するようにするために、外皮部14を構成するシリコンゴム系材料に対して、粘着性抑制部材を混入することが行われている。具体的には、本実施形態に係る外皮部14を構成するシリコンゴム系材料は、シリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を混合することで構成されており、さらに、シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5、からなる2つの比例式が成り立つ混合比率にて構成されている。このような外皮部14を構成するシリコンゴム系材料の混合比率については、発明者の非常な努力によって得られた知見であり、上記構成比率によって外皮部14が製造された安全性評価用ヒト指ダミー10については、裂傷を加えた際にヒトの指と非常に似通った様相を示す事が確認されている。
【0027】
なお、粘着性抑制部材がシリコンゴム系材料に対して混入されるのは、シリコンゴム系材料に対して粘着性抑制部材を混入することで、この粘着性抑制部材が破壊荷重を加えた際の破壊の起点となり、ちょうど人皮と同程度の損傷状態を得ることができるからである。ちなみに、シリコンゴム系材料単独では、材料自体の結合力が強すぎるので、人皮と同じ様相を呈することはできなくなってしまうことが発明者の実験によって確認されている。また、粘着性抑制部材に採用することができる具体的な部材としては、人毛等の繊維状部材や、ビーズや砂等の粒状部材など、破壊荷重が加わった際にシリコンゴム系材料の破壊の起点となるものであれば、どのようなものでも採用することができる。特に、人毛を粘着性抑制部材として採用した場合には、人皮が裂けたり割れたりする場合の様相と非常に似通った状態を得られることが確認されており、好適な材料である。
【0028】
ここで、図5を用いることにより、粘着性抑制部材を混入したシリコンゴム系材料から成る外皮部14の製造方法について説明を行う。なお、図5は、本実施形態に係る外皮部の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0029】
まず、外皮部14の構成材料であるシリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を正確に計量する(ステップS10)。このステップS10における材料の計量は、発明者の努力によって得られた混合比率である、シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5、からなる2つの比例式が成り立つように正確に行われなければならない。
【0030】
次に、材料の攪拌および脱泡を実施する(ステップS11)。具体的には、まずシリコンαと硬化剤βを良く攪拌して混ぜ合わせた後、混ぜ合わされたシリコンαと硬化剤βに対して粘着性抑制部材γを加え、これらをよく混ぜ合わせる。そして、混ぜ合わされた三種の材料に対して、10分間の脱泡を行う。
【0031】
その後、混ぜ合わされた三種の材料は、型に注入され(ステップS12)、注入されて約72時間後に型から取り出される(ステップS13)。
【0032】
そして最後に、得られた外皮部14に気泡がないか、全体の形状は正常であるかが確認された後、バリを取って仕上げ加工が施される(ステップS14)。以上により、本実施形態に係る外皮部14が完成する。
【0033】
なお、以上のようにして作成された本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミー10の指部11については、5〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を有することが可能となっている。この引張り損傷強度については、成人の指の引張り損傷強度の平均値が5〜10[N/mm&sup2]であり、また、年齢別の人皮の引張り損傷強度を調べると、3ヶ月から6歳の子供の指が5〜15[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を示し、15歳から50歳の青年から大人の指が15〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を示すことが知られている。したがって、本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミー10によれば、あらゆる年齢層のヒトの指の引張り損傷強度を網羅した試験が可能となるので、この試験結果を利用することであらゆる年齢層を想定した機械装置の安全性向上に寄与することが可能となっている。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0035】
例えば、上述した安全性評価用ヒト指ダミー10の寸法については、評価対象が子供であるか大人であるかに応じて任意のサイズを採用することができる。大人の指を想定した場合には、例えば図6にて例示するような寸法にて安全性評価用ヒト指ダミーを制作することが好適であり、子供の指を想定した場合には、例えば図7にて例示するような寸法にて安全性評価用ヒト指ダミーを制作することが好適である。ちなみに、図6の寸法については、成人の指の平均的な寸法データに基づき決定されたものであり、一方、図7の寸法については、3歳児の指の平均的な寸法データに基づき決定されたものである。
【0036】
また、指部11の引張り損傷強度についても、評価対象が子供であるか大人であるかに応じて任意に選択すればよい。
【0037】
