説明

安全針

【課題】注射針、採血針、献血針、注入針等の針であって、特別な操作の習得を必要とせず、ヒューマンエラーに関わらず、簡便・確実かつ安価に、針刺し事故防止を実現できる安全針1を提供する。
【解決手段】鈍端3aを有する管状本体部3と、鈍端3aに設けられ鋭利な先端2aを有する先端部2とから構成され、先端部2は無害な可溶性物質からなる安全針1。先端部2の材質は糖質であることが好ましい。刺入時、鋭利な先端2aが血液等に溶解し、先端部が鈍化することにより、使用後の針の刺傷性を低めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針、採血針、献血針、注入針等の針であって、その先端部が無害な可溶性物質からなる安全針に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場や廃棄後の、使い捨て注射器の針、翼状針、静脈留置針等での針刺し事故が問題となっており、この針刺し事故防止を目的とした器具が多々提案されている。医療用の注射器としては、既に無針注射器が市販されており、これに準じた皮下投与用の種々の提案もなされている(特許文献1乃至3参照)。しかし、これらはいずれも、血管内にまで到達させるための仕様ではない。
【0003】
一方、血液検査、献血等での採血用や点滴用等、吸入又は一定量以上の注入を行う場合には、無針で行うわけにはいかず、何らかの形で管状の針を刺さざるを得ない。これに対する安全器材としては、注射後に針先を隠す翼状針用プロテクタ、二重筒型注射針、針刺し事故防止用針キャップ等があり、これらを用いて、使用済み注射針による針刺し事故の低減が図られている(特許文献4、5等参照)。
【特許文献1】特開2005−152180号公報
【特許文献2】特開2005−154321号公報
【特許文献3】特開2005−21677号公報
【特許文献4】特開2003−24437号公報
【特許文献5】特開2005−279107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の安全器材では、針刺し事故防止を図るために使用時に何らかの操作を加える必要がある。これらは、正しく使用すれば事故防止効果があるが、使用者が取扱説明書を良く読んで理解していなかったり、操作ミスをしたりなど、安全操作の不履行や誤操作等の要因によって、損傷事故の発生を完全には防止できていないのが現状である。また、構造が複雑で、高価なものも多い。
【0005】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、特別な操作の習得を必要とせず、ヒューマンエラーに関わらず、簡便・確実かつ安価に、針刺し事故防止を実現できる安全針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鈍端を有する管状本体部と、該鈍端に設けられ鋭利な先端を有する先端部とから構成され、前記先端部は無害な可溶性物質からなることを特徴とする安全針である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の安全針は、鈍端を有する管状本体部と、その鈍端に設けられ鋭利な先端を有する先端部とから構成され、その先端部は無害な可溶性物質でできているので、人体の皮膚等にその鋭利な先端から本発明の安全針を刺し入れて、採血や点滴等、吸入又は一定量以上の注入を好適に行うことができ、この場合には、刺入時、鋭利な先端が血液等の体液で溶解し、針先が鈍化することにより、使用後の針の刺傷性を低めることができ、針刺し事故防止の実現を図ることができる。動物、ペット、その他への注射に用いた場合にも、一度刺せば、特別な操作なしに針先が鈍化するので、誤動作による針刺し事故を起き得ないものとすることができる。また、構成が単純なので、低コストで生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の安全針を示した概略図である。本発明の安全針1は、鈍端3aを有する管状本体部3と、鈍端3aに設けられ鋭利な先端2aを有する先端部2とから構成され、先端部2は無害な可溶性物質からなる。本発明の安全針1は、その先端部2が被注射体に対して無害であって、被注射体の体液に対して可溶性の物質からなる注射針とすることができ、また、その先端部2が被吸入液体に対して無害であって、被吸入液体に対して可溶性の物質からなる吸入針とすることもできる。