さらに、本発明に係る安全性評価用ダミー、および本発明に係る安全性評価用人工皮膚については、上述したヒトの指に関しての適用だけではなく、人体を構成するあらゆる部位のダミーおよび人工皮膚として適用することが可能である。また、ヒトの全身を再現した人体ダミーとして本発明を適用することも可能である。なお、このように本発明を様々な形態に適用する際には、例えば、以下の表1〜表6に示すような人体に関するデータを利用すればよい。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミーの斜視外観透視図である。
【図2】本実施形態に係る安全性評価用ヒト指ダミーの具体的な構成を説明するための図であり、図中(a)は上面視を、図中(b)は側面視を、図中(c)は正面視を示している。
【図3】図2で示したA−A断面を示す図である。
【図4】図2で示したB−B断面を示す図である。
【図5】本実施形態に係る外皮部の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明に係る安全性評価用ヒト指ダミーの取り得る多様な形態を例示するものであり、成人の指を想定した場合の安全性評価用ヒト指ダミーの寸法を例示する図である。
【図7】本発明に係る安全性評価用ヒト指ダミーの取り得る多様な形態を例示するものであり、3歳児の指を想定した場合の安全性評価用ヒト指ダミーの寸法を例示する図である。
【符号の説明】
【0046】
10 安全性評価用ヒト指ダミー、11 指部、12 骨部、13 内皮部、14 外皮部、15 キー溝、21 グリップ部、22 キー溝、23 セットスクリュー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系材料から成る骨部と、
前記骨部の外周を取り囲む発泡ゴム系材料から成る内皮部と、
前記内皮部の外周を取り囲むシリコンゴム系材料から成る外皮部と、
から構成されることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項2】
請求項1に記載の安全性評価用ダミーにおいて、
前記外皮部を構成する前記シリコンゴム系材料には、粘着性抑制部材が混入されていることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項3】
請求項2に記載の安全性評価用ダミーにおいて、
前記シリコンゴム系材料は、
シリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を混合することで構成されており、さらに、
シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、
α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5
からなる2つの比例式が成り立つ混合比率にて構成されていることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項4】
請求項1に記載の安全性評価用ダミーにおいて、
前記骨部を構成する前記金属系材料は、ステンレス鋼であることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項5】
請求項1に記載の安全性評価用ダミーにおいて、
前記内皮部を構成する前記発泡ゴム系材料は、スポンジゴムであることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の安全性評価用ダミーにおいて、
5〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を有して構成されていることを特徴とする安全性評価用ダミー。
【請求項7】
発泡ゴム系材料から成る内皮部と、
前記内皮部の外方側に形成されるシリコンゴム系材料から成る外皮部と、
から構成されることを特徴とする安全性評価用人工皮膚。
【請求項8】
請求項7に記載の安全性評価用人工皮膚において、
前記外皮部を構成する前記シリコンゴム系材料には、粘着性抑制部材が混入されていることを特徴とする安全性評価用人工皮膚。
【請求項9】
請求項8に記載の安全性評価用人工皮膚において、
前記シリコンゴム系材料は、
シリコン、硬化剤および粘着性抑制部材を混合することで構成されており、さらに、
シリコンをα、硬化剤をβ、粘着性抑制部材をγとしたときに、
α:β=100:0.5、および、(α+β):γ=100:0.5
からなる2つの比例式が成り立つ混合比率にて構成されていることを特徴とする安全性評価用人工皮膚。
【請求項10】
請求項7に記載の安全性評価用人工皮膚において、
前記内皮部を構成する前記発泡ゴム系材料は、スポンジゴムであることを特徴とする安全性評価用人工皮膚。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の安全性評価用人工皮膚において、
5〜17[N/mm&sup2]の引張り損傷強度を有して構成されていることを特徴とする安全性評価用人工皮膚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−49194(P2010−49194A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215684(P2008−215684)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(596112516)株式会社ジャスティ (4)
【Fターム(参考)】