【0009】
本発明の安全針1において、その先端部2は無害な可溶性物質であれば制限されないが、例えば、血管への刺入時に針先から外れた物質が固まったまま血管中に流れて害を及ぼさないことが好ましく、針先の先端部2の成分が血液検査の数値を乱さないことが好ましく、刺入時に痛くないことが好ましく、針先の先端部2が管状本体部3の管内に詰まってしまわないように形成されていることが好ましい。静脈への注射であれば、仮に先端部2が根元から折れても、まず心臓に行くので直接脳へ到達することはなく、人体に害を及ぼすことなく血液中に溶けてしまうと考えられる。また、本発明の安全針1の先端部2は、皮膚に刺し入れることができる程度の強度を有することが好ましく、管状本体部3の鈍端3aに対して強く結合することが可能で、加熱等することにより容易に成形加工可能であることが好ましい。また、採血している間に、血管中において先端が即時的に鈍化する程度の血液可溶性を有することが好ましい。更に、すぐにべとつかないことが好ましく、保存のために低吸湿性であることが好ましく、刺さり易さを保持する長期安定性を有することが好ましい。また更に、体組織に入っても沁みないことが好ましい。
【0010】
本発明の安全針1の先端部2の材質としては、糖質、アミノ酸、蛋白質、脂質等を挙げることができるが、上記の好ましい性質を付与するために、糖質であることが好ましい。具体的には、ジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、グルコース、ソルビトール、ヘプトース、オクトース等の単糖類、スクロース、トレハロース、サッカロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース等の二糖類、マルトリオース、セロトリオース、マンノトリオース、ゲンチアノース、ラフィノース、メレチトース等の三糖類、スタキオース等の四糖類、及びオリゴ糖、並びに、アラビノース、キシロース、マンノース、デンプン、グリコーゲン、デキストラン、イヌリン、ガラクトマンナン等の多糖類を挙げることができる。これらの糖質から選択される二種又は三種以上の混合物を用いることもでき、デキストラン等の多糖類の部分加水分解物を用いることもできる。成形加工性や易溶解性、保存性を改善するために種々の添加剤、例えば、アミノ酸、蛋白質、脂質等を添加することができる。成形加工が容易で低コストの点からはグルコースが好ましく、速やかな易溶解性と易加工性の点で無水結晶マルトースが好ましく、低吸湿性の点でラフィノースが好ましい。なお、デキストランには赤血球凝集作用があり、血栓の要因となるおそれがあり、イヌリンにはアレルゲンとなるおそれがあるので注意を要する。単なるショ糖(スクロース)で先端部2を形成すると、強度が不足するおそれがあるうえに、保存性にも劣るおそれがある。体組織に入っても沁みないよう、塩濃度を低く抑えることが好ましい。
【0011】
本発明の安全針1において、その管状本体部3は、その先端が皮膚に押し付けても傷つかない鈍端3aとなっている。その先端が露出した場合に、針先が皮膚と接触しても皮膚が傷つきにくく、感染を防ぐことができる。管状本体部3として先端が初めから鈍化した状態の針を使用することもでき、鋭利な先端を有する針を切削加工して鈍化して使用することもできる。先端が針の軸方向に対して垂直な向きに切断された、いわゆるブラント針を管状本体部3として使用することもできるが、先端部2との結合強度が損なわれて使用時に先端部2が外れてしまわないよう、先端が針の軸方向に対して斜めに切断され、かつ、先端が鈍化した状態の針を管状本体部3として用いることが好ましい。
【0012】
本発明の安全針1においては、先端が鋭利でない状態になっている管状本体部3の鈍端3aに、例えば人体に無害な糖質等の可溶性物質を付着させて、その物質を鋭利に加工して先端部2として、1回限り針刺し可能なディスポーザルタイプの針とすることができる。そして、一度人体に刺したならば、その可溶性物質が体液に溶けることにより、管状本体部3の鈍端3aが露出するか、又は、完全に露出しないまでも先端部2の先端の鋭利さが失われて鈍化することにより、特別な操作の習得を必要とせずに、使用後の針刺し事故を防止することができる。
【0013】
本発明の安全針1において、その管状本体部3の太さとしては、使用する部位や用途によって、16ゲージ〜32ゲージ程度のものとすることができる。例えば、ツベルクリン注射用には27ゲージ(外径0.41mm)程度のものが使用され、献血用には、18ゲージ(外径1.2mm)程度のものが使用される。このうち、管状本体部3の太さを18ゲージ(外径1.2mm)とすると、その先端部2は10μL程度の体積となる。仮に、これが10mgのグルコースでできており、健康な人のグルコース血中濃度が70〜130mg/dLであることを考慮すると、この程度の体積の糖質、例えばグルコースが血液中に溶けても害はないと考えられる。
【0014】
本発明の安全針1において、その管状本体部3は、その鈍端3aとは反対の端に、シリンジに据え付けるための据え付け部が設けられた構成とすることができる。
【0015】
なお、本発明の安全針1を「注射針」として用いる際において、注射を行う前に「シリンジに薬液を吸う」、「空気抜きのために少し内容液を押し出す」といった作業が必要な場合、刺す前にその先端部2が湿気るおそれがある。このような場合には、針筒の中にビニール管等を予め通しておいて、湿気る作業が終わってからそれを外すといった対策が考えられる。また、先端部2の鋭利な先端2aは、はじめは鈍化状態で、使う時に専用の機械によって尖った針先を使用者が作製する、といった使用方法も考えられる。
【0016】
本発明の安全針1の製造方法としては、例えば、ステンレス製の細管の先端を斜めに切断した後、先端を研削して鈍化させたものを管状本体部3とし、適温で融解させた糖質にこの管状本体部3の鈍端3aを浸け、引き上げることで先が細くなるように引き伸ばして鋭利な先端2aを形成して先端部2とする。先端部2の主成分を糖質で形成することにより、ステンレス製の管状本体部3に対して容易に強固に結合させることができ、かつ、80〜180℃程度で、より好ましくは100〜150℃程度で容易に成形加工することができる。
【0017】
本発明の安全針1の、その他の製造方法としては、先端部2の形状に対応した金型を用いて先端部2を成形加工し、この先端部2を管状本体部3に接着することもできる。先端部2の先端を鋭く研磨することもでき、こうすることによって、刺さり易い、痛みの少ない安全針1とすることができる。
【実施例】
【0018】
図1及び2を用いて実施例を説明する。本実施例では、据え付け部が設けられた外径1.2mm(18ゲージ)の献血用針を用いた。この針先を研削して、先端の尖りを除いて鈍化したものを管状本体部3とした。この鈍端3aを指に軽く押し付けても皮膚が傷つくことはなかった。次に、加熱して溶かしたブドウ糖(グルコース)をこの鈍化した管状本体部3の鈍端3aに浸し、軽く引き伸ばし固まらせることで、先端を尖らせた先端部2を形成し、本実施例の安全針1(吸入針)とした。図2は、実施例において試作した吸入針を示した概略図である。この安全針1の先端は鋭利に尖った刃になっているので、皮膚を突き刺すことが可能である。先端部2は糖質でできているので、血液に対して即時的に可溶である。使い方は通常の採血針、献血針と同じである。採血時に血液等の液体に先端部2の鋭利な先端2aが溶けて鈍化し、採血時や採血後、廃棄後における針刺し事故を防止することができ、感染事故を減らすことができる。特別な操作の習得を必要とせず、ヒューマンエラーに関わらず、簡便・確実かつ安価に針刺し事故防止の実現を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の安全針1を示した概略図である。
【図2】図2は、実施例において試作した吸入針を示した概略図である。
【符号の説明】
【0020】
1:安全針、2:先端部、2a:鋭利な先端、3:管状本体部、3a:鈍端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鈍端を有する管状本体部と、該鈍端に設けられ鋭利な先端を有する先端部とから構成され、前記先端部は無害な可溶性物質からなることを特徴とする安全針。
【請求項2】
前記先端部の材質が糖質であることを特徴とする請求項1記載の安全針。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−181583(P2007−181583A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2044(P2006−2044)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】